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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010239
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ファインバブル供給装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/2326 20220101AFI20230113BHJP
   B01F 25/30 20220101ALI20230113BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B01F3/04 F
B01F5/04
B01D19/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114226
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 慶
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓郎
【テーマコード(参考)】
4D011
4G035
【Fターム(参考)】
4D011AA15
4D011AD03
4D011AD06
4G035AB20
4G035AC22
4G035AE01
4G035AE13
(57)【要約】
【課題】容量が小さい小型ガスボンベやミニガスカートリッジのような人為気体供給源からの人為気体を用いてファインバブルを安定的かつ効率的に単位時間当たり一定量生成させることができ、少量の測定対象部にファインバブルを供給する簡素な構成で簡便なアスピレーター方式のファインバブル供給装置を提供する。
【解決手段】ファインバブル供給装置1は、液状の測定対象部11又はその周辺環境から送液ポンプ20で液体を吸引し導通しているアスピレーター30に、人為気体供給源50からの人為気体を吸い込んで発生させたファインバブル12含有液体を、前記送液ポンプ20で前記測定対象部11に供給するファインバブル供給装置であって、前記人為気体供給源50と前記アスピレーター30との流路の途中に、前記人為気体の圧力を前記測定対象部11の周辺圧力と均圧にする容量可変緩衝容器40を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の測定対象部又はその周辺環境から送液ポンプで液体を吸引し導通しているアスピレーターに、人為気体供給源からの人為気体を吸い込んで発生させたファインバブル含有液体を、前記送液ポンプで前記測定対象部に供給するファインバブル供給装置であって、
前記人為気体供給源と前記アスピレーターとの流路の途中に、前記人為気体の圧力を前記測定対象部の周辺圧力と均圧にする容量可変緩衝容器を有することを特徴とするファインバブル供給装置。
【請求項2】
前記容量可変緩衝容器が、前記人為気体の流量を解放度合いによって調整する流量調整弁を有していることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【請求項3】
前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が下限閾値を下回ったときに前記人為気体を前記容量可変緩衝容器へ送気又は増量し、前記体積が上限閾値を上回ったときに前記人為気体の送気を停止又は減量する調整器を有していることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【請求項4】
前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が一定となるように調整するマスフローコントローラーを有していることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【請求項5】
前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が所定量を上回ったときに所定量になるまで外界へ放出させるオーバーフロー機構を有していることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【請求項6】
前記オーバーフロー機構又は過剰気体排気ラインに外気の逆流を防ぐ逆止弁を有していることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験室や測定現場で、小型のガスボンベから安定的に人為気体をファインバブルにして比較的少量の被測定液のような測定対象部へ導入して、それの溶存気体を追い出して置換し、正確な測定データを得るために用いられるファインバブル供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
