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特開2023-101323インク、インクセット、インクジェット印刷装置、及びインクジェット印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101323
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】インク、インクセット、インクジェット印刷装置、及びインクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230712BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20230712BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230712BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/40
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001895
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】葛城 弘二
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056FC01
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AE04
4J039AE07
4J039AE11
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC64
4J039BC79
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039EA47
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】普通紙メディアに対する良好な画像濃度と耐カール性を両立させるインクの提供。
【解決手段】インクを吐出するノズルを有し、更に少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置に用いるインクであって、インクが色材、水溶性有機溶剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等またはポリオキシエチレン-β-ナフチルエーテル等、及び水を含み、25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有し、更に、少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置に用いるインクであって、
前記インクが色材、水溶性有機溶剤、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、
25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインク。
【化1】
(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、またはアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、25℃50%RH下における飽和水分量が50%以上のものを1種以上含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
更に下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるシリコン系化合物、下記一般式(5)で表されるアセチレン系化合物、下記一般式(6)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物のいずれか1種を含む、請求項1又は2に記載のインク。
【化3】
(一般式(3)中、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~23の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化4】
(一般式(4)中、aは1~8の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化5】
(一般式(5)中、R~Rはアルキル基、m+nは1~20の整数、Yはアセチレン基を示す。)
【化6】
【請求項4】
更に2,4,7,9-テトラメチルデカン-4,7-ジオールを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
更に下記一般式(7)で表されるポリエーテル系ウレタン樹脂を含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【化7】
【請求項6】
前記ポリエーテル系ウレタン樹脂の酸価が48(KOHmg/g)以上80(KOHmg/g)以下である、請求項5に記載のインク。
【請求項7】
色材として、その表面の一部または全てがスチレンアクリル樹脂で覆われた顔料を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
インク中における色材量(P)と全樹脂量(R)との質量比率(R/P)が0.05以上0.35以下である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインク。
【請求項9】
インクを吐出するノズルを有し、更に少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置において用いる、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを含むインクセットであって、
前記各インクが色材、水溶性有機溶剤、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、
前記ブラックインクの色材がカーボンブラックであり、前記シアンインクの色材がPigment Blue 15:3であり、前記マゼンタインクの色材がPigment Red 122または269であり、前記イエローインクの色材がPigment Yellow 74であり、
25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインクセット。
【化1】
(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、又はアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
【請求項10】
前記シアンインク、前記マゼンタインク、前記イエローインクのそれぞれの表面張力の値が、前記ブラックインクの表面張力の値よりも3mN/m以上低い、請求項9に記載のインクセット。
【請求項11】
インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、インクとを有するインクジェット印刷装置であって、
前記インクジェットヘッドは、少なくともインク吐出面側表面に撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドであり、前記撥インク層がシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有し、
前記インクが請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項12】
被印刷物に、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドを用いてインクを付与する工程を有するインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェットヘッドとして、少なくともインク吐出面側表面に撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを用い、
