(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103165
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ATP産生促進剤、抗炎症剤及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A61K 36/21 20060101AFI20230719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230719BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230719BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230719BHJP
【FI】
A61K36/21
A61P43/00 111
A61P29/00
A23L33/105
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161975
(22)【出願日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022004006
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野出 純一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 一希
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB12
4C088CA02
4C088CA05
4C088CA06
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB11
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】効果的にATP産生促進作用、抗炎症作用を発揮するATP産生促進剤又は抗炎症剤、或いは、当該ATP産生促進剤又は抗炎症剤を含む飲食品を提供する。
【解決手段】本発明は、アマランサス種子を含む、ATP産生促進剤又は抗炎症剤、これらを含む飲食品である。本発明のATP産生促進剤又は抗炎症剤は、アマランサス種子の抽出物を含むことが好ましい。ATP産生促進剤又は抗炎症剤が、アマランサス種子の抽出物として、エタノール抽出物を含むことも好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマランサス種子を含む、ATP産生促進剤。
【請求項2】
アマランサス種子を含む、抗炎症剤。
【請求項3】
アマランサス種子として、アマランサス種子の抽出物を含む、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
前記抽出物として、アマランサス種子のエタノール抽出物を含有する、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
アマランサス種子として、pH2.5以上8以下の水溶液と接触させたか又は加熱したアマランサス種子を含有する、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項6】
前記のpH2.5以上8以下の水溶液と接触させたか又は加熱したアマランサス種子として、pH2.5以上8以下の水溶液と接触させたか又は加熱したアマランサス種子の抽出物を含有する、請求項5に記載の剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の剤を含む、ATP産生促進用又は抗炎症用の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATP産生促進剤、抗炎症剤に関する。
【0002】
ATP(adenosine triphosphate;アデノシン三リン酸)は、全ての生体の細胞に広く分布し、特に真核生物の生体内反応のエネルギー源として、重要な役割を担っている。ATPは、例えば、糖代謝、筋収縮、能動輸送、生合成等の諸種の生体内反応において、重要なエネルギー源として機能している。生体のエネルギー代謝に重要な役割を担うATPは、その産生能が低下することにより、細胞の増殖、代謝、修復などの機能が低下し、老化、ひいては細胞死が誘導される場合がある。低下した細胞の機能を上昇させ、細胞分裂を促進させるためには、分裂に必要なエネルギーを細胞に補給することが重要である。
したがって、ATP産生を促進できれば、細胞の機能や細胞分裂に必要なエネルギー源として、ATPを細胞に補給することができ、その結果、細胞の増殖、代謝、修復などの機能の活性化の効果が期待できる。
【0003】
また炎症は、生体が何らかの有害な刺激を受けたときに誘起される生体防御反応であり、血管拡張、血管透過性亢進、白血球遊走、結合組織増殖などの組織反応が誘起され、発赤、発熱、腫脹、疼痛などの炎症症状が発現する。慢性的な炎症は、種々の疾病の原因となり、発癌の一因にもなり得る。従って、炎症の予防や治療、症状緩和は大きな課題であり、抗炎症剤の開発が多数行われている。
