(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102054
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】小麦全粒紛の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230714BHJP
A21D 13/02 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002388
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【弁理士】
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】三浦 由雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧屋 俊幸
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE26
4B023LG06
4B023LK04
4B023LP20
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK54
4B032DL11
4B032DP01
4B032DP06
4B032DP08
4B032DP25
4B032DP33
4B032DP59
4B032DP63
(57)【要約】
【課題】エグミの抑えられた小麦全粒粉の製造方法を提供すること。
【解決手段】小麦全粒粉の製造方法における粉砕前処理であって、小麦粒を粉砕する前に小麦粒100質量部に対して、0.005質量部以上5質量部以下の酢酸ナトリウムが小麦粒に浸透するように酢酸ナトリウム水溶液処理することを特徴とする小麦全粒紛の粉砕前処理である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦全粒粉の製造方法における粉砕前処理であって、小麦粒を粉砕する前に小麦粒100質量部に対して、0.005質量部以上5質量部以下の酢酸ナトリウムが小麦粒に浸透するように酢酸ナトリウム水溶液処理することを特徴とする小麦全粒紛の粉砕前処理。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦全粒粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販されている小麦粉の大部分は、製粉工程で小麦の皮部(ふすま)や胚芽を取り除き製造されているが、ふすまや胚芽を取り除くことなく粉砕した小麦全粒粉も使用されている。
小麦全粒粉はビタミン、ミネラル、食物繊維などが豊富ではあるが、ふすまや胚芽を含
むため、ふすま臭、エグミがあり美味しさに欠けていた。
小麦全粒粉のふすま臭、エグミ、舌にざらつく食感の悪さを改良するため、例えば、
小麦粒を粗粉砕した後、分級して特定の粒度未満の画分と当該粒度以上の画分に分離し、
当該粒度以上の画分を衝撃式微粉砕機で微粉砕し、得られた微粉砕物を再度、分級して、
上記の特定の粒度未満の画分と混合する小麦全粒粉の製造方法が知られている(例えば特
許文献1参照)。
また、小麦粒を粗粉砕した後、分級して特定の粒度未満の画分と当該粒度以上の画分に
分離し、当該粒度以上の画分を湿熱処理した後に衝撃式微粉砕機で微粉砕し、得られた微
粉砕物を再度、分級して、上記の特定の粒度未満の画分と混合する小麦全粒粉の製造方法
が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-61813号公報
【特許文献2】特開2007-82541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エグミの抑えられた小麦全粒粉の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、小麦粒を粉砕する前に酢酸ナトリウム水溶液を浸透することで、エグミが抑えられた小麦全粒粉を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、小麦全粒粉の製造方法における粉砕前処理であって、小麦粒を粉砕する前に小麦粒100質量部に対して、0.005質量部以上5質量部以下の酢酸ナトリウムが小麦粒に浸透するように酢酸ナトリウム水溶液処理することを特徴とする小麦全粒紛の粉砕前処理である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の小麦全粒粉の製造方法により、エグミが抑えられた小麦全粒粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は小麦全粒粉を製造する場合の粉砕する前に行う処理であり、小麦粒を粉砕する前に小麦粒100質量部に対して、0.005質量部以上5質量部以下の酢酸ナトリウムが小麦粒に浸透するように酢酸ナトリウム水溶液処理を行うことを特徴とする。
【0008】
小麦全粒粉は、原料となる小麦粒から夾雑物を取り除いた後、必要に応じて加水し、又は加水することなしに、粉砕して得ることができる。
