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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101401
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】ウニ養殖用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20230712BHJP
【FI】
A23K50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000843
(22)【出願日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2022001952
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022106752
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】513004386
【氏名又は名称】株式会社ひろの屋
(71)【出願人】
【識別番号】513117321
【氏名又は名称】株式会社愛南リベラシオ
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】浦 和寛
(72)【発明者】
【氏名】下苧坪 之典
(72)【発明者】
【氏名】井戸 篤史
【テーマコード(参考)】
2B005
【Fターム(参考)】
2B005GA09
2B005HA02
2B005JA04
2B005KA01
2B005LA06
2B005LB01
2B005NA08
2B005NA20
(57)【要約】
【課題】配合飼料で飼育したウニの生殖巣は、天然の海藻のみを食して育ったウニと比較して、旨味や甘味に欠け、苦味が強くなることが課題であった。そのため、品質の高いウニの生殖巣が得られる、ウニ養殖用飼料が求められていた。
【解決手段】本発明は、動物性タンパク質を含有せず、海藻及び小麦粉由来のタンパク質を含有する、ウニ養殖用飼料であり、ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、90重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来するウニ養殖用飼料を提供する。さらに、本発明は、セルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを有効成分とするウニ用品質向上剤、及びウニ用品質向上剤を含有するウニ養殖用飼料を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性タンパク質を含有せず、海藻及び小麦粉由来のタンパク質を含有する、ウニ養殖用飼料
【請求項2】
前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、90重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来する、請求項1に記載のウニ養殖用飼料
【請求項3】
前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、95重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来する、請求項1に記載のウニ養殖用飼料
【請求項4】
前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、97重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来する、請求項1に記載のウニ養殖用飼料
【請求項5】
前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、25重量%~85重量%が小麦粉に由来する、請求項3に記載のウニ養殖用飼料
【請求項6】
前記ウニ養殖用飼料のタンパク質含有量が、乾燥重量当たり3重量%~15重量%である、請求項5に記載のウニ養殖用飼料
【請求項7】
さらに、セルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを有効成分とするウニ用品質向上剤を含有する請求項6に記載のウニ養殖用飼料
【請求項8】
前記ウニ用品質向上剤を4重量%~8重量%含有する請求項7に記載のウニ養殖用飼料
【請求項9】
前記ウニ用品質向上剤の有効成分がカルボキシメチルセルロースである請求項8に記載のウニ養殖用飼料
【請求項10】
トウモロコシ及び/又は大豆を含有しない請求項1~9いずれか一項に記載のウニ養殖用飼料
【請求項11】
請求項10に記載のウニ養殖用飼料をウニに給餌する給餌ステップを含む養殖ウニの生産方法であって、前記給餌前のウニの可食部歩留まりが5重量%以下であり、生産された養殖ウニの可食部歩留まりが10重量%以上であり、養殖期間は2~3ヵ月である、養殖ウニの生産方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウニの可食部歩留まりを短期間で増加させ、且つ品質の高いウニを生産可能なウニ養殖用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
ウニを飼育し、可食部である生殖巣を肥大させて出荷することを目的としたウニ養殖用の配合飼料が開発されている(特許文献1~8、及び非特許文献1参照)。非特許文献1では、ウニを短期間で蓄養する場合には、動物性タンパク質が必要であり、苦みの少ない魚の切り身で成長を促進し、旨味を増すためにコンブで仕上げる方法が有効であるとされている(同文献第80頁参照)。特許文献2乃至5、7及び8に開示された実施例では、タンパク質源として、魚粉やカゼイン、卵白等の動物性タンパク質を含有する配合飼料が開示されている。
