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特開2023-104005無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法
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  • 特開-無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104005
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法
(51)【国際特許分類】
   H02H 9/06 20060101AFI20230721BHJP
   H02H 9/04 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
H02H9/06
H02H9/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004731
(22)【出願日】2022-01-15
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】中野 智之
【テーマコード(参考)】
5G013
【Fターム(参考)】
5G013AA04
5G013BA02
5G013DA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒューズ線を使用せず、かつ大規模な装置を必要としない無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法を提供する。
【解決手段】無ヒューズ発弧装置であって、アークを発生させるためのアークギャップA(ギャップ4)と、フラッシオーバ制御のためのコントロールギャップBと、アークギャップAとコントロールギャップBとを両端に接続して電流を供給する電源1と、アークギャップA及びコントロールギャップBに各々並列に接続されている高電圧パルス発生装置3と、高電圧パルス発生装置3のオンオフを制御する制御装置6とを備え、アークギャップAとコントロールギャップBと合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和の関係を適正にする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを発生させるためのアークギャップと、
フラッシオーバ制御のためのコントロールギャップと、
前記アークギャップと前記コントロールギャップとを両端に接続して電流を供給する電源と、
前記アークギャップ及び前記コントロールギャップの各ギャップに各々並列に接続されている高電圧パルス発生装置と、
前記高電圧パルス発生装置のオンオフを制御する制御装置とを備え、
前記コントロールギャップは複数のギャップから成り、前記複数のギャップの合計フラッシオーバ電圧と前記電源の電圧との総和が前記アークギャップのフラッシオーバ電圧よりも高く、且つ前記電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを少なくとも1つ有すると共に全てのフラッシオーバさせようとする前記ギャップに対し残りの前記ギャップの合計フラッシオーバ電圧と前記電源の電圧との総和が高くなる関係を成し、
前記制御装置の制御により前記アークギャップに次いで前記コントロールギャップの各ギャップに順番に高電圧を印加してフラッシオーバさせていくことで前記電源の電圧だけでアークを飛ばせる前記ギャップまでアークを繋いで電源を短絡させることを特徴とする無ヒューズ発弧装置。
【請求項2】
前記コントロールギャップを構成する前記ギャップはフラッシオーバ電圧が前記アークギャップから離れるに従って順次低くなることを特徴とする請求項1記載の無ヒューズ発弧装置。
【請求項3】
前記コントロールギャップの最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧は最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低いことを特徴とする請求項1または2記載の無ヒューズ発弧装置。
【請求項4】
アークを発生させるためのアークギャップの他に、複数のギャップから構成されその合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和が前記アークギャップのフラッシオーバ電圧よりも高く、且つ前記電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを少なくとも1つ有すると共に全てのフラッシオーバさせようとする前記ギャップに対し残りの前記ギャップの合計フラッシオーバ電圧と前記電源の電圧との総和が高くなる関係に配置されたフラッシオーバ制御のためのコントロールギャップを電源の両端に備えた発弧回路を構成し、前記アークギャップに次いで前記コントロールギャップの各ギャップに順番に高電圧を印加してフラッシオーバさせていくことで、前記電源の電圧だけでアークを飛ばせる前記ギャップまでアークを繋いで電源を短絡させることを特徴とする無ヒューズ発弧方法。
