(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102138
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】塗布膜形成方法、塗布膜形成装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20230714BHJP
B05C 11/08 20060101ALI20230714BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230714BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20230714BHJP
B05D 1/40 20060101ALI20230714BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20230714BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20230714BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H01L21/30 564D
H01L21/30 564C
B05C11/08
B05C11/10
B05C9/14
B05D1/40 A
B05D3/02 D
B05D3/04 Z
B05D3/00 D
B05D3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002530
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐作
(72)【発明者】
【氏名】八木 綱大
(72)【発明者】
【氏名】松竹 勇貴
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
5F146
【Fターム(参考)】
4D075AC64
4D075AC79
4D075AC88
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4F042EB30
5F146JA07
5F146JA09
5F146JA10
5F146JA13
5F146JA15
5F146JA21
5F146JA24
(57)【要約】
【課題】基板の面内における塗布膜の膜厚の制御性を高くする。
【解決手段】基板の表面の中心部に塗布液を供給し、前記塗布液を当該基板の周縁部へ広げて塗布膜を形成するために、前記基板を回転させる塗布工程と、前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給工程と、第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整工程と、前記膜厚分布調整工程の後、当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚を調整して乾燥させる乾燥工程と、を実施し、前記乾燥工程を行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含むようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の中心部に塗布液を供給し、前記塗布液を当該基板の周縁部へ広げて塗布膜を形成するために、前記基板を回転させる塗布工程と、
前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給工程と、
第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整工程と、
前記膜厚分布調整工程の後、当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚を調整して乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程を行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含む塗布膜形成方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の後に、回転する前記基板の裏面の露出した領域に洗浄液を供給する裏面洗浄工程を備える請求項1記載の塗布膜形成方法。
【請求項3】
前記高温ガス供給工程は、前記高温ガスをガスノズルに設けられる第1吐出口から吐出する工程を含み、
前記洗浄工程は、前記洗浄液を洗浄ノズルに設けられる第2吐出口から吐出する工程を含み、
前記第1吐出口の前記高温ガスの吐出方向に向けた前記基板の裏面への第1投影領域は、
前記第2吐出口の当該洗浄液の吐出方向に向けた前記基板の裏面への第2投影領域に対して、前記基板の回転方向の下流側に位置する請求項2記載の塗布膜形成方法。
【請求項4】
前記高温ガス供給工程は、前記高温ガスをガスノズルから前記基板の裏面の露出した領域に吐出する工程を含み、
前記高温ガスの吐出方向は、前記基板の回転方向に倣う請求項1ないし3のいずれか一つに記載の塗布膜形成方法。
【請求項5】
前記基板への前記高温ガスの供給は、前記基板への塗布液の供給前に開始される請求項1ないし4のいずれか一つに記載の塗布膜形成方法。
【請求項6】
前記加熱工程は、前記高温ガスをガスノズルから前記基板の裏面の露出した領域に吐出する工程を含み、
前記塗布工程、前記高温ガス供給工程、前記膜厚分布工程及び前記乾燥工程は、ステージに載置された前記基板に対して行われる工程であり、複数の前記基板を当該ステージに順次搬送する工程と、
前記ステージに続いて搬送される一の基板と次の基板との搬送間隔に応じたタイミングで、前記次の基板を処理するための前記ガスノズルからの前記高温ガスの吐出を開始する工程と、
を含む請求項1ないし5のいずれか一つに記載の塗布膜形成方法。
【請求項7】
前記高温ガス供給工程は、前記高温ガスをガスノズルから前記基板の裏面の露出した領域に吐出する工程を含み、
下流端が前記ガスノズルに接続されるガス供給路と、当該ガス供給路から分岐する分岐路と、前記高温ガスの供給先を前記ガスノズルと前記分岐路との間で切り替える切替え部と、が設けられ、
前記高温ガス供給工程は、前記切替え部によって前記分岐路に前記高温ガスが供給される状態から前記ガスノズルへ前記高温ガスが供給される状態へ切り替える工程を含む請求項1ないし6のいずれか一つに記載の塗布膜形成方法。
【請求項8】
前記塗布工程、前記高温ガス供給工程、前記膜厚分布調整工程及び前記乾燥工程は、ステージに載置されると共にカップに囲まれた前記基板に対して行われる工程であり、
前記切替え部は、前記カップよりも下方の高さに設けられる請求項7記載の塗布膜形成方法。
【請求項9】
前記塗布工程、前記高温ガス供給工程、前記乾燥工程は、ステージに載置されると共にカップに囲まれた前記基板に対して行われる工程であり、
前記ガス供給路は、前記切替え部が設けられる位置の上流側において左右方向に伸びると共に前記カップに対して前後の一方に並んで設けられる部位を備え、
前記分岐路に供給された前記高温ガスを、当該分岐路の下流端に接続されるカップ温度調整ノズルから、前記部位と前記カップとの間における左右の一方へ、当該カップの温度調整用ガスとして吐出する工程を含む請求項7または8記載の塗布膜形成方法。
【請求項10】
基板を回転させる回転機構と、
塗布膜を形成するために前記基板の表面の中心部に塗布液を供給する塗布液供給部と、
回転する前記基板の裏面の一部に前記基板よりも温度が高い高温ガスを供給するガスノズルと、
前記塗布膜を形成するために、前記基板への前記塗布液の供給と、前記基板の回転による当該塗布膜の乾燥と、を実施し、前記実施の期間の途中において前記高温ガスの供給を停止するように制御信号を出力する制御部と、を備える塗布膜形成装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記塗布液の供給を行い前記基板を回転させて前記塗布液を前記基板表面の周縁部に向けて広げる塗布ステップと、前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給ステップと、第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整ステップと、前記膜厚分布調整ステップの後、前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚が変化するように当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて乾燥させる乾燥ステップと、を実施し、前記乾燥ステップを行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含むように制御信号を出力する制御部と、