【0003】
また、特許文献1においては、動物性原料であるウニ内臓を含有するウニ用飼料が開示されている。本文献では、ウニから生殖巣を採取した後の残渣(すなわち、ウニ内臓)を含有する飼料と含有しない飼料の組成が開示され(同文献明細書段落番号[0033]参照)、ウニ内臓を含有しない飼料では、乾燥重量当たり68.6重量%のガニアシと、6.9重量%のコーングルテンと、1.0重量%のパプリカ粉末を含有したことが開示されている。
【0004】
特許文献6において開示された飼料は、動物性原料を含有していないが、乾燥重量当たり50重量%の昆布粉末と、30重量%の脱脂大豆粉末と、10重量%の小麦グルテンを含有することが開示されている(同文献明細書段落番号[実施例1]参照)。また、非特許文献1では、食用昆布やワカメの端切れを配合し、魚肉、魚油を使用していない配合飼料の存在について簡単に触れられているものの、ワカメの端切れ以外にどのような原料が配合されているかは明らかではない(同文献第80頁参照)。
【0005】
さらに、特許文献3、6及び8では、カルボキシメチルセルロースを増粘剤やバインダーとして機能することを目的として配合したウニ養殖用飼料が開示されている。特許文献3では、原料の一つにカルボキシメチルセルロースを用いた配合飼料が開示されているが、含有量は2.9重量%である。特許文献6及び8では、バインダーの一例としてカルボキシメチルセルロースが記載されているが、飼料における含有率は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-187337号公報
【特許文献2】特開平06-098691号公報
【特許文献3】特開平02-053446号公報
【特許文献4】特開平02-020253号公報
【特許文献5】特開平02-039861号公報
【特許文献6】特開平01-231854号公報
【特許文献7】特開昭55-021779号公報
【特許文献8】特開昭54-004766号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】裏方思考,磯焼けの話14 磯焼けと身のないウニの大発生(2),環境施設,No.161,日本,第76-81頁,https://greenlynx2.sakura.ne.jp/wp-content/uploads/2021/02/98e7e474ca8e28a2b688ab4e81052829.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
配合飼料で飼育したウニの生殖巣は、天然の海藻のみを食して育ったウニと比較して、旨味や甘味に欠け、苦味が強くなることが課題であった。特に、魚粉やカゼイン、ウニ内臓等の動物性タンパク質を含有する配合飼料では、ウニの苦味が増すなど、生産されたウニの品質が低い点が課題であった。そこで、2~3ヶ月の短期間でウニの可食部歩留まりを向上させ、且つ品質の高いウニの生産が可能な配合飼料や、当該配合飼料を用いた養殖方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、配合飼料に含有されるタンパク質の由来を、主に海藻及び小麦粉とした配合飼料により、短期間でウニの可食部歩留まりが増加し、且つ、品質の高いウニが生産可能であることを見出した。さらに、セルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースが、ウニの品質向上効果を有することを明らかとし、これらの新たな用途を見出すことで、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、動物性タンパク質を含有せず、海藻及び小麦粉由来のタンパク質を含有する、ウニ養殖用飼料である。
【0011】
さらに、本発明は、ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、90重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来するウニ養殖用飼料であり、また、前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、95重量%~100重量%、又は97重量%~100重量%が、海藻及び小麦粉に由来する、ウニ養殖用飼料である。前記ウニ養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、25重量%~85重量%が小麦粉に由来する、ウニ養殖用飼料でもあり得る。本発明は、前記ウニ養殖用飼料のタンパク質含有量が、乾燥重量当たり3重量%~15重量%であるウニ養殖用飼料でもある。
【0012】
さらに、別の本発明は、セルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを有効成分とするウニ用品質向上剤であり、当該ウニ用品質向上剤を含有するウニ養殖用飼料を提供する。ウニ養殖用飼料は、前記ウニ用品質向上剤を4重量%~8重量%含有し得る。また、前記ウニ用品質向上剤の有効成分がカルボキシメチルセルロースであり得る。
【0013】
さらに、別の本発明は、大豆を含有しないウニ養殖用飼料であり、トウモロコシを含有しないウニ養殖用飼料である。
【0014】
