(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103894
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】発振回路および発振回路の温度補償方法
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
H03B5/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004683
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】浜田 剛志
【テーマコード(参考)】
5J079
【Fターム(参考)】
5J079AA04
5J079BA02
5J079BA47
5J079CA04
5J079CA12
5J079CB01
5J079FB02
(57)【要約】
【課題】周波数安定度の高い発振回路を提供する。
【解決手段】共振子10および集積回路40の温度変化に起因する周波数変動を補償する発振回路100は、発振回路100の内部温度を検出する第1温度検出部30と、内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部41と、ヒータ電流に基づいて、共振子10を加熱する第1ヒータ20と、ヒータ電流に基づいて、集積回路40を加熱する第2ヒータ42と、集積回路40の温度を検出する第2温度検出部43と、集積回路40の温度に基づいて、集積回路40の温度変化に起因する第1周波数変動を補償するための第1補償電圧を生成する第1補償電圧生成回路44と、内部温度に基づいて、共振子の温度変化に起因する第2周波数変動を補償するための第2補償電圧を生成する第2補償電圧生成回路45と、第1補償電圧および第2補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器46とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償する発振回路であって、
前記発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、
前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部と、
前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、
前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、
前記集積回路の温度を検出する第2温度検出部と、
前記集積回路の温度に基づいて、前記集積回路の温度変化に起因する第1周波数変動を補償するための第1補償電圧を生成する第1補償電圧生成回路と、
前記内部温度に基づいて、前記共振子の温度変化に起因する第2周波数変動を補償するための第2補償電圧を生成する第2補償電圧生成回路と、
前記第1補償電圧および前記第2補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器と、
を備える、発振回路。
【請求項2】
前記第2ヒータは、抵抗値が変化する可変抵抗である、
請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記電流生成部は、
ヒータオン領域にて、環境温度が変化している状態で、該環境温度に対する前記第2周波数変動を補償するような前記目標温度を生成する目標温度生成回路を備える、
請求項1または2に記載の発振回路。
【請求項4】
境界温度が、前記共振子の温度と前記第2周波数変動との関係を示すグラフにおいて、前記第2周波数変動が極小となる前記共振子の温度である極小温度と一致し、
前記第2補償電圧生成回路は、
前記第2周波数変動がゼロとなるような前記第2補償電圧を生成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の発振回路。
【請求項5】
境界温度が、前記共振子の温度と前記第2周波数変動との関係を示すグラフにおいて、前記第2周波数変動が極小となる前記共振子の温度である極小温度と一致せず、
前記第2補償電圧生成回路は、
前記第2周波数変動がゼロとなるような前記第2補償電圧を生成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の発振回路。
【請求項6】
前記境界温度は、環境温度の最大値と一致する、
請求項4または5に記載の発振回路。
【請求項7】
共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償する発振回路であって、
前記発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、
前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部と、
前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、
抵抗値が変化する可変抵抗であり、前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、
前記集積回路の温度を検出する第2温度検出部と、
前記集積回路の温度に基づいて、前記集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償するための補償電圧を生成する補償電圧生成回路と、
前記補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器と、
を備える、発振回路。
【請求項8】
共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償する発振回路が備える温度制御回路であって、
前記発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、
前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成し、ヒータオン領域にて、環境温度が変化している状態で、該環境温度に対する前記共振子の温度変化に起因する周波数変動を補償するような前記目標温度を生成する電流生成部と、
前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、
前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、
を備える、温度制御回路。
【請求項9】
共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償し、
発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、
前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部と、
前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、
前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、
前記集積回路の温度を検出する第2温度検出部と、
前記集積回路の温度に基づいて、前記集積回路の温度変化に起因する第1周波数変動を補償するための第1補償電圧を生成する第1補償電圧生成回路と、
