(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104168
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】導電性部材及び該導電性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20230721BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230721BHJP
C01G 15/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
C01G15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005003
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】野本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】鯉田 崇
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
【テーマコード(参考)】
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
5G307FA02
5G307FB01
5G307FC03
5G307FC04
5G307FC09
5G307FC10
5G323BA02
5G323BB01
5G323BB02
5G323BB03
5G323BB05
5G323BB06
5G323BC03
(57)【要約】
【課題】導電性に優れ、かつ透光性の高い透明導電膜を有する導電性部材を提供する。
【解決手段】導電性部材は、基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、前記該基材が非耐熱性の基材であり、該透明導電膜が、酸化インジウムを含む結晶質粒子を含有し、キャリア電子の移動度が70cm2/V・s以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、
前記基材が非耐熱性の基材であり、
該透明導電膜が、酸化インジウムを含む結晶質粒子を含有し、キャリア移動度が70cm2/V・s以上である、導電性部材。
【請求項2】
前記基材が高分子材料で構成される、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記非耐熱性の基材の劣化開始温度が150℃未満である、請求項1又は2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記透明導電膜において、
電子顕微鏡による表面観察から求められる結晶質粒子の占める割合が90%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記透明導電膜において、電子顕微鏡による表面観察で、観察面積に対する、粒子面積が0.5μm2以上である結晶質粒子の合計面積の割合が50%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記酸化インジウムにドープ成分として、Ce、W、Ti、ZrおよびMoからなる群から選択される1種又は複数種を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記透明導電膜の抵抗率が4×10―4Ω・cm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記透明導電膜のシート抵抗が25Ω/□以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記基材と前記透明導電膜の間に、1層または複数層の中間層が設けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項10】
日射透過率が80%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項11】
光電変換デバイス、有機ELデバイス、ウェアラブルデバイス、透明TFT、透明ヒーター、赤外線通信用デバイスおよび赤外線センサのうちのいずれかに用いられる、請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法であって、
非耐熱性の基材に前記透明導電膜の前駆体を形成する工程と、
前記透明導電膜の前駆体に光を照射することにより前記前駆体を結晶化する工程と、
を有する、導電性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材及び該導電性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、電界放射ディスプレイ(FED)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED)等のフラットディスプレイの表示電極、電子ペーパー等の画像表示装置用透明電極、タッチパネル用透明電極、太陽電池用透明導電窓電極、熱線反射ガラス等の用途に広く利用されている。また、近年の携帯型移動端末の急激な小型化・軽量化に伴って、透明電極を設ける基材にも、さらなる軽量化が求められている。そのため、透明電極を設ける基材としては、ガラスに比べてより軽量な透明高分子基材が使用されつつある。
【0003】
透明導電膜をフラットディスプレイの透明電極として用いる場合には、低抵抗であることと、主に波長400nmから800nmまでの範囲内の光の透過率が高いことが必要とされる。このようなディスプレイでは透明導電膜を共通電極や、画素電極として用いた薄膜トランジスタ基板が用いられている。
透明導電膜の材料としては、可視領域(主に波長400nmから800nmの範囲内)の透光性に比較的優れ、低抵抗な酸化インジウムに酸化スズを適量添加したITOや酸化亜鉛を適量添加したIZOが利用されている。
その他、酸化インジウムの価格が高騰したことから、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズを主原料とした材料、金属ナノワイヤー、グラフェン等の酸化インジウムを含まない代替材料の検討が進んでいる。しかし、フラットディスプレイ用途において、透明導電膜の材料としては、未だに酸化インジウムを主原料とする材料が主に用いられている。
【0004】
