IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

特開2023-101120イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法
<>
  • 特開-イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法 図1
  • 特開-イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法 図2
  • 特開-イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101120
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20230712BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230712BHJP
   H01J 27/16 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J37/305 A
H01J27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001519
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 昇
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】東 明男
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA34
5C101DD03
5C101DD25
(57)【要約】
【課題】処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、フッ素耐性に優れたイオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法を提供する。
【解決手段】上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るイオンミリング源は、真空容器と、放電電極と、引出電極とを具備する。上記放電電極は、上記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを上記真空容器内で電離する。上記引出電極は、複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、上記真空容器内で電離された上記フッ素含有ガス中のイオン粒子を上記複数の貫通孔を介して上記真空容器外に引き出す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを前記真空容器内で電離する放電電極と、
複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、前記真空容器内で電離された前記フッ素含有ガス中のイオン粒子を前記複数の貫通孔を介して前記真空容器外に引き出す引出電極と
を具備するイオンミリング源。
【請求項2】
請求項1に記載されたイオンミリング源であって、
前記引出電極は、複数の電極が重なることによって構成され、
前記複数の電極の少なくとも1つが前記耐フッ素材料で構成される
イオンミリング源。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたイオンミリング源であって、
前記耐フッ素材料は、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを含む
イオンミリング源。
【請求項4】
請求項1または2に記載されたイオンミリング源であって、
前記耐フッ素材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを含む
イオンミリング源。
【請求項5】
真空槽と、
前記真空槽に取り付けられ、
真空容器と、
前記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを前記真空容器内で電離する放電電極と、
複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、前記真空容器内で電離された前記フッ素含有ガス中のイオン粒子を前記複数の貫通孔を介して前記真空槽に引き出す引出電極と
を有するイオンミリング源と、
前記真空容器に前記フッ素含有ガスを供給するガス供給装置と、
前記真空槽内に設けられ、前記イオンミリング源の対向する位置に配置され、基板を支持する支持台と、
前記真空槽内を排気する排気装置と
を具備する
真空処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載された真空処理装置であって、
前記引出電極は、複数の電極が重なることによって構成され、
前記複数の電極の少なくとも1つが前記耐フッ素材料で構成される
