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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103915
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】慣性センサ付き測定器ユニット
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/20 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
G01B5/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004721
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺口 幹也
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝三郎
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA51
2F062CC07
2F062DD10
2F062DD34
2F062EE01
2F062FF02
2F062FF25
2F062GG18
2F062GG90
2F062HH05
(57)【要約】
【課題】手軽で便利という利点は活かしながら更なる機能向上を達成した小型測定器を提供する。
【解決手段】小型測定器100に慣性センサ200を付設し、慣性センサ200のセンサ検出値に基づいて、測定器100の移動量、および、傾き変化量、の少なくとも一つを求める。測定器100が測定対象物の表面に沿って移動するとき、測定器100による測定値と、測定器100の移動量および傾き変化量の少なくとも一つと、を同期して記録する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面に垂直な測定方向を持つ一軸の測定軸を有する測定器と、
前記測定器と一体的に移動するように取り付けられる慣性センサと、
前記慣性センサのセンサ検出値に基づいて、前記測定器の前記測定対象物の表面に沿う方向の測定器の移動量、および、前記測定器の傾き変化量、の少なくとも一つを求める測定器変動量算出部と、を備える
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の慣性センサ付き測定器において、
さらに、
前記測定器が前記測定対象物の表面に沿って移動するとき、前記測定器による前記測定値と、前記測定器変動量算出部にて算出された測定器の移動量および傾き変化量の少なくとも一つと、を同期して記録する測定記録部を備える
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項3】
請求項2に記載の慣性センサ付き測定器ユニットにおいて、
慣性センサのセンサ検出値に基づいて測定器に望ましくない衝撃が掛かったことを検知した場合、
前記測定記録部において、測定値の記録とともに測定器に望ましくない衝撃が掛かったことが合わせて記録される
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の慣性センサ付き測定器ユニットにおいて、
前記測定器変動量算出部は、前記慣性センサのセンサ検出値に基づいて前記測定器の傾き変化量を求めるものであり、
さらに、
測定対象物の測定対象面に対して適切な測定を行うための測定器の姿勢が基準姿勢として設定されるとともに、
前記基準姿勢からの傾き変化量を差分姿勢として算出する差分姿勢算出部を備える
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の慣性センサ付き測定器ユニットにおいて、
前記測定器による測定値と、前記差分姿勢と、が合わせて記録される
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の慣性センサ付き測定器ユニットにおいて、
前記基準姿勢は、自分自身以外である他の慣性センサ付き測定器ユニットの姿勢を基準として設定される
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の慣性センサ付き測定器ユニットにおいて、
