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特開2023-104256硬度推定装置及びこれを具備する把持設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104256
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】硬度推定装置及びこれを具備する把持設備
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/09 20060101AFI20230721BHJP
   B25J 13/08 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
G01N29/09
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005134
(22)【出願日】2022-01-17
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆吾
【テーマコード(参考)】
2G047
3C707
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BC01
2G047GD02
2G047GF10
2G047GF11
2G047GG28
3C707KS01
3C707KX19
3C707NS26
(57)【要約】
【課題】対象物の表層及び内側の層の硬さを推定可能な硬度推定装置及びそれを具備して対象物を把持する把持設備を提供する。
【解決手段】送信部11から対象物Wに発信音波Viを照射して反射した受信音波Vrを受信部12で検出し、検出した受信音波Vrを基に演算部13で対象物の硬さを推定する硬度推定装置10において、演算部13は、発信音波Viの周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が受信音波Vrの波形に適合する1番目の修正音波を導出し、1番目の修正音波を基に対象物Wの1番目の層の表面での反射率を求め、1番目の層の硬さを推定し、1番目の修正音波を受信音波Vrから差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、発信音波Viの周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、2番目の修正音波を基に1番目の層と2番目の層との境界面での反射率を求め、2番目の層の硬さを推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部から対象物に発信音波を照射して反射した受信音波を受信部で検出し、検出した該受信音波を基に演算部で該対象物の硬さを推定する硬度推定装置において、
前記演算部は、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が前記受信音波の波形に適合する1番目の修正音波を導出し、該1番目の修正音波を基に前記対象物の表層である1番目の層の表面での反射率を求め、該1番目の層の硬さを推定し、
前記1番目の修正音波を前記受信音波から差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、該2番目の修正音波を基に前記1番目の層と該1番目の層に隣接する前記対象物の2番目の層との境界面での反射率を求め、該2番目の層の硬さを推定することを特徴とする硬度推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の硬度推定装置において、前記1番目の層の硬さは、前記1番目の層の表面での反射率と前記送信部及び前記受信部から前記対象物までの間の媒体の音響インピーダンスとから求めた前記1番目の層の音響インピーダンスに対応する1番目のインピーダンス対応値から推定され、前記2番目の層の硬さは、前記1番目の層及び前記2番目の層の境界面での反射率と前記1番目のインピーダンス対応値とから求めた前記2番目の層の音響インピーダンスに対応する2番目のインピーダンス対応値から推定されることを特徴とする硬度推定装置。
【請求項3】
対象物を把持する把持機構と、発信音波を前記対象物に照射して反射した受信音波を検出し、検出した該受信音波を基に該対象物の硬さを推定する硬度推定装置と、推定された前記対象物の硬さを基に前記把持機構による該対象物の把持を制御する制御手段とを備える把持設備において、
前記硬度推定装置は、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が前記受信音波の波形に適合する1番目の修正音波を導出し、該1番目の修正音波を基に前記対象物の表層である1番目の層の表面での反射率を求め、該1番目の層の硬さを推定し、