真空処理装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載された真空処理装置であって、
前記耐フッ素材料は、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを含む
真空処理装置。
【請求項8】
請求項5または6に記載された真空処理装置であって、
前記耐フッ素材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを含む
真空処理装置。
【請求項9】
減圧雰囲気で、真空容器と、前記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを前記真空容器内で電離する放電電極と、複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、前記真空容器内で電離された前記フッ素含有ガス中のイオン粒子を前記複数の貫通孔を介して前記真空槽に引き出す引出電極とを有するイオンミリング源に基板を対向させ、
前記真空容器に前記フッ素含有ガスを供給し、前記イオンミリング源からイオン化させたフッ素含有ガスを噴出させ、
前記基板に、前記イオン化させたフッ素含有ガスを照射する
真空処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載された真空処理方法であって、
前記耐フッ素材料として、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを用いる
真空処理方法。
【請求項11】
請求項9に記載された真空処理方法であって、
前記耐フッ素材料として、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを用いる
真空処理方法。
【請求項12】
請求項9~11に記載された真空処理方法であって、
前記イオン化させたフッ素含有ガスを0.5KeV~5KeVの電圧で加速させて前記基板に照射する
真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等に代表される電子機器には無線周波数から特定の周波数帯を送受信するフィルタ素子が搭載される。このようなフィルタ素子は、ウェーハプロセスによって基板上に形成される。そして、このようなフィルタ素子を搭載する基板には、数ナノオーダの平坦化が要求される。
【0003】
基板を平坦化する技術の1つに、減圧雰囲気下でイオンを電界によって加速し、この加速されたイオンを基板に照射して平坦化する技術がある。イオンを照射する装置としては、例えば、イオンミリング装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-156077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のイオンミリング装置では、イオンの運動エネルギーがイオン注入装置に比べて低い。このため、基板等の対象処理物がアルゴンイオンで加工しにくくなることから、反応性に優れたフッ素系ガスを用いる場合がある。しかしながら、フッ素系ガスを用いる場合、引出電極の材料(例えば、グラファイト)によっては、引出電極がフッ素系ガスによって腐食してしまう虞がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、フッ素耐性に優れたイオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るイオンミリング源は、真空容器と、放電電極と、引出電極とを具備する。
上記放電電極は、上記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを上記真空容器内で電離する。
上記引出電極は、複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、上記真空容器内で電離された上記フッ素含有ガス中のイオン粒子を上記複数の貫通孔を介して上記真空容器外に引き出す。
【0008】
このようなイオンミリング源であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0009】
上記のイオンミリング源においては、上記引出電極は、複数の電極が重なることによって構成され、上記複数の電極の少なくとも1つが上記耐フッ素材料で構成されてもよい。
【0010】
このようなイオンミリング源であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0011】
上記のイオンミリング源においては、上記耐フッ素材料は、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
このようなイオンミリング源であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0013】
上記のイオンミリング源においては、上記耐フッ素材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを含んでもよい。
【0014】