【請求項5】
前記コントロールギャップを構成する前記ギャップはフラッシオーバ電圧が前記アークギャップから離れるに従って順次低くなるように配置したことを特徴とする請求項4記載の無ヒューズ発弧方法。
【請求項6】
前記コントロールギャップの最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧を最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低くしたことを特徴とする請求項4または5記載の無ヒューズ発弧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発弧装置および発弧方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば碍子や電線等の送配電機材の耐アーク性能評価試験等に使用するのに適した無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力機器の耐アーク試験などにおいては、銅などのヒューズ線を使用した発弧方法が広く用いられている(例えば、特許文献1)。ヒューズ線を使用することで、アークをほぼ確実に所望の位置に発生させることができる他、発弧に要する手順や物品が比較的少なく済むため、事故を検証する研究用としてあるいは碍子や電線等の送配電機材の耐アーク性能評価試験等において多く使われている。
【0003】
また、ヒューズ線を使用しない発弧法として、インパルスジェネレータによる方法や、可動電極による方法などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-326244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のヒューズ溶断発弧装置では、発弧のトリガーとしてヒューズ線を溶断させるようにしているので、ヒューズの溶断・蒸発に伴って周囲に飛び散るヒューズ成分がアークに不純物として混入するという欠点がある。
【0006】
また、インパルスジェネレータによる発弧法の場合には、ブロッキング回路や大型のインパルスジェネレータを必要とするため試験回路が大規模化するという問題を伴う。また、電源によっては故障または破損の心配がある。
【0007】
さらに、可動電極による発弧方法の場合には、ギャップ長が時間変化するため、アークの特性が時間的に変化してしまうという問題がある。
【0008】
以上のように、各発弧方法には一長一短があることから、目的に応じて使い分けられているが、各々の発弧方法の問題点を解決することにより汎用的に用いることができる発弧装置並びに発弧方法が望まれている。
【0009】
本発明は、かかる要望に応えるものであり、ヒューズ線を使用せず、かつ大規模な装置を必要としない無ヒューズ発弧装置および無ヒューズ発弧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために請求項1記載の無ヒューズ発弧装置は、アークを発生させるためのアークギャップと、フラッシオーバ制御のためのコントロールギャップと、アークギャップとコントロールギャップとを両端に接続して電流を供給する電源と、アークギャップ及びコントロールギャップの各ギャップに各々並列に接続されている高電圧パルス発生装置と、高電圧パルス発生装置のオンオフを制御する制御装置とを備え、コントロールギャップが複数のギャップから成り、複数のギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和がアークギャップのフラッシオーバ電圧よりも高く、且つ電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを少なくとも1つ有すると共に全てのフラッシオーバさせようとするギャップに対し残りのギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和が高くなる関係を成し、制御装置の制御によりアークギャップに次いでコントロールギャップの各ギャップに順番に高電圧を印加してフラッシオーバさせていくことで電源の電圧だけでアークを飛ばせるギャップまでアークを繋いで電源を短絡させるようにしている。
【0011】
ここで、本発明にかかる無ヒューズ発弧装置において、コントロールギャップを構成するギャップはフラッシオーバ電圧がアークギャップから離れるに従って順次低くなるようにすることが好ましい。
【0012】