を備える請求項10記載の塗布膜形成装置。
【請求項12】
前記塗布膜の乾燥を実施した後に、回転する前記基板の裏面の露出した領域へ洗浄液を供給する洗浄ノズルを備える請求項10または11記載の塗布膜形成装置。
【請求項13】
前記ガスノズルは第1吐出口を備え、
前記洗浄ノズルは第2吐出口を備え、
前記第1吐出口の前記高温ガスの吐出方向に向けた前記基板の裏面への第1投影領域は、
前記第2吐出口の当該洗浄液の吐出方向に向けた前記基板の裏面への第2投影領域に対して、前記基板の回転方向の下流側に位置する請求項12記載の塗布膜形成装置。
【請求項14】
前記ガスノズルからの前記高温ガスの吐出方向は、前記基板の回転方向に倣う請求項10ないし13のいずれか一つに記載の塗布膜形成装置。
【請求項15】
前記基板への前記高温ガスの供給は、前記基板への塗布液の供給前に開始される請求項10ないし14のいずれか一つに記載の塗布膜形成装置。
【請求項16】
前記塗布液の供給を行い前記基板を回転させて前記塗布液を前記基板表面の周縁部に向けて広げる塗布ステップと、前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給ステップと、第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整ステップと、前記膜厚分布調整ステップの後、前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚が変化するように当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて乾燥させる乾燥ステップと、を実施し、前記乾燥ステップを行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含むように制御信号を出力する制御部が設けられ、
前記塗布ステップ、前記高温ガス供給ステップ、前記膜厚分布ステップ及び前記乾燥ステップは、ステージに載置された前記基板に対して行われ、
前記ステージには複数の前記基板が順次搬送され、
前記制御部は、
前記ステージに続いて搬送される一の基板と次の基板との搬送間隔に応じたタイミングで、前記次の基板を処理するための前記ガスノズルからの前記高温ガスの吐出を開始するステップが実施されるように制御信号を出力する請求項11ないし15のいずれか一つに記載の塗布膜形成装置。
【請求項17】
下流端が前記ガスノズルに接続されるガス供給路と、
当該ガス供給路から分岐する分岐路と、
前記高温ガスの供給先を前記ガスノズルと前記分岐路との間で切り替える切替え部と、が設けられ、
前記基板への高温ガスの供給は、前記切替え部によって前記分岐路に前記高温ガスが供給される状態から前記ガスノズルへ前記高温ガスが供給される状態へ切り替えられることで行われる請求項10ないし16のいずれか一つに記載の塗布膜形成装置。
【請求項18】
前記基板を回転させるために載置するステージと、
前記ステージに載置された前記基板を囲むカップと、を備え、
前記切替え部は、前記カップよりも下方の高さに設けられる請求項17記載の塗布膜形成装置。
【請求項19】
前記基板を回転させるために載置するステージと、
前記ステージに載置された前記基板を囲むカップと、
前記ガス供給路における前記切替え部が設けられる位置の上流側で、左右方向に伸びると共に前記カップに対して前後の一方に並んで設けられる部位と、
前記分岐路の下流端に接続され、前記分岐路に供給された前記高温ガスを前記部位と前記カップとの間における左右の一方へ、当該カップの温度調整用のガスとして吐出するカップ温度調整ノズルと、
を備える請求項17または18記載の塗布膜形成装置。
【請求項20】
基板を回転させる回転機構と、前記基板の表面の中心部に塗布液を供給する塗布液供給部と、前記基板の裏面に高温ガスを供給するガスノズルと、を備える液処理装置に用いられるプログラムにおいて、
基板の表面の中心部に塗布液を供給し、前記塗布液を当該基板の周縁部へ広げて塗布膜を形成するために、前記基板を回転させる塗布ステップと、
前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給ステップと、
第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整ステップと、
前記膜厚分布調整工程の後、前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚が変化するように当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて乾燥させる乾燥ステップと、を実行するように構成され、前記乾燥ステップを行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布膜形成方法、塗布膜形成装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に対して例えばレジストなどの各種の塗布液が供給されて、塗布膜が形成される。
特許文献1には、基板の裏面の中心部に重なって固定する回転テーブルと、固定された基板の下方に設けられるノズルと、を備えたレジスト塗布装置について記載されており、回転テーブルに重なっていない基板の周縁部全体にノズルから加熱された高圧ガスが吹き付けられるように示されている。そして、その基板の表面に供給されるレジストについて、上記の高圧ガスの作用によって当該基板の裏面の周縁部への付着が防止されるものとして記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板に塗布液を供給して塗布膜を形成するにあたり、基板の面内における塗布膜の膜厚の制御性を高くする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の塗布膜形成方法は、基板の表面の中心部に塗布液を供給し、前記塗布液を当該基板の周縁部へ広げて塗布膜を形成するために、前記基板を回転させる塗布工程と、
前記塗布液が供給された前記基板よりも温度が高い高温ガスを、回転する当該基板の裏面の露出した領域の一部に供給する高温ガス供給工程と、
第1の回転数で前記基板を回転させて前記基板の面内における前記塗布膜の膜厚分布を調整する膜厚分布調整工程と、
前記膜厚分布調整工程の後、当該基板を前記第1の回転数とは異なる第2の回転数で回転させて前記基板の面内全体における当該塗布膜の膜厚を調整して乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程を行う期間は、前記基板への前記高温ガスの供給を停止する期間を含む塗布膜形成方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、基板に塗布液を供給して塗布膜を形成するにあたり、基板の面内における塗布膜の膜厚の制御性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】前記塗布膜形成装置の効果を説明するためのグラフ図である。
【
図3】前記塗布膜形成装置に含まれる処理部の縦断側面図である。
【
図4】前記処理部に含まれるガスノズル及び洗浄ノズルからの高温ガス及び洗浄液の吐出状態を示す平面図である。
【
図5】前記ガスノズル及び洗浄ノズルの側面図である。
【
図6A】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図6B】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図6C】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図6D】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図7A】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図7B】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図7C】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図7D】前記塗布膜形成装置における処理を示す工程図である。
【
図8】前記ガスノズルからの高温ガスの吐出状態と、装置で処理されるウエハの回転数の変化とを示すチャート図である。
【
図9】前記ガスノズルからの前記高温ガスの吐出期間とウエハの搬送間隔とを示すチャート図である。
【
図10】前記ガスノズルからの前記高温ガスの吐出期間とウエハの搬送間隔とを示すチャート図である。
【
図11】前記塗布膜形成装置の変形例を示す平面図である。
【
図12】前記塗布膜形成装置の他の変形例を示す平面図である。
【
