(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101315
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001885
(22)【出願日】2022-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月26日 2021年 第68回 応用物理学会春季学術講演会オンライン開催の予稿集にて公開 令和3年3月17日 2021年 第68回 応用物理学会春季学術講演会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 啓介
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘夢
(72)【発明者】
【氏名】徳永 英司
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA06
2G043EA01
2G043FA03
2G043HA01
2G043HA15
2G043KA02
2G043KA09
(57)【要約】
【課題】測定に係る所要時間が短くかつ精度よく蛍光寿命を測定できる。
【解決手段】信号処理装置(10)は、試料を励起させるための励起光の照射強度を、一度の励起光の照射により試料に生じる蛍光が緩和しきる時間よりも短い時間間隔で変化する乱数又は雑音で変調させる変調器(13)と、励起光により励起された試料に生じる蛍光を検出した検出信号を出力する検出器(14)と、変調器により変調された励起光の強度の変化を表す励起光波形を示す変調信号との相関を用いて、検出器により検出された蛍光の検出信号から、励起光の照射毎に試料に生じる蛍光強度の緩和を表す緩和曲線を復調するための信号を出力する相関器(15)と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を励起させるための励起光の照射強度を、一度の励起光の照射により前記試料に生じる蛍光が緩和しきる時間よりも短い時間間隔で変化する乱数又は雑音で変調させる変調器と、
前記励起光により励起された試料に生じる蛍光を検出した検出信号を出力する検出器と、
前記変調器により変調された励起光の強度の変化を表す励起光波形を示す変調信号との相関を用いて、前記検出器により検出された蛍光の検出信号から、前記励起光の照射毎に前記試料に生じる蛍光強度の緩和を表す緩和曲線を復調するための信号を出力する相関器と、
を含む信号処理装置。
【請求項2】
記録部を更に含み、
前記相関器は、前記相関を、時間τ’ごとに、前記検出信号と、前記変調信号に時間遅れを与えた信号との乗算に時間平均をとることにより求めて、前記緩和曲線を復調するための信号として蛍光強度を示す信号を出力し、
前記記録部は、時間τ’ごとに求められた前記蛍光強度を示す信号を用いて、前記緩和曲線を復調する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記相関は、乱数の前記変調信号について同一の時間だけ遅れた信号同士に相関があり、異なる時間、遅れた変調信号同士は相関がないとする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記相関は、前記変調信号について同一の時間だけ遅れた信号同士の相関の大きさと、異なる時間、遅れた変調信号同士の相関の大きさが既知である、又は演算により求められるとする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項5】
疑似乱数系列を用いて前記励起光を変調させる請求項1~4の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
自然現象による雑音を用いて前記励起光を変調させる請求項1~5の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記相関器における乗算を行う乗算器を複数用意し、複数の異なる時間だけ遅れた変調信号との相関をとるようにし、複数の時刻における緩和を並列的に取得する請求項1~6の何れか1項に信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の蛍光寿命を測定する光学測定に関する技術がある。蛍光寿命イメージングの手法では、パルス状の励起光で蛍光分子を励起し、発光してから消光するまでの蛍光強度の緩和曲線(減衰曲線)を取得して、緩和曲線から蛍光寿命を測定する。緩和曲線は、蛍光分子が励起し、発光する確率を表す。例えば、蛍光寿命イメージングをHeLa細胞に発現させた蛍光タンパク質に適用した場合、細胞ストレスに伴う蛍光寿命の変化を測定できる。また、試料の蛍光寿命を測定することにより、イオン濃度、pH値、屈折率、溶存ガス濃度、又は生体組織の微小環境なども測定可能となる。