このようなイオンミリング源であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、真空槽と、上記真空槽に取り付けられるイオンミリング源と、
上記真空容器に上記フッ素含有ガスを供給するガス供給装置と、
上記真空槽内に設けられ、上記イオンミリング源の対向する位置に配置され、基板を支持する支持台と、
上記真空槽内を排気する排気装置とを具備する。
【0016】
このような真空処理装置であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0017】
上記の真空処理装置においては、上記引出電極は、複数の電極が重なることによって構成され、上記複数の電極の少なくとも1つが上記耐フッ素材料で構成されてもよい。
【0018】
このような真空処理装置であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0019】
上記の真空処理装置においては、上記耐フッ素材料は、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを含んでもよい。
【0020】
このような真空処理装置であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0021】
上記の真空処理装置においては、上記耐フッ素材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
このような真空処理装置であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性を呈する。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、
減圧雰囲気で、真空容器と、上記真空容器に供給されたフッ素含有ガスを上記真空容器内で電離する放電電極と、複数の貫通孔を有し、耐フッ素材料を含み、上記真空容器内で電離された上記フッ素含有ガス中のイオン粒子を上記複数の貫通孔を介して上記真空槽に引き出す引出電極とを有するイオンミリング源に基板を対向させ、
上記真空容器に上記フッ素含有ガスを供給し、上記イオンミリング源からイオン化させたフッ素含有ガスを噴出させ、
上記基板に、上記イオン化させたフッ素含有ガスが照射される。
【0024】
このような真空処理方法であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性によって安定して基板を処理できる。
【0025】
上記の真空処理方法においては、上記耐フッ素材料として、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つを用いてもよい。
【0026】
このような真空処理方法であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性によって安定して基板を処理できる。
【0027】
上記の真空処理方法においては、上記耐フッ素材料として、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つを用いてもよい。
【0028】
このような真空処理方法であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性によって安定して基板を処理できる。
【0029】
上記の真空処理方法においては、上記イオン化させたフッ素含有ガスを0.5KeV~5KeVの電圧で加速させて上記基板に照射してもよい。
【0030】
このような真空処理方法であれば、処理用ガスとしてフッ素系ガスを用いても、優れたフッ素耐性によって安定して基板を処理できる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明によれば、フッ素系ガスのイオンを用いても、フッ素耐性に優れたイオンミリング源、真空処理装置、及び真空処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】図(a)は、本実施形態に係るイオンミリング源を示す模式的断面図である。図(b)は、本実施形態に係る引出電極を示す模式的平面図である。
図2】本実施形態の真空処理装置を示す模式図である。
図3】引出電極の貫通孔における腐食の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面に示される構成は、一例である。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0034】
図1(a)は、本実施形態に係るイオンミリング源を示す模式的断面図である。図1(b)は、本実施形態に係る引出電極を示す模式的平面図である。
【0035】
図1(a)に示すように、イオンミリング源1は、真空容器10と、放電電極20と、引出電極30と、蓋部11と、遮蔽板12と、ガス供給口40とを具備する。
【0036】