前記内部温度に基づいて、前記共振子の温度変化に起因する第2周波数変動を補償するための第2補償電圧を生成する第2補償電圧生成回路と、
前記第1補償電圧および前記第2補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器と、
を備える発振回路の温度補償方法であって、
ヒータオン領域にて、環境温度が一定の状態で、前記電流生成部が、前記内部温度と前記目標温度とが一致するように、前記ヒータ電流を生成するステップと、
前記第2ヒータにおける可変抵抗の抵抗値が、第1抵抗値に設定され、前記集積回路の温度が検出されるステップと、
前記第2ヒータにおける可変抵抗の抵抗値が、前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定され、前記集積回路の温度が検出されるステップと、
第1補償電圧生成回路が、前記抵抗値が前記第1抵抗値であるときの前記集積回路の温度および前記抵抗値が前記第2抵抗値であるときの前記集積回路の温度に基づいて、前記第1周波数変動を補償するための前記第1補償電圧を生成するステップと、
ヒータオフ領域にて、前記環境温度が変化している状態で、前記第2補償電圧生成回路が、前記内部温度に対する前記第2周波数変動の変化に基づいて、前記第2周波数変動を補償するための前記第2補償電圧を生成するステップと、
前記ヒータオン領域にて、前記環境温度が変化している状態で、前記電流生成部が、該環境温度に対する前記第2周波数変動を補償するような前記目標温度を生成するステップと、
を含む、温度補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発振回路および発振回路の温度補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、温度変化に起因して共振周波数が変動することが知られている。例えば、特許文献1には、環境温度が高温(70℃~100℃)となり、ヒータがオフする領域Pで、温度補償型水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated XTAL Oscillator)により、共振周波数の変動を補償するオーブン制御型水晶発振器(OCXO:Oven Controlled XTAL Oscillator)が開示されている(
図14参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の発振回路は、環境温度が高温となり、ヒータがオフする領域における共振周波数の変動を補償することは可能であったものの、環境温度が低温となり、ヒータがオンする領域において、水晶振動子の温度変化に起因する発振周波数の変動、あるいは、水晶振動子との温度差が生じる集積回路の温度変化に起因する発振周波数の変動を、十分に補償するものではなかった。このため、発振回路の周波数安定度が低いという問題が生じていた。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、周波数安定度の高い発振回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る発振回路は、共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償する発振回路であって、前記発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部と、前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、前記集積回路の温度を検出する第2温度検出部と、前記集積回路の温度に基づいて、前記集積回路の温度変化に起因する第1周波数変動を補償するための第1補償電圧を生成する第1補償電圧生成回路と、前記内部温度に基づいて、前記共振子の温度変化に起因する第2周波数変動を補償するための第2補償電圧を生成する第2補償電圧生成回路と、前記第1補償電圧および前記第2補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器と、を備えることを特徴とする。
【0007】
一実施形態に係る発振回路の温度補償方法は、共振子および集積回路の温度変化に起因する周波数変動を補償し、発振回路の内部温度を検出する第1温度検出部と、前記内部温度と目標温度とが一致するように、ヒータ電流を生成する電流生成部と、前記ヒータ電流に基づいて、前記共振子を加熱する第1ヒータと、前記ヒータ電流に基づいて、前記集積回路を加熱する第2ヒータと、前記集積回路の温度を検出する第2温度検出部と、前記集積回路の温度に基づいて、前記集積回路の温度変化に起因する第1周波数変動を補償するための第1補償電圧を生成する第1補償電圧生成回路と、前記内部温度に基づいて、前記共振子の温度変化に起因する第2周波数変動を補償するための第2補償電圧を生成する第2補償電圧生成回路と、前記第1補償電圧および前記第2補償電圧に基づいて、発振信号を生成する発振器と、を備える発振回路の温度補償方法であって、ヒータオン領域にて、環境温度が一定の状態で、前記電流生成部が、前記内部温度と前記目標温度とが一致するように、前記ヒータ電流を生成するステップと、前記第2ヒータにおける可変抵抗の抵抗値が、第1抵抗値に設定され、前記集積回路の温度が検出されるステップと、前記第2ヒータにおける可変抵抗の抵抗値が、前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定され、前記集積回路の温度が検出されるステップと、第1補償電圧生成回路が、前記抵抗値が前記第1抵抗値であるときの前記集積回路の温度および前記抵抗値が前記第2抵抗値であるときの前記集積回路の温度に基づいて、前記第1周波数変動を補償するための前記第1補償電圧を生成するステップと、ヒータオフ領域にて、前記環境温度が変化している状態で、前記第2補償電圧生成回路が、前記内部温度に対する前記第2周波数変動の変化に基づいて、前記第2周波数変動を補償するための前記第2補償電圧を生成するステップと、前記ヒータオン領域にて、前記環境温度が変化している状態で、前記電流生成部が、該環境温度に対する前記第2周波数変動を補償するような前記目標温度を生成するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、周波数安定度の高い発振回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る発振回路の構成の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る温度と共振子の温度変化に起因する周波数変動との関係および温度と集積回路の温度変化に起因する周波数変動との関係の一例を示す図である。
【
図3A】第1実施形態に係る環境温度と目標温度との関係の一例を示す図である。
【
図3B】第1実施形態に係る環境温度と発振回路における周波数変動の合計との関係の一例を示す図である。
【
図4A】第1実施形態に係る発振回路における温度制御回路の構成の一例を示す図である。
【
図4B】第1実施形態に係る熱抵抗モデルの一例を示す図である。
【
図5A】第1実施形態に係る発振回路の構成の一例を示す図である。
【
図5B】第1実施形態に係る発振回路の構成の一例を示す図である。
【
