(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103793
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】低塩素飛灰の製造方法、焼却飛灰の塩素量の低減方法、セメントの製造方法、及び焼却飛灰のセメント資源化方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20230720BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20230720BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230720BHJP
【FI】
B09B5/00 N ZAB
C04B7/38
B09B3/00 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004521
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB06
4D004AC05
4D004BA02
4D004CA13
4D004CA40
4D004CA42
4D004CB05
4D004CB21
4D004CC03
4D004CC12
4D004DA02
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】焼却飛灰から、塩素量が低減された低塩素飛灰を製造することが可能な低塩素飛灰の製造方法を提供すること。
【解決手段】低塩素飛灰の製造方法が開示される。当該製造方法は、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、選定された焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却飛灰から、塩素量が低減された低塩素飛灰を製造する低塩素飛灰の製造方法であって、
焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、
選定された前記焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程と、
を備える、
低塩素飛灰の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程が、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰を選定する工程であり、
前記第2の工程が、選定された前記焼却飛灰を水で洗浄する工程である、
請求項1に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程が、焼却飛灰のR2O量をさらに測定し、Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰を選定する工程であり、
前記第2の工程が、選定された前記焼却飛灰を水で洗浄する工程である、
請求項1に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記焼却飛灰を酸性水で撹拌洗浄する場合、前記焼却飛灰と前記酸性水とを含むスラリーのpHが8~12である、
請求項1に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、洗浄回数が2回以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程において、最後の1回の洗浄が貫通洗浄であり、それ以外の洗浄が撹拌洗浄である、
請求項5に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項7】
前記焼却飛灰の強熱減量が5~40質量%である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の低塩素飛灰の製造方法。
【請求項8】
焼却飛灰中の塩素量を低減する焼却飛灰の塩素量の低減方法であって、
焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、
選定された前記焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程と、
を備える、
焼却飛灰の塩素量の低減方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用する工程を備える、
セメントの製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用する、
焼却飛灰のセメント資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低塩素飛灰の製造方法、焼却飛灰の塩素量の低減方法、セメントの製造方法、及び焼却飛灰のセメント資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却飛灰を洗浄し、焼却飛灰中の塩素を脱塩して得られた脱水ケーキをセメント原料化する方法が従来知られている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、焼却飛灰に水又は水及び酸を添加して懸濁させて塩素を溶出させ、これを脱水機で脱水することにより得られる脱水ケーキをセメント原料として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-338312号公報
【特許文献2】特開平10-202226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、焼却飛灰の種類によっては、焼却飛灰中の塩素を充分に除去できないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、焼却飛灰から、塩素量が低減された低塩素飛灰を製造することが可能な低塩素飛灰の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、焼却飛灰中の成分の量によって、焼却飛灰を洗浄した際の塩素除去率に違いがあることを見出した。このような知見に基づき、本発明者らは、特定の成分に着目することにより、焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄することによって焼却飛灰中の塩素量を充分に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、焼却飛灰から、塩素量(Cl量)が低減された低塩素飛灰を製造する低塩素飛灰の製造方法に関する。当該製造方法は、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、選定された焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程とを備える。第2の工程において、焼却飛灰を酸性水で撹拌洗浄する場合、焼却飛灰と酸性水とを含むスラリーのpHは、8~12であってよい。本発明者らの検討によると、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定し、これを水又は酸性水で洗浄することによって、焼却飛灰中の塩素を充分に除去できることが見出された。そのため、当該製造方法によれば、焼却飛灰から、Cl量が低減された低塩素飛灰を製造することが可能となる。
