IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製粉株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102399
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ドーナツ用米粉
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20230718BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20230718BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002856
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】大柳 杏里
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB24
4B032DB35
4B032DG08
4B032DP06
(57)【要約】
【課題】本発明は、ザクザク感があり口どけのよい食感を有し、油ちょう後時間が経過してもその食感が劣化されがたいドーナツを提供することを目的とする。
【解決手段】体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径(D50)で除した値(M/D50)が1.5以下である、ドーナツ用米粉を用いることにより、上記課題が解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径(D50)で除した値(M/D50)が1.5以下である、ドーナツ用米粉。
【請求項2】
M/D50が1.4以下である、請求項1記載のドーナツ用米粉。
【請求項3】
請求項1又は2記載のドーナツ用米粉を含有する、ドーナツ用ミックス粉。
【請求項4】
体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径(D50)で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕して米粉を得る工程を含む、ドーナツ用米粉の製造方法。
【請求項5】
整粒前のM/D50をYとし、整粒後のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1となるように前記米粉を整粒する工程を更に含む、請求項4記載のドーナツ用米粉の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のドーナツ用米粉を用いてドーナツを製造することを含む、ドーナツの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツ用米粉に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーナツは、穀粉や澱粉、糖類等の粉末原料と任意に油脂原料とを混合して得られるドーナツミックスを使用し、水や卵等の液体原料を加えて混合して生地を作成し、成形した生地を液油やショートニングで油ちょうして製造される。このようにして得られるドーナツは、柔らかくて或いはサックリとして口溶けのよい食感を有している。近年の食の多様化に伴い、ドーナツにも特徴ある食感が求められるようになってきた。
一方、油ちょう後、しばらくの間はドーナツの食感は比較的良好に維持されるが、時間が経過すると共に劣化するという問題がある。このようなドーナツの食感劣化は、油ちょう済みのドーナツを常温保管し時間経過に伴って空気中の水分の吸湿や澱粉の老化が起こることに起因している。
他方、米の利用促進に伴い、ドーナツにも米粉が使用されるようになってきた。
特許文献1では、米粉と小麦粉の合計100質量部に対し、α化澱粉を2~28質量部含み、米粉と小麦粉の合計質量に対し、小麦粉が53質量%以下の量で含まれている上記油ちょうベーカリー食品用ミックス粉が開示されており、うるち米粉として粒度が粗く(粒度:90~120μm)損傷澱粉率が高い(9~14%)ロール粉砕米粉の高砂117(日本製粉株式会社製)を使用したこと、得られたドーナツがソフトでもちもちしていることが記載されている。
特許文献2には、米穀粒を水に浸漬して米浸漬液とした状態で米穀粒への吸水を図り、その後、米浸漬液を全て粉砕機に投入して粉砕することにより、水が吸収された状態の米微粒を得るものであり、且つこの米微粒間に遊離水が介在した状態の米ペーストとしたことを特徴とする米を原料とする食材が開示されており、米ペーストに含まれる粉砕された米穀粒である米微粒は、粒径の最大分布域が1~10μmであり、このような米ペーストを用いて製造したドーナツの食感及び味が本来の原料により製造されたものと遜色ないものとなったことが記載されている。