一方、透明導電膜を太陽電池の透明電極として用いる場合には、透明導電膜には、低抵抗であることと、主に波長400nmの紫外線から1400nmの範囲までの赤外線まで含まれる太陽光スペクトルの波長範囲での光の透過率が高いことが必要とされる。これは、近赤外波長領域まで分光感度を持つ光電変換層を有する太陽電池や、分光感度の異なる光電変換層を積層した積層型太陽電池の場合では、その窓材に光電変換層の分光感度よりも狭い波長領域の透光性を有する透明導電膜を使用すると、発電層への光伝達の低下を招き、結果として発電効率の低下を招くからである。
【0005】
さらに、太陽光は2500nmまでの波長の赤外線を含んでおり、太陽光のエネルギーをできるだけ多く利用するには、より長波長で作用する太陽電池の開発とともに、より長波長での透過率の高い透明導電膜が求められる。
【0006】
また、1550nmの波長が用いられている光通信用デバイス用途、赤外線センサ用途としても高い赤外線透過率の透明導電膜が求められている。
【0007】
一般に、物質に光が入射すると、一部の光が反射あるいは物質内で吸収され、残りが透過する。透明導電材料はn型の縮退した半導体であり、キャリアである電子が電気伝導に寄与する。またこのキャリアである電子はある波長以上の光を反射及び吸収する。その光の波長は、プラズマ周波数:wp=√(Ne2/(m*ε))(N:キャリア密度,e:素電荷,m*:電子の有効質量,ε:誘電率)で定義され、キャリア密度に依存し、一般に近赤外領域に存在する。例えば、一般に用いられている前記のITO薄膜はキャリア密度が1×1021cm-3程度で抵抗率は2×10-4Ω・cmと非常に低いが、例えば非特許文献1に示されているように1000nm以上の赤外線は吸収したり反射したりして殆ど通さない。
また、一般に物質の抵抗率は1/(Ne*μ)(μ:移動度)で定義され、キャリア密度とキャリア移動度の積に反比例する。そのため、赤外透過率を上げるためにはキャリア密度を少なくすれば良いが、抵抗率を下げるには移動度を大きくする必要がある。
【0008】
従来材料の低抵抗酸化物導電膜の移動度は、例えば非特許文献1で報告されているようにITO膜で約20~30cm2/V・sである。キャリア密度1×1019cm-3以上の薄膜の移動度は主にイオン化不純物や中性不純物散乱に支配されている。ここでITO薄膜におけるイオン化不純物としては添加物である錫イオン以外に酸素空孔、格子間インジウムなどの点欠陥あるいはそれらが関与した複合型欠陥が挙げられる。キャリア密度を増大させるために添加する不純物の量が多くなるに従い、イオン化不純物散乱の影響を受け、その移動度は減少する。
【0009】
ITO製膜時に酸素導入量を増やすことにより酸素空孔を少なくし、近赤外線透過率を向上させることは可能である。しかしこの方法では中性不純物が増大し、それによる移動度の低下が生じ、抵抗率が上昇する。
【0010】
非特許文献2~4には、酸化インジウムに酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンを適量添加することにより、非特許文献5には、酸化インジウムに酸化タングステンを適量添加することにより、それぞれ80cm2/V・s以上のキャリア移動度が得られることが知られている。
【0011】
一方、これらの膜の形成には、成膜時に加熱が必要であるため、基材としてガラス基材のような無機基材を用いる場合には製造できるものの、高分子基材を用いる場合、変形、変色等の基材の耐熱性に係る問題が生じることがあるため、製造することは困難である。そのため、非特許文献6が示すように、高分子基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合では、酸化インジウムに酸化タングステンを添加した場合には得られるキャリア移動度は61.6cm2/V・sである。
【0012】
非特許文献3には、酸化インジウムに水素を適量添加、もしくは水素と酸化タングステンまたは酸化セリウムを適量共添加することにより、約100cm2/V・s以上のキャリア移動度が得られることが示されている。これらの膜の形成は2段階からなり、室温から100℃以下の温度で酸化インジウムや、酸化タングステンまたは酸化セリウムを添加した酸化インジウムを製膜する時に水蒸気を導入することにより、製膜中における透明導電膜の結晶化を防ぐことができる効果があり、アモルファスまたはアモルファス成分が多結晶成分に比べて多い前駆体膜を形成する。その膜を形成後、大気中もしくは真空中において、150℃を超える温度、好ましくは200℃以上の温度の熱処理で結晶化を施すことで、高い移動度を達成している。
【0013】
特許文献1には、フィルム基板上に移動度が高い酸化インジウム膜を形成した例が示されている。耐熱性の高いフィルムであるポリエチレンナフタレート、ポリイミド基材上に形成したもので、170℃以上のアニールで移動度が70cm2/V・s以上が得られている。しかしながら、150℃以下の耐熱温度である基材上で高移動度の透明導電膜は達成できていない。
【0014】
透明導電膜の移動度を高くするには、散乱中心となる粒界が少ないほうがよく、結晶粒径が大きいほうが好ましい。特許文献2には、フィルム上で熱処理により、1.4μmの結晶粒を形成した実施例がある。しかしながら、移動度の記載はなく、170Ω/□のシート抵抗にとどまっている。また、特許文献2では剥離抑制のための応力緩和を目的としており、小さい粒径から大きい粒径まで広い粒径分布を持っていることが好ましいとされていることから、2000nmを超えるとペン入力に対する耐久性が悪くなり、好ましくない。
【0015】
特許文献3、4には、高分子基材上に光照射によって透明導電膜結晶を形成した例が示されている。しかし特許文献3では微結晶が得られるものの、移動度は40cm2/V・s程度である。特許文献4では、加熱と併用したランプを用いてアモルファスの存在しない透明導電膜を得ているものの、結晶粒の状態や移動度についての開示は無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】H. Fujiwara et al., Phys. Rev. B 71 (2005) 075109.
【非特許文献2】M. F. A. M. van Hest, et al., Appl. Phys. Lett., 87 (2005) 032111.
【非特許文献3】T. Koida et al., J. Appl. Phys., 101 (2007) 063713.
【非特許文献4】P. F. Newhouse, et al., Appl. Phys. Lett., 87 (2005) 112108.
【非特許文献5】T.Koida et al., Phys. Status Solidi A, 215 (2018) 1700506.
【非特許文献6】J.-G. Kim, eta al., AIP Advances 8 (2018) 105122.
