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特開2023-102974積層造形品の製造方法及び積層造形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102974
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】積層造形品の製造方法及び積層造形品
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230719BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230719BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230719BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230719BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230719BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 38/26 20060101ALN20230719BHJP
   C22C 38/18 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
B23K9/04 Z
B23K9/04 G
B23K31/00 H
B33Y10/00
B33Y80/00
B33Y70/00
C21D9/00 A
C22C38/00 302Z
C22C38/38
C22C38/58
C22C38/26
C22C38/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003764
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 光司
(72)【発明者】
【氏名】森本 憲一
(72)【発明者】
【氏名】笹原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】増田 広輝
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042AA26
4K042BA03
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA04
4K042CA05
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042CA16
4K042DA01
4K042DA02
4K042DB03
4K042DC02
4K042DD02
4K042DD04
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】2種類の材料から構成される積層造形品であって、マルテンサイト鋼材料を金属ワイヤによる溶着・積層で3次元造形する、積層造形品の製造方法及び積層造形品において、マルテンサイト鋼積層造形層の硬さと硬さばらつきを良好に保持する。
【解決手段】マルテンサイト系ステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うに際し、積層造形層21の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの積層間インターバルを60s以下とし、900~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却し、その後、既に造形した積層造形層21に隣接するように、第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形層22を形成し、その部位の造形後100s以内に20℃超/sの冷却速度で500℃以下まで冷却する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うに際し、積層造形層の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間(以下「積層間インターバル」という。)を60s以下とし、アーク溶接後に700~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却し、
その後、既に造形した第1の材料の積層造形層に隣接するように、第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形を行い、その部位の溶着後100s以内に冷却を開始し、冷却開始後500℃以下まで平均で20℃超/sの冷却速度で冷却することを特徴とする積層造形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層造形品の製造方法において、前記第1の材料からなる造形物を形成し、その後、前記第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形を行うに際し、5mm/s~100mm/sのヘッドスピードになるように積層構造物を回転しながら水平方向又は垂直方向から20°以上傾斜させて3次元に積層造形し、且つ、前記第2の材料のアーク溶接に際し、積層構造物の一部を水槽内の冷却水に浸漬して断続冷却しながら積層造形することを特徴とする請求項1に記載の積層造形品の製造方法。
【請求項3】
質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料を用いた造形物を形成し、
その後、前記造形物に隣接するように、前記第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うに際し、積層造形層の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間(以下「積層間インターバル」という。)を60s以下とし、アーク溶接後に900~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却することを特徴とする積層造形品の製造方法。
