(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102513
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】小麦粉と小麦ふすまを含む製麺用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230718BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230718BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20230718BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/109 D
A23L7/109 B
A23L7/109 C
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003040
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】大井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
【テーマコード(参考)】
4B023
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LC09
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4B046LP51
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ふすまを含有しつつ穀物臭が抑制され、良好な風味と食感を備えた製麺用組成物を提供することである。
【解決手段】下記の(a)と(b)を98:2~70:30の質量比で配合することによって優れた製麺用組成物を得ることができる。
(a)中心粒径が20~100μmであり、103μm以上の粒子の割合が15%以上である小麦粉
(b)中心粒径が20~100μmである加熱処理された小麦ふすま
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)中心粒径が20~100μmであり、103μm以上の粒子の割合が15%以上である小麦粉と、
(b)中心粒径が20~100μmである加熱処理された小麦ふすまと、
を98:2~70:30の質量比で含有する、製麺用組成物。
【請求項2】
前記小麦ふすまが、α-アミラーゼ力価が150mU/g以下であり、中性プロテアーゼ力価が20U/g以下である、請求項1に記載の製麺用組成物。
【請求項3】
前記小麦ふすまのL値が31以上である、請求項1または2に記載の製麺用組成物。
【請求項4】
前記加熱処理ふすまが加水焙煎ふすまである、請求項1~3のいずれかに記載の製麺用組成物。
【請求項5】
前記小麦粉の灰分が0.6質量%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の製麺用組成物。
【請求項6】
前記製麺用組成物の食物繊維含量が9~15質量%であり、前記製麺用組成物の灰分が1~2.5質量%である、請求項1~5のいずれかに記載の製麺用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の製麺用組成物を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法。
【請求項8】
前記麺類が麺線または麺帯である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記麺類が麺皮である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の製麺用組成物を原料とする麺類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉と小麦ふすま(穀物外皮)を含む製麺用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ふすまは、食物繊維やミネラルを豊富に含むことが知られている。例えば、小麦の外皮である小麦ふすまは、食物繊維、ミネラル、ビタミンが豊富な食品素材として近年注目されている。しかし、小麦ふすまは、組織が硬く喫食時に口の中に残ってしまう上、ふすま特有の不快臭を有することがある。そのため、小麦ふすまを用いた従来の二次加工製品は、食感が悪く、ふすま特有の臭いが残ってしまう問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1~2には、ふすま加工品の食感を改善し、臭いを抑えて食品素材として好適なものとする技術が提案されている。
また、麺類にふすまを配合することに関しては、特許文献3に、ふすまの部位を選択することによって雑味を抑制し、美味しいうどん類を製造することが記載されている。特許文献4には、蒸煮処理した小麦ふすまを麺類に含有させることによって製麺性に優れ、良好な弾力性を有する麺類を得ることが記載されている。特許文献5には、加水焙煎処理したふすまを麺類に含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-243984号公報
【特許文献2】特開2014-140366号公報
【特許文献3】特開2015-070836号公報
【特許文献4】特開2017-029146号公報
【特許文献5】特開2018-191552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ふすまは、食物繊維やビタミン、ミネラルを豊富に含むものの、組織が硬く喫食時に口の中に残ってしまう上、特有の不快臭を有することがある。例えば、小麦ふすまや小麦全粒粉を食品に配合すると、食品の食感が悪くなったり、ふすま特有の臭いが残ってしまったりする問題があった。特に、小麦全粒粉や従来の小麦ふすまを単に麺類に配合すると、製麺性が低下したり、麺の風味や食感が悪化したりしてしまう場合があった。
【0006】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、製麺性が良好であり、かつ、風味や食感に優れた麺類を製造するための小麦粉組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討したところ、特定の中心粒径を有する加熱処理した小麦ふすまを特定の中心粒径を有する小麦粉と混合した小麦粉組成物によって、製麺性に優れ、風味や食感に優れた麺類を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、下記の態様を包含する。