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第5510849号公報
【特許文献2】特開2003-94552号公報
【特許文献3】特開2020-77637号公報
【特許文献4】特開2006-286308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前述したように、高いキャリア移動度をもつ透明導電膜の形成には、加熱が必要であるため、基材としてガラス基材のような無機基材を用いる場合には製造できるものの、高分子基材を用いる場合、変形、変色等の基材の耐熱性に係る問題が生じることがあるため、製造することは困難である。そのため主に400nm~1600nmの広い波長領域における低い抵抗率と高い透光性を兼ね備えた透明導電膜を、高分子基材上に製造したという報告はない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、導電性に優れ、かつ透光性の高い透明導電膜を有する導電性部材、及び該導電性部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る導電性部材は、基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、その透明導電膜は光照射により結晶化及び結晶成長した酸化インジウムを含んでいる。光照射は、熱に代わって透明導電膜の結晶化を促進させる手段で、加熱によって変形、変色、燃焼等劣化するような耐熱性に難のある高分子基材上への結晶質透明導電膜形成に対して有効な手段である。
【0020】
光照射により透明導電膜の結晶化を促進すれば、加熱が制限される低耐熱性基材上で、透明導電膜の結晶化を促し、透明導電膜の特性改善、すなわち、透明導電膜のキャリア移動度上昇による低抵抗化、および透明導電膜の透過率の向上が得られる。このため、高温処理を経ることなく低抵抗性に優れる導電性部材を得ることができる。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、光照射によって透明導電膜の結晶化を促進し、粒径の大きな結晶質粒子を低耐熱基材上に形成し、キャリア移動度が高く、赤外透過性の高い導電性部材を得た。
【0021】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、
前記基材が非耐熱性の基材であり、
該透明導電膜が、酸化インジウムを含む結晶質粒子を含有し、キャリア移動度が70cm2/V・s以上である、導電性部材。
【0022】
[2]前記基材が高分子材料で構成される、上記[1]に記載の導電性部材。
【0023】
[3]前記非耐熱性の基材の劣化開始温度が150℃未満である、上記[1]又は[2]に記載の導電性部材。
【0024】
[4]前記透明導電膜において、
電子顕微鏡による表面観察から求められる結晶質粒子の占める割合が90%以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の導電性部材。
【0025】
[5]前記透明導電膜において、電子顕微鏡による表面観察で、観察面積に対する、粒子面積が0.5μm2以上である結晶質粒子の合計面積の割合が50%以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の導電性部材。
【0026】
[6]前記酸化インジウムにドープ成分として、Ce、W、Ti、ZrおよびMoからなる群から選択される1種又は複数種を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の導電性部材。
【0027】
[7]前記透明導電膜の抵抗率が4×10―4Ω・cm以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の導電性部材。
【0028】
[8]前記透明導電膜のシート抵抗が25Ω/□以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の導電性部材。
【0029】
[9]前記基材と前記透明導電膜の間に、1層または複数層の中間層が設けられる、上記[1]~[8]のいずれかに記載の導電性部材。
【0030】
[10]日射透過率が80%以上である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の導電性部材。
【0031】
[11]光電変換デバイス、有機ELデバイス、ウェアラブルデバイス、透明TFT、透明ヒーター、赤外線通信用デバイスおよび赤外線センサのうちのいずれかに用いられる、上記[1]~[10]のいずれかに記載の導電性部材。
【0032】
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の導電性部材の製造方法であって、
非耐熱性の基材に前記透明導電膜の前駆体を形成する工程と、
前記透明導電膜の前駆体に光を照射することにより前記前駆体を結晶化する工程と、
を有する、導電性部材の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、抵抗率が低く、かつ光の透過率の高い透明導電膜を有する導電性部材を提供することができる。
本発明の光照射により結晶化を促した透明導電膜は、従来材料であるITO薄膜に比べ可視領域および近赤外領域において透明性に優れている。さらに、透明導電膜の抵抗が低いことから、光電変換素子等におけるエネルギー効率が向上する。特に従来では、不可能であった非耐熱基材上の低抵抗透明導電膜が可能となり、フレキシブルデバイスや軽量デバイスへの応用が見込まれる。また、その膜は室温大気圧プロセスにて製造することが出来るため、産業上きわめて有用な発明といえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1(a)は、本実施形態に係る導電性部材の概略構成を示す断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の変形例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、比較例1~3及び実施例1~7について透明導電膜のキャリア密度とキャリア移動度の相関を示す図である。
【
図3】
図3(a)~(f)は、それぞれ比較例1~3及び実施例1、3、4で得られた導電性部材の表面SIM観察の結果を示す画像である。
【
図4】
図4(a)~