【0004】
特許文献1には、アマランサスの葉の抽出物を含有する抗炎症剤が記載されている。しかしながら同文献には、アマランサス種子の抽出物は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全かつ有効な新規のATP産生促進剤又は抗炎症剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アマランサス種子を含む、ATP産生促進剤を提供する。
また本発明は、アマランサス種子を含む、抗炎症剤を提供する。
また本発明は、前記のATP産生促進剤又は抗炎症剤を含有する飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のATP産生促進剤は、効果的に細胞内のATP産生を促進できる。
また本発明の抗炎症剤は、優れた抗炎症作用を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例のATP産生率を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例のNO産生率を示すグラフである。
【
図3】
図3は、pH条件の異なる複数条件の水接触処理を行った場合の実施例及び比較例のATP産生率を示すグラフである。
【
図4】
図4は、アマランサス種子に対し、加熱処理及び/又は水接触処理を行った場合の実施例及び比較例のATP産生率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。以下、特に断らない限り、「本発明の剤」という場合、ATP産生促進剤及び抗炎症剤をいずれも含む。本発明の剤は経口剤であることが好ましい。
また、本実施形態のATP産生促進剤及び抗炎症剤は、アマランサスの種子を有効成分とするものである。
【0011】
アマランサスとは、ヒユ科ヒユ属(アマランサス属)の植物の総称である。本発明で使用する「アマランサス」としては、ヒユ科(Amaranthaceae)、ヒユ属(Amaranthus)植物:アマランサス(別名ヒユ)(Amaranthustricolor L.subsp maugostanus)、(Amaranthus.maugostanusL.)を用いることができるが、その他、同属種のハゲイトウ(Amaranthus.tricolor ssp.tricolor)、ヒモゲイトウ・センニンコク(Amaranthus.caudatus L.)、スギモリゲイトウ(Amaranthus.cruentus L.)、ホソアオゲイトウ(Amaranthus hybridus)、(Amaranthus.patulus Bertol)、アオゲイトウ(Amaranthus.retroflexusL.)、ハリビユ(Amaranthus.spinosus L.)、アマラントウス・ヒポコンドリアクス(Amaranthus.hypocondriacus L.)、(Amaranthus.gangeticus L.)など、ヒユ属の、別亜属:イヌビユ(Amaranthus.lividus L.)、ホナガイヌビユ(Amaranthus.gracilis Dest.)を用いることもできるが、ヒモゲイトウ・センニンコク(Amaranthus.caudatus L.)を用いることが特に好ましい。種子としては、登熟を経て穀類として収穫される時期に収穫されたものであって発芽前のものであればよい。
【0012】
本発明の剤は、アマランサスの種子を必須とするものである。本発明の剤は、アマランサスの種子以外のアマランサス部位を含有していてもよいが、アマランサス原料として、アマランサス種子が主であることが好ましい。アマランサス種子が主であるとは、アマランサス原料のうちアマランサス種子の割合が50質量%以上であることを意味することが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。本発明では、アマランサスとしてアマランサス種子のみを使用するものであってもよい。
【0013】
本発明の剤は、アマランサスの種子として、種子をそのまま含有していてもよいが、種子の粉砕物、種子の抽出物、種子の加熱物等の加工物として含有していてもよい。ここでいう抽出物には溶媒抽出物が挙げられる。例えばアマランサス種子が抽出物である場合には、抽出工程に供するアマランサス種子は事前に粉砕しておいてもよく、粉砕しなくてもよい。また後述する水接触処理や加熱処理を施してもおいてもよいし、施さなくてもよい。
【0014】
本発明において、pH2.5以上8以下の水溶液と接触させる、又は、加熱したアマランサス種子を用いることが、優れたATP産生促進作用を得ることができるため好ましい。本発明では、pH2.5以上8以下の水溶液と接触させた又は加熱したアマランサス種子として、当該アマランサス種子の抽出物を用いることができる。なお、pH2.5以上8以下の水溶液と接触させる処理(以下「水接触処理」ともいう。)と加熱処理の両方を行うことも可能である。
【0015】