【請求項4】
前記第2の材料を用いた造形物を形成するに際し、第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うことを特徴とする請求項3に記載の積層造形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の材料が、前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Cu≦3.5%、Ni≦5%、Mo≦3.0%、Al≦2.0%、B≦0.01%、Ti≦0.5%、Nb≦1.0%、V≦1.0%、Co≦3.0%、W≦2.0%、Ta≦1.0%、Ca≦0.01%、Mg≦0.01%、REM≦0.1%、Zr≦0.1%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の積層造形品の製造方法。
【請求項6】
前記第2の材料が、フェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の積層造形品の製造方法。
【請求項7】
質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料からなる複数の層からなる積層造形層が形成され、前記積層造形層に隣接して第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる造形物が形成され、
前記第1の材料からなる前記積層造形層の表層から3mm深さまでの硬さがHv≧400であり、硬さのばらつきΔHv≦100であり、前記積層造形層の積層間隔が2.5mm以下であることを特徴とする積層造形品。
【請求項8】
前記第2の材料を用いた造形物が、複数の層の積層造形層からなることを特徴とする請求項7に記載の積層造形品。
【請求項9】
前記第1の材料が、前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Cu≦3.5%、Ni≦5%、Mo≦3.0%、Al≦2.0%、B≦0.01%、Ti≦0.5%、Nb≦1.0%、V≦1.0%、Co≦3.0%、W≦2.0%、Ta≦1.0%、Ca≦0.01%、Mg≦0.01%、REM≦0.1%、Zr≦0.1%の1種以上を含有することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の積層造形品。
【請求項10】
前記第2の材料が、フェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の積層造形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形する、積層造形品の製造方法、及び、積層造形品に関するものであり、特に、2種類の材料から構成される積層造形品を対象とする。
【背景技術】
【0002】
近年、金属3Dプリンタは革新的な生産技術として期待され、様々な技術が提案されている。主な技術方式として金属粉末を使用する場合と、金属ワイヤを使用する場合が提案されている。金属ワイヤを使用する場合、例えば、金属ワイヤによる溶着ビードを積層して3次元部品に造形する方法が開示されている(特許文献1)。また、ステンレス鋼の金属ワイヤをアークやプラズマを制御して溶着し、3次元に積層させる製造方法が開示されている(特許文献2)。
【0003】
特許文献3には、金属ワイヤによる溶着、積層で3次元造形する3Dプリンタの製造方法において、金属組織の変態温度を制御して低C,Nのマルテンサイト組織が常に現れるように成分調整され、耐熱性(耐熱変形性)、材質・金属組織均一性,耐内部割れ性、耐内部空隙性に優れたステンレス鋼系の金属ワイヤが開示されている。
【0004】
特許文献4には、三次元形状物の形状精度を向上することを目的として、基板上に溶接ビードを積層する三次元造形方法において、基板を冷却タンクの中に配置し、冷却タンク内の冷却液の水位が溶接面の下になるように冷却液の水位を調節する三次元造形方法が開示されている。
【0005】
特許文献5には、ハイブリッド溶着速度のニアネットシェイプ積層造形のための方法及びシステムとして、金属3D造形の生産性を向上するための平行マルチワイヤ溶接システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-266174号公報
【特許文献2】特開2018-507317号公報
【特許文献3】特開2020-147785号公報
【特許文献4】特開2011-83778号公報
【特許文献5】特開2018-187679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属部材の一方の面と他方の面のそれぞれに要求される材料特性が異なることがある。例えば、自動車の高圧ポンプは、筒状の部材において、その内表面は他部材が接触しつつ摺動する面であって高い硬度を有することが要求され、外表面は耐腐食性が高いことが要求される。一つの材料で、高い硬度と高い耐腐食性の両方を具備することが困難、あるいは材料の価格が高くなる場合がある。このような場合、その部材の内表面と外表面とを別々の材料で構成し、内表面は高い硬度を有する材料を採用し、外表面は耐腐食性が高い材料を採用し、それぞれの材料として安価な材料を採用できれば有効である。
【0008】
部材の内表面と外表面とを別々の材料で構成している部材を製造するに際し、少なくとも一方の材料である高い硬度を有する材料を、金属ワイヤによる溶着、積層で3次元造形することができれば好ましい。
【0009】
本発明は、2種類の材料から構成される積層造形品であって、少なくとも一方の材料であるマルテンサイト鋼材料を金属ワイヤによる溶着・積層で3次元造形する、積層造形品の製造方法及び積層造形品において、マルテンサイト鋼積層造形層の硬さと硬さばらつきを良好に保持することのできるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うに際し、積層造形層の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間(以下「積層間インターバル」という。)を60s以下とし、アーク溶接後に700~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却し、
