(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103824
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ロータリーキルンを用いて行う乾燥物又は焼成物の製造方法、及び、粗酸化亜鉛の製造方法
(51)【国際特許分類】
F27B 7/42 20060101AFI20230720BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230720BHJP
C22B 19/02 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F27B7/42
C22B1/02
C22B19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004577
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
【テーマコード(参考)】
4K001
4K061
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA30
4K001BA05
4K001BA14
4K001CA16
4K001GA07
4K061AA08
4K061BA12
4K061CA29
4K061DA02
4K061FA02
4K061GA02
4K061GA05
(57)【要約】
【課題】重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う工程において、乾燥物又は焼成物の生産量を維持しながら、バーナーに投入する燃料の投入量を最適化することによって、乾燥物又は焼成物の製造を、従来よりも経済的に行うことができるようにすること。
【解決手段】バーナー30と、電力によって駆動する回転式加熱炉本体10と、を備えるロータリーキルン1を用いて行う、乾燥物又は焼成物の製造方法であって、ロータリーキルン1の単位時間当り推定生産量を、ロータリーキルン1の駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式から算出する、単位時間当り推定生産量算出工程と、バーナー30への燃料の投入量を、単位時間当り生産推定量に近づける調整を行う燃料投入量調整工程と、を備える、乾燥物又は焼成物の製造方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う、乾燥物又は焼成物の製造方法であって、
前記ロータリーキルンの単位時間当り推定生産量を、前記ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式から算出する、単位時間当り推定生産量算出工程と、
前記バーナーへの燃料の投入量を、前記単位時間当り推定生産量と燃料原単位との積に近づける調整を行う燃料投入量調整工程と、
を備える、
乾燥物又は焼成物の製造方法。
【請求項2】
前記回帰式は、前記ロータリーキルンの回転数に応じて、前記ロータリーキルンの駆動電力と前記単位時間当りの生産量との関係を層別して得られた式である、
請求項1に記載の乾燥物又は焼成物の製造方法。
【請求項3】
粗酸化亜鉛ケーキを焼成することによって、粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程を、請求項1又は2に記載の乾燥物又は焼成物の製造方法によって行う、
粗酸化亜鉛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルンを用いて行う乾燥物又は焼成物の製造方法、及び、この方法を用いて行う粗酸化亜鉛の製造方法に関する。本発明は、詳しくは、重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンにおいて、バーナーへの燃料の投入量を最適化することにより、乾燥物又は焼成物の製造の経済性を向上させることができる乾燥物又は焼成物の製造方法、及び、この方法を用いて行う粗酸化亜鉛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種の非鉄金属の製錬プロセスの実施時に、原料や中間生産物の乾燥、焼成、或いは、その両処理(本明細書においては、これらの各処理を合わせて「焼成処理」とも言う)を行う工業用の加熱炉として、全長30m程度の円筒形の炉であって電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、重油等を燃料として用いるバーナーと、を備えるロータリーキルンが広く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
上記のロータリーキルンを用いて、投入物の「焼成処理」を行う際に、炉内で十分に乾燥或いは焼成を進行させるためには、所定の炉内温度を維持するために必要十分な燃料を供給する必要がある。しかし、その一方で、加熱用のバーナーに投入する重油等の燃料費については、これを、必要最小限に抑えて、ロータリーキルンを用いた「焼成処理」の経済性を向上させることが求められている。このような要求に応えるために、従来は、「得られた乾燥物・焼成物の品位」を確認しながら、それらの変化に対応する手段によって、燃料の投入量の調整が行われていた。
【0004】