真空容器10は、排気装置(後述)によって減圧状態を維持可能な筒状容器である。また、真空容器10は、プラズマを画定する。真空容器10は、放電電極20から放出される電界が透過する材料で構成される。例えば、真空容器10の材料は、石英、アルミナ等である。真空容器10の内壁には、放電電極20が放出する電界が透過し、且つフッ素耐性に優れた被膜が設けられてもよい。例えば、その被膜は、イットリア、窒化シリコン、及び炭化シリコンの少なくともいずれかで構成される。
【0037】
放電電極20は、真空容器10に放電ガス(例えば、フッ素含有ガス等)が供給された場合、放電ガスを真空容器10の内部で放電させる。放電電極20は、真空容器10の周りを旋回するコイル状の電極(アンテナ)である。放電電極20の巻き数は、図示する数に限らない。また、図示された放電電極20の外側にコイル状の放電電極を旋回させてもよい。
【0038】
放電電極20は、高周波電源50に接続される。放電電極20には高周波電源50から高周波電力が供給される。放電電極20と高周波電源50との間には、整合回路(不図示)が設けられる。高周波電源50は、例えば、RF電源である。高周波電源50は、VHF電源でもよい。また、放電電極20と真空容器10との間に永久磁石を配置してもよい。真空容器10に放電ガスが導入されて、放電電極20に高周波電源50から高周波電力が供給されると、誘導結合放電により真空容器10の内部にプラズマが発生する。プラズマ生成手段は、誘導結合方式に限らず、電子サイクロトン共鳴プラズマ(Electron Cyclotron resonance Plasma)源、ヘリコン波励起プラズマ(Helicon Wave Plasma)源等でもよい。
【0039】
引出電極30は、第1電極31と、第2電極32と、第3電極33とを有する。引出電極30は、配管等のガス供給口40から、蓋部11または遮蔽板12(以下、蓋部11等)に向かう一軸方向(X軸方向)において、複数の電極(第1電極31、第2電極32、及び第3電極33)が重なることによって構成される。第1電極31、第2電極32、及び第3電極33は、一軸方向に並設される。第1電極31、第2電極32、及び第3電極33は、例えば、板状電極である。第1電極31、第2電極32、及び第3電極33の平面形状は、例えば、円盤状である。
【0040】
第1電極31の厚みは、第2電極32及び第3電極33よりも薄い。一例として、第1電極31の厚みが0.5mm~10mmで、例えば、0.5mm、第2電極32の厚みが0.5mm~10mmで、例えば、1.5mm、第3電極33の厚みが0.5mm~10mmで、例えば、1.5mmに設定される。第1電極31と第2電極32との間隔は、0.1mm~5mm、第2電極32と第3電極33との間隔は、0.1mm~10mmである。
【0041】
第1電極31は、ガス供給口40の側の主面311と、蓋部11等の側の主面312とを有する。第2電極32は、ガス供給口40の側の主面321と、蓋部11等の側の主面322とを有する。第3電極33は、ガス供給口40の側の主面331と、蓋部11等の側の主面332とを有する。第1電極31の主面312と第2電極32の主面321とは一軸方向において互いに対向する。第2電極32の主面322と第3電極33の主面331とは一軸方向において互いに対向する。
【0042】
例えば、放電ガスとしてフッ素含有ガスを用いた場合、引出電極30は、真空容器10の内部で電離されたフッ素含有ガス中のイオン粒子を複数の貫通孔を介して真空容器10の外部に引き出す。フッ素含有ガスとしてSF6、CF4、NF、CHFが例示され、SFが好ましい。各フッ素含有ガスをAr等のガスで希釈してもよい。
【0043】
ここで、引出電極30の材料としては、典型的には、スパッタリング率が小さく、優れた酸化耐性、且つ優れた導電性のある材料が選択される場合がある。例えば、グラファイトがその例である。しかしながら、グラファイトは、フッ素に対する耐性が低く、放電ガスとしてフッ素系ガスを用いる場合、グラファイトとフッ素との化学反応によって引出電極が腐食する虞がある。
【0044】
従って、グラファイトに代わる引出電極30の材料の条件としては、フッ素耐性があることが前提となり、さらに、グラファイトと同程度の電気伝導率(1×10S/m)を有することと、グラファイトと同程度の線膨張係数(2×10-6/K~4×10-6/K)を有することが要される。
【0045】
本実施形態に係る引出電極30は、耐フッ素材料を含み、上記の導電特性及び熱膨張特性の条件を具備する材料で構成される。例えば、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33の少なくとも1つが以下に示す耐フッ素材料で構成される。耐フッ素材料は、第1耐フッ素材料または第2耐フッ素材料を含む。
【0046】
第1耐フッ素材料としては、アルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つがあげられる。また、第2耐フッ素材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅、及び、ニッケルクロム鉄合金の少なくとも1つがあげられる。このような耐フッ素材料を第1電極31、第2電極32、及び第3電極33の少なくとも1つに適用することによって、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33のそれぞれに設けられた貫通孔の内径が腐食によって変化しにくくなる。この結果、イオンビームの発散角度が変化しにくくなり、イオンビームの発散角度が安定する。