さらに、モード切替制御部を備え、
前記モード切替制御部には、前記測定器の動きのパターンと切り替わるモードとの組みあわせが設定されており、
前記慣性センサによるセンサ検出値に基づく動きのパターンの検出に応じて、前記モード切替制御部は前記測定器のモードを切り替える
ことを特徴とする慣性センサ付き測定器ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の形状測定に使用される小型測定器として例えば、ダイヤルゲージやてこ式ダイヤルゲージがある。これら小型測定器は、主としてユーザが手で保持したりあるいは簡易式のスタンドに設置して手軽に測定対象物の変位、寸法(高さ、幅)を測定することができ、更に基準面にならわせることで表面性状や輪郭形状を測定することも出来るので多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3675587
【特許文献2】特許6447997
【特許文献3】WO2017/150222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記小型測定器は手軽で便利という利点があるが、測定対象物の表面を測定するための測定対象面に垂直な一軸の測定軸を有するのみであるため、例えば、測定器を測定対象面に沿って倣い移動させたときの測定器の移動量や位置については測定値としては得られない。実際の現場では、ユーザ(測定者)の勘、感覚、記憶を頼りに、測定器の横方向の移動量を手作業で記録し、測定物表面の凹凸、うねり、湾曲などの表面プロファイルを測定記録データとして記録したりしている。しかしながら、このような手作業による記録作業では測定効率が上がらないし、測定値の記録データとしても測定器の横方向の移動量や位置については人による誤差が大きいという問題がある。
【0005】
製造現場における人手不足やコスト削減に貢献するため、小型測定器にあっても手軽で便利という利点は活かしながら更なる機能向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の慣性センサ付き測定器は、
測定対象物の表面に垂直な測定方向を持つ一軸の測定軸を有する測定器と、
前記測定器と一体的に移動するように取り付けられる慣性センサと、
前記慣性センサのセンサ検出値に基づいて、前記測定器の前記測定対象物の表面に沿う方向の測定器の移動量、および、前記測定器の傾き変化量、の少なくとも一つを求める測定器変動量算出部と、を備える
ことを特徴とする。
【0007】
本発明の一実施形態では、
さらに、
前記測定器が前記測定対象物の表面に沿って移動するとき、前記測定器による前記測定値と、前記測定器変動量算出部にて算出された測定器の移動量および傾き変化量の少なくとも一つと、を同期して記録する測定記録部を備える
ことが好ましい。
【0008】
本発明の一実施形態では、
慣性センサのセンサ検出値に基づいて測定器に望ましくない衝撃が掛かったことを検知した場合、
前記測定記録部において、測定値の記録とともに測定器に望ましくない衝撃が掛かったことが合わせて記録される
ことが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態では、
前記測定器変動量算出部は、前記慣性センサのセンサ検出値に基づいて前記測定器の傾き変化量を求めるものであり、
さらに、
測定対象物の測定対象面に対して適切な測定を行うための測定器の姿勢が基準姿勢として設定されるとともに、
前記基準姿勢からの傾き変化量を差分姿勢として算出する差分姿勢算出部を備える
ことが好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態では、
前記測定器による測定値と、前記差分姿勢と、が合わせて記録される
ことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態では、
前記基準姿勢は、自分自身以外である他の慣性センサ付き測定器ユニットの姿勢を基準として設定される
ことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態では、
さらに、モード切替制御部を備え、
