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特開2023-102129プログラム、蓄熱式機器の制御方法、及び情報処理装置
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  • 特開-プログラム、蓄熱式機器の制御方法、及び情報処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102129
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】プログラム、蓄熱式機器の制御方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/28 20060101AFI20230714BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20230714BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230714BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230714BHJP
【FI】
H02J3/28
H02J3/00 130
H02J3/00 170
H02J3/38 130
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002515
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑 瞬介
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AE09
5G066HB08
5G066HB09
5G066JA07
5G066JB03
5G066JB06
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】需要家における蓄熱式機器の動作スケジュールを、正味の電力調達費用を最小化するように制御する。
【解決手段】サーバ10は、再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化、需要家における予測電力需要の時間変化、及び電力市場価格の時間変化を取得し、予測発電量の時間変化、予測電力需要の時間変化、及び電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について需要家における正味の電力調達費用を最小化するように蓄熱式機器の動作スケジュールを決定する。サーバ10は、動作スケジュールに従って蓄熱式機器の動作指示を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得するステップと、
前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得するステップと、
電力市場価格の時間変化を取得するステップと、
前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定するステップと、
前記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力するステップと
を実行させるためのプログラム。
【請求項2】
前記需要家が蓄電設備を有し、
前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて前記蓄電設備の充放電スケジュールを決定するステップと、
前記充放電スケジュールに応じて前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定するステップと
を実行させるためのプログラムであって、
前記動作指示は、前記充放電スケジュール及び前記動作スケジュールに応じて生成される
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記充放電スケジュールを決定するステップにおいて、対象期間における前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記充放電スケジュールが決定される
請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記動作スケジュールを決定するステップにおいて、夜間において通電を行う第1方式、及び夜間における通電と日中の通電とを併用する第2方式を含む複数の方式の中から選択された一の方式に従って前記動作スケジュールが決定される
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記第2方式における通電を停止する際の基準を、前記需要家における前記蓄熱式機器の使用履歴に基づいて決定するステップ
