(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103030
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】生コンクリートの品質予測方法、生コンクリートの製造方法、及び生コンクリートの製造システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20230719BHJP
B28C 7/02 20060101ALI20230719BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20230719BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
G01N33/38
B28C7/02
B28C7/04
G01N11/00 A
G01N11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003855
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】市川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩行
(72)【発明者】
【氏名】田中 将平
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA08
4G056CA03
4G056CB01
4G056CB15
4G056CB19
4G056CD31
4G056DA09
(57)【要約】
【課題】生コンクリートの品質を簡便に把握する。
【解決手段】本開示の一側面に係る生コンクリートの品質予測方法は、取得工程と、予測工程とを含む。取得工程では、コンクリート材料を練り混ぜるミキサによって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する。予測工程では、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート材料を練り混ぜるミキサによって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する取得工程と、
前記入力情報の入力に応じて前記生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記取得工程において取得された前記入力情報とに基づいて、前記生コンクリートの品質を予測する予測工程と、を含む、生コンクリートの品質予測方法。
【請求項2】
前記振動情報は、2方向以上での振動の大きさを示す情報を含む、請求項1に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項3】
前記振動情報は、前記ミキサの下方に配置され、前記生コンクリートを収容可能なホッパに対して前記ミキサから前記生コンクリートが排出された際の前記ホッパの振動の大きさを示す情報である、請求項1又は2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項4】
前記振動情報は、前記ホッパの側壁に交差する方向における前記ホッパの振動の大きさを示す情報を含む、請求項3に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項5】
前記振動情報は、前記ホッパの側壁に沿った方向における前記ホッパの振動の大きさを示す情報を更に含む、請求項4に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項6】
前記振動情報は、前記ミキサから前記ホッパに前記生コンクリートが排出された時点を含むように設定された評価期間における前記ホッパの加速度の移動平均値について、最大値、最小値、平均値、及び、標準偏差に基づく値から成る群から選択される少なくとも1つを算出した結果である、請求項3~5のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項7】
前記取得工程は、
所定のデータ取得期間に得られる前記ホッパの加速度の時系列データにおいて、前記ホッパの側壁に交差する方向又は前記ホッパの側壁に沿った方向における前記ホッパの加速度の絶対値が最大となる時刻を、基準時刻として算出する工程と、
前記データ取得期間のうち、前記基準時刻よりも前の時刻から、前記基準時刻よりも後の時刻までの期間を前記評価期間に設定する工程と、を含む、請求項6に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項8】
前記予測工程では、前記生コンクリートに含まれる空気量が予測される、請求項1~7のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項9】
前記予測工程では、前記生コンクリートのスランプ及びスランプフローの少なくとも一方が予測される、請求項1~8のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項10】
前記入力情報は、前記コンクリート材料の配合条件を示す情報、及び、前記ミキサにおける前記コンクリート材料の練混ぜ時の条件又は状態を示す情報の少なくとも一方を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項11】
前記予測モデルを構築するモデル構築工程を更に含み、
前記モデル構築工程は、
前記ミキサによって製造されたテスト用の生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す学習用の振動情報を含む学習用の入力情報と、前記学習用の入力情報に対応付けられた前記テスト用の生コンクリートの品質を示す実績情報と、を準備する工程と、
前記学習用の入力情報と前記実績情報とに基づくニューラルネットワークを用いた機械学習により前記予測モデルを構築する工程と、を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項12】
コンクリート材料をミキサにおいて練り混ぜる練混ぜ工程と、
前記練混ぜ工程において製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する取得工程と、
前記入力情報の入力に応じて前記生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記取得工程において取得された前記入力情報とに基づいて、前記生コンクリートの品質を予測する予測工程と、を含む、生コンクリートの製造方法。
【請求項13】
コンクリート材料を練り混ぜるミキサと、
前記ミキサにおいて製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを検出するセンサと、
少なくとも前記センサによる検出結果に基づいて、前記振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する情報取得部と、
前記入力情報の入力に応じて前記生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルを記憶するモデル保持部と、
前記モデル保持部により記憶された前記予測モデルと、前記情報取得部により取得された前記入力情報とに基づいて、前記生コンクリートの品質を予測する品質予測部と、を備える、生コンクリートの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生コンクリートの品質予測方法、生コンクリートの製造方法、及び生コンクリートの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、生コンクリートの品質を予測する品質予測方法が開示されている。この品質予測方法では、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、ミキサ内を連続的に撮影した複数の画像データと、予測モデルとを用いて生コンクリートの品質が予測されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、生コンクリートの品質を簡便に把握することが可能な生コンクリートの品質予測方法、生コンクリートの製造方法、及び生コンクリートの製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る生コンクリートの品質予測方法は、取得工程と、予測工程とを含む。取得工程では、コンクリート材料を練り混ぜるミキサによって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する。予測工程では、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する。
【0006】
上記振動情報は、2方向以上での振動の大きさを示す情報を含んでもよい。
【0007】
