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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101040
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】カカオ原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/02 20060101AFI20230712BHJP
   A23G 1/32 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
A23G1/02
A23G1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001351
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 勇司
(72)【発明者】
【氏名】春成 麻未
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GP26
(57)【要約】
【課題】
カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味や不快な風味を低減する方法を提供することにある。
【解決手段】
カカオ豆を水で洗浄する工程を含むカカオ原料の製造方法。
カカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を、30質量%以上配合するチョコレートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ豆を水で洗浄する工程を含むカカオ原料の製造方法。
【請求項2】
前記カカオ原料がチョコレート用であって、前記カカオ原料がチョコレートに30質量%以上配合される請求項1に記載のカカオ原料の製造方法。
【請求項3】
前記水が硬水である請求項1又は請求項2に記載のカカオ原料の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のカカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を、30質量%以上配合するチョコレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオ原料の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
チョコレートの原料に使用されるカカオ豆に含まれるポリフェノールは、様々な生理活性を有することが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。近年では、カカオ豆に含まれるポリフェノールの生理活性の効果を期待して、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートが販売されている。
【0003】
しかしながら、カカオ豆は苦みや渋みの成分も含むことから、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートは、雑味や不快な風味が強くなるという問題があった。カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの風味を改善する方法としては、例えば、特許文献3、4が提案されている。しかしながら、これらの改善方法は、いずれも、チョコレートではあまり使われない添加剤を使用するものであり、添加剤が望まれない場合には、使用できないという問題があった。従って、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味や不快な風味を低減する方法として、新たな方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-80363号公報
【特許文献2】特開平9-224606号公報
【特許文献3】特開2018-148805号公報
【特許文献4】特開2020-14447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味及び不快な風味を低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、カカオ豆を水で洗浄することにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明は、カカオ豆を水で洗浄する工程を含むカカオ原料の製造方法である。
本発明の第2の発明は、前記カカオ原料がチョコレート用であって、前記カカオ原料がチョコレートに30質量%以上配合される第1の発明に記載のカカオ原料の製造方法である。
本発明の第3の発明は、前記水が硬水である第1の発明又は第2の発明に記載のカカオ原料の製造方法である。
本発明の第4の発明は、第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載のカカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を、30質量%以上配合するチョコレートの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味及び不快な風味を低減する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法は、カカオ豆を水で洗浄する工程を含む。
【0010】
本発明でカカオ原料とは、カカオ豆を加工して得られる原料のことであり、主にチョコレートの原料として使用される。カカオ原料の具体例は、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー等である。カカオニブは、カカオ豆からシェルを除去することで得られる。また、カカオマスは、カカオニブを磨砕することで得られる。また、ココアパウダーは、カカオマスからココアバターを除去することで得られる。
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で製造されるカカオ原料は、好ましくはカカオマスである。
【0011】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用されるカカオ豆は、好ましくは発酵させたカカオ豆である。なお、カカオ豆の発酵は、通常の方法で行われる。また、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用されるカカオ豆は、好ましくは酸溶液やアルカリ溶液等の溶液での処理が行われていないカカオ豆である。
【0012】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用される水は、硬水、中硬水、軟水(水道水、蒸留水等)等であり、好ましくは硬水である。硬水の硬度は300mg/L以上であり、中硬水の硬度は100mg/L以上300mg/L未満であり、軟水の硬度は100mg/L未満である。
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用される水の硬度は、好ましくは300~1700mg/Lであり、より好ましくは500~1600mg/Lであり、さらに好ましくは700~1500mg/Lであり、最も好ましくは1000~1500mg/Lである。
【0013】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用される水は、pHが好ましくは6.0~8.0であり、より好ましくは6.3~7.8であり、さらに好ましくは6.5~7.5である。
【0014】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程で使用される水は、温度が好ましくは4~30℃であり、より好ましくは8~25℃であり、さらに好ましくは10~23℃であり、最も好ましくは15~23℃である。
【0015】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法の洗浄する工程での洗浄は、カカオ豆を十分に洗浄することができれば、特に装置、条件等は制限されない。洗浄は、例えば、カカオ豆を容器に入れ、カカオ豆が浸る程度に水を注入した後(好ましくはカカオ豆の重量に対して、0.7~5倍の重量の水を注入する。)、撹拌することで行われる(好ましくは30秒~1時間撹拌する。)。洗浄後、水は排水させる。また、洗浄は、複数回繰り返して行うこともできる。
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法では、洗浄する工程の後に、カカオ豆を乾燥することもできる。
【0016】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法は、好ましくはカカオ豆又はカカオニブをローストする工程を含む。本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法のローストする工程は、好ましくは洗浄する工程の後に行われる。洗浄する工程の後にカカオニブでローストする場合は、カカオ豆からシェルを取り除いた後にローストする。本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法のローストする工程のロースト条件は、特に制限されることはない。本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法のローストする工程のロースト温度は、好ましくは90~130℃であり、より好ましくは90~125℃であり、さらに好ましくは95~120℃である。また、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法のローストする工程のロースト時間は、好ましくは50~120分間であり、より好ましくは55~110分間であり、さらに好ましくは60~100分間である。