を実行させるための、請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
前記需要家が属する地域における気象又は災害に関する特殊情報を取得するステップを有し、
前記特殊情報が所定の条件を満たした場合、前記出力するステップにおいて、前記特殊情報に応じた動作を前記蓄熱式機器にさせる前記動作指示が出力される
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項7】
再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得するステップと、
前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得するステップと、
電力市場価格の時間変化を取得するステップと、
前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定するステップと、
前記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力するステップと
を有する蓄熱式機器の制御方法。
【請求項8】
再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得する第1取得手段と、
前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得する第2取得手段と、
電力市場価格の時間変化を取得する第3取得手段と、
前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定する決定手段と、
前記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力する出力手段と
を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱式機器の動作スケジュールを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備を有するHEMS等のシステムにおいて、電力負荷への電力供給源を発電装置、蓄電池、又は商用電源のいずれかに切り替えるタイミング、すなわち電力の売買タイミングを制御する技術が知られている。例えば特許文献1には、蓄電池のエネルギー効率及び経済的効率を改善する目的で、蓄電池からの放電タイミングを制御する技術が記載されている。特許文献2には、売電タイミングを需要家Hにとって最適化するため、蓄電量、需要量予測、及び電力供給量予測に基づいて売電タイミングを決定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/166836号
【特許文献2】国際公開第2017/145463号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の技術においては、需要家における蓄熱式機器の動作スケジュールを、正味の電力調達費用を最小化するように制御することができなかった。
【0005】
これに対し本発明は、需要家における蓄熱式機器の動作スケジュールを、正味の電力調達費用を最小化するように制御する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、コンピュータに、再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得するステップと、前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得するステップと、電力市場価格の時間変化を取得するステップと、前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定するステップと、前記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力するステップとを実行させるためのプログラムを提供する。
【0007】
本開示の別の一態様は、再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得するステップと、前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得するステップと、電力市場価格の時間変化を取得するステップと、前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定するステップと、記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力するステップとを有する蓄熱式機器の制御方法を提供する。
