IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州工業大学の特許一覧 ▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-リンク作動装置 図1
  • 特開-リンク作動装置 図2
  • 特開-リンク作動装置 図3
  • 特開-リンク作動装置 図4
  • 特開-リンク作動装置 図5
  • 特開-リンク作動装置 図6
  • 特開-リンク作動装置 図7
  • 特開-リンク作動装置 図8
  • 特開-リンク作動装置 図9
  • 特開-リンク作動装置 図10
  • 特開-リンク作動装置 図11
  • 特開-リンク作動装置 図12
  • 特開-リンク作動装置 図13
  • 特開-リンク作動装置 図14
  • 特開-リンク作動装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104116
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】リンク作動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 21/46 20060101AFI20230721BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
F16H21/46
B25J11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004925
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】福丸 浩史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 俊樹
【テーマコード(参考)】
3C707
3J062
【Fターム(参考)】
3C707BS24
3C707HS27
3C707HT11
3J062AA21
3J062AA39
3J062AB28
3J062AC10
3J062BA14
3J062CB04
3J062CB14
3J062CB30
3J062CB33
(57)【要約】
【課題】受動関節を含めたすべての回転軸の角度を逆運動学で演算できるリンク作動装置を提供する。
【解決手段】リンク作動装置50は、第2リンクハブ中心点PBの位置から第1端部リンク部材5の姿勢を示す角度βA1と中央リンク部材7の姿勢を示す角度θ12とを球面三角法を用いて演算するように構成される制御装置100を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側の第1リンクハブと、
先端側の第2リンクハブと、
前記第1リンクハブと前記第2リンクハブとを連結する少なくとも3つのリンク機構とを備え、
前記少なくとも3つのリンク機構の各々は、
前記第1リンクハブに対して回転可能に連結された第1端部リンク部材と、
前記第2リンクハブに対して回転可能に連結された第2端部リンク部材と、
前記第1端部リンク部材および前記第2端部リンク部材の各々に対して回転可能に連結された中央リンク部材とを含み、
前記少なくとも3つのリンク機構において、
前記第1リンクハブと前記第1端部リンク部材との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸および、前記中央リンク部材の一方端の回転対偶部の中心軸は、第1リンクハブ中心点で交わり、
前記第2リンクハブと前記第2端部リンク部材との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸および前記中央リンク部材の他方端の回転対偶部の中心軸は、第2リンクハブ中心点で交わり、
前記第2リンクハブ中心点の位置から前記第1端部リンク部材の姿勢を示す角度と前記中央リンク部材の姿勢を示す角度とを球面三角法を用いて演算するように構成される制御装置をさらに備える、リンク作動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2リンクハブ中心点の位置から前記中央リンク部材の姿勢を示す角度を、以下の関係式を用いて演算するように構成される、請求項1に記載のリンク作動装置。
【数1】
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2リンクハブ中心点の位置から前記第1端部リンク部材の姿勢を示す角度を、以下の関係式を用いて演算するように構成される、請求項2に記載のリンク作動装置。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リンク作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リンク作動装置は、精密で広範な作動範囲を必要とする医療機器および産業機器等に用いられる。リンク作動装置は、駆動源とリンク機構からなる。リンク機構の一種としてパラレルリンク機構が知られている。