閉鎖系の生簀や水槽での魚類の飼育において、魚類の呼吸によって、水中の溶存酸素濃度が低下する。そこでその溶存酸素濃度を適切に保つため、酸素ガスや空気を水中に吹き込んで導入し、溶存酸素濃度を向上させることが行われている。
【0003】
また、ボイラ用水、冷却用循環水などの水処理分野においては、溶存酸素により配管腐食が生じる。そこでその溶存酸素を除去するため、窒素ガスをそれら水中に吹き込んで、溶存酸素を窒素に置換することが行われている。
【0004】
これらの気体の効率的な導入・置換には、ファインバブル(直径が1~10μmオーダー例えば数10μm程度のマイクロバブル又は直径が数10~1000nmのナノバブル)が用いられる。ファインバブルを発生させる方法として、高速せん断方式、加圧圧壊方式、キャビテーション方式、アスピレーター方式などが知られている。例えば、特許文献1には、水中又は海水中のような所定の水の溶存酸素を除去することにおいて、窒素ガスを水中でナノバブル状態に流通させて、水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減・除去する脱酸素装置であって、被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入部と、前記窒素ガスが注入された被処理水を通水する平面を有するプレートに複数個の穴を配列し、その穴の配列方向にプレート上面部溝とプレート下面部溝を持ちその上・下溝部が穴部分にて交差するよう設置したプレートを複数枚積層体とを備える溶存酸素除去装置が、開示されている。
【0005】
ファインバブルを発生させる方法のうち、特にアスピレーター方式が汎用されている。アスピレーター方式を用いるためのものとして、特許文献2に、長手方向の両端にそれぞれ一端開口及び他端開口を開放したケーシングと、ケーシングに気体を導入させる気液混合手段と、ケーシング4に内装された整流筒体と、整流筒体の外側に固定された第1のプロペラ形翼列と、整流筒体の内側に固定された第2のプロペラ形翼列とを備えるマイクロバブル発生装置が、開示されている。
【0006】
このようなアスピレーター方式とは、アスピレーターに通じた水流に、空気やガスボンベ等からの人為気体のファインバブルを形成する気体を吸引させて、ファインバブルを発生させて、生簀・プール・水槽・実験室での容器など大容量から小容量に至るまで幅広く導入できるものである。アスピレーターの構造が比較的簡素であるので、ファインバブル発生装置を複雑で高価なものにする必要がなく、安価かつ簡便にファインバブルを導入することができる。
【0007】
アスピレーター方式で所定の水に導入気体のファインバブルを十分に溶解させたい場合には、所定時間当たりのファインバブルの発生量及び導入量を増加するという方策が採られる。特許文献2には、所定時間当りのファインバブル(マイクロバブル)の発生量に限界があり、実際には、液体の流量の上限は約15~30リットル毎分であり、液体中に占める気体の体積は、ボイド率で約1~10パーセントの範囲と言われている旨、記載されている。
【0008】
アスピレーター方式において、被吸引気体が、装置の周辺大気環境から吸引した空気である場合、アスピレーターへの気体供給量の調整には、気体流量調整器及び必要に応じて気体流量計・圧力計が用いられる。このような気体流量調整器として、ニードルバルブを用いた気体流量調整器が用いられる。ニードルバルブは、円錐状のニードル型解放弁の解放度合いによって、流量を調整するもので、気体流量計・圧力計を用いて調整するというものである。
【0009】
大気の空気や、屋外窒素ガスタンク・大型ガスボンベ(常圧換算で約7000Lガス封入の47Lガスボンベ、同じく約6000L封入の40Lガスボンベ、同じく約1500L封入の10Lガスボンベ)の酸素ガスや窒素ガスやアルゴンガス等の人為気体のような導入気体の大容量を単位時間当たり一定量ずつアスピレーターに吸引させてファインバブルを発生させる。このような大気の空気や屋外の窒素ガスタンクや大型ガスボンベからの人為気体のような導入気体は、十分量(例えば毎分0.5~5L)をアスピレーターへ吸引させても、供給ガス圧力も単位時間当たりの流量も全く又は殆ど変化しない。そのため、一旦、ニードルバルブで気体流量を調整すれば、再調整する必要が無い。
【0010】