また、本発明にかかる無ヒューズ発弧装置において、コントロールギャップの最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧は最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低いものとすることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明にかかる無ヒューズ発弧方法は、アークを発生させるためのアークギャップの他に、複数のギャップから構成されその合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和がアークギャップのフラッシオーバ電圧よりも高く、且つ電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを少なくとも1つ有すると共に全てのフラッシオーバさせようとするギャップに対し残りのギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和が高くなる関係に配置されたフラッシオーバ制御のためのコントロールギャップを電源の両端に備えた発弧回路を構成し、アークギャップに次いでコントロールギャップの各ギャップに順番に高電圧を印加してフラッシオーバさせていくことで、電源の電圧だけでアークを飛ばせるギャップまでアークを繋いで電源を短絡させるようにしている。
【0014】
ここで、本発明にかかる無ヒューズ発弧方法において、コントロールギャップを構成するギャップはフラッシオーバ電圧がアークギャップから離れるに従って順次低くなるように配置することが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる無ヒューズ発弧方法において、コントロールギャップの最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧を最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無ヒューズ発弧装置及び無ヒューズ発弧方法によれば、ヒューズ線を使用せず、かつ大規模な装置を必要とせずにアークを発生させ得る。つまり、無ヒューズであっても、本来であればアークを発生させることが困難なアークギャップにアークを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は1つのギャップと高電圧単発パルス発生装置を備える無ヒューズ発弧回路、(b)は2つのギャップと高電圧単発パルス発生装置を備える無ヒューズ発弧回路を示す。
図2】ギャツプを分割した例を示す説明図である。
図3】本発明の無ヒューズ発弧装置の一実施形態を示す回路図である。
図4】本発明にかかる発弧装置を用いて発弧現象を検証した結果を示すグラフで、(a)は電圧波形図、(b)は電流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1に、高電圧単発パルス発生装置、ギャップおよび電源(パワーソース)からなる回路を示す。図1(a)において、アークを発生させたいギャップ4(ギャップAと呼ぶ)に並列に高電圧を印加できるパルス発生装置例えば高電圧単発パルス発生装置3を備え、ギャップAを高電圧単発パルス発生装置でフラッシオーバ(flash over:F.O.あるいは火花放電とも呼ばれる)させれば、電源1が短絡されギャップAにアークが発生することが期待される。しかしながら、ギャップAと並列に高電圧単発パルス発生装置3を接続して動作させようとしても、電流は電源1を経由して流れるので、ギャップAに加わる電圧は電源電圧依存となるため、低電圧の電源1では広いギャップにアークを飛ばせない。つまり、数kV例えば6kVの電源1では、ギャップAが例えば1mm程度の短い場合にはアークは飛ばせても、例えば数mmを越えるような長いギャップ例えば15mm程度の場合には絶縁破壊できないのでアークを飛ばせない。尚、符号2は配線である。
【0020】
一方、図1(b)のように、回路中にギャップAよりもフラッシオーバ電圧が高いギャップ5(ギャップBと呼ぶ)をさらに設ければ、ギャップBによる絶縁でギャップAにかかる高電圧パルス発生装置3の高電圧が電源1側に流れることなく、ギャップAに印加されてフラッシオーバを発生させることができる。しかし、アークギャップAよりもフラッシオーバ電圧が高いギャップBが残るため、アークギャップAを絶縁破壊できない低電圧の電源例えば6kV程度の電源1ではギャップBの絶縁破壊することができないため、電源・回路を短絡させられない。
【0021】