特許文献3には、米粉100質量部に対して小麦粉を0.1質量部以上5.0質量部以下及び膨張剤を配合したことを特徴とする米粉ドーナツ用ミックス粉が開示されており、食感にソフトさが有り色調に問題なく形状不良も少ないドーナツが得られることが記載されている。
何れの特許文献にも、ドーナツの製造に特定の米粉を用いることにより、ザクザク感があり口溶けが良いドーナツが得られることについての記載あるいは示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-073905
【特許文献2】特開2010-187663
【特許文献3】特開2013-081423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ザクザク感があり口どけのよい食感を有し、油ちょう後時間が経過してもその食感が劣化し難いドーナツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のメジアン径を有し、かつメジアン径に対するモード径の比を特定の範囲に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下を提供する。
【0006】
〔1〕体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径(D50)で除した値(M/D50)が1.5以下である、ドーナツ用米粉。
〔2〕M/D50が1.4以下である、〔1〕記載のドーナツ用米粉。
〔3〕〔1〕又は〔2〕記載のドーナツ用米粉を含有する、ドーナツ用ミックス粉。
〔4〕体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径(D50)で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕して米粉を得る工程を含む、ドーナツ用米粉の製造方法。
〔5〕整粒前のM/D50をYとし、整粒後のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1となるように前記米粉を整粒する工程を更に含む、〔4〕記載のドーナツ用米粉の製造方法。
〔6〕〔1〕または〔2〕記載のドーナツ用米粉を用いてドーナツを製造することを含む、ドーナツの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ザクザク感があり口どけが良く、油ちょう後に保存しても食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。更には、冷凍保存した後に常温解凍しても、ザクザク感があり口どけのよい食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
<米粉>
米粉とは、イネ科イネ属の植物の種実(頴果)である米穀粒を脱穀及び精白した後に粉砕して得られるものである。精白前の玄米を粉砕して得られる玄米粉も広義には米粉である。イネ属の植物にはジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種等の亜種並びにそれらのワキシー種、更には品種が知られているが、本発明のドーナツ用米粉に使用される米穀粒は、何れの米穀粒も使用することができる。好ましくは、アミロース含量が17質量%~23質量%である「あきたこまち」や「コシヒカリ」などのうるち米、アミロース含量が23質量%以上である「越のかおり」や「モミロマン」などの高アミロースうるち米、アミロース含量が5質量~15質量%である「ゆめぴかり」や「ミルキークイーン」などの低アミロースうるち米、「きぬのはだ」や「こがねもち」などのもち米等が挙げられ、より好ましくはうるち米である。
【0009】
一般的に、精白した米穀粒を各種粉砕方式により粉砕して得た米粉において、往々にして粒子径頻度分布曲線は1つの極大値を有した正規分布様の曲線となるが、粉砕方式やその粉砕条件によっては2つ以上の極大値やショルダーがみられることがある。また、粒子径累積分布曲線はシグモイド型の成長曲線となる。
「メジアン径」(D50とも称される)とは、累積分布曲線において粒子の小さい方から累積した累積50%における粒子径のことである。
「モード径」とは、測定装置において出現頻度が最大の粒子径チャンネルのことである。なお、粒子の集団が極大値を1つのみ有する場合、その極大値粒子径はモード径と一致する。