前記モード切替制御部には、前記測定器の動きのパターンと切り替わるモードとの組みあわせが設定されており、
前記慣性センサによるセンサ検出値に基づく動きのパターンの検出に応じて、前記モード切替制御部は前記測定器のモードを切り替える
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】慣性センサ付き測定器ユニットを用いた表面形状測定装置の一例を示す図である。
図2】6軸の慣性センサを例示した図である。
図3】測定器の測定値と測定器の位置情報とを合わせて記録する制御回路の機能ブロック図の一例を示す図である。
図4】測定で得られた表面プロファイルの一例を示す図である。
図5】第3実施形態において、表面性状測定用の治具に測定器ユニットをセットした状態の一例を示す図である。
図6】測定器ユニットに外径測定用のアクセサリー治具を取り付けた例を示す図である。
図7】簡易小型式の粗さ測定器を例示した図である。
図8】第7実施形態において、シリンダーゲージの測定姿勢を説明するための図である。
図9】第8実施形態において、測定対象面に対して測定軸が垂直になるようにダイヤルゲージをスタンドにセットする手順を説明するための図である。
図10】第9実施形態において、複数台の測定器をスタンドにセットする様子を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を説明する。
図1は、慣性センサ付き測定器ユニットを用いた表面形状測定装置の一例である。
慣性センサ付き測定器ユニットは、測定器100に慣性センサ200(図2)を付設したものである。
(なお、後述のように、慣性センサ200が測定器100に直に付設されている場合の他、慣性センサ200が測定器100に間接的に取り付けられていて慣性センサ200と測定器100とが一体的に移動するようになっていてもよい。)
本発明は、主として、慣性センサ200が付設された測定器100を主題とするものであり、したがって、本明細書では、慣性センサ200付き測定器ユニットを単に測定器ユニット100と呼称することがある。
【0015】
本実施形態において慣性センサ200が付設される測定器100としては、主としてユーザが手で保持したりあるいは簡易式のスタンドに設置して手軽に測定対象物の表面性状、輪郭形状、寸法(例えば比較測長による高さや幅)測定を行うような小型の測定器を想定する。このような測定器としては、例えば、ダイヤルゲージ、てこ式ダイヤルゲージがある。(この種の測定器の呼び方としては、インジケータ、テストインジケータ、デジタルインジケータ、デジタルテストインジケータ、リニアゲージ、ハイトゲージなどとも呼称される。)
【0016】
これら小型の測定器100は、先端に接触子120を有するスピンドル110(測定子あるいはスタイラス)と、スピンドル110の直線変位あるいは回転量を検出する検出器130(リニアエンコーダあるいはロータリーエンコーダ)と、を有する。検出器で読み取った接触子120の変位に基づいて測定対象物の表面性状、輪郭形状、寸法を測定する。
【0017】
図1では、測定器100としててこ式ダイヤルゲージを用い、てこ式ダイヤルゲージ100に慣性センサ200を付設している。なお、てこ式ダイヤルゲージに代えて、例えば、ダイヤルゲージ(インジケータ)を使用しても同等の作用効果が得られる。慣性センサ200は、てこ式ダイヤルゲージ(測定器)の筐体内において他の電子部品と合わせて内蔵するように実装・組付けられていてもよい。あるいは、慣性センサ200は、てこ式ダイヤルゲージ(測定器)の付属オプションとして後から着脱(貼り付けたり、スロットに差し込んだり)できるようになっていてもよい。慣性センサ200自体は既知のものであり、図2に例示のように、例えば6軸の慣性センサ200(3軸ジャイロセンサ+3軸加速度センサ)が一つのチップに集積化されたものが知られている。
【0018】
なお、この第1実施形態では測定対象物の表面に沿った方向の移動(例えば横方向の移動)だけを検出できればよいから、極端にいうと、測定器100の一方向の移動(例えば横方向)を検出する方向に一軸の加速度センサがあればよい。ただ、測定時における測定器100の移動方向の自由度を確保するため、スピンドル110(測定子)の回転軸を含む平面内(すなわち測定軸の方向に垂直な平面内)の二方向の加速度を検出できる二軸の加速度センサがあるとよい。もちろん、3軸加速度センサを使ってもよいし、6軸の慣性センサ200を使用すればなおよいが、これらは部品コストとの兼ね合いである。