図4(d)は、それぞれ比較例2、3及び実施例1、3で得られた導電性部材の表面EBSD観察の結果を示す画像である。
【
図5】
図5は、比較例2、3及び実施例1~3における結晶質粒子の面積を比較し、粒子径を粒子面積の頻度分布として解析を行った結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3及び比較例1で得られた透明導電膜の透過率スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の導電性部材の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0036】
[導電性部材]
図1は、本実施形態に係る導電性部材の概略構成を示す断面図である。本実施形態の導電性部材は、
図1(a)に示すように、基材1と、基材1上に形成された透明導電膜3と、を有する。すなわち、本実施形態の導電性部材では、透明導電膜が基材の一方の面(
図1(a)では上面)に形成されている。さらに
図1(b)に示すように、基材1と透明導電膜3の間に中間層2を有してもよい。
【0037】
基材は、非耐熱性の基材である。非耐熱性の基材とは、透明導電膜の成膜時及び/又は結晶化時に加えられる熱によって劣化が生じる基材を意味する。また、熱による劣化とは、加熱することによって、基材の反り、収縮などの変形などが生じることを指す。また、本実施形態の基材としては、透明性を有する基材が好適に用いられる。導電性部材を軽量化し、かつ導電性部材が可撓性を有する必要がある場合には、基材としては、可撓性のある高分子基材が好適に用いられる。
【0038】
上記非耐熱性の基材は、例えば高分子材料で構成される。この場合、基材の材料としては、特に限定されないが、例えば、高分子材料として、アクリル樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイト等が挙げられる。非耐熱性の基材は、これらのいずれかの材料で構成される単層で構成されてもよいし、これらのいずれかの材料で構成される層の複数が積層された積層体であってもよい。また、非耐熱性の基材は、ガラスのような耐熱性基材の上に後述する機能性素子などが積層された複合基材であってもよい。
【0039】
また、上記非耐熱性の基材は、耐熱性の基材(第1基材)の上に非耐熱性の基材(第2基材)が積層された積層体であって、全体として非耐熱性の基材となっているものを含む。例えば、上記非耐熱性の基材は、石英ガラス、ホウケイ酸塩ガラスなどのガラス基材上に機能性素子などが積層された複合基材であってもよい。このような機能性素子としては、例えば太陽光発電素子が挙げられ、太陽光発電素子としては、例えば、ペロブスカイト型の結晶構造を有する材料で構成される層を有する積層体が挙げられる。ハロゲン化ペロブスカイトは、例えば無機ハロゲン化ペロブスカイトや、有機ハロゲン化ペロブスカイト、ハロゲン混合型ペロブスカイトである。ハロゲン化ペロブスカイトは、例えば170℃程度の熱によって分解或いは劣化を生じることから、ハロゲン化ペロブスカイトで構成される層或いは当該層を有する複合基材上に透明導電膜が形成された構成も、本発明の導電性部材に含み得る。
【0040】
上記ハロゲン化ペロブスカイトは、式ABX3で表すことができる。式中、Aは、例えばメチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA)、エタンジアンモニウム(EA)、イソプロピルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、グアニジニウム、ピペリジニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、イミダゾリウム、t-ブチルアンモニウム、Na、K、Rb、Csから選択される1種又は複数種である。Bは、例えばPb、Sn、Ge、Cu、Sr、Ti、Mn、Bi、Znから選択される1種又は複数種である。Xは、F、Cl、Br、Iから選択される1種又は複数種である。
【0041】
高分子材料で構成される非耐熱性の基材(以下、単に高分子基材ともいう)においては、上記の熱による劣化とは、例えば加熱することによって、アモルファスから結晶などの相変態が起こること、それによって光の透過性に変化があることを意味し、また、上記機能性素子を含む非耐熱性の基材においては、上記の熱による劣化とは、例えばその機能が加熱によって減じられることを意味する。加熱によって特性が損なわれる基材であれば、それ以外の特性等に制限は無く、公知の高分子材料で構成される基材或いは公知の機能性素子を含む基材に本発明を適用することが可能である。
【0042】
非耐熱性の基材の劣化開始温度は、特に制限されないが、例えば150℃未満であり、130℃以下であってもよいし、120℃以下であってもよい。
【0043】
基材の厚さは、導電性部材の用途に応じて決定されるため、特に限定されない。基材が透明な基材である場合、基材の厚さは、基材の透明性を損なわない厚さであれば、特に限定されない。
基材の厚さは、通常、20μm~2mmであり、30μm~1mmであることが好ましく、50μm~500μmであることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の透明導電膜は、酸化インジウムを含む結晶質粒子を含有し、キャリア移動度が70cm2/V・s以上である。更なる低抵抗率の観点からは、キャリア移動度が80cm2/V・s以上であるのが好ましく、90cm2/V・s以上であるのがより好ましく、100cm2/V・s以上であるのが更に好ましく、110cm2/V・s以上であるのが特に好ましい。
【0045】
透明導電膜は、例えばインジウム(In)の酸化物である酸化インジウム(In2O3)を主成分とする材料で構成される。上記酸化インジウム(In2O3)に他の元素がドープ成分として含まれていてもよい。例えば、酸化インジウムにドープ成分として、Ce、W、Ti、ZrおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種又は複数種が含まれていてもよい。このような材料の具体例としては、インジウム-セリウム(ICO)酸化物、インジウム-タングステン(IWO)酸化物、インジウム-チタン(ITiO)酸化物、インジウム-ジルコニウム(IZrO)酸化物、インジウム-モリブデン(IMoO)酸化物等が挙げられる。透明導電膜は、上記酸化インジウム等の金属酸化物の他に、更に水素を含有していてもよい。また、透明導電膜は、上記酸化インジウム等の金属酸化物の他に、亜鉛、ガリウムなどを混合していてもよい。更に、不可避不純物が透明導電膜に含まれてもよい。