図6】第1実施形態に係る発振回路の内部温度と共振子の温度変化に起因する周波数変動との関係の一例を示す図である。
【
図7】第1実施形態に係る発振回路の温度補償方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8A】第2実施形態に係る環境温度と共振子の温度との関係および環境温度と発振回路の内部温度との関係の一例を示す図である。
【
図8B】第2実施形態に係る共振子の温度と共振子の温度変化に起因する周波数変動との関係および発振回路の内部温度と温度補償成分との関係の一例を示す図である。
【
図9A】第2実施形態に係る熱抵抗モデルの一例を示す図である。
【
図9B】第2実施形態に係る環境温度と電力との関係の一例を示す図である。
【
図10A】第2実施形態に係る環境温度と共振子の温度との関係および環境温度と発振回路の内部温度との関係の一例を示す図である。
【
図10B】第2実施形態に係る共振子の温度と共振子の温度変化に起因する周波数変動との関係および発振回路の内部温度と温度補償成分との関係の一例を示す図である。
【
図11】第3実施形態に係る不連続点が発生しない場合における温度補償の様子の一例を示す図である。
【
図12】第3実施形態に係る不連続点が発生する場合における温度補償の様子の一例を示す図である。
【
図13A】第3実施形態に係る環境温度と共振子の温度との関係および環境温度と発振回路の内部温度との関係の一例を示す図である。
【
図13B】第4実施形態に係る環境温度と共振子の温度との関係および環境温度と発振回路の内部温度との関係の一例を示す図である。
【
図14】従来に係る水晶振動子の温度と周波数安定度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
本明細書において、「ゼロ」とは、実質的なゼロのみならず、実質的なゼロに近い略ゼロの数値範囲も含むものとする。
【0012】
また、本明細書において、「環境温度」とは、発振回路の周囲の雰囲気温度を意味するものとする。「目標温度」とは、ヒータを用いた加熱により発振回路の内部温度を制御する際に狙う温度を意味するものとする。「境界温度」とは、ヒータオン領域とヒータオフ領域との境界の温度を意味するものとする。「ヒータオン領域」とは、ヒータがオンする領域であり、環境温度が境界温度以下である領域を意味するものとする。「ヒータオフ領域」とは、ヒータがオフする領域であり、環境温度が境界温度より高い領域を意味するものとする。ただし、これらの用語は、便宜的に定められたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0013】
<第1実施形態>
【0014】
〔発振回路〕
図1乃至
図6を参照して、第1実施形態に係る発振回路100の構成の一例について説明する。
【0015】
発振回路100は、共振子10および集積回路40の温度変化に起因する周波数変動を補償する回路である。本明細書において、共振子10の温度変化に起因する周波数変動を、ΔFxtl[ppm]で表す。また、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動を、ΔFIC[ppm]で表す。また、発振回路100における周波数変動の合計を、ΔFtotal[ppm]で表す。また、温度補償成分を、ΔFC[ppm]で表す。
【0016】
共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtl[ppm]は、例えば、共振子10が水晶振動子である場合、次式のような3次関数で表される(
図2参照)。
【0017】
【数1】
T
xtlは、共振子10の温度[℃]である。A
3xは、共振子10の温度変動因の3次の周波数変動係数[ppm/℃
3]である。A
2xは、共振子10の温度変動因の2次の周波数変動係数[ppm/℃
2]である。A
1xは、共振子10の温度変動因の1次の周波数変動係数[ppm/℃]である。T
0は、ΔF
xtl[ppm]を0に正規化するための基準温度[℃]である。
【0018】
集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔF
IC[ppm]は、次式のような1次関数で近似できる(
図2参照)。
【0019】
【数2】
T
ICは、集積回路40の温度[℃]である。A
1iは、集積回路40の温度変動因の1次の周波数変動係数[ppm/℃]である。T
0は、ΔF
IC[ppm]を0に正規化するための基準温度[℃]である。
【0020】
温度補償後の発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotal[ppm]は、次式で表される。
【0021】
【0022】
発振回路100は、共振子10と、第1ヒータ20と、第1温度検出部30と、集積回路40と、を備える。発振回路100は、入出力端子DATAおよび入力端子CLKを介して、発振回路100の外部に設けられる制御部200と接続されている。
【0023】
集積回路40は、電流生成部41と、第2ヒータ42と、第2温度検出部43と、第1温度補償電圧生成回路44と、第2温度補償電圧生成回路45と、発振器46と、インターフェース部47と、記憶部50と、インターフェース部60と、を備える。集積回路40は、この他にも、温度検出部モニタ用テストパスなどを備えていてよい。集積回路40は、端子RHを介して、第1ヒータ20と接続され、端子THMを介して、第1温度検出部30と接続されている。
【0024】
共振子10は、例えば、SCカット型水晶振動子、ATカット型水晶振動子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子、セラミック振動子であってよい。共振子10は、接続端子X1および接続端子X2を介して、発振器46と接続されている。
【0025】
第1ヒータ20は、電流生成部41から供給されるヒータ電流に基づいて、共振子10を加熱する。第1ヒータ20は、共振子10に近接して設けられることが好ましい。第1ヒータ20は、一端がグランドと接続され、他端が端子RHを介して、第2ヒータ42および電流生成部41と接続されている。第1ヒータ20は、例えば、抵抗Rxのヒータ抵抗であってよい。
【0026】
第1温度検出部30は、発振回路100の内部温度Tthmを検出する。第1温度検出部30は、共振子10に近接して設けられることが好ましい。第1温度検出部30は、一端がグランドと接続され、他端が端子THMを介して、インターフェース部47と接続されている。第1温度検出部30は、例えば、温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタ、白金抵抗素子、温度に応じて電位が変化する熱電対であってよい。
【0027】
インターフェース部47は、第1温度検出部30と電流生成部41との間および第1温度検出部30と第2温度補償電圧生成回路45との間に設けられる。例えば、インターフェース部47は、端子THMを介して、第1温度検出部30から入力された抵抗値を、電圧信号に変換し、発振回路100の内部温度Tthmを示すデータ(例えば、電圧信号)S1を生成し、電流生成部41および第2温度補償電圧生成回路45へ出力する。
【0028】