しかし、容量が比較的小さい小型ガスボンベ(常圧換算で約500L封入の3.4Lガスボンベ)やハンディタイプのミニガスカートリッジ所謂スプレー缶(同じく約4.4L封入の10mLミニガスカートリッジ、同じく約6.6L封入の15mLミニガスカートリッジ、同じく約20~26L封入の60mLミニガスカートリッジ、同じくガスの種類によって約18~40L封入の95~98mLミニガスカートリッジ)の酸素ガスや窒素ガスやアルゴンガス等の人為気体のような導入気体を、例えば毎分0.5~5L程度アスピレーターへ吸引させると、次第にカートリッジ内部圧力が低下して単位時間当たりの流量が変動し暫時低下してしまったり、内圧が然程高くないので外温や噴出弁作動圧の変動に従って単位時間当たりの流量が逐次変動してしまったりする。このような場合に、初期に、噴出弁の解放程度を調整したり流路途中で流量をニードルバルブで調整したりするだけでは、気体流量の均一的な調整が極めて困難である。
【0011】
仮に、小型ガスボンベやミニガスカートリッジからの流量測定結果に応じてリアルタイムで、小型ガスボンベやミニガスカートリッジの噴出弁の解放程度を調整したり流路途中で流量をニードルバルブで調整したりするのは、大掛かりな調整機構を必要とし、折角の簡素で小型のアスピレーター方式のファインバブル発生装置について、実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-116555号公報
【特許文献2】特開2007-21343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、容量が小さい小型ガスボンベやミニガスカートリッジのような人為気体供給源からの人為気体を用いてファインバブルを安定的かつ効率的に単位時間当たり一定量生成させることができ、少量の測定対象部にファインバブルを供給する簡素な構成で簡便なアスピレーター方式のファインバブル供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するためになされたファインバブル供給装置は、液状の測定対象部又はその周辺環境から送液ポンプで液体を吸引し導通しているアスピレーターに、人為気体供給源からの人為気体を吸い込んで発生させたファインバブル含有液体を、前記送液ポンプで前記測定対象部に供給するファインバブル供給装置であって、前記人為気体供給源と前記アスピレーターとの流路の途中に、前記人為気体の圧力を前記測定対象部の周辺圧力と均圧にする容量可変緩衝容器を有することを特徴とする。
【0015】
このファインバブル供給装置は、前記容量可変緩衝容器が、前記人為気体の流量を解放度合いによって調整する流量調整弁を有していることが好ましい。
【0016】
このファインバブル供給装置は、前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が下限閾値を下回ったときに前記人為気体を前記容量可変緩衝容器へ送気又は増量し、前記体積が上限閾値を上回ったときに前記人為気体の送気を停止又は減量する調整器を有しているというものであってもよい。
【0017】
このファインバブル供給装置は、前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が一定となるように調整するマスフローコントローラーを有しているというものであってもよい。
【0018】
このファインバブル供給装置は、前記容量可変緩衝容器内の前記人為気体の体積が所定量を上回ったときに所定量になるまで外界へ放出させるオーバーフロー機構を有しているというものであってもよい。
【0019】
このファインバブル供給装置は、前記オーバーフロー機構又は過剰気体排気ラインに外気の逆流を防ぐ逆止弁を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のファインバブル供給装置は、容量が小さい小型ガスボンベやミニガスカートリッジのような人為気体供給源からの人為気体の供給流量が経時的に又は暫時変動したとしても容量可変緩衝容器に人為気圧をトラップして周辺圧力と均圧にすることにより、アスピレーターへの人為気体が単位時間当たり一定量供給されるようになる結果、アスピレーターでファインバブルを安定的かつ効率的に単位時間当たり一定量生成させることができるようになる。
【0021】
このファインバブル供給装置は、気体流量計や圧力計を必ずしも用いなくてもよく、リアルタイムで人為気体供給源の噴出弁の解放程度を調整したり流路途中で流量をニードルバルブで調整したりしなくてもよく、簡素な構成にすることができ、簡便に気体流量を確実に制御してファインバブルを安定的かつ効率的に単位時間当たり一定量生成できる。
【0022】
このファインバブル供給装置は、容量可変緩衝容器を設けることによって多少の気体流量の変動があったとしても緩衝できるので、気体流量測定とそれのフィードバックのような煩雑な手法で人為気体供給源からの気体流量を随時調整する必要がなく、ラボスケールでの測定から海洋や河川・湖沼現場での測定のような測定対象部が少量であっても、確実に人為気体のファインバブルで測定対象部の溶存気体例えば溶存酸素を置換することができる。
【0023】