前記インクとして請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクを用いることを特徴とするインクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、インクセット、インクジェット印刷装置、及びインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面印刷開始から裏面印刷開始まで3秒以内に搬送する両面印刷方法についての記載がある。
特許文献2には、HLBが異なる2種以上のポリシロキサン系界面活性剤を含むインクについての記載がある。
特許文献3には、親水基を有するカーボンブラックと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物で分散されたカーボンブラックを含むインクについての記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特に普通紙メディアに適用したときに、良好な画像濃度及び耐カール性を示すとともに、良好な保存安定性を有するインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する本発明は下記(1)に記載する通りのインクに係るものである。
(1)インクを吐出するノズルを有し、更に少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置に用いるインクであって、
前記インクが色材、水溶性有機溶剤、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、
25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインク。
【化1】
(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、またはアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
【発明の効果】
【0005】
本発明のインクは普通紙メディアに適用したときに、良好な画像濃度及び耐カール性を示すとともに、良好な保存安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明のインクジェット印刷装置の一例を示す斜視図である。
図2図2は、本発明のインクジェット印刷装置の全体の構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、本発明のインクジェット印刷装置におけるノズルプレートの一例を示す平面説明図である。
図4図4は、本発明のインクジェット印刷装置におけるノズルプレートのノズル部分の拡大断面説明図である。
図5図5は、ディスペンサを用いた塗布により、シリコン樹脂を塗布して撥インク層を形成する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一般的に普通紙メディアへのインクの浸透の度合はインクの粘度及び表面張力によって決まる。両者の値が大きい場合はインクが浸透しにくくなり、逆に小さい場合はインクが浸透しやすくなる。
インクが浸透しにくい場合は色材がメディア表面に残るため高濃度化が期待できる反面定着性が悪化し、かつ緩やかに浸透するためメディア表面が大きくカールすることになる。
一方、インクが浸透しやすい場合は定着性向上が期待できる反面、画像濃度が低下し、かつ速やかに浸透するためメディア裏面が大きくカールすることになる。
【0008】
メディアへのインクの浸透の度合は粘度及び表面張力の両方が影響しており、仮にどちらかの値が極端に小さい場合はインクが浸透しやすくなり、逆にどちらかの値が極端に大きい場合はインクが浸透しにくくなる。インクの粘度と表面張力とを個別に規定するのでは良好な画像濃度と耐カール性とを両立することができないと考えられる。
本発明のインクは、粘度η[mPa・s]と表面張力σ[mN/m]との積の値(η×σ)を規定することによって浸透性をコントロールし、普通紙に適用したときに、良好な画像濃度及び耐カール性を示すと共に、良好な保存安定性を有する。
【0009】
本発明のインクは、色材、水溶性有機溶剤、前記一般式(1)または前記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下のインクである。
そして、本発明のインクは、インクを吐出するノズルを有し、更に少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置に用いる。
本発明のインクを前記インクジェット印刷装置に用いることで、優れた吐出安定性が得られ、また、特に普通紙メディアに対する画像濃度と耐カール性を両立することができる。
以下では、本発明のインクの成分について説明する。
【0010】
<インク>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤等について説明する。
【0011】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルグリシン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0012】
有機溶剤の中でもメディアへの浸透性や乾燥特性などの観点から沸点が200℃以上で、かつ温度25℃湿度50%RH下における飽和水分量が50%以上のものを1種以上選択することが好ましい。有機溶剤の具体例としては、例えばトリメチルグリシンなどが挙げられ、これらの有機溶剤はインクに含まれる有機溶剤全量に対して5質量%以上とすることが好ましい。
【0013】
また、インクの保存安定性の観点から、インク中の有機溶剤の混合溶剤SP値(溶解度パラメータ:Solubility Parameter)は14.3(cal/cm0.5以上とすることが好ましい。
なお、インク中の有機溶剤が複数の有機溶剤の混合物からなる混合溶剤である場合には、混合溶剤のSP値が14.3(cal/cm0.5以上であることが好ましい。
混合溶剤がn種の有機溶剤からなる場合、その混合溶剤のSP値は具体的には下記の式により算出することができる。
インク中の有機溶剤の混合溶剤SP値(cal/cm0.5
=[有機溶剤SのSP値×有機溶剤Sの体積分率]+・・・
+[有機溶剤SのSP値×有機溶剤Sの体積分率]
【0014】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0015】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0016】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0017】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0018】
<色材>
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、混晶を使用しても良い。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクトブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0019】
ブラックインクの色材がカーボンブラックであり、シアンインクの色材がPigment Blue 15:3であり、マゼンタインクの色材がPigment Red 122または269であり、イエローインクの色材がPigment Yellow 74であることで保存安定性と色域拡大の効果が得られ、好ましい。
【0020】
顔料を分散してインクを得るためには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
【0021】
分散剤としては下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物を用いる。該分散剤を用いることにより、平均粒子径が小さく、保存安定性に優れた水系顔料分散体及び水系インクを得ることができる。