電流生成部41は、目標温度生成回路411と、差動増幅器412と、ヒータドライバ413と、を備える。電流生成部41は、インターフェース部47から入力された発振回路100の内部温度Tthmを示すデータS1に基づいて、発振回路100の内部温度Tthmと目標温度Tgtとが一致するように、ヒータ電流(例えば、数百[mA]程度)を生成する。電流生成部41は、ヒータ電流を、第1ヒータ20および第2ヒータ42へ供給する。目標温度Tgtは、環境温度Taより15℃程度高い温度で設定されることが好ましく、例えば、環境温度Taが105℃程度である場合、目標温度Tgtは、120℃程度で設定される。
【0029】
目標温度生成回路411は、環境温度Taを表す端子RHの電圧Vhに基づいて、目標温度Tgtを生成する。目標温度生成回路411は、目標温度Tgtを示すデータ(例えば、電圧信号)S2を生成し、差動増幅器412へ出力する。目標温度生成回路411は、例えば、近似N次関数発生回路、近似双曲線関数発生回路、近似シグモイド関数発生回路などであってよい。なお、近似N次関数発生回路の詳細については、特許第4070139号を参照できる。また、近似双曲線関数発生回路および近似シグモイド関数発生回路の詳細については、米国特許第10790831号を参照できる。
【0030】
例えば、目標温度生成回路411は、ヒータオン領域にて、環境温度Taが変化している状態で、該環境温度Taに対する発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotal(=ΔFxtl+ΔFIC-ΔFc)がゼロとなるように、目標温度Tgt(=発振回路100の内部温度Tthm)を生成する。
【0031】
図3Aに示されるような発振回路100における周波数変動の合計ΔF
totalがゼロとなるように目標温度T
gtがキャリブレーションされた場合における、環境温度Taと目標温度T
gtとの関係を示すデータは、記憶部50に記憶される。また、
図3Bに示されるような発振回路100における周波数変動の合計ΔF
totalがゼロとなるように目標温度T
gtがキャリブレーションされた場合における、環境温度Taと発振回路100における周波数変動の合計ΔF
totalとの関係を示すデータは、記憶部50に記憶される。
【0032】
目標温度Tgtが適切にキャリブレーションされることで、ヒータオン領域にて、環境温度Taが変化している状態で、共振子10の温度Txtlおよび発振回路100の内部温度Tthmの両者が変化しつつも、発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotalをゼロとすることができる。
【0033】
ここで、
図4Aおよび
図4Bを参照して、端子RHの電圧Vhが、環境温度Taを表す理由について簡単に説明する。
【0034】
発振回路100の内部電力P[W]は、電源電圧Vdd[V]と、電流生成部41から第1ヒータ20へ供給されるヒータ電流と電流生成部41から第2ヒータ42へ供給されるヒータ電流との和Ih[A]と、の積となる。このため、熱抵抗モデルを参照すると、次式が成立する。
【0035】
【0036】
θaは、第1温度検出部30から環境温度Taへ向けての熱抵抗[℃/W]である。
【0037】
ここで、電流生成部41から第1ヒータ20へ供給されるヒータ電流と電流生成部41から第2ヒータ42へ供給されるヒータ電流との和Ihは、第1ヒータ20の抵抗Rx、第2ヒータ42の可変抵抗RIC、端子RHの電圧Vhを用いて、次式で表せる。
【0038】
【0039】
式(4)および式(5)から、Ihを消去してVhについて解くと、次式が成立する。
【0040】
【0041】
式(6)から、端子RHの電圧Vhは、環境温度Taの1次式となることがわかる。つまり、目標温度生成回路411が、端子RHの電圧Vhに基づいて、目標温度Tgtを生成することは、目標温度生成回路411が、環境温度Taに基づいて、目標温度Tgtを生成することと等価であることがわかる。
【0042】
なお、目標温度生成回路411は、端子RHの電圧Vhに関して1次の目標温度Tgtを生成するのみならず、端子RHの電圧Vhに関してN(N≧1)次の目標温度Tgtを生成してもよい。
【0043】
差動増幅器412は、インターフェース部47から入力された発振回路100の内部温度Tthmを示すデータS1と目標温度生成回路411から入力された目標温度Tgtを示すデータS2との差分を増幅し、増幅信号(例えば、電圧信号)S3を生成する。差動増幅器412は、増幅信号S3を、ヒータドライバ413へ出力する。
【0044】
ヒータドライバ413は、差動増幅器412から入力された増幅信号S3に基づいて、ヒータ電流を生成し、該ヒータ電流を、第1ヒータ20および第2ヒータ42へ供給する。
【0045】
例えば、ヒータドライバ413は、第1ヒータ20および第2ヒータ42をオンさせる場合、第1ヒータ20および第2ヒータ42へヒータ電流を供給する。この場合、第1ヒータ20および第2ヒータ42は、発熱する。
【0046】
例えば、ヒータドライバ413は、第1ヒータ20および第2ヒータ42をオフさせる場合、第1ヒータ20および第2ヒータ42へヒータ電流を供給しない。この場合、第1ヒータ20および第2ヒータ42は、発熱しない。ヒータをオフさせる手段は、例えば、ヒータドライバ413の出力電流をゼロとするものでもよく、第1ヒータ20および第2ヒータ42の電流経路にスイッチを付加して、そのスイッチをオフとするものでもよい。
【0047】
第2ヒータ42は、電流生成部41から供給されるヒータ電流に基づいて、集積回路40を加熱する。第2ヒータ42は、集積回路40に内蔵または近接して設けられることが好ましい。第2ヒータ42は、一端がグランドと接続され、他端が端子RHを介して、電流生成部41と接続されている。第2ヒータ42は、例えば、抵抗値が変化する可変抵抗RICのヒータ抵抗であってよい。
【0048】
可変抵抗RICの抵抗値は、その値が特に限定されるものではなく、制御部200により、任意の値に設定されてよい。可変抵抗RICの抵抗値は、記憶部50に記憶される。可変抵抗RICの抵抗値が変化することで、共振子10および集積回路40に分配される電力の分配比も変化する。
【0049】
例えば、
図5Aに示すように、環境温度Taが一定の状態で、可変抵抗R
ICの抵抗値が大きい値(例えば、20Ω程度)に設定された場合、電流生成部41から第2ヒータ42へ供給されるヒータ電流の割合は、電流生成部41から第1ヒータ20へ供給されるヒータ電流の割合と比較して小さくなる。また、第2ヒータ42が集積回路40を加熱する割合(例えば、30%)も、第1ヒータ20が共振子10を加熱する割合(例えば、70%)と比較して小さくなる。この場合、発振回路100は、発振回路100の内部温度T
thmおよび共振子10の温度T
xtlを目標温度T
gtに一致させつつ、集積回路40の温度T
ICを低くするような温度制御を行うことができる。
【0050】
例えば、
図5Bに示すように、環境温度Taが一定の状態で、可変抵抗R
ICの抵抗値が小さい値(例えば、3.7Ω程度)に設定された場合、電流生成部41から第1ヒータ20へ供給されるヒータ電流の割合は、電流生成部41から第1ヒータ20へ供給されるヒータ電流の割合と比較して大きくなる。また、第2ヒータ42が集積回路40を加熱する割合(例えば、70%)も、第1ヒータ20が共振子10を加熱する割合(例えば、30%)と比較して大きくなる。この場合、発振回路100は、発振回路100の内部温度T
thmおよび共振子10の温度T
xtlを目標温度T
gtに一致させつつ、集積回路40の温度T
ICを高くするような温度制御を行うことができる。
【0051】