【0003】
コンパクトな構成でありながら、精密で広範な作動範囲の動作が可能なリンク作動装置として、例えば、特開2015-194207号公報(特許文献1)、特開2020-200839号公報(特許文献2)に示されるようなものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-194207号公報
【特許文献2】特開2020-200839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2020-200839号公報(特許文献2)のパラレルリンク機構の逆変換は、球面三角法を用いたことを特徴とし、先端側のリンクハブの中心点座標から基端側の各端部リンク部材の回転角度を導出できる。しかし、先端側のリンクハブの中心点座標から中央リンク部材の回転角度を導出する手法は今まで示されていない。
【0006】
コンピュータ上でティーチングの動作検証を行なう際、すべての回転軸の回転角度がわからないと、パラレルリンク機構の姿勢を厳密に表示することができず、ワークとパラレルリンク機構との干渉チェック等のシミュレーションができない。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためのものであって、その目的は受動関節を含めたすべての回転軸の角度を逆運動学で演算できるリンク作動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のリンク作動装置は、基端側の第1リンクハブと、先端側の第2リンクハブと、第1リンクハブと第2リンクハブとを連結する少なくとも3つのリンク機構とを備える。少なくとも3つのリンク機構の各々は、第1リンクハブに対して回転可能に連結された第1端部リンク部材と、第2リンクハブに対して回転可能に連結された第2端部リンク部材と、第1端部リンク部材および第2端部リンク部材の各々に対して回転可能に連結された中央リンク部材とを含む。少なくとも3つのリンク機構において、第1リンクハブと第1端部リンク部材との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸および、中央リンク部材の一方端の回転対偶部の中心軸は、第1リンクハブ中心点で交わり、第2リンクハブと第2端部リンク部材との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸および中央リンク部材の他方端の回転対偶部の中心軸は、第2リンクハブ中心点で交わる。リンク作動装置は、第2リンクハブ中心点の位置から第1端部リンク部材の姿勢を示す角度と中央リンク部材の姿勢を示す角度とを球面三角法を用いて演算するように構成される制御装置をさらに備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示のリンク作動装置によれば、受動関節を含めたすべての回転軸の角度を逆運動学で演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リンク作動装置の、ある姿勢における正面図である。
図2】リンク作動装置50の構成のうち、1つのリンク機構4に対応する構成を代表的に示した図である。
図3】パラレルリンク機構の基端側のリンクハブ2、基端側の端部リンク部材5を抽出して示した断面図である。
図4】パラレルリンク機構1の3つのリンク機構4のうちの1つを抽出して直線で表現した模式図である。
図5】基端側のリンクハブ中心軸QAと先端側のリンクハブ中心軸QBが同一線上にある状態(原点姿勢)のリンク作動装置の斜視図である。
図6】原点姿勢におけるリンク作動装置の模式図である。
図7】任意の姿勢(折れ角θ、旋回角φ)のリンク作動装置の斜視図である。
図8図7のモデル図である。
図9】単位球面への点PB、点Aの投影について説明するための図である。
図10】端部リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第1の図である。
図11】端部リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第2の図である。
図12】中央リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第1の図である。
図13】中央リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第2の図である。
図14】アーム角を変更した変形例のリンク作動装置の斜視図である。