その後、既に造形した第1の材料の積層造形層に隣接するように、第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形を行い、その部位の溶着後100s以内に冷却を開始し、冷却開始後500℃以下まで平均で20℃超/sの冷却速度で冷却することを特徴とする積層造形品の製造方法。
[2][1]に記載の積層造形品の製造方法において、前記第1の材料からなる造形物を形成し、その後、前記第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形を行うに際し、5mm/s~100mm/sのヘッドスピードになるように積層構造物を回転しながら水平方向又は垂直方向から20°以上傾斜させて3次元に積層造形し、且つ、前記第2の材料のアーク溶接に際し、積層構造物の一部を水槽内の冷却水に浸漬して断続冷却しながら積層造形することを特徴とする[1]に記載の積層造形品の製造方法。
【0011】
[3]質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料を用いた造形物を形成し、
その後、前記造形物に隣接するように、前記第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うに際し、積層造形層の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間(以下「積層間インターバル」という。)を60s以下とし、アーク溶接後に700~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却することを特徴とする積層造形品の製造方法。
[4]前記第2の材料を用いた造形物を形成するに際し、第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行うことを特徴とする[3]に記載の積層造形品の製造方法。
【0012】
[5]前記第1の材料が、前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Cu≦3.5%、Ni≦5%、Mo≦3.0%、Al≦2.0%、B≦0.01%、Ti≦0.5%、Nb≦1.0%、V≦1.0%、Co≦3.0%、W≦2.0%、Ta≦1.0%、Ca≦0.01%、Mg≦0.01%、REM≦0.1%、Zr≦0.1%の1種以上を含有することを特徴とする[1]から[4]までのいずれか1つに記載の積層造形品の製造方法。
[6]前記第2の材料が、フェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする[1]から[5]までのいずれか1つに記載の積層造形品の製造方法。
【0013】
[7]質量%で、C:0.10~0.35%、Si≦3.0%、Mn≦5.0%、S≦0.03%、P≦0.05%、Cr:10~17.5%、N≦0.15%、O≦0.015%を含有し、残部Fe及び不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を第1の材料とし、
前記第1の材料からなる複数の層からなる積層造形層が形成され、前記積層造形層に隣接して第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる造形物が形成され、
前記第1の材料からなる前記積層造形層の表層から3mm深さまでの硬さがHv≧400であり、硬さのばらつきΔHv≦100であり、前記積層造形層の積層間隔が2.5mm以下であることを特徴とする積層造形品。
[8]前記第2の材料を用いた造形物が、複数の層の積層造形層からなることを特徴とする[7]に記載の積層造形品。
[9]前記第1の材料が、前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Cu≦3.5%、Ni≦5%、Mo≦3.0%、Al≦2.0%、B≦0.01%、Ti≦0.5%、Nb≦1.0%、V≦1.0%、Co≦3.0%、W≦2.0%、Ta≦1.0%、Ca≦0.01%、Mg≦0.01%、REM≦0.1%、Zr≦0.1%の1種以上を含有することを特徴とする[7]又は[8]に記載の積層造形品。
[10]前記第2の材料が、フェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする[7]から[9]までのいずれか1つに記載の積層造形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、2種類の材料から構成される積層造形品において、少なくとも一方の材料である高い硬度を有する材料を金属ワイヤによる溶着、積層で3次元造形するに際し、積層造形品の製造方法及び積層造形品において、積層方法を最適化することにより、高硬度の積層造形層について、十分な硬度を有し、硬度ばらつきの少ない品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】積層造形品を示す図であり、(A)は内層積層造形層を形成した段階、(B)は内層外層とも積層造形した段階を示す図である。
図2】積層造形品を示す図であり、(A)は内層の造形品を形成した段階、(B)はさらに外層を積層造形した段階を示す図である。
図3】積層造形品を示す図であり、(A)は内層積層造形層を形成した段階、(B)は内層外層とも積層造形した段階を示す図である。