【0003】
光学測定に関する技術として、励起に対する材料の応答を検出するように構成された検出器を備える装置に関する技術がある(特許文献1参照)。この技術では、変調信号に従って強度が変調される光を用いて材料を励起するように構成された光源を用いている。この技術では、変調信号が、少なくとも2つの強度レベル間の複数の遷移を含み、第1の遷移の隣接列の時間が不規則なパターンに従って選択されるように光源を構成している。
【0004】
また、FCCS(Fluorescence Cross-Correlation Spectroscopy)におけるクロストークを低減することに加えて、測定対象物間の分子間相互作用を定量的に評価する蛍光分析装置及び蛍光分析方法に関する技術がある(特許文献2参照)。
【0005】
また、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上
させる蛍光検出システムに関する技術がある(特許文献3参照)。
【0006】
また、試料溶液に含まれる生体分子の数を精度よく計測することが可能な分子数測定装置に関する技術がある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2014-513808号公報
【特許文献2】特開2012-173252号公報
【特許文献3】特許第6831088号公報
【特許文献4】特開2015-203654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の蛍光寿命イメージングの手法では、蛍光の緩和中は励起光を入射せず、初期に励起した蛍光のみを取得していた。緩和曲線を精度良く取得するためには、大数の法則に倣って一般的に多くの発光光子を必要とし、励起と緩和を繰り返し測定する必要がある。そのため、十分な信号雑音比(S/N)を得るためには、時に数十秒以上の積算時間を伴うこともあり、長い測定時間を要していた。
【0009】
本開示は、上記事情を鑑みて成されたものであり、測定に係る所要時間が短くかつ精度よく蛍光寿命を測定できる信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示に係る信号処理装置は、試料を励起させるための励起光の照射強度を、一度の励起光の照射により前記試料に生じる蛍光が緩和しきる時間よりも短い時間間隔で変化する乱数又は雑音で変調させる変調器と、前記励起光により励起された試料に生じる蛍光を検出した検出信号を出力する検出器と、前記変調器により変調された励起光の強度の変化を表す励起光波形を示す変調信号との相関を用いて、前記検出器により検出された蛍光の検出信号から、前記励起光の照射毎に前記試料に生じる蛍光強度の緩和を表す緩和曲線を復調するための信号を出力する相関器と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の信号処理装置によれば、測定に係る所要時間が短くかつ精度よく蛍光寿命を測定できる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来の蛍光寿命イメージングに係る測定環境を表す模式図である。
【
図2】従来の蛍光寿命イメージングにおける励起光と、緩和曲線との関係を示す図である。
【
図3】励起と緩和を繰り返す測定におけるデッドタイムを示す図である。
【
図4】変調された励起波形と緩和波形から緩和曲線に復調することを示す図である。
【
図5】本実施形態の信号処理装置の構成を示す図である。
【
図6】乗算器を一つとし、緩和曲線の取得のためには同じ測定を異なるτ’で繰り返して記録して、緩和曲線を構築する場合の相関器の回路の構成例である。
【
図7】並列的に乗算器を用意し、一度に複数のτ’で相関をとり、緩和曲線を取得する場合の相関器の回路の構成例である。
【