【0019】
図3において、測定器の測定値と測定器の位置情報とを合わせて記録する制御回路150を説明する。
制御回路150は測定器のなかに他の電子部品と合わせて内蔵するように実装・組付けられている。なお、測定器の計測データ(測定値や慣性センサ200の検出値)は無線や有線で他の端末(例えば小型パソコンやタブレット端末など)に転送された後、他の端末で演算処理や記録処理が行われてもよいものであるからこの制御回路150に相当するものが他の端末に設けられていてもよい。
【0020】
制御回路150の動作の一例を説明する。
接触子120の変位は測定器の変位センサ(例えばエンコーダ)130で検出され、接触子120の変位データ(測定値)として制御回路150に送られる。慣性センサ200によるセンサ検出値(加速度検出値)も制御回路150に送られる。センサ検出値(加速度検出値)は、制御回路150中の演算部160(測定器変動量算出部)において演算(二回の積分)により、測定器100の移動量、つまり、測定器100の位置情報に変換される。記録部170は、接触子120の変位データ(測定値)と、測定器100の位置情報と、を合わせて記録していく。このとき、接触子120の変位データ(測定値)と、測定器100の位置情報と、を同期させるにあたっては、時間で同期をとってもよい。例えば、所定時間間隔(例えば1秒ごと)で接触子120の変位データ(測定値)と測定器100の位置情報とをサンプリングして記録してもよい。あるいは、測定器100の位置情報を基準として、所定の測定器の移動間隔(例えば1mmごと)に測定値をサンプリングして記録するようにしてもよい。
【0021】
図1において、測定対象は、平坦に加工された測定対象物の表面性状であるとする。
例えば、搬送手段(例えばベルトコンベア)により次々に送られてくる測定対象物を全てまたはサンプリングして測定していくとする。測定対象物に隣接して簡易的なガイドスライダー300が設置されている。ガイドスライダー300は、ガイドレール310(リニアガイド)と、ガイドレール310に摺動可能に設けられたスライダ320と、を有する。スライダ320は、人が手で(手動で)動かすものであることを想定しているが、人手ではなく例えばモータの動力によって自動的にスライド駆動制御されるようになっていてもよい。連結棒330の先端に測定器ユニット(慣性センサ付きてこ式ダイヤルゲージ)100を保持させ、連結棒330の基端をスライダ320に固定する。この状態で測定器ユニット(慣性センサ付きてこ式ダイヤルゲージ)100はガイドスライダー300に案内されて測定対象物の表面に対して平行に移動する。
【0022】
なお、本実施形態においては、慣性センサ200を測定器100に取り付けるのではなく、スライダ320の方に慣性センサ200を設置するようにしてもよい。
【0023】
測定器ユニット100が測定対象物の表面に対して平行に移動(倣い測定)するときの接触子120の上下動を記録することにより、測定対象物の表面形状(うねり、凹凸、粗さ、あるいは、ガイドレールに対する平行度など)を測定することができる。図4はこのようにして取得された表面プロファイルの例である。すなわち、測定対象物の表面形状として測定位置とその地点での凹凸データとが対になった測定表面プロファイルが得られる。
【0024】
ここで、測定位置とその地点での凹凸データとが対になった測定表面プロファイルを得るには、例えば、ガイドレール上のスライダ320の位置を検知できるようにリニアエンコーダをガイドスライダー300に取り付けるという考え方もある。しかし、長尺のリニアエンコーダは精度、分解能が高い分やはり高価であるし、ICワンチップで構成される慣性センサ200に比べると大がかりであるしスペースも必要である。
【0025】
したがって、従来、てこ式ダイヤルゲージ(やダイヤルゲージ)を用いて簡易的に測定対象物の表面プロファイルの測定値を記録するにあたっては、測定位置の情報を欠いた測定値のデータ列を記録しておくか、あるいは、人が測定器を所定量移動させ、そこで測定値を記録し、また所定量移動させて測定値を記録していく、といった方法がとられていた。この点、本実施形態によれば、低コストで簡便な方法でありながら、測定位置とその地点での凹凸データとが対になった測定対象物の表面測定プロファイルが得られる。