【0008】
第1の工程の一態様は、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰を選定する工程であってよい。このとき、第2の工程は、選定された焼却飛灰を水で洗浄する工程であってよい。本発明者らの検討によると、このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、焼却飛灰中の塩素をより一層充分に除去できることが見出された。酸性水を用いないことにより、セメント資源として有用であり、かつ溶解した場合に設備のスケーリングトラブルの原因となるカルシウム成分の溶解を抑制することが可能となる。
【0009】
第1の工程の他の態様は、焼却飛灰のR2O量(酸化アルカリ量)をさらに測定し、Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰を選定する工程であってよい。このとき、第2の工程は、選定された焼却飛灰を水で洗浄する工程であってよい。本発明者らの検討によると、このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、焼却飛灰中の塩素をより一層充分に除去できることが見出された。酸性水を用いないことにより、セメント資源として有用であり、かつ溶解した場合に設備のスケーリングトラブルの原因となるカルシウム成分の溶解を抑制することが可能となる。
【0010】
第2の工程において、洗浄回数は2回以上であってよい。このとき、最後の1回の洗浄が貫通洗浄であり、それ以外の洗浄が撹拌洗浄であることが好ましい。
【0011】
焼却飛灰の強熱減量は、5~40質量%であってよい。
【0012】
本発明の他の側面は、焼却飛灰中のCl量を低減する焼却飛灰のCl量の低減方法に関する。当該低減方法は、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、選定された焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程とを備える。
【0013】
本発明の他の側面は、セメントの製造方法に関する。当該製造方法は、上記の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用する工程を備える。
【0014】
本発明の他の側面は、焼却飛灰のセメント資源化方法に関する。当該セメント資源化方法は、上記の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、焼却飛灰から、塩素量が低減された低塩素飛灰を製造することが可能な低塩素飛灰の製造方法が提供される。また、本発明によれば、焼却飛灰中の塩素量を低減する焼却飛灰の塩素量の低減方法が提供される。さらに、本発明によれば、上記の製造方法で製造される低塩素飛灰を用いたセメントの製造方法及び焼却飛灰のセメント資源化方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[低塩素飛灰の製造方法]
一実施形態の低塩素飛灰の製造方法は、焼却飛灰から、Cl量が低減された低塩素飛灰を得るものである。本実施形態の低塩素飛灰の製造方法は、少なくとも第1の工程及び第2の工程を備える。
【0018】
<第1の工程>
本工程は、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する工程である。
【0019】
焼却灰はゴミ焼却炉等で発生する焼却灰で、主灰と焼却飛灰との2種に大別される。主灰とは焼却炉の下に貯まる灰を意味し、焼却飛灰とは、焼却炉の集塵機で主に捕集された灰を意味する。焼却飛灰は、灰分;アルミ等の微細な金属粒子;揮発した塩素と、脱塩剤として添加されるナトリウム系薬剤又はカルシウム系薬剤とが反応して生成する塩化物から主に構成される。
【0020】
本工程においては、焼却飛灰を準備し、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定する。焼却飛灰のAl2O3量及びCl量は、蛍光X線分析(ファンダメンタルパラメーター法)により測定することができる。
【0021】
Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定し、後述の第2の工程において、水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去することにより、Cl量が充分に低減された低塩素飛灰(例えば、Cl量が1質量%以下の低塩素飛灰)を製造することが可能となる。Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定することにより、Cl量が充分に低減できるという効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、以下のように推察している。焼却飛灰は、水と反応してカルシウム、アルミニウム、及び塩素からなる難溶性水和物(例えば、フリーデル氏塩、クゼル氏塩等)を生成する。そのため、焼却飛灰のAl2O3量が9質量%以下と充分に低い場合は、該難溶性水和物の生成が抑制され、水又は酸性水による洗浄で充分にCl量を低減できると考えられる。
【0022】
本工程において、選定される焼却飛灰のAl2O3量は、Cl量が充分に低減された低塩素飛灰が得られ易いことから、9質量%以下であり、好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは7質量%以下、最も好ましくは6.5質量%以下である。選定される焼却飛灰のAl2O3量の下限は、特に制限されないが、1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよい。
【0023】