尚、ロータリーキルンのバーナーへの燃料の投入量を調整する技術としては、排出されるガス中のCO濃度やロータリーキルン内の温度を所定範囲に維持することを目的として、バーナーへ供給する重油量及び空気量を制御する操業方法が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この技術は燃料の使用効率の向上については特段の配慮は払われてはいない。ロータリーキルンを用いた焼成処理を行う工程において、製造物の生産量を維持しつつ、燃料の投入量を必要十分な最小限の投入量に抑えて、操業の経済性を向上させる技術については、上述の手段(得られた乾燥物・焼成物の品位変化に対応する手段)による対応では未だ不十分であり、更に、燃料の使用効率を高めて、操業の経済性を向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-48411号公報
【特許文献2】特開2001-280849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う工程において、乾燥物又は焼成物の生産量を維持しながら、バーナーに投入する燃料の投入量を最適化することによって、乾燥物又は焼成物の製造を、従来よりも経済的に行うことができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ロータリーキルンのバーナーに投入する燃料の投入量を調整する指標として用いるべき、リアルタイムの「単位時間当りの生産量」を、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式から算出する、「単位時間当り推定生産量」で代替することにより、上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) バーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う、乾燥物又は焼成物の製造方法であって、前記ロータリーキルンの単位時間当り推定生産量を、前記ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式から算出する、単位時間当り推定生産量算出工程と、前記バーナーへの燃料の投入量を、前記単位時間当り推定生産量と燃料原単位との積に近づける調整を行う燃料投入量調整工程と、を備える、乾燥物又は焼成物の製造方法。
【0009】
(1)の乾燥物又は焼成物の製造方法によれば、重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う工程において、乾燥物又は焼成物の生産量を維持しながら、バーナーに投入する燃料の投入量を最適化することによって、乾燥物又は焼成物の製造を、従来よりも経済的に行うことができるようになる。
【0010】
(2) 前記回帰式は、前記ロータリーキルンの回転数に応じて、前記ロータリーキルンの駆動電力と前記単位時間当りの生産量との関係を層別して得られた式である、(1)に記載の乾燥物又は焼成物の製造方法。
【0011】
(2)の乾燥物又は焼成物の製造方法によれば、(1)の製造方法における、バーナーに投入する燃料の量を、より高い精度で最適化して、乾燥物又は焼成物の製造の経済性を更に向上させることができる。
【0012】
(3) 粗酸化亜鉛ケーキを焼成することによって、粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程を、(1)又は(2)に記載の乾燥物又は焼成物の製造方法によって行う、粗酸化亜鉛の製造方法。
【0013】
(3)の粗酸化亜鉛の製造方法によれば、(1)又は(2)の製造方法の奏する上記効果を享受して、粗酸化亜鉛焼鉱の製造コストの低減に寄与することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う工程において、乾燥物又は焼成物の生産量を維持しながら、バーナーに投入する燃料の投入量を最適化することによって、乾燥物又は焼成物の製造を、従来よりも経済的に行うことができるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の製造方法を好適に実施することができるロータリーキルンの全体構成を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の製造方法を用いて行うことができる酸化亜鉛鉱の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当りの生産量との相関を示すグラフ図である。
【
図4】ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当りの生産量の相関について、ロータリーキルンの回転数毎に層別して示すグラフ図である。
【
図5】実施例の重油原単位のX-Rs管理図である。
【
図6】比較例の重油原単位のX-Rs管理図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の乾燥物又は焼成物の製造方法の好ましい一実施態様について説明する。但し、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0017】
<焼成物の製造方法>
本発明の製造方法、即ち、「バーナーと、電力によって駆動する回転式加熱炉本体と、を備えるロータリーキルンを用いて行う、乾燥物又は焼成物の製造方法(本明細書において、「焼成物の製造方法」とも言う)」は、一例として、