上記振動情報は、ミキサの下方に配置され、生コンクリートを収容可能なホッパに対してミキサから生コンクリートが排出された際のホッパの振動の大きさを示す情報であってもよい。
【0008】
上記振動情報は、ホッパの側壁に交差する方向におけるホッパの振動の大きさを示す情報を含んでもよい。
【0009】
上記振動情報は、ホッパの側壁に沿った方向におけるホッパの振動の大きさを示す情報を更に含んでもよい。
【0010】
上記振動情報は、ミキサからホッパに生コンクリートが排出された時点を含むように設定された評価期間におけるホッパの加速度の移動平均値について、最大値、最小値、平均値、及び標準偏差に基づく値から成る群から選択される少なくとも1つを算出した結果であってもよい。
【0011】
上記取得工程は、所定のデータ取得期間に得られるホッパの加速度の時系列データにおいて、ホッパの側壁に交差する方向又はホッパの側壁に沿った方向におけるホッパの加速度の絶対値が最大となる時刻を、基準時刻として算出する工程と、データ取得期間のうち、基準時刻よりも前の時刻から、基準時刻よりも後の時刻までの期間を評価期間に設定する工程と、を含んでもよい。
【0012】
上記予測工程では、生コンクリートに含まれる空気量が予測されてもよい。
【0013】
上記予測工程では、生コンクリートのスランプ及びスランプフローの少なくとも一方が予測されてもよい。
【0014】
上記入力情報は、コンクリート材料の配合条件を示す情報、及び、ミキサにおけるコンクリート材料の練混ぜ時の条件又は状態を示す情報の少なくとも一方を更に含んでもよい。
【0015】
上記品質予測方法は、予測モデルを構築するモデル構築工程を更に含んでもよい。モデル構築工程は、ミキサによって製造されたテスト用の生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す学習用の振動情報を含む学習用の入力情報と、学習用の入力情報に対応付けられたテスト用の生コンクリートの品質を示す実績情報と、を準備する工程と、学習用の入力情報と実績情報とに基づくニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルを構築する工程と、を含んでもよい。
【0016】
本開示の一側面に係る生コンクリートの製造方法は、練混ぜ工程と、取得工程と、予測工程と、を含む。練混ぜ工程では、コンクリート材料をミキサにおいて練り混ぜる。取得工程では、練混ぜ工程において製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する。予測工程では、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する。
【0017】
本開示の一側面に係る生コンクリートの製造装置は、ミキサと、センサと、情報取得部と、モデル保持部と、品質予測部と、を備える。ミキサは、コンクリート材料を練り混ぜる。センサは、ミキサにおいて製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを検出する。情報取得部は、少なくともセンサによる検出結果に基づいて、振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得する。モデル保持部は、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルを記憶する。品質予測部は、モデル保持部により記憶された予測モデルと、情報取得部により取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、生コンクリートの品質を簡便に把握することが可能な生コンクリートの品質予測方法、生コンクリートの製造方法、及び生コンクリートの製造システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、生コンクリートの製造システムの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2(a)は、積込ホッパの一例を模式的に示す側面図である。
図2(b)は、積込ホッパの一例を模式的に示す下面図である。
【
図3】
図3は、制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、振動検出センサによる検出値の一例を示すグラフである。
図4(b)は、生コンクリートが落下した際の検出値の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、検出値の移動平均値の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、学習フェーズにおいて実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、評価フェーズにおいて実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、振動情報を用いた予測モデルの検証結果の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、振動情報を用いた予測モデルの検証結果の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、振動情報を用いた予測モデルの検証結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
[生コンクリートの製造システム]
図1には、一実施形態に係る生コンクリートの製造システムが模式的に示されている。
図1に示される製造システム1は、生コンクリート(生コン)を製造するシステムである。製造システム1は、コンクリート材料を混練して生コンクリートを製造する。コンクリート材料は、セメント、混和材、粗骨材(例えば、砂利)、細骨材(例えば、砂)、水、及び混和剤等を含む。
【0022】
製造システム1は、製造した生コンクリートを運搬車Cに積み込む。運搬車Cは、生コンクリートが積み込まれた後に、生コンクリートが使用される現場(例えば、工事現場)まで生コンクリートを運搬する。運搬車Cとしては、例えば、アジテータ車(ミキサ車)、及び、ダンプトラックが挙げられる。製造システム1は、現場ごとに設定された目標品質(要求品質)を満たすように、コンクリート材料から生コンクリートを製造してもよい。製造システム1は、製造装置10と、振動検出センサ40(センサ)と、制御装置50と、を備える。
【0023】
(生コンクリートの製造装置)
製造装置10は、制御装置50からの動作指示に基づいて、生コンクリートを製造する装置である。製造装置10は、例えば、貯蔵瓶12と、計量瓶14と、集合ホッパ16と、ミキサ20と、積込ホッパ30(ホッパ)と、を備える。
図1には、上下方向が「方向D1」及び「方向D2」で示されている。方向D1は鉛直上向きであり、方向D2は鉛直下向きである。製造装置10では、貯蔵瓶12、計量瓶14、集合ホッパ16、ミキサ20、及び積込ホッパ30が、上からこの順に配置されている。
【0024】
貯蔵瓶12は、各種のコンクリート材料を一時的に貯蔵する。貯蔵瓶12には、骨材置場、セメントサイロ、及び水槽等から、ベルトコンベア等の運搬装置により各種のコンクリート材料が搬送される。貯蔵瓶12は、各種のコンクリート材料を個別に貯蔵するように構成されている。以下では、「コンクリート材料」を単に「材料」と表記する場合がある。貯蔵瓶12に貯蔵されている各種材料は、必要に応じて計量瓶14に供給される。
【0025】
計量瓶14は、貯蔵瓶12の下方に配置されている。計量瓶14は、制御装置50からの動作指示に基づいて動作し、各種材料を個別に計量する。計量瓶14は、制御装置50から指示された目標量の材料を検知すると、その材料を集合ホッパ16に供給する。水が計量瓶14に供給される際に、その水に混和剤が混合されてもよい。集合ホッパ16は、計量瓶14の下方に配置されている。集合ホッパ16は、計量瓶14から排出される各種材料を集約し、集約した各種材料をミキサ20に供給する。
【0026】
ミキサ20は、集合ホッパ16の下方に配置されている。ミキサ20は、骨材、セメント、水、及び混和剤等を練り混ぜる(混練する)ことで、生コンクリートを製造(生成)する装置である。ミキサ20は、傾動ミキサ、水平1軸型のミキサ、水平2軸型のミキサ、又はパン型のミキサであってもよい。ミキサ20は、例えば、2つの攪拌部材21と、ミキサ駆動部22と、を含む。傾動ミキサでは、ミキサ内の画像を撮像することが困難であるため、本実施形態に係る振動を用いた品質予測を好適に活用できる。
【0027】
2つの攪拌部材21は、ミキサ20に供給された各種材料を攪拌する部材である。2つの攪拌部材21は、ミキサ20の本体部分(容器部分)の内部において並んで配置され、回転自在に設けられている。2つの攪拌部材21それぞれは、水平な一方向に延びる回転軸を含む。ミキサ駆動部22は、制御装置50からの動作指示に基づいて、2つの攪拌部材21それぞれの回転軸を回転させる。ミキサ駆動部22は、例えば、攪拌部材21に駆動力を付与するモータ等の駆動源を含む。ミキサ20の本体部分の底壁には、製造された生コンクリートを積込ホッパ30に排出するための開閉口が設けられている。