図15】逆運動学によって先端側のリンクハブの中心点位置から基端側の端部リンク部材および中央リンク部材の角度を得る処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
<リンク作動装置の構成>
この発明の一実施形態に係るパラレルリンク機構を備えたリンク作動装置の構成を図1図3と共に説明する。
【0013】
図1は、リンク作動装置の、ある姿勢における正面図である。図1を参照して、リンク作動装置50は、パラレルリンク機構1と、パラレルリンク機構1の姿勢変更用のアクチュエータ51と、アクチュエータの駆動力を減速してパラレルリンク機構に伝達する減速機構52と、アクチュエータ51を制御する制御装置100とを備える。
【0014】
パラレルリンク機構1は、基端側のリンクハブ2に対し先端側のリンクハブ3を3つのリンク機構4を介して姿勢変更可能に連結したものである。なお、リンク機構4の数は、4組以上であっても良い。先端側のリンクハブ3には、エンドエフェクタ61が設置される。
【0015】
図2は、リンク作動装置50の構成のうち、1つのリンク機構4に対応する構成を代表的に示した図である。図2を参照して、各リンク機構4は、基端側の端部リンク部材5と、先端側の端部リンク部材6と、中央リンク部材7とを含み、4つの回転対偶からなる4節連鎖のリンク機構を構成する。基端側の端部リンク部材5は、一端が基端側のリンクハブ2に回転自在に連結されている。同様に、先端側の端部リンク部材6は、一端が先端側のリンクハブ3に回転自在に連結されている。中央リンク部材7の一端には、基端側の端部リンク部材5の他端が回転自在に連結されている。中央リンク部材7の他端には、先端側の端部リンク部材6の他端が回転自在に連結されている。
【0016】
図1図2に示すように、基端側のリンクハブ2は、平板状の土台10と、この土台10に円周方向に等間隔で配置された3個の回転軸連結部材11とで構成される。各回転軸連結部材11には、軸心がリンクハブ2の中心軸QAと交差する回転軸体12が回転自在に連結されている。この回転軸体12には、基端側の端部リンク部材5の一端が連結される。基端側の端部リンク部材5の他端には、中央リンク部材7の一端に回転自在に連結された回転軸体15が連結される。本実施例において、回転軸連結部材11は土台10に円周方向に等間隔で配置されているが、必ずしもその限りではない。
【0017】
リンクハブ3の回転軸体22および中央リンク部材7の回転軸体25も、上記回転軸体12,15とそれぞれ同じ形状である。
【0018】
図1図2に示すように、先端側のリンクハブ3は、平板状の先端部材20と、先端部材20に円周方向に等間隔に配置された3個の回転軸連結部材21とで構成される。各回転軸連結部材21には、軸心がリンクハブ3の中心軸QBと交差する回転軸体22が回転自在に連結されている。このリンクハブ3の回転軸体22には、先端側の端部リンク部材6の一端が連結される。先端側の端部リンク部材6の他端には、中央リンク部材7の他端に回転自在に連結された回転軸体25が連結される。
【0019】
端部リンク部材5と中央リンク部材7との回転対偶の中心軸O2(A)と、端部リンク部材6と中央リンク部材7との回転対偶の中心軸O2(B)とは、点Aにおいて軸角γで交差する。
【0020】
図3は、パラレルリンク機構の基端側のリンクハブ2、基端側の端部リンク部材5を抽出して示した断面図である。図3には、図1の姿勢のパラレルリンク機構の先端側のリンクハブ3、先端側の端部リンク部材6および中央リンク部材7を取り除いた状態が示されている。なお、3つの端部リンク部材5の各々については、両端の回転対偶部の回転軸O1、O2を含む面における断面が示されている。
【0021】
図1および図3を参照して、3つのリンク機構4のそれぞれに、基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の姿勢を任意に変更する姿勢変更用のアクチュエータ51が設けられる。各アクチュエータ51には減速機構52が設けられている。各アクチュエータ51は、ロータリアクチュエータであり、基端側のリンクハブ2の土台10の上面に、回転軸体12と同軸上に設置されている。アクチュエータ51と減速機構52は一体に設けられ、モータ固定部材53により減速機構52が土台10に固定されている。なお、3つのリンク機構4のうち少なくとも2つにアクチュエータ51を設ければ、基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の姿勢を確定することができる。
【0022】