図2に示す流れで行われる粗酸化亜鉛の焼鉱(本明細書において「粗酸化亜鉛焼鉱」とも言う。)の製造プロセスにおいて、粗酸化亜鉛等の中間生産物や二次原材料を、ロータリーキルンを用いて焼成する乾燥加熱工程(
図2:S30)を実施する方法として好ましく用いることができる製造方法である。
【0018】
ここで、乾燥加熱工程、即ち、ロータリーキルンを用いた「焼成処理」を行う工程において、燃料の投入量を必要十分な最小限の投入量に抑えて、操業の経済性を向上させるためには、操業を実施するプラント毎において、予め想定することが可能な、単位生産量当りの必要燃料投入量である「燃料原単位」と、当該プラントにおけるロータリーキルンのリアルタイムの「単位時間当りの生産量」との積である理論上の必要且つ最適な燃料投入量に、当該ロータリーキルンに投入する燃料の投入量を一致させることが、経済性の面では理想的な調整となる。
【0019】
しかしながら、全長30m程度にも及ぶ円筒形の炉の中を、1時間~3時間程度かけて投入物が進行していくロータリーキルンにおいては、燃料投入量の調整の指標となり得る上記の各量のうち、リアルタイムの「単位時間当りの生産量」については、これを直接測定して把握することは現実的には不可能に近い。
【0020】
そこで、本発明の「焼成物の製造方法」においては、上述の通り把握が極めて困難なリアルタイムの「単位時間当りの生産量」を求めることに替えて、新規な2つの工程、即ち、「ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式」からロータリーキルンの「単位時間当り推定生産量」を算出する「単位時間当り推定生産量算出工程」、及び、当該「単位時間当り推定生産量」と「燃料原単位」との積を、管理目標値として、実際の燃料投入量をこの管理目標値に近づける調整を行う「燃料投入量調整工程」を、必須の工程として行うこととした。
【0021】
[ロータリーキルン]
図1は、本発明の「焼成物の製造方法」を用いて乾燥物又は焼成物の製造を行うことができるロータリーキルンの全体構成を示す断面模式図である。本発明の「焼成物の製造方法」は、同図に示すロータリーキルン1のように、重油等の燃料を燃焼させて炉内を加熱するバーナー30及び電力によって駆動する回転式加熱炉本体10を備えるロータリーキルン1を用いて行なわれる各種の工程に広く適用することができる技術である。
【0022】
図1に示す通り、ロータリーキルン1は、中空円筒形の炉である回転式加熱炉本体10、回転式加熱炉本体10を回転(一例として図中のR方向への回転)可能に支持するキルン本体支持部(図示せず)、回転式加熱炉本体10の一方の端部を覆う固定フード20、燃料供給管31から供給される重油等の燃料を燃焼させて、回転式加熱炉本体10の内部を加熱するための火炎32を放射するバーナー30、及び、電力によって回転式加熱炉本体10を駆動して回転させる駆動ギヤ40を備える回転式の加熱炉である。
【0023】
又、ロータリーキルン1において、回転式加熱炉本体10は、一例として、全長数m以上100m以下程度の円筒形の炉であり、使用時に、被処理物の装入口11から被処理物の排出口12に向けて被処理物の移動する方向に向けて、水平面に対し3~4%の傾斜をもつように設置されている。又、ロータリーキルン1には、排出口12の近傍の内周部に当該ロータリーキルンの内径に対して2%以上の高さを有するダム13が設けられていてもよい。ダム13は、被処理物の滞留時間を延長させることを主たる目的として設けられるものである。
【0024】
上記構成からなるロータリーキルン1においては、
図1に示すように、バーナー30により回転式加熱炉本体10の内部を高温に加熱し、駆動ギヤ40により回転式加熱炉本体10をR方向に回転させながら、装入口11より、被処理物がa方向へと搬入される。被処理物は、高温に加熱されている回転式加熱炉本体10の内部を、その傾斜に沿って攪拌されながら、排出口12の方向に向かって移動してゆき、排出口12から高温の焼成物がb方向に排出される。
【0025】
本発明の「焼成物の製造方法」は、上記のようなロータリーキルンの中でも、とりわけ、回転式加熱炉本体の全長が20m以上、好ましくは30m以上の大型のロータリーキルンにおいて採用する場合に、特に、経済性向上の効果が顕著となる。
【0026】
[単位時間当り推定生産量算出工程]
以下、本発明の「焼成物の製造方法」における第1の必須の工程である、「単位時間当り推定生産量算出工程」の詳細について説明する。
【0027】
本明細書において「単位時間当り推定生産量」とは、ロータリーキルン内での「単位時間当りの生産量」の代替指標として用いる、ロータリーキルン内での単位時間当りの生産量の推定量である。本発明の「焼成物の製造方法」では、単位時間当り推定生産量算出工程において、リアルタイムの「単位時間当り推定生産量」を、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式から算出する。ロータリーキルンの駆動電力は、リアルタイムで継続的に測定することができるので、ロータリーキルンの駆動中に、時々刻々変動する「単位時間当り推定生産量」を常にリアルタイムで把握することができる。
【0028】
(ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式)
「ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式(本明細書において単に「回帰式」とも言う)」は、ロータリーキルン1の回転式加熱炉本体10を回転させるための駆動電力と、単位時間当り生産量の散布図から得ることができる。