【0028】
積込ホッパ30は、ミキサ20の下方に配置されており、生コンクリートを収容可能となる。積込ホッパ30は、ミキサ20(ミキサ20の上記開閉口)から排出された生コンクリートを受け入れて、その生コンクリートを一時的に収容する。ミキサ20から積込ホッパ30に生コンクリートが排出される際に、その生コンクリートは、積込ホッパ30の内部に落下する。例えば、ミキサ20から排出される際に、ミキサ20で製造された生コンクリートの略全てが積込ホッパ30に落下する。積込ホッパ30は、ミキサ20で製造された生コンクリートを一時的に収容した後に、生コンクリートを運搬車Cに供給する。
【0029】
積込ホッパ30は、生コンクリートを収容可能であれば、どのような形状を有してもよい。積込ホッパ30は、切頭円錐状であってもよく、切頭四角錐状であってもよい。積込ホッパ30は、例えば、切頭四角錐状であり、
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、底壁32と、側壁34aと、側壁34bと、側壁34cと、側壁34dと、を有する。底壁32は、水平に配置されており、平面視(鉛直上方から視ること)において、底壁32の外縁は四角形である。側壁34a,34b,34c,34dそれぞれは、底壁32の1つの縁に接続されており、鉛直斜め方向に延びるように形成されている。各側壁は、上方に向かうにつれて、底壁32から離れるように、上下方向に対して傾斜している。
【0030】
底壁32、及び側壁34a,34b,34c,34dによって、積込ホッパ30内の収容空間が形成される。積込ホッパ30内の収容空間は、上端が開放されている。積込ホッパ30内の収容空間では、上方から底壁32に向かうにつれて水平面での面積が小さくなっている。底壁32には、生コンクリートを運搬車Cに排出するための開閉口(不図示)が設けられている。
図2(b)には、鉛直下方から積込ホッパ30を見た場合の、積込ホッパ30とミキサ20の本体部分の底壁に設けられた開閉口24との位置関係が例示されている。
【0031】
ミキサ20の開閉口24は、水平な一方向に沿って延びるように形成されていてもよい。開閉口24は、上述した一対の攪拌部材21の間に配置され、攪拌部材21の回転軸に沿って延びるように形成されていてもよい。積込ホッパ30は、底壁32の一対の外縁が開閉口24の延在方向に沿うように配置されてもよい。側壁34a及び側壁34bは、開閉口24の延在方向において、底壁32を間に挟むように配置されている。側壁34c及び側壁34dは、開閉口24の延在方向とは直交する水平な一方向において、底壁32及び開閉口24を間に挟むように配置されている。
【0032】
開閉口24の延在方向において、開閉口24の長さは、底壁32よりも長くてもよく、側壁34aの上端と側壁34bの上端との間の長さ(最短距離)よりも短くてもよい。この場合、開閉口24から生コンクリートが排出される際に、生コンクリートが、底壁32の上面に加えて、側壁34aの内面、及び側壁34bの内面に落下し得る。側壁34aの内面又は側壁34bの内面に落下した生コンクリートは、これらの内面に沿って底壁32に向かって流下する。
【0033】
(振動検出センサ)
振動検出センサ40は、ミキサ20によって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動(振動の大きさ)を検出するセンサである。落下又は流下に起因した振動には、生コンクリートの落下及び流下の双方に起因した振動も含まれる。振動検出センサ40は、生コンクリートの落下又は流下に起因した2方向以上での振動の大きさを検出可能であってもよい。振動検出センサ40は、例えば、積込ホッパ30の振動の大きさを検出する。振動検出センサ40は、積込ホッパ30のいずれかの側壁に設置されていてもよい。振動検出センサ40は、ミキサ20から排出された生コンクリートが落下し得る側壁34a及び側壁34bの一方に設置されてもよい。
図2(a)及び
図2(b)に示される例では、振動検出センサ40が、側壁34aの外面に設けられている。
【0034】
振動検出センサ40は、側壁34aに交差する方向における積込ホッパ30の振動の大きさを検出してもよい。振動検出センサ40は、側壁34aに交差する方向での振動に加えて、側壁34aに沿った方向における積込ホッパ30の振動の大きさを検出してもよい。振動検出センサ40は、例えば、側壁34aに直交する方向での積込ホッパ30の振動の大きさと、側壁34aに沿い、且つ、互いに直交する2方向での振動の大きさとを検出する。本開示では、側壁34aに直交する方向を「Z軸」と定義し、側壁34aに直交する方向から側壁34aを見たときの横方向及び縦方向を「X軸」及び「Y軸」とそれぞれ定義する。
【0035】
振動検出センサ40は、積込ホッパ30の振動の大きさを検出することが可能であれば、いかなる方式のセンサであってもよい。振動検出センサ40は、例えば、積込ホッパ30の加速度を検出するセンサである。振動検出センサ40は、積込ホッパ30のX軸方向での加速度、積込ホッパ30のY軸方向での加速度、及び積込ホッパ30のZ軸方向での加速度を検出してもよい。
【0036】
振動検出センサ40は、所定のサンプリング周期にて各軸の加速度を検出してもよい。サンプリング周期は、0.1秒~1.0秒程度であってもよい。振動検出センサ40は、加速度に代えて、積込ホッパ30の速度、角速度、位置情報、変位、又は、加速度及び角速度の双方を検出するセンサであってもよい。位置情報を検出するセンサは、GPSセンサであってもよい。振動検出センサ40は、製造システム1(製造装置10)が稼働している間、加速度等の振動の大きさを示す物理量を継続して検出してもよい。振動検出センサ40は、加速度等の検出値を制御装置50に出力する。
【0037】
(制御装置)
制御装置50は、製造装置10を制御する装置である。制御装置50は、1つ又は複数の制御用コンピュータによって構成される。制御装置50には、入出力デバイス52が接続されてもよい(
図3参照)。入出力デバイス52は、オペレータ等からの指示を示す情報を制御装置50に入力すると共に、制御装置50からの情報をオペレータ等に出力するための装置である。入出力デバイス52は、入力デバイスとして、キーボード、操作パネル、又はマウスを含んでいてもよく、出力デバイスとして、モニタ(例えば液晶ディスプレイ)を含んでいてもよい。入出力デバイス52は、入力デバイス及び出力デバイスが一体化されたタッチパネルであってもよい。制御装置50及び入出力デバイス52が一体化されていてもよい。
【0038】
制御装置50は、予め定められた動作条件に従って製造装置10を制御してもよい。動作情報の少なくとも一部は、オペレータ等からの指示によって定められてもよい。制御装置50は、製造装置10に対する制御に加えて、製造装置10によって製造された生コンクリートの品質を予測するように構成されていてもよい。この場合、制御装置50が、生コンクリートの品質を予測する品質予測装置を構成する。制御装置50(品質予測装置)は、少なくとも、ミキサ20において製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報を取得することと、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測することと、を実行するように構成されている。
【0039】
制御装置50は、
図3に示されるように、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、動作条件保持部62と、動作制御部64と、動作データ取得部66と、検出データ取得部68と、振動データ算出部70と、品質予測部72と、モデル保持部74と、モデル構築部76と、報知部78と、を有する。これらの機能モジュールが実行する処理は、制御装置50が実行する処理に相当する。
【0040】
動作条件保持部62は、製造装置10を動作させるための動作条件を示す情報を保持(記憶)する。動作条件保持部62が保持する動作条件は、オペレータ等によって予め定められていてもよい。オペレータ等は、生コンクリートの目標品質に応じて、動作条件を調整(変更)してもよい。動作制御部64は、動作条件保持部62が保持する動作条件に従って製造装置10を制御する。動作条件は、コンクリート材料の配合条件、使用する材料の条件、及び、ミキサ20におけるコンクリート材料の練混ぜ時の条件を含んでもよい。
【0041】
動作データ取得部66は、生コンクリートの品質を予測するために使用する動作情報を取得する。動作情報は、例えば、製造装置10を動作させるための上記動作条件を示す条件情報、製造装置10が実際に動作した際の装置又は材料の状態を示す状態情報、及び、製造装置10の動作時の環境を示す環境情報のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。動作情報は、コンクリート材料の配合条件を示す情報、及び、ミキサ20におけるコンクリート材料の練混ぜ時の条件又は状態を示す情報の少なくとも一方を含んでもよい。
【0042】
