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特開2023-104318ダイヤモンド接合体、電子デバイス及びダイヤモンド接合体の製造方法
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  • 特開-ダイヤモンド接合体、電子デバイス及びダイヤモンド接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104318
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ダイヤモンド接合体、電子デバイス及びダイヤモンド接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20230721BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20230721BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20230721BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20230721BHJP
【FI】
C30B29/04 P
C30B25/18
C23C16/27
C01B32/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005233
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】山田 英明
(72)【発明者】
【氏名】大曲 新矢
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB09
4G077BA03
4G077DB21
4G077ED06
4G077EE05
4G077HA06
4G077HA13
4G077TA04
4G077TK01
4G077TK13
4G146AA04
4G146AA17
4G146AA19
4G146AB07
4G146AC03B
4G146AD01
4G146AD06
4G146AD14
4G146AD16
4G146AD28
4G146AD36
4G146BA12
4G146BC09
4G146BC11
4G146BC25
4G146BC36B
4G146BC45
4K030AA10
4K030AA17
4K030AA20
4K030BA28
4K030BB03
4K030CA01
4K030CA17
4K030DA02
4K030FA17
4K030JA01
4K030JA03
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA10
4K030JA11
4K030LA21
(57)【要約】
【課題】単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドを利用したダイヤモンド接合体であって、多結晶ダイヤモンドが一様な表面特性を備える、新規なダイヤモンド接合体を提供する。
【解決手段】
単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合体であって、
前記単結晶ダイヤモンドと前記多結晶ダイヤモンドとの接合面において、前記単結晶ダイヤモンドの表面は複数の面方位を有しており、
前記多結晶ダイヤモンドは、走査型電子顕微鏡による表面解析において、結晶粒径が10μm未満であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面に2種類以上の結晶方位が観察される、ダイヤモンド接合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合体であって、
前記単結晶ダイヤモンドと前記多結晶ダイヤモンドとの接合面において、前記単結晶ダイヤモンドの表面は複数の面方位を有しており、
前記多結晶ダイヤモンドは、走査型電子顕微鏡による表面解析において、結晶粒径が10μm未満であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面に2種類以上の結晶方位が観察される、ダイヤモンド接合体。
【請求項2】
前記単結晶ダイヤモンド及び前記多結晶ダイヤモンドのうち少なくとも一方に、金属元素が含まれる、請求項1に記載のダイヤモンド接合体。
【請求項3】
前記単結晶ダイヤモンド及び前記多結晶ダイヤモンドのうち少なくとも一方に、不純物が含まれる、請求項1又は2に記載のダイヤモンド接合体。
【請求項4】
前記不純物が、ホウ素、リン及び窒素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のダイヤモンド接合体。
【請求項5】
前記単結晶ダイヤモンドと前記多結晶ダイヤモンドとの接合面において、前記単結晶ダイヤモンドの表面は、[100]面、[111]面及び[110]面のうち少なくとも一の面方位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体。
【請求項6】