【0046】
ドープ成分が含まれる割合は、透明導電膜としての機能が発揮されるのであれば、特に限定されず、主成分、ドープ成分に応じて適宜決定される。具体的には、透明導電膜がインジウム-セリウム(ICO)酸化物である場合、ドープ成分の割合は、好ましくは1~3%である。透明導電膜がインジウム-タングステン(IWO)酸化物である場合、ドープ成分の割合は、好ましくは1~2%である。透明導電膜がインジウム-ジルコニウム(IZrO)酸化物である場合、ドープ成分の割合は、好ましくは1~3%である。透明導電膜がインジウム-モリブデン(IMoO)酸化物である場合、ドープ成分の割合は、好ましくは1~3%である。
【0047】
透明導電膜における結晶質粒子の割合は、電子顕微鏡による表面観察によって求めることができる。後方散乱電子回折(EBSD)による結晶方位解析を併用し、電子顕微鏡観察像の範囲内での結晶質粒子が含まれる面積割合を透明導電膜中に含まれる結晶質粒子の割合として定義できる。電子顕微鏡による表面観察から求められる結晶質粒子の割合が90%以上であるのが好ましい。結晶質粒子の割合が90%以上であれば、透明導電膜において70cm2/V・sの高いキャリア移動度が達成可能となる。さらに、高いキャリア移動度の透明導電膜を得るには、結晶質粒子の割合がより高いほうが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0048】
透明導電膜の結晶質粒子の大きさは、特に限定されないが、高い電子移動度の発現には大きいほうが好ましい。透明導電膜の結晶粒径の分布は、後方散乱電子回折(EBSD)による結晶方位解析により評価できる。電子顕微鏡による表面観察で、顕微鏡画像内で観測される結晶質粒子の面積が0.5μm2以上である粒子が多いほど好ましく、観察面積に対する、粒子面積が0.5μm2以上である結晶質粒子の合計面積の割合が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0049】
透明導電膜の厚さは、特に限定されず、適用するものに応じて適宜調整されるが、例えば、50nm以上であることが好ましい。
【0050】
透明導電膜の抵抗率は、van der Pauw法を用いたホール効果測定を行うことで測定される。抵抗率とともに、キャリア密度、キャリア移動度も測定される。
【0051】
透明導電膜は、抵抗率が4×10-4Ω・cm以下であることが好ましく、3.5×10-4Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0052】
透明導電膜のシート抵抗は、抵抗率を膜厚で除した値となる。透明導電膜の抵抗率が4×10-4Ω・cm以下であること、あるいは、シート抵抗が25Ω/□以下であることにより、各種素子への応用に実用的に使用可能となる。
【0053】
透明導電膜は、キャリアに起因する透過率の低下を更に抑制する観点からは、キャリア密度が1.5×1020cm-3~3.5×1020cm-3であるのが好ましく、1.7×1020cm-3~3.0cm-3であるのがより好ましく、1.8×1020cm-3~2.5cm-3であるのが更に好ましい。
【0054】
透明導電膜の透明性は、透明導電膜の可視光透過率によって定義される。
透明導電膜の可視光透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
透明導電膜の可視光透過率が70%以上であれば、透明導電膜の種々の応用において、充分な視認性を確保できる。
【0055】
透明導電膜の可視光透過率は、日本工業規格:JIS-R-3106に準拠する測定方法によって測定される。
【0056】
透明導電膜の日射透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。基材と透明導電膜合わせた部材の日射透過率が70%以上であれば、光電変換デバイスの種々の応用において、充分なエネルギー効率を確保できる。
【0057】
透明導電膜、導電性部材の日射透過率は、日本工業規格:JIS-R-3106に準拠する測定方法によって測定される。
【0058】
また、上述のように、基材と透明導電膜の間に、1層または複数層の中間層が設けられてもよい。光照射によって劣化が生じる基材を用いる場合に、中間層を用いることは有効な手段である。例えば、耐熱性の悪い高分子基材を用いた時の、中間層の役割は以下の通りである。発明者らの知見によれば、透明導電膜に強い光を照射すると、そのエネルギーを吸収して、透明導電膜が発熱する。しかし透明導電膜に照射した光が全て、エネルギーとして透明導電膜に吸収されない場合、当該エネルギーが熱として高分子基材に伝達し、高分子基材が加熱または分解され、縮小、変形などが生じる。また、変形などを生じない場合でも、透明導電膜と高分子基材との熱膨張係数の違いから、透明導電膜に亀裂が発生することがある。本発明者等は、高分子基材と透明導電膜の間に適切な中間層を介在させることにより、光を照射した際の高分子基材の温度上昇を低減する構造を見出している。中間層については、特開2020-77637号公報に記載された構成及び形成方法を適用することができる。
【0059】
中間層としては、基材、中間層及び後述する透明導電膜の前駆体で構成される層をこの順に有する積層体に、透明導電膜の前駆体側から光を照射した際に、基材がその光によって加熱されるのを抑制する効果を有する材料からなるものが好ましい。
【0060】
導電性部材全体が透明性を有する必要がある場合には、中間層としては、透明な材料が好適に用いられる。
基材と中間層を合わせた可視光透過率は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0061】
基材と中間層を合わせた可視光透過率は、日本工業規格:JIS-R-3106に準拠する測定方法によって測定される。
【0062】
中間層の厚さは、透明性、可撓性、中間層の材質等を考慮して決定されるため、特に限定されない。
中間層の厚さは、通常、10nm~100μmであり、20nm~1μmであることが好ましく、50nm~300nmであることがより好ましい。中間層の厚さが薄過ぎると、透明導電膜側から部材に光を照射した際に、基材が、その光によって加熱されるのを抑制する効果が充分に得られず、基材の熱による劣化を低減する効果が弱くなる。
【0063】