【0047】
ここで、アルミニウム含有グラファイトは、グラファイトに10wt%以上30wt%以下のアルミニウムが含侵される。ここで、グラファイトに含まれるアルミニウムが10wt%よりも小さくなると、アルミニウム含有グラファイトがフッ素系ガスによって腐食され好ましくない。また、グラファイトに含まれるアルミニウムが30wt%よりも大きくなると、アルミニウムがグラファイト中に均一に分散されなくなり、また、線膨張係数が大きくなるとともに加工精度が悪くなるので好ましくない。
【0048】
また、アルミニウム含有グラファイト(Al:10wt%以上30wt%以下)には、1wt%以上20wt%以下のシリコンを添加してもよい。
【0049】
また、第2耐フッ素材料は、第1耐フッ素材料に比べて線熱膨張係数が大きいため、第1耐フッ素材料を適用したほうがより望ましい。
【0050】
真空容器10と第1電極31との間には絶縁体101が設けられ、第1電極31と第2電極32との間には絶縁体102が設けられ、第2電極32と第3電極33との間には絶縁体103が設けられる。第1電極31には、直流電源51が接続され、第1電極31には、所定の電位が供給される。例えば、第1電極31には、正電位が印加される。第2電極32には、直流電源52が接続され、第2電極32には、所定の電位が供給される。例えば、第2電極32には、負電位が印加される。第3電極33は、接地電位に設定される。なお、必要に応じて、第1電極31には、負電位が印加されてもよく、第2電極32には、正電位が印加されてもよい。また、第3電極33に直流電源を接続して、第3電極33に正電位または負電位を印加してもよい。すなわち、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33のそれぞれには、独立して電位を供給することができる。
【0051】
また、第1電極31は、プラズマ中のイオンが通過する複数の貫通孔31hを有する。第2電極32は、プラズマ中のイオンが通過する複数の貫通孔32hを有する。第3電極33は、プラズマ中のイオンが通過する複数の貫通孔33hを有する。
【0052】
例えば、図1(b)には、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33の代表として第1電極31の平面が示される。第1電極31の中心部には主面311と主面312との間を貫通する複数の貫通孔31hが設けられる。複数の貫通孔31hは、図示するようにハニカム状に配置されてもよく、格子状に配置されてもよい。このような複数の貫通孔は、第2電極32と、第3電極33にも設けられる。ここで、複数の貫通孔が第1電極31、第2電極32、及び第3電極33のそれぞれに配置される領域を領域34とする。
【0053】
例えば、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33が一軸方向に重なって配置され、ガス供給口40の側からいずれか任意の貫通孔31hを見た場合、この貫通孔31hの先には、いずれかの貫通孔32hが位置し、さらに先には、いずれかの貫通孔33hが位置する。すなわち、第1電極31のいずれか任意の貫通孔31hを通過したイオンは、第2電極32及び第3電極33によって遮蔽されることなく、その先に位置する貫通孔32h、貫通孔33hの順に通過する。
【0054】
貫通孔32h、33hの内径は、貫通孔31hの内径よりも大きく設定される。例えば、貫通孔31hの内径は、およそ1.5mmに設定され、貫通孔32hの内径は、およそ2mmに設定される。これにより、貫通孔31hを通過したイオンは、第2電極32及び第3電極33によって遮蔽されにくくなり、貫通孔32hを通過した後、貫通孔33hを通過する。
【0055】
特に、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33がアルミニウム含有グラファイト及びシリコンが添加されたアルミニウム含有グラファイトの少なくとも1つで構成された場合は、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33のそれぞれの線膨張係数がグラファイトに近くなる。これにより、プロセス中に第1電極31、第2電極32、及び第3電極33の温度上昇をおきても、一軸方向に隣り合う貫通孔同士においては、一軸方向と直交する方向における貫通孔同士のずれが起きにくくなる。特に、第1電極31は、第2電極32及び第3電極33に比べてプラズマに近いため、第1電極31の温度が第2電極32及び第3電極33の温度より上昇しても、一軸方向と直交する方向における貫通孔同士のずれが抑えられる。
【0056】
貫通孔33hの内径は、貫通孔32hの内径よりも小さく設定してもよい。これにより、基板81の側からの第3電極33を通過して第2電極32にまで飛遊する電子の逆流が抑えられる。または、基板81の側から剥離する被膜の第1電極31または第2電極32への再付着が抑えられる。
