(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100171
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】添加剤及びその使用方法、鉱物質バインダー組成物、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための方法、並びに流動性を有する鉱物質バインダー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20230710BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230710BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230710BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20230710BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20230710BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C04B24/26 F
C04B24/26 E
C04B22/08 B
C04B22/14 Z
C04B24/12 A
C04B24/04
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000661
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】神代 泰道
(72)【発明者】
【氏名】酒井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理紗
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB04
4G112MB11
4G112MD02
4G112MD03
4G112PB07
4G112PB10
4G112PB16
4G112PB31
4G112PC04
(57)【要約】
【課題】 硬化促進剤を提供する。
【解決手段】 鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための添加剤は、コポリマー成分及び促進剤成分を含み、
コポリマー成分は、成分(A)、(B)及び任意選択的に(C)を含み:(A)エステル化合物であって、1モルの、式RO-(AO)n-H(1)(式中、Rは、C1~12アルキル基であり、Aは、C2~4アルキレン基であり、及びnは、0~7の整数である)の少なくとも1種の化合物に0~10モルのC2~4アルキレンオキシドを添加し、且つ次いで、得られたアダクトをα,β-不飽和カルボン酸との反応に供することによって得られ、式(1)の化合物は、式(1)の化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のnを有する成分化合物を含有する、エステル化合物、(B)さらなるα,β-不飽和カルボン酸又はその塩、及び(C)任意選択的に、少なくとも1種のさらなる共重合性モノマー又はその塩の反応から得られるコポリマー;
促進剤成分は、a)少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム、b)少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;及びc)少なくとも1種のアルカノールアミン、特にN-メチルジエタノールアミンを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための添加剤であって、コポリマー成分及び促進剤成分を含み、
前記コポリマー成分は、成分(A)、(B)及び任意選択的に(C):
(A)エステル化合物であって、1モルの、式(1)
RO-(AO)n-H (1)
(式中、Rは、C1~12アルキル基であり、Aは、C2~4アルキレン基であり、及びnは、0~7の整数である)
の少なくとも1種の化合物に0~10モルのC2~4アルキレンオキシドを添加し、且つ次いで、得られたアダクトをα,β-不飽和カルボン酸との反応に供することによって得られ、前記式(1)の化合物は、前記式(1)の化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のnを有する成分化合物を含有する、エステル化合物、
(B)さらなるα,β-不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(C)任意選択的に、少なくとも1種のさらなる共重合性モノマー又はその塩
の反応から得られるコポリマー
を含み;
前記促進剤成分は、
a)少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム、
b)少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;及び
c)少なくとも1種のアルカノールアミン、特にN-メチルジエタノールアミン
を含む、
添加剤。
【請求項2】
前記コポリマー成分は、水溶液である、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記コポリマー成分は、10~90重量%、特に20~80重量%、具体的には30~70重量%、例えば40~60重量%の割合での成分(A)、(B)及び任意選択的に(C)の前記反応から得られる前記コポリマーを含む、請求項1又は2に記載の添加剤。
【請求項4】
前記コポリマー成分は、10~90重量%、特に20~80重量%、具体的には30~70重量%、例えば40~60重量%の水を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項5】
共重合に関与する前記成分(A)~(C)の比率は、質量で(A):(B):(C)=50~95:5~50:0~40である、請求項1~4のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項6】
前記少なくとも1種のチオシアネート対前記少なくとも種の硝酸塩の重量比は、1:2~1:12、特に1:3~1:10、好ましくは1:5~1:7であり、前記少なくとも1種のチオシアネート対前記少なくとも1種のアルカノールアミンの重量比は、1:0.8~1:5、特に1:1~1:3、具体的には1:1.2~1:1.8である、請求項1~5のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項7】
前記促進剤成分は、水溶液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項8】
前記促進剤成分は、少なくとも1種のカルボン酸をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項9】