中間層は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。これらの金属の酸化物、窒化物および酸窒化物は、他の元素を含んでいてもよく、混合物であってもよい。また、これらの金属の酸化物、窒化物および酸窒化物は、絶縁性であってもよく、導電性であってもよい。これらの金属の酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、スズ酸カルシウム(CaSnO3)等が挙げられる。
【0064】
[導電性部材の製造方法]
本実施形態の導電性部材の製造方法は、必要に応じて基材上に中間層を形成する工程(以下、「中間層形成工程」と言うこともある。)と、非耐熱性の基材上又は該非耐熱性の基材上に形成された中間層上に、透明導電膜の前駆体を形成する工程(透明導電膜形成工程)と、上記透明導電膜の前駆体に光を照射することにより、前記前駆体を結晶化する工程(結晶化工程)と、を有する。
【0065】
(中間層形成工程)
本実施形態の導電性部材の製造方法では、必要に応じて非耐熱性の基材上に中間層を形成する。中間層を形成することにより、後の光照射工程において、中間層がない場合に発生しうる非耐熱性の基材の変形、劣化、或いは非耐熱性の基材と透明導電膜の熱膨張率差によるクラック発生を防ぐ効果が期待できる。
【0066】
非耐熱性の基材上に中間層を形成(成膜)する方法としては、特に限定されず、例えば、真空蒸着法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波マグネトロンスパッタリング法、高周波重畳直流マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着法(PVD法)、原料を反応させて堆積させる化学的蒸着法(CVD法)、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等の塗布法等が用いられる。
直流アーク放電を用いたイオンプレーティング法は、真空チャンバ内に、蒸着源として中間層の材料を設置し、直流アークプラズマにより、昇華させ、その原子を非耐熱性の基材の一方の面に付着(堆積)させる方法である。また、スパッタリング法は、真空チャンバ内に、ターゲットとして中間層の材料を設置し、ターゲット表面にイオン化させた希ガス元素等を衝突させて、中間層の材料の原子をはじき出し、その原子を基材の一方の面に付着(堆積)させる方法である。
【0067】
中間層の材料は、上記のケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。
【0068】
(透明導電膜形成工程)
次に、非耐熱性の基材上又は非耐熱性の基材上に堆積させた中間層上に、透明導電膜を形成する。
【0069】
透明導電膜を形成(成膜)する方法としては、特に限定されず、例えば、真空蒸着法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波マグネトロンスパッタリング法、高周波重畳直流マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着法(PVD法)、原料を反応させて堆積させる化学的蒸着法(CVD法)、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等の塗布法等が用いられる。
【0070】
一例としてスパッタリング法を用いる場合、ターゲットは、例えばインジウム(In)の酸化物である酸化インジウム(In2O3)を主成分とする材料で構成される。また、上記酸化インジウム(In2O3)に他の元素がドープ成分として含まれていてもよい。例えば、酸化インジウムにドープ成分として、Ce、W、Ti、ZrおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種又は複数種が含まれていてもよい。このような材料の具体例としては、インジウム-セリウム(ICO)酸化物、インジウム-タングステン(IWO)酸化物、インジウム-チタン(ITiO)酸化物、インジウム-ジルコニウム(IZrO)酸化物、インジウム-モリブデン(IMoO)酸化物等が挙げられる。
【0071】
透明導電膜の材料は、上述のように、インジウム(In)の酸化物である酸化インジウム(In2O3)を主成分とする材料で構成される。酸化インジウムにドープ成分として、Ce、W、Ti、Zr、およびMoからなる群から選択される1種又は複数種を含んでもよい。また、透明導電膜は、上記酸化インジウム等の金属酸化物の他に、更に水素を含有していてもよい。水素は、例えば膜形成時にチャンバ内に存在し、透明導電膜に取り込まれる場合があるため、水素が透明導電膜に含まれていてもよい。また、原料ペレット或いはターゲットに含まれる不純物が不可避不純物として透明導電膜に含まれてもよい。
【0072】
(結晶化工程)
次に、非耐熱性の基材上又は中間層上に形成された透明導電膜の前駆体に光を照射して、該前駆体を結晶成長させる。この際、非耐熱性の基材が劣化しない程度に加熱してもよい。また、光を照射する方向は、特に制限されないが、基材及び透明導電膜の前駆体で構成される層を有する積層体に、透明導電膜の前駆体側から光を照射するのが好ましい。非耐熱性の基材上に中間層を形成した場合には、基材、中間層及び透明導電膜の前駆体で構成される層を有する積層体に、透明導電膜の前駆体側から光を照射するのが好ましい。
【0073】
透明導電膜に照射する光は、特に限定されず、例えば、波長193nmのArFエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザ、波長308nmのXeClエキシマレーザ、紫外線、可視光線、赤外線が用いられる。これらの中でも、光子のエネルギーが高く、かつ透明導電膜が光のエネルギーを吸収することで結晶化促進が可能であるという点から、エキシマレーザを含む紫外線が好ましい。
透明導電膜に光を照射するための光源としては、特に限定されず、例えば、エキシマランプ、エキシマレーザ、YAGレーザ、色素レーザ、フェムト秒レーザ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、マイクロ波励起メタルハライドランプ、マイクロ波励起水銀ランプ、フラッシュランプ等が用いられる。
【0074】
透明導電膜に光を照射する際の雰囲気は、特に限定されず、大気中、真空中、酸素ガス中、窒素ガス中、希ガス中、水素中、またはこれらの混合雰囲気中のいずれであってもよい。雰囲気ガスは、管状炉などを用いた気流中でもよく、流れのないチャンバ中で行ってもよい。
【0075】