【0017】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法は、好ましくはカカオニブを磨砕する工程を含む。本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法では、カカオニブを磨砕する工程は、ローストする工程の後に行われる。カカオニブを磨砕する工程を行うことで、カカオマスが得られる。
【0018】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法は、好ましくは磨砕する工程の後に得られるカカオマスを搾油する工程を含む。カカオマスを搾油する工程を行うことで、ココアパウダー及びココアバターが得られる。前記ココアパウダーが凝集している場合は、ココアパウダーを粉砕する工程を施すこともできる。
【0019】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法は、その他に滅菌する工程等の通常、カカオ原料の製造方法で行われる工程を含むことができる。本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法が滅菌する工程を含む場合、滅菌する工程は、ローストする工程の前に行われる。滅菌する工程は、通常のカカオ原料の滅菌方法で行われる。
【0020】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で得られるカカオ原料は、好ましくはチョコレート用である。また、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で得られるカカオ原料は、好ましくはチョコレートに30質量%以上配合され、より好ましくはチョコレートに40~80質量%配合され、さらに好ましくはチョコレートに55~70質量%配合され、最も好ましくはチョコレートに55~65質量%配合される。
【0021】
本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で得られるカカオ原料を使用することで、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味及び不快な風味を低減することができる。
【0022】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法は、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を配合することを特徴とする。
なお、本発明でチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上で規定されたチョコレートに限定されない。また、本発明でチョコレートとは、食用油脂、糖質、カカオ原料(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を原料とし、チョコレートの製造工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含有しない食品のことである。また、本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは水分が3質量%以下である。
【0023】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法では、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を好ましくは30質量%以上配合し、より好ましくは40~80質量%配合し、さらに好ましくは55~70質量%配合し、最も好ましくは55~65質量%配合する。
【0024】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法では、油脂を好ましくは28~50質量%配合し、より好ましくは32~46質量%配合し、さらに好ましくは35~42質量%配合する。
なお、本発明で油脂は、チョコレートに含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、チョコレートがカカオマス、全脂粉乳、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法で使用される油脂は、特に制限されることない。本発明の実施の形態のチョコレートの製造には、通常のチョコレートの製造に使用される食用油脂(ココアバター、大豆油、菜種油、高エルシン酸菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、イリッペ脂、サル脂、乳脂や、これらの油脂の混合油、これらの油脂又は混合油の加工油脂(エステル交換油、分別油、水素添加油等)等)を使用することができる。
【0025】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法では、糖質を好ましくは10~40質量%配合し、より好ましくは15~37質量%配合し、さらに好ましくは25~34質量%配合する。
なお、本発明で糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。また、本発明で糖質は、糖質そのものであり、その他の原材料(例えば、粉乳等)に含まれる糖質は含めない。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法で使用される糖類は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖、乳糖である。
【0026】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法で使用されるその他の原料は、例えば、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の甘味料、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等の乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料等である。
【0027】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法は、本発明の実施の形態のカカオ原料の製造方法で製造されたカカオ原料を配合すること以外、従来公知のチョコレートの製造方法が使用される。本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法は、例えば、油脂、糖質、カカオマス、乳製品、香料、乳化剤等を原料とし、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、冷却工程等を有する。本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法は、好ましくは微粒化工程を有する。
【0028】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法によると、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味や不快な風味を低減することができる。また、本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法によると、今までにない方法で、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味や不快な風味を低減することができる。
【0029】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造方法で製造されたチョコレートは、菓子、パン等の他の食品と組みわせることもできる。チョコレートと他の食品を組み合わせる手段は、包む、巻く、混合、接着、被覆、挟む、注入、埋没、トッピング等である。
【実施例0030】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら制限されない。
【0031】
〔カカオ原料の製造〕
発酵させたカカオ豆600gをバット(縦32.5cm、横26cm、高さ5.3cm)に入れ、500mLの硬水(硬度:1468mg/mL、pH:7.3、温度:20℃)、水道水(軟水)(硬度:65.1mg/mL、pH:7.2、温度:20℃)又は蒸留水(軟水)(硬度:0mg/mL、pH:7.0、温度:20℃)を加えて1分間十分に撹拌した後、水を排水することで洗浄を行った。洗浄は、繰り返し3回行った。
水で洗浄した各カカオ豆を、ロースターを使用して、100℃で40分間ローストした後、115℃で40分間ローストした。
ローストされた各カカオ豆からシェルを取り除いた後、得られた各カカオニブを磨砕機で磨砕することで、カカオマスを得た。
【0032】
〔チョコレートの製造及び評価〕
各カカオマスを64質量部、砂糖を31質量部、ココアバターを5質量部、乳化剤を0.5質量部の配合で、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)でチョコレートを製造した(チョコレート中のカカオ原料の含有量は63.7質量%、油脂含有量は40質量%、糖質含有量は30.8質量%、水分は3質量%以下だった。)。また、比較対照として、水での洗浄を行っていないカカオ豆から製造したカカオマスを使用して、比較対照のチョコレートを製造した。
得られた各チョコレートを8名の専門パネルが食し、チョコレートの風味を評価した。評価は、水での洗浄を行ったカカオマスを使用したチョコレートの風味と、比較対照のチョコレートの風味との比較を行い、下記評価基準により評価した。結果を表1に示した。なお、チョコレートの風味を評価した専門パネルは、チョコレートの風味等の官能評価の訓練を定期的に受けており、チョコレートの風味等の官能評価結果に個人差が少ない。
【0033】
〔チョコレートの風味の評価基準〕
◎:比較対照のチョコレートよりも、雑味及び不快な風味が非常に少ない。
○:比較対照のチョコレートよりも、雑味及び不快な風味が少ない
×:比較対照のチョコレートと風味に差がない。
【0034】
【表1】
【0035】
表1からわかるように、水で洗浄したカカオ豆を使用して製造したカカオ原料を使用することにより、カカオ原料が多量に配合されたチョコレートの雑味及び不快な風味を低減することができた。また、硬水でカカオ豆を洗浄すると、チョコレートの雑味及び不快な風味がより低減することが分かった。