また、粒子の集団が正規分布している場合には、モード径とメジアン径とは一致する。なお、粉粒体の測定において、体積基準、個数基準等で測定値を得ることができるが、本発明においては、特に断りがない限り体積基準である。体積基準での粒子径の測定は、公知のレーザー回折・散乱法で測定することができ、その様な装置として例えばマイクロトラックを使用することができる。なお、特に断りのない限り、本明細書においてDXXと表した場合には、累積分布曲線において粒子の小さな方から累積した累積XX%の粒子径のことを意味する。
【0010】
本発明のドーナツ用米粉は、体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径で除した値(M/D50)が1.5以下である。前記範囲を満たす米粉を用いると、ザクザク感があり口どけが良く、油ちょう後に保存しても食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。更に、冷凍保存した後に常温解凍しても、ザクザク感があり口どけのよい食感が劣化されがたいドーナツを得ることができる。
【0011】
ドーナツ用米粉の体積基準のメジアン径D50は、好ましくは75μm以上であり、より好ましくは90μm以上であり、更に好ましくは100μm以上であり、より更に好ましくは110μm以上であり、なお好ましくは120μm以上であり、なお更に好ましくは125μm以上であり、なお更により好ましくは130μm以上であり、また、好ましくは550μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、更に好ましくは450μm以下であり、より更に好ましくは400μm以下であり、なお好ましくは300μm以下であり、なお更に好ましくは180μm以下である。メジアン径が100μm超の米粉を使用することにより、ザクザク感がより良好であり、より口どけのよい食感を有し、保存してもその食感が劣化し難いドーナツを得ることができ、メジアン径が110μm以上の米粉を使用すればその効果は更に良好になる。また、メジアン径が450μm以下の米粉を使用することにより、ザクザク感がより良好であり、より口どけのよい食感を有し、保存してもその食感が劣化し難いドーナツを得ることができ、メジアン径が180μm未満の米粉を使用すればその効果は更に良好になる。
【0012】
ドーナツ用米粉の体積基準のモード径を体積基準のメジアン径で除した値は、好ましくは1.45以下であり、より好ましくは1.4以下であり、更に好ましくは1.3以下であり、より更に好ましくは1.2以下である。この範囲に入る米粉を使用することにより、ザクザク感があり口どけのよい食感を有し、保存してもその食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。上記M/D50の下限値は特に限定されないが、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.05以上、更に好ましくは1.1以上、更により好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.3以上である。
ドーナツ用米粉の体積基準のモード径(M)は上記規定を満たしていればどのような値でもよいが、例えば、55~600μm程度であってもよく、さらに、100~500μmあるいは100~300μm程度であってもよい。
なお、本明細書の体積基準のメジアン径D50、体積基準のモード径M及びM/D50等の数値範囲と、実験的に得られた数値との関係は、実験的に有効数字3桁以上の精度で測定した値について3桁目の数字を四捨五入して2桁の数値とした後、本発明の前記数値範囲に入るかどうか判断する。
【0013】
<ドーナツ>
一般に、ドーナツは、その食感の観点から、ケーキ様の生地を用いて製造されるケーキ様の食感を有するケーキドーナツと、パン様の生地を用いて製造されるパン様の食感を有するイーストドーナツとに分類される。本発明では、ケーキドーナツ、イーストドーナツのいずれにおいても、ザクザク感があり口どけが良く、油ちょう後に保存しても食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。特にケーキドーナツではその効果が顕著であり好ましい。