前記多結晶ダイヤモンド層は、[111]面と[110]面の結晶粒径の比が、2倍以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のダイヤモンド接合体を含む、電子デバイス、光学素子、又は摺動部材。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体の製造方法であって、
前記単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程と、
熱フィラメントCVD法により、前記ダイヤモンド粒子が表面に付着した前記単結晶ダイヤモンドの表面に多結晶ダイヤモンドを形成する工程と、
を備える、ダイヤモンド接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド接合体、電子デバイス及びダイヤモンド接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体として優れた特性を有するダイヤモンドは、高出力パワーデバイス、高周波デバイス、受光デバイスなど半導体デバイス用の材料として期待されている。
【0003】
また、ガラス基板やシリコンウエハなどをスクライブするために、スクライビングホイールや単結晶ダイヤモンドによるダイヤモンドポイントを用いた、ダイヤモンド接合体が用いられている。
【0004】
さらに、ダイヤモンドは、メカニカルシールなどの摺動部材や、低損失・高熱伝導率性を活かした誘電体窓などへの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7―48198号公報
【特許文献2】特開2013-043787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単結晶ダイヤモンドの表面には、[100]面、[111]面、[110]面などの様々な結晶方位が存在しており、それぞれ特性が異なっている。したがって、単結晶ダイヤモンドの表面を利用する場合、表面の結晶方位を考慮する必要がある。
【0007】
本発明は、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドを利用したダイヤモンド接合体であって、多結晶ダイヤモンドが一様な表面特性を備える、新規なダイヤモンド接合体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、単結晶ダイヤモンドの少なくとも一部の表面に、ナノダイヤモンドを付着させてから、多結晶ダイヤモンドを形成すると、様々な結晶方位を有する単結晶ダイヤモンドの表面に対して、一様な表面特性を備える多結晶ダイヤモンドが形成されることを見出した。このような単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合体は、一様な表面特性を備える多結晶ダイヤモンドの表面を利用して、電子デバイス、光学素子、摺動部材、ダイヤモンドツールなどの幅広い用途への適用が可能となる。ダイヤモンドを電子デバイスに応用する場合であれば、例えば、単結晶ダイヤモンド基板上に、局所的に多結晶ダイヤモンドのコンタクト層を設けるなどの構造が想定できる。また、単結晶ダイヤモンド基板/多結晶ダイヤモンドのヘテロ接合デバイスも想定される。さらに、バンドギャップのわずかな相違を利用して、ダイオードへの応用も想定される。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合体であって、
前記単結晶ダイヤモンドと前記多結晶ダイヤモンドとの接合面において、前記単結晶ダイヤモンドの表面は複数の面方位を有しており、
前記多結晶ダイヤモンドは、走査型電子顕微鏡による表面解析において、結晶粒径が10μm未満であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面に2種類以上の結晶方位が観察される、ダイヤモンド接合体。
項2. 前記単結晶ダイヤモンド及び前記多結晶ダイヤモンドのうち少なくとも一方に、金属元素が含まれる、項1に記載のダイヤモンド接合体。
項3. 前記単結晶ダイヤモンド及び前記多結晶ダイヤモンドのうち少なくとも一方に、不純物が含まれる、項1又は2に記載のダイヤモンド接合体。
項4. 前記不純物が、ホウ素、リン及び窒素からなる群より選択される少なくとも1種である、項3に記載のダイヤモンド接合体。
項5. 前記単結晶ダイヤモンドと前記多結晶ダイヤモンドとの接合面において、前記単結晶ダイヤモンドの表面は、[100]面、[111]面及び[110]面のうち少なくとも一の面方位を含む、項1~4のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体。
項6. 前記多結晶ダイヤモンド層は、[111]面と[110]面の結晶粒径の比が、2倍以下である、項1~5のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体。
項7. 項1~6のいずれかに記載のダイヤモンド接合体を含む、電子デバイス、光学素子、又は摺動部材。
項8. 項1~6のいずれか1項に記載のダイヤモンド接合体の製造方法であって、
前記単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程と、