一般式(1)または(2)で表される分散剤の含有量は質量比でインク中の顔料1に対して0.01~0.5が好ましく、0.1~0.4がより好ましい。含有量がこの範囲であれば、体積平均粒子径の小さいインクが得られ、顔料の分散性が良好となり、また、インクの粘度を適正にすることができ好ましい。
【0022】
【化1】
(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、またはアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
【0023】
一般式(1)で表される化合物としてナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を用い、また、一般式(2)で表される化合物としてポリオキシエチレン-β-ナフチルエーテルを用いることで、良好な分散性が得られ好ましい。
【0024】
<蛍光増白剤>
蛍光増白剤とは、目に見えない短波長側の紫外線を吸収し、目に見える紫~青色の光に変えるものであり、蛍光染料とも呼ばれ、目視上より高濃度化させる目的でこの蛍光増白剤を使用しても良い。
使用する蛍光増白剤は、例えば下記構造式(1)または下記構造式(2)で表される構造単位を有するものが挙げられる。
【0025】
【化5】
【化6】
【0026】
前記構造式(1)で表される構造単位を有するものはベンゾオキサゾールまたはその誘導体であり、前記構造式(2)で表される構造単位を有するものはクマリンまたはその誘導体であり、親水性または疎水性いずれのものであっても良い。
【0027】
インク中における蛍光増白剤の含有量は、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.2質量%以下がより好ましい。蛍光増白剤の含有量を0.001質量%以上とすることによって目視上、高濃度化を発現することができる。一方、蛍光増白剤の含有量を1質量%以下とすることによって、入射光がすぐに吸収されたり、分子同士の衝突により蛍光強度が減少する濃度消光現象を抑制することができる。
蛍光増白剤としては、例えば、市販品としてTINOPAL OB(BASF社製)、Nikkafluor OB、Nikkabright PAW-L、Nikkafluor MCT(株式会社日本化学工業所製)などが挙げられる。
【0028】
<蛍光増白増強剤>
本発明では蛍光増白剤の効果を向上させるものとして蛍光増白増強剤を使用しても良い。蛍光増白増強剤は蛍光増白剤の分散性を向上させ、かつ表面移行させることにより蛍光増白剤の効果を向上させるものであり、具体的にはポリエーテルポリオールである。
インク中における蛍光増白増強剤の含有量は、色材の含有量に対して0.2質量%以上2質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。蛍光増白増強剤の含有量を色材の含有量に対して0.2質量%以上とすることによって目視上、高濃度化を発現することができる。一方、蛍光増白増強剤の含有量を色材の含有量に対して2質量%以下とすることによって、吐出安定性の改善が可能となる。
蛍光増白増強剤としては、例えば、市販品としてサンノプコ株式会社製のオプティアクト I-10などが挙げられる。
【0029】
<顔料分散体>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
前記顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
前記顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
前記顔料分散体は、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0030】
<樹脂>
本発明ではインク中に下記一般式(7)で表されるポリエーテル系ウレタン樹脂を含む。一般式(7)で表されるポリエーテル系ウレタン樹脂を含むことで顔料の分散が安定化し、特に保存安定性が優れる。なお、一般式(7)で表される樹脂は、例えばGC-MSとNMRを使用することによって同定することが可能である。
【0031】
【化7】
【0032】
前記ポリエーテル系ウレタン樹脂の酸価は48(KOHmg/g)以上80(KOHmg/g)以下が好ましい。酸価が48(KOHmg/g)以下、または80(KOHmg/g)以上となると顔料の分散が不安定になり保存安定性が劣る。なお、酸価の測定方法は、測定サンプルをエタノール/エーテル混合溶液に溶解させ、そこに指示薬のフェノールフタレイン溶液を加えた後、0.1mol/lの水酸化カリウム溶液を滴定し、滴定に要した0.1mol/lの水酸化カリウム溶液から算出することができる。
【0033】
ポリエーテル系ウレタン樹脂は、ポリエーテル系ウレタン樹脂粒子を用いても良い。
前記樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては例えば、三井化学株式会社製 タケラックW5661、W932などが挙げられる。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
インクは、その他の樹脂を含んでも良い。インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。
【0035】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0036】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0037】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0038】
画像濃度と定着性を高めるために、色材量(P)と全樹脂量(R)の比率(R/P)が0.05以上0.35以下であることが好ましい。全樹脂量とは、インク中に含まれる全ての樹脂を表し、色材の被覆に用いる樹脂、バインダー樹脂としてインク中に含まれる樹脂を含む。樹脂とは、重量平均分子量が5,000以上の有機物を表す。
【0039】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0040】
<界面活性剤>
本発明のインクには界面活性剤としてシリコン系化合物、アセチレン系化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物を好適に用いることができる。
界面活性剤は基材への浸透または濡れ性を向上させるために添加し、一般的にはHLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)が低い界面活性剤を使用する。ただし、一般的にHLBが低いものは水を含むビヒクルへの溶解性が低く、保存安定性の悪化や分離などの問題を引き起こす。
本発明では上記不具合を解決するために、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるシリコン系化合物、下記一般式(5)で表されるアセチレン系化合物、下記一般式(6)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物のいずれか1種を含む。なお、下記一般式(3)~(6)の化合物は、例えばGC-MSとNMRを使用することによって同定することが可能である。
【0041】
【化3】
(一般式(3)中、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~23の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0042】
【化4】
(一般式(4)中、aは1~8の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0043】
【化5】
(一般式(5)中、R~Rはアルキル基、m+nは1~20の整数、Yはアセチレン基を示す。)
【0044】
【化6】
【0045】
本発明では、HLBが低い前記一般式(3)で表されるポリシロキサン化合物と、HLBが高い前記一般式(4)で表されるポリシロキサン化合物を使用することが好ましく、それぞれ単独で使用しても良いし併用しても良い。特に併用するとHLBが低いポリシロキサン化合物をHLBが高いポリシロキサン化合物で相溶させることができるため、基材への濡れ性を維持しつつ経時での分離も抑制することができる。