図13】前記塗布膜形成装置のさらに他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の塗布膜形成装置の一実施形態である塗布膜形成装置1について説明する。
図1の平面図を参照して塗布膜形成装置1の概略について述べる。塗布膜形成装置1は、塗布液としてレジストを例えば直径が300mmの円形基板であるウエハWの表面の中心部に供給し、ウエハWを回転させることで遠心力によって当該レジストをウエハWの周端部へと広げることでレジスト膜Rを形成する。つまり、塗布膜であるレジスト膜Rをスピンコートによって形成する。本例で用いられるレジストの粘度は比較的高く、例えば常温で10cP以上である。なお、塗布膜形成装置1については、レジストの供給前にシンナーをレジストと同様にスピンコートする前処理(プリウエット)が行われるように構成されている。このプリウエットは、ウエハW表面におけるレジストの濡れ性を向上させる処理である。
【0009】
そして塗布膜形成装置1は、回転するウエハWの裏面の周縁部における径方向の局所領域に、ノズルから当該ウエハWの温度よりも高い高温ガスを吐出できるように構成されている。この高温ガスの役割について説明するために、仮に当該高温ガスのウエハWへの供給が行われない装置構成であるものとして述べる。半導体デバイスの製造工程において、1枚あたりのウエハWの処理に使用するレジストの量の低減が望まれている。しかしウエハWに供給するレジストの量が少ない場合、上記のシンナーをウエハWの中心部に供給してスピンコートを行い、続いて上記したレジストのスピンコートを行うとすると、ウエハWの面内におけるレジスト膜Rの膜厚の均一性を十分に高くできない場合が有る。
【0010】
図2のグラフを参照してさらに具体的に説明する。なお、当該グラフの横軸はウエハWの直径における各位置をウエハWの中心からの距離(単位:mm)として表しており、ウエハWの一端側の位置、ウエハWの他端側の位置について、夫々+の符号を付した距離、-の符号を付した距離として示している。そしてグラフの縦軸はレジスト膜Rの膜厚(単位:nm)を表しており、anmからbnm上昇する毎に目盛りを付して示している。a、bは所定の正数値である。高温ガスの供給を行わずにレジスト膜Rを形成すると、グラフ中に鎖線で示すような膜厚分布となるおそれが有る。具体的に述べると、ウエハWの周縁部における当該ウエハWの周に沿った環状領域についての膜厚が、他の領域の膜厚に比べて小さくなる膜厚分布となる場合が有る。その環状領域について、以降は環状低膜厚領域と記載する場合が有る。後に評価試験として示すが、プリウエットの際のシンナーの供給位置を調整することで、環状低膜厚領域の形成を防ぎ、ウエハWの面内における膜厚のばらつきを緩和することができる。しかし、その場合はレジスト膜RによるウエハW表面の被覆性が低下してしまう。
【0011】
そこで塗布膜形成装置1では、十分なレジスト膜Rの被覆性を担保しつつ、環状低膜厚領域の形成が防止されるように、上記した高温ガスを回転するウエハWの裏面に吐出する構成とされている。この高温ガスは、高温ガスの吐出を行わないとした場合に形成される環状低膜厚領域の裏面側に吐出され、当該高温ガスが吐出される環状領域の温度を上昇させる。
【0012】
その加熱によって上記の環状領域におけるレジストの乾燥が促進されてレジスト中の固形成分が溜り、当該環状領域の膜厚を他の領域の膜厚と同等にすることで、ウエハWの面内におけるレジスト膜の膜厚の均一性を高め、
図2中に実線で表されるような膜厚分布となるようにする。ただし、ウエハWの処理中に高温ガスの供給を続けると、この環状領域における膜厚が大きくなりすぎることで、ウエハWの面内の膜厚分布の均一性が低下するおそれが有る。それを防止するため、高温ガスの供給はウエハWの処理の途中で停止させる。
【0013】
図1に戻って、塗布膜形成装置1の構成について詳しく説明する。塗布膜形成装置1は2つの処理部2と、主処理機構4と、2つのEBR(Edge Bead Removal)機構5と、を備えている。2つの処理部2は互いに同様に構成されており、ウエハWを処理するために格納する円形のカップ21を各々含む。主処理機構4は、上記のシンナー、レジストを各々吐出するノズルと、各ノズルの移動機構とを含み、2つの処理部2に共用される。EBR機構5は処理部2毎に設けられ、ウエハWの周縁部にシンナーを供給して不要なレジスト膜Rを除去するEBRを各々行うための機構である。2つのEBR機構5は、互いに同様に構成されている。
【0014】
上記のようにカップ21は2つ設けられ、同じ高さに位置する。これらのカップ21が並ぶ方向を左右方向として説明する。各カップ21に対して、ウエハWは後方から搬送機構によって搬送される。左右の処理部2を互いに区別するために、前方から後方に向って見て、右側の処理部2を2A、左側の処理部2を2Bとして表記する場合が有る。また、処理部2Aのカップ21、処理部2Bのカップ21について、夫々21A、21Bとして夫々表記する場合が有る。
【0015】
以降、処理部2について
図3の縦断側面図も参照して説明する。処理部2は、上記したカップ21の他に、スピンチャック22、回転機構24、ガスノズル31及び洗浄ノズル34を備えている。スピンチャック22はウエハWを載置する円形のステージをなしており、ウエハWの裏面の中心部に重なると共に当該中心部を吸着することで当該ウエハWを水平に保持する。スピンチャック22は鉛直方向に伸びる回転軸23を介して回転機構24に接続されている。モーターを含む回転機構24によってスピンチャック22が鉛直軸回りに回転し、それに伴ってスピンチャック22に吸着されたウエハWも回転する。なお、スピンチャック22及びカップ21の各中心軸は互いに揃っており、ウエハWの中心はこの中心軸に重なるようにスピンチャック22に保持され、この中心軸回りに回転する。ウエハWの回転方向は、平面視時計回りである。
【0016】
カップ21はベース25と本体部26とにより構成されている。本体部26はウエハWのステージであるスピンチャック22、及び当該スピンチャック22に保持されるウエハWを囲むカップ21の側壁をなす。そのカップ21の側壁の下端は、カップ21の中心側へ延出され、さらに上方へと延出されることでスピンチャック22の回転方向に沿って形成された環状凹部27を形成する。環状凹部27には排液口と、カップ21内を排気するための排気管とが設けられるが、図示は省略している。環状凹部27の内周側の上端はカップ21の中心側へ延出されてフランジをなす。
【0017】
ベース25は水平な円板形状に構成されており、カップ21の底部を形成する。ベース25の周縁は、上方に向けて突出すると共に上記の本体部26のフランジの周に沿って形成される接続部をなし、当該接続部と当該フランジとが互いに接続されている。スピンチャック22はベース25の上方に、回転機構24はベース25の下方に夫々配置され、回転軸23はベース25を貫通している。なお
図3中、28は回転機構24上にベース25を支持する支持部材である。
【0018】
また、ベース25を貫通するように縦長のブロック状に構成されたガスノズル31が設けられており、ベース25よりも上方に位置するガスノズル31の上端部にはガス吐出口32が形成されている。第1吐出口であるガス吐出口32は、既述した高温ガスを回転するウエハWの裏面の局所位置に吐出する。より具体的には、ウエハWの裏面において周縁部はスピンチャック22に被覆されずに、露出している。この露出した周縁部におけるウエハWの径方向に沿った一部の領域に向けて、高温ガスが吐出される。この高温ガスは、後述のようにウエハWに吐出された際に当該ウエハWを加熱することができるように、この高温ガスはガス吐出口32において例えば50℃程度である。なお、ガスノズル31の下端は回転機構24の上方に位置する。また、平面視でガスノズル31は、スピンチャック22に対して前方側に配置されている。
【0019】
また、ガスノズル31に対してベース25の周方向にずれた位置に洗浄ノズル34が設けられている。洗浄ノズル34についてもガスノズル31と同様に縦長のブロック状に構成されている。そして、ベース25よりも上方に位置する洗浄ノズル34の上端部には第2吐出口である洗浄液吐出口35が形成されている。洗浄ノズル34は、図示しない流路を介して洗浄液供給源から供給された洗浄液を回転するウエハWの裏面の局所位置に吐出し、ウエハWの裏面を洗浄する。つまり、洗浄液についてもスピンチャック22に被覆されずに露出した領域に吐出される。そのように洗浄ノズル34から吐出される洗浄液の温度は、ガスノズル31から吐出される高温ガスの温度よりも低く、常温(具体的には例えば20℃~30℃)である。この洗浄液は、例えばシンナーである。ガスノズル31及び洗浄ノズル34については、後にさらに詳しく説明する。
【0020】
また
図3では表示を省略しているが、
図1に示すようにカップ21内には鉛直方向に伸びるピン36が3つ設けられており、ベース25を各々貫通している。ピン36は昇降機構によって昇降し、搬送機構とスピンチャック22との間でウエハWを受け渡す。これらの昇降機構及び搬送機構の図示は省略している。