水接触処理を行う場合、つまりpH2.5以上8以下の水溶液をアマランサスの種子を接触させる場合、ATP産生促進作用を一層向上させることができ、pH3以上7以下が特に好ましく、pH4以上7以下が特に好ましい。pH2.5以上8以下の水溶液は、塩酸、有機酸、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムといったpH調整剤を水と混合することで調製することができる。なお、ここでいうpHは、アマランサス種子と接触する際の水溶液の温度におけるpHであればよい。
【0016】
ここで、水接触処理とは、アマランサス種子を所定pHの水溶液中に浸漬させる処理のほか、当該水溶液を噴霧する、当該水溶液が流れている状態で接触させるなどの処理が挙げられるが、水溶液中に浸漬させる処理を採用することが短時間で均一にかつ容易にアマランサス種子と水溶液とを接触させる点で有利である。
【0017】
上記の通り、水接触処理を行う場合、アマランサス種子をpH2.5以上8以下の水溶液と接触させる。この際、接触対象となるアマランサス種子は加熱したものであっても未加熱であってもよい。
上記水溶液の使用量は、前記種子(アマランサス)1質量部に対して、通常2質量部以上であることが好適であり、より好ましくは3.5質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、また、通常100質量部以下が好適であり、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは25質量部以下である。
【0018】
また、接触時間は、10分以上であることが好適であり、48時間以下であることが好適である。より好ましくは1時間以上24時間以下、更に好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0019】
接触させる水の温度は、特に限定されないが、例えば25~100℃が好ましく挙げられる。水接触処理として加熱処理を行う場合は水溶液の温度が後述する好適な加熱温度であってもよい。
【0020】
上述した通り、当該水接触処理にて得られた処理物は固液分離後、乾燥させて後述する抽出工程に供することができ、好適には、水接触処理にて得られた処理物について固液分離してなる固体について凍結乾燥を行い、得られた凍結乾燥物を後述する抽出工程に供することが抽出効率の点で好ましい。なお、固液分離には、遠心分離や濾過等を採用できる。
【0021】
また、上述した通り、本発明では、アマランサス種子として、加熱処理を行ったものも本発明の剤として好適に用いることができる。
本発明において、アマランサス種子として、加熱したものを用いる場合、加熱処理の温度は、ATP産生促進作用に優れることから、例えば50~200℃が好適であり、60~125℃がより好適である。
また、アマランサス種子の加熱条件としては、水等の水性液に浸漬した状態で加熱させてもよく、蒸気を用いた蒸気加熱を行ってもよく、常圧下で加熱してもよく、加圧下で加熱してもよい。
また加熱温度を上記とした場合の加熱時間としては、1分~24時間が好適であり、10分~12時間がより好適である。
また、アマランサス種子として、加熱したものを用いる場合、加熱後のアマランサス種子について後述する抽出工程に供することができ、その場合に、上述した水接触処理後の後処理と同様の固液分離処理や乾燥処理を行うことができる。
【0022】
(抽出工程)
アマランサス種子の溶媒抽出に用いる溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。一般に有機溶媒としては、極性溶媒、非極性溶媒が知られている。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール(好ましくは、炭素数1以上4以下の低級アルコール);プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状及び環状エーテル;ポリエチレングリコール等のポリエーテル;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素等の他、超臨界二酸化炭素等が挙げられる。
【0023】
本発明では、中でも極性溶媒が好ましく、とりわけ、水、アルコール、多価アルコールから選ばれる少なくとも一種が好ましく、水、アルコールであることがより一層好ましく、とりわけ、水とアルコールの混合溶媒、又はアルコールであることが特に好ましく、エタノールであることが最も好ましい。
【0024】
仮に溶媒が水とアルコールの混合溶媒、又はアルコールである場合、抽出溶媒中のアルコールの割合が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより一層好ましい。
本明細書では、エタノール抽出物とは、エタノール99.5%以上の純品による抽出物のみならず、エタノールを主(溶媒中60質量%以上であり、70質量%以上、80質量%以上、或いは90質量%以上であってもよい。)とする水及びエタノール混合溶媒による抽出物を包含する。
【0025】