[1] (a)中心粒径が20~100μmであり、103μm以上の粒子の割合が15%以上である小麦粉と、(b)中心粒径が20~100μmである加熱処理された小麦ふすまと、を98:2~70:30の質量比で含有する、製麺用組成物。
[2] 前記小麦ふすまが、α-アミラーゼ力価が150mU/g以下であり、中性プロテアーゼ力価が20U/g以下である、[1]に記載の製麺用組成物。
[3] 前記小麦ふすまのL値が31以上である、[1]または[2]に記載の製麺用組成物。
[4] 前記加熱処理ふすまが加水焙煎ふすまである、[1]~[3]のいずれかに記載の製麺用組成物。
[5] 前記小麦粉の灰分が0.6質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の製麺用組成物。
[6] 前記製麺用組成物の食物繊維含量が9~15質量%であり、前記製麺用組成物の灰分が1~2.5質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の製麺用組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の製麺用組成物を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法。
[8] 前記麺類が麺線または麺帯である、[7]に記載の方法。
[9] 前記麺類が麺皮である、[7]に記載の方法。
[10] [1]~[6]のいずれかに記載の製麺用組成物を原料とする麺類。
【発明の効果】
【0009】
本発明の小麦粉組成物によれば、製麺性に優れており、風味や食感に優れた麺類を製造することができる。本発明によって製造した麺類は、小麦ふすまを含有しつつも穀物臭や雑味が少なく、非常に風味のよいものである。
【0010】
また、小麦ふすまは、食物繊維やミネラル、ビタミンが豊富な食品素材であり、本発明に係る麺類は、豊富な栄養素を摂取するという観点からも有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、麺類を製造するための小麦粉組成物に関する。本発明に係る小麦粉組成物(以下、「製麺用組成物」ともいう)は、(a)中心粒径が20~100μmであり、103μm以上の粒子の割合が15%以上である小麦粉と(b)中心粒径が20~100μmである、加熱処理された小麦ふすま(以下、「加熱小麦ふすま」ともいう)を含んでなる。本発明においては、中心粒径が同程度の小麦粉と小麦ふすまを混合することによって、特に製麺性に優れた小麦粉組成物とすることができる。
【0012】
本発明に係る製麺用組成物は、(a)の小麦粉と(b)の小麦ふすまを、98:2~70:30の質量比で含有し、(a):(b)の質量比は、95:5~75:25が好ましく、92:8~78:22がより好ましく、90:10~80:20がさらに好ましい。質量比がこのような範囲であると、製麺性が向上し、麺類の風味が向上する。一般に、小麦ふすまには食物繊維が多く含まれるため、食物繊維が少ない小麦粉と比べ、吸水率や吸水スピードが大きく異なっているところ、小麦ふすまを小麦粉に添加して小麦粉生地を調製する際、他の粉体原料と十分に混合してから水を添加しないと、水が偏在し、作業性が悪い生地になる。特に麺類生地は、パン生地などと異なり添加する水が少ないため、顕著に製麺性や作業性が悪化し、生地だれ、麺帯・麺皮の表面の荒れ、短い麺線の発生、餡を包む際の破れなどが発生しやすくなる。本発明においては、小麦粉と加熱小麦ふすまを上記の質量比で、水を添加する前にあらかじめ混合しておくことで、麺類生地を調製する際、加熱小麦ふすまが少なくとも3倍以上に希釈されてから他の粉体原料と混合されることになるため、分散しやすく、製麺性や作業性を改善することができる。
【0013】
本発明に係る製麺用組成物は、(a)の小麦粉の製粉歩留まりを踏まえて、(a):(b)の質量比を決めることができる。例えば、(a)の小麦粉を製造する際に回収できなかった質量を、(b)の加熱小麦ふすまとして混合することができる。例えば、(a)の小麦粉を製造する際の製粉歩留まりが85%であった場合、(b)の加熱小麦ふすまを15%程度配合し、(a):(b)の質量比を85:15とすることができる。なお、本発明において、製粉歩留まりとは、原料小麦に対する製粉して得られた小麦粉の重量割合である。
【0014】
本発明に係る製麺用組成物は、103μm以上の粒子の割合が13%以上であることが好ましく、15~60%がより好ましく、16~55%としてもよい。
本発明に係る製麺用組成物は、食物繊維含量が9~15質量%であることが好ましく、9.2~14.5質量%がより好ましく、9.8~14質量%としてもよい。また、本発明に係る製麺用組成物は、灰分が1~2.5質量%であることが好ましく、1.1~2.2質量%がより好ましく、1.2~2.0質量%としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る製麺用組成物は、(a)の小麦粉の原料小麦と同等の食物繊維含量、灰分を含むことが好ましい。本発明における同等とは、食品表示法に基づく栄養成分表示における食物繊維の許容差の範囲にならい、プラスマイナス20%に含まれることをいう。すなわち、本発明に係る製麺用組成物の食物繊維含量、灰分は、(a)の小麦粉の原料小麦の食物繊維含量、灰分を100質量%としたとき、80~120質量%の範囲に設計することが好ましい。なお、(a)の小麦粉の原料小麦の食物繊維含量、灰分は、原料小麦の一部をサンプリングして、食物繊維含量、灰分を分析すればよい。なお、本発明において、食物繊維含量は、プロスキー変法(AOAC公定法991.43)に基づいて測定することができ、灰分は、AACC Method08-02に従って直接灰化法で測定することができる。
【0016】
(a)中心粒径が20~100μmであり、103μm以上の粒子の割合が15%以上である小麦粉