【0021】
次に主処理機構4について説明する。主処理機構4は、先端側が後方へ向うアーム41と、アーム41の先端側に各々設けられたレジスト吐出ノズル42及びプリウエット用のシンナー吐出ノズル43と、移動機構44と、を備えている。移動機構44はカップ21の前方側に位置し、アーム41の基端側が当該移動機構44に接続されている。移動機構44はアーム41を伴って左右に移動可能であり、且つ当該アーム41を昇降させることができる。当該移動機構44により、レジスト吐出ノズル42及びシンナー吐出ノズル43の夫々が、カップ21の外側の待機領域(不図示)とウエハWの中心部上の吐出位置との間で移動可能である。レジスト吐出ノズル42、シンナー吐出ノズル43は、その吐出位置にて、図示しないレジスト供給源、シンナー供給源から夫々供給されたレジスト、シンナーをウエハWの中心部に吐出する。なおレジスト吐出ノズル42は、塗布液供給部を構成する。
【0022】
続いてEBR機構5について説明する。EBR機構5は、先端側が後方へ向うアーム51と、アーム51の先端側に設けられたEBR用のシンナー吐出ノズル52と、移動機構53と、を備えている。移動機構53は2つのカップ21のうち、当該移動機構53を含むEBR機構5によって処理を行うカップ21の前方側付近に位置し、アーム51の基端側が当該移動機構53に接続されている。移動機構53は例えばアーム51を伴って左右に移動可能であると共に、当該アーム51を昇降させることができる。そのような移動機構53により、シンナー吐出ノズル52は、カップ21の外側の待機領域(不図示)と、カップ21内における吐出位置との間で移動可能である。シンナー吐出ノズル52は、その吐出位置で図示しないシンナー供給源から供給されたシンナーを下方のウエハWの周縁部に向けて吐出する。
【0023】
ところで例えばカップ21Aの後方に、ヒーターを備えた加熱機構61が設けられている。カップ21A内でのウエハWの処理への影響を与えないように、加熱機構61は当該カップ21Aから離れて位置する。空気供給源62から図示しないフィルタを介して清浄化された空気が加熱機構61に供給され、当該加熱機構61にて加熱される。そしてこの空気が、上記した高温ガスとして配管がなす流路を介して処理部2A、2Bの各ガスノズル31に供給される。この配管の平面視でのレイアウトの一例について、以下に説明する。
【0024】
加熱機構61から配管63の下流側が後方へ向って伸び、カップ21Aの右側を通過して、カップ21Aよりも前方側の位置にて屈曲され、当該カップ21Aの後方側を左方へ向かって伸びる。この左方へ伸びる配管63は例えばカップ21A、21B間で2つに分岐し、左方に向けて伸びる配管64A、64Bを形成する。配管64Aの下流側は、右側に向うようにカップ21A、21B間にて折返されてカップ21Aに重なる領域に進入した後、前方に向うように屈曲されている。その前方へ向うように屈曲された部位は、回転軸23や支持部27との干渉を避けるためにこれらの部材を迂回するように、ベース25と回転機構24との間を伸び(
図3参照)、ベース25の下方においてガスノズル31の下端部に接続されている。配管64Bの下流側は、カップ21Bに重なる領域に進入した後、前方に向うように屈曲される。そして、その前方へ向うように屈曲された部位は、配管64Aの同部位と同じく、回転軸23や支持部27を迂回するように、ベース25と回転機構24との間を伸びて、ガスノズル31の下端部に接続されている。
【0025】
配管64A、64Bにはバルブ65A、65Bが夫々、カップ21A、21B付近に介設されている。バルブ65A、65Bは、カップ21A、21Bよりも下方の高さで、平面視でカップ21A及び21Bの外側に配置されている。そして配管64Aにおけるバルブ65Aの上流側には、配管66Aの上流端が接続されており、この配管66Aの接続位置は、バルブ65Aの近傍であって例えば平面視でカップ21Aの外側である。その配管66Aの下流側は、カップ21Aの後方側を右方へ向うように伸びた後、前方へ向うように屈曲され、カップ21Aの右側方を通過するように伸びる。また配管64Bにおけるバルブ65Bの上流側には、配管66Bの上流端が接続されており、この配管64Bの接続位置は、バルブ65Bの近傍であって例えば平面視でカップ21Bの外側である。その配管66Bの下流側は、カップ21Bの後方側を右方へ向うように伸びた後、前方に向うように屈曲され、カップ21Aの右側方を通過するように伸びる。
【0026】
配管66A、66Bの下流端は夫々バルブ67A、67Bを介して、カップ21A、21Bの排気管の下流側が接続される排気路に接続されている。従って、本実施形態では配管66A、66Bは高温ガスを排気するための排気管である。なお、上記したように配管64A、64Bにおける回転機構12とベース25との間を引き回される部位を除き、既述の各配管63、64A、64B、66A、66Bは、カップ21A、21Bよりも下方の領域を引き回されている。
【0027】
塗布膜形成装置1の稼働中、空気供給源62から加熱機構61を介した配管63への高温ガスの供給は常時行われる。そして、カップ21Aのガスノズル31に接続される配管64Aのバルブ65A、排気路に接続される配管66Aのバルブ67Aについては、いずれか一方が開かれた状態で、他方が閉じられた状態となる。同様に、カップ21Bのガスノズル31に接続される配管64Bのバルブ65B、排気路に接続される配管66Bのバルブ67Bについては、いずれか一方が開かれた状態で、他方が閉じられた状態となる。従って、カップ21Aのガスノズル31から高温ガスが吐出される期間以外の期間において、高温ガスは配管66Aに供給されて、排気路に排出される。そして、カップ21Bのガスノズル31から高温ガスが吐出される期間以外の期間において、高温ガスは配管66Bに供給されて、排気路に排出される。
【0028】
それ故に、加熱機構61からバルブ65A、65Bに至るまでの流路が、ガスノズル31から高温ガスの吐出を行わない期間においても高温ガスによって加熱される。バルブ65A、65Bは上記したようにカップ21A、21Bの近傍、即ちガスノズル31に比較的近い位置に設けられるので、加熱機構61からガスノズル31に至るまでの流路のうちの比較的広い範囲が加熱されることになる。従って、ガスノズル31から吐出される高温ガスについて、吐出開始直後の温度とそれ以外の期間の温度との差が抑えられ、所望の温度の高温ガスを速やかにウエハWに供給することができるので、装置のスループットの向上を図ることができる。また、複数のウエハWを順次処理するためにガスノズル31からの高温ガスの吐出、吐出停止を繰り返すにあたり、吐出開始直後の高温ガスの温度のばらつきを抑えることができるので、ウエハW間での処理のばらつき(即ち、レジスト膜Rの膜厚のばらつき)を抑制することができる。
【0029】
このように流路の温度を調整して吐出される高温ガスの温度のばらつきを抑える観点からは、バルブ65A、65Bとガスノズル31との距離が近いことが好ましい。しかし、当該距離が近すぎると、バルブ65A、65Bの夫々の閉鎖時に、バルブ65A、65Bに向けて供給される高温ガスにより、カップ21内に位置するベース25及びスピンチャック22が加熱されてしまう。その場合は、そのように加熱された各部材からのウエハWへの熱伝導や輻射熱に起因して、ウエハWの面内及びウエハW毎の処理のばらつきが発生するおそれが有る。そのような不具合が防止されるように、本実施形態ではバルブ65A、65Bはカップ21よりも下方の高さ、且つ平面視でカップ21の外側位置に設けられている。なお、そのようにバルブ65A、65Bとガスノズル31との距離が近くなることを防止すればよいので、カップ21よりも下方の高さであること、平面視でカップ21の外側位置に設けられていることのうち、いずれか一方のみの条件に適合するようにバルブ65A、65Bが配置されていてもよい。
【0030】
なお、バルブ67A、67Bと、上記のバルブ45A、65Bとは、高温ガスの供給先を切り替えるための切替え部をなす。配管63、64A、64Bによって形成される高温ガスの流路はガス供給路をなす。配管66A、66Bによって形成される高温ガスの流路は分岐路をなす。
【0031】
続いて、同じカップ21内に設けられるガスノズル31及び洗浄ノズル34について、
図4の平面図及び
図5の側面図を参照して説明する。ガスノズル31のガス吐出口32について、高温ガスの吐出方向に向けたウエハWの裏面への投影領域をP1として示している。第1投影領域である投影領域P1は、
図2で説明したように高温ガスの吐出を行わないとした場合にレジスト膜の膜厚が小さくなる環状低膜厚領域に重なるように設定される。使用するレジストの種類や処理条件によって環状低膜厚領域の位置は変移するので、当該領域の位置に合わせてウエハWの径方向における投影領域P1の位置を設定すればよい。
【0032】