つまり、発振回路100において、第2ヒータ42における可変抵抗RICの抵抗値を適宜変化させることで、ヒータオン領域にて、環境温度Taが一定の状態で、共振子10の温度Txtlを略変化させずに、集積回路40の温度TICを大きく変化させることができる。これにより、発振回路100は、発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotal(=ΔFxtl+ΔFIC)のうち、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICのみを独立して補償するような温度補償成分を生成することができる。
【0052】
第2温度検出部43は、集積回路40の温度TICを検出する。第2温度検出部43は、集積回路40に内蔵または近接して設けられることが好ましい。第2温度検出部43は、集積回路40の温度TICを示すデータ(例えば、電圧信号)S4を生成し、第1温度補償電圧生成回路44へ出力する。第2温度検出部43は、例えば、公知の温度センサであってよい。
【0053】
第1温度補償電圧生成回路44は、第2温度検出部43から入力された集積回路40の温度TICを示すデータS4に基づいて、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICを補償するための温度補償成分である第1補償電圧V1を生成する。第1温度補償電圧生成回路44は、第1補償電圧V1を、発振器46へ出力する。
【0054】
例えば、ヒータオン領域にて、環境温度Taが一定の状態で、第1温度補償電圧生成回路44は、第2ヒータ42における可変抵抗RICの抵抗値が大きい値に設定された場合に、実測された発振器46における発振信号の周波数F1を示すデータ、第1温度検出部30により検出された発振回路100の内部温度Tthm1を示すデータS1、第2温度検出部43により検出された集積回路40の温度TIC1を示すデータS4を取得する。発振器46における発振信号の周波数F1は、集積回路40の温度TIC1に対する1次温度係数α、共振子10の温度Txtl1に対する1次温度係数βを用いて、次式で表される。
【0055】
【0056】
例えば、ヒータオン領域にて、環境温度Taが一定の状態で、第1温度補償電圧生成回路44は、第2ヒータ42における可変抵抗RICの抵抗値が小さい値に設定された場合に、実測された発振器46における発振信号の周波数F2を示すデータ、第1温度検出部30により検出された発振回路100の内部温度Tthm2を示すデータS1、第2温度検出部43により検出された集積回路40の温度TIC2を示すデータS4を取得する。発振器46における発振信号の周波数F2は、集積回路40の温度TIC2に対する1次温度係数α、共振子10の温度Txtl2に対する1次温度係数βを用いて、次式で表される。
【0057】
【0058】
第2ヒータ42における可変抵抗RICの抵抗値が、大きい値あるいは小さい値に切り替えられる際において、発振回路100の内部温度Tthmの変化は微小であることから、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlは、1次であるものと近似できる。したがって、集積回路40の温度TICに対する1次温度係数αは、式(7)および式(8)の連立方程式を解くことで、次式のように表される。
【0059】
【0060】
第1温度補償電圧生成回路44は、式(9)に基づいて、集積回路40の温度TICに対する1次温度係数αを算出し、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICを補償(ΔFIC=0)するための第1補償電圧V1を生成する。これにより、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICが最適調整される。
【0061】
なお、第2ヒータ抵抗における可変抵抗RICの抵抗値の切り替えは、2通りに限定されるものではなく、N(N≧2)通りであってもよい。N通りである場合、第1温度補償電圧生成回路44は、集積回路40の温度TICに対するN次温度係数αNを算出し、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICを補償するための第1補償電圧V1を生成すればよい。
【0062】
第2温度補償電圧生成回路45は、インターフェース部47から入力された発振回路100の内部温度Tthmを示すデータS1に基づいて、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを補償するための温度補償成分である第2補償電圧V2を生成する。第2温度補償電圧生成回路45は、第2補償電圧V2を、発振器46へ出力する。
【0063】
例えば、ヒータオフ領域にて、環境温度Taが変化している状態で、第2温度補償電圧生成回路45は、温度補償前に実測された発振器46における発振信号の周波数Fを示すデータ、第1温度検出部30により検出された発振回路100の内部温度T
thmを示すデータS1、発振回路100の内部温度T
thmと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlとの関係を示すデータ(
図6参照)を取得する。そして、第2温度補償電圧生成回路45は、次式で表される温度補償成分ΔF
Cを生成する。
図6に示されるような発振回路100の内部温度T
thmと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlとの関係を示すデータは、記憶部50に記憶される。
【0064】
【0065】
第2温度補償電圧生成回路45は、式(10)に基づいて、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを補償(ΔFxtl=0)するための第2補償電圧V2を生成する。これにより、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlが最適調整される。
【0066】
発振器46は、第1温度補償電圧生成回路44から入力された第1補償電圧V1、あるいは、第2温度補償電圧生成回路45から入力された第2補償電圧V2に基づいて、共振子10を発振させるための発振信号を生成する。発振器46は、供給される電圧に応じて、発振周波数を変化させる発振器であり、例えば、電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled XTAL Oscillator)であってよい。発振器46が、第1温度補償電圧生成回路44から入力された第1補償電圧V1、あるいは、第2温度補償電圧生成回路45から入力された第2補償電圧V2に基づいて、発振信号を生成することで、発振回路100は、共振子10および集積回路40の温度変化に起因する周波数変動が補償された高精度な発振周波数を有する発振信号を出力することができる。
【0067】
記憶部50は、例えば、不揮発性メモリ、ワンタイムメモリであってよい。記憶部50は、例えば、第2ヒータ42における可変抵抗RICの抵抗値、端子RHの電圧Vhを記憶してよい。記憶部50は、例えば、環境温度Taと目標温度Tgtとの関係を示すデータ、環境温度Taと発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotalとの関係を示すデータを記憶してよい。記憶部50は、例えば、発振回路100の内部温度Tthmと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係を示すデータを記憶してよい。記憶部50は、上述したデータの他、発振回路100の動作に用いられる任意のデータを記憶してよい。記憶部50は、インターフェース部60を介して、これらのデータが制御部200から入力される。なお、記憶部50に記憶される各種のデータは、適切に利用されることが好ましい。