前記1番目の修正音波を前記受信音波から差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、該2番目の修正音波を基に前記1番目の層と該1番目の層に隣接する前記対象物の2番目の層との境界面での反射率を求め、該2番目の層の硬さを推定することを特徴とする把持設備。
【請求項4】
請求項3記載の把持設備において、前記1番目の層の硬さは、前記1番目の層の表面での反射率と前記送信部及び前記受信部から前記対象物までの間の媒体の音響インピーダンスとから求めた前記1番目の層の音響インピーダンスに対応する1番目のインピーダンス対応値から推定され、前記2番目の層の硬さは、前記1番目の層及び前記2番目の層の境界面での反射率と前記1番目のインピーダンス対応値とから求めた前記2番目の層の音響インピーダンスに対応する2番目のインピーダンス対応値から推定されることを特徴とする把持設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の硬さを推定する硬度推定装置、及び、硬度推定装置を具備し対象物を把持する把持設備に関する。
【背景技術】
【0002】
労働人口の減少や人件費高騰による産業用ロボット導入の気運の高まりにより、世界のロボット市場は拡大している。産業用ロボットの主要なタスクの一つである物体の把持と移動は、事前に技能者がロボットに動作を学習させることで実現できる。事前学習によって、ロボットの動作設定の簡略化や、多様な物体への対応が規定されるが、実際には、把持対象物の種類等が変わるたびに技能者によるロボットのチューニングが行われている。
【0003】
そのため、同種の対象物をロボットで把持する企業では、ロボットの導入が年々増加しているが、把持対象物の種類が多い企業では、ロボットの導入はそれほど増えていない。特に、ロボットによる把持が困難な柔軟な不定形物を扱う食品業界では、ロボットの導入がほとんど進んでいない。そこで、ソフトグリッパーを用いて柔軟物を把持する研究や、AIにより把持対象物の種類を識別して把持の制御を行う研究等がなされている。
【0004】
ここで、ソフトグリッパーを利用する場合、ソフトグリッパーは柔らかい材料により形成されるため、把持対象物を高精度に把持できる位置にソフトグリッパーを安定して配することができないという問題や、ソフトグリッパーが破損し易いという問題が招来する。また、AIにより把持対象物の種類を識別して把持力等を制御する場合、種類が同一でも把持対象物ごとに硬さが異なるような物(例えば、卵焼き)は対象物に適した力で把持することができないという問題が生じる。
【0005】
そのため、把持しようとする対象物の硬さを推定する技術が求められ、その例が、特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載の装置は、被検査体に対して波動を送波する送波部と被検査体で反射された波動を受波する受波部とを接続して帰還発振する自励発信回路の発信周波数に基づいて、被検査体の硬度を測定するものであり、被検査体に接触することなく、被検査体の硬度が推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2001/084135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、被検査体の表面の硬さは推定できるが、被検査体の中の硬さまでは推定できないことから、この装置を有するロボットは、被検査体の中の層の硬さまで加味して把持力を決定することができないという問題がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、対象物の表層及び内側の層の硬さを推定可能な硬度推定装置及びそれを具備して把持力を決定し対象物を把持する把持設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明に係る硬度推定装置は、送信部から対象物に発信音波を照射して反射した受信音波を受信部で検出し、検出した該受信音波を基に演算部で該対象物の硬さを推定する硬度推定装置において、前記演算部は、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が前記受信音波の波形に適合する1番目の修正音波を導出し、該1番目の修正音波を基に前記対象物の表層である1番目の層の表面での反射率を求め、該1番目の層の硬さを推定し、前記1番目の修正音波を前記受信音波から差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、該2番目の修正音波を基に前記1番目の層と該1番目の層に隣接する前記対象物の2番目の層との境界面での反射率を求め、該2番目の層の硬さを推定する。