本発明者等は、上述の現象を踏まえ、図2に示すように、ギャップBをフラッシオーバ電圧が徐々に低くなる一連のギャップ群(例えば、ギャップ長が徐々に短くなるギャップ5-1~5-5)で構成し、各ギャップ5-1~5-5と並列に高電圧パルス発生装置3を各々接続の上、ギャップ5-1~5-5のフラッシオーバ電圧が高い方から順に高電圧パルス発生装置3をONして、次々にギャップにフラッシオーバさせることで、電圧の低い電源だけでもアークを飛ばせるギャップに繋いで最終的に回路短絡に至らせる可能性があることを知見するに至った。即ち、フラッシオーバは1ms以下しか持続できない不連続な過渡的現象であるが、各ギャップの高電圧パルス発生装置を数十μsの時間差を設けて順次動作させれば、各ギャップがフラッシオーバで繋がれて回路を短絡させることができることを着想するに至った。
【0022】
本発明の無ヒューズ発弧装置は、かかる知見に基づくものであり、アークを発生させるためのアークギャップと、フラッシオーバ制御のためのコントロールギャップと、アークギャップとコントロールギャップとを両端に接続して電流を供給する電源と、アークギャップ及びコントロールギャップの各ギャップに各々並列に接続されている高電圧パルス発生装置と、高電圧パルス発生装置のオンオフを制御する制御装置とを備え、コントロールギャップは複数のギャップから成り、複数のギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和がアークギャップのフラッシオーバ電圧よりも高く、且つ電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを少なくとも1つ有すると共に全てのフラッシオーバさせようとするギャップに対し残りのギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源の電圧との総和が高くなる関係を成し、制御装置の制御によりアークギャップに次いでコントロールギャップの各ギャップに順番に高電圧を印加してフラッシオーバさせていくことで電源の電圧だけでアークを飛ばせるギャップまでアークを繋いで電源を短絡させるように構成されている。
【0023】
例えば図3に示す一実施形態のように、アークを発生させたいギャップ4(本明細書ではアークギャップAと呼ぶ)の他に、アークギャップAよりもフラッシオーバ電圧が低い複数のギャップ5-1~5-nから成るフラッシオーバ制御のための一連のギャップ群(本明細書ではコントロールギャップBと呼ぶ)を電源1の両端に接続して発弧回路を構成する一方、各ギャップA,Bにはフラッシオーバ電圧を印加する高電圧パルス発生装置3を各々並列に接続し、高電圧パルス発生装置3のオンオフを制御装置6により制御してアークギャップAに次いでコントロールギャップBの各ギャップ5-1~5-nをフラッシオーバ電圧の高い順から順番にフラッシオーバさせていくことで、回路を繋いで(つまり、電源の電圧だけで絶縁破壊を起こさせるギャップまでアークを繋いで)電源1を短絡させるように構成されている。
【0024】
ここで、コントロールギャップBは、全てのフラッシオーバさせようとするギャップについて、フラッシオーバさせようとするギャップのフラッシオーバ電圧が、残るギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和(つまり、残るギャップの合計フラッシオーバ電圧+電源電圧)よりも低い関係とされている。また、コントロールギャップBのなかの最小ギャップについては、電源1だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下に設定されている。つまり、全てのギャップにおいて、フラッシオーバさせようとするギャップに対し残るギャップのフラッシオーバ電圧の総和が高くなる関係とし、尚且つ電源の電圧だけでも絶縁破壊を起こしてアークを飛ばせる長さのギャップを少なくとも1つ含むように構成することで、当該ギャップにフラッシオーバを起こさせる高電圧をギャップに印加できるようにしている。尚、最小ギャップについては、少なくとも1つ含まれていれば良いが、最小ギャップを十分に短くすると、最小ギャップとその直前のギャップも含めて電源電圧だけでフラッシオーバさせることも可能である。つまり、電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップは複数であるようにしても良い。
【0025】
他方、アークギャップAについては、アークギャップAのパルス高電圧発生装置はコントロールギャップBの各ギャップのパルス高電圧発生装置3の接続とは異なって逆極性接続なので、ギャップAのフラッシオーバ電圧が、コントロールギャップBの合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和(ギャップBの合計フラッシオーバ電圧-電源電圧)よりも低い関係とされている。しかし、フラッシオーバの序盤においては残るギャップの合計フラッシオーバ電圧が十分に高いので、電源電圧を無視しても大勢に影響はないと考えられる。
【0026】