動作情報は、各種材料の配合条件に関する情報、使用する材料に関する情報、ミキサ20における練混ぜに関する情報、及び、環境(外部環境)に関する情報のうちの少なくとも1種類以上の情報を含んでもよい。各種材料の配合条件に関する情報は、例えば、呼び強度、配合強度、目標スランプ、目標スランプフロー、目標空気量、水結合材比、細骨材率、及び、各種材料(水、セメント、混和材、細骨材、粗骨材、及び混和剤等)の単位量[kg/m3]又は単位容積[L/m3]のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。
【0043】
使用する材料に関する情報は、例えば、各種材料の、種類、銘柄、製造日、及び密度[g/cm3]、並びに、骨材(細骨材及び粗骨材)の、吸水率、含水率、表面水率、実積率、粗粒率、粒度分布、及び最大寸法のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。ミキサ20におけるコンクリート材料の練混ぜ時の条件又は状態は、例えば、各種材料の練混ぜ量(総量)、練混ぜ時間の設定値、練混ぜ時間の実測値、及びミキサ20の電力負荷値のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。
【0044】
動作情報は、上述した情報に代えて又は加えて、セメントに関する情報及びセメントクリンカに関する情報の少なくとも一方を含んでもよい。セメントに関する情報は、例えば、セメントの種類、化学組成、鉱物組成、湿式f.CaO、強熱減量、ブレーン比表面積、粒度分布、ふるい試験残分量、色調、セメントに含まれる各鉱物の、鉱物学的性質及び結晶学的性質、並びに、セメントに含まれる石膏の半水化率のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。
【0045】
セメントクリンカに関する情報は、例えば、セメントクリンカの調合原料の、化学組成、水硬率、ふるい試験残分量、ブレーン比表面積(粉末度)、及び強熱減量と、セメントクリンカの、鉱物組成、化学組成、湿式f.CaO(フリーライム)、及び、容重と、セメントクリンカに含まれる各鉱物の結晶学的性質(格子定数又は結晶子径等)と、セメントクリンカに含まれる2種以上の鉱物組成の比と、からなる群から選択される少なくとも1種類以上の情報を含む。
【0046】
ミキサ20の電力負荷値は、ミキサ駆動部22において測定されてもよい。ミキサ20の電力負荷値を示す情報は、ミキサ20が動作している間の連続した時系列データであってもよく、時系列データから得られる統計値であってもよく、代表した数点での電力負荷値であってもよい。電力負荷値を示す情報は、ミキサ20の動作開始時点(開始直後)の電力負荷値の初期値、ミキサ20の動作中における電力負荷値の最大値、及び、ミキサ20の動作終了時点(終了直前)の電力負荷値の終局値であってもよい。ミキサ20の電力負荷値の初期値と最大値との差分、及びミキサ20の電力負荷値の終局値は、生コンクリートの硬さ(軟らかさ)等が影響すると考えられる。
【0047】
環境(外部環境)に関する情報は、例えば、外気温、湿度、ミキサ20内の温度、各種材料の温度、及び、各種材料を貯蔵する容器の温度のうちの少なくとも1種類以上の情報を含む。品質の予測精度の観点から、動作情報として、各種材料の密度、細骨材の表面水率の設定値及び実測値、呼び強度、配合強度、水結合材比、細骨材率、各材料の単位量、材料の練混ぜ量、練混ぜ時間、電力負荷値の初期値、最大値、及び終局値、並びに外気温から成る群から選択される1種類以上の情報が用いられてもよい。以上に説明した各種の動作情報は一例であり、生コンクリートの品質に影響し得る情報であれば、どのような情報が含まれていてもよい。
【0048】
検出データ取得部68は、振動検出センサ40による振動の検出結果を示す検出情報を取得する。検出データ取得部68は、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸それぞれにおける積込ホッパ30の加速度を示す検出情報を振動検出センサ40から取得する。検出データ取得部68は、製造装置10が稼働している間、振動検出センサ40から継続して加速度を示す検出情報を取得してもよい。
【0049】
振動データ算出部70は、検出データ取得部68によって取得された検出情報から、ミキサ20によって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を算出(取得)する。振動データ算出部70は、例えば、上記検出情報から、生コンクリートの落下又は流下に起因した、2方向以上での振動の大きさを示す情報を振動情報として算出する。振動データ算出部70は、積込ホッパ30に対してミキサ20から生コンクリートが排出された際の積込ホッパ30の振動の大きさを示す情報を振動情報として算出してもよい。
【0050】
振動データ算出部70によって算出される振動情報は、Z軸方向における積込ホッパ30の振動の大きさを示す情報を含んでもよい。振動データ算出部70によって算出される振動情報は、Z軸方向に加えて、X軸方向及びY軸方向の少なくとも一方における積込ホッパ30の振動の大きさを示す情報を含んでもよい。振動検出センサ40が加速度センサである場合、振動データ算出部70は、検出データ取得部68が取得した検出情報から、X軸、Y軸、及びZ軸それぞれでの積込ホッパ30の加速度を示す情報を取得してもよい。振動データ算出部70は、X軸、Y軸、及びZ軸方向のそれぞれにおいて、振動検出センサ40によって検出された加速度の検出情報から、統計値(代表値)を上記振動情報として算出してもよい。
【0051】
以下、加速度の検出情報から統計値を振動情報として算出する場合の一例を説明する。下記の例では、制御装置50(振動データ算出部70)は、ミキサ20から積込ホッパ30に生コンクリートが排出されるタイミングを把握していない状況で、振動情報を算出する。ミキサ20において1回の練混ぜによって製造され、積込ホッパ30を介して運搬車Cに積み込まれる生コンクリートの単位を「1バッチ」と定義する。一例では、1~3バッチ分の生コンクリートが1台の運搬車Cに積み込まれる。例えば、2バッチ分の生コンクリートが1台の運搬車Cに積み込まれる場合、ミキサ20において2回のコンクリート材料の練混ぜが互いに異なるタイミングで(順に)行われる。
【0052】
振動データ算出部70は、最初に、X軸、Y軸、及びZ軸方向のそれぞれにおいて、所定のデータ取得期間に得られる加速度の時間変化を示すデータ(以下、「時系列データ」という。)を、検出データ取得部68が得た検出情報から取得する。所定のデータ取得期間は、予め定められており、ミキサ20から1回の生コンクリートの排出が行われるタイミングが含まれるように設定される。一例では、所定のデータ取得期間は、1バッチ分の生コンクリートの製造が開始されてから、運搬車Cへの積み込みが完了するまでの期間に設定される。
【0053】
図4(a)には、製造装置10の稼働が継続され、数十バッチ分の生コンクリートの製造及び積込が行われた場合の、Z軸方向における加速度の時間変化の一例を表すグラフが示されている。
図4(a)のグラフにおいて、上記データ取得期間の一例が「Ta」で示されている。ミキサ20から積込ホッパ30への生コンクリートの排出に伴って、積込ホッパ30に生コンクリートが落下して、Z軸方向における加速度がマイナス方向(積込ホッパ30の外方に向かう方向)に大きく変動する。振動データ算出部70は、上記データ取得期間に得られる加速度の時系列データにおいて、Z軸方向における加速度が最小値を示す(Z軸での加速度の絶対値が最大となる)時刻を基準時刻tsとして算出する。
【0054】
次に、振動データ算出部70は、上記データ取得期間のうちの、基準時刻tsよりも前の時刻から、基準時刻tsよりも後の時刻までの期間を評価期間に設定する。評価期間は、加速度の統計値を算出する期間である。振動データ算出部70は、評価期間における加速度の検出値に基づいて、加速度の統計値を算出する。評価期間は、ミキサ20から積込ホッパ30に生コンクリートが排出された時点(落下した時点)を含むように設定される。評価期間の設定方法は、予め定められている。
【0055】
振動データ算出部70は、上記データ取得期間での時系列データから、評価期間におけるデータを抽出する。
図4(b)には、評価期間でのZ軸方向における加速度の時間変化を表すグラフが示されている。
図4(b)に示される例では、評価期間の開示時点が、基準時刻tsから5秒遡った時点に設定されており、評価期間の終了時点が、基準時刻tsから5秒後の時点に設定されている。5秒は一例であり、基準時刻tsを中心として基準時刻tsから数秒~数十秒前後の期間が評価期間に設定されてもよい。振動データ算出部70は、基準時刻tsと開示時点との間の時間と、基準時刻tsと終了時点との間の時間とが互いに異なるように、評価期間を設定してもよい。
【0056】
振動データ算出部70は、評価期間において、X軸、Y軸及びZ軸方向それぞれにおける積込ホッパ30の加速度に関して、移動平均値を算出してもよい。移動平均の1つの値を算出する際の区間、及びデータ数は、どのように設定されてもよい。振動データ算出部70は、サンプリング周期ごとに、当該周期での加速度、1つ前の周期での加速度、及び2つ前の周期での加速度の平均値を算出してもよい。振動データ算出部70は、サンプリング周期によっては、評価期間以外の加速度の検出値を利用して、評価期間における移動平均値を算出してもよい。