投影領域P1に吐出された高温ガスがウエハWの回転による遠心力の作用に逆らわずにウエハWの周端に流れてカップ21内から排出され、乱流となることが防止されるようにするために、ガス吐出口32はウエハWの中心部側から周縁部側に向かうように、斜め上方に向かって開口している。ところで平面視において、ガス吐出口32から高温ガスの吐出方向に沿って引いた直線をL1とする。そして、その直線L1とウエハWの周端との交点Q1を通過するウエハWの接線L2を引くとすると、平面視において接線L2に対して直線L1は直交せずに傾いている。
【0033】
仮に接線L2と直線L1とが直交しているとすると、直線L1に沿った投影領域P1からウエハWの周端までの距離が比較的短くなるので、高温ガスはウエハWの周端から外側へと比較的大きな流速で流れる。そうなると、ウエハWの裏面側におけるシンナー及び/またはレジストのミストがカップ21の外側へ流出してしまうおそれが有る。そのミストの流出を防止するために、接線L2と直線L1とが直交しないように高温ガスの吐出方向が設定されている。そのミストの流出防止の効果を十分に得るために、接線L2と直線L1とのなす角θ1は例えば90°未満とすることが好ましく、具体的には例えば70°とする。
【0034】
また平面視においてウエハWの回転方向に倣う方向、即ちウエハWの回転に逆らわない方向へと、ガス吐出口32から高温ガスが吐出される。さらに詳しく述べると、投影領域P1におけるウエハWの裏面の点は、ウエハWの回転により等速円運動している。平面視にて当該円運動する点を基点とする速度ベクトル(L3として図示している)の向きと、高温ガスの吐出方向に沿って伸びる直線L1と、のなす角θ2が鈍角をなす場合、ウエハWの回転方向に倣って高温ガスが吐出されていることになる。このように高温ガスが吐出されることで、ウエハWの裏面に向かう当該高温ガスがウエハWの回転によってウエハWの裏面から弾かれるように飛散することが防止される。つまり、吐出された高温ガスはウエハWの回転に沿って流れてウエハWと比較的長く接触することになるので、ウエハWを効率良く加熱することができる。
【0035】
洗浄ノズル34について説明する。洗浄ノズル34の洗浄液吐出口35について、洗浄液の吐出方向に向けたウエハWの裏面への投影領域をP2として示している。洗浄ノズル34は、ウエハWの中心部側から周縁部側に向けて斜め上方に洗浄液を吐出する。そしてウエハWの回転の遠心力による洗浄液の広がりにより、当該ウエハWの裏面において第2投影領域である投影領域P2からウエハWの周縁に至る領域が洗浄される。
【0036】
なお上記したように洗浄ノズル34から吐出される洗浄液の温度は、ガスノズル31から吐出される高温ガスの温度よりも低い。そして、ウエハWへの高温ガスの吐出を終了するタイミングよりも、ウエハWへの洗浄液の吐出を終了するタイミングの方が遅い。従って、ウエハWを同じカップ21内で順次処理するにあたり、高温ガスの吐出により加熱された当該カップ21内が、ウエハWへの洗浄液の吐出及びウエハWからの洗浄液の飛散によって冷却されるため、カップ21内での蓄熱に起因した、各ウエハWの処理中におけるカップ21内の温度のばらつきが抑えられる。従って洗浄液は、ウエハW間での処理の均一性を高める役割も有する。
【0037】
洗浄ノズル34については、ガスノズル31と同様に洗浄液を平面視でウエハWの回転方向に倣う方向へと吐出することで、ウエハWの回転による洗浄液の飛散が抑制されるように構成されている。ところでガスノズル31の投影領域P1と洗浄ノズル34の投影領域P2とはウエハWの回転方向に互いに離れており、当該回転方向について見ると、ガスノズル31の投影領域P1は、洗浄ノズル34の投影領域P2の下流側に位置している。なお、ウエハWの回転方向に沿って見た場合、投影領域P1と投影領域のP2との間には2つの円弧領域が存在することになるが、ここでの下流側とは、その2つのうちの長さが短い方の円弧領域において見た場合の下流側を意味する。
【0038】
仮に上記の回転方向における投影領域P1、P2の位置が逆であり、且つウエハWへの高温ガスの吐出期間の終了からウエハWへの洗浄液の吐出期間の終了までの間隔が比較的短かったり、高温ガスの吐出期間と洗浄液の吐出期間とが重なったりする場合を考える。その場合、ウエハWの裏面において高温ガスが供給された領域が当該高温ガスと共にウエハWの回転によって、わずかな時間経過後に洗浄液が供給される位置付近へ移動することになる。つまりウエハWの裏面において高温ガスが比較的多く残留する領域に洗浄液が供給されることになる。そうなると、高温ガスと洗浄液とが互いに干渉して、各々ウエハWの裏面から飛散し、高温ガスのウエハWの裏面への接触時間としては比較的短いものとなることで、高温ガスの効果が低下することが考えられる。また、飛散した洗浄液がパーティクルとなってウエハWに付着するおそれが有る。
【0039】
しかし、上記したように投影領域P1が投影領域P2の下流側に位置することで、ウエハWの裏面に高温ガスが供給された領域は、比較的長い時間をかけて洗浄液が吐出される位置付近へ移動するので、それまでに高温ガスは回転の遠心力でウエハWの外部へと流れる。従って、上記した高温ガスと洗浄液との干渉がより確実に抑制され、高温ガスによるウエハWの加熱効果を十分に得られると共に、洗浄液のパーティクル化も抑制することができる。また洗浄液の飛散が防止されることで、洗浄液は比較的長くカップ21内に留まることになるので、既述した洗浄液による冷却効果を十分に得ることができる。
【0040】
なお、このように高温ガスと洗浄液との干渉が投影領域P1、P2の位置関係を適正に設定することで防止されるものとして述べてきたが、後に述べる塗布膜形成装置1によるウエハWの処理例では、ウエハWへの高温ガスの吐出停止後、しばらく後にウエハWへの洗浄液の吐出が開始される。つまり高温ガスの吐出期間と洗浄液の吐出期間とがずれることで、上記の干渉が起こり難い構成となっている。
【0041】
ところで、塗布膜形成装置1は制御部10を備えている(
図1参照)。この制御部10はコンピュータにより構成されており、プログラムを備えている。プログラムには、塗布膜形成装置1における一連の動作を実施することができるようにステップ群が組み込まれている。そして、当該プログラムによって制御部10は塗布膜形成装置1の各部に制御信号を出力し、当該各部の動作が制御される。具体的に移動機構44、53による各ノズルの移動、バルブ65A、65B、67A、67Bの開閉、レジスト吐出ノズル42、シンナー吐出ノズル43、52からのレジスト、シンナーの吐出、回転機構24によるウエハWの回転などの動作が制御される。上記のプログラムは、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、DVDなどの記憶媒体に格納されて、制御部10にインストールされる。
【0042】
続いて塗布膜形成装置1によるウエハWの処理について、
図6~
図7の工程図を参照して説明する。また、ウエハWの回転数(単位:rpm)の変化と、ガスノズル31からウエハWへの高温ガスの吐出期間との関係を示す
図8のチャートも適宜参照する。なお、以下の説明では処理部2A、2Bのうち、処理部2AでウエハWが処理されるものとする。
【0043】
先ず、搬送機構により処理部2Aのカップ21A上にウエハWが搬送される。このとき、バルブ65Aが閉じると共にバルブ67Aが開いた状態であり、処理部2Aのガスノズル31からの高温ガスの吐出は停止し、配管66Aに高温ガスが供給されて排気される状態となっている。そして、ピン36を介してスピンチャック22に当該ウエハWが保持され、ウエハWが回転を開始すると、バルブ67Aが閉じられると共に、バルブ65Aが開く。それにより、配管66Aによる高温ガスの排気が停止すると共に、ガスノズル31から当該高温ガスが吐出されて、ウエハWの加熱が開始される(
図6A)。なお、この高温ガスの吐出は高温ガス供給工程に相当する。
【0044】
続いて、シンナー吐出ノズル43からウエハWの中心部にシンナーが吐出され、所定量のシンナーが吐出されると、当該吐出が停止する。ウエハWの回転の遠心力によって、当該シンナーはウエハWの周縁部へと広がり、上記したプリウエットが行われる。その後、レジスト吐出ノズル42からウエハWの中心部に所定量のレジストが吐出され(時刻t1)吐出が停止すると、ウエハWの回転数が上昇して(時刻t2)、比較的高い回転数d1となる。そしてウエハWの回転の遠心力によって、当該レジストがウエハWの周縁部へ向けて広がる(
図6B)。ウエハWへのレジストの供給前から、高温ガスの吐出が行われているためウエハWは十分に加熱されており、高温ガスが吐出される位置の表面側である既述の環状低膜厚領域におけるレジストの乾燥が促進され、レジスト中の固形成分の堆積が進行する。
【0045】
その後、レジストがウエハWの表面全体に行き渡ることでレジスト膜Rが形成された後(