【0008】
本開示のさらに別の一態様は、再生可能エネルギー発電設備及び蓄熱式機器を有する需要家における予測発電量の時間変化を取得する第1取得手段と、前記需要家における予測電力需要の時間変化を取得する第2取得手段と、電力市場価格の時間変化を取得する第3取得手段と、前記予測発電量の時間変化、前記予測電力需要の時間変化、及び前記電力市場価格の時間変化に基づいて、対象期間について前記需要家における正味の電力調達費用を最小化するように前記蓄熱式機器の動作スケジュールを決定する決定手段と、前記動作スケジュールに従って前記蓄熱式機器の動作指示を出力する出力手段とを有する情報処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、需要家における蓄熱式機器の動作スケジュールを、正味の電力調達費用を最小化するように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る電力制御システムの概要を示す図。
図2】電力制御システムの機能構成を例示する図。
図3】サーバのハードウェア構成を例示する図。
図4】電力制御システムの動作を例示するフローチャート。
図5】充放電スケジュールを例示する図。
図6】通常沸き上げ及びシフト沸き上げを例示する図。
図7】沸き上げスケジュールを例示する図。
図8】従来技術による正味の電力調達費用を例示する図。
図9】本実施形態による正味の電力調達費用を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.構成
図1は、一実施形態に係る電力制御システム1の概要を示す図である。電力制御システム1は、需要家Hにおける電気機器の動作を制御する。需要家Hとは、電気の供給を受けて使用している者をいい、一例においては一般家庭である。需要家Hは、発電設備PG、スマートメーターSM、蓄電池BT、電気給湯器WH、HEMS(Home Energy Management System)コントローラCTRを有する。この例において、電力制御システム1は、電気給湯器WHの動作を制御するものである。
【0012】
需要家Hにおいて、発電設備PGは、再生可能エネルギーを用いて発電する設備である。再生可能エネルギーとは、非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用できると認められるものをいい、例えば、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、及び大気中の熱その他の自然界に存在する熱をいう。スマートメーターSMは、通信機能を有する電子式電力量計である。すなわちスマートメーターSMは、需要家Hにおける消費電力を計測し、計測により得られた情報をネットワーク上のサーバ(例えばサーバ10)に送信する。蓄電池BTは電力を蓄える装置である(蓄電設備の一例)。電気給湯器WHは、電力を用いて湯を沸かす装置であり、蓄熱式機器の一例である。蓄熱式機器とは、電力の供給を受け(又は通電により)、蓄熱のために電力を使用する機器をいう。蓄熱式機器としては、ヒートポンプ式電気給湯器、電気温水器、蓄熱暖房機、及び蓄熱床暖房が挙げられる。この例において、電気給湯器WHは、高温の湯を貯蔵し、需要家内の設備(浴室等)に供給する。HEMSコントローラCTRは、HEMSにおける制御装置である。HEMSとは、需要家において使用される電力を管理するシステムである。HEMSは、家電などのエネルギーを消費する設備と接続され、電気又はガスの使用量を可視化したり、電気設備を自動制御したりする機能を提供する。
【0013】
電力制御システム1は、サーバ10、ユーザ端末20、サーバ30、サーバ40、サーバ50、及びサーバ60を有する。サーバ10は、他のサーバから取得した情報を用いて需要家Hにおける電力機器の動作、具体的には蓄電池BT及び電気給湯器WHの動作を制御する。ユーザ端末20は、ユーザがサーバ10にアクセスする際に用いられるコンピュータ装置である。サーバ30は、需要家Hの発電設備PGにおける発電量の時間変化を予測する。サーバ40は、需要家Hにおける需要電力の時間変化を予測する。サーバ50は、電力市場価格を提供する。サーバ60は、特殊情報を提供する。
【0014】
図2は、電力制御システム1の機能構成を例示する図である。電力制御システム1は、記憶手段11、取得手段12、取得手段13、取得手段14、取得手段15、決定手段16、出力手段17、制御手段19、発電量予測手段31、需要予測手段41、価格決定手段51、及び特殊情報提供手段61を有する。この例において、記憶手段11、取得手段12、取得手段13、取得手段14、取得手段15、決定手段16、出力手段17、及び制御手段19はサーバ10に、発電量予測手段31はサーバ30に、需要予測手段41はサーバ40に、価格決定手段51はサーバ50に、特殊情報提供手段61はサーバ60に、それぞれ実装される。