具体的には、本実施形態の場合、コントロールギャップBは順次ギャップ長が短くなる複数のギャップ(つまり、順次フラッシオーバ電圧が低くなる複数のギャップ5-1~5-7)で構成されており、例えばアークギャップA(つまり、第1のギャップ4)に次いで2番目のフラッシオーバ電圧高さ(つまりギャップ長)となる最初のギャップ(第2ギャップ5-1となる)は残りのギャップ群(つまり、図3の例では、第3~第8のギャップ5-2~5-7)の合計フラッシオーバ電圧と電源1の電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が低く(つまりギャップ長が短く)なる関係に設定されている。以下、同様に、第3のギャップ5-2は残りのギャップ群(つまり、第4~第8のギャップ5-3~5-7)の合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が低く、第4のギャップ5-3は残りのギャップ群(つまり、第5~第8のギャップ5-4~5-7)の合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が低く、第5のギャップ5-4は残りのギャップ群(つまり、第6~第8のギャップ5-5~5-7)の合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が低く、第6のギャップ5-5は残りのギャップ群(つまり、第7~第8のギャップ5-6~5-7)の合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が低く設定されている。他方、第7のギャップ5-6は第8のギャップ5-7のフラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりもフラッシオーバ電圧が高く、第8のギャップ5-7が最小のフラッシオーバ電圧のギャップとなるように構成されている。ここで、第7ギャップ5-6および第8ギャップ5-7の2つのギャップの合計フラッシオーバ電圧は、電源の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップであり、第6のギャップ5-6のフラッシオーバ電圧(つまりギャップ長)は第7ギャップ5-6および第8ギャップ5-7の2つのギャップの合計フラッシオーバ電圧よりも低いものとして設定されている。これにより、第6ギャップ5-5から第8ギャップ5-7までの3つのギャップに対しては電源の電圧のみではアークを飛ばせないが、高電圧パルス発生装置3の動作によって第6ギャップ5-5にフラッシオーバを起こすことはできる。そして、第6ギャップ5-5にフラッシオーバが起こると同時に、電源1の電圧のみで残る第7ギャップ5-6および第8ギャップ5-7の双方にアークを飛ばせ得るものである。つまり、本実施形態の場合には電源の電圧だけでも絶縁破壊を起こしてアークが発生し得る長さのギャップを2つ含む構成とされている。
【0027】
高電圧パルス発生装置3は、ギャップ間にフラッシオーバを発生させるに十分な高電圧(つまり、フラッシオーバ電圧を越える電圧)を印加できる高電圧・高インピーダンスの電源として機能するものであり、本実施形態の場合、例えば、バイクのイグニッション・コイルにコンデンサに溜めた電圧を一気にかけるようにした高電圧単発パルス発生装置として構成されている。つまり、バッテリー駆動式の小型の高電圧単発パルス発生装置として構成されている。本実施形態では、高電圧単発パルス発生装置3は、ギャップ4,5-1~5-7毎にギャップ4,5-1~5-7と並列に接続され、全てのギャップ4,5-1~5-7にフラッシオーバ電圧を付与してフラッシオーバを起こせるように設けられている。各ギャップ4,5-1~5-7の高電圧単発パルス発生装置3は、例えば光ファイバ7で制御装置6に各々接続され、制御装置6から光ファイバ7を通して送られてくる光信号(パルス)でフラッシオーバ電圧の印加のオンオフが制御される。制御装置6は、フラッシオーバが継続する極めて短時間例えば数十μsの時間差を設けてギャップ4,5-1~5-7の大きい方から順次高電圧単発パルス発生装置をONして、次々にギャップ4,5-1~5-7をフラッシオーバさせて最終的に回路短絡に至らせる。このようにして、コントロールギャップBの分割数即ち構成ギャップの数を多くするほど、より低電圧の電源に対応できる。勿論、高電圧パルス発生装置3は、高電圧パルスを単発しか発生できないものである必要はなく、また、バッテリー式である必要はない。複数のギャップを既定の順序でフラッシオーバさせることができるものであれば良い。
【0028】