図6C)、ウエハWの回転数が低下し(時刻t3)、第1の回転数である回転数d2となる。この回転数の変化と、レジスト膜Rを構成するレジストに残る流動性とにより、ウエハWの面内での膜厚分布が調整される。具体的に、回転数d1での回転によってウエハWの周縁側に寄っていたレジストの一部が、ウエハWの回転数の低下による遠心力の低下でウエハWの中心部側に寄り、ウエハWの面内においてレジスト膜の膜厚の均一化が進行するように膜厚分布が変化する(
図6D)。その一方でウエハWの裏面への高温ガスの吐出が続けられ、環状領域における乾燥が進行する。この回転数d2は例えば50rpm~500rpmであり、より具体的には例えば100rpmである。この回転数d2でウエハWを回転させる工程は、膜厚分布調整工程に相当する。
【0046】
その後、ウエハWの回転数が上昇し(時刻t4)、回転数d2よりも高く、且つ回転数d1よりも低い回転数d3となる。第2の回転数であるこの回転数d3でウエハWを回転させる期間が、ウエハWの面内全体における膜厚を変化させて所望の膜厚とするための期間である。そして、この回転数d3へ回転数が変更された後、バルブ65Aが閉じると共にバルブ67Aが開かれることで、ガスノズル31からの高温ガスの吐出が停止すると共に、配管66Aによる高温ガスの排気が再開される(時刻t5)。
【0047】
例えば回転数d3への変更直後は、レジスト膜R中に残留するレジストの溶剤により、ウエハWの面内全体の膜厚のみならず、ウエハWの面内の膜厚分布についても変動するが、レジスト膜Rの乾燥が進行してこの面内の膜厚分布の変動は停止する(
図7A)。その際に、既述したように環状低膜厚領域での乾燥が促進されたことで、当該領域の膜厚と他の領域との膜厚とのばらつきは抑えられ、ウエハWの径方向の各部において当該膜厚が揃っている。
【0048】
以降は、回転数d3での回転が続けられて、ウエハWの面内全体でレジスト膜Rの膜厚が低下する。この回転数d3は例えば700rpm~2000rpmであり、より具体的には例えば1000rpmである。回転数d3でウエハWを回転させてウエハWの面内全体の膜厚を変更する工程は、乾燥工程に相当する。上記したように回転数d3での回転中にウエハWへの高温ガスの吐出を停止させるので、乾燥工程を行う期間は高温ガスの吐出が停止される期間に重なり、ウエハWの面内の局所領域が過度に乾燥してしまうことが防止されつつ、ウエハWの面内全体で乾燥が進行する。つまり、ウエハWの径方向における各部で均一性高く乾燥が進行することで、レジスト膜Rの膜厚についてのばらつきの発生及び拡大について防止されつつ、ウエハWの面内全体で当該膜厚が低下する(
図7B)。
【0049】
そしてレジスト膜Rの膜厚が所望の大きさとなると、ウエハWの回転数が上昇して(時刻t6)、回転数d3よりも高く且つ例えば回転数d1よりも低い回転数d4となる。そして、シンナー吐出ノズル52からウエハWの表面の周縁部へシンナーが吐出され、ウエハWの周縁部のレジスト膜Rが除去されるEBRが行われる。また、この表面の周縁部へのシンナーの吐出に並行して、洗浄ノズル34からウエハWの裏面への洗浄液であるシンナーの吐出が行われ、ウエハWの裏面に付着した異物が除去される(
図7C)。なお、上記したように高温ガスによって温度が上昇したカップ21A内は、洗浄液の吐出によって冷却される。然る後、シンナー吐出ノズル52及び洗浄ノズル34からのシンナーの吐出が停止し、当該シンナーが振り切られた後にウエハWの回転が停止する(
図7D)。そして、ウエハWは搬入時とは逆の手順で塗布膜形成装置1から搬出される。
【0050】
なお、処理部2A、2Bのうち、代表して処理部2AでのウエハWの処理を説明したが、処理部2BでウエハWを処理する場合は、処理部2Aで処理を行う場合と同様に装置の各部が動作する。ただし、上記の説明中のバルブ65A、67Aの動作は、バルブ65B、67Bの動作として読み替えるものとする。
【0051】
以上に述べたように塗布膜形成装置1における処理では、
図2で述べた環状低膜厚領域の形成を防止し、ウエハWの面内において均一性高い膜厚でレジスト膜Rを形成することができる。また、後に評価試験として説明するがこのような処理によれば、ウエハWに供給されるレジストの量が少なくても、ウエハWの表面に高い被覆性をもってレジスト膜Rを形成することができる。なお、既述した特許文献1の装置は、回転テーブルに被覆されていない基板(ウエハW)の周縁部全体に加熱されたガスが供給される構成である。当構成では、その周縁部の径方向における各部位が均一に加熱されることになる。そのため、径方向における局所的な膜厚の制御を行うことができないので、上記した環状低膜厚領域の形成を防ぐことが困難である。
【0052】
ところで塗布膜形成装置1は、例えばウエハWの搬送機構を備えたシステムに組み込まれ、当該システムにおいてロット毎に搬送されるウエハWを順次処理する。より詳しく述べると、処理部2A、2Bの各々について、一のロットに属する複数のウエハWが順に搬送された後、他のロットに属する複数のウエハWが順に搬送される。処理部2A、2Bは搬送されたウエハWを順次処理するので、処理部2A、2Bの各々で一のロットのウエハW、他のロットのウエハWの順で処理が行われる。システムへのロットの搬送間隔やシステム中の各装置の処理事情で、処理部2A、2Bの各々において一のロットの最後のウエハWの処理を終了してから、他のロットの最初のウエハWの処理を開始するまでに、比較的長い期間を要する場合が有る。
【0053】
以降、処理部2AにロットA、Bが順に搬送されるものとして説明する。上記のように各ロットの搬送が行われることは、同じロット内での2枚目以降の各ウエハWの搬送間隔より、ロットAの最後のウエハWとロットBの最初のウエハWとの搬送間隔(ロットA、B間の搬送間隔)の方が長くなる場合が有るということである。そして、そのロットA、B間の搬送間隔が長くなりすぎると、配管64Aのバルブ65Aの下流側からガスノズル31に至るまでの流路に高温ガスが長い時間供給されないことによって、ロットBの最初のウエハWを処理するまでに当該流路が冷えてしまい、当該ロットBの最初のウエハWを十分に加熱できないおそれが有る。
【0054】
そのような不具合が防止されるように、ロットの最初のウエハWを処理するにあたっての高温ガスの吐出を開始するタイミングは、同じロット内の他のウエハWを処理するにあたっての高温ガスの吐出を開始するタイミングよりも早めるようにしてもよい。つまり、ウエハWに対して加熱ガスを吐出するタイミングを、当該ウエハWとそのウエハWの直前にスピンチャック22に載置されたウエハWとのスピンチャック22への搬送間隔に応じて異なったものとする。
【0055】
図9のタイミングチャートを参照してさらに具体的に説明する。この
図9では、処理部2Aのスピンチャック22にロットAの最後のウエハW(AXとして表示)、ロットBの最初のウエハW(B1として表示)、2枚目のウエハW(B2として表示)が夫々載置される期間、各ウエハWを処理するために高温ガスが吐出される期間を夫々白抜きの矢印で示している。つまり、ウエハAX、B1、B2はスピンチャック22に続いて搬送されるウエハWであり、ウエハAXを一の基板とすると次の基板はウエハB1、ウエハB1を一の基板とすると次の基板はウエハB2である。
【0056】
チャート中、各ウエハWがスピンチャック22に載置される時点を載置開始時点s1、スピンチャック22による載置が終了する時点(スピンチャック22から離れる時点)を載置終了時点s4として示している。上記したようにロットA、B間の搬送間隔E1(ウエハAXの載置終了時点s4からウエハB1の載置開始時点s1までの時間)は、ウエハB1、B2間の搬送間隔(ウエハB1の載置終了時点s4からウエハB2の載置開始時点s1までの時間)よりも長い。
【0057】
ウエハB2を処理するにあたっては、当該ウエハB2の載置開始時点s1から予め設定された時間E3が経過して時点s2になると、高温ガスの吐出が開始される。そして
図6~
図7で述べた手順で処理が行われ、載置開始時点s1から所定の時間が経過した時点s3で高温ガスの吐出が停止する。この時点s3は、
図8のチャート中の時刻t5である。ロットBの3枚目以降の各ウエハWも、ここで述べたウエハB2と同様に処理される。
【0058】
一方、ウエハB1を処理するにあたっては、当該ウエハW2がスピンチャック22に載置される載置開始時点s1から予め設定された時間E3′が経過して時点s2′になると高温ガスの吐出が開始される。時間E3′は時間E3より短く、従って載置開始時点s1から見て、ウエハB2の処理時よりも早いタイミングで高温ガスの吐出が開始される。そして、載置開始時点s1から所定の時間が経過した時点s3で高温ガスの吐出が停止する。従って、E3とE3′との時間差の分、ウエハB1の処理時にはウエハB2の処理時よりも高温ガスが吐出される期間が長くなる。
【0059】