さらに、別の本発明は、ウニ養殖用飼料をウニに給餌する給餌ステップを含む養殖ウニの生産方法であって、前記給餌前のウニの可食部歩留まりが5重量%以下であり、生産された養殖ウニの可食部歩留まりが10重量%以上であり、養殖期間は2~3ヵ月である、養殖ウニの生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウニ養殖用飼料を用いてウニを養殖することで、短期間で品質の高いウニを生産することができる。さらに、ウニ用品質向上剤を含有するウニ養殖用飼料を利用することで、養殖生産されたウニの品質がさらに向上する。本発明の養殖用飼料で育成したウニの生殖巣は、旨味や甘味が強く、且つ苦味が少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例の養殖用飼料を与えたウニの生殖巣体指数の変化を示す図である。
図2】本発明の実施例の養殖用飼料による品質向上効果を示す図である。
図3】本発明の実施例の養殖用飼料を与えたウニの生殖巣体指数の変化を示す図である。
図4】本発明の実施例の養殖用飼料を与えたウニの生殖巣体指数の変化を示す図である。
図5】本発明の実施例の養殖用飼料による品質向上効果を示す図である。
図6】本発明の実施例の養殖用飼料による品質向上効果を示す図である。
図7】本発明の実施例の養殖用飼料を与えたウニの生殖巣体指数の変化を示す図である。
図8】本発明の実施例の養殖用飼料による品質向上効果を示す図である。
図9】本発明の実施例の養殖用飼料を与えたウニの生殖巣体指数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施形態に限定されない。
【0018】
本発明の養殖用飼料は、複数種の飼料原料を混ぜ合わせて押出成型等の方法で成型されたペレット状の配合飼料であり得る。本発明の養殖用飼料は、エクストルーデッドペレット(EPとも呼称される。)やドライペレット(DPとも呼称される。)であり得る。
【0019】
本発明の養殖用飼料は、動物性タンパク質を含有せず、海藻及び小麦粉を主なタンパク質源とするウニ養殖用飼料である。動物性タンパク質とは、動物に由来する原料(動物性原料)に含まれるタンパク質を指す。動物に由来し、且つタンパク質を含む原料としては、具体的には魚粉、肉骨粉、チキンミール、フェザーミール、カゼイン、卵黄や卵白、ウニ内臓が挙げられる。
【0020】
すなわち、本発明の養殖用飼料は、魚粉、肉骨粉、チキンミール、フェザーミール、カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、卵黄、卵白、及びウニ内臓等の、動物に由来し、且つタンパク質を含有する原料を配合しない。本発明の養殖用飼料に含有されるタンパク質は、植物(海藻を含む)に由来するタンパク質で構成される。
【0021】
一方、動物性原料であっても、タンパク質を実質的に含まない原料、例えば、魚油、牛脂や豚脂等の動物性油脂を、本発明の養殖用飼料が配合することは許容される。
【0022】
本発明の一実施態様は、養殖用飼料に含有されるタンパク質が、主に海藻及び小麦粉に由来するタンパク質から構成される養殖用飼料である。本実施態様では、海藻や小麦粉を含む複数の植物原料を配合し得るが、小麦粉及び海藻以外にタンパク質を含有する原料は、配合されないか、配合されても極僅かな比率で配合される。極僅かな比率で配合される原料としては、例えば、パプリカ粉末やカボチャ粉末、ニンジン粉末等、ウニの可食部の色調改善に有効なカロテノイド類を豊富に含む野菜や微細藻類が挙げられ、極僅かな比率とは、例えば乾燥重量当たり0.01重量%~5重量%の範囲をいう。
【0023】
また、本実施態様では、海藻及び小麦粉を主要なタンパク質源とし、主に海藻及び小麦粉に由来するタンパク質から構成される養殖用飼料であり、植物由来であっても、海藻及び小麦粉以外に、タンパク質の含有量が高い飼料原料を配合しないことが好ましい。本実施態様においては、海藻及び小麦粉を主要なタンパク質源とする飼料をウニに与えることで、短期間で品質の高いウニを生産することができる
【0024】
タンパク質の含有量が高い飼料原料とは、具体的には、コーングルテンや脱脂大豆(大豆粕)等が挙げられる。すなわち、本発明の養殖用飼料の一実施態様では、コーングルテンや脱脂大豆等、トウモロコシや大豆に由来し、且つタンパク質含有が高い原料を配合しない。タンパク質含有量が高い原料とは、具体的には乾燥重量当たり30重量%以上のタンパク質を含有する原料をいい、好ましくは乾燥重量当たり40重量%以上のタンパク質を含有する原料をいい、より好ましくは乾燥重量当たり50重量%以上のタンパク質を含有する原料をいう。
【0025】
本実施態様において、海藻及び小麦粉以外には、タンパク質を実質的に含有しないか、タンパク質の含有量が低い原料が主に配合され、タンパク質を含有する原料は極僅かな比率で配合される。タンパク質を含有しないか、タンパク質の含有量が低い原料としては、具体的には、油脂や、でんぷん、セルロース、及びカルボキシメチルセルロース等の炭水化物、食塩(塩化ナトリウム)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びリン等の無機物、並びに、ミネラル類・ビタミン類等が挙げられる。
【0026】
別の実施態様では、養殖用飼料に含有されるタンパク質が、主に小麦粉及び海藻粉末に由来するタンパク質である養殖用飼料であり、一例として、飼料中に20重量%~60重量%の小麦粉、及び60重量%~20重量%の海藻粉末が配合される。一般的に、小麦粉には乾燥重量当たり8重量%~15重量%、海藻粉末には乾燥重量当たり5重量%~20重量%のタンパク質が含有される。したがって、養殖用飼料に20重量%の小麦粉及び60重量%の海藻粉末が配合される場合には、当該養殖用飼料には、乾燥重量当たり1.6重量%~3.0重量%の小麦粉由来のタンパク質、及び乾燥重量当たり3.0重量%~12.0重量%の海藻粉末由来タンパク質が含有されるため、乾燥重量当たり4.6重量%~15.0重量%の小麦粉及び海藻粉末に由来するタンパク質が養殖用飼料に含有されることになる。