ドーナツ生地は、澱粉質原料(穀粉および澱粉)、後述する添加剤、および後述する液体材料から製造されることが好ましい。本発明のドーナツ用米粉の、ドーナツ生地製造に用いる澱粉質原料(穀粉および澱粉)内の使用量は特に制限されるものではないが、生地に含まれる澱粉質原料の全量に対して、10~90質量%程度用いることが好ましく、20~80質量%用いることがより好ましく、25~75質量%用いることが更に好ましく、35~65質量%用いることがより更に好ましく、40~60質量%用いることがなお好ましい。なお、全量が米粉であってもよいが、費用対効果の観点から90質量%以下であることが好ましい。
【0014】
ケーキドーナツは、柔らかく流動性のある「バッター生地」を用いるものと、比較的硬く可塑性のある「ペースト生地」を用いるものと、原料に含まれる澱粉質原料由来の澱粉の一部又は全部がα化された流動性のある「α化生地」を用いるものとに大別される。
このようなケーキドーナツ用の生地は、穀粉や糖類等の副原料を含む粉末原料と水分や液卵等を含む液体原料とを用い、なるべくグルテンが形成されないように均質になるまで混合して得られる。液体原料は、穀粉等の澱粉質原料以外の粉末原料の種類と使用量により変動するが、バッター生地とペースト生地とでは概ね澱粉質原料(穀粉および澱粉)100質量部に対して50~90質量、α化生地では概ね180~250質量部である。
なお、目的とするケーキドーナツを得るために意図的にグルテンを形成させることもあり、例えばオールドファッションであれば割れのある特徴的な外観を引き出すためにグルテンを形成させている。
【0015】
ケーキドーナツの加熱膨張には化学膨張剤の反応によって発生するガスが利用される。風味付け等の目的でイースト発酵を組合わせる場合があるが、ケーキドーナツ用のバッター生地とα化生地とは流動性が高いため、イースト発酵に伴い発生するガスは発酵中に生地から放出され、そのガスの加熱膨張に対する寄与度は低いか寄与しないかである。また、化学膨張剤の反応により発生するガスの生地からの放出を極力避けるため、ケーキドーナツ用の生地を製造した後にはなるだけ時間を空けずに油ちょうされる。油ちょうする前にはケーキドーナツ用の生地を成形するが、流動性の高いバッター生地とα化生地とは器具や装置等を使用せずには成形することが困難である。ペースト状生地についても、可塑性があるために器具や装置等を用いて成形することが一般的である。
【0016】
イーストドーナツは、パンと同様に、伸展性と弾力性を有する「ドウ生地」を用いて製造される。このようなイーストドーナツ用の生地は、穀粉や糖類等の副原料を含む粉末原料と水分や液卵等を含む液体原料とを用い、グルテンが形成されるように混捏して得られる。液体原料は、穀粉等の澱粉質原料以外の粉末原料の種類と使用量により変動するが、概ね澱粉質原料100質量部に対して50~80質量である。イーストドーナツの加熱膨張にはイースト発酵により発生するガスが利用される。そのため、パンの製造と同様に一次発酵、パンチ、分割、ベンチ、二次発酵(ホイロ)等の工程を経て最終生地を得ることになる。化学膨張剤を併用する場合もあるが、一般的にイースト発酵の助剤という位置づけである。ドウ生地は伸展性と弾力を有しているので、分割、丸め等の作業により、器具や装置等を使用せずとも容易に成形することができる。
【0017】
このようなドーナツ用生地中では化学膨張剤の反応又はイースト発酵により発生したガスが微細な気泡を形成し、その気泡が油ちょう等により加熱されて膨張し、多孔質構造を有するドーナツが得られることとなる。
【0018】
ドーナツ用生地中に微細な気泡を含有させる手段は、公知の手段であれば何れも適用することができるが、ケーキドーナツであれば化学膨張剤、イーストドーナツであればイーストを使用することが好適である。ここで、化学膨張剤とは、水分と接触することにより炭酸ガスやアンモニアガスといった気体が発生する食品添加物のことであり、水分と接触している際に加熱することによりガス発生は加速される。このような化学膨張剤としては、ベーキングパウダーやイスパタなどの複合膨張剤、重曹や重炭酸アンモニウムなどの単体膨張剤等が挙げられる。なお、複合膨張剤とは、単体膨張剤を基剤とし、酒石酸水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、フマル酸、ミョウバン、塩化アンモニウム等の助剤と澱粉等の遮断剤とを含むものである。それらの割合に応じて基剤の反応性を調節することができ、即効型や遅効型の複合膨張剤が市販されている。単体膨張剤を使用する場合には、その使用量に合わせて適量の助剤が添加される。
【0019】
<ドーナツ用ミックス粉>
本発明のドーナツ用ミックス粉は、前記ドーナツ用米粉を含有する。一般的に、ミックス粉は、その使用用途に応じて、ドーナツ用米粉に、小麦粉、糖類、澱粉、膨張剤、調味料、香料、色素等の粉末原料、油脂類などを混合したものをいう。