このようにウエハWのスピンチャック22への搬送間隔(装置がウエハWに処理を行わずに待機する時間でもある)に応じたタイミングで、ガスノズル31からの高温ガスの吐出が開始される。その結果、載置開始時点s1から見た高温ガスの吐出開始のタイミングがウエハB1とウエハB2とで異なり、ウエハB1の方がウエハB2よりも当該タイミングについて早い。そのように高温ガスの吐出開始のタイミングが調整されることによって、上記した高温ガスの流路の冷却による処理の不具合をより確実に防止することができるので好ましい。また、このようにウエハB1の処理のための吐出開始のタイミングを、ウエハB2の処理のための吐出開始のタイミングよりも早めるにあたり、ウエハAXの載置終了時点s4よりも後で、ウエハB1の載置開始時点s1よりも前における期間中の時点を吐出開始のタイミングとしてもよい。即ち、スピンチャック22にウエハB1が載置されていない時点から、当該ウエハB1を処理するための高温ガスの吐出が開始されてもよい。
【0060】
また、高温ガスの吐出開始後に、時点s3まで継続して吐出し続けることには限られない。
図10に示す例では、ウエハAXの載置終了時点s4よりも後、且つウエハB1の載置開始時点s1よりも前における期間中の時点s40で高温ガスの吐出を開始し、当該期間中の時点s10で高温ガスの吐出を停止している。高温ガスの流路の冷却が防止されるに十分な時間だけ当該高温ガスの吐出がなされればよいので、例えば時点s40~時点s10の時間は、載置開始時点s1以降の加熱ガスの吐出期間である時点s2~時点s3の時間よりも短い。なお、この
図10に示す例では
図9に示した例とは異なり、ウエハB1についてもウエハB2と同様に載置開始時点s1以降においては、時点s2から高温ガスの吐出を開始している。
【0061】
なお、ロットの最初のウエハWであれば同じロット内の他のウエハWに対して無条件で高温ガスの吐出開始のタイミングを早めるように説明してきたが、そのようにすることには限られない。具体的には例えば搬送間隔E1の長さについて、予め決められた設定時間の長さと比較する。比較した結果、搬送間隔E1が当該設定時間よりも短い場合にはウエハB1はウエハB2と同様に処理をする。つまりウエハB1を処理するにあたって、ウエハB2と同様に時点s2から高温ガスの吐出を開始してウエハWを処理し、
図10に示したウエハAXの載置終了時点s4からウエハB1の載置開始時点s1における高温ガスの吐出も行わないようにする。そして、比較した結果、搬送間隔E1が当該設定時間よりも短い場合にはウエハB1を処理するにあたり、搬送間隔E1が当該設定時間よりも短い場合よりも高温ガスの吐出開始時点を早める。従って、
図9で示したように時点s2よりも早い時点s2′から吐出を開始したり、
図10で示したように時点s40~時点s10での吐出を行ったりすればよい。
【0062】
続いて、塗布膜形成装置1の変形例である塗布膜形成装置1Aについて、
図11の平面図を参照して塗布膜形成装置1との差異点を中心に説明する。塗布膜形成装置1Aの配管66Aは排気路には接続されず、当該配管66Aの下流端にはガスノズル71Aが設けられている。カップ温度調整ノズルであるガスノズル71Aは平面視でカップ21Aに対して後方且つ右端部付近に配置されている。そして、配管66Aに供給された高温ガスは当該配管66Aを通流中に自然冷却され、ガスノズル71Aから常温のガスとして吐出されるように配管66Aの長さが設定されている。
【0063】
塗布膜形成装置1の説明で述べたように各配管が配置されることで、カップ21Aの後方側(即ち前後の一方側)には、配管63の下流側、配管64A、64Bにおけるバルブ65A、65Bが夫々介設される位置の上流側、及び配管66A、66Bの一部が、左右方向に伸びるように位置している。それによってこれらの配管の各部位は、カップ21Aに対して後方側に位置する。つまり、カップ21Aと当該各部位とは前後方向に並ぶ。当該各部位をまとめて配管部72Aとして図中に点線で囲って示している。そしてガスノズル71Aの吐出口は、配管部72Aとカップ21Aとの間の位置において左方に向かって開口している。カップ21Aのガスノズル31から高温ガスが吐出されない期間において、平面視で配管部72Aとカップ21Aとの間に、当該配管部72Aをなす各配管の伸長方向に沿って常温ガスが左方に(即ち、左右の一方に)吐出される。
【0064】
上記したように配管部72Aついては、配管63及び配管64A、64Bにおけるバルブ65A、65Bの上流側を含むことから、カップ21Aのガスノズル31から高温ガスの吐出を行わない間において高温ガスが通流する。その配管部72Aを通流する高温ガスの温度が比較的高いと、当該配管部72Aからの輻射熱が比較的大きくなる。仮にその輻射熱によりカップ21Aが加熱されると、当該カップ21Aに搬送されて処理されるウエハWが当該カップ21Aによって加熱されることで、当該ウエハWに形成されるレジスト膜Rの膜厚が設定値からずれることが懸念される。しかし、上記のようにガスノズル71Aから吐出される常温ガスによって、配管部72Aからカップ21Aへの熱輻射が遮られ、当該カップ21Aの温度上昇が抑制されるので、そのレジスト膜Rの膜厚のずれが抑制される。
【0065】
見方を変えればこのようにガスノズル71Aから常温ガスを供給することは、ガスノズル31から吐出する高温ガスの温度が比較的高い場合でも、配管部72Aをなす各配管をカップ21Aの直径方向に沿って引き回すと共にカップ21Aに並べ、当該カップ21Aに近接配置させることができることになる。つまり、塗布膜形成装置1Aによれば、当該装置1Aにおける専有床面積の増大を防ぐことができるという利点が有る。
【0066】
なお
図11中、二点鎖線の矢印でガスノズル71Aから吐出される常温ガスを示している。
図11に示す例では平面視において、配管部72Aを構成する各配管の伸長方向に対して常温ガスの吐出方向は並行しているが、上記したように配管部72Aからのカップ21Aへの熱を遮断できればよいので、吐出方向は並行させることには限られない。例えば常温ガスが左方且つ前方に向けて吐出されるようにガスノズル71Aを配置し、配管部72Aをなす各配管の伸長方向に対して常温ガスの吐出方向が傾いていてもよい。以上のようにガスノズル71Aから吐出される常温ガスは、カップ21Aの温度を調整するカップ温度調整用ガスである。
【0067】
続いて、塗布膜形成装置1の変形例である塗布膜形成装置1Bについて、
図12の平面図を参照して塗布膜形成装置1Aとの差異点を中心に説明する。塗布膜形成装置1Bは塗布膜形成装置1Aと同様にガスノズル71Aを備えているが、当該ガスノズル71Aに接続される配管66Aの長さは比較的短い。そのため、ガスノズル71Aからは例えば常温よりも高い温度のガスが吐出される。また、塗布膜形成装置1Bにおいて、配管66Bの下流端は排気路に接続されておらず、当該下流端はガスノズル71Bに接続されている。ガスノズル71Aと同様、ガスノズル71Bからも常温よりも高い温度のガスが吐出されるように、配管66Bの長さが調整されている。
【0068】
ガスノズル71Bは、カップ21Bに対して平面視で後方且つ左端部付近に配置されている。カップ21Bの後方側には、配管64Bにおけるバルブ65Bの上流側、配管66Bの一部が左右方向に伸びるように配置されている。それによってこれらの配管の各部位は、平面視でカップ21Bに並ぶと共にカップ21Bの直径方向に伸長しており、当該各部位をまとめて配管部72Bとして図中に点線で囲って示している。ガスノズル71Bは、平面視で配管部72Bをなす各配管とカップ21Bとの間に、当該各配管の伸長方向に沿うように右方に向けてガスを吐出する。
【0069】
ガスノズル71A、71Bから夫々吐出されるガスにより、カップ21A、21Bが夫々加熱される。それにより、カップ21A、21B内にウエハWが搬入された際に、当該ウエハWも加熱される。そのように加熱されたウエハWに対して供給されたレジストについてはウエハW上を広がる際に乾燥が促進されるので、ウエハWから飛散する量が抑制される。そのため、レジスト膜Rの膜厚について、比較的大きい所望の膜厚となるように制御することができる。
【0070】
ところで、ガスノズル71A、71Bからのガスによりカップ21A、21Bを加熱することだけを考えれば、ガスノズル71A、71Bの吐出口は、夫々カップ21A、21Bに向うようにしてもよい。ただし塗布膜形成装置1Aについての説明でも述べたが、バルブ65Aの上流側の流路を含む配管部72Aについては温度が比較的高くなることで、カップ21Aへの輻射熱が比較的大きくなるおそれが有る。配管部72Bについても同様の理由で、カップ21Bへの輻射熱が大きくなるおそれが有る。
図12で示したカップ21A、21Bと配管部72A、72Bとの間にガスを吐出する構成とすることで、その輻射熱が当該ガスによって遮蔽されることから、カップ21A、21Bの過度の温度上昇が抑制される。その一方で、ガスノズル71A、71Bからのガスの有する熱によりカップ21A、21Bを適正な温度に加熱することができる。つまり
図12の構成は、カップ21A、21Bの加熱温度の制御性を高くすることができるという観点から好ましい。
【0071】
続いて、塗布膜形成装置1の変形例である塗布膜形成装置1Cについて