【0027】
また、養殖用飼料に60重量%の小麦粉及び20重量%の海藻粉末が配合される場合には、当該養殖用飼料には、乾燥重量当たり4.8重量%~9.0重量%の小麦粉由来のタンパク質、及び乾燥重量当たり1.0重量%~4.0重量%の海藻粉末由来のタンパク質が含有されるため、乾燥重量当たり5.8重量%~13.0重量%の小麦粉及び海藻粉末に由来するタンパク質が養殖用飼料に含有されることになる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、海藻及び小麦粉に由来するタンパク質が、養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、ほとんど全て、又は全てを占める。具体的には、養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、80重量%~100重量%が海藻及び小麦粉に由来するタンパク質であり、好ましくは、90重量%~100重量%が海藻及び小麦粉に由来するタンパク質であり、より好ましくは95重量%~100重量%が海藻及び小麦粉に由来するタンパク質であり、さらに好ましくは97重量%~100重量%が海藻及び小麦粉に由来するタンパク質である。
【0029】
本発明の養殖用飼料の一実施態様では、乾燥重量当たり3.0重量%~14.5重量%のタンパク質を含有する。かかる実施態様において、養殖用飼料が乾燥重量当たり3.0重量%~11.6重量%の海藻及び小麦粉に由来するタンパク質を含有する場合、養殖用飼料が含有するタンパク質のうち、100重量%~80重量%が小麦粉及び海藻に由来するタンパク質となる。
【0030】
かかる実施形態では、養殖用飼料は、小麦粉及び海藻粉末以外にタンパク質を含有する原料を、実質的に配合していないか、配合されても極僅かな比率で配合される。小麦粉及び海藻粉末以外の原料としては、上述のように野菜粉末等が挙げられるが、例えばパプリカ粉末は、乾燥重量当たり15.5重量%のタンパク質を含有する。小麦粉及び海藻粉末以外にタンパク質を含有する原料としてパプリカ粉末を0.01重量%~5重量%配合する場合は、小麦粉及び海藻粉末に由来するタンパク質以外のタンパク質は、乾燥重量当たり0.002重量%~0.78重量%となる。
【0031】
本発明の養殖用飼料に配合される海藻とは、少なくともタンパク質を含有するものが用いられ、具体的には、海藻を乾燥し粉砕して得られた海藻粉末や、海藻から抽出された寒天やその粉末を含む。また、飼料用に採取又は養殖された海藻の他、食用の海藻のうち、食用とならない部位や、食用に加工した際の副産物や残渣であっても良い。
【0032】
海藻としては、コンブ科(Laminariaceae)に属するマコンブ(Saccharina japonica)、ガゴメコンブ(Saccharina sculpera)、及びジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)、チガイソ科(Alariaceae)のワカメ属(Undaria)に属するワカメ(U. pinnatifida)、ヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosum、ホンダワラ科(Sargassaceae)のホダワラ属(Sargassum)に属するホンダワラ(S. fulvellum)、ヒジキ(S. fusiforme)、及びアカモク(S. horneri)、Lessonia属に属し、レッソニアと呼ばれるLessonia nigrescensやLessonia trabeculata等が好ましく例示されるが、ウニが摂食し得る海藻であれば、これらの種に限定されないことは当業者にとっては明らかであろう。
【0033】
本発明の養殖用飼料に配合される小麦粉は、タンパク質含有量の違いから、強力粉、中力粉、薄力粉等に分類されるが、いずれの小麦粉も好適に用いられる。養殖用飼料中の小麦粉由来のタンパク質含有量が前述の数値範囲になるように、小麦粉の配合割合を調整すればよいためである。
【0034】
本発明のウニ養殖用飼料の実施態様では、飼料に含有されるタンパク質のうち、5重量%~90重量%が小麦粉に由来するタンパク質であり、好ましくは、25重量%~85重量%、より好ましくは35重量%~85重量%が小麦粉に由来するタンパク質である。小麦粉由来のタンパク質であるグルテニンやグリアジンは、グルテンを形成するため、これらを含有する養殖用飼料は、ウニが摂餌し易い形状が水中で保持されるという特徴を有する。
【0035】
本発明の養殖用飼料や、養殖用飼料に配合される飼料原料の水分、タンパク質、脂質、及び灰分の数値は、飼料分析基準(農林水産省消費・安全局長)等の公知の分析方法によって得られる。タンパク質の含有量は、ケルダール法やデュマ法等の公定法により分析することで得られる。本発明の養殖用飼料のタンパク質及びその他の成分の一例を示すと、水分含有量は全体重量当たり3重量%~25重量%であり、タンパク質は、乾燥重量当たり3重量%~15重量%であり、脂質の含有量は乾燥重量当たり1重量%~5重量%、灰分の含有量は乾燥重量当たり10重量%~30重量%である。
【0036】
また、本発明はセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを有効成分とするウニ用品質向上剤を提供する。本発明のウニ用品質向上剤は、動物性タンパク質を含有せず、且つタンパク質を乾燥重量当たり3重量%~15重量%含有する養殖用飼料において配合されることで、養殖ウニの顕著な品質向上効果が確認された。
【0037】
セルロースは、植物繊維の主成分である多糖類である。発明者らは、セルロースやその誘導体を含有する飼料をウニに与えて養殖することで、品質の高いウニ生殖巣が得られることを見出した。