光照射の際に加熱を同時に行ってもよく、透明導電膜に光を照射する際の温度は、必ずしも室温である必要はない。基材の変形、劣化などを生じさせない範囲で加熱してもよく、室温から100℃が好適に用いられる。
【0076】
透明導電膜に照射する光の強度は、20mJ/cm2以上であることが好ましく、30mJ/cm2以上であることがより好ましい。
透明導電膜に照射する光の強度が20mJ/cm2以上であれば、透明導電膜に充分に結晶化が促進される。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1~4、比較例1~3)
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材を準備した。
この基材上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、SiO2を堆積し、SiO2からなる厚さ150nmの中間層を形成した。
さらに、中間層の上に、直流アークプラズマを用いるイオンプレーティング装置を用いて、インジウム-セリウム酸化物(ICO)を堆積し、ICOからなる厚さ150nmの透明導電膜を形成した。このとき用いた原料ペレットの組成は、金属比として、In:Ce=98:2を用いた。(比較例1)
得られた透明導電膜に、結晶化工程として、波長248nmのKrFエキシマレーザを2500ショット(比較例2)、5000ショット(比較例3)、10000ショット(実施例1)、12500ショット(実施例2)、15000ショット(実施例3)、30000ショット(実施例4)で照射し、導電性部材を得た。KrFエキシマレーザのエネルギー密度を40.0mJ/cm2とした。また、KrFエキシマレーザの繰り返し周波数を50Hzとした。
【0079】
(比較例4、5」
PET基材の上に比較例1と同様にして透明導電膜を形成し、導電性部材を得た。得られた導電性部材を100℃又は150℃において熱処理を行った。すなわち、実施例1~4のレーザ照射の代わりに加熱を行った。
加熱温度100℃では、X線回折ではっきりとした結晶化が確認できず、加熱温度150℃では、導電性部材の反りが大きかった。
【0080】
(実施例5~6」
結晶化工程を100℃の加熱下で、KrFエキシマレーザを強度45mJ/cm2、15000ショット(実施例5)、強度40mJ/cm2、30000ショット(実施例6)で照射したこと以外は、実施例1~4と同様にして導電性部材を得た。
【0081】
(実施例7」
結晶化工程を酸素雰囲気、100℃の加熱下で行ったこと以外は、実施例3と同様にKrFエキシマレーザを照射して導電性部材を得た。
【0082】
実施例1~7及び比較例1~3で得られた透明導電膜及び導電性部材を、以下の方法で測定、評価した。
【0083】
(形状変化の確認)
得られた導電性部材について、肉眼による形状変化を観察した。透明導電膜の明らかなクラックが確認されず、部材そのものの反りがみられないものを劣化なしと判断した。その結果、実施例1~7では、導電性部材では形状変化が見られず、劣化なしであることが確認された。
【0084】
(結晶化の確認)
実施例1~7及び比較例1~5で得られた導電性部材の透明導電膜について、X線回折法を用いて測定した。CuKα線を用いたX線回折測定により、2θ=30.5°付近に現れるビックスバイト構造 In2O3 を起源とする222回折が認められたものについて、結晶化していると判断し、表1の結晶化(XRD)欄に「〇」で示した。その結果、実施例1~7では透明導電膜が結晶化していることが確認された。
【0085】
(電気特性の測定)
実施例および比較例で得られた導電性部材の透明導電膜について、抵抗率、キャリア密度及びキャリア移動度の測定を以下のようにして行った。比抵抗/ホール測定システム(東陽テクニカ社製、ResiTest 8300)を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜の抵抗率、キャリア密度及びホール移動度を得た。ここでは、得られたホール移動度をキャリア移動度とした。部材の反りがあった比較例5については、ホール効果測定は行わなかった。
【0086】
図2は、比較例1~3及び実施例1~7について透明導電膜のキャリア密度とキャリア移動度の相関を示す図である。図中、破線で示す曲線は等抵抗率線を表している。
図2の結果から、キャリア密度はほぼ2×10
20cm
-3のままレーザのショット数が増えるとキャリア移動度が大きくなることが確認された。また、キャリア移動度が高くなるに伴い、抵抗率が大きく下がることが確認された。実施例2~7では、抵抗率が3×10
―4Ω・cm以下であった。
【0087】
また、比較例1~3及び実施例1~7についてシート抵抗を算出した。シート抵抗は、van der Pauw法で透明導電膜の抵抗率を測定し、透明導電膜の実用的な抵抗を表すシート抵抗(抵抗率/膜厚)を求め、シート抵抗の値が低いほど電気特性が良好と判断した。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1の結果から、実施例1~7においては、高分子基板上に透明導電膜を形成しており、シート抵抗は、25Ω/□以下を実現できた。特に、実施例2~7においてはシート抵抗は、顕著に低い20Ω/□以下を実現できた。キャリア移動度は、実施例1~7で70cm2/V・s以上であった。特に、実施例2~7においては、キャリア移動度は、格段に高い110cm2/V・s以上であった。キャリア移動度が70cm2/V・s以上であれば、光電変換素子への応用上、赤外線の十分な透過率が期待できる。
【0090】
(結晶質粒子の形態、粒径)
導電性部材の透明導電膜において、キャリア移動度が高くなる原因を明らかにするために、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査イオン顕微鏡(SIM)による観察、および、後方散乱電子回折(EBSD)による結晶方位解析を行い、結晶質粒子の形態観察、粒径解析を行った。
【0091】
図3は、比較例1~3及び実施例1、3、4の導電性部材の表面SIM観察の結果を示す画像である。KrFエキシマレーザを照射する前では、結晶化した粒子は見られない(比較例1:
図3(a))。レーザを2500ショット、5000ショット照射した後は(比較例2、3:
図3(b)、
図3(c))、結晶質粒子が形成されつつあるが、割合は少ない。一方、レーザを10000ショット以上照射した例(実施例1、3、4:
図3(d)、
図3(e)、
図3(f))では、結晶粒径がおよそ1μm以上の多角形形状の結晶を含み、ほぼ全面に結晶が形成されていることが確認された。