本発明に係る製麺用組成物は、中心粒径(中位径)が20~100μmである小麦粉を含んでなる。このような小麦粉を製麺用組成物に配合することで、製麺性や作業性が良好で、風味、粘弾性、汁含みが良好な麺類を得ることができる。本発明に係る(a)の小麦粉の中心粒径は20~100μmであるが、好ましくは25~90μmであり、より好ましくは30~70μm、さらに好ましくは30~60μmである。中心粒径がこのような範囲である小麦粉を含む製麺用組成物を麺類の製造に用いることで、粘弾性が良好な麺類を得ることができる。
【0017】
また、本発明の(a)の小麦粉において、体積基準の粒子径累積分布での103μm以上の粒子径を有する粒子の割合は、全体の15%以上であり、好ましくは17~60%、より好ましくは19~55%、さらに好ましくは21~50%、特に好ましくは23~45%である。このような小麦粉を製麺用組成物に用いることで、製麺性や作業性が良好で、風味、粘弾性、汁含みが良好な麺類を得ることができる。
【0018】
本発明において、中心粒径や103μm以上の粒子径を有する粒子の割合は、体積基準の粒子径累積分布から決定することができ、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準の粒子径分布を得て、体積基準での積算分析曲線の50%に相当する粒子径を中心粒径として算出する。また、粒子径分布で103μm以上の粒子径を有する粒子の体積基準の割合を算出する。
【0019】
本発明に係る(a)の小麦粉は、常法に従って製造すればよく、例えば、精選した小麦粒を、加水・調質(テンパリング)した後、ロール粉砕機、シフター、ピュリファイヤーを用いた多段式製粉方法で製造することができる。また、精麦工程や一般的な粉砕機(臼式粉砕機、衝撃式粉砕機、気流式粉砕機等)を用いた粉砕工程、分級工程などを行い、粒度構成を調整することができる。好ましい態様としては、臼式粉砕機または衝撃式粉砕機(例えばパルベライザー等)により粉砕・粒度調整する工程を含んだ製造方法である。例えば、精選した小麦粒を、そのまま、もしくは、精麦工程を経たものを、臼式粉砕機または衝撃式粉砕機で粉砕・粒度調整し、最終篩に供して、本発明の(a)の小麦粉を製造する。臼式粉砕機または衝撃式粉砕機による粉砕では、一般的なロール粉砕と比べて胚芽部分も細かく粉砕されやすく、本発明の(a)の小麦粉にも含まれるため、胚芽中の成分由来の甘みや旨味を麺類に付与できる。より好ましい態様としては、小麦ふすま由来のえぐ味や臭いが麺類に付与されないように、精麦率98%以下に精麦する工程を含む製造方法である。また、本発明の(a)の小麦粉を製造する上で、製粉歩留まりは78%以上が好ましく、80~90%がより好ましく、80~85%さらに好ましい。
【0020】
本発明に係る(a)の小麦粉において、原料小麦は特に限定されないが、軟質小麦を原料とすることが好ましい。軟質小麦の産地や品種などは特に限定されず、1種の小麦から小麦粉を製造することもできるし、2種以上の小麦を組み合わせて小麦粉を製造することもできる。一般に小麦は種子の硬さ(硬軟質性)に基づいて硬質小麦と軟質小麦に分類されるところ、硬質小麦はたん白質含量が高く種子がアメ色に見える硝子質のものが多く、軟質小麦はたん白質含量が低く種子が白っぽく見える粉状質のものが多い。種子の硬軟質性は、ピュロインドリン-aとピュロインドリン-bという2種のたん白質の遺伝子の変異によって決定され、野生型が軟質で、これらの遺伝子に変異が起きると硬質になる。軟質小麦の例としては、ウエスタン・ホワイト、ソフト・ホワイト、ホワイト・クラブ、オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)、きたほなみ、さとのそら、農林61号、あやひかり、チクゴイズミなどが挙げられる。軟質小麦の産地は特に制限されないが、日本産であるとより好ましい。さらに好ましい態様において本発明に係る軟質小麦は、アミロース合成遺伝子Wx-1を1つまたは2つ欠失した品種を含み、よりさらに好ましくはアミロース合成遺伝子Wx-1を1つまたは2つ欠失した品種のみからなる。このような原料小麦から得られた小麦粉を製麺用組成物に用いることで、粘弾性が良好な麺類を得ることができる。
【0021】
また、本発明の(a)の小麦粉は、好ましい態様において灰分が0.6質量%以上であり、0.6~2.0質量%、0.6~1.5質量%や0.6~1.0質量%がより好ましい。このような小麦粉を製麺用組成物に用いることで、風味、汁含みが良好な麺類を得ることができる。
【0022】
(b)中心粒径が20~100μmである加熱小麦ふすま
本発明に係る製麺用組成物は、中心粒径(中位径)が20~100μmである加熱処理した小麦ふすま(単に「加熱小麦ふすま」ともいう)を含む。小麦ふすまを加熱処理して得られる加熱小麦ふすまは、小麦ふすま特有の穀物臭やえぐ味が低減されているため、麺類に配合しても風味が損なわれにくい。また、加熱小麦ふすまを含有する麺類は、穀物臭やえぐ味が少ないだけではなく、製麺性にも優れ、食感も良好である。
【0023】
本発明に係る製麺用組成物は、(a)中心粒径が20~100μmの小麦粉と(b)中心粒径が20~100μmの加熱小麦ふすまを、98:2~70:30の質量比で含んでなる。加熱小麦ふすまの量が多くなりすぎると、穀物臭やえぐ味が感じられて風味が劣る場合や製麺性が低下する場合がある。
【0024】
加熱小麦ふすまの中心粒径は20~100μmであるが、好ましくは25~80μm、より好ましくは25~60μmである。このような加熱小麦ふすまを用いると、製麺性や作業性が良好で、粘弾性が良好な麺類を得ることができる。
【0025】
また加熱小麦ふすまは、103μm以上の粒子の割合が35%以下であることが好ましく、5~30%がより好ましく、8~25%、10~20%としてもよい。
加熱小麦ふすまの粒度の調整方法は特に限定されず、粉砕により粒度を調整してもよく、粉砕と分級により調整しても良い。粉砕方法としては、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等公知の方法を用いることができる。上述した粒度の加熱小麦ふすまを得るためには、微粉砕が可能な粉砕機を用いることが好ましい。例えば、パルベライザー(ダルトン製)やジェットミル(セイシン企業製)が挙げられる。また、分級機を内蔵した衝撃型微粉砕機のACMパルベライザー(ホソカワミクロン製)を用いてもよい。また、分級方法としては、任意に分級点を設定した気流式分級機にて分取し、回収してもよいし、特定の目開きの篩を用いて粒度を調整してもよい。なお、規程の粒度を調整する工程は、小麦ふすまを加熱工程前でもよく、加熱工程後でも良い。また、加熱工程と粒度調整工程は必ずしも連続して行う必要はなく、加熱工程と粒度調整工程の間に時間を置いてもよく、他の工程を挟んでもよい。好ましくは、加熱工程後に粒度調整工程を含む。加熱小麦ふすまの粒度を細かくする前に加熱工程を行うことにより、ダマがより発生しにくくなるため、加熱のばらつきをより効果的に抑制することができる。また、加熱工程後の小麦ふすまは、水分量が低下しているため、粒度調整工程において粉砕しやすく、より細かい粒度の粉砕が可能となる。