【0038】
カルボキシメチルセルロースは、CMCとも呼称され、セルロースの誘導体の一種であり、セルロースのヒドロキシル基がカルボキシル基に置換された構造を持つ多糖類である。本発明に含有されるカルボキシメチルセルロースは、飼料製造上許容される塩であり得る。具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩やカルボキシメチルセルロースカルシウム塩等が挙げられる。
【0039】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は限定されないが、具体的には、0.1 ~ 3.0でよいが、一般的なカルボキシメチルセルロースのエーテル化度である0.5 ~ 1.6のもので良い。
【0040】
カルボキシメチルセルロースは、従来からバインダーとして配合飼料に配合されてきたが、ウニの品質向上効果があることは知られていなかった。発明者らは、カルボキシメチルセルロースを含有する飼料をウニに与えて養殖することで、品質の高いウニ生殖巣が得られることを見出した。
【0041】
本発明の養殖用飼料は、本発明のウニ用品質向上剤を含有する。ウニの品質向上効果を奏する限り、飼料中のウニ用品質向上剤の含有率は限定されないが、乾燥重量当たり1重量%~20重量%含有することが好ましく、乾燥重量当たり4重量%~8重量%含有することがさらに好ましい。
【0042】
さらに本発明は、本発明のウニ養殖用飼料をウニに給餌する給餌ステップを含む養殖ウニの生産方法である。養殖ウニの生産方法では、可食部歩留まりが低いウニに対して給餌する。好ましくは、給餌前のウニの可食部歩留まりは、平均で10重量%以下であり、9、8、7、6、5、4、3重量%以下であり得る。養殖期間は1~6ヶ月であり、好ましくは2~3ヵ月である。週に1~3回、好ましくは週に1回の給餌を行い、養殖期間中5~20回、好ましくは6~10回の給餌を行うことで、可食部歩留まりが平均で10重量%以上、好ましくは15重量%以上の養殖ウニを生産することができる。
【実施例0043】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0044】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(1)
ウニ養殖用の配合飼料の実施例1及び比較例1を作製した。海藻粉末にはヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosum由来の粉末を用いた。実施例1及び比較例1の配合飼料に使用した原料のタンパク質含有量と、実施例1及び比較例1の配合飼料の組成を表1に示す。実施例1は、タンパク質を含有する飼料原料として、小麦粉、海藻粉末、及びパプリカ粉末を配合した。比較例1は、タンパク質を含有する飼料原料として、小麦粉、海藻粉末、及びパプリカ粉末に加えて、コーングルテンを配合した。飼料原料に水を適量加えながら、混ぜ合わせ、直径約2 cm、厚さ約1 cmの円盤状に成型してから乾燥機にて70℃で一晩乾燥させ、配合飼料を得た。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1及び比較例1の一般成分の分析結果を表2に示す。水分は常圧加熱乾燥法、タンパク質はケルダール法、脂質はソックスレー法、灰分は乾式灰化法で測定した。繊維及び可溶性無窒素物は、乾燥重量からタンパク質、脂質、及び灰分を差し引いた残りの重量である。タンパク質、脂質、灰分、並びに繊維及び可溶性窒素無機物は、水分を除いた乾燥重量当たりで算出した。実施例1の配合飼料は乾燥重量当たり4.5重量%のタンパク質を含有する一方、比較例1は、乾燥重量当たり19.0重量%のタンパク質を含有した。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1及び比較例1の飼料に用いた原料のタンパク質含有量は、表1に示した通りである。海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が、各飼料中の全体のタンパク質含有量(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)において占める割合を算出すると、表3に示す通り、実施例1は95.3重量%であり、比較例1は27.3重量%であった。また、実施例1は、小麦粉に由来するタンパク質が飼料全体のタンパク質に占める割合は47.5重量%であり、海藻に由来するタンパク質が飼料全体のタンパク質に占める割合は47.9重量%であった。
【0049】
【表3】
【0050】
続いて、実施例1及び比較例1の飼料を用いて、ウニの養殖試験を行った。北海道二海郡八雲町熊石雲石町で採捕されたキタムラサキウニ(開始時の平均全体重量53.3 ± 3.2 g)を、2500 Lの水槽内に設置した50x35x30cmの籠に10個体ずつ収容し、滅菌海水をかけ流して飼育した。週に1回、ウニの全体重量当たり15重量%の養殖用飼料を給餌し、週に1回、残餌と糞を除去した。飼育期間中の海水温は12.7 ± 1.4℃であった。飼育開始から給餌を9回行い、10週間経過時に飼育を終了した。
【0051】
飼育開始時、及び飼育終了時に生殖巣体指数(Gonad Somatic Index; GSI)を算出した。ウニの全体重量を測定後、ウニの生殖巣を取り出し、生殖巣重量を測定し、個体ごとにGSI(重量%)を算出した。開始時及び各飼料での飼育終了時のGSIを図1に示した。統計検定には、One way ANOVA後のDunnettの多重比較検定を用いた。図中のアスタリスク(***)は、p値が0.001未満であることを示す。いずれの飼料を与えたキタムラサキウニも、開始時と比較して、ウニの生殖巣が顕著に肥大した。
【0052】