前記少なくとも1種のチオシアネート対前記少なくとも1種のカルボン酸の重量比は、1:0.1~1:3、特に1:0.3~1:2、具体的には1:0.5~1:1である、請求項8に記載の添加剤。
【請求項10】
前記促進剤成分は、
f)1~10重量%、特に2~8重量%、具体的には3~6重量%の前記少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム;
g)30~80重量%、特に40~75重量%、具体的には55~75重量%の前記少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;
h)1~10重量%、特に3~9重量%、具体的には5~8重量%の前記少なくとも1種のアルカノールアミン、特にN-メチルジエタノールアミン;
i)任意選択的に、1~10重量%の前記少なくとも1種のカルボン酸、特にギ酸;
j)5~50重量%、特に10~40重量%、具体的には15~25重量%の水
を含み、
前記割合は、前記促進剤成分の全重量に対して与えられる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項11】
第一の容器内における前記コポリマー成分と、第二の容器内における、前記第一の成分から分離された前記促進剤成分とを含む二成分組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項12】
前記コポリマー成分と前記促進剤成分とを混ぜ合わされた状態で含む一成分組成物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項13】
少なくとも請求項1~12のいずれか一項に記載の添加剤及び鉱物質バインダーを含む鉱物質バインダー組成物であって、好ましくは、前記添加剤の割合は、前記鉱物質バインダーに対して0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である、鉱物質バインダー組成物。
【請求項14】
鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための方法であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の添加剤を鉱物質バインダー組成物に添加するステップと、前記鉱物質バインダー組成物を水と混合するステップとを含む方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の前記添加剤を、硬物質バインダー、骨材、及び水と混合し、好ましくは前記添加剤の割合を、前記硬物質バインダーに対して、0.01~20質量%、特に0.1~10質量%にする、流動性を有する硬物質バインダー組成物、特に流動性を有するコンクリート組成物の製造方法。
【請求項16】
前記無機バインダー、前記骨材、前記水、及び無機バインダー組成物の効果を促進するための前記添加剤を、混合部に一括して添加し、そしてこれらの成分を全て同時に混合して、前記混合部において前記流動性を有する無機バインダー組成物を得るステップ
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
- 前記鉱物質バインダーと、前記骨材と、前記水と、請求項1~12のいずれか一項に記載の添加剤の前記コポリマー成分とを混合ユニット内に一括して添加し、且つプレミックス組成物を得るために前記混合ユニット内で前記成分のすべてを同時に混合するステップ;
- 前記流動性を有する鉱物質バインダー組成物を得るために、ある時間後、特に0.5~10時間後、請求項1~12のいずれか一項に記載の添加剤の前記促進剤成分を前記プレミックス組成物に添加するステップ
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
鉱物質バインダー組成物における硬化促進剤として、請求項1~12のいずれか一項に記載の添加剤を使用する方法であって、好ましくは、前記添加剤の割合は、前記鉱物質バインダーに対して0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である、方法。
【請求項19】
前記添加剤は、特に6~8時間後、具体的には6時間後に初期圧縮強度を増大させるために使用される、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための添加剤に関する。さらに、本発明は、少なくとも促進添加剤及び鉱物質バインダーを含む鉱物質バインダー組成物に関する。本発明のさらなる態様は、添加剤で鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための方法及び鉱物質バインダー組成物中の硬化促進剤としての添加剤の使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
災害復旧のため、道路及び滑走路の保守のため且つプレキャスト部材の製造において、高い初期強度の発現を伴う鉱物質バインダー組成物、例えばモルタル又はコンクリートなどを必要とする多くの用途が存在する。これが必要とされる理由は、プレキャスト部材が、数時間後に型枠から取り外すか、輸送するか、積み重ねるか若しくはプレストレストをかける必要があるか、又は災害復旧、さらに道路及び滑走路のために構築された構造物が、短期間に輸送するか若しくは負荷をかけることができるようにする必要があるからである。
【0003】
実務的にこの目的を達成するために、例えば低いw/c比、すなわち高いセメント含量を有する高性能コンクリート配合物だけでなく、加熱処理又は水蒸気処理も使用される。これらの処理をするには、大量のエネルギー及び追加の設備が必要となる。したがって、そのような処理は、一層回避され、それに代わる硬化プロセスを促進させる他の方法が求められている。
【0004】
加熱処理又は水蒸気処理に代わるものとして、各種の添加剤が挙げられるが、それらの添加剤から常に満足のいく結果が得られるわけではない。実際、鉱物質バインダー組成物の凝固及び硬化を促進させることが知られている多くの物質が存在する。一般的に使用されるのは、例えば、高度にアルカリ性の強い物質、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ土類金属塩化物である。しかしながら、これらの物質は、いくつかの場合、コンクリートの極限強度及び耐久接着性を低下させる。
【0005】
(特許文献1)及び(特許文献2)は、これらの欠点を回避すると言われる、アルカリを含まない、水硬バインダーのための凝固促進剤を開示している。水硬バインダー、例えばセメント、石灰、水硬性石灰及び石膏並びにさらにそれらから製造されるモルタル及びコンクリートの凝固及び硬化を促進させるために、アルカリを含まない凝固及び硬化促進剤が添加され、前記促進剤は、水酸化アルミニウム並びに任意選択的にアルミニウム塩及び有機カルボン酸を含む。
【0006】