【0057】
図5には、評価期間における移動平均値の時間変化を表すグラフが示されている。振動データ算出部70は、X軸、Y軸、及びZ軸方向のそれぞれにおいて、評価期間における積込ホッパ30の加速度の移動平均値について、最大値a1、最小値a2、平均値μ、及び、標準偏差σに基づく値から成る群から選択される少なくとも1つを算出した結果を、振動情報として取得してもよい。標準偏差σに基づく値は、標準偏差σ自体と、標準偏差σに対して所定の演算を施すことで得られる値(例えば、分散σ
2、3×σ)とを含む。振動データ算出部70は、3方向それぞれにおいて、
図5に示されるように、評価期間での加速度の移動平均値の最大値a1、最小値a2、平均値μ、及び分散σ
2を振動情報として算出してもよい。この場合、1バッチ分の生コンクリートの製造において得られる振動情報は、12個のデータ(3軸×4種類のデータ)から成る。
【0058】
図3に戻り、品質予測部72は、振動データ算出部70によって算出された上記振動情報を含む入力情報に基づいて、生コンクリートの品質を予測する。入力情報は、品質予測部72が生コンクリートの品質の予測に用いる情報である。品質予測部72は、振動データ算出部70によって算出された上記振動情報と、動作データ取得部66によって取得された上記動作情報とを含む情報を上記入力情報として取得してもよい。この場合、動作データ取得部66及び振動データ算出部70によって、振動情報と動作情報とを含む入力情報を取得する情報取得部が構成される。
【0059】
品質予測部72が予測する生コンクリートの品質は、例えば、スランプ、スランプフロー、50cmフロー到達時間、Vロート流下時間、空気量、凝結の始発時間、凝結の終結時間、強度(呼び強度、圧縮強度、及び、曲げ強度等)、ヤング係数、塩化物含有量、耐久性、及び色調のうちの少なくとも1種類以上を含む。生コンクリートの品質には、生コンクリートが硬化することで形成される硬化体の品質が含まれてもよい。
【0060】
品質予測部72は、生コンクリートに含まれる空気量を生コンクリートの品質として予測してもよい。品質予測部72は、空気量に代えて又は加えて、生コンクリートのスランプ(スランプ値)及びスランプフロー(スランプフロー値)の少なくとも一方を、生コンクリートの品質として予測してもよい。生コンクリートの強度、スランプ、スランプフロー、空気量、及び塩化物含有量は、「JIS A 5308:2019(レディーミクストコンクリート)」に規定される試験方法によって測定することができる。
【0061】
品質予測部72は、振動情報を含む入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、上記情報取得部により取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する。予測モデルに入力される入力情報は、複数種の入力データ(数値)であってもよく、予測モデルから出力される品質情報は、少なくとも1種類の品質を示すデータ(数値)であってもよい。品質予測部72は、複数の品質種別に対して予め構築された複数の予測モデルから、予測を行う品質の種別に応じたモデルを選択したうえで、品質の種別ごとに予測モデルを用いて生コンクリートの品質を予測してもよい。
【0062】
機械学習とは、機械(コンピュータ)が与えられた情報に基づいて反復的に学習することで、法則又はルールを自律的に見つけ出す手法をいう。上記予測モデルは、アルゴリズム及びデータ構造を用いて構築することができる。予測モデルは、例えば、人間の脳神経の仕組みを模した情報処理のモデルであるニューラルネットワークを用いて実現される。予測モデルを構築する際に行われる機械学習の具体的なアルゴリズムは特に限定されない。
【0063】
モデル保持部74は、上記予測モデルを記憶する。モデル構築部76は、予測モデルを構築するための学習用の入力情報に基づいて、機械学習を行うことで上記予測モデルを構築する。モデル構築部76は、例えば、機械学習の入力として与えられるデータと、機械学習の出力の正解データ(品質の実測値)とを用いて機械学習を行うことで、品質を予測する予測モデルを自律的に構築してもよい。機械学習の入力は、入力情報の種々のデータセットである。入力情報の種々のデータセットの間は、入力情報に含まれる少なくとも1つの情報が互いに異なっている。機械学習の出力は、生コンクリートの品質を示すデータ(数値)である。モデル構築部76は、入力情報のデータセット及び品質の正解データの複数の組合せを用いて、生コンクリートの品質を示す品質情報を出力する予測モデルを反復的に学習する。
【0064】
モデル構築部76が予測モデルを構築する際に、ミキサ20によって製造されたテスト用の生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す学習用の振動情報を含む学習用の入力情報と、学習用の入力情報に対応付けられたテスト用の生コンクリートの品質を示す実績情報と、が準備される。予測モデルが構築される際には、例えば、制御装置50に、学習用の入力情報と実績情報とが対応付けられた複数の組合せ(複数のデータセット)が入力される。モデル構築部76は、学習用の入力情報と実績情報とに基づくニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルを構築してもよい。
【0065】
上記予測モデルを自律的に製造する段階は、学習フェーズに相当する。品質予測部72は、生産フェーズ又は評価フェーズにおいて、モデル保持部74に保持された予測モデルを用いて、品質が未知である入力情報から、その入力情報が得られた際に製造された生コンクリートの品質を予測する。上記学習フェーズが、生コンクリートの生産を行う生産フェーズの初期段階で行われてもよい。学習済みのモデルである予測モデルは、コンピュータ間で移植可能となる。従って、制御装置50は、他のコンピュータにおいて構築された予測モデルを取得することで、その予測モデルをモデル保持部74に記憶させてもよい。この場合、制御装置50は、学習フェーズを実行せずに、生産フェーズ(評価フェーズ)を実行してもよい。
【0066】
報知部78は、品質予測部72による予測結果をオペレータ等に報知する。報知部78は、品質予測部72によって予測された生コンクリートの品質を示す品質情報を入出力デバイス52に出力する。報知部78は、上記品質情報を入出力デバイス52のモニタに表示させてもよい。オペレータ等は、入出力デバイス52に報知された品質情報を確認した後に、その品質情報が目標品質を満たすか否かを判断してもよい。又は、制御装置50(例えば、品質予測部72)が、予測した品質情報が目標品質を満たすか否かを判断したうえで、報知部78が、その判断結果を示す情報を入出力デバイス52に出力してもよい。
【0067】
図6に示されるように、制御装置50は、回路91を有する。回路91は、1つ又は複数のプロセッサ92と、メモリ93と、ストレージ94と、入出力ポート95と、タイマ96とを含む。ストレージ94は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ94は、予め設定された制御手順で製造装置10、振動検出センサ40、及び入出力デバイス52を制御することを制御装置50に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ94は、上述した各機能モジュールを構成するためのプログラムを記憶している。
【0068】
メモリ93は、ストレージ94の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ92による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ92は、メモリ93と協働して上記プログラムを実行することで、制御装置50の各機能モジュールを構成する。入出力ポート95は、プロセッサ92からの指令に従って、製造装置10、振動検出センサ40、及び入出力デバイス52等との間で電気信号の入出力を行う。タイマ96は、例えば一定周期の基準パルスをカウントすることで経過時間を計測する。なお、回路91は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば回路91は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0069】
[生コンクリートの製造方法]
続いて、製造システム1において実行される生コンクリートの製造方法の一例について説明する。生コンクリートの製造方法は、生コンクリートを製造する工程と、生コンクリートの品質の予測を行う工程とを含む。生コンクリートを製造する工程(以下、「製造工程」という。)は、例えば、搬送工程と、計量工程と、投入工程と、練混ぜ工程と、排出工程と、積込工程と、を含む。製造工程では、1バッチ分の生コンクリートの製造ごとに、こられの工程が順に実行されてもよい。投入工程、練混ぜ工程、排出工程、及び積込工程が実行されている間に、次のバッチ分に関する搬送工程、及び計量工程が実行されてもよい。