熱フィラメントCVD法により、前記ダイヤモンド粒子が表面に付着した前記単結晶ダイヤモンドの表面に多結晶ダイヤモンドを形成する工程と、
を備える、ダイヤモンド接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドを利用したダイヤモンド接合体であって、多結晶ダイヤモンドが一様な表面特性を備える、新規なダイヤモンド接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】単結晶ダイヤモンドの表面の[111]面、[110]面、及び[100]面の上にダイヤモンド粒子を付着させて形成された多結晶ダイヤモンドの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた像である(実施例1)。
図2】単結晶ダイヤモンドの表面の[111]面、[110]面、及び[100]面の上にダイヤモンド粒子を付着させずに形成された多結晶ダイヤモンドの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた像である(参考例1)。
図3】単結晶ダイヤモンドの表面の[111]面及び[110]面の上にダイヤモンド粒子を付着させて形成された多結晶ダイヤモンドの表面について、電子線後方散乱回折を用いて取得した逆極点図方位マップである(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のダイヤモンド接合体は、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合体であって、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとの接合面において、単結晶ダイヤモンドの表面は複数の面方位を有しており、前記多結晶ダイヤモンドは、走査型電子顕微鏡による表面解析において、結晶粒径が10μm未満であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面(例えば、[100]面、[111]面、[110]面など)に2種類以上の結晶方位が観察されることを特徴としている。より具体的には、例えば多結晶ダイヤモンドの表面が、単結晶面として[100]面、[111]面、及び[110]面を備える場合、これら全ての単結晶面について、2種類以上の結晶方位が観察される。本発明のダイヤモンド接合体は、当該特徴を備えることにより、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドを利用したダイヤモンド接合体であって、多結晶ダイヤモンドが一様な表面特性を備えている。
【0014】
具体的には、単結晶ダイヤモンドの表面は、一般に、[100]面、[111]面、[110]面などの様々な結晶方位が存在しており、結晶方位に応じてその表面特性は異なる。これに対して、本発明のダイヤモンド接合体においては、単結晶ダイヤモンドの表面に、一様な表面を備えるようにして多結晶ダイヤモンドが形成されている。したがって、本発明のダイヤモンド接合体は、単結晶ダイヤモンドの結晶方位の影響が低減されており、ダイヤモンド接合体としての表面特性の均一性に優れている。このようなダイヤモンド接合体は、例えば、後述のように、単結晶ダイヤモンドの表面にナノダイヤモンドを付着させてから多結晶ダイヤモンドを結晶成長させることにより好適に製造することができる。
【0015】
本発明のダイヤモンド接合体において、単結晶ダイヤモンドについては、特に制限されず、ダイヤモンド接合体として使用されている公知の単結晶ダイヤモンドを用いることができる。ダイヤモンド接合体として使用されている公知の単結晶ダイヤモンドとしては、例えばダイヤモンドツールの基材であれば、特開2018-34381号公報や特開2017-13488号公報などに記載されている。
【0016】
単結晶ダイヤモンドの形状、大きさなどについては、ダイヤモンド接合体の種類や用途などに応じて適宜設定することができる。単結晶ダイヤモンドの大きさとしては、例えば直径は、例えば20mm以下、10mm以下であり、好ましくは0.8~20mm程度、0.8~10mm程度であり、厚さは0.4~1.1mm程度が挙げられる。また、単結晶ダイヤモンドの形状については、例えば、本発明のダイヤモンド接合体がホイール(ダイヤモンドツールの一形態)である場合には、基材としての単結晶ダイヤモンドの形状もホイール状(円板状)となる。本発明のダイヤモンド接合体がホイールである場合、本発明のダイヤモンド接合体はスクライブツールなどとして好適に利用することができる。また、本発明のダイヤモンド接合体を電子デバイスに利用する場合にも、単結晶ダイヤモンドは、電子デバイスに適した形状、大きさ等とすればよい。
【0017】
単結晶ダイヤモンドの表面は、通常、複数の面方位を有している。すなわち、本発明のダイヤモンド接合体において、多結晶ダイヤモンドが形成されている単結晶ダイヤモンドの表面は、通常、複数の面方位を有している。面方位の具体例としては、[100]面、[111]面、[110]面などが挙げられ、典型的には、[100]面、[111]面及び[110]面のうち少なくとも一の面方位を含む。
【0018】
多結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドの少なくとも一部の表面に形成されていればよく、一様な表面特性を備える多結晶ダイヤモンドが形成された部分を好適に利用することができる。