このファインバブル供給装置は、汎用で市販又は適宜作製可能なアスピレーターや送液ポンプを用いつつ、簡素な構成例えば袋やシリンダーやピストンのような入手し易い容量可変緩衝容器を用いて構成することができるので、汎用性が高い。
【0024】
このファインバブル供給装置は、常圧でも、海洋中や海底のような高圧条件下でも、又は高地のような低圧条件下でも、ファインバブルを安定的かつ効率的に単位時間当たり一定量生成できるので、場所や環境を問わず、測定対象部の測定を確実かつ正確に行うのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明を適用するファインバブル供給装置を示す概要図である。
図2】本発明を適用するファインバブル供給装置のアスピレーターを示す平面図である。
図3】本発明を適用するファインバブル供給装置の別な実施態様を示す概要図である。
図4】本発明を適用するファインバブル供給装置の容量可変緩衝容器を示す模式斜視図である。
図5】本発明を適用するファインバブル供給装置の別な態様の容量可変緩衝容器を示す平面図である。
図6】本発明を適用するファインバブル供給装置の別な態様の容量可変緩衝容器を示す平面図である。
図7】本発明を適用する別な態様のファインバブル供給装置の一部を示す概要図である。
図8】本発明を適用する別な態様のファインバブル供給装置の使用状態を示す概要図である。
図9】本発明を適用する別な態様のファインバブル供給装置の使用状態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明のファインバブル供給装置1は、その概略図を示す図1を参照して説明すると、液状の測定対象部11例えば試料溶液に、人為気体のファインバブル12を導入して、測定対象部11の溶存気体例えば溶存酸素を人為気体で置換させるためのものである。
【0028】
このファインバブル供給装置1は、液状の測定対象部11に繋がっており、送液ポンプ20と、アスピレーター30と、容量可変緩衝容器40と、人為気体供給源50とを有している。
【0029】
このファインバブル供給装置1は、常温換算で人為気体を最大500L程度、好ましくは20~40L程度しか封入されていない小型のガスボンベや高々5L程度しか封入されていないミニガスカートリッジのような人為気体供給源50を用いて、少量例えば最大で1L、好ましくは1mL~500mL、より好ましくは3~250mL、具体的には5~200mL程度の液状の測定対象部11に人為気体のファインバブル12を導入するのに特化したものである。
【0030】
なお、このファインバブル供給装置1は、容量可変緩衝容器40と人為気体供給源50とが常時繋がっていることが好ましいが、人為気体供給源50から容量可変緩衝容器40へ十分量の人為気体を入れた後、人為気体供給源50と容量可変緩衝容器40とを分離又は遮断するものであってもよい。
【0031】
人為気体には、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、酸素ガス、二酸化炭素ガス、アンモニアガス、及びそれらの何れかの二種以上のガスの混合物が挙げられる。
【0032】
液状の測定対象部11である試料溶液は、開放系の測定対象用容器10例えばビーカーに入っている。試料溶液11には、試料溶液11を吸入する吸入チューブ21が、送液ポンプ20に接続されている。その送液ポンプ20からアスピレーター30へ液体溶液を送り出す送出チューブ22が延びている。送出チューブ22はアスピレーター入液コネクター31を経てアスピレーター30へ繋がっている。アスピレーター入液コネクター31を境にアスピレーター30内部で試料溶液流路32が縮径されつつ、アスピレーター出液コネクター33まで導通している。アスピレーター30内部で試料溶液流路32は、人為気体吸込流路35と合流している。試料溶液流路32に繋がるアスピレーター出液コネクター33を境に試料溶液流路が拡径された出液チューブ36が、アスピレーター30から延び、その開放端36aが、測定対象用容器10の試料溶液11に浸かっている。
【0033】
一方、人為気体供給源50例えば小型ガスボンベやミニガスカートリッジは、流量計又は圧力計52と解放・閉鎖を調整する元栓51とを有するレギュレーター53に配管チューブ54が接続されている。必要に応じ、配管チューブ54の途中にニードルバルブのような流量調整弁55が設けられている。配管チューブ54は、その先の途中でT字管56によって分岐し分岐チューブ41に接続されており、分岐チューブ41が、容量可変緩衝容器入気コネクター42を介して、気密性の容量可変緩衝容器40例えば密閉性袋に挿入され、容量可変緩衝容器入気コネクター42と容量可変緩衝容器40とが熱融着されていることによって、分岐チューブ41の先端穴41aが容量可変緩衝容器40内部に連通しつつ外部に遺漏しないように、繋がっている。配管チューブ54はその先の途中で、必要に応じ、逆止弁57が設けられている。配管チューブ54の先端は、アスピレーター30に接続されて、そこで配管チューブ54が、アスピレーター入気コネクター34を介して人為気体吸込流路35に繋がっている。