【0015】
記憶手段11は、各種のデータ及びプログラムを記憶する。取得手段12は、需要家Hにおける予測発電量の時間変化を取得する。(第1取得手段の一例)。取得手段13は、需要家Hにおける予測電力需要の時間変化を取得する(第2取得手段の一例)。取得手段14は、電力市場価格の時間変化を取得する(第3取得手段の一例)。取得手段15は、需要家Hが属する地域における気象又は災害に関する特殊情報を取得する(第4取得手段の一例)。決定手段16は、予測発電量の時間変化、予測電力需要の時間変化、電力市場価格の時間変化、及び特殊情報に基づいて、蓄電池BTの充電スケジュール及び電気給湯器WHの沸き上げスケジュール(蓄熱式機器の動作スケジュールの一例。なお蓄熱式機器の動作スケジュールとは、蓄熱式機器に通電するスケジュールをいう)を決定する。出力手段17は、決定されたスケジュールに従って電気給湯器WHの動作指示を出力する。制御手段19は各種の制御を行う。
【0016】
発電量予測手段31は需要家Hにおける発電量を予測する。需要予測手段41は需要家Hにおける電力需要を予測する。価格決定手段51は電力市場価格(すなわち売電及び買電の価格)を決定する。特殊情報提供手段61は特殊情報を提供する。
【0017】
図3は、サーバ10のハードウェア構成を例示する図である。サーバ10は、CPU(Central Processing Unit)101、メモリ102、ストレージ103、及び通信IF(Interface)104を有するコンピュータ装置である。CPU101は、プログラムに従って各種の演算を行い、他のハードウェア要素を制御する。メモリ102はCPU101がプログラムを実行する際のワークエリアとして機能する主記憶装置であり、例えばRAM(Random Access Memory)を含む。ストレージ103は、各種のデータ及びプログラムを記憶する補助記憶装置であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)を含む。通信IF104は、所定の通信規格(例えばイーサネット)に従って他のコンピュータと通信する装置である。
【0018】
この例において、ストレージ103が記憶するプログラムには、コンピュータを電力制御システム1におけるサーバ10として機能させるためのプログラム(以下「サーバプログラム」という。)が含まれる。CPU101がサーバプログラムを実行している状態において、メモリ102及びストレージ103の少なくとも一方が記憶手段11の一例であり、通信IF104が取得手段12、取得手段13、取得手段14、取得手段15、及び出力手段17の一例であり、CPU101が決定手段16及び制御手段19の一例である。
【0019】
図示は省略するが、サーバ30、サーバ40、及びサーバ50も、サーバ10と同様のハードウェア構成を有するコンピュータ装置であり、それぞれプログラムによって図2の機能が実装される。ユーザ端末20は、CPU、メモリ、ストレージ、通信IF、入力装置、及び出力装置を有するコンピュータ装置であり、例えばスマートフォン又はパーソナルコンピュータである。
【0020】
2.動作
図4は、電力制御システム1の動作を例示するフローチャートである。以下において、制御手段19等の機能要素を処理の主体として記載することがあるが、これは、サーバプログラム等のソフトウェアを実行しているCPU101等のハードウェア要素が、他のハードウェア要素と協働して処理を行うことを意味する。
【0021】
ステップS1において、制御手段19は、対象需要家を特定する。対象需要家とは、電力制御システム1の管理対象となっている複数の需要家Hのうち以下の処理の対象となる1軒の需要家Hをいう。一例において、制御手段19は、複数の需要家Hの中から所定の順序に従って1軒ずつ対象需要家を特定する。
【0022】
ステップS2において、取得手段12は、対象需要家における予測発電量の時間変化をサーバ30から取得する。サーバ30の発電量予測手段31は、所定のイベントを契機として対象需要家の発電量の時間変化を予測する。所定のイベントは、例えば、サーバ10又はユーザ端末20などの他のコンピュータ装置から発電量の予測の要求を受け付けたというイベントである。あるいは、所定のイベントは、その対象需要家について前回、発電量の予測をしてから所定の時間が経過したというイベントであってもよい。さらにあるいは、所定のイベントは、現在時刻が所定の時刻になったというイベントであってもよい。
【0023】