図4】積層造形品の内層積層造形層を形成したあと、外層を積層造形する方法の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、図1図3のそれぞれ(B)に示すように、部材が厚さ方向で2つの材料で構成され、一方が高硬度のマルテンサイトステンレス鋼からなる材料(以下「第1の材料」という。)を用いて積層造形されてなり、他方が別の材料(以下「第2の材料」という。)からなる、積層造形品の製造方法及び積層造形品を対象とする。本発明の積層造形品の製造方法において、図1に示す「高硬度材料先行造形」においては、第1の材料を用いた積層造形を最初に行って積層造形層21を形成し(図1(A))、その後に積層造形層21に隣接して第2の材料の造形を行って積層造形層22を形成する(図1(B))方法を採用する。また、図2、3に示す「高硬度材料後行造形」においては、最初に第2の材料の造形物32を形成し(図2(A)、図3(A))、その後に造形物32に隣接して第1の材料を用いた積層造形で積層造形層31を形成する方法(図2(B)、図3(B)参照)を用いることができる。高硬度材料先行造形においては、先行して第1の材料の造形について積層造形を行った(図1(A)参照)後、第2の材料の造形についても積層造形が用いられる(図1(B)参照)。一方、高硬度材料後行造形においては、それに先行する第2の材料の造形方法については、別に圧延や造管などの方法で形成された造形物を用いても良いし(図2(A)参照)、あるいは第2の材料を用いた積層造形によって積層造形層32Aを製造しても良い(図3(A)参照)。
【0017】
本発明は特に、積層造形品1が筒状の部材であり、部材の内表面と外表面とを別々の材料で構成し、一方の材料が高硬度である場合に好適に用いることができる。以下、積層造形品1として、部材が筒状の部材である場合を例示し、内面側が高硬度であるものを「内面高硬度積層造形品1A」と呼び、外面側が高硬度であるものを「外面高硬度積層造形品1B」と呼ぶ。
【0018】
内面高硬度積層造形品1Aについては、前記高硬度材料先行造形を採用し、内面側と外面側の両方を、積層造形によって形成する。まず内面側の高硬度部分を積層造形して積層造形層21を形成し(図1(A)参照)、その後、外面側の別の材料を積層造形して積層造形層22を形成する(図1(B)参照)。
【0019】
一方、外面高硬度積層造形品1Bについては、高硬度材料後行造形を採用し、内面側の造形物32を高硬度材料ではない別の材料で構成した上で、外面側の高硬度部分を積層造形する。この場合、内面側の造形物32の製造方法については、上述のように、積層造形によって行っても良く(図3(A)参照)、あるいは積層造形以外の方法で形成した材料を用いることとしても良い(図2(A)参照)。
【0020】
ここでは、第1の材料を先行して積層造形する場合を例にとって、図1(A)を参照して説明を行う。積層造形においては、特許文献3、4に記載のように、金属ワイヤを溶材として用いる金属3Dプリンタによって、溶着積層造形して積層造形層21を形成することができる。例えば、ロボットのMIGアーク溶接機を使用して、ステンレス鋼ワイヤの溶材を用い、渦巻き状に連続して積層しつつ繰り返し溶着し、図1(A)に示す積層方向12に積層することにより、3次元造形し、図1(A)に示すような中空の円柱からなる積層造形層21を製造する。
【0021】
ここで、溶着積層造形における「積層方向12」について定義する。造形品に固定した座標系において、溶接機の移動方向が溶着方向11であり、溶着物3は溶着方向11に線状に配置され、層6を形成する。すでに溶着が完了した線状の層6(溶着物3)にさらに溶着を繰り返す。図1(A)に記載の場合は、前回溶着した溶着物3の上に、新たな溶着物3を形成する。これを順次繰り返すことにより、層6(溶着物3)が積み重なった積層構造が形成される。ここにおいて、層6(溶着物3)が順次積み上がる方向を「積層方向12」と呼ぶ。積層造形層21は通常は「面」状に形成され、この面をここでは「積層面4」と呼ぶ。図1(A)に示す例では、積層面4は円筒面を形成している。溶着方向11と積層方向12はいずれも当該積層面4に平行であり、積層方向12は溶着方向11と直交する。
【0022】
《第1の材料からなる積層造形層が具備すべき品質》
第1の材料からなる積層造形層は、その硬さがHv≧400であり、硬さのばらつきΔHv≦100であり、積層造形層の積層間隔が2mm以下であることを特徴とする。ここで硬さのばらつきΔHvとは、第1の材料の表層から3mm深さまでのHv硬さのばらつきであり、表層から3mm深さの任意の10か所以上の位置でHv硬さ測定した結果に基づき、その中の最高Hv硬さから最低Hv硬さを減じたHv硬さの差分をΔHvとして得られた値を意味する。なお、表層から3mm深さを超える位置において、第2の材料の積層造形時の熱影響を大きく受けるため硬さ測定位置の対象外とした。
【0023】
《第1の材料の成分組成》
第1の材料の組成について説明する。%は質量%を意味する。下記成分組成を有する鋼は、中炭のマルテンサイト系ステンレス鋼である。
まず、必須成分について説明する。
【0024】
(C:0.10~0.35%)
Cは、Hv≧400の均一な硬さを確保するために0.10%以上添加する。一方、0.35%を超えると割れの抑制が困難になるので、上限を0.35%とする。好ましくは0.15~0.30%である。
【0025】
(Si≦3.0%)
Siは、溶着時の脱酸に有効であり、好ましくは0.1%以上添加するが、3.0%を超えて過剰に添加すると積層造形中の金属間化合物の析出を促進して割れの発生を助長するので、上限を3.0%とする。好ましくは1.0%以下である。Siは含有しなくても良い。
【0026】
(Mn≦5.0%)
Mnは、溶着時の脱酸に有効であり、好ましくは0.1%以上添加するが、5.0%を超えて過剰に添加するとオーステナイト組織が安定となり、焼きが入り難くなり、安定してHv≧400が得られないので、上限を5.0%とする。好ましくは1.5%以下である。Mnは含有しなくても良い。
【0027】
(S≦0.03%)
Sは不純物として含有している。Sは、溶着時の湯流れ性を適度に確保して積層形状精度を高め、その後の切削加工等の機械加工性を向上させるが、0.03%を超えて過剰に添加すると割れを助長するので、上限を0.03%とする。好ましくは0.005%以下である。
【0028】
(P≦0.05%)
Pは不純物として含有している。Pは、造形時の内部割れを抑制するため0.05%以下に限定する。好ましくは0.03%以下である。
【0029】
(Cr:10~17.5%)
Crは、耐食性を確保するために10%以上添加するが、17.5%を超えるとオーステナイトの生成量が多くなり、安定してHv≧400が得られないので、上限を17.5%とする。好ましくは11~16%である。
【0030】
(N≦0.15%)