【0034】
アスピレーター30は、アスピレーター式又はエジェクター式と言われるもので、狭窄やノズルによって高圧流体に外部流体が吸引されるという原理を用いてファインバブルを形成するものである。このアスピレーター30は、図2の試料溶液流路32及び人為気体吸込流路35に沿った断面図に示す通り、人為気体吸込流路35から人為気体を試料溶液流路32内へ巻き込みやすいように、人為気体吸込流路35が、真っすぐ延びた試料溶液流路32の流れ先に向かって斜め後ろ側方から合流している。図2では、人為気体吸込流路35が、斜め側方から試料溶液流路32に合流する例を示したが、T字状に垂直に合流するものであってもよい(不図示)。アスピレーター30は、水の噴流を利用して人為気体を巻き込みファインバブルを発生させるものであれば、試料溶液流路32と人為気体吸込流路35との内径は特に限定されない。しかしこのファインバブル供給装置1は、小型のガスボンベやミニガスカートリッジのような人為気体供給源50を用い少量の液状の測定対象部11にファインバブルを導入するものであるから、試料溶液流路32と人為気体吸込流路35との内径は、然程大きくない方が好ましい。具体的には、吸入チューブ21の内径、及び送出チューブ22の内径W・出液チューブ36の内径W・配管チューブ54の内径Wが0.5~10mm、好ましくは1~5mm、より好ましくは1~3mm、具体的には2mmであり、試料溶液流路32の内径W・人為気体吸込流路35の内径Wが0.05~1mm、好ましくは0.1~0.5mm、より好ましくは、1~0.25mm、具体的には0.2mmである。
【0035】
このようなアスピレーター30は、透明な硬質樹脂製、例えばポリカーボネート(PC)製、又はアクリル(PMMA)製、若しくは不透明な硬質樹脂製、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製であって、試料溶液流路32と人為気体吸込流路35とを彫り込んだ硬質樹脂板と平坦な硬質樹脂板とを貼り合わせて作製したり、立体印刷成形で作製したり、ドリルで試料溶液流路32と人為気体吸込流路35の孔を切削して作製したりすることによって得られる。
【0036】
このようなアスピレーター30で形成される人為気体のファインバブル12は、直径100nm~10μm程度、凡そ1μm程度の微細気泡である。
【0037】
容量可変緩衝容器40は、気密であって人為気体を常にトラップできるものであれば特に限定されないが、その好ましい一例は、可撓性樹脂フィルム製の気密の袋である。容量可変緩衝容器40は、人為気体をトラップして大気圧と均等にしつつ、人為気体供給源50からの人為気体の流量・圧力の変動・経時変化を緩衝して、常に単位時間当たり一定の人為気体をアスピレーター30に送り出すためのものである。これにより、小型のガスボンベやミニガスカートリッジのように使用により短時間で流量・圧力の変動・経時変化してしまう人為気体供給源50を用いても、単位時間当たり一定の人為気体からなるファインバブルをアスピレーター30に送り出すことができるようになる。
【0038】
容量可変緩衝容器40は、人為気体の流量を解放度合いによって調整する流量調整弁55を有していることにより、容量可変緩衝容器40内の人為気体の体積を常に一定範囲に維持することができる。流量調整弁55は、液状の測定対象部11の測定時間中に、容量可変緩衝容器40である袋が人為気体で膨らんでいるように、手動又は自動で調整してもよい。例えば、この場合、流量調整弁55には、ニードルバルブ、電磁弁、ボールバルブが用いられる。図1中で流量調整弁55を図示したが、流量調整弁55に代え又はそれと共に、流量計(マスフローメーター:MFM)を用いてもよく、マスフローメーター58の指示値に応じて駆動回路により流量調整弁55を調整するようにしてもよく、MFC(マスフローコントローラー)を用いてもよい。
【0039】
容量可変緩衝容器40の可変容積を調整する別な一例は、必要に応じて設けられるマスフローメーター(MFM)58(図1参照)により、アスピレーター30へ流れた人為気体の体積を測定し、デジタル変換回路で認識した体積分だけ、容量可変緩衝容器40である袋やピストンシリンジに人為気体が流れるように、マスフローメーター58の指示値に応じて駆動回路により流量調整弁55の開放度合いを制御し、容量可変緩衝容器40の容積を常に一定に調整するというものである。マスフローメーター58と容量可変緩衝容器40との間に、マスフローメーター58の指示値に応じて駆動回路により流量を調整する流量調整弁55を配置してもよく、さらに補助ポンプを容量可変緩衝容器40側に配置してもよい。