図3において、減速機構52はフランジ継手を形成する大径の出力軸体52aを有する。出力軸体52aの先端面は、出力軸体52aの中心線と直交する平面状のフランジ面54となっている。出力軸体52aは、スペーサ55を介して、基端側の端部リンク部材5の外径側の回転軸支持部材31にボルト56で接続されている。リンクハブ2と端部リンク部材5の回転対偶部の回転軸体12は、大径部12aと小径部12bとからなる。小径部12bは軸受の内輪に挿通され、大径部12aは減速機構52の出力軸体52aに設けられた内径溝57に嵌っている。
【0023】
端部リンク部材5は、L字形状を有する。端部リンク部材5は、1つの湾曲部材30と、この湾曲部材30の両端の外径側の側面および内径側の側面にそれぞれ固定された計4つの回転軸支持部材31とで構成される。4つの回転軸支持部材31は同一形状ではなく、基端側のリンクハブ2との回転対偶部に設けられる外径側の回転軸支持部材31Aは、減速機構52のフランジ面54とスペーサ55を介して結合されるフランジ取付面58を有する。本実施例において、端部リンク部材5は、L字形状を有しているが必ずしもL字形状である必要はない。
【0024】
このリンク作動装置50には、例えば図1に示すように、先端側のリンクハブ3にエンドエフェクタ61が設置される。アクチュエータ51が基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の姿勢を変更することによって、エンドエフェクタ61の2自由度の角度を制御することができる。
【0025】
図3には、3つのリンク機構4について、基端側のリンクハブ2と基端側の端部リンク部材5の回転対偶の中心軸O1と、端部リンク部材5と中央リンク部材7との回転対偶の中心軸O2と、リンクハブ中心点PAとの関係が示されている。図3に示されるように、3つのアクチュエータ51の回転軸である3本の中心軸O1とリンクハブ中心点PAとは同一平面にある。図2に示すようにこの平面上のリンクハブ中心点PAに対して斜め上方向から中心軸O2が通過する。先端側のリンクハブ3および先端側の端部リンク部材6の形状と、これらの位置関係(図示せず)も図3に示した基端側と同様である。図3の例では、中心軸O1と中心軸O2とが成す角度α(アーム角)が90°とされているが、角度αは90°以外であっても良い。
【0026】
パラレルリンク機構1は、2つの球面リンク機構を組み合わせた構造である。
【0027】
リンクハブ2と端部リンク部材5の回転対偶の中心軸O1と、端部リンク部材5と中央リンク部材7の回転対偶の中心軸O2とは、基端側においてリンクハブ中心点PA(図2図3)で交差している。また、基端側において、リンクハブ2と端部リンク部材5の回転対偶とリンクハブ中心点PAとの間の軸O1に沿う距離は、端部リンク部材5と中央リンク部材7の回転対偶とリンクハブ中心点PAとの間の軸O2に沿う距離と同じである。
【0028】
図3のような図示は省略するが、同様に、リンクハブ3と端部リンク部材6の回転対偶の中心軸と、端部リンク部材6と中央リンク部材7の回転対偶の中心軸O2(B)とは、先端側においてリンクハブ中心点PB(図2)で交差している。また、先端側において、リンクハブ3と端部リンク部材6の各回転対偶とリンクハブ中心点PBとの距離は、端部リンク部材6と中央リンク部材7の回転対偶とリンクハブ中心点PBとの距離と同じである。
【0029】
図4は、パラレルリンク機構1の3つのリンク機構4のうちの1つを抽出して直線で表現した模式図である。図4を用いて折れ角θと旋回角φについて説明する。
【0030】
3つのリンク機構4は、幾何学的に同一の対称形状を成す。幾何学的に同一の対称形状とは、図4に示すように、端部リンク部材5,6および中央リンク部材7を直線で表現し回転対偶を丸で示した幾何学モデルが、二等分面に対して、基端側部分と先端側部分が対称を成す形状であることを言う。本実施の形態のパラレルリンク機構1は回転対称タイプで、基端側のリンクハブ2および基端側の端部リンク部材5と、先端側のリンクハブ3および先端側の端部リンク部材6との位置関係が、中央リンク部材7の中心線C(図2のPL1に相当する)に対して回転対称となる位置構成になっている。
【0031】
基端側のリンクハブ2と先端側のリンクハブ3と3つのリンク機構4とによって、基端側のリンクハブ2に対し先端側のリンクハブ3が直交2軸周りに回転自在な2自由度機構が構成される。2自由度機構は、言い換えると、基端側のリンクハブ2に対して先端側のリンクハブ3の姿勢を、2自由度で自在に変更可能な機構である。この2自由度機構は、コンパクトでありながら、基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の可動範囲を広くとれる。
【0032】
例えば、リンクハブ中心点PAを通り、リンクハブ2と端部リンク部材5の回転対偶の中心軸O1(図3)と直角に交わる直線をリンクハブ2の中心軸QAとする。また、リンクハブ中心点PBを通り、リンクハブ3と端部リンク部材6の回転対偶の中心軸(図示せず)と直角に交わる直線をリンクハブ3の中心軸QBとする。
【0033】