図3は、そのような散布図の一例である。同図に示した生産量は、基準値を100として指数化した値を、駆動電力は基準値を10として指数化した値を示している。
図4においても生産量、駆動電力の値は全て同様である。尚、このような散布図を作成するために必要な電力と生産量の組合せの値のサンプルとしては、ロータリーキルンの制御室に集まる当該時間の電力値と当該時間の生産量の値を使用することができる。
【0029】
又、ロータリーキルン1の回転式加熱炉本体10を回転させるための駆動電力と、単位時間当り生産量の相関について、一般的に、金属酸化物の脱水ケーキを乾燥、焼成させるロータリーキルンにおいて、その日当りの生産能力が、ロータリーキルンの回転式加熱炉本体内の単位容積当り、0.5t以上1.3t以下の場合、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当りの生産量の間に強い相関があることが分かっている。従って、このような操業条件の下において、特段に高い精度で、上述の「回帰式」から「単位時間当り推定生産量」を算出することができる。
【0030】
尚、上述の「回帰式」は、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当りの生産量の関係を、ロータリーキルンの回転数に応じて層別して得られた式であることがより好ましい。駆動電力に影響のある、ロータリーキルンの回転数で層別した散布図(
図4参照)を作成し、当該層別した散布図から得られる「回帰式」を用いることによって、より高い精度でが、「単位時間当り推定生産量」を算出することができる。
【0031】
又、
図4の散布図では、ロータリーキルンの回転数が0.4rpm以上0.6rpm未満である範囲(当該ロータリーキルンの常用回転数範囲である)では、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当りの生産量は強い相関を示しているので、この範囲内の回転数でロータリーキルンを駆動している場合においては、「回帰式」からの「単位時間当り推定生産量」の算出を高い精度で行うことができる。
【0032】
一方で、常用回転数の範囲外であるロータリーキルンの回転数が0.6rpm以上となる範囲では、ばらつきが大きくなり、駆動電力と単位時間当りの生産量との相関が弱まっている。これは、回転数が所定以上となっている場合、炉内の状態が、熔融物のベコ付き等、回転数以外の要因が駆動電力へ相対的に大きな影響を与える状態となっていることが理由であると考えられる。このため、ロータリーキルンの回転数が0.6rpm以上となる場合等、相関が弱まることが想定される場合には、従来の方法、即ち、原料の装入量見合いで、或いは得られた乾燥物又は焼成物の品位を確認しながら、燃料使用量を決定する調整方法と本発明とを併用するか、或いは、必要に応じて、一時的に従来方法に切り替えることが好ましい。
【0033】
[燃料投入量調整工程]
次に、本発明の「焼成物の製造方法」における第2の必須の工程である、「燃料投入量調整工程」の詳細について説明する。この工程では、上述の「単位時間当り推定生産量算出工程」で求めた「単位時間当り推定生産量」と「燃料原単位」との積(単位時間当り生産推定量×燃料原単位)を管理目標値として、バーナー30への燃料の投入量を、この値に近づけるか、好ましくは、一致させるような調整を行う。
【0034】
ここで、「燃料原単位」とは、実際に使用するロータリーキルンの基本性能や操業条件によって予め決定される値であり、ロータリーキルンの操業実績を基に、一例として、燃料が重油である場合においては、(重油原単位=重油使用量/生産量)という式により、即ち、単位生産量当りに実際に必要な重油量として求められる。
【0035】
上述した通り、「単位時間当り推定生産量算出工程」においては、ロータリーキルンの駆動中に、時々刻々変動する「単位時間当り推定生産量」を常にリアルタイムで把握することができるので、把握した「単位時間当り推定生産量」と、所与の基本データである「燃料原単位」から、リアルタイムでの燃料投入量についての最適な管理目標値を設定することができる。
【0036】
<粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法>
以上、詳細を説明した本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」は、ウェルツ法による粗酸化亜鉛焼鉱の製造プラントにおいて行われる「粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法」において、粗酸化亜鉛の脱水ケーキ(本明細書において、「粗酸化亜鉛ケーキ」とも言う)と、二次原材料とを乾燥加熱して粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程S30を実施する方法として好ましく用いることができる。
【0037】
上記の「粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法」は、
図2に示す通り、鉄鋼ダスト等の一次原材料を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S10、還元焙焼工程S10で得た粗酸化亜鉛ダストから塩素及びフッ素等を分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S20、及び、乾燥加熱工程S30が順次行われる。上記の全体プロセスにおいては、鉄鋼ダスト等、亜鉛を含む一次原材料が、上流側の工程である還元焙焼工程S10に装入される。そして、これとは別に、亜鉛を含む二次原材料が、下流側の工程である乾燥加熱工程S30に直接装入される場合がある。