そのような公知の促進剤は、実際に、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるが、それらは、多くの場合、例えば最初の数時間以内で初期強度が比較的低いか、又はそれらの促進剤を大量に使用すると、調製されたばかりの鉱物質バインダー組成物の作業性が低いなどの欠点を有する。
【0007】
鉱物質バインダー組成物の作業性を改良するために、分散剤が鉱物質バインダー組成物のための添加剤として広く使用されている。(特許文献3)(東邦化学工業株式会社)は、例えば、3種の異なる成分を反応させて得られるコポリマーを含むセメント分散剤を記載している。そのセメント分散剤は、特に優れた減水性能を有し、凝固における遅延を低減させる。
【0008】
しかしながら、分散剤及び促進剤は、多くの場合、望ましくない方向で相互に影響する。具体的には、鉱物質バインダー組成物の高い初期強度と、良好な作業性とを同時に達成することが強く要望されている。促進剤と分散剤とを単に組み合わせるのみでは、通常、望ましい結果が得られない。
【0009】
したがって、上述の欠点を可能な限り克服することができる、新規で改良された解決法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0076927B1号明細書
【特許文献2】欧州特許第0946451B1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0018162A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、一方では、鉱物質バインダー組成物の硬化プロセスを促進させるが、他方では、その作業性を実質的に損なわず、それにより、促進された混合物がさらにある期間にわたって加工されることを可能にする、特に添加剤の形態の硬化促進剤を提供することである。特に、硬化促進剤は、特に混合後の6~8時間で鉱物質バインダー組成物の初期強度を増大させることが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、この目的が請求項1の特徴によって達成され得ることが見出された。したがって、本発明の中核は、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための添加剤であって、コポリマー成分及び促進剤成分を含み、
コポリマー成分は、成分(A)、(B)及び任意選択的に(C):
(A)エステル化合物であって、1モルの、式(1)
RO-(AO)n-H (1)
(式中、Rは、C1~12アルキル基であり、Aは、C2~4アルキレン基であり、及びnは、0~7の整数である)
の少なくとも1種の化合物に0~10モルのC2~4アルキレンオキシドを添加し、且つ次いで、得られたアダクトをα,β-不飽和カルボン酸との反応に供することによって得られ、式(1)の化合物は、式(1)の化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のnを有する成分化合物を含有する、エステル化合物、
(B)さらなるα,β-不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(C)任意選択的に、少なくとも1種のさらなる共重合性モノマー又はその塩
の反応から得られるコポリマー
を含み;
促進剤成分は、
a)少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム、
b)少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;及び
c)少なくとも1種のアルカノールアミン、特にメチルジエタノールアミン
を含む、
添加剤に関する。
【0013】
コポリマー成分及び促進剤成分の組合せを含む本発明の添加剤を用いると、混合後の6~8時間以内に高い初期圧縮強度を有する鉱物質バインダー組成物を得ることができる。本発明の添加剤の高い硬化促進効果にもかかわらず、驚くべきことに、鉱物質バインダー組成物のスランプ性又は作業性のそれぞれがむしろ高いレベルで維持され得る。
【0014】
理論に拘束されることなく、他のコポリマーと異なり、特定の構造と、特別に調節した分子量分布とを有する本発明によるコポリマーは、促進剤成分に与える悪影響がはるかに小さいと考えられる。したがって、鉱物質バインダー組成物の強度発現における遅れがはるかに小さい。さらに、3種の異なるクラスの促進物質をベースとする促進剤成分は、相互の及びコポリマー成分との組合せにおいて相乗的に作用するように思われる。
【0015】
特に、本発明の添加剤は、標準ASTM C150に規定されるタイプIIIのセメント、すなわち高初期強度セメントを含む鉱物質バインダー組成物において特に有効である。
【0016】
したがって、本発明の添加剤は、水蒸気硬化又は他の特別な硬化条件を必要とすることなく、初期に高い圧縮強度を有する良好な作業性の鉱物質バインダー組成物、例えばコンクリート組成物を製造するために特に好都合である。そのようなタイプの鉱物質バインダー組成物は、災害復旧、道路及び滑走路の保守並びにプレキャスト部材の製造における使用で高い関心を寄せられている。
【0017】
本発明のさらなる態様は、さらなる独立請求項の主題である。特に好ましい実施形態は、説明及び従属請求項を通して概述される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の態様は、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進させるための添加剤であって、コポリマー成分及び促進剤成分を含み、
コポリマー成分は、成分(A)、(B)及び任意選択的に(C):
(A)エステル化合物であって、1モルの、式(1)
RO-(AO)n-H (1)
(式中、Rは、C1~12アルキル基であり、Aは、C2~4アルキレン基であり、及びnは、0~7の整数である);
の少なくとも1種の化合物に0~10モルのC2~4アルキレンオキシドを添加し、且つ次いで、得られたアダクトをα,β-不飽和カルボン酸との反応に供することによって得られ、式(1)の化合物は、式(1)の化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のnを有する成分化合物を含有する、エステル化合物、
(B)さらなるα,β-不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(C)任意選択的に、少なくとも1種のさらなる共重合性モノマー又はその塩
の反応から得られるコポリマー
を含み;
促進剤成分は、
d)少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム、
e)少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;及び
f)少なくとも1種のアルカノールアミン、特にメチルジエタノールアミン
を含む、
添加剤を対象とする。
【0019】