この場合、基端側のリンクハブ2の中心軸QAと先端側のリンクハブ3の中心軸QBの折れ角θ(図4)の最大値を約±90°とすることができる。また、基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の旋回角φ(図4)を0°~360°の範囲に設定できる。上記折れ角θは、中心軸QAおよび中心軸QBを含む垂直面において中心軸QAに対して中心軸QBが傾斜した角度のことである。また、上記旋回角φは、旋回角φの基準位置を示す直線L0に対して中心軸QBの水平面への投影直線が成す角度のことである。
【0034】
基端側のリンクハブ2に対する先端側のリンクハブ3の姿勢は、リンクハブ2の中心軸QAとリンクハブ3の中心軸QBの交点PCを回転中心として変更される。姿勢が変化しても、基端側と先端側のリンクハブ中心点PA,PB間の距離D(図4)は変化しない。
【0035】
パラレルリンク機構1においては以下の条件が成立している。すなわち、各リンク機構4における基端側の端部リンク部材の中心軸O1と中心軸O2のなす角と先端側の端部リンク部材の中心軸O1と中心軸O2のなす角が互いに等しい。リンクハブ中心点PA,PBから回転対偶部までの長さが互いに等しい。各リンク機構4のリンクハブ2と端部リンク部材5の回転対偶の中心軸O1(A)が、基端側においてリンクハブ中心点PAと交差する。各リンク機構4の端部リンク部材5と中央リンク部材7の回転対偶の中心軸O2(A)が、基端側においてリンクハブ中心点PAと交差する。各リンク機構4のリンクハブ3と端部リンク部材6の回転対偶の中心軸O1(B)が、先端側においてリンクハブ中心点PBと交差する。各リンク機構4の端部リンク部材6と中央リンク部材7の回転対偶の中心軸O2(B)が、先端側においてリンクハブ中心点PBと交差する。基端側の端部リンク部材5と先端側の端部リンク部材6の幾何学的形状が等しく、かつ中央リンク部材7についても基端側の先端側とで形状が等しい。これらの条件が成立しているとき、中央リンク部材7の対称面に対して、中央リンク部材7と端部リンク部材5,6との角度位置関係を基端側と先端側とで同じにすれば、幾何学的対称性から基端側のリンクハブ2および基端側の端部リンク部材5と、先端側のリンクハブ3および先端側の端部リンク部材6とは二等分面に対して対称に同じ動きをする。
【0036】
図5は、基端側のリンクハブ中心軸QAと先端側のリンクハブ中心軸QBが同一線上にある状態のリンク作動装置の斜視図である。
【0037】
リンク作動装置50の原点姿勢が図5に示される。本明細書において、原点姿勢とは、基端側のリンクハブ2の中心軸QAと先端側のリンクハブ3の中心軸QBが一致している状態の姿勢を言う。すなわち、原点姿勢は、リンク作動装置50の折れ角θが0度の姿勢である。
【0038】
図6は、原点姿勢におけるリンク作動装置の模式図である。図2には、図1の原点姿勢における3組のリンク機構のうち1組のみについて示した正面図が示されており、図6には図2を簡略化したモデル図が示されている。リンク機構は、簡略化すると基端側および先端側の各リンクハブ、基端側および先端側の各端部リンク部材、ならびに中央リンク部材で表すことができる。
【0039】
リンク作動装置50のパラレルリンク機構1は、基端側のリンクハブ中心点PAを中心とする基端側の球面リンクGAと、先端側のリンクハブ中心点PBを中心とする先端側の球面リンクGBとが交わって成す平面である二等分面PL1を境に鏡面対称となる構成となっている。基端側の端部リンク部材5と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(A)と、先端側の端部リンク部材6と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(B)が交わる点Aは二等分面PL1上に存在する。また、基端側の端部リンク部材5と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(A)と、先端側の端部リンク部材6と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(B)とが成す角を軸角γと称する。中央リンク部材7が成す角度を中央角dと称する。中央角dは、正確には、基端側の端部リンク部材5と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(A)に垂直な直線と、先端側の端部リンク部材6と中央リンク部材7との回転対偶部の中心軸O2(B)に垂直な直線が、二等分面上で交わって成す角である。軸角γおよび中央角dは、パラレルリンク機構1を設計するときに決まる定数である。また、図6から、中央角dは、軸角γを用いるとd=π-γ(rad)で表すことができる。
【0040】