【0046】
シリコン系化合物の含有量としては、インク全量に対して0.001質量%以上3質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がより好ましい。
シリコン系化合物としては、適宜合成したものを使用しても良いし、市販品を使用しても良い。市販品としては、例えば、KF-6028、KF-6038(信越化学工業株式会社製)、SAG002、SAG503A(日信化学工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも保存安定性の観点から、KF6028、SAG503Aが特に好ましい。
【0047】
本発明では、前記一般式(5)で表されるHLBが8以上13以下のアセチレン系化合物を使用することが好ましい。
HLBが8以上であると水を含むビヒクルに溶解しにくくなることがなく保存安定性が良くなる。また、HLBが13以下であることにより消泡性が悪化することがない。
アセチレン系化合物の含有量としては、インク全量に対して0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。
アセチレン系化合物としては、適宜合成したものを使用しても良いし、市販品を使用しても良い。市販品としては、例えば、サーフィノール 104シリーズ、サーフィノール 420、440、465、485、オルフィン PD-002W、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123(日信化学工業株式会社製)、アセチノール E60、E100、E200(川研ファインケミカル株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも消泡性と保存安定性の観点から、日信化学工業株式会社製のサーフィノール 440、465、オルフィン PD-002W、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123が特に好ましい。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0048】
本発明では、前記一般式(6)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物を使用することが好ましい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物の含有量としては、インク全量に対して0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。一般式(6)で表される化合物がインク全量に対して0.1質量%以上であると、インクが記録媒体上に着弾した後にドットが広がることがなく狙いの画像濃度を得ることができる。一方、2.0質量%以下あると表面張力が低くなることがなく、インクジェットヘッドのようなインクを吐出する手段から吐出後、ノズルから溢れたインクがノズル内へ戻る時間が長くなることがなく、吐出曲がりが多発する恐れがない。
【0049】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物としては、適宜合成したものを使用しても良いし、市販品を使用しても良い。市販品としては、例えば、TRITON(登録商標)HW-1000、TMN-3、TMN-6、TMN-100X、TMN-10(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられ、これらの中でもTRITON(登録商標)HW-1000、TMN-6が特に好ましい。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0050】
また、上記界面活性剤と他の界面活性剤を併用しても良く、例えば、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、アセチレン系化合物などが挙げられる。
【0052】
アセチレン系化合物としては、適宜合成したものを使用しても良いし、市販品を使用しても良い。市販品としては、例えば、サーフィノール DF1100、オルフィン D-10A、D-10PG(日信化学工業株式会社製)、アセチノール E13T、E40(川研ファインケミカル株式会社製)などが挙げられる。
その他、本発明では消泡剤としてアセチレン系化合物の他にサーフィノールAD01(2,4,7,9-テトラメチルデカン-4,7-ジオール_日信化学工業株式会社製)を使用しても良い。
消泡剤の中でも消泡性と保存安定性の観点から、アセチレン系化合物としては日信化学工業株式会社製のオルフィン D-10PG、川研ファインケミカル株式会社製のアセチノール E40が特に好ましく、その他としては日信化学工業株式会社製のサーフィノール AD01が特に好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0053】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0054】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0055】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0056】
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業株式会社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。また、インク色間の混色(ブリード)を抑制するために、表面張力はブラックインクよりもシアンインク、マゼンタインク、イエローインクの方が低く、その差が3.0mN/m以上であることが好ましく、3.0mN/m以上7.0mN/m以下であることが好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0057】
<前処理液>
前処理液は、凝集剤、有機溶剤、水を含有し、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含有しても良い。
有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤は、インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料を使用できる。
凝集剤の種類は特に限定されず、水溶性カチオンポリマー、酸、多価金属塩等が挙げられる。
【0058】
<後処理液>
後処理液は、透明な層を形成することが可能であれば、特に限定されない。後処理液は、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等、必要に応じて選択し、混合して得られる。また、後処理液は、記録媒体に形成された記録領域の全域に塗布しても良いし、インク像が形成された領域のみに塗布しても良い。
【0059】
<記録媒体>
記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等が挙げられる。
【0060】
<記録物>
本発明のインク記録物は、記録媒体上に、本発明のインクを用いて形成された画像を有してなる。
インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録して記録物とすることができる。
【0061】
<記録装置>
本発明において用いるインクジェット記録装置は、図1に示すように、装置本体101と、装置本体101に装着した用紙を装填するための給紙トレイ102と、装置本体101に装着され画像が記録された用紙をストックするための排紙トレイ103とを備えている。そして、装置本体101の上カバー111の上面は平坦な面であり、装置本体101の前カバーの前面112が上面に対して斜め下後方に傾斜し、この傾斜した前カバーの前面112の下方側に、前方(手前側)に突き出した排紙トレイ103及び給紙トレイ102を備えている。