コポリマー成分は、少ない割合の、3モル以下のアルキレンオキシドを有するポリアルキレングリコールアルキルエーテルを含有するポリアルキレングリコールアルキルエーテルと、α,β-不飽和カルボン酸とから誘導されたエステル化合物を含む。
【0020】
本発明では、式(1)の化合物は、小さい割合の、3以下のnを有する成分のみを含有する、すなわち式(1)の化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のアルキレンオキシドのモル数nを有する成分化合物を含有する化合物である。特別な実施形態では、式(1)の化合物は、ある割合の、3以下のnを有する成分を含有しない。
【0021】
式(1)におけるRは、好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくはC1~4アルキル基である。それらの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基及び/又はtert-ブチル基が挙げられる。
【0022】
AOの具体例としては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基又はそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
式(1)の化合物において、アルキレンオキシドの平均付加モル数は、好ましくは、4~6、より好ましくは4~5である。したがって、この場合、添加モル数の分布は、狭い。これは、本発明の利点を達成するために特に有利となった。
【0024】
より小さい割合の、短鎖長を有するポリアルキレングリコール鎖を含有するエーテル化合物は、例えば、アルカリ触媒の存在下で1モルのC1~12一価アルコールに約4モルのC2~4アルキレンオキシドを添加し、次いで蒸留又は類似の分離操作により、3モル以下のアルキレンオキシドを有する生成物の部分を分離することによって得ることができる。
【0025】
より小さい割合の、短鎖長を有するポリアルキレングリコール鎖を含有するエーテル化合物は、蒸留又は類似の分離操作なしで、すなわち酸触媒などの存在下でC1~12一価アルコールにアルキレンオキシドを添加することにより、直接得ることも可能である。
【0026】
適切な場合、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルは、0~10モルのC2~4アルキレンオキシドをさらに添加され得る。
【0027】
エステル化合物(A)は、α,β-不飽和カルボン酸との反応に、上述の方法又は類似の方法から得られるポリアルキレングリコールアルキルエーテルを、そのまま又は各種のポリアルキレングリコール鎖長を有する複数のポリアルキレングリコールアルキルエーテルと組み合わせて供することによって得ることができる。
【0028】
エステル化合物(A)を製造するのに適したα,β-不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸のハーフエステル及びフマル酸のハーフエステルが挙げられる。最も好ましいのは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸である。これらのα,β-不飽和カルボン酸が技術的効果及び経済的見地から最も好ましいものとなった。
【0029】
高度に好ましい実施形態では、本発明のエステル化合物(A)は、式(2):
【化1】
の少なくとも1種のエステル化合物であり、ここで、エステル化合物は、化合物の全質量に対して5質量%以下の、3以下のmを有する成分化合物を含有し、平均して4.0~8.5のmを有する。
【0030】
式(2)において、R1は、C1~12アルキル基であり、R2は、水素原子又はメチル基であり、Aは、C2~4アルキレン基であり、及びmは、0~15の整数であり、アルキレンオキシドの付加モル数を表す。好ましいR1及びAは、先に式(1)の化合物に関連してR及びAについて定義されたものと同じ基である。
【0031】
好適なさらなるα,β-不飽和カルボン酸又はその塩(B)の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸のハーフエステル及び/又はフマル酸のハーフエステルが挙げられる。好適な塩としては、以下が挙げられる:アルカリ金属塩、例えばリチウム、ナトリウム及び/又はカリウムの塩など;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム及び/又はマグネシウムの塩など;アンモニウム塩、例えばアンモニウム塩及び/又はテトラオクチルアンモニウム塩など;並びに有機アミン、例えばアルカノールアミン、ポリアルキレンポリアミン及び/又はその誘導体、例えばアルキレート、アルキレンオキシドアダクト及び/又はその低級アルキルアミン塩など;並びにそれらの組合せ。
【0032】
これらの中でも好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸又はこれらの酸の2種以上の組合せである。特定の実施形態では、これらの酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が使用される。
【0033】
本発明では、適切な場合、成分(A)及び(B)に加えて、他の共重合性モノマー(C)をその共重合に使用することができる。
【0034】
他の共重合性モノマーは、ポリカルボン酸ベースのセメント分散剤中で通常使用される化合物、すなわちモノマーであり、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、アルキル(メタ)アクリレートエステル、スチレン又は(メタ)アクリルアミドであり得る。他の共重合性モノマーは、それが成分(A)及び(B)と共重合することが可能なモノマーでありさえすれば特に制限されない。
【0035】
使用可能な成分(C)は、例えば、成分(A)のエステル化合物と同じ構造を有するが、ただし、アルキル鎖の長さ及びアルキレンオキシドの添加モル数が、式(A)の化合物について定義されたものと異なる、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルのエステル化合物である。例えば、化合物(C)の付加モル数は、20~50である。
【0036】
ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルの例としては、ポリアルキレングリコールとC3~8アルケニルエーテルとから形成されるアルケニルエーテルが挙げられ、その具体例としては、3-メチル-3-ブテン-1-オールとアルキレンオキシドとのアダクト、2-プロペン-1-オール(アリルアルコール)とアルキレンオキシドとのアダクト及びそのエーテルが挙げられる。
【0037】
本発明において使用される成分(C)は、モノマー類、すなわち化合物aのポリアルキレンポリアミン;化合物bの二塩基酸又は二塩基酸とC1~4低級アルコールとのエステル;及び化合物cのアクリル酸、メタクリル酸又はアクリル酸若しくはメタクリル酸とC1~4低級アルコールとのエステルを、ポリイミドポリアミンを得るためのある種の割合で縮合させ、それにある程度の量の化合物dのアルキレンオキシドを添加し、その後、得られた化合物を共重合させることによっても得ることができる。