図7は、任意の姿勢(折れ角θ、旋回角φ)のリンク作動装置の斜視図である。図8は、図7のモデル図である。任意の姿勢(折れ角θ、旋回角φ)では、基端側のリンクハブ中心軸QAに対して先端側のリンクハブ中心軸QBが、ある角度(折れ角θ)を成す。
【0041】
点Aは常に二等分面PL1上に存在し、この点Aを一つの二自由度関節とみなすことができる。折れ角θの時、基端側のリンクハブ中心点PAと先端側のリンクハブ中心点PBを結ぶ直線と基端側のリンクハブ2の中心軸QAとが成す角はθ/2となる。また、基端側のリンクハブ中心点PAと先端側のリンクハブ中心点PBとを結ぶ直線と基端側のリンクハブ中心点PAと点Aを通る直線が成す角はd/2となる。パラレルリンク機構1はこれらの関係を維持したまま運動する機構である。
【0042】
パラレルリンク機構1は2自由度のため、2つのアーム回転角βが決まれば先端側のリンクハブ3の位置が決まる。パラレルリンク機構1の先端側のリンクハブ3の中心PBは、図8において、基端側のリンクハブ2の中心PAを中心Oとして半径D(図4)の球面GP上を運動する。
【0043】
以上では、実際の中心PB、点Aについて説明したが、これらの点を単位球面に投影し、単位球面における三角形のモデルを使用することによって、計算を簡単にすることができる。
【0044】
図9は、単位球面への点PB、点Aの投影について説明するための図である。図9では、基端側のリンクハブ2の中心PAを中心とする半径が1である単位球面GUが点PBおよび点Aよりも内側にある場合が示される。点PBと点PA(中心O)とを結ぶ直線が単位球面GUと交わる点を点Pとし、点Aと点PA(中心O)とを結ぶ直線が単位球面GUと交わる点を点Aとする。
【0045】
図10に示すように、各回転軸と基端側および先端側のリンクハブ中心点ベクトルと、単位球面GUとの交点を考える。本明細書における逆運動学式では、回転軸周りの回転量のみを考えるため、実際の回転対偶部がある座標は考慮しなくてよい。また、すべての点はOを中心に回転運動を行なうため、単位球面GUに投影された各交点の角度の関係は維持される。
【0046】
そのため、簡単のために、図10図13に示すような単位球面上の位置関係から逆運動学を導出できる。
【0047】
図10図13では、半径を1とした単位球面における球面三角形のモデルを示す。図10以降の球面GUは、中心Oからの距離を1とした単位球を示している。これにより、球面上の大円の円弧の長さが円弧の中心角と等しくなるため、後述する球面三角法の正弦・余弦定理を簡単に適用することができる。
【0048】
以上説明した構成のリンク作動装置50における順運動学および逆運動学について説明する。ロボット、マニュピレータ等の関節を制御する方法として順運動学(Forward Kinematics)と逆運動学(Inverse Kinematics)が知られている。本実施の形態の説明において、順運動学は、基端側のリンクハブ2に対して端部リンク部材5が成す角度から先端側のリンクハブの中心位置および方向が決まることを言う。また、逆運動学は、先端側のリンクハブの中心位置および方向から基端側のリンクハブ2に対して端部リンク部材5が成す角度が決まることを言う。なお、本実施の形態では順運動学、逆運動学は、ともに先端側のリンクハブ中心点の位置に対する計算を示しており、方向までは求めていない。しかし、先端側のリンクハブ中心点の位置が求まれば、機構の幾何学的性質から方向も簡単な計算で求められる。本実施の形態では、逆運動学を使用した演算について球面三角法を適用することを説明する。
【0049】
図10は、端部リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第1の図である。図11は、端部リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第2の図である。図10および図11を用いて逆運動学によって基端側の端部リンク部材5の角βを得る式の導出について説明する。逆運動学の計算では、図10に示す点P,A,Aからなる球面三角形Tと、図11に示す点P,A,A’からなる球面三角形Tを考える。ここで、点Aは基端側のリンクハブ3と基端側の端部リンク部材6との回転対偶部の中心軸がOを原点とし原点姿勢におけるPを頂点とする単位球面GUと交わる点を示す。A’は、点AからZ軸を中心に角度-αだけ回転した位置にある点を示す。
【0050】
図10に単位球と球面三角形のモデルが示される。一般的に、球面上の三点A,B,Cが成す球面三角形ABCは、辺BC,CA,ABをそれぞれa,b,cとし、弧ABと弧ACが成す角度をA、弧ABと弧BCが成す角度をB、弧CBと弧ACが成す角度をCとした場合、球面三角法より球面余弦定理が次の式(1)、球面正弦定理が式(2)で表される。
【0051】
【数1】
【0052】
【数2】
【0053】