以上のように構成された無ヒューズ発弧装置によれば、アークギャップAよりもフラッシオーバ電圧が高いコントロールギャップBが存在するため、ハイインピーダンス、高電圧の高電圧パルス発生装置3を用いることでローインピーダンスの電源1ではアークを飛ばせないアークギャップAにフラッシオーバを起こさせられる。そして、このアークギャップAを放電の起点としてコントロールギャップBの各ギャップをフラッシオーバ電圧が高いものから順番にフラッシオーバさせていくことで、最終的に回路短絡(電源を短絡させる)に至らせる。そして、電源からの電流電力供給によりアークが維持される。つまり、ヒューズ線を使用せず、かつ大規模な装置を必要としないで、使用する電源の電圧ではフラッシオーバ電圧が得られない(つまり、アークを発生させられない長さの)ギャップに対してもアークを発生させ試験・実験で必要とされる時間継続させることができる。
【0029】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、フラッシオーバ電圧が段階的に低くなるように(ギャップ長に換言すれば段階的に短くなるように)配置したギャップ群でコントロールギャップBを構成するようにしているが、これに特に限られるものではなく、場合によってはコントロールギャップBの各ギャップのフラッシオーバ電圧の全てあるいは一部が同じ高さ(ギャップ長に換言すれば同じ長さ)のギャップで構成するようにしても良い。即ち、コントロールギャップBを構成する複数のギャップの全てあるいは一部のフラッシオーバ電圧が電源電圧よりも低く、電源1の電圧だけでアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップで、且つ合計したフラッシオーバ電圧がアークギャップAのフラッシオーバ電圧よりも高くなるのであれば、高電圧パルス発生装置によって順次ギャップにフラッシオーバさせた後、最後のギャップが電源1の電圧だけで絶縁破壊が起こることで電源が短絡するに至る。この場合、最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧は最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低く設定されている。つまり、最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧は最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低く設定されている。
【0030】
また、上述の実施形態では、電源1の電圧だけでアークを飛ばせる2つのギャップ5-6、5-7を設けることで、その直前の高電圧単発パルス発生装置3によってフラッシオーバさせようとするギャップ5-5に、残りのギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧との総和が高くなるという関係を満たすようにしているが、これに特に限られるものではなく、場合によっては電源1の電圧だけでもアークを飛ばせるフラッシオーバ電圧となる長さ以下のギャップを最後のギャップとし、この最後のギャップの直前のギャップのフラッシオーバ電圧が最後のギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧とを加算したものより低く設定されるようにしても、電源を短絡させるに至る。
【0031】
さらに、上述の実施形態では、コントロールギャップBは、アークギャップAよりもフラッシオーバ電圧が徐々に低くなる複数のギャップをフラッシオーバ電圧が段階的に低くなるように直列に接続して構成されているが、これに特に限定されるものではなく、例えばアークギャップAよりもフラッシオーバ電圧が高いギャップを含む場合を排除するものではない。つまり、コントロールギャップBの合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和がアークギャップAのフラッシオーバ電圧よりも高く設定され、尚且つコントロールギャップBを構成する各ギャップの間でも、フラッシオーバさせようとするギャップに対し残るギャップのフラッシオーバ電圧と電源電圧との総和が高くなるという関係に設定され、最終的に電源1の電圧だけでアークを飛ばせるギャップまでアークを繋いで電源を短絡させるように構成されれば良い。
【実施例0032】
図3に示す本実施例の発弧装置を用いて発弧現象を検証した。本実験装置は、コンデンサ(6kV,0.4μF)を電源1とし、アークギャップAと複数個のギャップ5-1~5-7から成るコントロールギャップBを電源1の両端に備えてそれぞれのギャップ4、5-1~5-7にフラッシオーバ電圧を印加するバッテリー駆動式の小型の高電圧単発パルス発生装置3を並列に接続し、アークギャップAから順番にコントロールギャップBの各ギャップをフラッシオーバさせていくことでコンデンサ1を短絡させることを試みた。これにより、6kV程度の低電圧の電源でも、本来発弧現象を起こせないギャップ長例えば15mm程度の比較的広いギャップにおいてもアークを飛ばし、そして実験的にも十分な時間例えば数十ms~100msの長い時間維持させられることを確認した。