更に前面112の一端部には、全面112から前方側に突き出し、上カバー111よりも低くなった箇所にインクカートリッジ装填部104を有し、このインクカートリッジ装填部104にはインクカートリッジの脱着を行うための開閉可能な前カバー115を有している。
【0062】
装置本体101内には、図2に示すように、左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド131とステー132とでキャリッジ133を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モーターによって移動走査する。
このキャリッジ133には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する4個のインクジェットヘッドからなる記録ヘッド134を複数のインク吐出口を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0063】
記録ヘッド134を構成するインクジェットヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエーター、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエーター、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエーター、静電気を用いる静電アクチュエーターなどインクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用することができる。
【0064】
また、キャリッジ133には、記録ヘッド134に各色のインクを供給するための各色のサブタンク135を搭載している。このサブタンク135にインク供給チューブを介して、インクカートリッジ装填部104に装填された本発明に係るインクカートリッジからインクが補充供給される。
【0065】
一方、給紙トレイ103の用紙積載部141上に積載した用紙142を給紙するための給紙部として、用紙積載部141から用紙142を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)143及び給紙コロ143に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド144を備え、この分離パッド144は給紙コロ143側に付勢されている。
【0066】
一方、この給紙部から給紙された用紙142を記録ヘッド134の下方側で搬送するための搬送部として、用紙142を静電吸着して搬送するための搬送ベルト151と、給紙部からガイド145を介して送られる用紙142を搬送ベルト151との間に挟んで搬送するためのカウンターローラー152と、鉛直上方に送られる用紙142を90°方向転換させて搬送ベルト151上に倣わせるための搬送ガイド153と、押さえ部材154で搬送ベルト151側に付勢された先端加圧コロ155とを備えている。また、搬送ベルト151表面を帯電させるために帯電手段である帯電ローラー156を備えている。
【0067】
ここで、搬送ベルト151は無端状ベルトであり、搬送ローラー157とテンションローラー158との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向に周回するように構成されている。この搬送ベルト151は、例えば、抵抗制御を行っていない純粋な厚さ40μm程度の樹脂材、例えばETFEピュア材で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(アース層)とを有している。
また、搬送ベルト151の裏側には、記録ヘッド134による印写領域に対応してガイド部材161を配置している。
更に、記録ヘッド134で記録された用紙142を排紙するための排紙部として、搬送ベルト151から用紙142を分離するための分離爪171と、排紙ローラー172及び排紙コロ173とを備え、排紙ローラー172の下方に排紙トレイ103を備えている。
【0068】
搬送ベルトに吸着した記録用紙は、上から排紙コロが押さえるようにして排紙が行われる。基本的に記録用紙の搬送は、搬送ベルトと搬送ローラーによって行われており、実施のプリンターにおける排紙コロは、紙の浮きを抑えるなどの補助的な役割を示している。従って、従来のインクジェットプリンターと比べて格段にコロの数を減らすことが可能となり、記録画像の汚れや傷を減らすことが可能となっている。
また、装置本体101の背面部には両面給紙ユニット181が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット181は搬送ベルト151の逆方向回転で戻される用紙142を取り込んで反転させて再度カウンターローラー152と搬送ベルト151との間に用紙142を給紙する。また、この両面給紙ユニット181の上面には手差し給紙部182を設けている。
【0069】
両面印字を行う際は、表面の印刷が終了した直後に待ち時間無しで、用紙は両面給紙ユニットへと搬送され反転する。本発明のインクは用紙への浸透性が高く、水分が少ないため蒸発も速く乾燥時間やヒーターなどの乾燥手段を設けなくても印字画像を汚すことなく反転が可能である。
このように構成したインクジェット記録装置においては、給紙部から用紙142が1枚ずつ分離給紙され、鉛直上方に給紙された用紙142はガイド145で案内され、搬送ベルト151とカウンターローラー152との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド153で案内されて先端加圧コロ155で搬送ベルト151に押し付けられ、90°搬送方向を転換される。
この時、帯電ローラー156によって搬送ベルト157が帯電されており、用紙142は搬送ベルト151に静電吸着されて搬送される。そこでキャリッジ133を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド134を駆動することにより、停止している用紙142にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙142を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号または用紙142の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙142を排紙トレイ103に排紙する。
【0070】
帯電ベルトにACバイアスを加え、搬送ベルトに正と負の電荷を一定ピッチで交互に帯電させ、断続的に発生する微小電界により生じる静電力で記録紙を搬送ベルトに吸着している。印加するACバイアスの好ましい範囲は±1.2kV~±2.6kV、更に好ましくは±1.6kV~±2.4kVである。ACバイアスの値が下限以下となると十分な吸着力が得られず、上限以上だとインクがノズルから吐出する際に発生する微小な滴が電荷の影響を受けて紙に着弾せずにヘッドに舞い戻ってヘッド周辺を汚してしまう。微小な滴が受ける電荷の影響については、インクの電気特性が関与する。即ち、インクの電気伝導度が大きいほど吐出した滴が電荷の影響を受けやすくなるので、インクの電気伝導度を抑える必要がある。
そして、サブタンク135内のインクの残量ニアーエンドが検知されると、インクカートリッジから所定量のインクがサブタンク135に補給される。
【0071】
図3は、本発明のインクジェット印刷装置におけるノズルプレートの一例を示す平面説明図である。
ここで、本発明のインクジェット印刷装置に用いられるノズルプレートについては、図3及び図4を参照して説明する。
図3はノズルプレートの平面説明図、図4は1つのノズル部分の拡大断面説明図である。
【0072】
ノズルプレート10は、液体を吐出するノズル11となる孔(以下、「ノズル」と称することもある)21が形成されたノズル基材20と、ノズル基材20の表面に形成された中間層30と、液体吐出面側に形成された撥インク層40とを有している。
ノズル基材20は、例えば、金属製平板状部材である。ノズル基材20としてのステンレス鋼の金属製平板状部材を使用しているが、これに限るものではない。