【0038】
化合物aの非限定的な例は、以下である:ポリアルキレンポリアミン類、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン及び/又はテトラプロピレンペンタミン。
【0039】
化合物bの例は、以下である:二塩基酸及びそのC1~4低級アルコールエステル、例えばロアロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フタル酸、アゼライン酸及びセバシン酸並びにそれらとC1~4低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びその各種の異性体とのエステル。これらのうち、アジピン酸が効果及び経済的な観点から最も好ましい。
【0040】
化合物cの例は、以下である:アクリル酸又はメタクリル酸及びそのC1~4低級アルコールエステル、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチル。
【0041】
これら3種の成分、すなわち化合物a、b及びcを含有するポリアミドポリアミンは、公知の縮合重合技術によって容易に得ることができる。ポリアミドポリアミンのアミノ残基に添加される化合物dのC2~4アルキレンオキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド又はそれらの混合物である。
【0042】
ポリアミドポリアミンの製造、換言すれば化合物a、b及びcの縮合重合反応は、例えば、化合物a及び化合物bのみを縮合重合に供し、次いでそれに化合物cとしての一塩基酸を添加し、続けて縮合重合を行う二段階反応法によるか、化合物a、b及びcを一度に混合して縮合重合を行う一段階反応法によるか又は同様の方法で実施される。
【0043】
これらの方法は、いずれも同じ結果をもたらすと考えられ得、なぜなら、縮合重合反応(これは、アミド化反応である)は、アミド交換反応に従って進行し、そのため、化合物cからもたらされるアクリル酸残基又はメタクリル酸残基が最終的にポリアミド鎖の末端になるからである。
【0044】
次いで、ポリアミドポリアミンを構成するこれらの3種の成分の反応モル比について説明する。1.0モルの化合物a(ポリアルキレンポリアミン)は、0.5~0.95モルの化合物b(二塩基酸又はそのエステル)との反応に供される。この範囲内のモル比での化合物aと化合物bとの反応によって得られた縮合重合反応生成物、換言すれば平均して2モル:1モル~20モル:19モルの割合での、ポリアルキレンポリアミンと二塩基酸とから誘導された縮合重合生成物であり、ある種の範囲内の鎖長を有するポリアミドにより、減水性能が高く、スランプ流動性が維持された分散剤が得られる。ポリアミドの鎖長が上述の範囲よりも短い場合(上述の反応比が0.5モルよりも低い場合)、所望のポリアミドポリアミン構造を得ることができない。上述の範囲よりも長い鎖長(上述の反応比が0.95モルよりも高い場合)は、得られる減水性能が顕著に低下するために好ましくない。
【0045】
ポリアミドポリアミンに添加されるアルキレンオキシドの量は、ポリアミドポリアミンのアミノ残基1当量に対して0~8モルである。それが8モルを超えると、化合物Aの分子量が増大してカチオン当量の低下がもたらされ、そのため、本発明の両性ポリマーにとって十分な効果が得られなくなる。本発明では、アルキレンオキシドの添加が好ましく、その量は、ポリアミドポリアミンのアミノ残基1当量に対して好ましくは0.5~6.0モル、特に好ましくは1.0~5.5モルである。
【0046】
共重合に関与する成分(A)~(C)の比率は、好ましくは、質量で(A):(B):(C)=50~95:5~50:0~40である。より好ましくは、(A):(B):(C)の比率は、質量で70~90:10~30:0~20である。
【0047】
本発明のコポリマーを製造するための方法は、特に制限されず、公知の重合方法、例えば重合開始剤を用いた溶液重合又はバルク重合であり得る。
【0048】
溶液重合法は、バッチ式又は連続式のいずれで実施することも可能である。使用される溶媒の例としては、以下が挙げられる:水及びアルコール、例えばメタノール、エタノール及びイソプロパノール;芳香族又は脂肪族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン及びn-ヘキサン;エステル又はケトン化合物、例えば酢酸エチル、アセトン及びメチルエチルケトン;環状エーテル化合物、例えばテトラヒドロフラン及びジオキサン。原料としてのモノマー及び得られるコポリマーの溶解度の観点から、使用される溶媒は、好ましくは、水及びC1~4低級アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化学種、さらに好ましくは水である。
【0049】
水溶液での重合を実施する場合、使用されるラジカル重合開始剤は、水溶性の重合開始剤、例えば以下である:過硫酸塩、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム;過酸化水素;アゾアミジン化合物、例えば2,2’-アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩;環状アゾアミジン化合物、例えば2,2’-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩;並びに水溶性アゾ化合物、例えばアゾニトリル化合物、例えば2-カルバモイルアゾイソブチロニトリル。
【0050】
それと並行して促進剤を使用することも可能であり、その例としては、以下が挙げられる:アルカリ金属の亜硫酸塩、例えば亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸塩、次亜リン酸ナトリウム、鉄(II)塩、例えばモール塩、ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩、チオ尿素、L-アスコルビン酸(塩)及びエリソルビン酸(塩)。
【0051】
溶媒として低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物又はケトン化合物を用いる溶液重合で使用されるラジカル重合開始剤としては、以下が挙げられる:ペルオキシド、例えばベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド及びナトリウムペルオキシド;ヒドロペルオキシド、例えばt-ブチルヒドロペルオキシド及びクメンヒドロペルオキシド;又はアゾ化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリル。それらと並行してアミン化合物のような促進剤を使用することも可能である。水と低級アルコールとの混合溶媒を使用する場合、ラジカル重合開始剤又はラジカル重合開始剤と促進剤とを組み合わせたものを、それぞれ先に例を挙げた各種のラジカル重合開始剤及び促進剤から必要に応じて選択して使用することができる。