図13の平面図を参照して、塗布膜形成装置1との差異点を中心に説明する。塗布膜形成装置1Cでは配管66A、66Bのうち配管66Aのみが設けられており、この配管66Aの上流端は配管64Aに接続される代わりに配管63に接続されている。なお、配管64Aに介設されるバルブ67Aは、例えば下流側への流量を調整できるものが用いられる。
【0072】
例えばカップ21A、21Bのいずれのカップのガスノズル31からも高温ガスが吐出されない期間では、加熱機構61から供給される高温ガスは全て配管66Aに供給されて排気されるように、バルブ65A、65Bの両方が閉鎖されると共に、バルブ67Aの開度が第1の開度とされる。カップ21A、21Bのうちの一方のカップのガスノズル31から高温ガスが吐出される期間では、そのガスノズル31への高温ガスの供給と、配管66Aへの高温ガスの供給とが行われるように各バルブ65A、65Bの一方のみが開かれると共に、バルブ65Aの開度が第1の開度よりも小さい第2の開度となるように調整される。
【0073】
カップ21A、21Bの両方で高温ガスの吐出を行ってもよいが、一のガスノズル31から十分な高温ガスを供給し、且つ各配管でのガスの流れを安定させるために、本例ではカップ21A、21Bでの並行した高温ガスの供給は行われない。従って、塗布膜形成装置1Cでは、排気管である配管66Aに高温ガスが常時流通するように各バルブが動作する。この塗布膜形成装置1Cを例に挙げて述べたように排気管をなす配管は、これまでに述べた各例のようにカップ21A、21B毎に設けられることには限られない。
【0074】
ところで、比較的膜厚が大きなレジスト膜Rを形成する目的で既に例示した範囲の粘度のレジストを用いると説明したが、そのような粘度が比較的高いレジストを用いることには限られず、粘度が比較的低いレジストを用いて薄膜を形成する場合にも本技術を適用することができる。なお、粘度が比較的高いレジストを用いて膜厚が比較的大きなレジスト膜Rを形成する場合は、そのように膜厚が大きい分、仮に膜厚にばらつきが生じるとすると、そのばらつきの幅(膜厚についての最大値-最小値)も比較的大きくなるおそれが有る。このように比較的大きなものと成り得る膜厚のばらつきを小さくできるという観点から、既述した範囲の比較的粘度が高いレジストを用いる場合に本技術を適用することが特に有効である。
【0075】
図8で説明した乾燥工程を行うための回転数d3は、所望の膜厚に応じて設定される回転数であり、そのように薄膜を形成する場合は、EBR及び裏面洗浄を行う回転数d4よりも大きくなるように設定してもよい。このように回転数d3と回転数d4との大小関係については任意に設定することができる。また、その
図8で説明した例では、膜厚分布の変更は回転数d2での回転中には終了せず、回転数d3での回転中にも起こると述べたが、回転数d2での回転中に当該膜厚分布の変更が終了してもよい。
【0076】
ウエハWへの高温ガスの吐出を開始するタイミングとしては既述した例に限られず、例えばウエハWの回転によってウエハWの表面全体がレジストにより被覆される前に行うようにしてもよい。ただし、上記の環状低膜厚領域でのレジストの乾燥が確実に促進されるようにするために、レジストの吐出前でプリウエット用のシンナーの吐出後にウエハWへの高温ガスの吐出を開始することが好ましく、
図6Aで述べたように当該シンナーの吐出前に吐出を開始することがより好ましい。また、高温ガスについてはウエハWに吐出された際に当該ウエハWを加熱することで、既述したようにレジスト膜Rの膜厚分布に作用できる温度であればよいので、例示した温度であることには限られない。当該作用を得るために、高温ガスの温度はウエハWへの吐出開始時における当該ウエハWの温度よりも高い温度であればよい。
【0077】
高温ガスの吐出を停止するタイミングについて、十分にウエハWの面内での膜厚の均一性を高くすることができれば、上記した回転数d3でのウエハWの回転中とすることには限られず、例えばその前の回転数d2での回転中に吐出を停止させてもよい。なお、高温ガスは断続的にウエハWに吐出させてもよい。ここで述べている停止のタイミングとは、断続的な吐出とする場合におけるウエハWへの一時的な高温ガスの吐出の停止のタイミングのことではなく、ウエハWを処理するにあたって、それ以降は当該ウエハWへの高温ガスの吐出が行われなくなるタイミングのことである。
【0078】
高温ガスについて、ウエハWの処理に影響を与えないものであれば任意の種類のガスを用いることができ、例えばN2(窒素)ガスなどの不活性ガスを用いるようにしてもよい。また、ウエハWに形成する塗布膜についてはレジスト膜であることに限られず、例えば反射防止膜、絶縁膜などであってもよい。そして塗布液としてはレジストの代わりに、基板に形成する膜に応じた塗布液を用いることができる。
【0079】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更及び/または組み合わせがなされてもよい。
【0080】
〔評価試験〕
本技術に関連する評価試験について説明する。評価試験ではウエハWに吐出するレジストの量をemL~e+4mL(eは正数)の範囲で変更して、ウエハWにレジスト膜Rを形成する処理を行った。本評価試験ではレジストとして、粘度が610CPであるものを用いた。実施例1-1として、
図6~
図7で説明した手順でウエハWに対して処理を行い、レジスト膜Rを形成した。つまり、ウエハWの裏面へ高温ガスを吐出してレジスト膜Rを形成した。ただし、EBRは行っていない。なお、レジストをウエハWに広げる際の回転数(上記した回転数d1)はウエハW毎に変更しており、f1rpm、f2rpm、f3rpmのうちのいずれかの回転数に設定した。f1~f3は正数であり、f1<f2<f3である。
【0081】
比較例1-1として、ウエハWの裏面への高温ガスの吐出を行わず、且つプリウエットの際にシンナーをウエハWの中心部から偏心した位置に吐出したことを除き、実施例1-1と同様に処理を行った。比較例1-2として、ウエハWの裏面に高温ガスの吐出を行わないことを除き、実施例1-1と同様にウエハWを処理した。つまり、比較例1-2ではプリウエットは、シンナーをウエハWの中心部に吐出することで行っている。これらの実施例1-1、比較例1-1、1-2として処理された各ウエハWについて、レジスト膜Rの被覆性を確認すると共に、レジスト膜Rの膜厚に関する最大値-最小値を測定した。なおこれ以降、膜厚の最大値-最小値は、膜厚レンジとして記載する。
【0082】
表1は被覆性を比較した結果について示したものである。表中のAは被覆性が良好であり、且つ膜に斑が無いことを示す。Bは被覆性が良好であるが、且つ膜に斑が有ったことを示す。Cは被覆性が不可であったことを示す。
【0083】
【0084】
表1に示すように比較例1-1よりも実施例1-1及び比較例1-2の方が良好であり、実施例1-1と比較例1-2との間では同等であった。より詳しく述べると、比較例1-1ではこの評価試験で設定したレジストの吐出量の範囲のうちで当該吐出量が比較的多い場合は、レジスト膜Rに斑が観察されたものの、十分な被覆性が得られていた。しかしレジストの吐出量が比較的少ない場合には、被覆性についても不十分となっていた。ウエハWの回転数がf3rpmの場合は、f2rpm、f1rpmの場合よりも少ない吐出量で被覆性が不十分となっていた。
【0085】
そして、回転数がf1~f3rpmのうちのいずれの場合であっても、実施例1-1及び比較例1-2に関しては、比較例1-1では被覆性が不十分となった吐出量以下の吐出量で十分な被覆性を得ることができた。実施例1-1と比較例1-2との間で比較すると、回転数及び吐出量が同じであれば、被覆性の十分、不十分について違いは無かった。なお実施例1-1、比較例1-2で十分な被覆性を有するレジスト膜Rについて、斑は観察されなかった。
【0086】
膜厚レンジについての結果を
図14に棒グラフとして示している。グラフの縦軸のgは正数を示しており、当該縦軸に所定の間隔で目盛りを付している。なお、吐出量をe+1mLに設定して行った試験については、
図2と同様にウエハWの径方向における膜厚分布を表すグラフを
図15に示している。
【0087】
図14に示すように、吐出量がいずれの値であっても比較例1-2よりも実施例1-1の方が膜厚レンジについて小さい。即ち、実施例1-1の方が、膜厚の均一性について高い。また、
図15のグラフに示されるように、比較例1-2では
図2等で説明した環状低膜厚領域がウエハWの中心部と周縁部との間に形成された。しかし、実施例1-1ではこの環状低膜厚領域が形成されておらず、膜厚の均一性が高い。即ち、上記した高温ガスを吐出する効果が示された。以上のようにこの評価試験からは、実施形態で説明した手法によって、ウエハWにおいて被覆性が高く、且つウエハWの面内で膜厚の均一性が高いレジスト膜Rを形成することができることが示された。
【符号の説明】
【0088】
d2、d3 回転数
R レジスト膜
W ウエハ