発電量予測手段31は、気象情報を用いて対象需要家における発電量の時間変化を予測する。ここでいう気象情報は未来における気象に関する情報であり、いわゆる気象予報又は天気予報に相当するものである。気象情報は、気温、気圧、降水確率、風の向き、及び風速の少なくとも一種について、その時間変化を示す情報を含む。サーバ30は、対象需要家が属する地域の気象情報を例えば図示しない他のサーバから取得する。発電量予測手段31は、気象情報が入力されると、予測発電量の時間変化を出力するモデルを有する。このモデルは数理モデルであってもよいし、機械学習モデルであってもよい。
【0024】
発電量予測手段31が予測する発電量の時間変化は、所定の期間(以下「対象期間」という)における時間変化である。対象期間は、後述の電力市場価格の時間変化が提供される期間(例えば翌日の0時から24時までの24時間)と同一の期間である。
【0025】
ステップS3において、取得手段13は、対象需要家における予測電力需要の時間変化をサーバ40から取得する。サーバ40の需要予測手段41は、所定のイベントを契機として対象需要家における電力需要の時間変化を予測する。所定のイベントは、例えば、サーバ10又はユーザ端末20などの他のコンピュータ装置から電力需要の予測の要求を受け付けたというイベントである。あるいは、所定のイベントは、その対象需要家について前回、電力需要の予測をしてから所定の時間が経過したというイベントであってもよい。さらにあるいは、所定のイベントは、現在時刻が所定の時刻になったというイベントであってもよい。
【0026】
需要予測手段41は、気象情報及びカレンダー情報を用いて対象需要家における電力需要の時間変化を予測する。ここでいうカレンダー情報は日付、曜日、及び祝祭日の情報を含む。サーバ40は、対象需要家が属する地域の気象情報及びカレンダー情報を例えば図示しない他のサーバから取得する。需要予測手段41は、気象情報が入力されると、電力需要の時間変化を出力するモデルを有する。このモデルは数理モデルであってもよいし、機械学習モデルであってもよい。需要予測手段41が予測する需要の時間変化は、前述の対象期間における時間変化である。
【0027】
ステップS4において、取得手段14は、電力市場価格の時間変化を取得する。サーバ50の価格決定手段51は、所定のイベントを契機として所定の期間における電力市場価格の時間変化を決定する。所定のイベントは、例えば、現在時刻が所定の時刻(例えば毎日午前0時)になったというイベントである。所定の期間は、翌日の0時から24時までの24時間(すなわち前述の対象期間)である。電力市場価格は、所定の時間分解能(例えば30分毎)で決定される。一例において、ここで決定される電力市場価格はJPEX(Japan Electric Power Exchange、日本卸電力取引所)における取引価格である。
【0028】
ステップS5において、取得手段15は、サーバ60から特殊情報を取得する。特殊情報は、対象需要家が属する地域における気象又は災害に関する情報(気象予報は除く)のうち電力制御システム1又はユーザにより指定された情報であり、例えば、各種警報・注意報である。この警報・注意報は、例えば、特別警報、警報、注意報、及び早期注意情報を含む。取得手段15は、対象需要家が属する地域に対して発表された特殊情報を取得する。
【0029】
なおステップS2~S5の処理は必ずしもこの順番で行われる必要はなく、順序が入れ替えられてもよい。またこれらの情報は、情報源(サーバ30等)からこのタイミングにおいて直接、取得される必要はなく、事前に情報源から取得され記憶手段11に記憶されていたものが読み出されてもよい。
【0030】
ステップS6において、決定手段16は、蓄電池BTの充放電タイミングを決定する。決定手段16は、充放電タイミングを最適化するように決定する。充放電タイミングを最適化するとは、(ア)対象需要家における自家消費を増加させ、(イ)電力調達費用を減少させ、(ウ)余剰電力売電価格を増加させる、この3点の効果を総合的に最大化するように充放電タイミングを決定することをいう。この例において、決定手段16は、線形計画法を用いて充放電タイミングを最適化する。充放電タイミングの決定に線形計画法を適用する際の目的関数は、対象期間における正味の電力調達費用である。正味の電力調達費用とは、電力会社から買った電力の料金から、電力会社に売った電力の代金を差し引いた金額をいう。制約条件としては、例えば、蓄電池BTの蓄電容量又は充電率に上限及び下限があること、が用いられる。これらの制約条件のもと、この例では目的関数を最小化する解が求められる。線形計画法でこの解を求めるアルゴリズムとしては、シンプレックス法、内点法、又はカーマーカー法など周知のものが用いられる。
【0031】
上記の目的関数及び制約条件のもとで最適化を行うと、例えば以下の方針で充放電タイミングが決定される。
(a)発電量が電力需要を上回っていたとしても、電力市場価格が高騰しているときは充電せずに売電する。
(b)晴天が続くときなど発電量の全てを充電に回すことが難しい場合には、電力市場価格が比較的安い時間帯に充電する。