【0070】
搬送工程では、ベルトコンベア等の運搬装置によって、各種のコンクリート材料が貯蔵瓶12まで搬送されて、貯蔵瓶12に各種材料が個別に供給される。計量工程では、貯蔵瓶12から計量瓶14に各種材料が個別に供給され、計量瓶14において各種材料が計量される。計量工程では、材料ごとに、計測量が1バッチ分の設定量に達した場合に、その材料が集合ホッパ16に排出される。投入工程では、集合ホッパ16に全ての種類の材料が集約された後に、集合ホッパ16内の1バッチ分の材料がミキサ20に投入(供給)される。
【0071】
練混ぜ工程では、ミキサ20においてコンクリート材料の練混ぜが行われる。練混ぜ工程において、制御装置50は、予め定められた動作条件に従って、ミキサ駆動部22を制御して、2つの攪拌部材21を駆動してもよい。排出工程では、ミキサ20においてコンクリート材料の練混ぜが終了した後に、ミキサ20から積込ホッパ30に製造された生コンクリートが排出される。例えば、制御装置50が、ミキサ20の電力負荷値が安定した(一例では、電力負荷値の時間変化が所定値以下となった)と判断した場合に、ミキサ20での練混ぜが終了したと判定される。積込工程では、積込ホッパ30にミキサ20から1バッチ分の生コンクリートが排出された後に、積込ホッパ30から運搬車Cに生コンクリートが積み込まれる。
【0072】
生コンクリートの品質の予測を行う工程(以下、「品質予測工程」という。)は、上記製造工程の実行期間の少なくとも一部と重複する期間において実行される。品質予測工程は、学習フェーズでのモデル構築工程と、生産フェーズ又は評価フェーズでの品質評価工程とを含む。以下、モデル構築工程の一例と、品質評価工程の一例とについて説明する。なお、2バッチ分の生コンクリートが製造される度に、1回の品質評価が行われる場合を例に説明する。
【0073】
(モデル構築工程)
図7は、モデル構築工程において実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。このモデル構築工程は、テスト用の生コンクリートの製造が製造装置10において繰り返して実行されている間に並行して行われる。テスト用の生コンクリートは、実際に出荷されない生コンクリートであってもよく、生産フェーズの初期段階において製造され、実際に出荷される生コンクリートであってもよい。モデル構築工程が実行される間において、制御装置50の検出データ取得部68は、所定のサンプリング周期ごとに、振動検出センサ40から加速度の検出値を検出することを継続する。
【0074】
モデル構築工程において、制御装置50は、最初にステップS11を実行する。ステップS11では、例えば、制御装置50が、所定の評価タイミングとなるまで待機する。所定の評価タイミングは、同じ目標品質となるように製造される2バッチ分の生コンクリートが運搬車Cに積み込まれたタイミングに設定されてもよい。この場合、2バッチ分のテスト用の生コンクリートの製造ごとに、モデル構築のためのデータの評価及び収集が行われる。
【0075】
次に、制御装置50は、ステップS12を実行する。ステップS12では、例えば、振動データ算出部70が、X軸、Y軸、及びZ軸方向のそれぞれにおいて、所定のデータ取得期間に得られる加速度の時間変化を示すデータ(上記時系列データ)を、バッチごとに、検出データ取得部68が得た検出情報から取得する。すなわち、振動データ算出部70は、1バッチ目に対応するデータ取得期間での時系列データと、2バッチ目に対応するデータ取得期間での時系列データと、を上記検出情報から抽出する。
【0076】
次に、制御装置50は、ステップS13を実行する。ステップS13では、例えば、振動データ算出部70が、バッチごとに、時系列データから上記振動情報を算出する。一例では、振動データ算出部70は、上記データ取得期間に得られる加速度の時系列データにおいて、Z軸方向における加速度が最小値を示す時刻を基準時刻tsとして算出する。そして、振動データ算出部70は、上記データ取得期間のうちの、基準時刻tsよりも前の時刻から、基準時刻tsよりも後の時刻までの期間を評価期間に設定する。評価期間は、データ取得期間よりも短い期間に設定される。
【0077】
評価期間の設定後、振動データ算出部70は、X軸、Y軸及びZ軸方向それぞれにおいて、評価期間での積込ホッパ30の加速度に関して移動平均値を算出する。そして、振動データ算出部70は、X軸、Y軸、及びZ軸方向のそれぞれにおいて、評価期間における積込ホッパ30の加速度の移動平均値について、最大値a1、最小値a2、平均値μ、及び分散σ2を振動情報として算出する。振動データ算出部70は、バッチごとに、基準時刻tsの算出、評価期間の設定、移動平均値の算出、及び、最大値a1等の算出を実行する。この場合、2バッチ分の生コンクリートの製造において得られる振動情報は、24個のデータ(3軸×4種類×2バッチ分)から成る。ステップS13で得られる情報が、学習用の振動情報に相当する。
【0078】
次に、制御装置50は、ステップS14を実行する。ステップS14では、例えば、動作データ取得部66が、上述した動作情報を取得する。一例では、動作データ取得部66は、各種材料の配合条件に関する情報、使用する材料に関する情報、ミキサ20における練混ぜに関する情報、及び、環境(外部環境)に関する情報を、上記動作情報として取得する。動作データ取得部66は、練混ぜに関する情報(材料の練混ぜ量、練混ぜ時間、及びミキサ20の電力負荷値)について、2バッチ分の情報を取得してもよい。ステップS14で得られる情報が、学習用の動作情報に相当する。
【0079】
次に、制御装置50は、ステップS15を実行する。ステップS15では、例えば、モデル構築部76が、生コンクリートの品質の測定値を正解データとして取得する。一例では、2バッチ分の生コンクリートが運搬車Cに積み込まれた後に、一部の生コンクリートが作業員等によって抜き出される。そして、抜き出された生コンクリートのスランプ、スランプフロー、及び空気量等が作業員等によって測定され、こられの測定値が制御装置50に入力される。
【0080】
ステップS15で得られる生コンクリートの品質の測定値は、実績情報に相当する。モデル構築部76は、ステップS13で得られた学習用の振動情報及びステップS14で得られた学習用の動作情報とを含む学習用の入力情報を、ステップS15で得られた実績情報(品質の測定値)に対応付けたうえで記憶する。
【0081】
次に、制御装置50は、ステップS16を実行する。ステップS16では、例えば、制御装置50が、所定数のデータセットが取得されたか否かを判断する。ステップS16において、所定数のデータセットが取得されていないと判断された場合(ステップS16:NO)、制御装置50が実行する処理は、ステップS11に戻り、制御装置50は、ステップS11~S16を繰り返す。これにより、学習用の入力情報と実績情報とが対応付けられたデータセットの数が所定数に達するまで、ステップS11~S16が繰り返される。
【0082】
ステップS16において、所定数のデータセットが取得されたと判断された場合(ステップS16:YES)、制御装置50が実行する処理は、ステップS17に進む。ステップS17では、例えば、モデル構築部76が、学習用の入力情報と実績情報との複数の組合せを用いて、ニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデル(例えば、回帰予測モデル)を構築する。ニューラルネットワークは、少なくとも、入力層と、出力層とを有する。また、ニューラルネットワークは、一層又は複数層の中間層を更に含んでもよい。中間層を含むことでより複雑な予測モデルを構築でき、品質の予測精度を向上できる。モデル構築部76は、品質の種別ごとに、予測モデルを構築してもよい。モデル保持部74は、ステップS17で構築された予測モデルを記憶する。
【0083】
(品質評価工程)
図8は、品質評価工程において実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。品質評価工程は、上記モデル構築工程の後において、実際に出荷される生コンクリートの製造が製造装置10において繰り返して実行されている間に並行して行われる。実際に出荷される生コンクリートの製造が継続されている間において、制御装置50の検出データ取得部68は、所定のサンプリング周期ごとに、振動検出センサ40から加速度の検出値を検出することを継続してもよい。
【0084】
品質評価工程において、制御装置50は、ステップS11,S12,S13,S14と同様に、ステップS21,S22,S23,S24を実行する。ステップS23では、評価用の振動情報が算出され、ステップS24では評価用の動作情報が取得される。すなわち、ステップS23及びステップS24が実行されることで、評価用の振動情報と評価用の動作情報とを含む評価用の入力情報が取得される。「評価用」とは、生コンクリートの品質が未知であることを意味する。
【0085】