【0068】
インターフェース部60は、記憶部50と制御部200との間に設けられ、通信インターフェースを提供する。インターフェース部60は、例えば、I2Cインターフェース、SPIインターフェースなどのシリアルインターフェースであってよい。
【0069】
制御部200は、各種のデータを設定する。例えば、制御部200は、可変抵抗RICの抵抗値を設定する。例えば、制御部200は、目標温度生成回路の出力ゲイン、2つの温度補償電圧生成回路の出力ゲインを設定する。制御部200は、インターフェース部60を介して、各種のデータを、記憶部50へ出力する。なお、温度センサモニタ用テストパスを通じて、端子RHの電圧Vh、発振回路100の内部温度Tthm、集積回路40の温度TIC、目標温度Tgtなどについては、制御部200を介して、モニタ可能である。
【0070】
第1実施形態に係る発振回路100は、電流生成部41、第1ヒータ20、第2ヒータ42、第1温度検出部30などを利用することにより、適切な温度制御を行い、2つの温度補償電圧生成回路を利用することにより、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlおよび集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICを補償するための温度補償成分を生成する。これにより、ヒータオフ領域のみならず、共振子10の温度Txtl、集積回路40の温度TIC、および発振回路100の内部温度Tthmが互いに一致しなくなるヒータオン領域においても、共振子10および集積回路40の温度変化に起因する周波数変動を十分に補償することができるため、周波数安定度の高い発振回路100を実現できる。
【0071】
〔発振回路の動作〕
図7を参照して、第1実施形態に係る発振回路100における温度補償方法の一例について説明する。
【0072】
<ヒータオン領域でのΔFICの補償>
ヒータオン領域にて、環境温度Taは一定の状態となっている。
【0073】
ステップS101において、第1ヒータ20および第2ヒータ42は、オンする。電流生成部41は、発振回路100の内部温度Tthmと目標温度Tgtとが一致するように、ヒータ電流を生成する。
【0074】
ステップS102において、第2ヒータ42は、可変抵抗RICの抵抗値が大きい値に設定される。第1温度補償電圧生成回路44は、集積回路40の温度TIC1を示すデータを、第2温度検出部43から取得する。
【0075】
ステップS103において、第2ヒータ42は、可変抵抗RICの抵抗値が小さい値に設定される。第1温度補償電圧生成回路44は、集積回路40の温度TIC2を示すデータを、第2温度検出部43から取得する。
【0076】
ステップS104において、第1温度補償電圧生成回路44は、発振器46における発振信号の周波数F1を示すデータ、発振回路100の内部温度Tthm1を示すデータ、集積回路40の温度TIC1を示すデータ、発振器46における発振信号の周波数F2を示すデータ、発振回路100の内部温度Tthm2を示すデータ、集積回路40の温度TIC2を示すデータに基づいて、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICがゼロとなるように、第1補償電圧V1を生成する。
【0077】
上述したステップS101からステップS104までの処理を経ることにより、集積回路40の温度変動因による周波数変動ΔFICを補償することができる。
【0078】
<ヒータオフ領域でのΔFxtlの補償>
ヒータオフ領域にて、環境温度Taは変化している状態となっている。
【0079】
ステップS105において、第1ヒータ20および第2ヒータ42は、オフする。第2温度補償電圧生成回路45は、発振回路100の内部温度Tthmを示すデータを、インターフェース部47から取得する。また、第2温度補償電圧生成回路45は、発振回路100の内部温度Tthm(=共振子10の温度Txtl)と共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係を示すデータを、記憶部50から取得する。
【0080】
ステップS106において、第2温度補償電圧生成回路45は、発振器46における発振信号の周波数Fを示すデータ、発振回路100の内部温度Tthmを示すデータ、発振回路100の内部温度Tthmに対する共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlの変化に基づいて、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlがゼロとなるように、第2補償電圧V2を生成する。
【0081】
上述したステップS105からステップS106までの処理を経ることにより、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを補償することができる。
【0082】
<ヒータオン領域でのΔFtotalの補償>
ヒータオン領域にて、環境温度Taは変化している状態となっている。
【0083】
ステップS107において、第1ヒータ20および第2ヒータ42は、オンする。目標温度生成回路411は、発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotalがゼロとなるように目標温度Tgtがキャリブレーションされた場合における、環境温度Taと目標温度Tgtとの関係(Ta-Tgt特性)を示すデータを、記憶部50から取得する。
【0084】
ステップS108において、発振回路100は、環境温度Taを表す端子RHの電圧Vhに基づいて、Ta-Tgt特性を用いて、目標温度Tgtを生成する。
【0085】
上述したステップS107からステップS108までの処理を経ることにより、ヒータを起点とした温度勾配発生によりTxtl≠Tthmであっても、発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotal(=ΔFxtl+ΔFIC-ΔFc)を補償することができる。
【0086】
第1実施形態に係る発振回路100における温度補償方法を適用することで、周波数安定度の高い発振回路100を実現できる。
【0087】
<第2実施形態>
図8A乃至
図10Bを参照して、第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法の一例について説明する。
【0088】
第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法が、第1実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と異なる点は、第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法は、任意の環境温度で、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを完全補償(ΔFxtl=ΔFC)できる点である。なお、その他の方法は第1実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と同じであるため、重複した説明を省略する。