図8】パルス入射による従来の蛍光寿命イメージングの手法(従来法)と、本実施形態の手法(本手法)を同条件で実験した測定結果を比較した例を示す図である。
【
図9】従来法と本手法の測定結果における標準偏差を比較した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
まず、本開示に係る実施形態(以下、本実施形態)における技術の前提となる技術を説明する。従来の蛍光寿命イメージングの手法を説明する。
【0015】
図1は、従来の蛍光寿命イメージングに係る測定環境を表す模式図である。従来の蛍光寿命イメージングの手法では、励起光源Rから励起光P(励起パルス)を照射すると、集光のためのレンズLを介して試料Sに照射される。励起光Pが照射された試料Sの蛍光はレンズL1及びレンズL2を介して集光され、フィルタFで散乱された励起光を除去し、光検出器Dにより蛍光強度が測定される。
図2は、従来の蛍光寿命イメージングにおける励起光と、緩和曲線との関係を示す図である。(A)は励起光の発光強度の波形、(B)は、当該励起光によって生じた蛍光強度の緩和曲線である。従来の蛍光寿命イメージングでは、発光の緩和測定中は新たに励起しない(新たな励起分子を生成しない)。そのため、励起と緩和を繰り返し測定するには、励起してから緩和するまでの時間待つ必要がある。
図3は、励起と緩和を繰り返す測定におけるデッドタイムを示す図である。
図3に示すように、励起してから緩和するまでの間を待つと、次の励起までの間にデッドタイムが生じ、励起の回数が多くなるほど測定時間が長くなる。
【0016】
そこで本実施形態では、試料の発光が緩和しきるのを待たずに、励起し、単位時間あたりに取得できる光子数を増やして信号雑音比(S/N)を向上させる。励起は試料に生じる蛍光が緩和しきる時間よりも短い乱数の時間間隔に変調させる。本実施形態では、検出信号と、変調された励起光の強度の変化を表す変調波形(励起波形)との相関をとり、緩和曲線を復調する手法を用いる。これにより測定時間の短縮が可能となる。また、単位時間に取得できる光子数を増やすことができるため、測定精度の向上が可能となる。
図4は、変調された励起波形と緩和波形から緩和曲線に復調することを示す。緩和しきるより前に、変調させた励起光を短い時間間隔で照射するため、緩和波形もランダムになる。
【0017】
本実施形態の手法に用いる相関の原理を説明する。離散時間k系列での試料のインパルス応答をg(k)、変調波形の変調信号をu(k)とする。試料の発光を検出した検出信号y(k)は、変調信号u(k)とインパルス応答g(k)のコンボリューション(畳み込み)によって表される。以下(1)式に検出信号y(k)を示す。
【数1】
・・・(1)
【0018】
ここで、τはu(k)の波形を遅らせる量を表しており雑音信号源から与えられる量である。g(τ)は試料を時刻0でインパルス励起したときに時刻τでの蛍光強度の点を示す。u(k-τ)はu(k)の波形の時刻をτの量だけ遅らせた信号を表している。
【0019】
変調信号u(k)がホワイトノイズであると仮定する。すなわち、u(k-τ’)のときτ’時間遅れした成分のみ相関が1そのほかの時間成分は相関が0となることを想定する。これにより変調信号u(k)は、同一の時間だけ遅れた信号同士に相関があり、異なる時間、遅れた変調信号同士は相関がないこととなる。この条件は、以下(2)式のように、自己相関がクロネッカデルタ(δ
τ,τ’)であたえられると表現される。
【数2】
・・・(2)
【0020】
δτ,τ’はτ =τ’のときにδτ,τ’=1、τ ≠τ’のときにδτ,τ’=0となるような関数である。τ’はτと異なる時間遅らせることを表し、τ、τ’により異なる時間遅れを与えたu(k)同士の相関を表現できる。なお、τとτ’は等しい場合もあり、この場合、u(k-τ)u(k-τ’)={u(k-τ)}2となる。
【0021】
(1)式と(2)式の性質から、以下(3)式に示すように、検出信号y(k)と、変調信号に時間遅れを与えた信号u(k-τ’)との乗算に時間平均をとることで得られる相関はg(τ’)となる。相関g(τ’)は緩和曲線に復調されたときにプロットされる各点に相当し、τ’についてN個の相関g(τ’)を算出することで、緩和曲線を復調する。
【数3】
・・・(3)
なお、自己相関に関しては、以下(4-1)式として、(4-2)式が既知であればよい。
【0022】