次に、制御装置50は、ステップS25を実行する。ステップS25では、例えば、品質予測部72が、ステップS23,S24で得られた評価用の入力情報を、モデル保持部74が保持する予測モデルに入力した際に、その予測モデルから出力される品質情報を取得することで、評価対象の生コンクリートの品質を予測する。モデル構築工程でのステップS15と異なり、ステップS25では、生コンクリートの品質の測定が行われない。品質予測部72は、品質種別ごとに、当該種別に応じた予測モデルを用いて品質を予測してもよい。
【0086】
品質予測部72は、評価用の入力情報及びスランプに関する予測モデルを利用して、評価対象の生コンクリートのスランプを予測する。品質予測部72は、評価用の入力情報及びスランプフローに関する予測モデルを利用して、評価対象の生コンクリートのスランプフローを予測する。品質予測部72は、評価用の入力情報及び空気量に関する予測モデルを利用して、評価対象の生コンクリートの空気量を予測する。
【0087】
次に、制御装置50は、ステップS26を実行する。ステップS26では、例えば、報知部78が、ステップS25で得られた品質の予測結果を入出力デバイス52に出力する。以上により、2バッチごとに行われる1回の品質評価工程が終了する。制御装置50は、2バッチ分の生コンクリートの製造(積込)が行われる度に、ステップS21~S26の一連の処理を実行してもよい。
【0088】
[変形例]
図7及び
図8に示される一連の処理は一例であり、適宜変更可能となる。上記一連の処理において、制御装置50は、1つのステップと次のステップとを並列に実行してもよく、上述した例とは異なる順序で各ステップを実行してもよい。制御装置50は、上述した例とは異なる内容のステップを実行してもよい。
【0089】
上述の例と異なり、1バッチ分の生コンクリートが1台の運搬車Cに積み込まれる場合に、1バッチ分の生コンクリートの製造ごとに、制御装置50が品質予測を行ってもよい。また、運搬車Cに2バッチ分以上の生コンクリートが積み込まれる場合であっても、制御装置50が、1バッチ分の製造(積込)ごとに品質予測を行ってもよい。運搬車Cへの積込量に関わらず、複数バッチ分の生コンクリートの製造ごとに、制御装置50が品質予測を行ってもよい。組成又は物性の異なる生コンクリートが製造される場合、予測精度向上の観点から、より多くのバッチ分のデータを用いて品質予測が行われてもよい。
【0090】
上述の例では、Z軸での加速度の絶対値が最大となる時点が基準時刻tsとして算出されるが、基準時刻tsの算出方法は、これに限られない。ミキサ20から積込ホッパ30への生コンクリートの排出に伴って、積込ホッパ30に生コンクリートが落下して、X軸及びY軸における加速度が大きく変動する。振動データ算出部70は、上記データ取得期間に得られる加速度の時系列データにおいて、X軸方向又はY軸方向における加速度の絶対値が最大となる時刻を基準時刻tsとして算出してもよい。
【0091】
上述の例では、基準時刻tsに基づき上記評価期間が設定されるが、評価期間の設定方法は、これに限られない。ミキサ20の排出口が開かれるタイミングと、積込ホッパ30が大きく振動するタイミングとは略一致する。そのため、制御装置50が、ミキサ20から生コンクリートを排出したタイミングを検出可能である場合、振動データ算出部70は、検出された排出タイミングを含む前後の期間を上記評価期間に設定してもよい。制御装置50は、ミキサ20の排出口を開くための指令を送出したタイミング、又は、ミキサ20の排出口が開いたことを示す信号を受信したタイミングを含む前後の期間を上記評価期間に設定してもよい。積込ホッパ30において生コンクリートの存在を検知するセンサが設けられる場合、制御装置50は、そのセンサが生コンクリートの存在を検知したタイミングを含む前後の期間を上記評価期間に設定してもよい。
【0092】
振動データ算出部70は、評価期間における加速度の移動平均値について、最大値、最小値、平均値、及び標準偏差に基づく値に代えて又は加えて、中央値、最頻値、及びピーク数のうちの少なくとも1つを振動情報として算出してもよい。振動データ算出部70は、加速度の移動平均値に代えて、評価期間での加速度自体の統計値を振動情報として算出してもよい。振動データ算出部70は、評価期間における加速度について、最大値、最小値、平均値、及び標準偏差に基づく値のうちの少なくとも1つを算出した結果を振動情報として算出してもよい。入力情報に、動作情報が含まれずに、振動情報が含まれてもよい。この場合、振動情報から予測モデルが構築され、振動情報と予測モデルとに基づいて品質が予測される。
【0093】
振動データ算出部70は、振動検出センサ40によって取得されたデータを周波数変換(例えば、高速フーリエ変換)して得られる周波数スペクトルに基づく情報を振動情報として算出してもよい。振動データ算出部70は、周波数スペクトルから得られる周波数情報、特徴量、又は統計量を振動情報として算出してもよい。制御装置50は、振動検出センサ40によって取得された測定値を示すグラフ(波形)の画像データを振動情報として取得してもよい。
【0094】
製造装置10を制御するための制御装置50とは別のコンピュータ(品質予測装置)が、予測モデルを用いて生コンクリートの品質を予測してもよい。この場合、制御装置50に代えて、上記別のコンピュータが、品質予測部72等の品質の予測に関する処理を行う機能モジュールを有してもよい。品質の予測に用いる振動情報は、積込ホッパ30以外において、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動を示す情報であってもよい。
【0095】
[振動情報を用いた予測モデルの検証]
振動情報を用いた品質予測を検証するために、振動情報を用いない場合の比較モデルでの予測結果と、振動情報を用いた場合の上記予測モデルの予測結果との比較検証を行った。具体的には、83~100個の学習用のデータセットと、10個の検証用のデータセットとを準備した。学習用の入力情報(学習用の振動情報及び動作情報)と、スランプの測定値、スランプフローの測定値、及び空気量の測定値とが対応付けられた学習用のデータセットを準備した。
【0096】
入力情報のうちの動作情報として、各種材料の密度、細骨材の表面水率の設定値及び実測値、呼び強度、配合強度、水結合材比、細骨材率、各材料の単位量、2バッチ分の材料の練混ぜ量、2バッチ分の練混ぜ時間、2バッチ分の電力負荷値の初期値、最大値、及び終局値、並びに外気温に関するデータを準備した。入力情報のうちの振動情報として、X軸、Y軸、及びZ軸それぞれの2バッチ分の加速度の移動平均値に関する最大値a1、最小値a2、平均値μ、及び分散σ2に関するデータを準備した。
【0097】
学習用のデータセットにおいて、振動情報を用いずに、動作情報と品質の測定値とから上記比較モデルを構築した。学習用のデータセットにおいて、振動情報及び動作情報と品質の測定値とから上記予測モデルを構築した。スランプ、スランプフロー、及び空気量のそれぞれに関して、比較モデル及び予測モデルを構築した。すなわち、以下の6つのモデルを作成した。
比較モデル1:振動情報を用いずにスランプを予測するモデル
予測モデル1:振動情報を用いてスランプを予測するモデル
比較モデル2:振動情報を用いずにスランプフローを予測するモデル
予測モデル2:振動情報を用いてスランプフローを予測するモデル
比較モデル3:振動情報を用いずに空気量を予測するモデル
予測モデル3:振動情報を用いて空気量を予測するモデル
【0098】
入力情報の各種データを変数として、1つの品質(指標値)を出力する1次の回帰予測モデルを、比較モデル及び予測モデルとして構築した。1次の回帰予測モデルは、下記の式(1)によって示される。
【数1】
【0099】
式(1)において、「y」は、品質の指標値を表す出力であり、スランプ、スランプフロー、又は、空気量を表す。「i」は、2~Nの自然数であり、「N」は入力データの個数を表す。「w」は、重み(係数)であり、「b」は、バイアス項(係数)である。学習用のデータセットを用いて、式(1)において、重みwとバイアス項bとを定めることで、品質の種別ごとに、回帰予測モデルを構築した。重みwにある値が入力されているときの出力yの値と正解データである品質の測定値との二乗誤差を算出し、ミニバッチ勾配降下法により重みwの値を更新することで、重みwの値を決定した。
【0100】
なお、式(1)で示される回帰予測モデルは、検証のために構築したモデルであり、本開示の予測モデルは上記回帰予測モデルに限定されない。中間層を含むニューラルネットワークによる予測モデル(回帰予測モデル)が構築される場合、その回帰予測モデルは、例えば、下記の式(2)によって示される。式(2)において、f()は、所定の関数を表す。
【数2】
【0101】
上記式(1)の回帰予測モデルを構築後、10個の検証用のデータセットを用いて、振動情報を用いない比較モデル及び振動情報を用いた予測モデルそれぞれにおいて、モデルによる予測値と実測値との比較を行った。スランプ、スランプフロー、及び空気量それぞれについて、予測値と実測値との比較を行った。
【0102】
図9は、スランプの予測値とスランプの実測値との関係を示すグラフである。