上記抽出溶媒の使用量は特に限定されないが、前記種子(アマランサス)1質量部に対して、通常1質量部以上であることが好適であり、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3.5質量部以上であり、また、通常100質量部以下が好適であり、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0026】
また、抽出温度は、通常0℃以上が好適であり、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、また、通常100℃以下が好適であり、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
【0027】
また、抽出時間は、通常10分以上であることが好適であり、通常24時間以下であることが好適である。より好ましくは1時間以上10時間以下、更に好ましくは2時間以上5時間以下である。
【0028】
抽出工程で得られた抽出液は、そのまま、或いは、希釈、濃縮、溶媒除去等をした後、必要に応じて粉末やペースト状に調製して用いることもできる。溶媒除去は減圧蒸留、減圧・真空乾燥、凍結乾燥、スプレードライ等の公知の方法で行うことができる。抽出液は、溶媒分を含んだままでも良く、また、溶媒分のみ除去して水溶液状のものを得ることもできる。
【0029】
アマランサス種子には酵素分解処理又は発酵及びその後の抽出処理(発酵抽出処理)を施してもよいが、本発明のATP産生促進剤及び抗炎症剤においては、アマランサス種子として酵素分解物又は発酵抽出物等を用いる必要はない。
【0030】
本発明の剤は、ヒトを含む動物の医薬品、医薬部外品又は飲食品として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。本発明の剤は、医薬品、医薬部外品又は飲食品として、ヒトを含む動物に直接投与若しくは摂取させてもよく、飲食品又はペットフード等の動物飼料に添加・配合してATP産生促進用又は抗炎症用の飲食品又は動物飼料として使用してもよい。後者の場合、アマランサス種子の飲食品又は動物飼料への添加・配合方法は特に制限されず、例えば、アマランサス種子は飲食品又は動物飼料の製造前に原料・素材に直接配合してもよく、飲食品又は動物飼料の製造工程中に添加してもよく、製造された飲食品又は動物飼料に添加してもよい。
前記「飲食品」は、ヒトが食物として摂取可能な物を指し、いわゆる健康食品を含む一般飲食品の他、例えば、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメント等が挙げられる。
前記「動物飼料」は、家畜、家禽、養魚などのヒト以外の動物(ヒトに飼育される動物)に餌として与えられる物を指し、例えば、家畜用飼料、ペットフード等が挙げられる。
【0031】
本発明の剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合、有効成分であるアマランサス種子を単独で含有していてもよく、又は、更に薬学的に許容される担体を含有していてもよく、又は、アマランサス種子によるATP産生促進作用又は抗炎症作用が損なわれない範囲で更に他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。
【0032】
本発明の剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合、任意の投与形態で投与され得る。投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。例えば、経口投与形態としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、並びにエリキシル、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与形態としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。このうち、経口投与形態が好ましい。
本発明の剤においてアマランサス種子の量は有効成分となりうる量であれば任意であり、剤中の固形分中、アマランサス種子が30質量%以上を、或いは50質量%以上を、或いは70質量%以上を占めている場合もありうる。なお、ここでいう固形分とは溶媒を除いた全合計量であり、溶媒としては、上記の抽出溶媒で挙げた各種溶媒や一般的に溶剤として使用されている有機溶媒が挙げられる。
【0033】
本発明の剤を飲食品として使用する場合、有効成分であるアマランサス種子を単独で含有していてもよく、又は、アマランサス種子によるATP産生促進又は抗炎症効果が損なわれない範囲で更に、飲食品の製造に用いられる種々の添加剤を含有していてもよい。斯かる添加剤としては、例えば、各種油脂、生薬、アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦形剤、安定剤、pH調整剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー、着色料、香料等が挙げられる。
【0034】