【0052】
バルク重合を実施する場合に使用されるラジカル重合開始剤は、以下である:ペルオキシド、例えばベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド及びナトリウムペルオキシド;ヒドロペルオキシド、例えばt-ブチルヒドロペルオキシド及びクメンヒドロペルオキシド;又はアゾ化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリル。
【0053】
共重合のときの反応温度は、特に制限されず、例えば開始剤として過硫酸塩を使用する場合、反応温度の適切な範囲は、30~95℃である。
【0054】
共重合では、連鎖移動剤を使用することもできる。使用することが可能な連鎖移動剤としては、例えば、以下が挙げられる:チオール連鎖移動剤、例えばメルカプトエタノール、チオフリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル及び/又は2-メルカプトエタンスルホン酸。ここでは、2種以上の連鎖移動剤を並行して使用することができる。
【0055】
重合時間も特に制限されず、その範囲は、例えば、適切には0.5~10時間、好ましくは0.5~8時間、さらに好ましくは0.5~6時間である。それらの範囲より短い又は長い重合時間は、好ましくなく、なぜなら、それにより重合速度の低下又は生産性の低下がもたらされるからである。
【0056】
共重合のときに滴下により添加する方法も特に制限されず、その例としては、以下の方法が挙げられる:反応容器内にモノマーの一部又は全部を加え、続いてそれに開始剤などを滴下により添加する方法、反応容器内に1種又は複数のモノマーを加え、続いてそれに他のモノマー、開始剤、連鎖移動剤などを滴下により添加する方法、モノマー混合物、ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤を滴下により添加する方法、並びにモノマー及び連鎖移動剤の混合物並びにラジカル重合開始剤を滴下により添加する方法。それぞれのモノマーの反応性を考慮に入れて、それらの添加のタイミングを工夫することが一般に行われている。
【0057】
上述の方法で得られたコポリマーは、その酸性の状態のままで本発明の添加剤のコポリマー成分として使用することができる。しかしながら、エステルの酸加水分解を防止する観点から、アルカリを用いてそれを中和して、その塩の形態にすることが好ましい。アルカリの例としては、以下が挙げられる:アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノ-、ジ-及びトリ-アルキルアミン(2~8個の炭素原子を含有する)並びにモノ-、ジ-及びトリ-アルカノールアミン(2~8個の炭素原子を含有する)。
【0058】
本発明の添加剤のコポリマー成分として使用される本発明の好ましいコポリマーは、部分的又は全体的に中和される。コポリマーの塩は、酸性のコポリマーを部分的又は全体的に中和することによって得られた塩を指す。
【0059】
本発明のコポリマーの(ポリエチレングリコールに関連してゲル浸透クロマトグラフィー法(以下では「GPC法」と呼ぶ)によって求めた)重量平均分子量は、1,000~100,000の範囲内であることが好ましい。その重量平均分子量がこの範囲から外れると、得られる減水性能が顕著に悪化するか、又は所望のスランプロスの低減効果が得られない。より良好な減水性能を得るには、重量平均分子量が5,000~30,000の範囲であることがより好ましい。分子量は、水溶液重合においてラジカル重合開始剤などの種類及び/又は量を調節することによって制御することが可能である。連鎖移動剤などを併用することによっても分子量分布を制御することができる。
【0060】
本発明の添加剤のコポリマー成分において使用するのに適したコポリマーの具体例は、参照により本明細書に援用される(特許文献3)の段落0103~0139に記載されている。
【0061】
コポリマー成分は、特に、10~90重量%、特に20~80重量%、具体的には30~70重量%、例えば40~60重量%の割合での成分(A)、(B)及び任意選択的に(C)の反応から得られるコポリマーを含む。
【0062】
コポリマー成分は、好ましくは、水溶液である。特に、コポリマー成分は、10~90重量%、特に20~80重量%、具体的には30~70重量%、例えば40~60重量%の水を含む。
【0063】
鉱物質バインダー組成物を調製する場合、そのような溶液は、混合水と共に鉱物質バインダー組成物中に容易に混ぜ込むことができる。
【0064】
少なくとも1種のチオシアネートは、特に、アルカリチオシアネート及び/又はアルカリ土類チオシアネートから選択される。特に、少なくとも1種のチオシアネートは、アルカリチオシアネートである。最も好ましくは、少なくとも1種のチオシアネートは、チオシアン酸ナトリウムを含むか又はそれからなる。
【0065】
少なくとも1種の硝酸塩は、特に、アルカリ硝酸塩及び/又はアルカリ土類硝酸塩から選択される。特に、少なくとも1種の硝酸塩は、アルカリ土類の硝酸塩である。最も好ましくは、少なくとも1種の硝酸塩は、硝酸カルシウムを含むか又はそれからなる。
【0066】
少なくとも1種のアルカノールアミンは、例えば、以下から選択することができる:N-エチルジエタノールアミン(EDEA)、N-ブチルジエタノールアミン(BDEA)、トリエタノールアミン(TEA)、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N,N’-ビス-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)、ジエタノールアミン(DEA)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール(APD)、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、ジイソプロパノールアミン(DiPA)、トリイソプロパノールアミン(TiPA)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(THPED)及び/又はN-メチルジイソプロパノールアミン(MDiPA)。しかしながら、他のアミノアルコールを使用することも可能である。
【0067】
特に、少なくとも1種のアルカノールアミンは、第三級アルカノールアミンである。最も好ましくは、少なくとも1種のアルカノールアミンは、N-メチルジエタノールアミンを含むか又はそれからなる。
【0068】
具体的には、少なくとも1種のチオシアネート対少なくとも1種の硝酸塩の重量比は、1:2~1:12、特に1:3~1:10、好ましくは1:5~1:7であり、及び少なくとも1種のチオシアネート対少なくとも1種のアルカノールアミンの重量比は、1:0.8~1:5、特に1:1~1:3、具体的には1:1.2~1:1.8である。そのような比率により、本発明の利点が特に明らかになる。