本発明のドーナツ用ミックス粉は、前記ドーナツ用米粉に加えて、普通小麦、デュラム小麦、ライ麦、大麦、米、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉(ただし、穀粉が米粉である場合は前記ドーナツ用米粉を除く);馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の穀物に準ずる主食となる農作物である塊茎粉あるいは塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹等及びそれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉);前記澱粉をα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらの組合せを行った変性澱粉;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、パーム油、大豆油、コーン油、菜種油、オリーブ油、アマニ油等の油脂類;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン等の乳化剤;ベーキングパウダー、重曹等の膨張剤;キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギーナン、グアガム、タマリンドガム、アラビアガム等の増粘多糖類;メチルセルロース等のセルロース誘導体;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常ドーナツ用ミックス粉の製造に用いる副原料を含むことができる。
【0020】
本発明のドーナツ用ミックス粉におけるドーナツ用米粉の含有量は、特に制限されるものではない。好ましくはドーナツ用ミックス粉に含まれる澱粉質原料の全量に対して、ドーナツ用米粉は10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、更に好ましくは35質量%以上であり、より更に好ましくは40質量%以上であり、また、全量が米粉であってもよいが、費用対効果の観点から90質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、更に好ましくは65質量%以下であり、より更に好ましくは60質量%以下である。ドーナツ用ミックス粉にドーナツ用米粉が含まれていれば、ザクザク感があり口どけのよい食感を有し、保存してもその食感が劣化し難いドーナツを得ることができる。なお、前記澱粉質原料とは、穀類や穀類に準ずる主食となる農作物等の澱粉を主要構成成分とする農作物の粉末、それら農作物から分離精製された澱粉、及び、それら澱粉に科学的及び/又は物理的処理を施した変性澱粉からなる概念であり、本発明のドーナツ用米粉も包含するものである。
【0021】
<ドーナツ用米粉の製造方法>
本発明のドーナツ用米粉の製造方法は、体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)を体積基準のメジアン径で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕する工程を含む。
米穀粒から米粉を得るための粉砕方式は特に限定されず、ロール式、気流式、ピン式(衝撃式)、ハンマー式、サイクロン式、超遠心式、ターボミル式、挽き臼式、胴搗式等の公知の製粉方法を使用することができる。中でも、ロール式粉砕機の場合はロール間の間隙を調節することによって、気流式粉砕機の場合は気流の流速や流量を調節することによって、米粉のD50及びM/D50を上記範囲内に調節しやすくなるため、これらの粉砕方式を採用することが好ましい。
【0022】
上記D50及びM/D50を調節する手段として、粉砕方式及びその条件の他に、篩い分けや空気分級等の公知の整粒方法を採用することもできる。なお、本発明において「整粒」とは、米粉の微粒画分及び/又は粗粒画分を分離除去し、米粉の粒度分布を整えることを意味する。例えば、篩い分けを行う場合には篩により微粒米粉を除去することができる。空気分級を行う場合にはローターを用いて強制的に生じる渦流による遠心力と空気抵抗とのバランスにより米粉を粒子サイズで分けることができ、更にメッシュフィルターを使用することでより効果的に微粒米粉を除去することができる。微粒米粉を除去すると、MとD50の差が小さくなり、M/D50を小さくすることができる(1へ近づく)。また目の粗い篩と目の細かい篩とを併用することにより、粗粒米粉及び微粒米粉が除去されるので、M/D50をより小さくすることができる。別の見方をすると、整粒によりDXXとD50との差が小さくなる。