飲食品としては、例えば、口腔剤(ガム、キャンデーなど)やかまぼこ、ちくわなどの加工水産ねり製品、ソーセージ、ハムなどの畜産製品、パン、洋菓子類、和菓子類、生めん、中華めん、ゆでめん、ソバなどのめん類、ソース、醤油、タレ、砂糖、ハチミツ、粉末あめ、水あめなどの調味料、カレー粉、からし粉、コショウ粉などの香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレートスプレッド、漬物、そう菜、ふりかけ、又は各種野菜・果実の缶詰・瓶詰など加工野菜・果実類、チーズ、バター、ヨーグルトなど乳製品、みそ汁、スープ、果実ジュース、野菜ジュース、乳清飲料、清涼飲料、酒類などの飲料、その他、健康食品など一般的な飲食品への使用が上げられる。
【0035】
本発明には、包装体と、該包装体に収容された前述の本発明のATP産生促進用又は抗炎症用の剤、又はそれを含有する飲食品若しくは動物飼料とを含む、パッケージが包含される。
前記包装体は、本発明の剤、飲食品又は動物飼料を収容することができ、且つこれらの成分表示等を印刷可能なものであればよく、形態及び材質は特に制限されない。前記包装体の形態としては、例えば、箱状、袋状等が挙げられる。前記包装体の素材としては、例えば、紙、プラスチック、紙、織布、金属等が挙げられる。
前記包装体には、該包装体に収容されている本発明の剤、飲食品又は動物飼料中のアマランサス種子の含有量等の各種情報が明示されている。斯かる包装体における情報の提示方法は特に制限されず、例えば、1)包装体の外面又は内面に印刷されていてもよく、2)包装体の内部にATP産生促進用途又は抗炎症用途が、飲食品又は動物飼料とともに内包された印刷用紙等の印刷媒体に印刷されていてもよく、3)包装体又はこれに内包された印刷媒体にインターネットのURLが記載され、そのURLにアクセスすることで提示されるようになっていてもよい。
【0036】
本発明は、アマランサス種子を用いることで、細胞内のATP産生促進を効果的に増進する。これにより、細胞内でのATP産生促進により予防又は改善しうる疾患若しくは状態の予防、又は改善を図ることができる。本発明のATP産生促進剤及びそれを含む飲食品は、ATP産生の低下に起因する疾患若しくは状態、症状の予防又は改善を図ることが可能である。
例えば、本発明では、好ましくは運動能力向上や筋回復などの非医療目的に、ATP産生の低下に起因する疾患若しくは状態にある対象者に、アマランサス種子を投与する工程を備えた、ATP産生の低下に起因する疾患若しくは状態を予防又は改善する方法を含む。また本発明は、ATP産生の低下に起因する疾患若しくは状態の予防又は改善(治療)剤や飲食品としてのアマランサス種子の使用や、ATP産生の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤や飲食品を製造するためのアマランサス種子の使用を含む。本発明は運動能力向上や筋回復等のためのATP産生促進を目的とした飲食品やその製造、使用を含む。
【0037】
例えば後述する実施例の通り、本発明は、横紋筋細胞等の筋肉細胞におけるATP産生を効果的に促進できる。このため、本発明は、筋肉細胞におけるエネルギー産生促進用途、筋肉組織の活性化用途、ミトコンドリア賦活化等に好適に用いることができる。
【0038】
また本発明は、後述する実施例に示す通り、アマランサス種子を用いることで、マクロファージによる炎症性成分であるNO産生を効果的に抑制し、炎症を抑制する。マクロファージにおける一酸化窒素合成酵素により産生される一酸化窒素(以下、「NO」とも記載する。)は、それ自体が強い化学反応性を示し、炎症反応や自己免疫機序で起こる組織破壊において主要な細胞障害因子として知られ、NO産生阻害剤により多くの炎症病態が改善することが多くの動物実験で確認されている。後述の通り、優れたNO産生抑制作用を有する本発明のアマランサス種子を含む抗炎症剤は、種々の炎症性疾患の予防又は改善に好適に使用することができる。本発明は特に、マクロファージによるNO産生に関与する炎症性疾患を効果的に予防又は改善することができる。その様な疾患としては、関節炎(慢性リウマチ様関節炎等)、肝炎、炎症性腸疾患等が挙げられる。
【0039】
本発明の剤は、その有効成分が天然植物由来であるため、安全性が高く、長期間、連続的な摂取が可能である。例えばアマランサス種子が固形状の抽出物である場合であってアマランサス種子をATP産生促進用に用いる場合は、成人(体重60kg)一日当たりの摂取量は10mg~2000mgが好適であり、100mg~1000mgがより好適である。またATP産生促進用に用いる場合に、アマランサス種子としては(種子全体の量としては)、成人(体重60kg)一日当たりの摂取量は、200mg~40gであることが好ましく、より好適には2~20gである。
【0040】
また例えばアマランサス種子が固形状の抽出物である場合であってアマランサス種子を抗炎症用に用いる場合は、成人(体重60kg)一日当たりの摂取量は10mg~2000mgが好適であり、100mg~1000mgがより好適である。また抗炎症用に用いる場合にアマランサス種子としては(種子全体の量としては)、成人(体重60kg)一日当たりの摂取量は、200mg~40gであることが好ましく、より好適には2~20gである。
【実施例0041】
(1)アマランサスのエタノール抽出物の製造方法