ノズル11は、液体吐出面側が円筒状部分21aとなっており、液体吐出面と反対側の面は円錐台形状部分21bとなっている。
【0073】
中間層30は、下地層となる例えば、SiO層、シランカップリング剤の層などの1または複数の層で構成している。この中間層30は設けなくても良い。
【0074】
撥インク層40は、シリコン樹脂を含有する層である。
撥インク層40には、ノズル11の外周部分において、ノズル11のエッジ11a側に向かって膜厚が薄くなる方向に傾斜している斜面41aが形成された斜面領域41がある。撥インク層40の斜面領域41を除く斜面領域41以外の領域42は膜厚がほぼ一定で平坦である。なお、斜面領域41の斜面41aは、断面形状で直線状に斜めになっていてもよく、あるいは、曲線状に斜めになっていてもよい。
撥インク層40のインク吐出面側の表面の平均膜厚は、1μm以上3μm以下が好ましい。
また、中間層30は撥インク層40の下地となる層がアミノ基を有するシランカップリング剤層であることが好ましい。これにより、アミノ基と撥液膜材料が相互作用することで高い密着性が得られる。
【0075】
(インクジェットヘッドのノズル部材の製造方法)
図5は、本実施形態に係るディスペンサ34を用いた塗布により、シリコン樹脂を塗布してノズルプレート32の表面に撥インク層31を形成する構成を示す図である。
Ni電鋳によるノズルプレート32のインク吐出面側にシリコン溶液を塗布するためのディスペンサ34が配置され、ノズルプレート32とニードル35の先端とが予め定められた一定の距離間隔を保ったままとなるように、ニードル35の先端からシリコン樹脂を吐出しながらディスペンサ34を走査することにより、ノズルプレート32のインク吐出面に選択的にシリコン樹脂被膜を形成する。
【0076】
本実施形態ではシリコン樹脂としては、常温硬化型シリコンレジンSR2411(東レ・ダウコーニング株式会社製)を用いた。ただし、ノズル孔及びノズルプレート裏面に若干のシリコンの周り込みが見られた。このようにして選択的に形成したシリコン樹脂被膜の厚みは1.2μmであり、表面粗さ(Ra)は0.18μmであった。
【0077】
前記撥インク層の材料はインクをはじく材料であればいずれも用いることができるが、具体的にはシリコン系撥水材料を挙げることができる。
前記シリコン系撥水材料としては、室温硬化型の液状シリコンレジンもしくはエラストマーがあり、基材表面に塗布され、室温で大気中に放置することにより重合硬化して撥インク性の被膜が形成されることが好ましい。
【0078】
上記したシリコン系撥水材料は加熱硬化型の液状シリコンレジンもしくはエラストマーであり、基材表面に塗布され、加熱処理することにより硬化し撥インク性の被膜を形成することであってもよい。
前記シリコン系撥水材料は紫外線硬化型の液状シリコンレジンもしくはエラストマーであり、基材表面に塗布され、紫外線を照射することにより硬化し撥インク性の被膜を形成することであってもよい。
前記シリコン系撥水材料の粘度は1000cp以下であることが好ましい。
【0079】
前記撥インク層の臨界表面張力は5mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、5mN/m~30mN/mであることがより好ましい。前記臨界表面張力が30mN/mを超えると、長期の使用においてノズルプレートがインクで濡れすぎる現象が生じるため、繰り返し印刷をしているとインクの吐出曲がりや粒子化異常が生じてしまうことがある。
また、40mN/mを超えると、初期からノズルプレートに対してインクが濡れすぎる現象が生じるため、初期からインクの吐出曲がりや粒子化異常を生じてしまうことがある。
【0080】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
【0081】
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【実施例0082】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断りの無い限り「質量部」及び「質量%」である。
また、特に記載が無い場合、調製、評価等は、23℃、湿度50%の条件下で行った。
【0083】
(顔料分散体の作製)
<黒色顔料分散体の作製>
カーボンブラック(デグサ社製)250部、一般式(1)で表される化合物(タケサーフA-45-K_竹本油脂株式会社製)50部、蒸留水700部をプレミックスして混合スラリーを得た。次いで、ディスクタイプのメディアミル(UMA型_寿工業株式会社製)により、0.015mmジルコニアビーズ(充填率70%)を用いて、周速6m/s、液温10℃で100nm前後の体積平均粒子径になるまで循環分散した。次いで遠心分離機(Model-7700_久保田商事株式会社製)で粗大粒子を分離し、更に孔径1.2μmのフィルターでろ過した後、固形分濃度が15%になるように水分量を調整して顔料濃度15%の黒色顔料分散体を得た。
【0084】
<青色顔料分散体の作製>
Pigment Blue 15:3(大日精化工業株式会社製)250部、一般式(2)で表される化合物(パイオニンD-7240_竹本油脂株式会社製)50部、蒸留水700部をプレミックスして混合スラリーを得た。次いで、ディスクタイプのメディアミル(UMA型_寿工業株式会社製)により、0.015mmジルコニアビーズ(充填率70%)を用いて、周速6m/s、液温10℃で100nm前後の体積平均粒子径になるまで循環分散した。次いで遠心分離機(Model-7700_久保田商事株式会社製)で粗大粒子を分離し、更に孔径1.2μmのフィルターでろ過した後、固形分濃度が15%になるように水分量を調整して顔料濃度15%の青色顔料分散体を得た。
【0085】
<赤色顔料分散体の作製>
上記青色顔料分散体の作製において、Pigment Blue 15:3をPigment Red 122(大日精化工業株式会社製)に変更した以外は、青色顔料分散体の作製と同様にして顔料濃度15%の赤色顔料分散体を得た。
【0086】
<黄色顔料分散体の作製>
上記青色顔料分散体の作製において、Pigment Blue 15:3をPigment Yellow 74(大日精化工業株式会社製)に変更した以外は、青色顔料分散体の作製と同様にして顔料濃度15%の黄色顔料分散体を得た。
【0087】
(スチレン-アクリル系樹脂被覆顔料分散体の作製)
<樹脂被覆黒色顔料分散体の作製>
スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12g、ポリエチレングリコールメタクリレート4g、スチレンマクロマー4g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。次いで、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.2g、ヒドロキシエチルメタクリレート60g、スチレンマクロマー36g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけてフラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、固形分濃度50%のポリマー溶液を800g得た。
【0088】
次いで、ポリマー溶液25g、カーボンブラック(Cabot Corporation社製)50g、1mol/lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及び水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルで混練した。得られたペーストを純水200gに入れて十分に攪拌した後、エバポレータでメチルエチルケトンを除去し、平均孔径5μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧ろ過した後、固形分濃度が20%になるように水分量を調整し、固形分濃度20%(顔料濃度15%、被覆樹脂濃度5%)のスチレン-アクリル系樹脂被覆黒色顔料分散体を得た。
【0089】
<樹脂被覆青色顔料分散体の作製>
上記樹脂被覆黒色顔料分散体の作製において、カーボンブラックをPigment Blue 15:3(大日精化工業株式会社製)に変更した以外は、樹脂被覆黒色顔料分散体の作製と同様にして、固形分濃度20%(顔料濃度15%、被覆樹脂濃度5%)のスチレン-アクリル系樹脂被覆青色顔料分散体を得た。