Nは不純物として含有している。Nは、Hv≧400の均一な硬さを確保するためにCと合わせて好ましくは0.01%以上添加する。一方、0.15%を超えると気泡、割れ等の欠陥の抑制が困難になるので、上限を0.15%とする。好ましくは0.11%以下である。
【0031】
(O≦0.015%)
Oは不純物として含有している。Oは、溶着時の湯流れ性を適度に確保して積層造形精度を高めるが、0.015%を超えると巨大酸化物等を起点の割れ等の抑制が困難になるので、上限を0.015%とする。好ましくは0.010%以下である。
【0032】
本発明の高硬度・高耐食性積層造形品の製造方法で用いる溶材の成分、及び、高硬度・高耐食性積層造形品の組成は、上記必須成分を含有し、残部Fe及び不純物からなる。前記Feの一部に替えて、さらに下記成分の1種以上を含有しても良い。
【0033】
(Cu≦3.5%)
Cuは、マトリックスの靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、3.5%を超えると割れを助長するので、上限を3.5%とする。好ましくは1.5%以下である。0.1%未満は不可避的不純物レベルである。
【0034】
(Ni≦5%)
Niは、マトリックスの靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、5%を超えるとオーステナイトが生成して安定してHv≧400が得られないので、上限を5%とする。好ましくは0.06~1.5%である。0.1%未満は不可避的不純物レベルである。
【0035】
(Mo≦3.0%)
Moは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、3.0%を超えると割れが助長するので、上限を3.0%とする。好ましくは2.5%以下である。0.1%未満は不可避的不純物レベルである。
【0036】
(Al≦2.0%)
Alは、積層造形時の脱酸に有効であるため、必要に応じて添加してもよいが、2.0%を超えると割れを助長するので、上限を2.0%とする。好ましくは0.5%以下である。0.005%未満は不可避的不純物レベルである。
【0037】
(B≦0.01%)
Bは、マトリクスの靭性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、0.01%を超えると割れを助長するので、上限を0.01%とする。好ましくは0.008%以下である。0.001%未満は不可避的不純物レベルである。
【0038】
(Ti≦0.5%)
Tiは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、0.5%を超えると粗大析出物が生成して割れが助長するので、上限を0.5%とする。好ましくは0.3%以下である。0.01%未満は不可避的不純物レベルである。
【0039】
(Nb≦1.0%)
Nbは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、1.0%を超えると粗大析出物が生成して割れが助長するので、上限を1.0%とする。好ましくは0.6%以下である。0.01%未満は不可避的不純物である。
【0040】
(V≦1.0%)
Vは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、1.0%を超えると粗大析出物が生成して割れが助長するので、上限を1.0%とする。好ましくは0.6%以下である。0.01%未満は不可避的不純物である。
【0041】
(Co≦3.0%)
Coは、マトリックスの靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、3.0%を超えるとオーステナイトが生成して安定してHv≧400が得られないので、上限を3.0%とする。0.1%未満は不可避的不純物レベルである。
【0042】
(W≦2.0%)
Wは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、2.0%を超えると割れが助長するので、上限を2.0%とする。0.1%未満は不可避的不純物レベルである。
【0043】
(Ta≦1.0%)
Taは、マトリックスの耐食性を向上させるため、必要に応じて添加してもよいが、1.0%を超えると粗大析出物が生成して割れが助長するので、上限を1.0%とする。0.01%未満は不可避的不純物である。
【0044】
(Ca≦0.01%)
Caは、積層造形時の脱酸に有効であるため、必要に応じて添加してもよいが、0.01%を超えると割れを助長するので、上限を0.01%とする。0.001%未満は不可避的不純物レベルである。
【0045】
(Mg≦0.01%)
Mgは、積層造形時の脱酸に有効であるため、必要に応じて添加してもよいが、0.01%を超えると割れを助長するので、上限を0.01%とする。0.001%未満は不可避的不純物レベルである。
【0046】
(REM≦0.1%)
REMは、積層造形時の脱酸に有効であるため、必要に応じて添加してもよいが、0.1%を超えると割れを助長するので、上限を0.1%とする。0.001%未満は不可避的不純物レベルである。
【0047】
(Zr≦0.1%)
Zrは、耐食性や積層造形時の脱酸に有効であるため、必要に応じて添加してもよいが、0.1%を超えると割れを助長するので、上限を0.1%とする。0.001%未満は不可避的不純物レベルである。
【0048】
《第2の材料》
第2の材料は、第2の材料に要求される特性に応じて選択することができる。第2の材料が、JIS G 4303,4304,4308に記載された成分のフェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼であると好ましい。第2の材料は第1の材料の耐食性、耐熱性に近いステンレス鋼が好ましいが、炭素鋼、高合金鋼でもよい。なお、フェライト系ステンレス鋼や析出硬化系ステンレス鋼は熱膨張率が小さいため第2の材料として好適である。
【0049】
《積層造形品の製造方法》