【0023】
この場合、(3)式に相当する、検出信号y(k)とu(k-τ’)の相関は、τ’=0,1,…,Nに対応して、次の(5)式のような連立方程式で与えられる。
【数5】
・・・(5)
【0024】
(5)式は、左辺が、検出信号である測定値y(k)と時間を(τ’=0,1,,,N)ずらした変調波形u(k-τ’)との相関、右辺の縦に並んでいる(g(τ’):(τ’=0,1,,,N))が求めたい蛍光の緩和曲線上の点に相当する。この連立方程式を解くことで緩和曲線を復調できる。また、測定値y(k)に含まれるノイズの影響で、緩和曲線が精度良く復調できない場合などは、例えばティホノフの正則化を用いる逆問題の手順で精度の向上も可能である。以上、相関は、変調信号について同一の時間だけ遅れた信号同士の相関の大きさと、異なる時間、遅れた変調信号同士の相関の大きさが(4-2)式のように既知であるか、又は(4-1)式の演算により求められる。
【0025】
以上の相関の原理を実現するように本実施形態では信号処理装置を構成する。
【0026】
図5は、本実施形態の信号処理装置10の構成を示す図である。
図5に示すように、信号処理装置10は、励起光源11と、雑音信号源12と、光変調器13と、検出器14と、相関器15とを有する。なお、
図5において点線は発光、実線は信号を示す。なお、相関器15は波形記録装置としてもよい。この場合は記録された波形から相関を演算し、蛍光緩和曲線を復調する。
【0027】
励起光源11は、レーザーダイオードなどの光源であり、励起光Pを試料Sに照射する。
【0028】
雑音信号源12は、(a)で図示しているように変調信号u(k)を光変調器13及び相関器15に出力する。変調信号u(k)は上述した自己相関が既知であるか、(4-1)式の相関の演算により相関の値、(4-2)式が得られる波形であればよい。自己相関が既知の波形としては、人工的な疑似乱数系列の使用が可能である。また、相関の値が得られる波形としては、自然現象、熱雑音、又はアバランシェノイズの使用が可能である。なお、熱雑音又はアバランシェノイズを用いる場合は、相関の値、(4-2)式を得るために、別に励起波形を記録する必要がある。疑似乱数系列としては、例えば、M系列(最長符号系列)、GOLD系列、Walsh系列、及び合同乗算法などを用いることができる。以下の本実施形態では疑似乱数を用いる場合とする。なお、励起光源11に変調信号を直接出力する構成としてもよい。このような構成として、例えばダイオードレーザーを電流変調する形式がある。
【0029】
光変調器13は、励起光Pを変調波形u(k)で変調する。光変調器13は、試料Sを励起させるための励起光Pの照射強度を、所定の強度に変調させる。照射強度は、上記雑音信号源12により与えられ、一度の励起光Pの照射により試料Sに生じる蛍光が緩和しきる時間よりも短い時間間隔での照射強度変化である。なお、
図5の構成においては説明の便宜のため省略しているが、試料Sに変調された励起光Pが照射されるまでの間には、
図1の従来の蛍光寿命イメージングで示していたフィルタ又はレンズなどを構成として有していてもよい。
【0030】
検出器14は、(b)で図示しているように試料Sの
図4の右下の波形で表されるような蛍光強度を検出し、(c)で図示しているように検出信号y(k)を出力する。
図5の構成においては説明の便宜のため省略しているが、試料Sの蛍光が検出器14に検出されるまでの間には、
図1の従来の蛍光寿命イメージングで示していたフィルタ又はレンズなどの機構を構成として有していてもよい。
【0031】
相関器15は、時間τ’ごとに、光変調器13により変調された励起光の強度の変化を表す変調波形との相関を用いて、蛍光強度を示す信号を出力する。蛍光強度を示す信号は、検出器14により検出された蛍光の検出信号y(k)から、励起光Pの照射毎に試料Sに生じる蛍光強度の緩和を表す緩和曲線を復調するための信号である。相関器15は回路で実現でき、回路としてはアナログ乗算回路、変調波形u(k)が2値の場合はスイッチ回路、又はFPGAなどを用いる。
【0032】
図6及び
図7に相関器15の回路としての入出力構成の例を示す。
図6は、乗算器を一つとし、緩和曲線の取得のためには同じ測定を異なるτ’で繰り返して記録して、緩和曲線を構築する場合の相関器の回路の構成例である。相関器15の回路には、時間τ’(τ’