【0026】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では測定対象物の表面の一方向の倣い測定データを得たが、第2実施形態として、測定対象物の表面を二次元的に倣い測定することとしてもよい。構造的には、一軸ガイドスライダー300を複数(例えば2つ)組み合わせて、二次元的移動をガイドする二次元ガイドスライダー300を構成すればよい。そして、演算部160(測定器変動量算出部)において、二方向のセンサ検出値(加速度検出値)をそれぞれ二回積分して、測定対象物の表面に平行な二次元平面における位置(例えばx、y)を求めるようにすればよい。
【0027】
(第3実施形態)
第1実施形態では測定器(測定器ユニット)を測定対象物の表面に沿って移動させる治具としてガイドスライダー300を用いたが、第3実施形態として、例えば図5に例示のような治具410に測定器(測定器ユニット)を保持した状態で測定器を測定対象物の表面に沿って移動させるとしてもよい。治具410は、3点または4点の脚で測定対象物の表面に載置され、測定器(測定器ユニット)100のスピンドル110(測定子)が測定対象物の表面に対して垂直な姿勢になるように測定器を保持する。この治具410に保持された状態の測定器(測定器ユニット)を測定対象物の表面に沿って移動させながら、加速度データに基づく測定器の位置情報と、測定器の接触子120の上下動と、を記録することにより、例えば測定対象物の表面形状の粗さやうねりを測定することができる。(例えば治具410の脚の間隔を適切に設計しておけば、表面のうねりや湾曲の程度も測定できる。)
【0028】
(第4実施形態)
上記実施形態では測定対象物が平面である場合を例示したが、例えば、第4実施形態として、図6に例示のように、測定対象物が円柱、円筒、球の形状であってもよい。
図6は、ダイヤルゲージ(測定器ユニット)100に外径測定用のアクセサリー治具420を取り付けた例である。
ここでは、測定器(測定器ユニット)100の姿勢(角度)と測定値とを同期させて記録することを企図するので、慣性センサ200としてジャイロセンサであることが好ましい。図6では、外径測定用のアクセサリー治具420として所定角度に脚が開いた治具420を例示するが、外径測定用のアクセサリー治具420としては他にもある。また、外径測定に限らず、内径測定用の治具を用いれば本実施形態は内径測定にも応用できる。
【0029】
治具付きの測定器ユニットを測定対象物の外側に沿って滑らせていく。このとき、慣性センサ200のセンサ検出値として得られる角速度を演算部160(測定器変動量算出部)で積分すれば、測定器ユニット100の姿勢(傾き角度)が得られる。そこで、記録部170は、接触子120の変位データ(測定値)と、測定器の姿勢(角度)情報と、を合わせて記録していく。このとき、接触子120の変位データ(測定値)と、測定器の姿勢(角度)情報と、を同期させるにあたっては、時間で同期をとってもよい。例えば、所定時間間隔(例えば1秒ごと)で接触子120の変位データ(測定値)と測定器の姿勢(角度)情報とをサンプリングして記録してもよい。あるいは、測定器の姿勢(角度)情報を基準として、所定の測定器の角度間隔(例えば10°や45°)ごとに測定値をサンプリングして記録するようにしてもよい。
【0030】
なお、治具付きの測定器ユニットを円柱、円筒、球の測定対象物表面に沿って滑らせるとしたが、第1、第2実施形態で説明したようにガイドレール310を用いてもよい。測定対象物の形状(曲率)にあわせて円形や湾曲したガイドレール310と、このガイドレール310に沿って摺動するスライダ320と、を用意すればよい。
【0031】
また、第4実施形態ではジャイロセンサで測定器の姿勢(角度)を求めることを例示したが、3軸加速度センサも合わせもっていてもよい。この場合、加速度データから測定器の大まかな位置もわかるのであり、測定データと測定器の位置が合わせて記録されていれば、測定対象物のおおまかな直径値や、測定値が測定対象物のどの箇所の測定値であるかがすぐわかるので便利である。
また、3軸加速度センサから測定器の姿勢(角度)を求めるようにしてもよい。
【0032】
(第5実施形態)