【0023】
本発明のドーナツ用米粉の製造方法は、更に、整粒前の米粉のM/D50をYとし、整粒後の米粉のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1、好ましくは|Y-Z|≧0.2、より好ましくは|Y-Z|≧0.25、更に好ましくは|Y-Z|≧0.3、更により好ましくは|Y-Z|≧0.35となるように米粉を整粒する工程を含むことが好ましい。これにより、サクサク感がありかつ口溶けのよい食感を維持しやすくなる。なお、本発明において|Y-Z|はY-Zの絶対値を表す。
米穀粒の粉砕の前に、米穀粒を水中に浸漬する、酵素処理をする等の前処理を行ってもよい。
【実施例0024】
<製造例1 米粉の製造>
うるち米の精白米を気流式粉砕装置(株式会社躍進機械製作所、KV-15-5S)又はロール式粉砕装置(明治機械株式会社、MQ型)に供し、運転条件を調節して粉砕し、米粉を得た。得られた米粉の粒度分布について、マイクロトラック法(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3000)により体積基準で測定した(表1)。なお、米粉A~Cでは、粒子径頻度分布曲線は1つの極大値(モード径)を有した正規分布様の曲線であった。米粉D及びEでは、モード径よりも微粒側(200μm付近)にショルダーが見られた。米粉Fは、微粒側(200μm付近)に極大ともショルダーともとれる分布曲線を有していた。
【0025】
【表1】
*Mはモード径のことである。
*DXXは、米粉粒子の小さな方から累積した累積XX%の粒子径のことである。
*粒子径の単位はμmである。
【0026】
<製造例2 整粒米粉の製造>
うるち米の精白米を気流式粉砕装置(株式会社西村機械製作所、SPM-R200)に供して粉砕し、米粉Gを得た。得られた米粉Gの一部を53メッシュの篩を取り付けた小型テストシフター(株式会社東京製粉機製作所、TS-245)を用い30、60、90秒間篩い分けし、各々米粉H、J、Kを得た。製造例1と同様にマイクロトラック法により粒度分布を体積基準で測定した(表2)。
何れの米粉においても、粒子径頻度分布曲線は1つの極大値(モード径)を有した正規分布様の曲線であった。篩い分けしていない米粉GのD50(メジアン径)は79.88μmであり、米粉H~KのD50は篩い分け時間に依存して大きくなった。また、米粉J及びKでは、元の米粉Gのモード径が114.1μmであったところ、60秒以上の篩い分けにより124.5μmになった。篩い分けに伴ってモード径とD50との差が小さくなり、D50に対するモード径の比は1.428から米粉Kでは1.075にまで小さくなった(1に近づいた)。このことから、米粉Gを構成する米粉に含まれる微粉米粉が除去されたことが判った。
【0027】
【表2】
*Mはモード径のことである。
*DXXは、米粉粒子の小さな方から累積した累積XX%の粒子径のことである。
*粒子径の単位はμmである。
【0028】
<製造例3 ケーキドーナツの製造1(ペースト生地)>
下記配合表1に記載の粉体原材料をミキサー(KitchenAid社製、KSM5)に投入して粉体混合し、油脂原料を投入して更に混合してミックス粉を得た。このミックス粉に液体原料をミキサーに投入し、低速で1分間、高速で2分間混合して均質なケーキドーナツ用ペースト生地を得た。捏上温度は20℃であった。混捏した生地をドーナツカッター(ベルショー社製、Fカッター及びプレーンプランジャー)で52g/個のリング状の生地に分割し、フライヤーに投入した。190℃のフライ油で50秒反転75秒フライして標準的なケーキドーナツを得た。
【0029】
配合表1
※小麦粉は(株)ニップン イーグル使用
【0030】
<評価例1 官能評価>
製造したドーナツについて、放冷の直後(1時間)及び放冷した後に樹脂製袋で翌日まで密封保存後(24時間)の食感を下記評価基準表に従って熟練パネラー10名により官能評価し、平均点と標準偏差(SD)を求めた。なお、製造例3に従って製造した放冷の直後(1時間)のドーナツのザクザク感を1点、口どけを3点とした(参考例1)。
【0031】
官能評価基準表
【0032】
<試験例1 米粉粒子径の検討(ペースト生地)>
表3記載の米粉50質量部と小麦粉50質量部とを用いた以外は製造例3に従ってドーナツを製造し、評価例1に従って評価した。なお、作業性を考慮し、ドーナツ生地製造に際して粘度が同じになるように加水量を調節した。