市販の小麦粉では、ふすま(皮部)が除去されているが、小麦全粒紛では、ふすまや胚芽を除去することがないので、前記のとおり、栄養価が高い反面、好ましくないエグミがある。
【0009】
本発明では、小麦粒を粉砕する前に小麦粒100質量部に対して、0.005質量部以上5質量部以下の酢酸ナトリウムが小麦粒に浸透するように酢酸ナトリウム水溶液処理を行うが、酢酸ナトリウム水溶液処理とは、酢酸ナトリウム水溶液で小麦粒を被覆し放置することで酢酸ナトリウム水溶液を小麦粒に浸透する処理をいう。
この処理は、製粉工程の調質工程において使用する水の一部、又は全部を酢酸ナトリウム水溶液に置き換えて実施することができる。
また、少量の場合は、例えば、密封容器に小麦粒と酢酸ナトリウム水溶液を収容し、よく振ってから室温で放置することでも実施できる。
いずれの場合も、乾燥を防ぐため密封状態での放置が好ましい。
【0010】
酢酸ナトリウム水溶液による処理時間は、処理環境にもよるが、室温程度であれば6時間以上放置すれば十分である。
また、小麦粒に加える酢酸ナトリウム水溶液の量は、濃度にもよるが、小麦粒100質量部に対して1質量部以上10質量部程度でよい。
酢酸ナトリウム水溶液は、一度に加えても、数回に分けて加えてもよい。
酢酸ナトリウムの量が小麦粒100質量部に対して、0.005質量部未満では、効果が十分に得られず、5質量部を超えると、エグミを抑える効果はあるが酢酸ナトリウム由来の異味が感じられるようになるため好ましくない。
なお、全粒粉調整後に酢酸ナトリウムを添加した場合は、本願発明と同量の酢酸ナトリウムを使用しても同等なエグミの抑制効果を得ることはできない。
【0011】
酢酸ナトリウム水溶液により処理した小麦粒の粉砕方法は、従来の小麦全粒粉と同様でよく、例えば、気流粉砕機、ピンミル、ロール粉砕機、ハンマーミル等で粉砕すればよい。
粉砕して得られた小麦全粒粉の使用方法には、特に限定はなく、従来の小麦全粒粉と同様に使用することができる。
例えば、パン、菓子、たこ焼、お好み焼、ホットケーキ、クレープ等を挙げることができる。
【実施例0012】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1~4、比較例1]酢酸ナトリウム処理全粒粉の調製
300gの小麦粒をビニール袋に入れて、表1に示す量の酢酸ナトリウムを15mlの水に溶解し酢酸ナトリウム水溶液として加えた。
これをよく振って、密封状態で20℃、16時間放置した。
この小麦粒をレッチミル(14000rpm、スクリーン:0.75mm)で粉砕し、小麦全粒粉を得た。
[参考例1]水処理全粒粉の調製
300gの小麦粒をビニール袋に入れて、水を15ml加え、[実施例]と同様に処理して、粉砕し小麦全粒粉を得た。
【0013】
[製パン試験によるエグミの評価]
強力小麦粉75質量部、前記得られた小麦全粒粉25質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、砂糖5質量部、塩2質量部、脱脂粉乳2質量部、水67質量部
を、製パン用ミキサー(エスケーミキサー社製:商品名「SK200」)を使用して、低速2分間、中速3分間、高速1分間ミキシングし、ショートニング5質量部を加えて低速1分間、中速3分間、高速5分間ミキシングしてパン生地を調製した。
このパン生地を温度27℃、相対湿度75%の環境下で60分間発酵させた。
この発酵させた生地を1個当たり230gとなるように分割した後、室温で20分間のベンチタイムを取り、モルダー(成形機)を用いてパン生地を成形した。
成形生地を焼型(100mm×240mm×60mm)に投入し、温度38℃、相対湿度85%の環境下で、焼型の高さに生地が膨らむまでホイロ発酵させた。
ホイロ発酵後、焼型に蓋をし、200℃に予熱したオーブンに入れ、200℃で30分間焼成し、食パンを得た。
得られた食パンの粗熱を取った後、樹脂製袋に入れて密封して一晩静置した。
その後、厚さ18mmにスライスし、パネラー10名により、以下の評価基準によりエグミを評価した。
なお、参考例1の酢酸ナトリウムを使用していない場合をコントロール(3点)として評価している。
<エグミ>
5点 エグミを感じず良い。
4点 エグミをほとんど感じずやや良い。
3点 普通
2点 ややエグミを感じてやや悪い
1点 エグミを感じ悪い
【0014】
[比較例2]酢酸ナトリウムをパン生地に添加した場合
実施例3において、粉砕前の小麦粒には酢酸ナトリウムを加えず、代わりに、実施例3で使用したのと同量の酢酸ナトリウムを、パン生地を調製する水に溶解して加えた以外は実施例3と同様にして評価を行った。
なお、酢酸ナトリウムの量が小麦粒100質量部に対して5質量部を超えると酢酸ナトリウム由来の異味が感じられるようになり不適となった為、エグミの評価は行わなかった。
【0015】
得られた評価結果(平均値)を表1に示す。
【0016】
【0017】
比較例1は酢酸ナトリウムの使用量が少なく満足できる結果ではなかった。
比較例2は、酢酸ナトリウムを小麦粒ではなく、パン生地調製時に加えた場合だが、満足できる結果ではなかった。