【0026】
さらに加熱小麦ふすまは、灰分が4.5~7.5質量%であることが好ましく、5.0~7.0質量%がより好ましく、5.5~6.8質量%としてもよい。
加熱小麦ふすまは、原料となる小麦ふすまに加熱処理を施して得られるものであり、典型的には80℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90~150℃、さらに好ましくは95~130℃に加熱して製造される。加熱時間は、前述の温度で3分以上維持することが好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。また、製造コストの観点からは50分未満とすることが好ましい。加熱方法は、特に限定されないが、焙煎工程を含むことが好ましく、前記焙煎工程が加水焙煎工程であることが好ましい。本発明において、加水焙煎工程を含む加熱処理を施した加熱小麦ふすまを加水焙煎小麦ふすまとも呼ぶ。焙煎工程、加水焙煎工程の詳細は後述する。なお、小麦ふすまの原料となる小麦は、特に限定されないが、ポストハーベスト農薬(収穫後に農作物に散布される農薬)のリスクの観点から、日本産小麦が好ましい。
【0027】
本発明の好ましい態様において、加熱小麦ふすまは、α-アミラーゼ力価が150mU/g以下であり、100mU/g以下であることがより好ましく、80mU/g以下、60mU/g以下であってもよい。「α-アミラーゼ力価」とは、α-アミラーゼの活性の程度を表す指標であり、AACC Method 22-02.01に従って測定することができる。また、市販の測定キットを使用して測定してもよい。市販の測定キットとしては、例えば、α-Amylase Assay Kit(Megazyme社製)を使用することができる。α-アミラーゼ力価は、過剰な耐熱性α-グルコシダーゼの存在下で、所定のオリゴ糖基質(p-ニトロフェニルマルトヘプタオシド:BPNPG7)から1分間に1μmolのp―ニトロフェノールを放出するのに必要な活性を1U(単位)とする。
【0028】
また、加熱小麦ふすまは、中性プロテアーゼ力価が20U/g未満であることが好ましく、10U/g未満(定量下限値未満)であることがより好ましい。「中性プロテアーゼ力価」とは、中性プロテアーゼの活性の程度を表す指標であり、例えば、一般財団法人日本食品分析センターがウェブ上で公開している「分析簡易フローチャート」(http://www.jfrl.or.jp/bunsekiflow/index.html)の「酸性,中性及びアルカリ性プロテアーゼ力価」の項に記載された測定方法や、「第四回改正国税庁所定分析法注解」(日本醸造協会)に従って測定することができる。また、中性プロテアーゼ力価は、カゼイン(乳製)を基質とし、38℃、pH6.0において、反応初期の1分間に1μgのL-チロシンに相当する非たん白性のフェノール試薬呈色物質の増加をもたらす活性を1U(単位)とする。α-アミラーゼ力価、中性プロテアーゼ力価、いずれも数値が低いほど活性が低いことを示す。加熱小麦ふすまに含まれる酵素の活性が低いということは、加熱処理によって酵素が失活するほど内部まで十分に熱がかけられたことを意味すると考えられる。
【0029】
本発明の加熱小麦ふすまは、L値(CIELAB表色系)が31以上であることが好ましい。L値の下限値はより好ましくは60以上、更に好ましくは70以上である。L値の上限値は好ましくは85以下である。ここで、「L値(CIELAB表色系)」とは、公知の手法を用いて色差計により測定された0から100までの数値であり、L値0は黒、L値100は白を意味する。色差計としては、例えば、分光測色計CM-5(コニカミノルタ株式会社)を用いることができる。
【0030】
加熱小麦ふすまは、小麦ふすまを加熱処理すること等により製造するが、過剰に加熱すると、ふすまの表面が焦げる場合がある。この場合、当該加熱小麦ふすまを含む麺類は、焦げ臭さが付与されて風味が悪くなるおそれがある。また、加熱小麦ふすまのL値が85以下となるような加熱処理条件であれば、小麦ふすまへの加熱は十分であると判断しうる。
【0031】
(加水焙煎ふすま)
本発明の好ましい態様において、加熱小麦ふすまとして加水焙煎小麦ふすまを使用するが、加水焙煎小麦ふすまは、小麦ふすまを加熱する工程において、加熱前及び/又は加熱途中で水分を加えて加熱処理を行って得られる。単純に小麦ふすまを熱処理しただけでは穀物臭やえぐ味を十分に低減できない場合があるが、加水焙煎処理によってふすまの内部にまで十分熱が行き渡らせることで、小麦ふすまの穀物臭やえぐ味を効率的に低減することができる。
【0032】
加水焙煎小麦ふすまの製造方法は、小麦ふすま100質量部に対して10~40質量部の水を加え、加熱により前記小麦ふすまの品温を90~150℃の範囲で3分以上維持する加水焙煎工程を含むことが好ましい。加水のタイミングは、小麦ふすまの品温を90~150℃の範囲で一定時間維持する前であれば特に限定されず、上記加熱前及び/又は小麦ふすまの品温が上昇している間及び/又は小麦ふすまの品温が目的の品温に到達した後に加水を行えばよい。当該加水焙煎工程により、小麦ふすまのα-アミラーゼ力価と中性プロテアーゼ力価を十分に低減することが可能である。
【0033】
小麦ふすま100質量部に対して10~40質量部の水を加えることで加熱中に蒸気が発生するため、小麦ふすまを蒸すことが可能であり、小麦ふすまの内部にまで早く均一に熱を加えることができる。加える水の量は、小麦ふすま100質量部に対して好ましくは10~40質量部であり、より好ましくは10~30質量部であり、更に好ましくは10~25質量部である。加える水の量が10質量部未満の場合、小麦ふすまを蒸すことができず、小麦ふすまの内部まで十分に熱を加えるには長時間加熱し続けなければならないため、小麦ふすまが焦げて黒くなり、得られる加水焙煎小麦ふすまのL値が31未満となるおそれがある。一方、加える水の量が40質量部超であると、小麦ふすまが加熱容器の壁面に付着したり、ダマが発生したりすることがあり、熱が均一に伝わらない場合がある。また、水の量が多いほど、加熱時間を長くする必要があるため製造コストの観点からも好ましくない。加水の方法は、特に限定されないが、水を散らしながら小麦ふすまに添加する散水が好ましい。散水される水の形状は特に限定されず、霧状、シャワー状等とすればよい。散水により加水することで、ダマがより生じにくくなり、ふすまを均一に蒸すことができる。