(c)その後の時間帯に余剰電力が発生しそうなときは、余剰電力を充電に充てるためにそれ以前に放電して蓄電池BTの充電率を下げる。
【0032】
蓄電池BTの充放電タイミングを決定する際、対象期間は複数の時間スロットに区分される。一例において、24時間の対象期間が、1個30分の計48個の時間スロットに区分される。決定手段16は、これらの時間スロットのうち充電期間に割り当てる時間スロット及び放電期間に割り当てる時間スロットを決定する。決定手段16は、さらに、充電量又は放電量を決定する。充電量は発電量と電力消費との差から、放電量は電力消費と発電量との差から決定される。決定手段16は、対象需要家について、時間スロットの識別情報、その時間スロットに割り当てられた期間の種類(充電期間、放電期間、売電期間、又はこれらのいずれでもない期間)、及び充電期間又は放電期間については充電量又は放電量を示す識別情報を記憶手段11に書き込む。
【0033】
図5は、決定された充放電スケジュールを例示する図である。図5(a)は予測発電量、予測電力需要、及び電力市場価格を示す。図5(b)は蓄電池BTの充電率を示す。図5(a)(b)のいずれにおいても横軸は時間(又は時間スロット)を示す。図5(a)において縦軸は電力量を示す。図5(b)において縦軸は充電率を示す。この例は、時間帯T1、T2、及びT3を含んでいる。
【0034】
時間帯T1は、発電設備PGによる発電量が対象需要家における電力需要を(しきい値以上)上回っている時間帯である。従来の蓄電池制御技術においては、このような時間帯に蓄電池の充電をすることが多い。しかし、この時間帯においては電力市場価格が高騰しているので余剰電力は蓄電池BTの充電に使うよりも売電に回した方が経済的にはプラスである。そこでこの例では、時間帯T1において余剰電力を売電する(すなわち蓄電池BTに充電しない)スケジュールとなっている。
【0035】
時間帯T2は、発電設備PGによる発電量が対象需要家における電力需要を(しきい値Th2以上)下回っている時間帯である。対象需要家において発電設備PGによる発電だけでは電力需要をまかなえないので電力を調達する必要がある。電力の調達元としては、電力会社から買う(すなわち買電)、又は蓄電池BTから放電する、の少なくとも2種類が考えられる。このとき、電力市場価格が(所定の基準より)高ければ蓄電池BTから放電した方が経済的にはプラスである。しかし、この例ではこの後の時間帯(時間帯T3)において晴天のため多量の余剰電力が発生することが予想されるので、後の時間帯において電力市場価格が安ければ売電するよりも蓄電池BTに充電した方が経済的にはプラスである。しかし、蓄電池BTを充電するにはその時点において充電率に空きがなければならない(満状態では充電できない)。そこで後の時間帯において蓄電池BTに充電できる余地を作るため、その前の時間帯であり電力不足が生じる時間帯である時間帯T2に蓄電池から放電するスケジュールとなっている。
【0036】
時間帯T3は、全体として余剰電力が多く、かつ電力市場価格が安い時間帯を少なくとも一部に含んでいる時間帯である。余剰電力の扱いは、電力会社に売る(すなわち売電)、又は蓄電池BTに充電する、の少なくとも2種類が考えられる。このとき、電力市場価格が(所定の基準より)安ければ蓄電池BTに充電した方が経済的にはプラスである。そこでこの例では、時間帯T3において余剰電力を蓄電池BTに充電する(すなわち売電しない)スケジュールとなっている。
【0037】
再び図4を参照する。ステップS7において、決定手段16は、電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを決定する。決定手段16は、沸き上げスケジュールを最適化するように決定する。またこの例において、決定手段16は、電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを、「通常沸き上げ」とするか「シフト沸き上げ」とするか決定する。「通常沸き上げ」とは、毎日決まったタイミング(例えば電気料金が夜間料金となる時刻)に沸き上げを開始し、電気給湯器WHの貯湯庫が所定量(例えば満量)になるまで沸き上げを継続する制御をいう。通常沸き上げは、夜間において沸き上げを行う第1方式の一例である。「シフト沸き上げ」とは、毎日決まったタイミングでの沸き上げと、予測される余剰電力に応じて決められるタイミングでの沸き上げとを併用する制御をいう。シフト沸き上げは、夜間における沸き上げと日中の沸き上げとを併用する第2方式の一例である。
【0038】