本工程において、選定される焼却飛灰の強熱減量は、5~40質量%であってよい。焼却飛灰の強熱減量は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。焼却飛灰の強熱減量は、好ましくは7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
【0024】
本工程の一態様は、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰を選定する工程であってよい。このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、水のみの洗浄で焼却飛灰のCl量を充分に低減することができる。選定される焼却飛灰のCl量は、Cl量が充分に低減された低塩素飛灰がより一層得られ易いことから、11質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下、特に好ましくは7質量%以下である。選定される焼却飛灰のCl量の下限は、特に制限されないが、1質量%超、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってよい。
【0025】
本工程の他の態様は、焼却飛灰のR2O量(Na換算の酸化アルカリ総量)をさらに測定し、Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰を選定する工程であってよい。このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、水のみの洗浄で焼却飛灰のCl量を充分に低減することができる。なお、焼却飛灰のR2O量は、蛍光X線分析(ファンダメンタルパラメーター法)により焼却飛灰のNa2O及びK2O量を測定し、下記式(1)を用いて求めることができる。
R2O=Na2O+0.625×K2O (1)
【0026】
選定される焼却飛灰のCl量の上限は、特に制限されないが、20質量%以下、19質量%以下、又は18質量%以下であってよい。選定される焼却飛灰のR2O/Clモル比は、Cl量が充分に低減された低塩素飛灰がより一層得られ易いことから、0.35超であり、好ましくは0.37以上、より好ましくは0.39以上、さらに好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.41以上である。選定される焼却飛灰のR2O/Clモル比の上限は、特に制限されないが、0.80以下、0.60以下、又は0.50以下であってよい。
【0027】
<第2の工程>
本工程は、選定された焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する工程である。焼却飛灰を洗浄することによって、焼却飛灰中の塩素が溶出し、可溶分として除去される。
【0028】
焼却飛灰の洗浄方法としては、特に制限されないが、例えば、撹拌洗浄、貫通洗浄、散水洗浄等が挙げられる。撹拌洗浄とは、ミキサー等を用いて焼却灰と水又は酸性水とを混合する洗浄を意味する。貫通洗浄とは、フィルタープレス等による脱水後、脱水機を開枠することなく、脱水機内の脱水ケーキに洗浄水(水又は酸性水)を通水して行う洗浄を意味する。
【0029】
焼却飛灰を水で洗浄する場合、水の添加量は、焼却飛灰の質量に対して、好ましくは1~20倍量、より好ましくは2~15倍量、さらに好ましくは3~12倍量である。
【0030】
焼却飛灰を酸性水で洗浄する場合、酸性水における酸は、塩酸、硝酸、硫酸、及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上であってよい。酸性水のpHは、-3~1であってよい。酸性水の添加量は、焼却飛灰の質量に対して、好ましくは1~20倍量、より好ましくは2~15倍量、さらに好ましくは3~12倍量である。
【0031】
焼却飛灰を酸性水で撹拌洗浄する場合、焼却飛灰と酸性水とを含むスラリーのpHは、焼却飛灰のカルシウム成分の溶解を抑制しつつ、Cl量を充分に低減する観点から、例えば、8~12であってよく、好ましくは8~10である。
【0032】
本工程において、洗浄回数は1回であっても2回以上であってもよい。焼却飛灰のCl量を充分に低減できることから、洗浄回数は2回以上であることが好ましい。
【0033】
焼却飛灰の洗浄回数が2回以上である場合、水による洗浄及び酸性水による洗浄を任意に組み合わせることができる。酸性水の酸の残存を防ぐ観点から、最後の1回の洗浄は、水による洗浄であることが好ましい。
【0034】
焼却飛灰の洗浄回数が2回以上である場合、上記の洗浄方法を任意に組み合わせることができる。焼却飛灰のCl量をより充分に低減することができる観点から、最後の1回の洗浄は貫通洗浄(より好ましくは水による貫通洗浄)であり、それ以外の洗浄は撹拌洗浄であることが好ましい。
【0035】
第1の工程が、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰を選定する工程である場合、第2の工程は、選定された焼却飛灰を水で洗浄する工程であってよい。このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、水のみの洗浄で焼却飛灰のCl量を充分に低減することができる。
【0036】
第1の工程が、Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰を選定する工程である場合、第2の工程は、選定された焼却飛灰を水で洗浄する工程であってよい。このような焼却飛灰を選定することにより、酸性水を用いなくとも、水のみの洗浄で焼却飛灰のCl量を充分に低減することができる。
【0037】
焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄する場合、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、高分子凝集剤、脱水助剤等が挙げられる。その他の添加剤を添加するタイミングは任意に調整することができる。
【0038】
本実施形態の製造方法は、不溶の低塩素飛灰と可溶分とを分離し、低塩素飛灰を得る第3の工程をさらに備えていてもよい。不溶の低塩素飛灰と可溶分との分離は、真空式ろ過機、フィルタープレス、ベルトプレス、遠心脱水機等の公知の脱水機によって行うことができる。また、ろ過・脱水によって得られる残渣固形分は加熱乾燥処理を行ってもよい。加熱乾燥処理は、その条件を、例えば、20~200℃で0.1~50時間とすることができる。
【0039】