【0040】
また、容量可変緩衝容器40内の人為気体の体積が下限閾値を下回ったときに人為気体を容量可変緩衝容器40へ送気し、体積が上限閾値を上回ったときに人為気体の送気を停止する調整器を有していてもよい。容量可変緩衝容器40が袋である場合のその調整器は、図3に示すように、感圧センサーを袋の内外に設置し、容量可変緩衝容器40である袋の外側が感圧センサーに触れた場合は上限値を関知し、袋の内側が感圧センサーに触れた場合は下限値を関知することによって、体積の上限下限の閾値を感知するようにしておき、その上限閾値を上回ったと比較回路で検出した時に駆動回路により流量調整弁55を閉じ又は締め、一方その下限閾値を下回ったと比較回路で検出した時に駆動回路により流量調整弁55を開放しまたは緩めるというものである。好ましくは、容量可変緩衝容器40の容量を監視し、その容量が上限閾値と下限閾値との間となるように、流量調整弁55のオン/オフを制御するというものである。例えば、同図(a)~(c)に示すように、感圧センサーとしては、容量可変緩衝容器40の袋の上面側外装に配した電極46bと袋の上方に配した電極46aとからなり人為気体の体積が上限閾値を上回り袋が膨らみ過ぎた時に両電極46a・46bが接触することによって上限閾値を感知する電極対と、袋の上面側内部に配した電極46cと袋の下面側内部に配した電極46dとからなり人為気体の体積が下限閾値を下回り袋が萎み過ぎた時に両電極46c・46dが接触することによって下限閾値を感知する電極対とで、構成されるものであってもよい。または、図示しないが、感圧センサーとしては、電極対に代えて、加えられた力(例えば膨らみ過ぎによるセンサーへの押上げ力と萎み過ぎ時での重りによる重力など)によって生じる静電容量の変化によって圧覚を検知する静電容量型圧覚センサーであってもよく、絶縁体であるゴムに導電体材料を混ぜておき加えられた力に応じてそれの抵抗値の低下によって圧覚を検知する感圧導電性ゴム型圧覚センサーであってもよい。感圧センサーは、1軸・3軸又は縦横高さ方向の力とモー面と作用との6軸力覚センサーであってもよく、加えられた力やモーメントによって生じる袋の形状ひずみをコンデンサの静電容量の変化によって検知する静電容量型力覚センサーであってもよく、加えられた力やモーメントによって生じる袋の形状ひずみをひずみゲージセンサーで検知するひずみゲージ式力覚センサーであってもよい。
【0041】
或いは、図4に示すように、容量可変緩衝容器40の画像をカメラ47で撮影し、それの萎んだ状態から過剰に膨らんだ状態までを予め撮影しておいた対照画像と比較する画像認識によって、容量可変緩衝容器40である袋が、同図(a)に示すように一方過剰に膨らんだと認識したときに駆動回路により流量調整弁55を閉じ又は締め、同図(c)に示すように萎んだと認識したときに駆動回路により流量調整弁55を開放しまたは緩めることによって、容量可変緩衝容器40内の人為気体の体積が一定範囲になるようにしてもよい。
【0042】
容量可変緩衝容器40として、袋の例を挙げたが、図5(a)に示すように、分岐チューブ41へ繋がった気密の樹脂製・金属製又はガラス製であって、外筒43内で先端にゴム製ガスケット44aを装着したプランジャー44が、摺動可能に挿入された注射器型のピストンシリンジであってもよく、同図(b)に示すように、分岐チューブ41へ繋がった気密の樹脂製又は金属製でシリンダー43’内に可動ピストン44’が摺動可能に挿入されたピストンシリンジであってもよい。容量可変緩衝容器40であるピストンシリンジの容積を調整する一例は、プランジャー44又はピストン44’の位置を検出する位置センサーにより、上限閾位置を超えたと検出された時に駆動回路により流量調整弁55を閉じ又は締め、一方その下限閾位置を下回ったと検出された時に駆動回路により流量調整弁55を開放しまたは緩めるというものである。位置センサーに代えて画像認識で上限閾位置及び下限閾位置を判断するものであってもよい。
【0043】
容量可変緩衝容器40の可変容量の最大容量は、例えば10mL~10L、好ましくは50mL~1L、具体的には100~200mLである。
【0044】
図1図5の構成に代えて又はそれらと共に、図6に示すように、容量可変緩衝容器40内の人為気体の体積が所定量を上回ったときに所定量になるまで人為気体を外界へ放出させるオーバーフロー機構を、配管チューブ54、容量可変緩衝容器40及び/又は分岐チューブ41に有しているというものであってもよい。例えば同図(a)に示すように、容量可変緩衝容器40がピストンシリンジであって、プランジャー44又はピストンが所定の上限位置を超えた部位にて、外筒43又はシリンダーに、オーバーフロー機構45として過剰な人為気体を放出するが外気の逆流を防ぐ逆止弁が直に設けられ、又は開放穴とそれに繋がっている逆止弁とが設けられていてもよい。また、同図(b)に示すように、容量可変緩衝容器40が袋であって、そこに過剰圧力に達した時に開放されるオーバーフロー機構45(45’)として逆止弁が直に設けられ、又は開放穴とそれに繋がっている逆止弁とが、その袋の人為気体収容部の外壁に取り付けられていてもよい。