【0090】
<樹脂被覆赤色顔料分散体の作製>
上記樹脂被覆黒色顔料分散体の作製において、カーボンブラックをPigment Red 122(大日精化工業株式会社製)に変更した以外は、樹脂被覆黒色顔料分散体の作製と同様にして、固形分濃度20%(顔料濃度15%、被覆樹脂濃度5%)のスチレン-アクリル系樹脂被覆赤色顔料分散体を得た。
【0091】
<樹脂被覆黄色顔料分散体の作製>
上記樹脂被覆黒色顔料分散体の作製において、カーボンブラックをPigment Yellow 74(大日精化工業株式会社製)に変更した以外は、樹脂被覆黒色顔料分散体の作製と同様にして、固形分濃度20%(顔料濃度15%、被覆樹脂濃度5%)のスチレン-アクリル系樹脂被覆黄色顔料分散体を得た。
【0092】
<水性ポリウレタン樹脂の水分散液の合成>
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、温度計を備えた4つ口フラスコにポリイソシアネート成分として3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート119.70gを、活性水素成分としてジメチロールプロピオン酸60.90g、ビスフェノキシエタノールフルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)60.40g、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール13.37gを、溶剤としてメチルエチルケトン300.00gをそれぞれ加え、窒素雰囲気下で80℃に昇温して12時間攪拌した。
【0093】
赤外吸収スペクトルによりイソシアネート吸収帯が消失したことを確認後、40℃まで降温してトリエチルアミン45.99gを加えて中和し、その後、水700.00gを加えてホモディスパーを用いて分散した。その後、50℃で6.66kPaの減圧下でメチルエチルケトンを留去することにより、溶剤を実質的に含有しないフルオレン骨格含有量20質量%、酸価85KOHmg/g、固形分濃度30質量%、粘度200mPa・sの水性ポリウレタン樹脂の水分散液を得た。
【0094】
他のインク成分として以下のものを用いた。
【0095】
<有機溶剤>
・有機溶剤A(旭化成ファインケム株式会社製_トリメチルグリシン:飽和水分量=52%)
・有機溶剤B(阪本薬品工業株式会社製_グリセリン:飽和水分量=26%)
・有機溶剤C(東京化成工業株式会社製_1,3-ブチレングリコール:飽和水分量=15%)
【0096】
<樹脂粒子>
・ポリエーテル系ウレタン樹脂粒子A(三井化学株式会社製_タケラック W5661:酸価=48KOHmg/g)
※一般式(7)の化合物
・ポリエーテル系ウレタン樹脂粒子B(三井化学株式会社製_タケラック W932:酸価=80KOHmg/g)
※一般式(7)の化合物
・ウレタン系樹脂粒子(合成品:酸価=85KOHmg/g)
【0097】
<界面活性剤>
・シリコン系界面活性剤A(信越化学工業株式会社製_KF-6028)
※一般式(3)の化合物
・シリコン系界面活性剤B(日信化学工業株式会社製_SAG503A)
※一般式(4)の化合物
・アセチレン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製_サーフィノール440)
※一般式(5)の化合物
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(ダウ・ケミカル社製_TRITON HW-1000)
※一般式(6)の化合物
・フッ素系界面活性剤(OMNOVA社製_PF656)
【0098】
<消泡剤>
・2,4,7,9-テトラメチルデカン-4,7-ジオール(日信化学工業株式会社製_サーフィノールAD01)
【0099】
<pH調整剤>
・2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製)
【0100】
<防腐防黴剤>
・LV(S)(アビシア社製)
【0101】
(インクの調製)
<実施例1~21、比較例1~5>
表1~3に各実施例及び比較例のインクの配合組成を示す。
まず、各実施例及び比較例について、表1~3に示す水溶性有機溶剤、界面活性剤、その他添加剤(消泡剤、pH調整剤、抗菌剤など)、イオン交換水を混合した後1時間攪拌した。
次に樹脂粒子を加えて更に1時間攪拌して均一に混合した。その後、各種顔料分散体を加えて更に1時間攪拌して均一に混合した。この混合物を平均孔径0.8μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにより加圧ろ過し、粗大粒子やゴミを除去して実施例1~21、比較例1~5のインクを得た。
【0102】
<耐カール性評価方法>
表1~3中のブラック、シアン、マゼンタ、イエローインクをシリコン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製_常温硬化型シリコンレジン SR2411)またはフッ素樹脂(東レ・デュポン株式会社製_フッ素コーティング剤 L-8030)による撥インク層を有したノズルプレートを有する画像形成装置(株式会社リコー製_IPSiO GXe5500)により記録媒体(株式会社NBSリコー製_マイペーパー)へ印刷解像度600×600dpiで印刷し、印刷サンプルを水平な台に置いた後、用紙端部(4点)のカール量を測定し、その平均値を使用した。なお、測定は印字10秒後、印字12時間後に実施し、印字10秒後と印字12時間後のカール量の差が50mm以下であれば実使用可能なレベルである。
【0103】
<印刷方法>
表1中のブラック、シアン、マゼンタ、イエローインクをシリコン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製_常温硬化型シリコンレジン SR2411)またはフッ素樹脂(東レ・デュポン株式会社製_フッ素コーティング剤 L-8030)による撥インク層を有したノズルプレートを有する画像形成装置(株式会社リコー製_IPSiO GXe5500)により記録媒体(株式会社NBSリコー製_マイペーパー)へ、印刷解像度600×600dpiで印刷し、室温にて一昼夜乾燥させたものを印刷サンプルとした。なお、印刷チャートは2cm四方のベタ画像と、ブラックベタ画像とカラーベタ画像が隣り合った画像を使用した。
【0104】
<画像濃度評価>
印刷サンプルのベタ画像から画像測定装置(X-Rite社製_Exact)を使用してベタ画像内の画像濃度を測定した。カラー画像の実使用可能な画像濃度は以下のとおりである。
ブラック : 1.15以上
シアン : 0.95以上
マゼンタ : 0.90以上
イエロー : 0.75以上
【0105】
<定着性評価>
綿布を取り付けた擦過装置(株式会社大栄科学精機製作所製_クロックメーター)で印刷サンプル内のベタ画像を5往復擦過し、綿布に転写したインクの濃度を画像測定装置(X-Rite社製_Exact)で測定し、下記評価標準にて判定を実施した。なお、評価値が0.10未満であれば実使用可能なレベルである。
(評価基準)
〇:0.05未満
△:0.05以上0.10未満
×:0.10以上
【0106】
<滲み評価>
ブラックベタ画像とカラーベタ画像の境界の滲みを目視にて判定した。なお、ブラックインクは実施例の中で最も表面張力が低い実施例10のインクを使用した。
(評価基準)
〇:滲み無し
△:滲みは見られるが実使用上問題にならないレベル
×:滲みあり
【0107】
<保存安定性評価>
インクを密閉容器(アズワン株式会社製_アイボーイ)に入れて70℃の恒温槽(ESPEC社製_PR-3J)に14日間保存した。保存前後の粘度を粘度計(東機産業株式会社製 RE-85L)にて測定し、下記評価基準にて判定を行った。なお、粘度の変化率が初期粘度±10%未満であれば実使用可能なレベルである。
(評価基準)
〇:粘度変化率:0~±5%未満
△:粘度変化率:±5%以上~±10%未満
×:粘度変化率:±10%以上
【0108】
<水分蒸発時粘度評価>