【0034】
加水後の小麦ふすまは、加熱によりその品温を90~150℃の範囲で3分以上維持する。品温が高い状態で一定時間維持することにより、加水した水分が次第に蒸発して無くなり、小麦ふすまを「蒸す」状態から「焙煎する」状態に移行する。つまり、小麦ふすまの内部にまで早く均一に熱を加えて穀物臭やえぐ味を低減させる「蒸し」と、好ましい焙煎の風味を付与する「焙煎」とを両方行うことができる。「焙煎」とは、加熱により小麦ふすまの水分をとばし、特有の風味を付すことをいう。上記品温を維持する時間が3分未満であると、ふすまの内部まで十分に熱が伝わらず、穀物臭やえぐ味が低減されず、α-アミラーゼ力価と中性プロテアーゼ力価を十分に低減できない場合がある。小麦ふすまの品温を90~150℃の範囲で維持する時間は、3分以上であれば特に限定されず、水分を蒸発させて小麦ふすまを焙煎できるよう、小麦ふすまの量などに応じて適宜調整すればよい。穀物臭やえぐ味、及びα-アミラーゼ力価と中性プロテアーゼ力価をより効果的に低減させ、好ましい焙煎の風味を付す観点からは5分以上が好ましく、10分以上がさらに好ましい。また、製造コストの観点からは50分未満とすることが好ましい。
【0035】
このように、加水された小麦ふすまの品温を90~150℃の範囲で3分以上維持する必要があるため、加熱効率の観点から、加熱して品温が90℃以上に達した後に加水することが好ましい。
【0036】
加水焙煎小麦ふすまの製造方法は、上記加水焙煎工程の前及び/又は後に、小麦ふすまの品温を好ましくは90~150℃、より好ましくは90~130℃とする焙煎工程を設けることが好ましい。これにより、小麦ふすまに好ましい焙煎の風味を付すことができる。また、加水焙煎工程における焙煎の時間が短い場合であっても、焙煎の風味を付与できる。ここで「焙煎工程」とは、水分を加えずに加熱することで小麦ふすまの水分をとばし、特有の風味を付す工程をいう。よって、焙煎工程を加水焙煎工程前に設ける場合、加水焙煎工程における加水は焙煎工程終了後に行う。焙煎処理において、品温が90℃未満であると、好ましい焙煎の風味が付されない場合がある。また、焙煎後の品温が150℃超となると、小麦ふすまが焦げてしまい、得られる加水焙煎小麦ふすまのL値が31未満となり、苦みや焦げ臭が生じて風味が悪くなるおそれがある。
【0037】
上記焙煎工程及び加水焙煎工程においては、加熱用の容器として開放系容器又は密閉系容器のいずれを用いてもよいが、開放系容器を用いることが好ましい。開放系容器内で加水及び加熱を行うことで、蒸気による「蒸し」と、水分をとばしながら加熱する「焙煎」の両方を効果的に行うことができる。これにより、ふすまに含まれる酵素をより効率よく失活させつつ、穀物臭やえぐ味がより少なく、焙煎の風味が付与された好ましい風味を有する加水焙煎ふすまが得られる。
【0038】
上記焙煎工程及び加水焙煎工程における加熱手段としては、焙煎機や乾燥機を用いることができる。焙煎機の例としては、回転式焙煎機(クマノ厨房工業製)、赤外線振動火入機(山益製作所製)、熱風式焙煎装置(富士工業製)が挙げられる。乾燥機の例としては、パドルドライヤー(奈良機械製作所製)、流動層乾燥装置(大川原製作所製)、トーラスディスク(ホソカワミクロン製)、二軸間接加熱乾燥機(栗本鐵工所製)が挙げられる。
【0039】
麺類の製造
本発明においては、本発明に係る製麺用組成物から麺類が製造されるが、例えば、製麺用組成物に、小麦粉などの穀粉、水、塩などの材料を配合して混練し、麺生地を調製した上で、麺類を製造する。麺生地は、通常の麺生地の調製方法に準じて調製することができるが、中華麺の麺生地を調製する場合には、さらに、かんすいなどを配合してもよい。
【0040】
一般に、小麦ふすまを麺生地に配合すると、生地の水分が小麦ふすまに吸収されたり、小麦ふすまによって生地のつながりが弱くなったりするため、伸展性が劣る生地になってしまう。また、小麦全粒粉は一般に15%程度の小麦ふすまを含有するが、小麦全粒粉を麺生地に多く配合した場合にも、製麺性や作業性が悪くなり、麺類の粘弾性が低くなることがある。しかし、本発明によれば、麺生地は伸びがよく展性に優れ、圧延などによっても生地がべとついたり、破断したりしにくい。
【0041】
本発明において麺類を製造する場合、上述の製麺用組成物のみから麺類を製造することもできるが、穀粉類や澱粉類、副原料をさらに添加して麺類を製造してもよい。本明細書においては、追加の穀粉類や澱粉類、副原料などが添加された組成物を麺類用穀粉組成物と言うが、これも本発明の一つの態様である。本発明に基づいて麺類を製造する場合、麺類用穀粉組成物100質量部あたり麺類用組成物を30質量部以上配合することが好ましく、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましい。小麦全粒粉をこの範囲で配合する場合、製麺性や作業性が悪くなり、麺類の粘弾性が低くなるが、小麦全粒粉の代替として本発明に係る製麺用組成物を利用することで、製麺性や作業性が良好になり、麺類の粘弾性を優れたものにすることができる。また別の好ましい態様において、本発明に係る製麺用組成物を1~100質量部配合して麺類用穀粉組成物を調製した上で麺類を製造することもでき、製麺用組成物の配合量を2~100質量部、4~80質量部、8~60質量部としてもよい。本発明の麺類用小麦粉組成物の配合量をこの範囲にすることで、風味がより良好な麺類を得ることができる。
【0042】
追加で添加する穀粉類や澱粉類は、目的の麺類の種類に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉)、デュラム小麦粉、米粉、そば粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉、あわ粉、大豆粉、およびホワイトソルガム粉などから選ばれる1種または2種以上の穀粉類を使用することができる。また、穀粉類は加熱処理など物理的な処理を施されていても良い。澱粉類としては、例えば、小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉などの麦類澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、およびユリネ澱粉から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。これらの澱粉は、ワキシー種やハイアミロース種を用いてもよく、また、これらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独または複数組合せて施した加工澱粉を用いてもよい。