このようにして、低塩素飛灰を得ることができる。低塩素飛灰は、洗浄対象である焼却飛灰よりもCl量が低減されていればよい。低塩素飛灰のCl量は、例えば、1質量%以下であってよく、好ましくは0.9質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下、最も好ましくは0.5質量%以下である。低塩素飛灰のCl量の下限は、例えば、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってよい。
【0040】
本実施形態の製造方法で製造される低塩素飛灰は、Cl量が充分に低減されていることから、セメント原料として使用することができる。
【0041】
[焼却飛灰の塩素量の低減方法]
一実施形態の焼却飛灰の塩素量の低減方法は、焼却飛灰のAl2O3量及びCl量を測定し、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰を選定する第1の工程と、選定された焼却飛灰を水又は酸性水で洗浄し、可溶分を除去する第2の工程とを備える。なお、焼却飛灰の塩素量の低減方法で使用される焼却飛灰、洗浄方法等は、低塩素飛灰の製造方法で使用される焼却飛灰、洗浄方法と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【0042】
[セメントの製造方法]
一実施形態のセメントの製造方法は、上記の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用する工程を備える。低塩素飛灰をセメント原料として使用する工程としては、例えば、低塩素飛灰と石灰石等のセメント原料とを混合する工程、低塩素飛灰を石灰石等のセメント原料とともにキルンへ送入する工程等が挙げられる。
【0043】
[低塩素飛灰のセメント資源化方法]
一実施形態の焼却飛灰のセメント資源化方法は、上記の製造方法で製造される低塩素飛灰をセメント原料として使用するものである。上記の製造方法で製造される低塩素飛灰は、Cl量が充分に低減されていることから、セメント原料として使用することができ、セメント資源化が可能となる。
【実施例0044】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[1.焼却飛灰]
焼却飛灰として、都市ごみ焼却飛灰の乾灰を使用した。試験に供した焼却飛灰A~Jの化学成分を表1に示す。表1に示す化学成分は、以下の方法によって測定された値である。
(1)SiO2、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO、SO3、R2O、Cl量:蛍光X線分析(ファンダメンタルパラメーター法)で測定した。
(2)強熱減量:JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。
【0046】
【0047】
[2.焼却飛灰の洗浄実験]
<洗浄実験(1)>
Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰として焼却飛灰A、B、及びGを、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%超である焼却飛灰として焼却飛灰Dを、Al2O3量が9質量%超である焼却飛灰として焼却飛灰Hを用いた。まず、1回目の洗浄(撹拌洗浄)は、焼却飛灰100g及び水300gあるいは500gをビーカーに入れ、スリーワンモータを用いて300rpm(回転/分)で10分間撹拌した。次いで、高分子凝集剤(MTアクアポリマー株式会社製、アコフロックA-110)を添加して30分間静置した後、上澄み水を除去した。ビーカーに残った濃縮スラリーを、ろ紙(No.5C)で吸引ろ過して固形分とろ液とに固液分離した。次に、2回目の洗浄(貫通洗浄)は、吸引ろ過を継続しながら、ろ紙上の固液分離した固形分に対して水300、500g、あるいは1000gを添加することによって洗浄し、ろ液の排出が止まった時点を洗浄の終点とし、洗浄灰を得た。洗浄灰を40℃で24時間乾燥させた後、Cl量をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。結果を表2に示す。セメント原料として未洗浄で使用されている焼却主灰のCl量は、通常、1質量%であることから、Cl量が1質量%以下であると、Cl量が充分に低減されたといえる。なお、実施例2において2回目の洗浄を撹拌洗浄とした場合、洗浄灰のCl量は0.38質量%であり、2回目の洗浄を貫通洗浄とした場合の方が、Cl量が低かった。
【0048】
【0049】
<洗浄実験(2)>
Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰として焼却飛灰Gを、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%超である焼却飛灰として焼却飛灰C及びEを、Al2O3量が9質量%超である焼却飛灰として焼却飛灰Hを用いた。実施例6~8、11及び比較例2は、1回目の洗浄(酸性水、撹拌洗浄)時に塩酸を添加してスラリーのpHを8又は10に調整して洗浄した以外は、実施例1又は実施例5と同様にして、2回目の洗浄(水、貫通洗浄)を行い、焼却飛灰を洗浄した。実施例9、10は、1回目の洗浄(酸性水、撹拌洗浄)時に塩酸又は硫酸を添加してスラリーのpHを8に調整して洗浄を行った後、さらに1回目の洗浄と同様の条件で2回目の洗浄(酸性水、撹拌洗浄)を行い、さらに3回目の洗浄(水、貫通洗浄)を行い、焼却飛灰を洗浄した。得られた洗浄灰のCl量を上記と同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
<洗浄実験(3)>
Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰として焼却飛灰F、I、J、及びEを用いた。実施例1と同様にして、焼却飛灰を洗浄した。得られた洗浄灰のCl量を上記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【0053】
表2、表3、及び表4に示すとおり、Al2O3量が9質量%以下である焼却飛灰(焼却飛灰A~G、I、J)は、水又は酸性水で洗浄することにより、洗浄灰のCl量を1質量%以下に低減できることが判明した。また、Al2O3量が9質量%以下であり、かつCl量が11質量%以下である焼却飛灰(焼却飛灰A、B、G)は、水での洗浄によって洗浄灰のCl量を充分に低減できることが判明した(表3)。さらに、Al2O3量が9質量%以下であり、Cl量が11質量%を超え、かつR2O/Clモル比が0.35を超える焼却飛灰(焼却飛灰E、F、I、J)においても、水での洗浄によって洗浄灰のCl量を充分に低減できることが判明した(表4)。以上により、本発明の低塩素飛灰の製造方法は、焼却飛灰から、塩素量が低減された低塩素飛灰を製造することが可能であることが確認された。