【0009】
前記目的に沿う本発明に係る把持設備は、対象物を把持する把持機構と、発信音波を前記対象物に照射して反射した受信音波を検出し、検出した該受信音波を基に該対象物の硬さを推定する硬度推定装置と、推定された前記対象物の硬さを基に前記把持機構による該対象物の把持を制御する制御手段とを備える把持設備において、前記硬度推定装置は、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が前記受信音波の波形に適合する1番目の修正音波を導出し、該1番目の修正音波を基に前記対象物の表層である1番目の層の表面での反射率を求め、該1番目の層の硬さを推定し、前記1番目の修正音波を前記受信音波から差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、前記発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、該2番目の修正音波を基に前記1番目の層と該1番目の層に隣接する前記対象物の2番目の層との境界面での反射率を求め、該2番目の層の硬さを推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る硬度推定装置及び把持設備は、発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が受信音波の波形に適合する1番目の修正音波を導出し、1番目の修正音波を基に対象物の表層である1番目の層の表面での反射率を求め、1番目の層の硬さを推定し、1番目の修正音波を受信音波から差し引いた差分音波の波形に波形が適合する2番目の修正音波を、発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、2番目の修正音波を基に1番目の層と1番目の層に隣接する対象物の2番目の層との境界面での反射率を求め、2番目の層の硬さを推定するので、対象物の表層及び内側の層の硬さを推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る硬度推定装置の説明図である。
図2】送信部から対象物に超音波を照射した際の様子を示す説明図である。
図3】(A)~(D)はそれぞれ、送信部から照射される超音波の波形、受信部で検出される受信音波の波形、1番目の修正音波の波形、及び、第1の差分音波の波形を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る把持設備の説明図である。
図5】(A)~(D)はそれぞれ、実験において、送信部から照射された超音波の波形、受信部で検出された受信音波の波形、1番目の修正音波の波形、及び、第1の差分音波の波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る硬度推定装置10は、送信部11から対象物Wに発信音波Viを照射して反射した受信音波Vrを受信部12で検出し、検出した受信音波Vrを基に演算部13で対象物Wの硬さを推定する装置である。以下、詳細に説明する。
【0013】
硬度推定装置10は、図1に示すように、送信部11、受信部12及び演算部13を備えている。送信部11及び受信部12は、CPUやメモリを有して構成された演算部13に接続されている。送信部11は、対象物Wまで距離を有する位置から発信音波Vi(本実施の形態では超音波)を対象物Wに照射し、受信部12は、音波(受信音波)を受信可能に設計され、対象物Wまで距離を有する位置に配されている。本実施の形態では、送信部11、受信部12及び対象物Wが空気雰囲気下に設けられている。よって、送信部11及び受信部12と対象物Wの間には空気(媒体の一例)が存在している。
【0014】
送信部11から発信音波Viが照射される対象物Wは、硬さ(密度)が異なる複数の層Lを有する。以下、図2に示すように、対象物Wにおいて送信部11からの発信音波Viが最初に到達する層L(本実施の形態では最も外側に位置する層L)、即ち、表層を1番目の層L1とし、対象物Wにおいて1番目の層L1の送信部11から遠い側(本実施の形態では、1番目の層L1の内側)に隣接する層Lを2番目の層L2とし、対象物Wにおいてk-1番目の層Lk-1の送信部11から遠い側(本実施の形態では、k-1番目の層Lk-1の内側)に隣接する層Lをk番目の層Lkとする。但し、kは自然数とし、0番目の層Lは空気の層とする。
【0015】