図11に示す角e図10に示すeを求めることによって逆運動学の式が導出できる。まず球面三角形Tに対して式(1)の球面余弦定理を用いると以下の式(3)から式(4)を得る。
【0054】
【数3】
【0055】
【数4】
【0056】
同様に球面三角形Tに対して球面余弦定理を用いると以下の式(5)から式(6)を得る。
【0057】
【数5】
【0058】
【数6】
【0059】
∠AOAおよび∠AOA'はアーム角α、∠AOPはd/2であるため、角eおよび角eは以下の式(7)、式(8)で表される。
【0060】
【数7】
【0061】
【数8】
【0062】
アーム角αは基端側の端部リンク部材5の両端の回転対偶の軸が成す角度であり、部材の構造により決定する値である。また、∠AOP、∠A’OPは、先端側のリンクハブ中心点が決まれば演算できる角度である。したがってeおよびeは先端側のリンクハブ中心点を投影した点P(θ,φ)の関数となる。よって、原点姿勢の時の角βA1を0とした場合、角βA1は以下の式(9)で表すことができる。
【0063】
【数9】
【0064】
以上より、基端側の端部リンク部材5の、XY平面を基準とした回転角度βA1を、リンクハブ中心点を投影した点P(θ,φ)の関数として計算できることが示される。
【0065】
次に、中央リンク部材の第3回転軸周りの回転角θ12について、球面三角法の余弦定理を用いて計算する。図12は、中央リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第1の図である。図13は、中央リンク部材の回転角を得る逆運動学の式の導出の説明をするための第2の図である。図12および図13を用いて逆運動学によって中央リンク部材の回転角θ12を得る式の導出について説明する。
【0066】
図12図13の記号について説明する。点Oは、基端側のリンクハブ2の中心点PAであり、座標系の原点である。点Pは、点Oから先端側のリンクハブ3の中心点PBに向かうベクトルと、点Oを中心とする単位球面GUとの交点である。点Aは、第1回転軸(図3のO1)と単位球面GUとの交点である。点Aは、第3回転軸(図3のO2)と単位球面GUとの交点である。点A’は、点Aが第1回転軸(図3のO1)の回転によって動く軌道と、XY平面との交点である。角βA1は、基端側の端部リンク部材5の、XY平面を基準とした回転角度である。角θ12は、中央リンク部材7の第3回転軸(図3のO2)周りの回転角度である。
【0067】
また、図12図13に示されている端部リンク部材のアーム角αと、中央リンク部材7の軸角γは、パラレルリンク機構の設計時に決まる値である。
【0068】
なお、図13において、パラレルリンク機構の姿勢が異なるため、点Pの位置が図10図11とは異なる。このため、図13の球面三角形T,Tの形状も図11とは異なっている。
【0069】
ここで、図13に示すP-A-Aを結ぶ球面三角形Tは、単位球面上の三角形である。球面三角形の辺を成す2点と球の中心の作る角度は、辺の長さと等しい。また、∠POAは、点A、点Pの各座標が既知であることから、内積の定義より式(10)が成立する。
【0070】
【数10】
【0071】
次に、∠AOA’は機構のアーム角αと一致するため、下式(11)が成立する。
【0072】
【数11】
【0073】
また、∠POAは、図8の∠PB-O-Aと同じd/2であり、中央リンク部材7の軸角γを用いて表すことができ、下式(12)が成立する。
【0074】
【数12】
【0075】
したがって、回転角θ12は、球面三角形PAに、式(1)の余弦定理を適用し式変形すると、下式(13)が得られる。
【0076】
【数13】
【0077】
以上のように、逆運動学の式(9)で基端側の端部リンク部材5の角β(第1関節角度)を算出でき、逆運動学の式(13)で回転角θ12を算出できる。
【0078】
本実施の形態のリンク作動装置によれば、一般的な球面三角法を用いてリンク作動装置の逆変換の式を導出しているので、繰り返し演算を必要とせず、先端の現在位置の把握やアーム回転角β,θ12の算出を素早く行なうことが可能になる。さらに、近似誤差を含まないアーム回転角β,θ12が算出されるため、すべての姿勢制御用駆動源を同方向に回転させ一定のトルクを加えることで機構的なガタによるブレを抑える一定トルク負荷制御の精度が上がり、位置決め精度を向上させることができる。
【0079】
また、本実施の形態で示した計算手法は、任意のアーム角αに対して逆運動学の計算として適応可能であり、リンク作動装置の多様な設計仕様に対応できる。図14は、アーム角を変更した変形例のリンク作動装置の斜視図である。図14に示すリンク作動装置50Aの構成要素には、図1の相当する構成要素と同じ符号を付している。図1には、端部リンク部材5,6のアーム角αが90°のリンク作動装置50を例示したが、例えば、図14に示した端部リンク部材5,6アーム角αは80°である。このようなリンク作動装置50Aに対しても、本実施の形態で示した計算手法が適用できる。