【0069】
促進剤成分は、好ましくは、水溶液又は分散液である。その場合、少なくとも1種の硝酸塩、少なくとも1種のチオシアネート、少なくとも1種のアルカノールアミン及び各種のさらなる任意成分が水中に溶解及び/又は分散される。
【0070】
特に、促進剤成分中の水の割合は、促進剤成分の重量に対して5~50重量%、特に10~40重量%、具体的には15~25重量%の水である。
【0071】
さらなる好ましい実施形態では、促進剤成分は、少なくとも1種の有機酸をさらに含む。有機酸を添加することにより、添加剤の促進効果がさらに改良され得る。
【0072】
有機酸としてカルボン酸、より好ましくはギ酸及び/又は酢酸を使用することが好ましい。しかしながら、一般的には、すべての一塩基性又は多塩基性のカルボン酸を使用することができる。少なくとも1種の有機酸がギ酸を含むか又はそれからなることが最も好ましい。
【0073】
少なくとも1種のチオシアネート対少なくとも1種の有機酸の重量比は、好ましくは、1:0.1~1:3、特に1:0.3~1:2、具体的には1:0.5~1:1である。
【0074】
高度に好ましい実施形態では、促進剤成分は、
a)1~10重量%、特に2~8重量%、具体的には3~6重量%の少なくとも1種のチオシアネート、特にチオシアン酸ナトリウム;
b)30~80重量%、特に40~75重量%、具体的には55~75重量%の少なくとも1種の硝酸塩、特に硝酸カルシウム;
c)1~10重量%、特に3~9重量%、具体的には5~8重量%の少なくとも1種のアルカノールアミン、特にN-メチルジエタノールアミン;
d)任意選択的に、1~10重量%の少なくとも1種のカルボン酸、特にギ酸;
e)5~50重量%、特に10~40重量%、具体的には15~25重量%の水
を含み、
これらの割合は、促進剤成分の全重量に対して与えられる。
【0075】
1つの可能な実施形態では、添加剤は、第一の容器内におけるコポリマー成分と、第二の容器内における、第一の成分から分離された促進剤成分とを含む二成分組成物である。これにより、それらの成分を鉱物質バインダー組成物と個別に混合することが可能となる。それにより、添加剤をそれぞれ鉱物質バインダー組成物の特定の必要性に合わせることが容易に可能となる。
【0076】
別の可能な実施形態では、添加剤は、コポリマー成分と促進剤成分とを混ぜ合わされた状態で含む一成分組成物である。それにより、コポリマー成分と促進剤成分との比率が固定され、使用時の計量誤差が低下する。
【0077】
特に、コポリマー成分のコポリマーと、促進剤成分中の全部の促進物質合計重量との重量比は、0.1~2、具体的には0.2~1、特に0.3~0.5である。
【0078】
好ましくは、コポリマー成分と、添加剤中の促進剤成分との重量比は、0.1~2、具体的には0.2~1、特に0.3~0.5である。
【0079】
本発明のさらなる態様は、少なくとも先に述べた添加剤及び鉱物質バインダーを含む鉱物質バインダー組成物を対象とする。そこでは、添加剤の割合は、鉱物質バインダーに対して好ましくは0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である。
【0080】
「鉱物質バインダー」という用語は、水の存在下において水和反応で反応して、固体の水和物又は水和物相を形成するバインダーを指す。このようなものとしては、例えば、以下が挙げられる:水硬バインダー(例えば、セメント又は水硬性石灰)、潜在的水硬バインダー(例えば、スラグ)、ポゾランバインダー(例えば、フライアッシュ)又は非水硬バインダー(石膏又はカルシウム石灰)。
【0081】
例えば、鉱物質バインダー又はバインダー組成物は、水硬バインダー、例えばセメントを含有する。例えば、セメントは、タイプI、II、III、IV又はVである(標準のASTM C150による)。35重量%以上のセメントクリンカーの割合を有するセメントを使用することもできる。全部の鉱物質バインダー中の水硬バインダーの割合は、少なくとも5重量%、例えば少なくとも20重量%、例えば少なくとも35重量%、例えば少なくとも65重量%であり得る。さらなる例示的実施形態では、鉱物質バインダーは、少なくとも95重量%の水硬バインダー、例えばセメントクリンカーを含有する。
【0082】
鉱物質バインダーが水硬バインダーに加えて又はその代わりに他のバインダーを含有する場合、それも望ましいものであり得る。それらは、例えば、潜在的水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーである。好適な潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーは、例えば、スラグ、フライアッシュ及び/又はシリカダストである。同様に、鉱物質バインダー組成物は、不活性な物質、例えば石灰石の粗挽き粉、石英の粗挽き粉及び/又は顔料などを含有し得る。例示的実施形態では、鉱物質バインダーは、5~95重量%、例えば5~65重量%、例えば15~35重量%の潜在的水硬性及び/又はポゾランバインダーを含有する。
【0083】
鉱物質バインダーは、タイプIIIのセメント(標準のASTM C150による)であることが最も好ましい。本発明の添加剤は、このタイプのセメントをベースとする鉱物質バインダー組成物に特に好適である。
【0084】
さらなる例示的実施形態では、鉱物質バインダー組成物は、固体の骨材、特に微粒、砂粒及び/又は砂利をさらに含有する。そのようなバインダー組成物は、例えば、モルタル混合物又はコンクリート混合物として使用することができる。
【0085】
例えば、鉱物質バインダー組成物は、加えて、水を含有し、ここで、水対鉱物質バインダーの重量比は、0.25~0.8、例えば0.3~0.6、例えば0.35~0.5の範囲であり得る。そのような鉱物質バインダー組成物は、モルタル混合物又はコンクリート混合物として直接加工することができる。
【0086】
本発明の別の態様は、鉱物質バインダー組成物の硬化を促進するための方法であって、先に述べた本発明の添加剤を鉱物質バインダー組成物に添加するステップと、鉱物質バインダー組成物を水と混合するステップとを含む方法を対象とする。そこでは、添加剤の割合は、鉱物質バインダーに対して好ましくは0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である。
【0087】
この方法では、鉱物質バインダー組成物は、好ましくは、先に記載されたように定義される。
【0088】
例えば、本発明の添加剤を混合水と混合し、次いで鉱物質バインダー組成物に添加することができる。しかしながら、別の実施では、鉱物質バインダー組成物を混合水と混合した後、本発明の添加剤をそれに混ぜ込むことも可能である。
【0089】
本発明のさらなる態様は、流動性を有する鉱物質バインダー組成物、特に流動性を有するコンクリート組成物を製造するための方法であって、上記のような添加剤が、鉱物質バインダー、骨材、及び水と混合される方法を対象とする。好ましくは、添加剤の割合は、鉱物質バインダーに対して0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である。