金属ワイヤを溶材として用いる金属3Dプリンタによって、溶着積層造形して積層造形層を形成することができる。例えば、ロボットのMIGアーク溶接機を使用して、ステンレス鋼ワイヤの溶材を用い、溶着方向11に向けて溶接機をヘッドスピードV(mm/s)で移動し、渦巻き状に連続して積層しつつ繰り返し溶着し、図1(A)に示す積層方向12に積層することにより、3次元造形し、基板2の上に図1(A)に示すような中空の円柱(直径D(mm))からなる積層造形層21を製造することができる。
【0050】
図1図3のいずれの事例についても、積層造形層(21、22、31)の任意の積層部位の冷却速度については、サーモビュアーなどの計測機器を用いて、非接触で表面温度を測定することによって計測することができる。
【0051】
《高硬度材料先行造形の製造方法》
本発明の積層造形品の製造方法において、第1の材料を用いた積層造形を最初に行い、その後に第2の材料の造形を行う方法(高硬度材料先行造形)について説明する。積層造形品が筒状の部材である場合において、内面側が高硬度である「内面高硬度積層造形品1A」において好適に用いることができる。なお、先行して形成する第1の材料を用いた造形物については、積層造形によって形成するのではなく、別に圧延や造管などの方法で形成され、焼入れ(900~1200℃)、焼戻し(500℃以下)された高硬度(Hv≧430)の造形物を用いることもできる。
【0052】
第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行い、図1(A)に示すような積層造形層21を形成する。ここにおいて、積層造形層21の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間T(s)を、「積層間インターバルT」と呼ぶ。積層間インターバルTが長すぎると、任意の層が積層されてからその上の層が溶着されるまでの時間が長すぎ、当該積層された任意の層が過度に冷却されてから再度加熱されるため、温度履歴の不均一性が高まり、硬さのばらつきがΔHv≦100から外れやすくなる。それに対して、積層間インターバルTを60s以下とすれば、温度履歴が均一化され、積層造形層の硬さのばらつきΔHv≦100を実現することができる。積層間インターバルTが30s以下であるとより好ましい。
【0053】
積層造形層が円筒形である場合、積層間インターバルT(s)は、積層造形層の円周L(mm)と溶接機のヘッドスピードV(mm/s)との間で、
T=L/V
との関係がある。従って、積層造形層の円周L(mm)に応じて、溶接機のヘッドスピードV(mm/s)を調整することにより、積層間インターバルT(s)を目標とする時間内に調整することができる。
【0054】
後述のように、積層造形層21の積層間隔が2.5mm以下であると好ましい。積層間隔は、溶材供給速度とヘッドスピードの比で定まる。ヘッドスピードVが遅いことに起因して積層間インターバルTが長くなっている場合、ヘッドスピードVが遅いことに対応して溶材供給速度が十分に低下していないと、積層造形層の積層間隔が2mm以下の好適範囲から外れ、それに起因する品質不良が発生することもある。詳細は後述する。
【0055】
積層造形層の任意の層を積層するに際し、当該積層箇所がアーク溶接後に700~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却を行う。このような冷却速度で冷却することにより、第1の材料からなる積層造形層21は、その硬さをHv≧400とし、硬さのばらつきをΔHv≦100とすることができる。
【0056】
第1の材料からなる積層造形層21を形成して上記のように冷却を行った後、既に造形した第1の材料の積層造形層21に隣接するように、第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により積層造形を行い、積層造形層22を形成する。
【0057】
第2の材料の積層造形に際し、5mm/s~100mm/sのヘッドスピードで3次元に積層造形を行う。ヘッドスピードとは、アーク溶接を行うに際しての溶接ヘッドと溶接対象物との間の相対速度を意味する。5mm/s以上のヘッドスピードで溶着を行うことにより、すでに溶着が完了している第1の材料からなる積層造形層21において、第2の材料の溶着に際して第1の材料が過度に昇温することを防止し、第1の材料からなる積層造形層21の硬さをHv≧400とし、硬さのばらつきをΔHv≦100とすることができる。ヘッドスピードが100mm/sを超えると、造形不良が発生する原因となる。
【0058】
第2の材料を溶着した部位の溶着後100s以内に冷却を開始し、冷却開始後500℃以下まで平均で20℃超/sの冷却速度で冷却する。このような冷却開始までの時間と冷却速度で冷却することにより、すでに溶着が完了している第1の材料からなる積層造形層21において、第2の材料の溶着に際して第1の材料が過度に昇温することを防止し、第1の材料からなる積層造形層21の硬さをHv≧400とし、硬さのばらつきをΔHv≦100とすることができる。
【0059】
ここで、高硬度材料先行造形の製造方法によって内面高硬度積層造形品1Aを製造する上記方法において、第2の材料の積層造形に際しての好適な方法について述べる。まず、第1の材料の積層に関しては、第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いて、前述の方法でアーク溶接により3次元に積層造形を行い、図1(A)に示すような積層造形層21を形成する。
次いで、図4(A)、図4(B)に示すように、上記製造した積層造形層21を水槽8内の冷却水9中に浸漬する。図4(A)に示す例では、積層造形層21の中心軸が水平方向であり、図4(B)に示す例では、積層造形層21の中心軸が垂直方向に対して傾き角θで傾いている。そして、第2の材料の溶材を用いてアーク溶接7により5mm/s~100mm/sのヘッドスピードになるように図4に示すように積層構造物を回転方向13に回転しながら水平方向(図4(A))又は垂直方向に対しての傾き角θを20°以上傾斜させて(図4(B))3次元に積層造形し、且つ、構造物の一部を水槽8内の冷却水9中に浸漬して断続冷却しながら積層造形して積層造形層22を形成することで効率よく冷却することができる。
【0060】