【0057】
蓋部11は、一軸方向において引出電極30に重なるように配置される。例えば、蓋部11は、ガス供給口40とは反対側において引出電極30に並設される。蓋部11の平面形状は、例えば、円盤状である。蓋部11と引出電極30の第3電極33との間には絶縁体104が設けられる。蓋部11の中心部には、蓋部11を貫通しイオンが通過する開口11hが設けられる。開口11hの面積は、領域34の面積よりも大きい。これにより、領域34を通過したイオンは、蓋部11によって遮蔽されることなく、開口11hを通過する。蓋部11は、第2耐フッ素材料で構成されてもよく、第1耐フッ素材料で構成されてもよい。
【0058】
遮蔽板12は、一軸方向において蓋部11に重なるように配置される。例えば、遮蔽板12は、ガス供給口40とは反対側において蓋部11に並設される。遮蔽板12の平面形状は、例えば、円盤状である。遮蔽板12と蓋部11との間には絶縁体105が設けられる。遮蔽板12の中心部には、遮蔽板12を貫通しイオンが通過する開口12hが設けられる。開口12hの面積は、開口11hの面積よりも大きい。これにより、開口11hを通過したイオンは、遮蔽板12によって遮蔽されることなく、開口12hを通過する。遮蔽板12は、第2耐フッ素材料で構成されてもよく、第1耐フッ素材料で構成されてもよい。
【0059】
遮蔽板12には、直流電源55が接続される。例えば、蓋部11の開口11hから放出されるイオンが正イオンの場合、この正イオンを遮蔽板12によって遮蔽するときは、遮蔽板12の電位が所定の負電位に設定される。これにより、正イオンが遮蔽板12に引き込まれ、遮蔽板12に正イオンが遮蔽される。
【0060】
図2は、本実施形態の真空処理装置を示す模式図である。
【0061】
真空処理装置2は、例えば、イオンミリング装置であり、イオンミリング源1と、高周波電源50と、直流電源51、52と、真空槽60と、ガス供給装置70と、支持台80と、排気装置90と、制御装置91とを具備する。真空槽60は、排気装置90によって減圧状態を維持可能な容器である。真空槽60は、接地電位に設定される。真空槽60の容量は、真空容器10の容量よりも大きい。イオンミリング源1は、真空槽60に取り付けられる。イオンミリング源1から放出されたイオンは、基板81にまで到達する。
【0062】
ガス供給装置70は、カス供給口40を介して真空容器10にフッ素含有ガス等の放電ガスを供給する。ガス供給装置70は、放電ガスの流量を調整する流量調整器を含む。支持台80は、真空槽60の内部に設けられる。支持台80は、イオンミリング源1の対向する位置に配置される。支持台80は、基板81を支持する。支持台80は、真空槽60の外部に設けられた温調装置(不図示)によって所定の温度に設定されてもよい。また、支持台80には、イオンの加速電圧を調整できるバイアス電源を接続してもよい。
【0063】
排気装置90は、ターボ分子ポンプ等であり、真空容器10の内部、及び真空槽60の内部を排気する。基板81は、例えば、金属窒化物基板、最上層に金属窒化物膜が形成された基板、最上層に高融点金属膜が形成された基板等である。基板81は、例えば、窒化アルミニウム基板、LT(LiTaO)膜付き基板等、最上層に窒化アルミニウム膜、モリブデン膜等が形成された基板等である。また、基板81は、上記の例に限らず、半導体基板でもよく、最上層にシリコン酸化物膜が形成された半導体基板でもよい。
【0064】
イオンミリング源1、高周波電源50、直流電源51、52、ガス供給装置70、支持台80、及び排気装置90は、制御装置91によって制御されている。イオンミリング源1において、イオンの加速電圧は、例えば、0KeVよりも大きく、例えば、0.5KeV以上で5KeV以下の範囲で設定される。放電ガスとしては、例えば、SF、CF、CF/O、CHF、NF等の少なくとも1つを用いる。放電ガスは、Ar、He、N、O等のガスで希釈されてもよい。
【0065】
本実施形態では、このような真空処理装置2を用いて、基板81に真空処理をする。例えば、減圧雰囲気で、イオンミリング源1に基板81を対向させる。次に、真空容器10にフッ素含有ガスを供給する。次に、イオンミリング源1からイオン化させたフッ素含有ガスを真空槽60に噴出させる。そして、基板81に、イオン化させたフッ素含有ガスを照射する。以下に、イオンミリング条件の一例を示す。
【0066】
(イオンミリング条件)
放電ガス:SF
放電ガス流量:1sccm~10sccm
放電電力:50W~300W
真空槽内圧力:1.0×10-3Pa~5×10-2Pa
第1電極電位:+0.5kV~+5kV
第2電極電位:-0.1kV~-2kV
第3電極電位:接地電位
イオン加速エネルギー:0.5KeV~5KeV
基板温度:常温
基板:AlNウェーハ
【0067】
上記のイオンミリング条件によって、真空容器10の内部には、例えば、SF イオンを含むプラズマが発生する。これらのフッ素含有の正イオン(以下、単に正イオンと呼ぶ場合がある)は、第1電極31の貫通孔31hを通過した後、第1電極31と第2電極32とによって形成される電界によって加速される。イオンの加速エネルギーは、0.5KeV~5KeVに設定される。この後、正イオンは、第2電極32の貫通孔32hを通過した後、第3電極33の貫通孔33hを通過して、基板81にまで到達する。イオンミリング条件では、第3電極33の電位を第2電極32の電位よりも若干高く(正電位側)設定される。これにより、イオンビームが放射される方向から逆流する電子を遮断できる。