ここまで第1~第4実施形態では、測定対象物の表面に垂直な「一軸の測定軸」だけ、つまり、測定方向が一方向だけの簡易測定器100と慣性センサ200との組み合わせを例示したが、簡易な小型測定器として、例えば二軸を有するものもある。例えば図7は、簡易小型式の粗さ測定器500である。粗さ測定器500は、揺動可能に支持されたアーム510の先端にスタイラス520を有し、さらに、アーム510を一軸方向に進退させる機能530を有する。これにより測定対象物表面のある一方向に沿った表面粗さを知ることはできるが、測定対象物表面の粗さを2次元的なデータとして記録することはできない。
【0033】
そこで、この可搬式の表面性状測定器(粗さ測定器500)に慣性センサ200を取り付けて慣性センサ付き測定器ユニット500とする。測定対象物表面の所望の位置にこの測定器ユニット500を載置し、アーム510を進退させて測定対象物表面の一方向に沿った表面粗さデータを得る。
次に、測定器ユニットを例えば手で移動させ、同様に表面粗さを測定する。このとき、測定器ユニット500の位置(移動量)(および向き)は慣性センサ200により得られるから、測定器500の位置情報(および走査方向)とともに粗さ測定データを記録することにより測定対象物表面の粗さを2次元的なデータとして得ることができる。
【0034】
(第6実施形態)
上記第1~第5実施形態では慣性センサ200を利用した測定データの記録方式について説明したが、第6実施形態としては、測定の良否判定に慣性センサ200を用いる例を説明する。
第6実施形態では、慣性センサ200を測定器100に直に付設しておき、慣性センサ200のセンサ検出値を常にモニタし、測定器100に望ましくない衝撃が掛かったことを慣性センサ200のセンサ検出値から検知するものとする。加速度や速度の閾値(複数段階の閾値を設定してもよい)を設定しておくことで測定器100に掛かった力が規定値を超えているかどうか判定するようにしてもよい。(このような閾値の設定記憶は制御回路150内の記憶部(例えばRAM)に設定しておくことができる。)
【0035】
測定データを測定器100の位置または姿勢の情報と合わせて記録している最中に、規定以上の衝撃の検出の有無についても合わせて記録していく。あるいは、所定時間間隔(例えば1秒間隔)で測定器の位置あるいは姿勢を測定記録部170に記録している場合には、測定記録部170に記録された測定器100の移動または傾き変化から単位時間当たりの変化量を算出することで測定器100に掛かった力が規定値を超えているかどうか判定するようにしてもよい。これにより、例えば、後日に測定データの検証が必要になった際に測定データの良否についても合わせて検証できるようになる。
【0036】
(第7実施形態)
上記第1~第5実施形態では慣性センサ200を利用した測定データの記録方式について説明したが、第7実施形態としては、測定器の測定姿勢の判定に慣性センサ200を用いる例を説明する。
第7実施形態としては、測定器が内径測定器600である場合を例に説明する。
内径測定器600は、ホールテスト、ボアマチック、シリンダーゲージなどと呼称されることもある。
ここでは、図8のシリンダーゲージ600を例に説明する。
シリンダーゲージ600は、途中に握り部620を有する長筒部610と、長筒部610の一端に設けられた測定ヘッド部630と、長筒部610の他端に保持された測定器本体部660と、を有している。測定ヘッド部630には穴の内壁に向けて進退するように設けられたスピンドル(測定子)640が設けられ、このスピンドル(測定子)640の変位を直角方向のロッド650の変位として測定器本体部660で検出するものである。シリンダーゲージ600の使用にあたって穴の形状(直径)を正確に得るには、スピンドル(測定子)640を穴の内壁に馴染ませるように長筒部610を左右に何度か動かした後、長筒部610と穴の中心線とが一致した状態で測定値を得る必要がある。このとき長筒部610が穴の中心線に一致しているかどうかの参照ガイドとしてシリンダーゲージ600の角度がユーザに示されるようにすると便利である。
【0037】
そこで第7実施形態としては、測定器本体部660あるいは長筒部610に慣性センサ200(少なくともジャイロセンサを有する)を付設しておく。そして、測定対象の穴に応じてシリンダーゲージ600の基準姿勢(角度)を設定しておく。例えば測定対象物(ワーク)の設計データに基づき、測定時の測定対象の穴が鉛直方向であることがわかっているとする。このとき、シリンダーゲージ600の測定時の基準姿勢として鉛直方向であることを設定しておく。(このような基準姿勢の設定記憶は制御回路150内の記憶部(例えばRAM)に設定しておくことができる。)