積層造形品1が筒状の部材である場合において、内面側が高硬度である「内面高硬度積層造形品」(図1参照)にあっては、上記製造方法を用い、第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行って積層造形層21を形成し、その後、既に造形した第1の材料の積層造形層の外側に、積層造形層21に隣接するように、第2の材料からなる溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行う方法を好適に採用することができる。
【0061】
《高硬度材料後行造形の製造方法》
本発明の積層造形品の製造方法において、最初に第2の材料の造形物32を形成し、その後に第1の材料を用いて積層造形層31を形成する方法(高硬度材料後行造形)について説明する。積層造形品1が筒状の部材である場合において、外面側が高硬度である「外面高硬度積層造形品1B」において好適に用いることができる(図2図3参照)。
【0062】
まず、第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料を用いた造形物32を形成する。前述のように、第1の材料の積層造形に先行する第2の材料の造形方法については、別に圧延や造管などの方法で形成された造形物32を用いても良いし(図2参照)、あるいは第2の材料を用いた積層造形によって積層造形層32Aを製造しても良い(図3参照)。以下、ステンレス鋼薄板を造管した鋼管を、第2の材料を用いた造形物32として用いる場合を例にとって、図2に基づいて説明を行う。
【0063】
第2の材料を用いた造形物32を形成した後(図2(A))、当該造形物32に隣接するように、第1の材料からなるステンレス鋼線の溶材を用いてアーク溶接により3次元に積層造形を行い、積層造形層31を形成する(図2(B))。
【0064】
第1の材料の積層造形に際し、積層造形層31の任意の層を積層してからその上の層を積層するまでの時間(積層間インターバルT)を60s以下とする。積層間インターバルTを60s以下とすれば、温度履歴が均一化され、第1の材料からなる積層造形層31の硬さのばらつきΔHv≦100を実現することができる。積層間インターバルTが30s以下であるとより好ましい。なお、ヘッドスピードVが遅いことに起因して積層間インターバルTが長くなっている場合、ヘッドスピードVが遅いことに対応して溶材供給速度が十分に低下していない場合、積層造形層31の積層間隔が2.5mm以下の好適範囲から外れ、それに起因する品質不良が発生することもある。詳細は後述する。
【0065】
アーク溶接後に700~300℃まで平均1℃/s以上の冷却速度になるように冷却する。このような冷却速度で冷却することにより、第1の材料からなる積層造形層31は、その硬さをHv≧400とし、その硬さのばらつきをΔHv≦100とすることができる。
【0066】
第1の材料の積層造形層31の積層間インターバルと冷却速度がともに上記好適範囲から外れる場合、第1の材料からなる積層造形層の硬さのばらつきΔHvが好適範囲から外れると同時に、第1の材料からなる積層造形層の硬さHvが好適範囲から外れることとなる。
【0067】
《積層造形品》
本発明の積層造形品1は、マルテンサイト系ステンレス鋼である第1の材料、第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料を用い、第1の材料からなる複数の層からなる積層造形層(21、31)が形成され、積層造形層に隣接して第1の材料とは異なる成分組成の第2の材料からなる造形物が形成される。当該造形物は、図1に示す例では積層造形層22、図2に示す例では造形物32、図3に示す例では積層造形層32Aとして造形されている。第1の材料からなる積層造形層(21、31)の硬さがHv≧400であり、硬さのばらつきΔHv≦100であり、積層造形層(21、31)の積層間隔が2.5mm以下であることを特徴とする。第1の材料が前記成分組成を有し、前記製造方法に基づいて製造することにより、上記の品質を実現することができる。積層間隔が2.5mm以下であることにより、均一な温度で積層造形し、その後に均一に冷却でき、均一な硬さ分布を得ることができる。好ましくは積層間隔は2.0mm以下、更には1mm以下である。
【0068】
任意の積層部位の冷却速度については、サーモビュアーを用いて、非接触で表面温度を測定することによって計測した。
【実施例0069】
45kgの真空溶解炉にて表1~表3に示す化学組成の鋼を溶解し、熱間鍛造と熱間押し出しにより直径11mmの棒鋼に加工した。その後、伸線と焼鈍を繰り返し、φ1.2mmの金属ワイヤとし、MIGアーク溶接用の溶材として用いた。表1、表2に示す成分は、第1の材料として用いるマルテンサイト系ステンレス鋼であり、表3に示す成分は、第2の材料として用いるフェライト系ステンレス鋼である。
【0070】
アークによる溶着条件として、Ar+3%酸素のシールドガスを用い、溶接電流300A、アーク電圧20V,ワイヤ供給速度の基本条件を800cc/hとした。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
《内面高硬度積層造形品の高硬度材料先行造形》
内面高硬度積層造形品を高硬度材料先行造形する実施例については、表4、5に示す条件を用い、まず、ロボットのCMTのアーク溶接機を使用して、表1、表2に示す化学成分のマルテンサイト系ステンレス鋼で試作した金属ワイヤでSUS420J1系(13%Cr-0.2%C)鋼板(φ80mm-15mmt)からなる基板2の上に渦巻状に連続して積層しつつ繰り返し溶着し、図1(A)に示す積層方向12に積層することにより高さ20mmに円筒形(内径60,外径70mm)に3次元造形して積層造形層21とした。この時、アーク溶接機のヘッドスピードを変化させて積層間インターバルを5~80sと変化させた。アーク溶接のワイヤ供給速度については、表4の本発明例No.1~17、19~25、表5の比較例No.1~23、25、28~30については上記基本条件の一定の供給速度とし、表4の本発明例No.18、表5の比較例No.24、26、27については左記一定の速度よりは遅い速度とし、それによって積層ピッチを調整した。積層造形後において放冷,エアーノズルを使用した強制空気又は水冷ノズルを使用した水冷により700℃から300℃の平均冷却速度を0.5~100℃/sと変化させて常温まで冷却した。