【0092】
図4は、比較例2、3及び実施例1、3の導電性部材の表面EBSD観察の結果を示す画像である。
図4の結果から、KrFエキシマレーザを照射した後は、KrFエキシマレーザを照射する前と比べて、結晶粒径がおよそ1μm以上の多角形形状の結晶を含み、ほぼ全面に結晶が形成されていることが確認された。
【0093】
表面EBSDから結晶方位解析を行い、粒径解析を行った。観察面積に対する結晶質粒子の占める面積の割合を結晶化度(%)、すなわち結晶質粒子の割合とした。ここで、結晶質粒子として認識されるのは、EBSDの測定限界以上である直径およそ0.08μm以上の粒子である。
図5のように、比較例2、3及び実施例1~3における結晶質粒子の面積を比較し、粒子径を粒子面積の頻度分布として解析を行った。以下のように、粒子面積が0.5μm
2以上の結晶質粒子が占める面積割合(%)をF
0.5、1μm
2以上の粒子が占める面積割合(%)をF
1.0で定義した。
F
0.5=面積が0.5μm
2以上の粒子が占める面積の合計/観察面積の全体×100(%)
F
1.0=面積が1.0μm
2以上の粒子が占める面積の合計/観察面積の全体×100(%)
図5には、一例として、実施例1における結晶化度、F
0.5、F
1.0の求め方を破線で示してある。結晶化度、F
0.5、F
1.0は、それぞれ粒子面積が0μm
2、0.5μm
2、1.0μm
2から垂直にたどり、累積面積割合の曲線と交差した点から右にたどり、右軸の目盛りを読むことで求めた。
さらに、各粒子を円と仮定した面積円相当径を用いて平均粒子径を求めた。平均粒子径は、結晶質粒子のみについて面積による重みづけを用いた面積平均径とした。比較例2、3、実施例1~3の結晶化度(%)、F
0.5(%)、F
1.0(%)、平均粒径(μm)を表2に示した。
【0094】
【0095】
表2の結果から、結晶化度が90%以上であると、キャリア移動度が高く80cm2/V・s以上となることが確認された。また、結晶質粒子が大きいほどキャリア移動度が高く、大きい結晶質粒子の占める割合が高いほどキャリア移動度が高いことが確認できた。特に0.5μm2以上の結晶質粒子の占める割合が80%近いと(実施例2、3)、キャリア移動度が100cm2/V・s以上であった。
【0096】
(透過率の測定)
実施例3及び比較例1で得られた透明導電膜の透過率スペクトルを
図6に示す。比較のために、併せて、PET/SiO
2基板と、市販のPET基板上のITO透明導電膜の透過率スペクトルも図示した。透過率は、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、U4000)により取得した。
図6に示すように、実施例3では、赤外線領域である800nm~2000nmの範囲におけるすべての波長において75%以上の透過率が得られた。また、赤外線通信に用いられる1550nmの波長の透過率は、比較例1で83.7%であるのに対し、実施例3で87.7%であり、透明導電膜の結晶化によって透過率が向上することが確認できた。
【0097】
(日射透過率)
日射透過率を日本工業規格:JIS-R-3106に準拠する方法によって計算した。透過率スペクトルに対して、重価係数を乗じて加重平均し、日射透過率を算出した。実施例3の透明導電膜を有する導電性部材の日射透過率は、82.3%で、高い日射透過率を示した。
【0098】
波長800nmから2000nmの平均光透過率を以下のようにして算出した。日射透過率の算定と同様に、JIS-R-3106に基づく重価係数を乗じて加重平均し、平均光透過率を算定した。波長800nm~2000nmの平均光透過率は、81.6%と高い値を示した。
【0099】
(実施例8)
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材を準備した。
この基材上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、SiO2を堆積し、SiO2からなる厚さ150nmの中間層を形成した。
さらに、中間層の上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、酸化インジウム(In2O3)を堆積し、In2O3からなる厚さ150nmの透明導電膜を形成した。このときスパッタターゲットは、In2O3焼結体を用いた。
得られた透明導電膜に、結晶化工程として、波長248nmのKrFエキシマレーザを100000ショットで照射し、導電性部材を得た。KrFエキシマレーザのエネルギー密度を45.0mJ/cm2とした。また、KrFエキシマレーザの繰り返し周波数を50Hzとした。
【0100】
実施例8で得られた透明導電膜について、KrFエキシマレーザを照射する前と照射した後の抵抗率、キャリア密度、キャリア移動度を測定した。その結果、透明導電膜の抵抗率は、KrFエキシマレーザを照射する前に4.2×10-4Ω・cmであったが、KrFエキシマレーザを照射した後に3.4×10-4Ω・cmに低下していた。キャリア密度は、KrFエキシマレーザを照射する前に5.0×1020cm-3であったが、KrFエキシマレーザを照射した後に2.3×1020cm-3に減少した。キャリア移動度は、KrFエキシマレーザを照射する前に29cm2/V・sであったが、KrFエキシマレーザを照射した後に80cm2/V・sに上昇していた。
【0101】
実施例8で得られた透明導電膜の透過率スペクトルを測定した。透過率は、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、U4000)により取得した。
実施例8では、赤外線通信に用いられる1550nmの波長の透過率は81.4%であった。
【0102】
以上の実施例、比較例の結果から、100℃以下の加熱下でレーザ照射によって、非耐熱性の基材上に酸化インジウムを含む結晶質粒子を含有する透明導電膜を形成することで、70cm2/V・s以上の高いキャリア移動度をもつ透明導電膜が得られたことが確認できた。また、キャリア密度がほぼ2×1020cm-3であって、低い値となり、キャリアに起因する透過率の低下が軽減され、300nm~2500nmの広い範囲で透過率が向上することが確認できた。
本発明の導電性部材は、高い導電性及び高い透光性を兼ね備えた透明導電膜を有することから、光電変換デバイス、有機ELデバイス、ウェアラブルデバイス、透明TFT、透明ヒーター、赤外線通信用デバイス、赤外線センサ等の電気・電子機器に用いられる導電性部材として有用である。