【0089】
任意の環境温度で、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを完全補償するための必要条件は、境界温度Tzと極小温度Tpとが一致すること(Tz=Tp)であり、これについて説明する。極小温度Tpは、共振子の温度Txtlと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係を示すグラフにおいて、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlが極小となるときの共振子の温度Txtlを意味する。
【0090】
完全補償の解が、Tp=Tzとは限らず、Tp≠Tzのつもりで、ΔF
xtl=ΔF
Cとなる解を探す。
図8Aおよび
図8Bに示すように、(a)→(b)→(c)→(d),(a)’→(b)’→(c)’→(d)’の全てで、ΔF
xtl=ΔF
Cが成立するように、式を解いていく。
【0091】
共振子10の温度Txtlは、発振回路100における温度制御により、極小温度Tpの周辺において、極小温度Tp周辺の狭い範囲の温度となる。このため、共振子の温度Txtlと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係を示すグラフは、偶関数(例えば、2次関数)で近似される。共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlは、次式のように表せる。
【0092】
【0093】
ヒータオフ領域では、ヒータを中心とした温度勾配がゼロとなりTxtl=Tthmの状態で、ΔFxtl=ΔFCとなるように、温度補償成分が最適調整される。
【0094】
式(11)の左辺のΔFxtlをΔFCに置き換え、式(11)の右辺のTxtlをTthmに置き換えると、温度補償成分ΔFCは、次式で表せる。
【0095】
【数12】
ここで、式(12)を、(T
thm-Tp)に関する式ではなく、(T
thm-Tz)に関する式に直すことを考え、式(12)を展開すると、次式を得られる。
【0096】
【数13】
式(13)を、(T
thm-Tz)に関する2次式に変形すると、次式を得られる。
【0097】
【0098】
【0099】
ヒータオン領域にて、任意の環境温度Taで、ΔFxtl=ΔFCを成立させるためには、発振回路100の内部温度Tthmは、Tthm<Tz<Txtlを満たすように、温度制御されればよい。これは、第1ヒータ20が第1温度検出部30と比較して共振子10に近く、ヒータオン領域では、必ず、Txtl>Tthmが成立するためである。式(11)の右辺と式(14)の右辺が等しいとして得られる等式に対して、両辺をA2で割ると、次式を得られる。
【0100】
【0101】
ここで、発振回路100の内部温度T
thm、共振子10の温度T
xtl、および環境温度Taは、
図9Aおよび
図9Bに示すように、熱抵抗モデルで関係付けられる。
【0102】
熱抵抗モデルより、(Tthm-Ta):(Txtl-Tthm)=θa:α×θaが成立するため、Txtlについて解くと、次式を得られる。
【0103】
【0104】
式(17)を、式(16)に代入して、Txtlを消去すると、次式を得られる。
【0105】
【0106】
Tthmについて整理すると、次式を得られる。
【0107】
【0108】
式(19)は、発振回路100の内部温度Tthmに関する2次方程式となるため、これを解くと、次式を得られる。
【0109】
【0110】
2つの解のうち、一方は式(20)において、±を+とした場合であり、Tthm=Taとなる。しかしこれは、内部温度Tthmが環境温度Taと一致しておりヒータによる発熱量がゼロである事を示す。すなわちヒータがオンである事と矛盾し、実際の解とはならない。もう一方の解が求めるべき解であり、次式を得られる。
【0111】
【0112】
式(21)を、式(17)に代入すると、次式を得られる。
【0113】
【0114】
式(21)、式(22)から、発振回路100の内部温度Tthmと共振子10の温度Txtlとの平均値は、次式で表せる。
【0115】
【0116】
図10Aに示すように、発振回路100の内部温度T
thmの環境温度Taに対する傾きと共振子10の温度T
xtlの環境温度Taに対する傾きとは、絶対値が等しく、極性が逆向きとなる。
【0117】
したがって、
図10Bに示すように、任意の環境温度で、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlを完全補償(ΔF
xtl=ΔF
C)するためには、境界温度Tzと極小温度Tpとが一致すること(Tz=Tp)であることがわかる。発振回路100は、境界温度Tzと極小温度Tpとが一致した状態で、環境温度Taに対して、発振回路100の内部温度T
thmを1次で温度制御すればよい。
【0118】
第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法によれば、任意の環境温度で、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを完全補償することができる。これにより、周波数安定度の非常に高い発振回路100を実現できる。
【0119】
<第3実施形態>
図11および
図12を参照して、第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法の一例について説明する。
【0120】
第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法が、第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と異なる点は、第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法は、境界温度Tzと極小温度Tpとが一致しない点である。なお、その他の方法は第2実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と同じであるため、重複した説明を省略する。
【0121】
境界温度Tzと極小温度Tpとが一致しない場合において、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを補償する方法について説明する。
【0122】
図11に示すように、ヒータオフ領域では((a)→(b))、発振回路100は、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlを補償するための温度補償成分ΔF
Cを生成する。
【0123】
図11に示すように、ヒータオン領域では((b)→(c))、発振回路100は、発振回路100の内部温度T
thmと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlとの関係を示すグラフが、発振回路100の内部温度T
thmが境界温度Tzとなる(b)点において滑らかな関数(例えば、3次関数)となるように、発振回路100の内部温度T
thmを温度制御する。そして、発振回路100は、該関数に基づいて、温度補償成分ΔF