【0033】
本実験では、高電圧パルス発生装置3として、バイクのイグニッション・コイルにコンデンサに溜めた電圧を一気にかけるようにしたバッテリー駆動式の高電圧単発パルス発生装置を用いて、端子開放時における電圧波高値が約58kV、端子短絡時における電流波高値が1.4Aの出力を得た。この高電圧単発パルス発生装置3は、各ギャップ4、5-1~5-7毎に並列接続されると共に、光ファイバ7を介して制御装置6にそれぞれ接続され、制御回路6からの光信号で電圧の印加が制御される。即ち、高電圧単発パルス発生装置3は、制御装置6から信号光が入ると、高電圧を出力する。この高電圧単発パルス発生装置3は、イグニッション・コイルとコンデンサで構成されたものであることから、小型・軽量であると共に、応答速度がマイクロ秒オーダーと高速である(中野智之:「低コスト高電圧単発パルス発生装置の検討」,電気学会令和2年電力エネルギー部門大会,310,(2020)参照)。
【0034】
(ギャップについて)
本実施例の発弧装置の場合、ギャップは、アークを発生させたいアークギャップA(第1ギャップ4と呼ぶ)およびフラッシオーバ制御のための第2~第8のギャップ5-1~5-7(まとめてコントロールギャップBと呼ぶ)で構成した。ここで、フラッシオーバ電圧の高低はギャップの長さの長短と相関しているので、アークギャップA(第1ギャップ4)は15mm、コントロールギャップB(第2~第8ギャップ5-1~5-7)は29.2mmであり、さらにコントロールギャップBは第2ギャップ10mm、第3ギャップ7mm、第4ギャップ5mm、第5ギャップ3mm、第6ギャップ2mm、第7ギャップ1.5mm、第8ギャップ0.7mmと順次ギャップ長さが短くなる7つのギャップで構成されている。つまり、アークギャップAのフラッシオーバ電圧よりもコントロールギャップBのフラッシオーバ電圧が高く、且つコントロールギャップBを構成する各ギャップのフラッシオーバ電圧はアークプラズマAのフラッシオーバ電圧よりもいずれも低い上に全てのフラッシオーバさせようとするギャップのフラッシオーバ電圧が残るギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりも低い関係となるように、順次フラッシオーバ電圧が低くなるように配置されている。
【0035】
(実験方法・実験条件)
表1に実験条件を示す。電源電圧は6kV、アークギャップ長は15.0mmとし、コントロールギャップBの各ギャップ5-1~5-7のフラッシオーバには数十μsの時間差を設けた。
【0036】
【表1】
【0037】
(実験結果)
図4の(a)に測定した電圧波形図、図4(b)に電流波形図をそれぞれ示す。図4(a)の縦軸はコンデンサの端子間電圧、図4(b)の縦軸はコンデンサの出力電流、それぞれの横軸はコンデンサの短絡時点を0μsとした場合の時刻を示す。
【0038】
図4(a)及び(b)から、時刻0μsにおいて第1~第6の各ギャップ5-1~5-7のフラッシオーバがきっかけ(起点)となってコンデンサ(電源)が短絡したことで端子間電圧が降下すると共に、数十Aの電流が流れることが判明した。この時、アークギャップAおよびコントロールギャップBの全てのギャップにアークが発生した。コンデンサが短絡される約170μs前に、アークギャップA(第1ギャップ)のフラッシオーバによって発生したノイズが測定されていることから、アークギャップAのフラッシオーバから170μs後の第6ギャップのフラッシオーバと同時にコンデンサが短絡したと推測される。したがって、第7ギャップおよび第8ギャップは高電圧単発パルス発生装置3の動作前に、コンデンサの充電電圧6kVによってフラッシオーバし、短絡に至ったと考えられる。つまり、6kV程度の電源1の電圧だけでは、第6ギャップから第8ギャップまでの3つのギャップにアークを飛ばせないが、フラッシオーバさせようとする第6ギャップのフラッシオーバ電圧が残るギャップ即ち第7ギャップおよび第8ギャップの合計フラッシオーバ電圧と電源電圧との総和よりも低い関係となるので、高電圧単発パルス発生装置3の動作によって第6ギャップにフラッシオーバを起こすことができる。そして、第6ギャップにフラッシオーバが起こると同時に、6kVの電源1の電圧だけで、残る第7ギャップおよび第8ギャップの双方のギャップに絶縁破壊を起こし得たものと推定される。
【0039】
これにより、6kVの電源では本来絶縁破壊しない長さ例えば15mmのギャップでもアークを飛ばせることが明らかとなった。つまり、6kV程度の低電圧の電源であっても、本来であれば絶縁破壊を起こせない長さ(例えば、15mm)のアークギャップAにアークを飛ばせることが検証された。
【符号の説明】
【0040】
1 電源(パワーソース)
2 配線
3 高電圧単発パルス発生装置
4 アークギャップ
5 コントロールギャップ
6 制御装置
7 光ファイバ
図1
図2
図3
図4