【0045】
図7に示すように、過剰気体排気ラインに外気の逆流を防ぐ逆止弁56を有していてもよい。
【0046】
人為気体供給源50は、常圧換算で500L以下を封入したもので、小型ガスボンベ(常圧換算で約500L封入の3.4L容量)やハンディタイプのミニガスカートリッジ所謂スプレー缶(約4.4L封入の10mL容量、約6.6L封入の15mL容量、約20~26L封入の60mL容量、約18~40L封入の95~98mL容量)のものである。
【0047】
このファインバブル供給装置1は、少量の測定対象部11にファインバブルを供給するものであるから、人為気体供給源50から供給される人為気体は、1~1000mL/分程度、好ましくは5~200mL/分、より好ましくは10~50mL/分程度流れるように、調整される。人為気体は、送液ポンプ20で循環させる試料溶液に対する比で、単位時間当たりの流量の2~1/100、好ましくは1/2~1/10程度となるように調整される。
【0048】
送液ポンプ20は、吸入チューブ21から試料溶液を吸入でき、送出チューブ22から試料溶液を送り出すことができるものであれば、特に制限はないが、例えばシリコーンなどの軟質チューブである吸入チューブ21をローラーでしごいて送液する送液ポンプであるペリスタルティックポンプ、インペラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、及びシリンジポンプが挙げられる。送液ポンプ20は、脈動型、無脈動型の何れでもよいが、無脈動型の方が好ましい。送液ポンプは、少量の測定対象部11に送液するためのものであるから、1~500mL/分、好ましくは20~200mL/分、より具体的には100mL/分程度を流すことができるものである。
【0049】
ファインバブル供給装置1は、図を参照しながら説明すると、以下のようにして使用される。先ず、測定対象用容器10に液状の測定対象部11である試料溶液を入れておく。次にポンプ20を駆動し、吸入チューブ21から試料溶液を吸入し、送出チューブ22から試料溶液を送り出す。すると試料溶液は、アスピレーター30を経て、出液チューブ36から、測定対象用容器10内に戻される。一方、人為気体供給源50の元栓51を開き流量計又は圧力計52で調整しながら所定量の人為気体を配管チューブ54に流すと、容量可変緩衝容器40に人為気体が溜まり、またアスピレーター30に至り、人為気体吸込流路35から試料溶液流路32に引き込まれて、人為気体のファインバブルが形成され、出液チューブ36の開放端36aから、試料溶液と共にファインバブル12が、測定対象用容器10内に導出され、試料溶液が人為気体のファインバブル12により徐々に人為気体が溶解し、終には人為気体で置換される。このとき、図3図7の何れかの手法によって、人為気体は容量可変緩衝容器40でほぼ一定となるように調整される。
【0050】
ファインバブル供給装置1は、小型の人為気体供給源からの人為気体のファインバブルを少量の測定対象部に導入して、容量可変緩衝容器40で緩衝しながら、溶存気体を人為気体に置換するのに有用である。しかし、大型の人為気体供給源(大気、若しくはガスタンク又は大型のガスボンベ)からの気体のファインバブルを大量のプールや生簀などに導入するには向かない。なぜならば、大型の人為気体供給源を用いる場合には、圧力変動・流動変動が短時間では起こり難く、容量可変緩衝容器40を使う必要がないばかりか、却って煩雑になるだけの効果が得られないからである。
【0051】
図1等で、屋内の実験室や測定室で、開放系の測定対象用容器10例えばビーカー中の液体の測定対象部11である試料溶液具体的には試料水溶液・試料懸濁液に、人為気体例えば窒素ガスのファインバブルを導入して溶存酸素を追い出して置換するという例を示したが、海底・海洋・海中・湖沼・河川などの測定現場の測定環境が測定対象部であってもよい。その場合、測定対象部と同等な水質と看做されるその周辺環境から送液ポンプで液体を吸引し、測定対象部にファインバブルを導入してもよい。例えば、図8(a)のように、ファインバブル供給装置1を有する海中状況測定装置60を船上から海中に投入し、所望の水深で各種データを測定する際に、各種センサーで測定している海水にファインバブルを供給するようにファインバブル供給装置1を駆動させる。それによって、海洋の所定の水深毎の海水の様々な項目の測定、具体的には窒素ガスによるファインバブルで置換して正確に二酸化炭素分圧のような項目の測定を行うことができる。