【0068】
基板81の表面に到達した正イオンは、フッ素を含有することから反応性が高く、また、基板81の表面には継続的に正イオンが到達することから、基板81の表面ではイオンアシスト反応によって正イオンの反応が促進される。これにより、基板81の表面では、AlNが分解し、基板81の表面が徐々に削られていく。例えば、本実施形態の真空処理は、基板表面の平坦化に適用することができる。
【0069】
例えば、Arイオンを用いた物理エッチングに比べて、フッ素含有の正イオンを利用した反応性エッチングでは、処理された後の基板81の表面がより滑らかになることが判明している。例えば、イオントリミングを行う前の算術平均粗さRaが2.7nmのAlN基板を用いた場合、Arイオンを用いたイオンミリングでは、算術平均粗さRaが1.2nmになるのに対し、フッ素含有の正イオンを利用したイオンミリングでは、算術平均粗さRaが0.6nmになることが判明している。このように、本実施形態の真空処理では、1nm以下のオーダーでの平坦化が可能になることが判明している。なお、算術平均粗さRaは、Atomic Force Microscope(AFM)によって観測している。
【0070】
但し、フッ素含有の正イオンを利用したイオンミリングの際、引出電極30は、フッ素含有の正イオンによって腐食されないことが要求される。特に、引出電極30中、第2電極32には、所定のエネルギーで加速されたフッ素含有の正イオンが照射されることから、第2電極32における腐食(反応)を抑制することが望まれる。引出電極30がフッ素含有の正イオンによって腐食(貫通孔の内径が大きくなる)すると、イオンビームの発散角度が変化してしまい、イオンビームの再現性を確保することが難しくなる。また、電極間の異常放電が起きる可能性もある。
【0071】
図3は、引出電極の貫通孔における腐食の比較を示すグラフである。横軸は、イオントリミングの時間(h)である。縦軸は、第2電極32に設けられた貫通孔32hの内径(μm)である。
【0072】
比較例では、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33をグラファイトで構成している。一方、本実施形態では、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33を、例えば、15wt%アルミニウム含有グラファイトで構成している。上述したように、引出電極30中、第2電極32には、所定のエネルギーで加速されたフッ素含有の正イオンが照射されることから、第2電極32における腐食(反応)が抑制されることが望しい。図3は、この腐食の程度の比較を示している。図3では、イオンミリングを500時間実行した場合、イオンミリング前後において、第2電極32の貫通孔32hの内径がどれだけ広がるかが示されている。つまり、内径が広がるほど、貫通孔32hの部分がより腐食されたことを示す。
【0073】
図3に示すように、比較例では、イオンミリングを施す前の内径(直径)が2017μmであってイオンミリングを施した後の内径が2176μmにまで拡大している。比較例では、その差がΔ159μmである。一方、本実施形態では、イオンミリングを施す前の内径が2021μmであってイオンミリングを施した後の内径が2029μmに抑えられている。本実施形態では、その差がΔ8μmである。
【0074】
このように、本実施形態によれば、フッ素含有ガスを原料ガスとしたイオンミリングによって、金属窒化物の表面を1nm以下での平坦化が可能になる。また、耐フッ素材料で構成される引出電極30を利用することにより、フッ素含有ガスを原料ガスとしたイオンミリングを実行しても、引出電極30のフッ素による汚染が抑えられることが判明している。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、イオンミリング源1は、イオンミリング処理に限らず、真空槽60の内壁、内部部品等の洗浄処理に適用してもよい。また、本実施形態は、基板表面の平坦化に限らず、マスクパターンから表出した下地をエッチングするパターニング加工にも適用可能である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…イオンミリング源
2…真空処理装置
10…真空容器
11…蓋部
11h…開口
12…遮蔽板
12h…開口
20…放電電極
30…引出電極
31…第1電極
31h…貫通孔
32…第2電極
32h…貫通孔
33…第3電極
33h…貫通孔
34…領域
40…カス供給口
50…高周波電源
51…直流電源
52…直流電源
55…直流電源
60…真空槽
70…ガス供給装置
80…支持台
81…基板
90…排気装置
91…制御装置
101、102、103、104、105…絶縁体
311、312、321、322、331、332…主面
図1
図2
図3