【0080】
ここで、式(9)においては角度を用いているが、単位球においてある2直線が成す中心角とその弧長は等しいため、角度の代わりに弧長を用いた式を使用してもよい。正弦あるいは余弦関数の項は、単位球面で考えているので、例えば式(13)に示したようなベクトルPやAの内積を用いるか、あるいは外積のノルムを用いることによって、計算処理の負担を減らすこともできる。
【0081】
<逆運動学を用いた制御>
以上のように導出した逆運動学の計算式を用いて、制御装置100は、以下に示す制御を実行する。
【0082】
図15は、逆運動学によって先端側のリンクハブの中心点位置から基端側の端部リンク部材および中央リンク部材の角度を得る処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、パラレルリンク機構1によってエンドエフェクタ61の姿勢を変えながら作業する場合に制御装置100によって実行される。
【0083】
ステップS11において制御装置100は、入力装置または図示しない上位の制御装置から先端側のリンクハブの位置情報(目標位置)を受信する。そして、ステップS12,S13において制御装置100は、逆運動学について説明した式(1)~(9)を用いて、角βA1を算出し、同様な手順で角βA2も算出する。さらに、ステップS14において、制御装置100は、逆運動学について説明した式(10)~(13)を用いて、中央リンク部材の角θ12を算出する。
【0084】
さらに、ステップS15においては、現在の姿勢から目的の姿勢に至るまでのパラレルリンク機構とワークおよび周囲の装置との間の干渉が発生するかを確認する干渉シミュレーションが実行される。干渉シミュレーションは、例えば、姿勢が変更される状態を示す軌跡をグラフィックでディスプレイに表示するような処理を含んでも良い。そして、干渉シミュレーションに問題がなければ、ステップS16において制御装置100はアクチュエータ51を制御する。このような処理を繰り返すことによって、先端側リンクハブの位置および姿勢が所望の状態に制御される。
【0085】
<まとめ>
最後に、再び図を参照して本実施の形態について総括する。
【0086】
本開示のリンク作動装置50は、基端側の第1リンクハブ2と、先端側の第2リンクハブ3と、第1リンクハブ2と第2リンクハブ3とを連結する少なくとも3つのリンク機構4とを備える。少なくとも3つのリンク機構4の各々は、第1リンクハブ2に対して回転可能に連結された第1端部リンク部材5と、第2リンクハブ3に対して回転可能に連結された第2端部リンク部材6と、第1端部リンク部材5および第2端部リンク部材6の各々に対して回転可能に連結された中央リンク部材7とを含む。少なくとも3つのリンク機構4において、第1リンクハブ2と第1端部リンク部材5との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸O1(A)および、中央リンク部材7の一方端の回転対偶部の中心軸O2(A)は、第1リンクハブ中心点PAで交わり、第2リンクハブ3と第2端部リンク部材6との回転対偶部の少なくとも3つの中心軸O1(B)および中央リンク部材7の他方端の回転対偶部の中心軸O2(B)は、第2リンクハブ中心点PBで交わる。リンク作動装置50は、第2リンクハブ中心点PBの位置から第1端部リンク部材5の姿勢を示す角度βA1と中央リンク部材7の姿勢を示す角度θ12とを球面三角法を用いて演算するように構成される制御装置100をさらに備える。
【0087】
好ましくは、制御装置100は、第2リンクハブ中心点PBの位置から中央リンク部材7の姿勢を示す角度θ12を、既出の式(13)を用いて演算するように構成される。
【0088】
より好ましくは、制御装置100は、第2リンクハブ中心点PBの位置から第1端部リンク部材5の姿勢を示す角度θ12を、既出の式(7)~(9)を用いて演算するように構成される。
【0089】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 パラレルリンク機構、2,3 リンクハブ、4 リンク機構、5,6 端部リンク部材、7 中央リンク部材、10 土台、11,21 回転軸連結部材、12,15,22,25 回転軸体、12a 大径部、12b 小径部、20 先端部材、30 湾曲部材、31,31A 回転軸支持部材、50,50A リンク作動装置、51 アクチュエータ、52 減速機構、52a 出力軸体、53 モータ固定部材、54 フランジ面、55 スペーサ、56 ボルト、57 内径溝、58 フランジ取付面、61 エンドエフェクタ、100 制御装置、GA 球面リンク、GU 単位球面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15