【0090】
特に流動性を有する鉱物質バインダー組成物は、流体状態の鉱物質バインダー組成物であることを意味し、これは、流動させて意図する場所に配置する準備が整っている。特に、流動性を有する鉱物質バインダー組成物は、例えば、型枠内に打設できるような状態である。
【0091】
流動性を有する鉱物質バインダー組成物を製造するために成分を添加する順序は、原則として、任意の意味のある順序で選択することができる。これにより、本発明の方法を目的とする用途に適合させることができる。
【0092】
例えば、非常に好ましい実施によれば、流動性を有する鉱物質バインダー組成物の製造方法は、鉱物質バインダー、骨材、水、及び鉱物質バインダー組成物の硬化を促進するための添加剤を、混合ユニットに一括して添加し、流動性を有する鉱物質バインダー組成物を得るためにこれらの成分のすべてを混合ユニット内で同時に混合するステップを含む。
【0093】
別の言い方をすれば、この実施において、流動性を有する鉱物質バインダー組成物は、すべての成分を同時に混合することによって、単一の混合ユニットにおいて製造される。流動性を有する鉱物質バインダー組成物を1つの単一プロセスステップで得ることができるので、これは、プレキャスト用途に非常に有益である。理論に限定されるものではないが、本発明の添加剤の使用によって、これが可能であると考えられる。具体的には、このような単一ステップの方法は、時間がかかりかつ比較的複雑な段階的アプローチに通常は依存する確立された従来技術の方法とは鋭く対照的である。ここで、この従来技術の方法では、第1のステップにおいて、例えば、セメントペーストを製造され、そしてさらなる成分を後で段階的に添加する。
【0094】
別の非常に好ましい実施形態によれば、流動性を有する鉱物質バインダー組成物を製造するための方法は、以下のステップを含む:
- 上記のような本発明の添加剤の鉱物質バインダー、骨材、水、コポリマー成分を、混合部に一括して添加し、そしてこれらの成分を全て混合部で同時に混合して、プレミックス組成物を得ること;
- 所定の時間後、特に0.5~10時間後に、上記のような本発明の添加剤の促進剤成分を、流動性を有する鉱物質バインダー組成物を得るためのプレミックス組成物に添加すること。
【0095】
この特定の実施形態は、鉱物質バインダー組成物が、レディーミクストコンクリート(生コンクリート)組成物である場合に特に有利である。プレミックス組成物は、流動性を維持した状態で、かなり長時間、貯蔵及び/又は輸送することができる。そして、鉱物質バインダー組成物を配置しなければならないときには、例えば型枠に直接に配置することができる流動性を有する鉱物質バインダー組成物を得るために、本発明の添加剤の促進剤成分を添加することで十分である。
【0096】
本発明のさらなる態様は、鉱物質バインダー組成物における硬化促進剤としての、先に述べた本発明の添加剤の使用に関する。そこでは、添加剤の割合は、鉱物質バインダーに対して好ましくは0.01~20重量%、特に0.1~10重量%である。
【0097】
鉱物質バインダー組成物は、好ましくは、先に記載されたように定義される。
【0098】
具体的には、添加剤は、特に6~8時間後、具体的には6時間後に初期圧縮強度を増大させるために使用され得る。任意選択的に、添加剤は、その作業性、特に鉱物質バインダー組成物のスランプ性を同時に増大させるために使用され得る。
【0099】
本発明のさらなる有利な実施は、例示的実施形態からも明らかである。
【実施例0100】
硬化促進添加剤の調製
表1に示した物質を混合することにより、促進剤成分(AC)を調製した。いずれの物質も市場で入手可能である。
【0101】
【0102】
本発明によるコポリマー成分(CC)は、メチル末端の、メタクリル酸のポリエチレングリコールエステル(平均して4エチレンオキシド単位)と、メタクリル酸との重量比が4:1であり、Mw=6800g/molの分子量(GPCにより測定)を有するコポリマーである。
【0103】
促進剤成分ACとコポリマー成分CCとは、別々の容器に貯蔵した。したがって、その例示的添加剤は、二成分添加剤である。
【0104】
コンクリート配合物
表2は、この実験で使用したコンクリート配合物を示す。
【0105】
【0106】
コンクリート試験片の調製及び試験
表2に列記したコンクリートの配合物を採用して、フレッシュなコンクリートの試験を実施した。添加剤(先に述べた促進剤成分AC及びコポリマー成分CC;又は比較例添加剤(表3及び4を参照されたい))の予備混合物と混合水とを55リットルの二軸ミキサー内の骨材(砂、砂利)とセメントとの乾燥混合物に添加し、得られた混合物を所定の時間にわたって混練して、使用可能なコンクリート組成物を得た。
【0107】
次いで、フレッシュに調製したコンクリートを取り出したら直ちにコンクリート試験を実施した。特に、以下の試験を実施した:スランプ試験(JIS A 1101に準拠)及び気泡率の測定(JIS A 1128に準拠)。
【0108】
コンクリート組成物の圧縮強度の試験は、JIS A 1108に従い、JIS A 1132により調製した試験片について実施した。
【0109】
その際、フレッシュに製造したコンクリートを使用して、100mmの直径及び200mmの長さを有する柱状試験片を調製した。6時間、8時間及び24時間硬化させた後、それらの試験片の圧縮強度を測定した。
【0110】
結果
表3は、表に記載の添加剤を用いて得られた測定の結果を示す。表3の結果は、5℃のむしろ低い温度で製造したコンクリートで得られた。
【0111】
【0112】
表3から明らかなように、本発明の添加剤(I1)は、スランプ(これは、作業性の目安である)並びに6時間後及び8時間後の初期強度の両方の点で極めて優れている。それにも関わらず、24時間後の強度もかなり高いレベルである。
【0113】
それとは対照的に、唯一の促進成分として硝酸塩、チオシアネート、アルカノールアミン又は亜硝酸塩を用いた参照サンプルのR1~R4では、6時間後及び8時間後の初期強度がはるかに低い(例えば、R1で最良でも0.9MPa)。
【0114】
表4は、本発明によるコポリマーと他のコポリマーとの比較を示す。表4の結果は、約20℃の温度で製造したコンクリートについて得られた。
【0115】
【0116】
表4から明らかなように、標準のポリカルボン酸ベースの分散剤(これは、本発明によるものではない)を用いた場合(実験R5)、本発明のコポリマー成分の場合(実験I2)よりも、6時間後に得られる圧縮強度が顕著に低い。さらに、可塑化効果をより長い時間にわたってより高いレベルに維持することができる。
【0117】
本発明の趣旨又は実質的な特徴から逸脱することなく、本発明は、他の特定の形態で実施され得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、本明細書に開示された実施及び実施形態は、あらゆる点で説明のためのものであり、限定されないものと見なされる。