【0038】
もちろん、穴が水平でもよいし鉛直方向に対して45°でもよい。設計データが無いあるいは使い難いとすれば、マスターワークの穴にシリンダーゲージ600を正しく差し込んだ状態で基準姿勢(角度)を求めるようにしてもよい。(長筒部610を振ってみて、最小の測定値(直径値)が得られるとき、その姿勢が基準姿勢である。)
【0039】
慣性センサ200のセンサ検出値として得られる角速度を演算部160(測定器変動量算出部)で積分すれば、測定器ユニット(シリンダーゲージ600)の姿勢(傾き角度)が得られるから、測定器ユニット(シリンダーゲージ600)の姿勢(傾き角度)と基準姿勢との差分である差分姿勢を算出し、これを表示部670に示し、ユーザの参照ガイドとする。
このような参照ガイドがユーザに提供されることにより測定姿勢のズレによる測定誤差が小さくなる。また、従来のように長筒部610を左右に振りながら正しい姿勢を探る場合に比べて測定作業の効率が格段に向上することも期待できる。
【0040】
(第8実施形態)
第8実施形態として、測定器の測定姿勢の判定に慣性センサ200を用いる別の例を説明する。
ダイヤルゲージやてこ式ダイヤルゲージにおいては、測定対象面に対して測定軸が垂直になるように測定器を設置しなければならない。しかし、測定器(例えばダイヤルゲージ)をスタンド700に取り付けたときに、測定対象面に対する測定器100の姿勢が正しいか(測定対象面に対して測定軸が垂直になっているかどうか)は、直角ガイドなどの基準器も使い難いため、測定者の判断による。
【0041】
そこで、測定対象面に対する測定器100の姿勢が正しいかどうかの参照ガイドとして、測定対象面に対する測定器(ダイヤルゲージ)100の姿勢(相対角度)がユーザに示されるようにすると便利である。
第8実施形態としては、測定器(例えばダイヤルゲージ)に慣性センサ200(少なくともジャイロセンサを有する)を付設しておく。ここで、測定器(例えばダイヤルゲージ)の筐体の外側面のうちの一つを基準外側面180として設定する。そして、この基準外側面180とスピンドル(測定子)110との相対角度が予め規定されているとする。例えば、筐体の背面を基準外側面とし、筐体の背面とスピンドル110(測定子)とが平行であることが規定されているとする。(もちろん互いに平行でなくてもよい。互いの角度差が分かっていればそれに応じて対応できる。)
【0042】
まず、図9中の符号Aに例示するように、例えばマスターワークの測定対象面に基準外側面(筐体の背面)180を押し付ける。いま、この状態の測定器ユニット100の基準外側面(筐体の背面)180の角度を例えば測定対象面の角度としてセットする(あるいはこの状態で角度ゼロの面としてリセットしてもよい)。すると、測定対象面に対して適切な測定を行うための測定器ユニット(ダイヤルゲージ)100の姿勢(基準姿勢)は、測定対象面に対して90°の姿勢として得られる(設定される)。
ユーザは、測定器ユニット(ダイヤルゲージ)100をスタンド700に取り付ける際、例えばダイヤルゲージ100の表示部に表示される差分姿勢を参照ガイドとしながら、測定器ユニット(ダイヤルゲージ)100が適切な基準姿勢になるようにスタンド700に取り付ける。これにより、作業効率が向上することはもちろん、正しい姿勢で測定対象物を正確に測定することができるようになる。
【0043】
なお、測定値を記録部170に記録するにあたって、測定値とともにその測定値を取得したときの差分姿勢も合わせて記録していくとよい。例えば、測定値を取得したときの差分姿勢の値(角度ズレ)が分かっていれば、角度ズレに応じて測定値の補正演算をすることができるからである。
【0044】
(第9実施形態)