【0043】
本発明で用いられる副原料としては、例えば、大豆たん白質、小麦たん白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳などのたん白質素材;動植物油脂、粉末油脂などの油脂類;かんすい、食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などが挙げられる。本発明では、目的とする麺の種類に応じて、これら副原料を単独または組み合わせて用いることができる。なお、本発明の麺類用穀粉組成物は粉粒状であり、麺類用生地を調製する際に、水などの液状材料に溶解または分散させてから穀粉組成物と混合する材料(例えば、実施例における塩など)は、麺類用穀粉組成物には含まないものとする。
【0044】
麺類を製造する際に添加する水は、麺類の種類にもよるが、通常は、麺類用穀粉組成物100質量部に対し25~50質量部添加することが好ましく、28~45質量部添加することがより好ましい。当該質量比において、麺類用穀粉組成物中の水分は「水」ではなく「麺類用穀粉組成物」を構成するものとする。
【0045】
本発明に係る麺類は、圧延製麺、ロール式製麺、押出式製麺などの公知の製麺方法によって製造することができる。本発明の一つの態様において、麺生地は、圧延され、所望の厚さの麺帯とされる。当該圧延は、麺生地を圧延ロールに通すことで行われる。次いで、製麺機などを用いて麺帯を切り出して麺線とし、この麺線を所望の長さに切断することにより生麺を得ることができる。また、型抜き機などを用いて麺帯から麺皮を得ることができる。
【0046】
本発明の一つの態様において、麺生地を引き伸ばしたり撚ったりして麺線を得てもよく、また、麺生地を穴などから押し出して麺類を製造してもよい。一般に、スパゲッティやマカロニなどの麺類は、麺生地を押し出して製造することが多い。また本発明においては、機械を用いて製麺してもよく、機械を用いずに手延べや手打ちによって製麺してもよい。本発明の効果を得られ易いため、ロール式製麺機を用いて麺生地から麺帯を得る工程を含むことが好ましい。
【0047】
また、例えば、上記生麺を茹でることによって茹で麺が得られ、蒸煮することによって蒸し麺が得られ、調湿乾燥法等により乾燥すれば乾麺が得られる。蒸煮または茹で処理を行った後、フライ用バスケットあるいは乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、フライあるいは高温熱風乾燥処理すれば即席乾麺が得られる。
【0048】
また、本発明に係る麺類は、調理前の麺類と調理済の麺類の両方を包含する概念である。調理済の麺類を調製する場合は、麺帯や麺線などの未調理の麺類(生麺)を、湯の中で茹でるなどして調理すればよい。麺類の調理方法は特に制限されないが、茹でて調理することはもちろん、油ちょうや蒸し、電子レンジなどによって調理してもよく、喫食可能になるまで麺類をα化すればよい。また、麺類の形態に特に制限はなく、例えば、生麺、半乾燥麺、乾麺、茹で麺、蒸し麺、冷蔵麺(チルド麺)、冷凍麺、即席麺、調理麺、ロングライフ麺(LL麺)、揚げ麺などであってもよい。茹でまたは蒸し処理された後、冷蔵または冷凍で保存および/または流通される冷蔵麺または冷凍麺であるのが好ましく、冷蔵麺がより好ましい。また、本発明に係る麺類には、流通や保管、喫食などの態様に応じて、ほぐれ剤などを付着させることができる。
【0049】
本発明に係る麺類とは、うどんや中華麺、スパゲッティ、マカロニなどのパスタ類、そうめん、ひやむぎ、そば、冷麺などに用いられる麺線や麺帯はもちろん、餃子やしゅうまい、ワンタンなどに用いられる麺皮を包含する概念である。なかでも、中華麺、焼きそば、パスタ類及び餃子から選ばれる麺類が好ましい。本発明の麺類は良好な弾力を有し、食感に優れる。
【0050】
1つの観点から、本発明は、上記の麺類用組成物または麺類用穀粉組成物を製麺することを含む、麺類の製造方法である。さらに本発明は、上記の麺類用組成物または麺類用穀粉組成物を配合することを含む、麺類の風味を向上させる方法と理解することもできる。特に本発明によれば、ふすまに特有の穀物臭やえぐ味が抑制されることはもちろん、好ましい風味が付与された麺類を得ることができる。
【実施例0051】
以下、具体例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、下記の具体例は、本発明の代表的な例を示したものであり、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本明細書において、濃度や%などは質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0052】
分析方法
下記の実験では、以下の分析方法を用いた。
■食物繊維含量
食物繊維含量は、プロスキー変法(AOAC公定法991.43)で測定した。
■灰分
灰分は、AACC Method08-02に従って、直接灰化法で測定した。
■粒度分布
粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定した。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、日本レーザー)を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準分布(頻度分布)を測定し、中位径及び103μm以上の割合を求めた。なお、分析条件は、分散圧2bar、測定レンジR4とした。
■α-アミラーゼ力価
α-アミラーゼ力価は、市販の測定キット(α-Amylase Assay Kit、Megazyme社製)を用いて測定した。α-アミラーゼ力価は、過剰な耐熱性α-グルコシダーゼの存在下で、1分間に所定のオリゴ糖基質(p-ニトロフェニルマルトヘプタオシド:BPNPG7)から1μmolのp―ニトロフェノールを放出するのに必要な活性を1U(単位)とした。
■中性プロテアーゼ力価