i:時間シフト量i)について、検出信号y(k)及び雑音信号源12から出力された変調信号u(k-τ’)が乗算器(ML)に入力される。u(k-τ’)は変調に用いた疑似乱数を時間シフトした系列(疑似乱数系列)である。蛍光がPMTディテクタ(光電子増倍管)21で検出され、不要な高周波成分を除くフィルタ22を介して検出信号y(k)が、相関器15の乗算器(ML)に入力される。乗算器(ML)では、時間τ’に、検出信号y(k)と、変調信号u(k)に時間遅れτ’を与えた信号との乗算をとり、積分回路23、サンプルホールド回路24を介して、時間平均をした蛍光強度を示す信号Oを出力する。信号Oは時間τ’の蛍光の緩和曲線の点g(τ’)に相当する。以上を異なる時間τ’
iで繰り返して記録することで、緩和曲線を構築する。
【0033】
図7は、並列的に乗算器を用意し、一度に複数のτ’で相関をとり、緩和曲線を取得する場合の相関器の回路の構成例である。
図7に示すように、相関器15の回路には、時間τ’(τ’
i:時間シフト量i=1,2...m)ごとに、検出信号y(k)及び雑音信号源12から出力された変調信号u(k-τ’)の各々が乗算器(ML
1~m)に入力される。u(k-τ’)は変調に用いた疑似乱数を時間シフトした系列(疑似乱数系列)である。蛍光がPMTディテクタ(光電子増倍管)21で検出され、不要な高周波成分を除くフィルタ22を介して検出信号y(k)が、相関器15の各乗算器(ML
1~m)に入力される。乗算器(ML
1~m)では、時間τ’ごとに、検出信号y(k)と、変調信号u(k)に時間遅れτ’を与えた信号との乗算をとり、積分回路23
i、サンプルホールド回路24
iを介して、時間平均をした蛍光強度を示す信号O
iを出力する。信号O
iは時間τ’
iの蛍光の緩和曲線の点g(τ’
i)に相当する。なお、フィルタ22は、時間平均して滑らかな曲線とするための任意の構成である。
【0034】
なお、以上の回路により実現した相関器はCPU等によって演算が可能なコンピュータでも構成できる。この場合、検出器14からの波形をAD変換し、コンピュータの記録部に記録する。変調波形が既知の疑似乱数の場合は、検出された蛍光強度の波形と変調に用いた疑似乱数波形をτ’時間シフトしたものとの相関をコンピュータにより計算し、緩和曲線(O1,O2,…,Om)を復調する。変調波数が熱雑音やアバランシェノイズ、その他自然現象によるものの場合は、光変調器13へ入力される雑音信号源12からの変調波形u(k)もAD変換し、記録する。記録されたy(k)と、変調波形u(k)を時間シフトしたu(k-τ’)との相関をコンピュータにより計算し、緩和曲線(O1,O2,…,Om)を復調する。
【0035】
[検証結果]
本実施形態の信号処理装置10の有効性の検証を行った。実験では、励起光源に532nmのダイオードレーザーを用いた。測定条件は、要素が985.2ナノ秒ごとに遷移する0と1からなる2値の疑似乱数系列を光変調波形とした。この測定を、8kHzで繰り返した。S/Nの向上を検証するために同じ測定を100回繰り返して記録した。全測定に要する時間は1/80秒であった。試料にはPtOEPを含むクロロホルム溶液(白金オクタエチルポルフィリン、燐光材料)を使用した。
【0036】
図8に、パルス入射による従来の蛍光寿命イメージングの手法(従来法)と、本実施形態の手法(本手法)を同条件で実験した測定結果を比較した例を示す。
図8は、従来法及び本手法のいずれも100回の測定を行った結果である。従来法の緩和曲線に対して短い測定時間の本手法においても、同様に一致する緩和曲線に対応する点が求められることが分かる。従来法に対して本手法は1/32の時間で同品質の信号雑音比(S/N)が得られる。
図9に、従来法と本手法の測定結果における標準偏差を比較した例を示す。エラーバーは従来法と本手法でそれぞれ100回測定した時の標準偏差を示している。従来法では標準偏差が0.17であるのに対して、本手法では標準偏差が0.031である。このように、本手法は従来法に対して精度向上が図れていることも検証により確認できた。
【0037】
以上説明したように、本開示の実施形態に係る信号処理装置10によれば、測定に係る所要時間が短くかつ精度よく蛍光寿命を測定できる。
【0038】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 信号処理装置
11 励起光源
12 雑音信号源
13 光変調器
14 検出器
15 相関器