ダイヤルゲージやてこ式ダイヤルゲージといった小型の比較測長器は、単一で使用される場合の他、複数台の測定器を同時に使用して測定対象面の形状測定を行う場合もある。このとき、複数台の測定器の姿勢(角度)を揃えてセッティングする必要がある。通常は、測定対象面の形状に合わせて複数台の測定器をそれぞれ所望の姿勢に保持できる治具を用意し、このような治具に測定器をセットすることが行われている(例えばWO2017/150222)。例えば、測定対象面が平面であれば、すべての測定器を同じ姿勢にしたり、あるいは、測定対象面が湾曲面であれば、曲面に合わせて所定角度ずつずれた姿勢(角度)にずらしてセットしたりする。ただし、測定器を保持する治具を測定対象面に応じて製作することには費用も手間もかかるのであり、簡易的に測定したい場合には治具やガイドも無い状態で測定者の感覚や目測に頼って測定器をセットしていた。
【0045】
そこで、複数台の測定器の姿勢調整の参照ガイドとして、複数の測定器間の相対的姿勢差がユーザに示されるようにすると便利である。第9実施形態としては、測定器(例えばダイヤルゲージ)に慣性センサ200(少なくともジャイロセンサを有する)を付設しておく。いま例えば図10に例示のように、3つの測定器ユニット(ダイヤルゲージ)100を同じ角度に揃えてセットしたいとする。
【0046】
3つのうちの一つの測定器ユニット(ダイヤルゲージ)を姿勢マスター測定器ユニット100Mとし、姿勢マスター測定器ユニット100Mが例えば鉛直方向に対してどの方向にどれだけ傾斜しているか求める。
この姿勢マスター測定器ユニット100Mの角度(姿勢)を基準姿勢とし、第2、第3の測定器ユニット100の姿勢をマスター測定器ユニット100Mの角度(基準姿勢)に合わせるようにする。例えば、姿勢マスター測定器ユニット100Mの角度(姿勢)が第2、第3の測定器ユニット100に転送されたうえで、第2、第3の測定器ユニット100がそれぞれ差分姿勢を表示部に表示するようにしてもよい。あるいは、他の端末(小型パソコンやタブレット端末)に3つの測定器ユニット100から角度情報を転送したうえで、端末上で第2、第3の測定器ユニット100の差分姿勢がユーザに示されるようにしてもよい。これにより、複数台の測定器100を用いた形状測定を簡易かつ正確に行うことができるようになる。
【0047】
なお、測定対象面の形状に合わせて複数台の測定器をそれぞれ所望の姿勢に保持できる治具を使用することを排除しない。このような治具を用いて複数台の測定器をセットする場合でも姿勢参照ガイドがあれば作業が楽になるし、姿勢が揃っているか、あるいは、所望の値(角度)ずつ姿勢がずれているかが数値として示されるし、記録としても残すことができる。
【0048】
(第10実施形態)
測定器100の使用にあたっては原点設定、表示部の表示内容の設定(単位、公差の設定など)があり、これらをボタン操作で行うことがユーザの負担になっている。
本発明では慣性センサ200を測定器に付設することにより機能が拡充されて便利になるが、その分ボタンが増えたり、ボタン操作(あるいはタッチパネル上での操作)の回数が増えたりすることも懸念はされる。
そこで、ユーザが測定器を持って所定のパターンで測定器を動かしたときに、その動きのパターンに対応する設定機能が起動するようにしておくとよい。例えば、測定器を一方向に少し傾けて戻すという動作で原点設定モードが起動したり、左右に少し傾けて戻すという動作で公差設定モードが起動するようにしてもよいし、測定器をゆっくり大きく傾斜させた(あるいは1回転させた)とき、測定器の角度情報のリセット(基準姿勢、基準面の設定モード)が起動するようにしてもよい。
【0049】
本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態の説明では、測定子の先端の接触子を測定対象物の表面に当接させる接触式の測定器を例示したが、この他、非接触式で測定対象物の表面を検出する測定器(例えば一軸のレーザセンサなど)にも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
100 測定器、測定器ユニット
110 スピンドル
120 接触子
200 慣性センサ
150 制御回路
160 演算部
170 記録部
300 ガイドスライダー
310 ガイドレール
320 スライダー
330 連結棒
410、420 治具
500 粗さ測定器
510 アーム
520 スタイラス
600 内径測定器(シリンダーゲージ)
610 長筒部
620 握り部
630 測定ヘッド部
650 ロッド
660 測定器本体部
700 スタンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10