図9に示されるグラフにおいて、横軸がスランプの実測値であり、縦軸がスランプの予測値である。振動情報を用いない比較モデル1での予測結果が△印でプロットされており、振動情報を用いた予測モデル1での予測結果が〇印でプロットされている。実測値と予測値とが一致するラインが描かれており、プロットされた結果がそのラインに近いほど、予測精度が高いことを意味する。スランプに関して、実測値と予測値との差分の絶対値の算術平均(以下、「絶対差平均値」という。)を算出したところ、振動情報を用いない場合の絶対差平均値が1.1cmであり、振動情報を用いた場合の絶対差平均値が1.1cmであった。このことから、振動情報を用いても、振動情報を用いない場合と同程度の品質の予測精度が得られることがわかる。
【0103】
図10は、スランプフローの予測値とスランプフローの実測値との関係を示すグラフである。
図10に示されるグラフにおいて、横軸がスランプフローの実測値であり、縦軸がスランプフローの予測値である。振動情報を用いない比較モデル2での予測結果が△印でプロットされており、振動情報を用いた予測モデル2での予測結果が〇印でプロットされている。スランプフローに関して、絶対差平均値を算出したところ、振動情報を用いない場合の絶対差平均値が4.0cmであり、振動情報を用いた場合の絶対差平均値が4.2cmであった。スランプフローは、0.5cm単位で測定されおり、振動情報を用いても、振動情報を用いない場合と同程度の品質の予測精度が得られることがわかる。
【0104】
図11は、空気量の予測値と空気量の実測値との関係を示すグラフである。
図11に示されるグラフにおいて、横軸が空気量の実測値であり、縦軸が空気量の予測値である。振動情報を用いない比較モデル3での予測結果が△印で示されており、振動情報を用いた予測モデル3での予測結果が〇印でプロットされている。空気量に関して絶対差平均値を算出したところ、振動情報を用いない場合の絶対差平均値が0.53%であり、振動情報を用いた場合の絶対差平均値が0.27%であった。振動情報を用いた場合に、絶対差平均値が減少した。
【0105】
空気量に関して、他の観点から、振動情報を用いた場合の影響を評価した。
図11に示されるグラフでは、実測値と予測値とが一致するラインから、+0.5%だけ縦方向にずれた上限ラインと、-0.5%だけ縦方向にずれた下限ラインとが描かれている。上限ラインと下限ラインとの間の領域に含まれる予測結果を正解と定義して、10個の予測結果の正解率を評価した。JIS規格において空気量に関して許容される誤差は±1.5%であり、現場への運搬途中で品質が変化し得ることを踏まえて、正解のラインを±0.5%に設定した。振動情報を用いない場合の正解率が60%であり、振動情報を用いた場合の正解率が80%であった。以上のことから、振動情報を用いない場合に比べて、振動情報を用いた場合に空気量の予測精度が向上していることがわかる。
【0106】
[実施形態の効果]
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法は、取得工程と、予測工程とを含む。取得工程では、コンクリート材料を練り混ぜるミキサ20によって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す振動情報を含む入力情報が取得される。予測工程では、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質が予測される。この品質予測方法では、製造された生コンクリートの品質を実際に測定することなく、振動情報を含む情報を取得し、予測モデルを利用して品質が予測される。従って、生コンクリートの品質を簡便に把握することが可能となる。
【0107】
上述した品質予測方法において、上記振動情報は、2方向以上での振動を示す情報を含んでもよい。生コンクリートの品質に応じて、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の状態が変動し得る。この方法では、2方向以上での振動の大きさを示す振動情報に基づき品質が予測されるので、予測精度を向上させることが可能となる。
【0108】
上記振動情報は、ミキサの下方に配置され、生コンクリートを収容可能なホッパに対してミキサから生コンクリートが排出された際のホッパの振動の大きさを示す情報であってもよい。この場合、振動を検出可能なセンサをホッパに設置すればよく、簡便に振動情報を取得できる。従って、生コンクリートの品質を更に簡便に把握することが可能となる。
【0109】
上記振動情報は、ホッパの側壁に交差する方向におけるホッパの振動の大きさを示す情報を含んでもよい。ミキサの下方に配置されたホッパの側壁では、製造された生コンクリートの硬さ又は重さによって、その側壁に交差する方向の振動が変動し得る。そのため、側壁に交差する方向におけるホッパの振動から振動情報を得ることで、生コンクリートの品質を精度良く予測できる。従って、生コンクリートの品質の予測精度を向上させつつ、品質を簡便に把握することが可能となる。
【0110】
上記振動情報は、ホッパの側壁に沿った方向におけるホッパの振動の大きさを示す情報を更に含んでもよい。ミキサの下方に配置されたホッパの側壁では、製造された生コンクリートの硬さ又は重さによって、その側壁に沿った方向の振動も変動し得る。側壁に交差する方向及び側壁に沿った方向の両方の振動から振動情報を得ることで、高精度に品質を予測することが可能となる。
【0111】
上記振動情報は、ミキサからホッパに生コンクリートが排出された時点を含むように設定された評価期間におけるホッパの加速度の移動平均値について、最大値、最小値、平均値、及び標準偏差に基づく値(例えば、分散)から成る群から選択される少なくとも1つを算出した結果であってもよい。加速度の移動平均値を算出することで、センサ自体等に起因したノイズを低減することができ、また、移動平均値の統計値を用いることでデータの処理が容易となる。従って、品質の予測精度を向上させつつ、品質を簡便に把握することが可能となる。
【0112】
上記取得工程は、所定のデータ取得期間に得られるホッパの加速度の時系列データにおいて、ホッパの側壁に交差する方向又はホッパの側壁に沿った方向におけるホッパの加速度の絶対値が最大となる時刻を、基準時刻として算出する工程と、データ取得期間のうち、基準時刻よりも前の時刻から、基準時刻よりも後の時刻までの期間を評価期間に設定する工程と、を含んでもよい。生コンクリートがホッパに落下した際には、ホッパの加速度の絶対値が、他の期間よりも大きくなる傾向がある。そのため、生コンクリートが落下した時点での振動情報では、生コンクリートの品質に起因した情報が多く含まれる。上記方法では、生コンクリートがホッパに落下した時点が把握できていない場合でも、振動情報から生コンクリートが落下した時点を特定することができる。従って、品質の予測精度を向上させつつ、品質を簡便に把握することが可能となる。
【0113】
上記予測工程では、生コンクリートに含まれる空気量が予測されてもよい。生コンクリートに含まれる空気量によって、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の状態が変動し得る。この方法では、振動情報と予測モデルとを用いることで、空気量を簡便に把握することが可能となる。
【0114】
上記予測工程では、生コンクリートのスランプ及びスランプフローの少なくとも一方が予測されてもよい。この場合、振動情報を含む入力情報と予測モデルとを用いることで、スランプ及びスランプフローの少なくとも一方を簡便に把握することが可能となる。
【0115】
上記入力情報は、コンクリート材料の配合条件を示す情報、及び、ミキサにおけるコンクリート材料の練混ぜ時の条件又は状態を示す情報の少なくとも一方を更に含んでもよい。配合条件、及び練混ぜ時の条件又は状態は、生コンクリートの品質の影響を及ぼす。配合条件等を示す情報が更に用いられることで、品質の予測精度を向上させることが可能となる。
【0116】
上記品質予測方法は、予測モデルを構築するモデル構築工程を更に含んでもよい。モデル構築工程は、ミキサによって製造されたテスト用の生コンクリートの落下又は流下に起因した振動の大きさを示す学習用の振動情報を含む学習用の入力情報と、学習用の入力情報に対応付けられたテスト用の生コンクリートの品質を示す実績情報と、を準備する工程と、学習用の入力情報と実績情報とに基づくニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルを構築する工程と、を含んでもよい。この場合、入力情報に対応付けられた実績情報に基づくニューラルネットワークを用いた機械学習によってモデルが構築されるので、モデルによる予測値を実測値に近づけることができる。従って、生コンクリートの品質を予測する際に予測精度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0117】
1…生コンクリートの製造システム、10…生コンクリートの製造装置、20…ミキサ、30…積込ホッパ、40…振動検出センサ、50…制御装置、66…動作データ取得部、70…振動データ算出部、72…品質予測部、74…モデル保持部、76…モデル構築部。