【0038】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程S10は、亜鉛を含有する一次原材料を還元焙焼することによって粗酸化亜鉛ダストを得る工程である。還元焙焼処理は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)によって行われる。このRRK本体内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、これにより還元揮発した金属亜鉛は排ガス中で再酸化されて粉末状の酸化亜鉛となる。
【0039】
[湿式工程]
湿式工程S20は、還元焙焼工程S10において回収された酸化亜鉛を含有する粗酸化亜鉛ダストから、湿式処理によって水溶性不純物を除去して、粗酸化亜鉛ケーキを得る工程である。湿式工程S20においては、不純物が十分に除去されたスラリーが、真空吸引型脱水機等によって脱水されて、酸化亜鉛を含有する粗酸化亜鉛ケーキとなる。
【0040】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程S30は、本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」によって行うことで経済性を向上させる効果を享受することができる工程である。この工程は、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを焼成することによって、粗酸化亜鉛焼鉱を得る工程である。焼成処理は、
図1に示すような乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)によって行われる。乾燥加熱工程S30においては、粗酸化亜鉛ケーキを、DRKに装入して焼成することにより、塩素及びフッ素等の濃度を更に低減させて、粗酸化亜鉛焼鉱とする。乾燥加熱工程S30における加熱温度については、DRKより排出されるときの焼鉱の温度が、800℃以上1150℃以下となるように維持管理することが好ましい。
【0041】
従来、この乾燥加熱工程におけるロータリーキルンへの燃料(重油)の投入量の調整は、一般に、上述の通り、同工程への原材料等の装入量見合いで行われていた。しかしながら、
図2に示す通り、乾燥加熱工程S30には、上流の湿式工程で得られる粗酸化亜鉛ケーキの他、様々な性状の二次原材料も装入される。これらの装入物の総量及び組成比は、様々な要因で複雑に変動するため、これらの値に基づいて最適な重油量を供給することは困難であった。これに対して、本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」によれば、高い精度で重油投入量を最適量に調整することができる。
【実施例0042】
図2に示す流れで行う粗酸化亜鉛の製造において、乾燥加熱工程を、本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」によって行うことによる経済性向上の効果を検証するための試験操業を以下の通り行った。尚、乾燥加熱工程を行うロータリーキルンとしては、バーナーと電力によって駆動する回転式加熱炉本体とを備え、回転式加熱炉本体の全長が31mで炉内容積が191m
3である乾燥加熱用ロータリーキルンを用いた。
【0043】
[実施例]
上述の粗酸化亜鉛の製造において、乾燥加熱工程を、本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」によって行うように工程変更し、約1か月間試験操業を継続した。具体的には、ロータリーキルンの駆動電力と単位時間当り生産量との回帰式については、ロータリーキルンの回転数に応じて、即ち、回転数0.1rpm毎に、層別した回帰式を用いた。リアルタイムで測定したロータリーキルンの駆動電力をこの回帰式にあてはめて、単位時間当り推定生産量を算出し、この値と重油原単位から算出した重油量を目標管理値として重油の投入量を調整する態様での操業を継続した。約1か月の試験操業期間(N=26)の重油原単位のX―Rs管理図を
図5に示す。
図5より、約1か月の期間においては、X管理図、Rs管理図ともに管理限界内に収まっていることを確認できる。尚、
図3に示した重油原単位は基準値を50として指数化した値を示している。以下の図の重油原単位の値についても同様である。
【0044】
[比較例]
実施例と同条件の粗酸化亜鉛の製造において、乾燥加熱工程のおけるロータリーキルンへの重油の投入量の調整を、本発明の方法にはよらず、ロータリーキルンへの装入量見合いで調整する従来の方法によって1年間操業していたときの重油原単位のX―Rs管理図を
図6に示す。
【0045】
実施例と比較例との重油原単位を比較すると、重油原単位のばらつきが小さくなっており、本発明の実施により、-6.9%の重油原単位の削減効果を得ることができた。上記結果より、本発明の「乾燥物又は焼成物の製造方法」は、重油等を燃料として用いる加熱用のバーナーと電力によって駆動する回転式加熱炉本体とを備えるロータリーキルンにおいて、バーナーに投入する燃料の量を最適化しながら、乾燥物又は焼成物の製造を経済的に行うことができる製造方法であることが分かる。