官能試験は、ウニを普段から頻繁に食べている20歳台~50歳台の男女合計9名で行った。飼育終了時のウニの生殖巣をブラインドで食べ、旨味、甘味、及び苦味を感じた強さを5段階で評価した。群毎の旨味/苦味の比率(旨/苦比)の結果、及び甘味/苦味の比率(甘/苦比)の結果を図2に示した。統計検定には、t検定を用い、図中のアスタリスク(***)は、p値が0.001未満であることを示す。実施例1を摂餌したウニの生殖巣は、比較例1を摂餌したウニの生殖巣に比べて、顕著に品質が高いことが示された。
【0053】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(2)
ウニ養殖用の配合飼料の実施例及び比較例を作製した。海藻粉末にはヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosum由来の粉末を用いた。実施例及び比較例の配合飼料の組成を表4に示す。実施例は、タンパク質を含有する飼料原料として、小麦粉、海藻粉末、及びパプリカ粉末を配合した。比較例は、タンパク質を含有する飼料原料として、小麦粉、海藻粉末、及びパプリカ粉末に加えて、コーングルテンを配合した。配合組成を表4に示す。飼料原料に水を適量加えながら、混ぜ合わせ、直径約2 cm、厚さ約1 cmの円盤状に成型してから乾燥機にて70℃で一晩乾燥させ、配合飼料を得た。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例及び比較例の一般成分の分析結果を表5に示す。水分は常圧加熱乾燥法、タンパク質はケルダール法、脂質はソックスレー法、灰分は乾式灰化法で測定した。タンパク質、脂質、灰分、並びに繊維及び可溶性窒素無機物は、水分を除いた乾燥重量当たりで算出した。実施例2~4の配合飼料は乾燥重量当たり3.5重量%~8.2重量%のタンパク質を含有する一方、比較例2は乾燥重量当たり12.7重量%のタンパク質を含有した。
【0056】
【表5】
【0057】
実施例2~4及び比較例2の飼料に用いた原料に含有されるタンパク質量を分析した。小麦粉は11.5重量%(乾燥重量当たり)、海藻粉末は12.0重量%(乾燥重量当たり)、パプリカ粉末は15.5重量%(乾燥重量当たり)であり、また比較例2に配合したコーングルテンは60.5重量%(乾燥重量当たり)であり、CMC、食塩、及び、油脂にはタンパク質は含まれていなかった。そこで、表4に記載の組成から、各飼料中のタンパク質含有量(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)における海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が占める割合を算出すると、表6に示す通り、実施例2~4は96.1~98.2重量%であり、比較例2は74.2重量%であった。また、実施例3及び4は、小麦粉に由来するタンパク質が占める割合は、それぞれ36.5重量%及び27.2重量%であった。
【0058】
【表6】
【0059】
愛媛県愛南町で採捕されたムラサキウニ(平均全体重量79.7 g)を用いて給餌試験を行った。実施例2~4及び比較例をそれぞれ給餌した試験区に加えて、コンブを給餌した対照区を設けた。60Lの角型水槽に15個体を収容し、各区2水槽を設けた。週に5~6回、飽食まで給餌し、11週間で試験終了とした。
【0060】
飼育開始時、及び飼育終了時に生殖巣体指数(Gonad Somatic Index; GSI)を算出した。ウニの全体重量を測定後、ウニの生殖巣を取り出し、生殖巣重量を測定し、個体ごとにGSI(重量%)を算出した。開始時及び各飼料での飼育終了時のGSIを図3に示す。統計検定には、one way ANOVA後のBonferroni法を用い、異なるアルファベットが示された群は、p値が0.01未満であったことを示す。実施例2~4は、コンブよりもGSIが顕著に向上した。実施例2~4の飼料は、比較例の飼料よりもタンパク質含有量が少ないにも関わらず、比較例2よりも高いGSIを示した。特に、飼料が含有するタンパク質のうち、97.5~98.2重量%が海藻及び小麦粉に由来し、且つ27.2~36.5重量%が小麦粉に由来する実施例3及び4は、実施例2よりも高いGSI増加傾向が見られた。
【0061】
官能試験は、ウニを普段から頻繁に食べている20歳台~50歳台の男女合計5名で行った。飼育終了時のウニの生殖巣をブラインドで食べたところ、実施例2~4は苦味が少なく、品質が高いウニが生産されたことが明らかとなった。
【0062】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(3)
品質向上剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と呼称する。)を乾燥重量当たり2重量%、4重量%、及び8重量%含有するウニ養殖用の配合飼料を作製した。CMCは日本製紙株式会社製の製品(エーテル化度0.5~1.6 mol / C6)を用いた。飼料に配合する海藻粉末にはヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosum由来の粉末を用いた。作製した配合飼料の組成を表7に示す。各配合飼料では、CMCの含有率に応じ、CMC以外の原料の配合率の合計を変更したが、CMC以外の原料間の比率は変更していない。水を適量加えながら、飼料原料を混ぜ合わせ、直径約2 cm、厚さ約1 cmの円盤状に成型してから乾燥機にて70℃で一晩乾燥させ、配合飼料を得た。
【0063】
【表7】
【0064】
作製した配合飼料の水分、タンパク質、脂質、灰分、並びに繊維及び可溶性無窒素物の分析結果を表8に示す。水分は常圧加熱乾燥法、タンパク質はケルダール法、脂質はソックスレー法、灰分は乾式灰化法で測定した。タンパク質、脂質、灰分、並びに繊維及び可溶性無窒素物は、水分を除いた乾燥重量当たりで算出した。