図2において、z、z、z等は送信部11及び対象物Wを通る仮想線に沿った方向の位置を示している。本実施の形態では、送信部11及び受信部12がいずれもzの位置に配され、対象物Wの1番目の層L1の表面がzの位置に、k番目の層Lkの表面がzの位置にそれぞれ配されている。よって、送信部11から対象物Wまでの距離及び受信部12から対象物Wまでの距離はいずれもz-zである。
【0016】
発信音波Viが対象物Wの1番目の層L1に到達すると、1番目の層L1の表面での発信音波Viの部分的な反射により反射波R1が、1番目の層L1への発信音波Viの部分的な透過により透過波I1がそれぞれ生じる。そして、2番目の層L2以降の層L、即ち、k番目の層Lkにおいては、k-1番目の層Lk-1(k=2の場合は1番目の層L1)への透過波Ik-1がk番目の層Lkに到達して、k番目の層Lkの表面(k-1番目の層Lk-1とk番目の層Lkとの境界面)での透過波Ik-1の部分的な反射により反射波Rkが、k番目の層Lkへの透過波Ik-1の部分的な透過により透過波Ikがそれぞれ生じる。
【0017】
従って、受信部12が検出する受信音波Vrには、反射波Rk-1、Rk等の複数の反射波が含まれている。そのため、受信音波Vrの波形を基に各反射波の波形(音波を時間軸に展開して得られる波形、以下同じ)を導出するには、受信音波Vrの波形から個々の反射波の波形を取り出す必要がある。ここで、反射波Rkは発信音波Viを基に生じる音波であることから、反射波Rkの波形と発信音波Viの波形は近似する。
【0018】
本実施の形態では、反射波Rkの波形が発信音波Viの波形に近似することに着目して検証した結果、発信音波Viの波形の周波数及び振幅の少なくとも一方を調整(変更)した波形を反射波Rkの波形として扱えること、具体的には、反射波Rkの波形の関数をΨr,k(t)とし、発信音波Viの波形の関数をΨi,0(t)として、以下の式1が成立することを確認した。
【0019】
【数1】
【0020】
式(1)において、Aは振幅の調整値を、Bは周波数の調整値を、tは時間を、tは発信音波Viの発生から反射波Rkの発生までの時間をそれぞれ意味する。
【0021】
また、図2に示すように、発信音波Viが対象物Wの1番目の層L1に到達してからk番目の層Lkに到達するまでに、発信音波Viや透過波I1等の部分的な透過がk-1回生じること、並びに、発信音波Viが空気中を進む際や各透過波が各層(例えば、透過波I1が1番目の層L1)を進む際に、発信音波Viや透過波I1等に減衰が生じること等を考慮して、音響伝播モデルを表す以下の式(2)を導出した。
【0022】
【数2】
【0023】
式(2)において、rは反射率を示し、rは発信音波Viが対象物Wの1番目の層L1の表面に到達して反射波R1が生じる際の反射率であり、rは透過波Ik-1が対象物Wのk番目の層Lkの表面に到達して反射波Rkが生じる際の反射率である。αは減衰率を意味し、αは発信音波Viが空気中を移動する際の減衰率でありし、αk-1は透過波Ik-1が対象物Wのk-1番目の層Lk-1を移動する際の減衰率である。
【0024】
ここで、z、zk-1は、以下の式(3)に示すように、t、tk-1、ck-1によって表すことができる。なお、ck-1はk-1番目の層Lk-1内の音速(透過波Ik-1及び反射波Rkの進行速度)を意味し、c(空気中の音速)は予め得られる値である。ck-1には、例えば、対象物Wの種類に応じて予め定めた値を採用することができる。
【0025】
【数3】
【0026】
また、対象物Wのk番目の層Lkの表面の反射率r、対象物Wのk-1番目の層Lk-1の音響インピーダンス及び対象物Wのk番目の層Lkの音響インピーダンスは密接に関連している。本実施の形態では、対象物Wのk-1番目の層Lk-1の音響インピーダンスに対応するk-1番目のインピーダンス対応値をζk-1とし、対象物Wのk番目の層Lkの音響インピーダンスに対応するk番目のインピーダンス対応値をζとして、ζはζk-1及びrを用いて以下の式(4)により表せることを確認した。なお、ζは、送信部11、受信部12及び対象物Wが配される雰囲気の空気の音響インピーダンスを意味し、これは、空気の温度等から求めることができる。
【0027】
【数4】
【0028】
なお、k番目のインピーダンス対応値とは、例えば、k番目の層Lkの音響インピーダンスを整数倍した値である。
【0029】
次に、送信部11から対象物Wに照射する発信音波Viの波形、及び、受信部12が検出した受信音波Vrの波形を基に、反射率rを求め、k番目の層の硬さを推定する工程について説明する。
【0030】
<準備工程>
図3(A)に示す発信音波Viの波形を事前に得て、その発信音波Viの波形を演算部13に入力する。発信音波Viの波形は、硬度推定装置10の設計元から該当の情報を取得したり、送信部11から発信音波Viを発信して受信部12で発信音波Viを検出する実験を行ったりすることによって得ることができる。