中性プロテアーゼ力価は、以下の手順により測定した。すなわち、まず、5gの小麦ふすま処理品を採取し、2%塩化カリウム溶液50mLを添加し、60分間撹拌抽出した。抽出液を遠心分離後、ろ過したものを試験溶液とした。次いで、カゼイン溶液(pH6.0)5mLに、上記試験溶液1mLを添加し、38℃で60分間反応させ、0.44mol/Lのトリクロロ酢酸溶液5mLを加え、38℃で40分間放置した。その後、ろ過したろ液2mLに、0.55mol/L炭酸ナトリウム溶液5mLとフェノール試薬1mLを加えて38℃で30分間の発色を行い、660nmで吸光度を測定した。小麦ふすま処理品から得られた試験溶液を含まない、ブランクのサンプルについても同様に吸光度測定を行い、作成したL-チロシンの検量線から生成チロシン量を求めた。中性プロテアーゼ力価は、反応初期の1分間に1μgのL-チロシンに相当する非たん白性のフェノール試薬呈色物質の増加を示す活性を1U(単位)とした。なお、定量可能な中性プロテアーゼ力価の下限値は、10U(単位)/gであり、下表において「定量下限値未満」とは、中性プロテアーゼ力価が10U/g未満であったことを意味する。
■L値(CIELAB表色系)
分光測色計(CM-5、コニカミノルタ)を用いてCIELAB表色系のL値を測定した。
【0053】
実験1:加熱小麦ふすまの調製と評価
日本産小麦(きたほなみ:Wx-B1欠失)から、ロール粉砕機、シフター、ピュリファイヤーを用いた多段式製粉方法により、小麦ふすまを得た。得られた小麦ふすまを回転式焙煎機(クマノ厨房工業製)に投入した後、品温が下表に示す温度になるまで加熱した後、小麦ふすま100質量部に対して水15質量部を散水し、下表に示す条件で小麦ふすまに対して加熱処理を行った。
【0054】
その後、粉砕工程として、加熱処理した小麦ふすまを、分級機を内蔵した衝撃型微粉砕機であるACMパルベライザー(ホソカワミクロン製)で粉砕・粒度調整し、目開き500μmの篩にかけ、篩下の画分を分取して粒度の異なる加熱小麦ふすま(加水焙煎ふすま)を得た。
【0055】
得られた加熱小麦ふすまについて、食物繊維含量、灰分、粒度分布、α-アミラーゼ力価、中性プロテアーゼ力価、及びL値の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
実験2:小麦粉の調製と評価
2-1.サンプル2-1~2-3
精麦機(グレイン・テスティング・ミルTM-05、サタケ製)を用いて日本産小麦(きたほなみ:Wx-B1欠失)を精麦率95%で精麦した後、石臼で粉砕・粒度調整し、目開き500μmの篩にかけ、篩下の画分を分取して粒度の異なる小麦粉を得た。
【0058】
2-2.サンプル2-4
精麦機(グレイン・テスティング・ミルTM-05、サタケ製)を用いて日本産小麦(きたほなみ:Wx-B1欠失)を精麦率95%で精麦した後、ACMパルベライザー(ホソカワミクロン製)で粉砕・粒度調整し、目開き500μmの篩にかけ、篩下の画分を分取して小麦粉を調製した。
【0059】
2-3.サンプル2-5
日本産小麦(きたほなみ:Wx-B1欠失)をACMパルベライザー(ホソカワミクロン製)で粉砕・粒度調整し、目開き500μmの篩にかけ、篩下の画分を分取して粒度の異なる小麦粉を調製した。
【0060】
2-4.サンプル2-6
精麦機(グレイン・テスティング・ミルTM-05、サタケ製)を用いて日本産小麦(きたほなみ:Wx-B1欠失)を精麦率95%で精麦した後、ロール粉砕機、シフター、ピュリファイヤーを用いた多段式製粉方法により、小麦粉を得た。
【0061】
2-5.サンプル2-7
日本産小麦に代えて北米産小麦(DNS)を用いた以外は、サンプル2-6と同様にして小麦粉を調製した。
【0062】
得られた小麦粉の食物繊維含量、灰分、粒度分布の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
実験3:製麺用組成物の調製と評価
下表に示す配合で原料粉を混合して、麺類を製造するための小麦粉組成物を製造した。食物繊維含量と灰分は、各原料の食物繊維含量と灰分、配合割合から算出した。また、市販の小麦全粒粉(全粒粉D、昭和産業)と焙煎小麦全粒粉(五穀豊穣、奥本製粉)について、食物繊維含量と灰分を測定し、下表に並べて記載した。
【0065】
【0066】
【0067】
実験4:再加熱中華麺の製造と評価
横型ピンミキサーを用いて、実験3で調製した製麺用組成物を市販の中力粉(北海道、昭和産業)と下表に示す配合(質量部)で混合し、得られた麺類用穀粉組成物100質量部に、塩1質量部、かんすい1質量部、水35質量部を添加して混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺(中華麺)を製造した。
【0068】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済の中華麺を製造した。調理済の中華麺をゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。
【0069】
官能評価は、10人の専門パネルによって製麺性、麺の風味、粘弾性、汁含みを評価した。評価方法は、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。製麺性を除く評価項目は、電子レンジで再加熱した中華麺を評価した。
■製麺性
5点:生地だれ、麺帯の表面の荒れ、短い麺線の発生率が極めて低い(非常に良好)
4点:生地だれ、麺帯の表面の荒れ、短い麺線の発生率が低い(良好)
3点:生地だれ、麺帯の表面の荒れ、短い麺線の発生率がやや低い(やや良好)
2点:生地だれ、麺帯の表面の荒れ、短い麺線の発生率が高い(やや問題がある)
1点:生地だれ、または、麺帯の表面の荒れ、短い麺線の発生率が極めて高い(問題がある)
■麺の風味
5点:小麦粉の自然な味・風味が非常に強く感じられる(非常に良好)
4点:小麦粉の自然な味・風味が強く感じられる(良好)
3点:小麦粉の自然な味・風味が感じられる(やや良好)
2点:小麦粉の自然な味・風味がやや弱く、または、焙煎臭やえぐ味がやや感じられる(やや劣る)
1点:小麦粉の自然な味・風味が弱く、または、焙煎臭やえぐ味が感じられる(劣る)
■麺の粘弾性
5点:弾力性、粘りともに非常に高い(非常に良好)
4点:弾力性、粘りともに高い(良好)
3点:弾力性、粘りともにやや高い(やや良好)
2点:弾力性および/または粘りがやや低い(やや劣る)
1点:弾力性および/または粘りが低い(劣る)