【0065】
【表8】
【0066】
また、飼料に用いた原料のタンパク質を分析した。小麦粉は11.5重量%(乾燥重量当たり)、海藻粉末は10.4重量%(乾燥重量当たり)、パプリカ粉末は15.5重量%(乾燥重量当たり)であり、CMC、食塩、油脂等のその他原料にはタンパク質は含まれていない。そこで、表8に記載の組成から、各飼料中のタンパク質(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)における海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が占める割合を算出すると、表9に示すように、97.40重量%であった。また、小麦粉に由来するタンパク質が占める割合は68.54重量%であった。
【0067】
【表9】
【0068】
作製した3種類の飼料を用いて、ウニの養殖試験を行った。北海道二海郡八雲町熊石雲石町で採捕されたキタムラサキウニ(平均全体重量65.20 ± 2.02 g)を、2500 Lの水槽内に設置した50×35×30cmの籠に10個体ずつ収容し、滅菌海水をかけ流して飼育した。週に1回、ウニの全体重量当たり15重量%の養殖用飼料を給餌し、週に1回、残餌と糞を除去した。飼育期間中の海水温は12.9 ± 0.1℃であった。飼育開始から給餌を8回行い、10週間経過時に飼育終了とした。
【0069】
飼育開始時、及び飼育終了時に生殖巣体指数(Gonad Somatic Index; GSI)を算出した。ウニの全体重量を測定後、ウニの生殖巣を取り出し、生殖巣重量を測定し、個体ごとにGSI(重量%)を算出した。開始時及び各飼料での飼育終了時のGSIを図4に示す。統計検定には、Turkey - Kramer法を用い、異なるアルファベットが示された群は、p値が0.05未満であったことを示す。いずれの飼料でも、開始時と比較して、ウニの生殖巣が顕著に肥大した。
【0070】
官能試験は、ウニを普段から頻繁に食べている20歳台~60歳台の男女合計11名で行った。飼育終了時のウニの生殖巣をブラインドで食べ、旨味、甘味、及び苦味を感じた強さを5段階で評価した。群毎の旨味/苦味の比率(旨/苦比)の結果を図5に、及び甘味/苦味の比率(甘/苦比)の結果を図6に示した。統計検定は、Kruskal-Wallis法で多重比較を行い、Post-hoc testにはSteel法を用いた。
【0071】
4重量%のCMCを含有する飼料、及び8重量%のCMCを含有する飼料で養殖したウニの生殖巣は、2重量%のCMCを含有する飼料で養殖したウニの生殖巣と比較して、旨/苦比、及び甘/苦比が顕著に高かった。したがって、乾燥重量当たり8%程度の粗タンパク質を含有するウニ養殖用飼料にCMCを4重量%以上含有させることで、旨味や甘味が強く、苦味が弱い、すなわち品質の高いウニが生産されたことが示された。これらのウニは、天然のウニと比較しても、遜色ない品質であることが確認された。
【0072】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(4)
品質向上剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と呼称する。)を乾燥重量当たり5重量%含有するウニ養殖用の配合飼料を作製した。各原料を二軸エクストルーダで押出成形し、EP飼料を作製した。配合飼料の組成を表10に示す。飼料に配合する海藻粉末にはヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosumの粉末を用いたものと、マコンブ(Saccharina japonica)の仮根(ガニアシ)の粉末を用いたもの、2種類の配合飼料を作製した。
【0073】
【表10】
【0074】
また、飼料に用いた原料のタンパク質を分析した。小麦粉は15.5重量%(乾燥重量当たり)、海藻粉末は、A. nodsum粉末が15.0重量%(乾燥重量当たり)、ガニアシ粉末が12.2重量%(乾燥重量当たり)、パプリカ粉末は15.5重量%(乾燥重量当たり)であり、CMC、食塩、油脂等のその他原料にはタンパク質は含まれていない。そこで、表10に記載の組成から、各飼料中のタンパク質(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)における海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が占める割合を算出すると、表11に示すように、97.40重量%であった。また、小麦粉に由来するタンパク質が占める割合は68.54重量%であった。
【0075】
【表11】
【0076】
作製した実施例の飼料を用いて、ウニの養殖試験を行った。岩手県九戸郡洋野町で採捕されたキタムラサキウニ(平均全体重量75.9 ± 18.7 g)を、海底に固定したカゴの中に100個体ずつ収容した。週に1回、ウニの全体重量当たり15重量%を目安に実施例の飼料を給餌し、残餌量を見て給餌量は都度調整した。飼育開始から給餌を8回行い、10週間経過時に飼育終了とした。
【0077】
飼育開始時、及び飼育終了時に生殖巣体指数(Gonad Somatic Index; GSI)を算出した。ウニの全体重量を測定後、ウニの生殖巣を取り出し、生殖巣重量を測定し、個体ごとにGSI(重量%)を算出した。開始時及び各飼料での飼育終了時のGSIを図7に示す。統計検定は、t検定を用い、図中のアスタリスク(**)は、p値が0.01未満であることを示す。飼育開始前は、3.5重量%であったGSIは、飼育終了時には19.4重量%まで顕著に増加した。
【0078】