また、送信部11、受信部12及び対象物Wが配される雰囲気の空気の温度と、その空気中での音速と、その空気の音響インピーダンスと、送信部11及び受信部12から対象物Wまでの距離z-zとが演算部13に入力される。
【0031】
<工程1>
送信部11から対象物Wに発信音波Viを照射して、演算部13が、受信部12で検出した受信音波Vrから受信音波Vrの波形を求める。受信音波Vrの波形の例を図3(B)に示す。
【0032】
<工程2>
演算部13は、入力された発信音波Viの波形を適用したk=1の式(1)において、振幅の調整値A及び周波数の調整値Bの各値を変えることにより導出される多数の反射波r1候補の波形から、受信音波Vrの波形に最も適合(合致)する波形を選択し、選択した波形を1番目の修正音波S1の波形として記憶する。よって、演算部13は、発信音波Viの周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が受信音波Vrの波形に適合する1番目の修正音波S1を導出することとなる。修正音波S1の波形の例を図3(C)に示す。
【0033】
<工程3>
演算部13は、記憶した1番目の修正音波S1の波形とk=1の式(2)の反射波R1の波形の誤差が最小となるような反射率rを最小二乗法等によって求める。なお、k=1の式(2)とは、式(2)の右辺のΠ以降が削除された数式であり、空気の減衰率α及び距離z-zには事前に演算部13に入力された値が用いられる。
【0034】
<工程4>
演算部13は、k=1の式(4)に、工程3で求めた反射率rの値及び演算部13に予め入力された空気の音響インピーダンスζを代入し、対象物Wの1番目の層L1の音響インピーダンスに対応する1番目のインピーダンス対応値ζを算出する。
【0035】
<工程5>
ある媒体の音響インピーダンスは当該媒体の音速及び密度の積から算出でき、密度は媒体の硬さに密接に関連することから、音響インピーダンスの値又はインピーダンス対応値から媒体の硬さを推定することが可能である。特に、媒体の材質が判明している場合、音響インピーダンスの値又はインピーダンス対応値から安定的にその媒体の硬さを算出できる。そこで、本実施の形態では、演算部13が、工程4で算出した1番目のインピーダンス対応値ζから対象物Wの1番目の層L1の硬さを推定する。
【0036】
工程3~5をまとめると、演算部13は、1番目の修正音波S1を基に対象物Wの1番目の層L1の表面での反射率rを求め、送信部11及び受信部12から対象物Wまでの間の媒体(空気)の音響インピーダンスζと、1番目の層L1の表面での反射率rとから、1番目の層L1の音響インピーダンスに対応する1番目のインピーダンス対応値ζを求めて、1番目の層L1の硬さを推定することとなる。
【0037】
<工程6>
そして、演算部13は、図3(B)、(C)、(D)に示すように、1番目の修正音波S1を受信音波Vrから差し引いて第1の差分音波D1(差分音波の一例)を得る。
【0038】
<工程7>
次に、演算部13は、発信音波Viの波形を適用したk=2の式(1)において、振幅の調整値A及び周波数の調整値Bの各値を変えることにより導出される多数の反射波r2候補の波形から、第1の差分音波D1の波形に最も適合する波形を選択し、選択した波形を2番目の修正音波S2の波形として記憶する。よって、演算部13は、発信音波Viの周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して波形が第1の差分音波D1の波形に適合する2番目の修正音波S2を導出することとなる。
【0039】
<工程8>
演算部13は、2番目の修正音波S2の波形とk=2の式(2)の反射波R2の波形の誤差が最小となるような反射率rを最小二乗法等によって求める。このとき、α、r及びz-zにはここまでで判明している各値が用いられ、zにはk=2の式(3)から求められる値が用いられる。なお、式(3)において、例えば、tは1番目の修正音波S1の出現時間(時刻)から導出でき、tは第1の差分音波D1の出現時間(時刻)から導出できる。
【0040】
<工程9>
演算部13は、k=2の式(4)に、既に求めた1番目の層L1と2番目の層L2との境界面での反射率rの値及び1番目のインピーダンス対応値ζを代入し、対象物Wの2番目の層L2の音響インピーダンスに対応する2番目のインピーダンス対応値ζを算出し、算出した2番目のインピーダンス対応値ζから対象物Wの2番目の層L2の硬さを推定する。
【0041】
工程8、9から、演算部13は、2番目の修正音波S2を基に対象物Wの1番目の層L1と2番目の層L2との境界面での反射率rを求め、1番目のインピーダンス対応値ζと、反射率rとから、2番目の層L2の音響インピーダンスに対応する2番目のインピーダンス対応値ζを求めて、2番目の層L2の硬さを推定することとなる。