その結果、米粉A及びBを用いて製造したドーナツでは、参考例1の小麦粉のみで製造したドーナツよりもややザクザク感があったものの、モチモチとした食感になり、口どけが悪かった。米粉C~Eでは、油ちょう後並びに保存後共にザクザク感があり口どけも良く良好な食感であり、中でも米粉Dにおいて最も良好であった。米粉Fでは、油ちょう後並びに保存後共に良好なザクザク感であったが、口どけは参考例1と同等であった。米粉Bと米粉Cとではモード径が一致しているが、D50が異なり、D50に対するモード径の比が1.984と1.330となり、その差異がドーナツの食感の差につながっていると言え、米粉の粒度分布がドーナツの食感に大きく影響することが示された。
【0033】
【表3】
【0034】
<試験例2 整粒米粉の検討(ペースト生地)>
表4記載の米粉50質量部と小麦粉50質量部とを用いた以外は製造例3に従ってドーナツを製造し、評価例1に従って評価した。なお、試験例1同様に加水量を調節した。
各米粉を用いたドーナツの食感は、米粉Gでやや良好であり、D50に対するモード径の比が小さくなるにつれて(米粉HからKになるにつれて)良好になった。翌日のドーナツでは、米粉Gの評価点がザクザク感及び口どけ共に1点下落したのに対して、米粉H~Kの下落幅が小さくなり食感劣化が抑制されことが判った。
【0035】
【表4】
【0036】
<試験例3 配合割合の検討>
表5記載の質量部の米粉と小麦粉とを用いた以外は製造例3に従ってドーナツを製造し、評価例1に従って評価した。なお、試験例1同様に加水量を調節した。
米粉を使用した試験番号3及び4、9、11及び12では、何れも油ちょう1時間後のドーナツの食感が良好であり、試験番号4、11及び12では米粉の割合の増加に依存してより良好な食感になった。翌日は、何れも食感の劣化が起こるものの、何れも小麦粉のみミックス粉を使用した場合よりも良好であった。特に試験番号4、11及び12では、米粉の割合の増加に依存して食感劣化が起こり難くなった。
【0037】
【表5】
【0038】
<製造例4 ケーキドーナツの製造2(バッター生地)>
下記配合表2に記載の粉体原材料をミキサー(KitchenAid社製、KSM5)に投入して粉体混合し、油脂原料を投入して更に混合してミックス粉を得た。このミックス粉に水、卵をミキサーに投入し、低速1分中速2分で均質なケーキドーナツ用バッター生地を得た。捏上温度は24℃であった。混捏した生地をドーナツカッター(ベルショー社製、Fカッター及びプランジャー)で45g/個のリング状の生地に分割し、フライヤーに投入した。190℃のフライ油で60秒ターン60秒フライして標準的なケーキドーナツを得た。
【0039】
配合表2
【0040】
<試験例4 整粒米粉の検討(バッター生地)>
小麦粉100質量部の代わりに表6記載の米粉50質量部と小麦粉50質量部とを用いた以外は製造例4に従ってドーナツを製造し、評価例1に従って評価した。評価にあたり、官能評価基準表の「サックリとして」を「ソフトで柔らく」に読み替えた。なお、試験例1同様に加水量を調節した。
各米粉を用いたドーナツの食感は、米粉Gでやや良好であり、D50に対するモード径の比が小さくなるにつれて(米粉HからKになるにつれて)良好になった。翌日のドーナツでは、試験例2と同様に、評価点の下落幅が米粉Gよりも米粉H~Kの方が小さくなり食感劣化が抑制されことが判った。
【0041】
【表6】
【0042】
<製造例5 ケーキドーナツの製造3(α化生地)>
下記配合表3に記載の粉体原材料をミキサー(KitchenAid社製、KSM5)に投入して粉体混合し、油脂原料を投入して更に混合してミックス粉を得た。このミックス粉に水をミキサーに投入し、中速で3分間、卵液を投入し低速1分中速で3分間混合して均質なケーキドーナツ用α化生地を得た。捏上温度は30℃であった。混捏した生地をドーナツカッター(ベルショー社製、Fカッター及びプランジャー)で36g/個のリング状の生地に分割し、フライヤーに投入した。190℃のフライ油で2分30秒ターン3分ターン30秒フライして標準的なシュードーナツを得た。
【0043】
配合表3
【0044】
<試験例5 整粒米粉の検討(α化生地)>
β澱粉を表7記載の米粉に置き換えた以外は製造例5に従ってドーナツを製造し、評価例1に従って評価した。評価にあたり、官能評価基準表の「サックリとして」を「ふんわりと柔らく」に読み替えた。なお、試験例1同様に加水量を調節した。
各米粉を用いたドーナツの食感は、米粉Gでやや良好であり、D50に対するモード径の比が小さくなるにつれて(米粉HからKになるにつれて)良好になった。翌日のドーナツでは、試験例2及び4同様に、評価点の下落幅が米粉Gよりも米粉H~Kの方が小さくなり食感劣化が抑制されることが判った。
【0045】
【表7】