官能試験は、ウニを普段から頻繁に食べている20歳台~60歳台の男女合計8名で行った。飼育終了時のウニの生殖巣をブラインドで食べ、旨味、甘味、及び苦味を感じた強さを5段階で評価した。統計検定は、Kruskal-Wallis法で多重比較を行い、Post-hoc testにはSteel-Dwass法を用いた。評価結果を図8に示した。異なるアルファベットが示された群は、p値が0.01未満であったことを示す。本実施例のEP飼料により、旨味や甘味が強く、苦味が弱い、すなわち品質の高いウニが生産されたことが示された。これらのウニは、天然のウニと比較しても、遜色ない品質であることが確認された。
【0079】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(5)
CMCに代えて、セルロースを乾燥重量当たり4重量%及び8重量%含有する飼料を作製した。海藻粉末は、コンブ科(Laminariaceae)に属するマコンブ(Saccharina japonica)の仮根(ガニアシ)の粉末を用いた。各飼料の配合組成を表12に示す。セルロースは、日本製紙株式会社製の粉末セルロース(平均粒子径約45 μm)を用いた。水を適量加えながら、飼料原料を混ぜ合わせ、直径約2 cm、厚さ約1 cmの円盤状に成型してから乾燥機にて70℃で一晩乾燥させ、配合飼料を得た。
【0080】
【表12】
【0081】
また、飼料に用いた原料のタンパク質を分析した。小麦粉は11.5重量%(乾燥重量当たり)、海藻粉末は12.2重量%(乾燥重量当たり)、パプリカ粉末は15.5重量%(乾燥重量当たり)であり、CMC、食塩、油脂等のその他原料にはタンパク質は含まれていない。そこで、表9に記載の組成から、各飼料中のタンパク質(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)における海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が占める割合を算出すると、表13に示すように、97.36~97.47重量%であり、小麦粉に由来するタンパク質が占める割合は65.17~65.27重量%であった。
【0082】
【表13】
【0083】
愛媛県八幡浜市大島で採捕されたムラサキウニ(平均全体重量95.4 g)を用いて給餌試験を行ったところ、当該飼料においてもウニの生殖巣の肥大効果が確認された。さらに、ウニの生殖巣は、旨味や甘味が強く、苦味が弱いことから、顕著な品質向上効果が確認された。
【0084】
ウニ養殖用配合飼料の作製と当該配合飼料を用いたウニ養殖試験(6)
品質向上剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と呼称する。)を乾燥重量当たり5重量%含有するウニ養殖用の配合飼料を作製した。飼料に配合する海藻粉末にはヒバマタ科(Fucaceae)に属するAscophyllum nodosum由来の粉末、及びレッソニア属(Lessonia)に属する海藻由来の粉末を用いた。作製した配合飼料の組成を表14に示す。水を適量加えながら、飼料原料を混ぜ合わせ、直径約2 cm、厚さ約1 cmの円盤状に成型してから乾燥機にて70℃で一晩乾燥させ、配合飼料を得た。
【0085】
【表14】
【0086】
実施例の配合飼料の一般成分の分析結果を表15に示す。水分は常圧加熱乾燥法、タンパク質はケルダール法、脂質はソックスレー法、灰分は乾式灰化法で測定した。タンパク質、脂質、灰分、並びに繊維及び可溶性窒素無機物は、水分を除いた乾燥重量当たりで算出した。
【0087】
【表15】
【0088】
また、飼料に用いた原料のタンパク質を分析した。小麦粉は14.5重量%(乾燥重量当たり)、A.nodosum由来の海藻粉末は4.9重量%(乾燥重量当たり)、Lessonia由来の海藻粉末は16.9重量%(乾燥重量当たり)、パプリカ粉末は15.5重量%(乾燥重量当たり)であり、CMC、食塩、油脂等のその他原料にはタンパク質は含まれていない。そこで、表14に記載の組成から、各飼料中のタンパク質(原料のタンパク質含有量から計算した予測値)における海藻粉末及び小麦粉に由来するタンパク質が占める割合を算出すると、表16に示すように、97.0~97.8重量%であった。また、小麦粉に由来するタンパク質が占める割合は60.8~82.6重量%であった。
【0089】
【表16】
【0090】
作製した3種類の飼料を用いて、ウニの養殖試験を行った。北海道久遠郡せたな町長磯で採捕されたキタムラサキウニ(平均全体重量74.6 ± 13.7 g)を、60Lの水槽に9個体ずつ収容し、滅菌海水をかけ流して飼育した。週に2~3回、週当たりウニの全体重量当たり15重量%の養殖用飼料を給餌し、残餌と糞を週に6回除去した。飼育開始から給餌を8回行い、最後の給餌後4週間餌止めし、12週間経過時に飼育を終了した。
【0091】
飼育開始時、及び飼育終了時に生殖巣体指数(Gonad Somatic Index; GSI)を算出した。ウニの全体重量を測定後、ウニの生殖巣を取り出し、生殖巣重量を測定し、個体ごとにGSI(重量%)を算出した。開始時及び各飼料での飼育終了時のGSIを図9に示した。統計検定には、One way ANOVA後のDunnettの多重比較検定を用いた。図中のアスタリスク(***)は、p値が0.001未満であることを示す。いずれの飼料を与えたキタムラサキウニも、開始時と比較して、ウニの生殖巣が顕著に肥大した。
【0092】
官能試験は、ウニを普段から頻繁に食べている20歳台~50歳台の男女合計6名で行った。飼育終了時のウニの生殖巣をブラインドで食べたところ、いずれの実施例で育てたウニも苦味が少なく、天然ウニと遜色ない、品質の高いウニが生産されたことが明らかとなった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9