【0042】
<工程10>
そして、演算部13は、1番目の修正音波S1及び2番目の修正音波S2を受信音波Vrから差し引いた第2の差分音波D2(差分音波の一例)を求める。
【0043】
その後、工程7~工程10と同様の処理を繰り返して、順次、反射率及びインピーダンス対応値を求めて、該当の層Lの硬さを推定する。具体的には、nを3以上の自然数として、1番目の修正音波S1からn-1番目の修正音波Sn-1までのn-1個の修正音波を受信音波Vrから差し引いたn-1番目の差分音波Dn-1の波形に波形が適合するn番目の修正音波Snを、発信音波Viの周波数及び振幅のいずれか一方又は双方を調整して導出し、n番目の修正音波Snを基にn-1番目の層Ln-1と対象物Wのn番目の層Lnとの境界面での反射率rを求め、n-1番目のインピーダンス対応値ζn-1と反射率rとから、n番目の層Lnの音響インピーダンスに対応するn番目のインピーダンス対応値ζを求めて、n番目の層Lnの硬さを推定する。
【0044】
ここで、工程8に相当する工程において、n番目の修正音波Snの波形とk=nの式(2)の反射波Rnの波形の誤差が最小となるような反射率rを最小二乗法等によって求める際に、減衰率αn-1も求める。このとき、k=nの式(2)で不明な値であるzn-1は、k=nの式(3)を用いて算出される。
このようにして、硬度推定装置10は、対象物Wの各層Lの硬さを推定する。
【0045】
また、硬度推定装置10は、図4に示すように、対象物Wの硬さを推定して把持力を制御し対象物Wを把持する把持設備20に採用可能である。把持設備20は、硬度推定装置10に加えて、対象物Wを把持するロボットアーム21(把持機構の一例)と、硬度推定装置10によって推定された対象物Wの硬さを基にロボットアーム21による対象物Wの把持を制御する制御手段22とを備える。ここで、対象物Wの把持の制御とは、例えば、ロボットアーム21の把持力の大きさや指部等の移動量である。
【実施例0046】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
実験では、まず、スピーカ(送信部の一例)から照射される超音波の波形を調べた。マイク(受信部の一例)をスピーカまで距離を有する位置に配置し、スピーカからマイクに向けて超音波を照射し、マイクでその超音波を検出した。
【0047】
マイクで検出された超音波の波形は、スピーカからマイクに超音波が到達するまでに減衰等したものであるため、マイクで検出された超音波の波形を基に、空気中の超音波の減衰率やスピーカとマイク間の距離等を考慮して、スピーカから照射される超音波の波形を導出した。導出したスピーカから照射される超音波の波形を図5(A)に示す。
【0048】
次に、1番目の層が人肌ゲルで2番目の層がアルミニウムの対象物までの距離が50mmの位置にスピーカ及びマイクを並べて配置した状態で、スピーカから対象物に超音波を照射し、マイクで音波(受信音波、超音波を含む)を検出した。マイクで検出された音波の波形を図5(B)に示す。図5(B)に示す波形には、対象物の1番目の層の表面で反射された反射波の波形の成分と2番目の層の表面で反射された反射波の波形の成分が含まれていると考えられる。
【0049】
スピーカから照射された図5(A)に示す超音波の波形、及び、マイクで検出された図5(B)に示す音波の波形を基に、式(1)を用いて、対象物の1番目の層の表面で反射された反射波に対応する1番目の修正音波の波形を導出した。導出した1番目の修正音波の波形を図5(C)に示す。
そして、導出した1番目の修正音波の波形をマイクで検出された音波の波形から差し引いて第1の差分音波の波形を導出した。導出した第1の差分音波の波形を図5(D)に示す。図5(D)にて確認される波形には、マイクで検出した音波の波形から対象物の1番目の層の表面で反射された反射波の波形に対応する1番目の修正音波の波形を取り除くことにより残った2番目の層の表面で反射された反射波の波形が含まれると考えられる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、対象物のN番目の層の反射率から対象物のN番目の層の硬さを求める数式を採用すれば、N番目のインピーダンス対応値を求める必要はない。なお、Nは自然数である。
また、発信音波の周波数及び振幅のいずれか一方のみを調整して修正音波を導出してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10:硬度推定装置、11:送信部、12:受信部、13:演算部、20:把持設備、21:ロボットアーム、22:制御手段、L:層、Vi:発信音波、Vr:受信音波、W:対象物
図1
図2
図3
図4
図5