図6は、通常沸き上げ及びシフト沸き上げを例示する図である。図の横軸は時刻を、縦軸は貯湯量(又は貯湯率)を示す。この図において破線は通常沸き上げを、実戦はシフト沸き上げを、それぞれ示す。この例において、通常沸き上げは22:00に開始し、貯湯量が所定量(例えば満量すなわち貯湯率100%)に達すると終了する。シフト沸き上げは22:00に開始し、貯湯量が所定量(例えば半量すなわち貯湯率50%)に達すると一旦終了する。シフト沸き上げは、その後の追加沸き上げを含む。追加沸き上げの開始時刻及び終了時刻は、沸き上げスケジュールを最適化する処理において決定される。この例において、追加沸き上げは、翌日の13:00に再度開始し、貯湯量が所定量に達すると終了する。追加沸き上げを終了する基準となる貯湯量は、例えば、通常沸き上げを行ったと仮定した場合の、その時刻における予想貯湯量である。あるいは、この基準となる貯湯量は、あらかじめ決められた値(例えば半量すなわち貯湯率50%)であってもよい。
【0039】
沸き上げスケジュールを最適化するとは、対象期間における正味の電力調達費用を最小化することをいう。この例において、決定手段16は、線形計画法を用いて沸き上げスケジュールを最適化する。沸き上げスケジュールの決定に線形計画法を適用する際の目的関数は、対象期間における正味の電力調達費用である。制約条件としては、例えば、電気給湯器WHの貯油量又は貯油率に上限及び下限があること、が用いられる。これらの制約条件のもと、この例では目的関数を最小化する解が求められる。線形計画法でこの解を求めるアルゴリズムとしては、周知のものが用いられる。
【0040】
上記の目的関数及び制約条件のもとで最適化を行うと、例えば以下の方針で充放電タイミングが決定される。
(d)通常沸き上げでは夜間に沸き上げを行うが、晴天等の事情により翌日の日中に多量の余剰電力が生じ、かつ電力市場価格が安い場合には、夜間の沸き上げ量を(通常沸き上げよりも)減らし、翌日の日中に発電設備PGにより生成される電力を用いて行う方が経済的である場合があるので、そういう場合には日中に追加沸き上げを行う。
【0041】
なお、ステップS5において取得された特殊情報が所定の条件を満たした場合、決定手段16は、上記で説明した処理によらず、電気給湯器WHの貯湯量をより多く確保するための処理を行うこと、具体的には、電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを通常沸き上げとすることを決定する。これは、災害などの非常事態が想定される場合には早めに貯湯量を確保しておきたいという要請に対応するものである。なお特殊情報に関する「所定の条件」とは、例えば、ステップS5において取得された特殊情報が、与えられた特殊情報の選択肢(各種警報及び注意報など)の中からユーザ端末20を介してユーザ(具体的には需要家Hの代表者又は管理者)により指定された少なくとも一部の情報に含まれる、という条件である。あるいは、この条件は、ステップS5において取得された特殊情報が、与えられた特殊情報の選択肢の中からサーバ10の制御手段19により自動的に選択されたものに含まれる、という条件であってもよい。
【0042】
再び図4を参照する。ステップS8において、出力手段17は、決定されたスケジュールに従った動作指示を、対象需要家のHEMSコントローラCTRに出力する。この動作指示は、蓄電池BTの充放電スケジュール及び電気給湯器WHの沸き上げスケジュールに従った指示の少なくとも一方を含む。対象需要家においては、HEMSコントローラCTRが、この動作指示に従って蓄電池BTの充放電及び電気給湯器WHの沸き上げを制御する。
【0043】
図7は、決定された沸き上げスケジュールを例示する図である。この例は、シフト沸き上げが時間帯T4及びT5を含んでいる。時間帯T4は、通常沸き上げが行われる例を示す。時間帯T4は夜間の時間帯であるが、ここでは通常沸き上げよりも短い4時間(時間スロット8個分)で沸き上げが停止される。その翌日に9:30から4時間、追加沸き上げが行われる。
【0044】
図8は、従来技術による正味の電力調達費用を例示する図である。ここでいう従来技術とは、電力市場価格を考慮せずに蓄電池BTの充放電スケジュール及び電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを決定する技術をいう。図8の例では、0:00-7:00までの夜間の時間帯に電気給湯器WHの沸き上げが行われ、8:00-10:00までの時間帯に蓄電池BTの充電が行われる。
【0045】
図9は、本実施形態による正味の電力調達費用を例示する図である。正味の電力調達費用は低い方が経済的である。図8図9とでは、同じ需要家H、同じ気象条件、及び電力市場価格を仮定している。図9の例では、0:00-2:00までの夜間の時間帯及び10:00-14:00までの日中の時間帯の2回に分けて電気給湯器WHの沸き上げが行われ、蓄電池BTの充電はより電力市場価格が安い10:00-13:00の時間帯に行われる。この図から明らかなように、本実施形態の方が正味の電力調達費用(図8及び図9の右下欄)が低く、より経済的な運用ができていることが分かる。