粉砕したアマランサス(学名A.caudatus L.)種子1gに対しエタノールを5mL添加し、室温(25℃)条件下で2時間攪拌した。5分間遠心(3,000rpm)後、減圧条件下でエタノールを留去し、エタノール抽出物を得た。
【0042】
(2)エネルギー産生促進評価(ATP産生率)
(2-1)実施例1-1及び1-2
(1)で調製したアマランサス種子のエタノール抽出物を400mg/mLになるようにジメチルスルホキシドに溶解させた溶液Aを得た。この溶液Aの10μLを、2質量%HS(ウマ血清)-高グルコースDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)の10000μLに混合して、アマランサス種子エタノール抽出物を400μg/mL含有する実施例1-1の培地サンプルを得た。
また、溶液Aの5μL及びジメチルスルホキシド5μLを2質量%HS(ウマ血清)-高グルコースDMEMの10000μLに混合して、上記のアマランサス種子のエタノール抽出物を200μg/mL含有する実施例1-2の培地サンプルを得た。
【0043】
(2-2)比較例1
ジメチルスルホキシド10μLを2質量%HS-高グルコースDMEMの10000μLと混合した比較例1の培地サンプルを得た。
【0044】
(2-3)前培養
C2C12細胞(マウス横紋筋由来細胞)を、10質量%FBS(ウシ胎児血清)-高グルコースDMEMにて、5.0×104cells/mLの濃度に調製した。
0.1質量%ゼラチン水溶液でコーティングした白色96wellプレートに上記の濃度に調製したC2C12細胞を100μL/well播種し、37℃、5体積%CO2の条件で培養した。
24時間後、2質量%HS(ウマ血清)-高グルコースDMEMに培地交換を行い、37℃、5体積%CO2の条件で96時間培養した。
【0045】
(2-4)測定
実施例1-1若しくは1-2または比較例1の培地サンプルにて、上記で培養したC2C12細胞に対し、100μL/wellの量で培地交換し、37℃、5体積%CO2の条件で48時間培養した。
48時間後に上記96wellプレートを室温下で30分静置し、培地と等量のATP量測定試薬(Cell Titer Glo 2.0 Reagent(Promega))を添加し、400rpmで2分間振蕩した。試験は4連で行った。
10分間静置後、プレートリーダーで発光強度を測定した。
【0046】
比較例1の発光強度の平均値を100としたときの発光の強度の平均値の比率(%)をATP産生率として
図1に示す。
図1における誤差範囲は比較例1の発光強度の平均値を100としたときの発光の強度の標準偏差である。
図1に示す通り、アマランサス種子を用いることで、ATP産生を効果的に促進できることが判明した。
【0047】
(3)抗炎症評価
抗炎症性試験として炎症のモデル細胞であるマクロファージ様細胞を用いた。本細胞は炎症の原因物質であるリポ多糖(Lipopolysaccharide;LPS)に対して反応し、炎症性物質であるフリーラジカルの一酸化窒素を産生する。
【0048】
(3-1)実施例2-1及び2-2
上記(1)で得られたアマランサス種子エタノール抽出物を当該抽出物濃度が50mg/mLとなるようにジメチルスルホキシドに溶解させた。実施例2-1の試験液として、0.1μg/mLのLPS(リポ多糖)を含む培地B(10質量%FBS-1質量%ペニシリン・ストレプトマイシン-DMEM培地)10000μLに、上記で得られた50mg/mLアマランサス種子エタノール抽出物/ジメチルスルホキシド溶液100μLを加えて混合し、アマランサス種子エタノール抽出物を500μg/mL濃度で含む試験液として調製した。
また実施例2-2の試験液として、0.1μg/mLのLPSを含む培地B10000μLに上記で得られた50mg/mLアマランサス種子エタノール抽出物/ジメチルスルホキシド溶液50μL及びジメチルスルホキシド50μLを加えて混合し、アマランサス種子エタノール抽出物を250μg/mL濃度で含む試験液として調製した。
【0049】
(3-2)比較例2
比較例2の試験液は、0.1μg/mLのLPS(リポ多糖)を含む培地B(10質量%FBS-1質量%ペニシリン・ストレプトマイシン-DMEM培地)10000μLに、ジメチルスルホキシド100μLを添加して混合して調製した。
【0050】
(3-3)前培養
上記とは別に、RAW264細胞(マウスマクロファージ様細胞)を10質量%FBS-1質量%ペニシリン・ストレプトマイシン-DMEM培地にて、2.5×106cells/mLの濃度に調製した。
96wellプレートに上記の濃度に調製したRAW264細胞を100μL/well播種し、37℃、5体積%CO2の条件で24時間培養した。
【0051】
(3-4)測定
前培養したRAW264細胞(マウスマクロファージ様細胞)に、実施例2-1若しくは2-2又は比較例2の試験液を添加した。
また、RAW264細胞を含まない以外は実施例2-1、2-2及び比較例2とそれぞれ同じ培地を添加した後、同様に操作したものをサンプルブランクとした。37℃、5体積%CO2の条件で一晩反応後、細胞上清を別のプレートに分取した。細胞上清にGriess試薬を加え、37℃で20分間反応させた。