また、同図(b)のようにモニタリングセンサーを内蔵する槍状外筒70及びファインバブル供給装置1を内蔵する海底地下状況モニタリング装置71を用い、槍状外筒70を海底の土壌に突刺して海底地下状況モニタリング装置で海底下の土壌中の海底地下水の循環状況、物理化学的性質の測定、海底メタンハイドレートのメタンガス濃度を測定する際に、各種センサーで測定している海水にファインバブルを供給するようにファインバブル供給装置1を駆動させて、窒素ガスによるファインバブルで置換して正確にメタンガス濃度のような項目の測定を行ったりするのに用いることができる。水溶液や懸濁水の他、超臨界水についても適用可能である。なお同図(a)・(b)には人為気体供給源や容量可変緩衝容器や、吸入チューブ・送出チューブ・配管チューブ等が隠れているので図示されていない。
【実施例0052】
以下、本発明を適用する実施例のファインバブル供給装置と、本発明を適用外の比較例のファインバブル供給装置とについて、説明する。
【0053】
(実施例1)
図1に示すファインバブル供給装置1として、人為気体供給源50として常圧換算で窒素ガス約4.5L封入の500mL容量のミニガスカートリッジを用い、容量可変緩衝容器40にフッ化ビニル樹脂製のテドラーバック(アズワン社製;テドラーは登録商標)を用い、ポンプとしてペリスタルティックポンプを用い、また流量調整弁55にニードルバルブを用い、流量調整弁58としてニードルバルブ及び流量計(マスフローメーター)を用い、測定対象部11として100mL水道水を試料溶液とし、流量調整弁58のニードルバルブ及び流量計を連動させることによって、図1のようにして、流量20mL/分に調整しながら、溶存酸素を追い出した。試料溶液中の溶存酸素濃度を測定するため、溶存酸素センサー(メトラー・トレド社製:製品名Seven2Go DO meter S9)を試料溶液中に挿入しておいた。ファインバブル供給装置1を動作させ、試料溶液中にファインバブル共存試料溶液を循環させた。その時の経過時間と溶存酸素濃度との相関関係を図9(a)に示す。図9(a)右図は、同左図の溶存酸素濃度のスケールを拡大したものである。
【0054】
図9(a)から明らかな通り、試料溶液は溶存酸素濃度が当初約7mg/Lであったが、ファインバブル供給装置1の動作開始から2分後には約1mg/Lに低減し、4分後には約0.1mg/Lに低減し、6分後には0.01mg/Lにまで低減した。
【0055】
(比較例1)
容量可変緩衝容器40を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、100mL水道水を試料溶液の溶存酸素濃度を測定した。その結果を図9(b)に示す。図9(b)右図は、同左図の溶存酸素濃度のスケールを拡大したものである。
【0056】
図9(b)から明らかな通り、試料溶液は溶存酸素濃度が当初約7mg/Lであったが、ファインバブル供給装置1の動作開始から2分後には、図9(a)と同様に約1mg/Lに低減したが、4分後には約0.25mg/Lに、6分後には約0.12mg/Lとなった。図9(a)と比較して、減少速度が遅くなった。これは、容量可変緩衝容器40を用いなかったため、装置運転中に気体供給圧力が低下することで、気体供給量が下がったことに起因すると思われる。
【0057】
従って、図9(a)及び(b)から明らかな通り容量可変緩衝容器40の使用が有効であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のファインバブル供給装置は、小型の人為気体供給源からの人為気体のファインバブルを少量の測定対象部に導入して、溶存気体を人為気体に置換して、溶存気体による影響を排除し、測定対象部の各種理化学分析を行うのに有用である。
【符号の説明】
【0059】
1はファインバブル供給装置、10は測定対象用容器、11は測定対象部(試料溶液)、12はファインバブル、20は送液ポンプ、21は吸入チューブ、22は送出チューブ、30はアスピレーター、31はアスピレーター入液コネクター、32は試料溶液流路、33はアスピレーター出液コネクター、34はアスピレーター入気コネクター、35は人為気体吸込流路、36は出液チューブ、36aは開放端、40は容量可変緩衝容器、41は分岐チューブ、42は容量可変緩衝容器入気コネクター、43は外筒、43’はシリンダー、44はプランジャー、44’はピストン、45・45’はオーバーフロー機構、46a~46dは電極、47はカメラ、50は人為気体供給源、51は元栓、52は流量計又は圧力計、53はレギュレーター、54は配管チューブ、55は流量調整弁、56はT字管、57は逆止弁、58はマスフローメーター、60は海中状況測定装置、70は槍状外筒及びモニタリングセンサー、71は海底地下状況モニタリング装置、W~Wは内径である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9