■麺の汁含み
5点:麺に汁が非常に馴染む(非常に良好)
4点:麺に汁が馴染む(良好)
3点:麺に汁がやや馴染みやすい(やや良好)
2点:麺に汁がやや馴染みにくい(やや劣る)
1点:麺に汁が馴染まない(劣る)
下表から明らかなように、本発明に係る製麺用組成物(サンプル3-1~3、3-6~11)を用いて再加熱中華麺を製造すると、優れた麺類を製造することができた(サンプル4-2~4、4-7~12)。さらに、本発明に係る製麺用組成物を用いることで、配合量に関係なく優れた麺類を製造することができ、本発明に係る製麺用組成物以外に穀粉を含まずとも良好な麺類を製造することができた(サンプル4-18~21)。一方、加熱小麦ふすまの割合の多い製麺用組成物(サンプル3-4)を用いた再加熱中華麺(サンプル4-5)は、汁含みは優れていたが、製麺性、風味、粘弾性が劣っていた。また、中位径が135μmの加熱小麦ふすまを含む製麺用組成物(サンプル3―5)を用いた再加熱中華麺(サンプル4-6)は、風味、汁含みは優れていたが、製麺性、粘弾性が劣っていた。さらに、粒径103μm以上の粒子の割合が低い小麦粉を含む製麺用組成物(サンプル3-12、13)を用いた再加熱中華麺(サンプル4-13、14)、加熱小麦ふすまを単体で添加した再加熱中華麺(サンプル4-15)では、風味、汁含みで劣っており、サンプル4-14は粘弾性も劣っていた。
【0070】
また、市販の小麦全粒粉を用いた場合には、生地のつながりが弱く伸展性も劣り、製麺性が低く、麺帯の表面の荒れや短い麺線の発生が極度にみられ、得られた麺類の粘弾性も低かった(サンプル4-16)。市販の焙煎小麦全粒粉を用いた場合には、市販の小麦全粒粉を用いた場合と比較して改善は見られたが、製麺性、粘弾性の問題解決までには至らなかった(サンプル4-17)。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
実験5:再加熱うどんの製造と評価
横型ピンミキサーを用いて、実験3で調製した製麺用組成物を市販の中力粉(北海道、昭和産業)と下表に示す配合(質量部)で混合し、得られた麺類用穀粉組成物100質量部に、塩4質量部、水40質量部を添加して混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
【0075】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを製造した。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。
【0076】
官能評価は、10人の専門パネルによって製麺性、麺の風味、粘弾性、汁含みを評価した。評価方法は、実験3と同様である。なお、製麺性を除く評価項目は、電子レンジで再加熱したうどんを評価した。
【0077】
評価結果を下表に示すが、本発明に係る製麺用組成物(サンプル3-1~3)から再加熱うどんを製造すると、優れた麺類を製造することができた(サンプル5-2~4)。一方、市販の小麦全粒粉を用いた場合には、生地のつながりが弱く伸展性も劣り、製麺性が低く、麺帯の表面の荒れや短い麺線の発生が極度にみられ、得られた麺類の粘弾性も低かった(サンプル5-5)。市販の焙煎小麦全粒粉を用いた場合には、市販の小麦全粒粉を用いた場合と比較して改善は見られたが、製麺性、粘弾性の問題解決までには至らなかった(サンプル5-6)。
【0078】
【0079】
実験6:再加熱麺皮の製造と評価
横型ピンミキサーを用いて、実験3で調製した製麺用組成物を市販の中力粉(北海道、昭和産業)と下表に示す配合(質量部)で混合し、得られた麺類用穀粉組成物100質量部に、塩1質量部、加工油脂(フレンジーM、理研ビタミン)1質量部、水34質量部を添加して混合・混練し、そぼろ状の生地を調製した。その後、そぼろ状の生地を製麺機の圧延ロールに掛け麺帯を調製した。得られた麺帯を型でくり抜き、餃子の皮(直径90mm、厚さ1mm)を調製した。
【0080】
餃子の餡は、豚挽き肉200質量部、ラード30質量部を混合し、ごま油25質量部、醤油25質量部、酒15質量部、おろしニンニク2質量部、おろしショウガ2質量部、及びコショウ少々を加えてさらに混合し、キャベツ400質量部、及び刻んだニラ400質量部を加えて軽く混合して、餡を調製した。上記餃子の皮を用いて、15gの餡を包み、生餃子を調製した。得られた生餃子の表面に、澱粉(コーンスターチ、昭和産業)をまぶして付着させ、蒸し処理(5分)を行い、調理済の餃子を製造した。調理済の餃子を冷蔵で24時間保存した後、200℃に加熱したフライパンに油をひき、7分間焼き調理し、焼餃子を得た。
【0081】
官能評価は、10人の専門パネルによって作業性、麺皮の風味、粘弾性を評価した。評価方法は、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。作業性を除く評価項目は、焼成により再加熱した餃子の皮を評価した。
■作業性
5点:生地だれ、麺皮の表面の荒れ、餡を包む際の破れの発生率が極めて低い(非常に良好)
4点:生地だれ、麺皮の表面の荒れ、餡を包む際の破れの発生率が低い(良好)
3点:生地だれ、麺皮の表面の荒れ、餡を包む際の破れの発生率がやや低い(やや良好)
2点:生地だれ、麺皮の表面の荒れ、餡を包む際の破れの発生率が高い(やや問題がある)
1点:生地だれ、麺皮の表面の荒れ、餡を包む際の破れの発生率が極めて高い(問題がある)
■麺皮の風味
5点:小麦粉の自然な味・風味が非常に強く感じられる(非常に良好)
4点:小麦粉の自然な味・風味が強く感じられる(良好)
3点:小麦粉の自然な味・風味が感じられる(やや良好)
2点:小麦粉の自然な味・風味がやや弱く、または、焙煎臭やえぐ味がやや感じられる(やや劣る)
1点:小麦粉の自然な味・風味が弱く、または、焙煎臭やえぐ味が感じられる(劣る)
■麺皮の粘弾性
5点:弾力性、粘りともに非常に高い(非常に良好)
4点:弾力性、粘りともに高い(良好)
3点:弾力性、粘りともにやや高い(やや良好)
2点:弾力性および/または粘りがやや低い(やや劣る)
1点:弾力性および/または粘りが低い(劣る)
評価結果を下表に示すが、本発明に係る製麺用組成物(サンプル3-2)から再加熱麺皮を製造すると、優れた麺皮を製造することができた(サンプル6-2)。一方、市販の小麦全粒粉を用いた場合には、生地のつながりが弱く伸展性も劣り、製麺性が低く、麺帯の表面の荒れが極度にみられ、得られた麺皮の粘弾性も低かった(サンプル6-3)。
【0082】