Cを生成する。
【0124】
ところで、
図12に示すように、発振回路100の内部温度T
thmと傾きdΔF
c/dT
thmとの関係を示すグラフ上で、発振回路100の内部温度T
thmが境界温度Tzとなる傾きdΔF
c/dT
thmにおいて不連続点が発生すると、温度補償後に、大きな残差エラー成分が発生する、あるいは、温度変化に起因する周波数安定度が劣化するなどの不具合が生じる。しかしながら、第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法によれば、
図11に示すように、発振回路100の内部温度T
thmと傾きdΔF
c/dT
thmとの関係を示すグラフ上で、発振回路100の内部温度T
thmが境界温度Tzとなる傾きdΔF
c/dT
thmにおいて不連続点が発生しないため、このような不具合を回避することができる。
【0125】
なお、第3実施形態では、極小温度Tpが境界温度Tzより大きい場合を一例に挙げて説明したが、極小温度Tpが境界温度Tz以下の場合であっても、同様の温度補償方法を適用できることは勿論である。
【0126】
第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法によれば、境界温度Tzと極小温度Tpとを一致させなくても、発振回路100における周波数変動の合計ΔFtotal(=ΔFxtl-ΔFc)をゼロとすることができる。これにより、極小温度Tpの個体ばらつきに対する耐性が上がるため、量産性を向上させることができる。
【0127】
<第4実施形態>
図13Aおよび
図13Bを参照して、第4実施形態に係る発振回路100における温度補償方法の一例について説明する。
【0128】
第4実施形態に係る発振回路100における温度補償方法が、第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と異なる点は、第4実施形態に係る発振回路100における温度補償方法は、境界温度Tzが環境温度の最大値Ta_MAXと一致する点である。なお、その他の方法は第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法と同じであるため、重複した説明を省略する。
【0129】
図13Aに示すように、第3実施形態に係る発振回路100における温度補償方法では、境界温度Tzが環境温度の最大値Ta_MAXより低くなるように設定されている。
【0130】
一方、
図13Bに示すように、第4実施形態に係る発振回路100における温度補償方法では、境界温度Tzが環境温度の最大値Ta_MAXと一致するように設定されている。
【0131】
第4実施形態に係る発振回路100における温度補償方法によれば、境界温度Tzが環境温度の最大値Ta_MAXと一致することで、通常動作する環境温度においてはヒータオン領域のみでの動作となる。これにより、境界温度Tz近傍における発振回路100の内部温度Tthmの微調整などを回避することができるため、簡易な温度補償が可能な発振回路100を実現できる。
【0132】
<第5実施形態>
第5実施形態では、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを利用して、任意の環境温度Taにおける共振子10の温度Txtlを推測する推測方法について説明する。
【0133】
まず、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICの補償については、発振回路100は、第1実施形態と同様の温度補償を行う。
【0134】
次に、発振回路100は、ヒータオフ状態にて、環境温度Taが変化している状態で、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを測定する。同時に、発振回路100は、集積回路40の温度TICおよび発振回路100の内部温度Tthmを測定し(TIC=Txtl=Tthm)、共振子10の温度Txtlと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係に基づいて、N次関数などで近似関数を算出する。
【0135】
次に、発振回路100は、ヒータオン状態にて、環境温度の最小値Ta_minにおいて、共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔF
xtlを測定し、算出した近似関数に基づいて、共振子10の温度T
xtlを算出する。同時に、発振回路100は、発振回路100の内部温度T
thmを測定し、熱抵抗モデル(
図9A参照)から導出される次式を用いることで、熱抵抗比αを算出する。
【0136】
【0137】
環境温度の最小値Ta_minを用いるのは、発振回路100の内部温度Tthmと環境温度Taとの差および共振子10の温度Txtlと環境温度Taとの差が最も大きくなるため、熱抵抗比αを精度良く算出することができるためである。
【0138】
発振回路100は、式(24)に基づいて算出された熱抵抗比αを用いることで、任意の環境温度Taにおける共振子10の温度Txtlを算出することができる。さらに、発振回路100は、共振子10の温度Txtlと共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlとの関係に基づいて算出された近似関数を用いることで、任意の環境温度Taにおける共振子10の温度変化に起因する周波数変動ΔFxtlを算出することもできる。
【0139】
第5実施形態に係る推測方法によれば、任意の環境温度Taにおける共振子10の温度Txtlを推測することができる。第5実施形態に係る推測方法を、上述した各実施形態に係る発振回路100における温度補償方法に適用することで、発振回路100は、発振回路100の内部温度Tthmの温度制御を簡易的に行うことができる。
【0140】
<変形例>
上述した各実施形態では、集積回路40が、電流生成部41と、第2ヒータ42と、第2温度検出部43と、第1温度補償電圧生成回路44と、第2温度補償電圧生成回路45と、発振器46と、インターフェース部47と、記憶部50と、インターフェース部60と、を備える構成を一例に挙げて説明したが、集積回路40は、当該構成に限定されない。
【0141】
例えば、集積回路40は、電流生成部41と、第2ヒータ42と、第2温度検出部43と、第1温度補償電圧生成回路44と、発振器46と、インターフェース部47とを備える構成であってもよい。集積回路40が当該構成を有する場合、発振回路100は、集積回路40の温度変化に起因する周波数変動ΔFICをゼロとするような温度補償を行うことができる。
【0142】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。また、実施形態のフローチャートに記載の複数の工程を1つに組み合わせたり、あるいは1つの工程を分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0143】
10 共振子
20 第1ヒータ
30 第1温度検出部
40 集積回路
41 電流生成部
42 第2ヒータ
43 第2温度検出部
44 第1温度補償電圧生成回路
45 第2温度補償電圧生成回路
46 発振器
47 インターフェース部
50 記憶部
60 インターフェース部
100 発振回路
411 目標温度生成回路
412 差動増幅器
413 ヒータドライバ