【0046】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例に記載した事項のうち2つ以上のものが組み合わせて適用されてもよい。
【0047】
電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを決定する具体的手法は実施形態において例示したものに限定されない。線形計画法以外の手法を用いてこの最適化問題が解かれてもよい。
【0048】
電気給湯器WHの沸き上げスケジュールは、通常沸き上げ及びシフト沸き上げの2種類に限定されない。3種類以上の沸き上げスケジュールがあらかじめ定義されており、決定手段16は、これらの沸き上げスケジュールの中から最適なものを決定してもよい。
【0049】
実施形態ではシフト沸き上げにおいて追加沸き上げの開始時刻及び終了時刻を決定手段16が決定する例を説明した。しかし、追加沸き上げの開始時刻及び終了時刻があらかじめ複数組定義されており、決定手段16はこれらの組の中から最適なものを決定してもよい。
【0050】
実施形態において、決定手段16が、予測発電量、予測電力需要、電力市場価格、及び特殊情報に基づいて電気給湯器WHの沸き上げスケジュールを決定する例を説明した。しかし、決定手段16は、特殊情報によらずに電気給湯器WHの沸き上げスケジュール決定してもよい。この場合、サーバ60及び取得手段15は省略されてもよい。
【0051】
シフト沸き上げを行う際の、1度目の沸き上げ(すなわち夜間の沸き上げ)を停止する貯湯量又は貯湯率の基準値、及び2度目の沸き上げ(すなわち追加沸き上げ)を停止する貯湯量又は貯湯率の基準値は、それぞれ、実施形態において例示したものに限定されない。決定手段16は、これらの基準値を、例えば、個々の需要家Hにおける過去の電気給湯器WHの使用履歴を考慮して決定してもよい。すなわち、決定手段16は、湯の使用量が相対的に少ない需要家Hにおいては相対的に少ない基準値を採用し、湯の使用量が相対的に多い需要家Hにおいては相対的に多い基準値を採用することを決定してもよい。あるいは、これらの基準値は、特定の地域又は属性によって分類された需要家群における過去の電気給湯器WHの使用履歴を考慮して決定されてもよい。
【0052】
決定手段16が蓄電池BTの充放電スケジュールを決定する手法は実施形態において例示したものに限定されない。例えば、決定手段16は、電力市場価格によらずに蓄電池BTの充放電スケジュールを決定してもよい。
【0053】
実施形態において説明した処理の一部は省略されてもよい。例えば、電気自動車EVの充電期間の特定及び充電の募集は行われなくてもよい。あるいは、給電の対価又は報償は給電の環境条件により変動するものではなく、一律の固定されたものであってもよい。
【0054】
電力制御システム1のハードウェア構成は実施形態において例示したものに限定されない。要求される機能を実現できるものであれば、電力制御システム1はどのようなハードウェア構成を有していてもよい。例えば、物理的に複数の装置が協働してサーバ10として機能してもよい。サーバ10は物理サーバでもよいし、仮想サーバ(いわゆるクラウドを含む)であってもよい。
【0055】
蓄熱式機器は実施形態において例示したものに限定されない。電気エネルギーを用いて氷を生成し、又は床や壁などの構造物を冷却し、蓄冷する装置であってもよい。
【0056】
機能要素とハードウェアとの対応関係は実施形態において例示したものに限定されない。例えば、実施形態においてサーバ10に実装されるものとして説明した機能の少なくとも一部がユーザ端末20に実装されてもよい。さらに、図2において例示した機能要素の一部が省略されてもよい。
【0057】
CPU101等によって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードにより提供されるものであってもよいし、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体に記録された状態で提供されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…電力制御システム、10…サーバ、11…記憶手段、12…取得手段、13…取得手段、14…取得手段、15…取得手段、16…決定手段、17…出力手段、20…ユーザ端末、19…制御手段、30…サーバ、31…発電量予測手段、40…サーバ、41…需要予測手段、50…サーバ、51…価格決定手段、60…サーバ、61…特殊情報提供手段、101…CPU、102…メモリ、103…ストレージ、104…通信IF
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9