【0075】
その後、表3に示す化学成分のフェライト系ステンレス鋼材料で試作した金属ワイヤで前記記載のマルテンサイト系ステンレス鋼の積層造形層21の外周に隣接して、図1(B)に示すように3次元積層造形して積層造形層22を形成した。この時、アーク溶接機のヘッドスピードを3~70mm/sと変化させた。また、積層後に11~122s経過してから冷却を開始し、その箇所より下部を連続的に冷却した。冷却開始から500℃までの平均冷却速度は、エアーノズルを使用した強制空冷却(流量調整で平均5~50℃/s)および水冷ノズルを使用した水冷(平均50超から100℃/s)により500℃以下までの平均冷却速度を変化させて冷却した。なお、冷却時はエアーノズルや水冷ノズルからのエアーや水が上部方向の溶着部に当たらないようにカバーを設けた。
以上のようにして、本発明が対象とする積層造形品を形成した。その後、積層造形品の評価のため、内面のマルテンサイト系ステンレス鋼の積層部の表層を切り込み深さ1mmで全面切削加工した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
《外面高硬度積層造形品の高硬度材料後行造形》
外面高硬度積層造形品を高硬度材料後行造形する実施例については、表6に示す条件を用い、図2(A)に示すように、SUS420J1系鋼板(φ80mm-15mmt)からなる基板2の上に表3に化学成分を示すフェライト系ステンレス鋼材料の円筒形状(内径60mm,外径70mm,高さ30mm)の造形物32を設置し、その外周に隣接して表1の鋼Bに示す化学成分の鋼材径材料で試作した金属ワイヤで図2(B)に示すように3次元積層造形して積層造形層31を形成した。この時、アーク溶接機のヘッドスピードを変化させて積層間のインターバルを10~80sとなるように調整した。アーク溶接のワイヤ供給速度については、表6の本発明例No.26、比較例No.32については上記基本条件とし、その他については各水準ごとに調整し、それによって積層ピッチを調整した。積層後に放冷,エアーノズルを使用した強制空気又は水冷ノズルを使用した水冷を実施し、700~300℃までの平均冷却速度を0.5~100℃/sと変化させて冷却した。
以上のようにして、本発明が対象とする積層造形品を形成した。その後、積層造形品の評価のため、外面のマルテンサイト系ステンレス鋼の積層部の表層を切り込み深さ1mmで全面切削加工した。
【0079】
【表6】
【0080】
《積層造形品の評価》
次に該円筒形物の一部から縦断面に埋め込み・鏡面研磨して、第1の材料で形成した積層造形層(21、31)の表層任意の5か所について、切削表面から深さが1,2,3,4mm部の硬さを測定した。切削表面から深さが1,2mm部の硬さを用い、表4~6において、最低の硬さを「最低Hv」欄に記載し、前述の方法で評価したΔHvを「ΔHv」欄に記載した。
本発明例では全ての測定箇所の表層2mm深さ(造形表層から3mm)までの硬さはHv≧400で且つΔHv≦100であった。一方、切削表層から2mm(積層造形品の表層から3mm)超の部位の硬さは安定していなかった。
【0081】
該鏡面研磨面を王水エッチしてマクロ的なエッチコントラストにより積層界面5を現出し、積層数および平均の積層ピッチを算出した。本発明例では積層間隔である平均積層ピッチが2mm以下であった。
【0082】
また、外観観察により割れ、気泡等の大きな欠陥をチェックし、工業的な製造可否についても調査した。
【0083】
結果を表4~表6に示す。
表4、表5は、内面高硬度積層造形品を高硬度材料先行造形する実施例の結果である。
【0084】
表4の本発明例No.1~25は、成分組成が本発明範囲内であり、本発明の積層造形品の製造方法を適用した結果として、割れ発生がなく、硬さがHv≧400で、硬さのばらつきΔHv≦100であった。
【0085】
表5の比較例No.1~30が比較例である。
比較例No.1はCが下限に外れ、硬さが下限外れであった。No.4、8、10はそれぞれMn、Ni、Crが上限に外れ、硬さが下限外れとなり、ΔHvが外れであった。
比較例No.2、3、5~7、11、12、14~23は、それぞれC、Si、S、P、Cu、Mo、Al、B、Ti、Nb、V、O、Ta、Ca、Mg、REM、Zrのいずれかが上限外れであり、結果として割れの発生が生じた。
比較例No.9はCrが下限外れであり、耐食性が不良であった。No.13はNが上限外れで、気泡が発生するとともに割れが発生した。
【0086】
内層の積層造形条件のうち、No.24、27は積層間インターバルが長すぎ、結果として積層ピッチも大きすぎ、硬さとΔHvが不良であった。比較例No.26は積層後の冷却条件が本発明範囲外であり、硬さとΔHvが不良であった。
外層の積層条件のうち、No.25はヘッドスピードが遅すぎ、No.28は冷却開始までの時間が長すぎ、No.29は平均冷却速度が低すぎ、それぞれ硬さとΔHvが不良であった。No.30はヘッドスピードが速すぎるとともに平均冷却速度が遅すぎ、造形不良となるとともに、硬さとΔHvが不良であった。
【0087】
表6は、外面高硬度積層造形品を高硬度材料後行造形する実施例の結果である。
表6の本発明例No.26~27は、成分組成が本発明範囲内であり、本発明の積層造形品の製造方法を適用した結果として、割れ発生がなく、硬さがHv≧400で、硬さのばらつきΔHv≦100であった。
【0088】
表6の比較例No.31~33が比較例である。
外層の積層造形条件のうち、No.31は積層間インターバルが長すぎ、結果として積層ピッチも大きすぎ、ΔHvが不良であった。比較例No.32は積層後の冷却速度が本発明範囲外であり、硬さとΔHvが不良であった。比較例No.32は積層間インターバルが長すぎて積層ピッチが大きくなるとともに、積層後の冷却速度が本発明範囲外であり、硬さとΔHvが不良であった。
【符号の説明】
【0089】
1 積層造形品
1A 内面高硬度積層造形品
1B 外面高硬度積層造形品
2 基板
3 溶着物
4 積層面
5 積層界面
6 層
7 アーク溶接
8 水槽
9 冷却水
11 溶着方向
12 積層方向
13 回転方向
21 積層造形層
22 積層造形層
31 積層造形層
32 造形物
32A 積層造形層
図1
図2
図3
図4