インクを直径33mmのガラスシャーレ(アズワン株式会社製)に5g計量して23℃10%の恒温槽(ESPEC社製_PR-3J)に5時間放置した。放置後の粘度を粘度計(東機産業株式会社製 RE-85L)にて測定し、下記評価基準にて判定を行った。なお、放置後の粘度が1,000mPa・s未満であれば実使用可能なレベルである。
(評価基準)
〇:500mPa・s未満
△:500mPa・s以上1,000mPa・s未満
×:1,000mPa・s以上
【0109】
<インクの粘度測定>
インクの粘度は粘度計(東機産業株式会社製 RE-85L)を使用して測定した。
【0110】
<インクの表面張力測定(150ms)>
インクの表面張力は動的表面張力計(SITA社製_ダイノテスター)を使用して、最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力を測定した。
【0111】
評価結果を表1~3に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
本発明は下記(1)のインクに係るものであるが、下記(2)~(12)を実施の形態として含む。
(1)インクを吐出するノズルを有し、更に、少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置に用いるインクであって、
前記インクが色材、水溶性有機溶剤、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、
25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインク。
【化1】
(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、またはアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
(2)前記水溶性有機溶剤が、25℃50%RH下における飽和水分量が50%以上のものを1種以上含む、上記(1)に記載のインク。
(3)更に下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるシリコン系化合物、下記一般式(5)で表されるアセチレン系化合物、下記一般式(6)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物のいずれか1種を含む、上記(1)又は(2)に記載のインク。
【化3】
(一般式(3)中、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~23の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化4】
(一般式(4)中、aは1~8の整数、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化5】
(一般式(5)中、R~Rはアルキル基、m+nは1~20の整数、Yはアセチレン基を示す。)
【化6】
(4)更に2,4,7,9-テトラメチルデカン-4,7-ジオールを含む、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のインク。
(5)更に下記一般式(7)で表されるポリエーテル系ウレタン樹脂を含む、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のインク。
【化7】
(6)前記ポリエーテル系ウレタン樹脂の酸価が48(KOHmg/g)以上80(KOHmg/g)以下である、上記(5)に記載のインク。
(7)色材として、その表面の一部または全てがスチレンアクリル樹脂で覆われた顔料を含む、上記(1)乃至(6)のいずれか1項に記載のインク。
(8)インク中における色材量(P)と全樹脂量(R)との質量比率(R/P)が0.05以上0.35以下である、上記(1)乃至(7)のいずれか1項に記載のインク。
(9)インクを吐出するノズルを有し、更に少なくともインク吐出面側表面にシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有する撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置において用いる、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを含むインクセットであって、
前記各インクが色材、水溶性有機溶剤、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物、及び水を含み、
前記ブラックインクの色材がカーボンブラックであり、前記シアンインクの色材がPigment Blue 15:3であり、前記マゼンタインクの色材がPigment Red 122または269であり、前記イエローインクの色材がPigment Yellow 74であり、
25℃における回転粘度計での粘度η[mPa・s]と、25℃における最大泡圧法でのbubble life timeが150ms時の表面張力σ[mN/m]との積の値が100以上130以下であることを特徴とするインクセット。
【化1】

(一般式(1)中、mは1~4の整数を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、又はアリル基を表し、lは0~7の整数を表し、nは20~200の整数を表す。)
(10)前記シアンインク、前記マゼンタインク、前記イエローインクのそれぞれの表面張力の値が、前記ブラックインクの表面張力の値よりも3mN/m以上低い、上記(9)に記載のインクセット。
(11)インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、インクとを有するインクジェット印刷装置であって、
前記インクジェットヘッドは、少なくともインク吐出面側表面に撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドであり、前記撥インク層がシリコン樹脂またはフッ素樹脂を含有し、
前記インクが上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット印刷装置。
(12)被印刷物に、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドを用いてインクを付与する工程を有するインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェットヘッドとして、少なくともインク吐出面側表面に撥インク層を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを用い、
前記インクとして上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載のインクを用いることを特徴とするインクジェット印刷方法。
【符号の説明】
【0116】
10、32 ノズルプレート
11 ノズル
11a エッジ
20 ノズル基材
21 孔、ノズル
21a 円筒状部分
21b 円錐台形状部分
30 中間層
31、40撥インク層
34 ディスペンサ
35 ニードル
41 斜面領域
41a 斜面
101 装置本体
102 給紙トレイ
103 排紙トレイ
104 インクカートリッジ装填部
105 操作部
111 上カバー
112 前カバーの前面
115 前カバー
131 ガイドロッド
132 ステー
133 キャリッジ
134 記録ヘッド
135 サブタンク
141 用紙積載部
142 用紙
143 給紙コロ
144 分離パッド
145 ガイド
151 搬送ベルト
152 カウンターローラー
153 搬送ガイド
154 押さえ部材
155 先端加圧コロ
156 帯電ローラー
157 搬送ローラー
158 テンションローラー
161 ガイド部材
171 分離爪
172 排紙ローラー
173 排紙コロ
181 両面給紙ユニット
182 手差し給紙部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特許6582615号公報
【特許文献2】特許4138593号公報
【特許文献3】特許5958788号公報
図1
図2
図3
図4
図5