マイクロプレートリーダーを用い、炎症性物質であるNOが変化して生成したNO2イオンとGriess試薬が反応したアゾ化合物の吸光度(540nm)を測定した。
NaNO2溶液を標準溶液として吸光度を測定し、検量線を作成した。検量線より、各ウェルの吸光度からNO2濃度(μmol/L)を算出した。この際、検量線に代入する吸光度は、測定ウェルの吸光度より、サンプルブランクウェルの吸光度を減じた値を用いた。
以下の式を用いてNO産生率を算出した。
NO産生率(%)=100×NO2濃度[実施例]の平均値/NO2濃度[比較例2]の平均値
【0052】
NO産生率の平均値の結果を
図2に示す。
図2の通り、アマランサス種子を用いることにより、マクロファージ様細胞において、効果的に炎症性物質であるNOの産生を抑制できる。従って、アマランサス種子が抗炎症剤として有効であることが明らかである。
【0053】
次に、以下の(4)~(5)において、アマランサスのエタノール抽出条件の、ATP産生促進効果への影響について検討した。
【0054】
(4)アマランサスのエタノール抽出物の別の製造方法(実施例3-1~3-6)
アマランサス種子をミルサーで挽砕してアマランサス粉を得た。得られたアマランサス粉について、後述の<処理条件>で処理した。処理後、得られたアマランサスのサンプル1gに対しエタノールを5mL添加し、室温条件下で2時間攪拌した。5分間遠心(3,000rpm)後、減圧条件下でエタノールを留去し、エタノール抽出物を得た。
【0055】
<処理条件>
(実施例3-1)pH3に調整した水溶液を、アマランサス粉に対して質量比で20倍量加えて室温(25℃)にて6時間攪拌処理をした。次いで10分間遠心(4,700rpm)し、得られた沈殿物をデカンテーションで水切り後、凍結乾燥させた。なお、水溶液のpHは塩酸を用いて調整した。
(実施例3-2)pH3に調整した水溶液に代えて、pH5に調整した水溶液を用いた以外は実施例3-1と同様に処理した。なお、水溶液のpHは塩酸を用いて調整した。
(実施例3-3)pH3に調整した水溶液に代えて、pH7の純水を用いた以外は実施例3-1と同様に処理した。
(実施例3-4)pH3に調整した水溶液に代えて、pH9に調整した水溶液を用いた以外は実施例3-1と同様に処理した。なお、水溶液のpHは水酸化ナトリウムを用いて調整した。
(実施例3-5)アマランサス粉をオートクレーブ(121℃、30分)処理し、次いで10分間遠心(4,700rpm)し、得られた沈殿物をデカンテーションで水切り後、凍結乾燥させた。
(実施例3-6)実施例3-3と同様に、アマランサス粉に対して質量比で20倍量の純水(pH7)を加えて6時間攪拌した。次いでオートクレーブ処理(121℃、30分)を行った。次いで10分間遠心(4,700rpm)し、得られた沈殿物をデカンテーションで水切り後、凍結乾燥させた。
【0056】
(5)エネルギー産生促進評価(ATP産生率)
(5-1)実施例3-1~3-6
(4)で調製した各実施例のアマランサス種子のエタノール抽出物を400mg/mLになるようにジメチルスルホキシドに溶解させた溶液を得た。この溶液の10μLを、2質量%HS(ウマ血清)-高グルコースDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)の10000μLに混合して、アマランサス種子エタノール抽出物を400μg/mL含有する実施例3-1~3-6の培地サンプルを得た。
【0057】
(5-2)比較例3
ジメチルスルホキシド10μLを分化培地(2質量%HS-高グルコースDMEM培地)と混合した比較例3の培地サンプルを得た。
【0058】
(5-3)前培養
C2C12細胞(マウス横紋筋由来細胞)を、10質量%FBS-高グルコースDMEMにて、5.0×104cells/mLの濃度に調製した。
白色96wellプレートに上記の濃度に調製したC2C12細胞を100μL/well播種し、37℃、5体積%CO2の条件で24時間培養した。
24時間培養後、分化培地(2質量%HS-高グルコースDMEM培地)に培地交換を行い、37℃、5体積%CO2の条件で96時間培養した。
【0059】
(5-4)測定
実施例3-1~3-6及び比較例3のいずれかの培地サンプルにて、上記で培養したC2C12細胞に対し、100μL/wellの量で培地交換し、37℃、5体積%CO2の条件で48時間培養した。
48時間後にCell Titer Glo 2.0 Reagent(Promega)を100μL添加し、22℃、400rpmの条件で2分間攪拌した。試験は6連で行った。
25℃で10分間静置後、プレートリーダーで発光強度(ATP量)を測定した。
【0060】
比較例3の発光強度の平均値を100としたときの発光の強度の平均値の比率(%)をATP産生率として
図3及び4に示す。
図3及び4における誤差範囲は比較例3の発光強度の平均値を100としたときの発光の強度の標準偏差である。
図3に示す通り、アマランサス種子のエタノール抽出をpH2.5以上8以下で行うことで、ATP産生を効果的に促進できることが判明した。また
図3及び
図4に示す通り、アマランサス種子のエタノール抽出前に水接触処理や加熱処理を行っても、得られるエタノール抽出物のATP産生促進効果が優れることが判明した。