【0019】
例えば、刃先部を有するダイヤモンド接合体であれば、単結晶ダイヤモンドにより構成された基材の刃先部の表面に、多結晶ダイヤモンドが形成されていればよい。多結晶ダイヤモンの表面をさらに研磨加工することで、基板に対する加工特性をさらに均一にすることができ、精密な加工を行うことができる。
【0020】
後述の通り、本発明のダイヤモンド接合体は、単結晶ダイヤモンドの少なくとも一部の表面に、一様な表面特性を備える多結晶ダイヤモンドを形成することで製造することができる。多結晶ダイヤモンドの形成法は、特に制限されないが、好ましくは化学気相成長法(例えば熱フィラメントCVD法、マイクロ波CVD法など)などの方法で、単結晶ダイヤモンドの表面に多結晶ダイヤモンドを結晶成長させる方法が好ましく、特に熱フィラメントCVD法を利用することが好ましい。
【0021】
熱フィラメントCVD法によって多結晶ダイヤモンドを形成する場合、金属元素が多結晶ダイヤモンド中に含まれるようにして形成することができる。具体的には、金属フィラメントを利用した、熱フィラメントCVD法によって多結晶ダイヤモンドを形成することによって、金属フィラメントを構成する金属が多結晶ダイヤモンド中に含まれ、多結晶ダイヤモンドとなる。熱フィラメントCVD法によって金属がドープされた多結晶ダイヤモンド(金属ドープ多結晶ダイヤモンド)を形成する方法については、公知の方法を採用することができる。熱フィラメントCVD法によって金属がドープされた多結晶ダイヤモンドを形成する具体的な方法の例については、後述する。
【0022】
多結晶ダイヤモンド中に含まれる金属元素の具体例としては、タングステン、タンタル、レニウム、ルテニウム等が挙げられる。多結晶ダイヤモンド中に含まれる金属元素は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0023】
多結晶ダイヤモンド中の金属元素の濃度としては、特に制限されないが、例えば1×1018~1×1022atoms/cm3程度の範囲、好ましくは1×1019~1×1022atoms/cm3程度の範囲、さらに好ましくは1×1019~1×1021atoms/cm3程度の範囲、さらに好ましくは1×1020~1×1021atoms/cm3程度の範囲が挙げられる。なお、多結晶ダイヤモンドにおける金属元素の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した値である。
【0024】
また、多結晶ダイヤモンドには、ホウ素、リン、窒素などの不純物を含有させることができる。例えば、前述した熱フィラメントCVD法によって多結晶ダイヤモンドを形成する際に、炭素源となるガス(メタンなど)と共に、不純物源となるガス(トリメチルボロン、ホスフィン(PH3)など)を共存させることにより、多結晶ダイヤモンドにホウ素、リン、窒素などの不純物を含有させることができる。多結晶ダイヤモンド中の不純物濃度としては、例えば1×1018~1×1022atoms/cm3程度の範囲、好ましくは1×1018~1×1021atoms/cm3程度の範囲、さらに好ましくは1×1019~1×1021atoms/cm3程度の範囲、さらに好ましくは1×1020~1×1021atoms/cm3程度の範囲が挙げられる。なお、多結晶ダイヤモンドにおける不純物の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した値である。多結晶ダイヤモンド中に含まれる不純物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0025】
前記の通り、本発明のダイヤモンド接合体の製造において、単結晶ダイヤモンドの表面にナノダイヤモンドを付着させてから多結晶ダイヤモンドを結晶成長させると、単結晶ダイヤモンドの表面の結晶方位の影響が特に好適に低減された、一様な多結晶ダイヤモンドが形成されることから、本発明のダイヤモンド接合体は、特に均一な表面特性を備えたダイヤモンド接合体となる。均一な表面特性を備えたダイヤモンド接合体の当該表面は、例えば、均一な加工特性を発揮することができるため、ダイヤモンドツール(例えばスクライブツールなど)として好適に使用することができる。また、摺動部材、光学部材、電子デバイスとしても好適に使用することができる。例えば、多結晶ダイヤモンド層をコンタクト層に用いる場合には、結晶粒径が小さく表面凹凸が小さいことが望ましい。一様な多結晶ダイヤモンドとしては、より具体的には、走査型電子顕微鏡等による表面解析において、結晶粒径が10μm未満(好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.1~3μm)であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面(例えば、[100]面、[111]面、[110]面など)に2種類以上(例えば2~3種類)の結晶方位を持った多結晶ダイヤモンドである。より具体的には、このような多結晶ダイヤモンド層は、例えば多結晶ダイヤモンドの表面が、単結晶面として[100]面、[111]面、及び[110]面を備える場合、これら全ての単結晶面について、2種類以上の結晶方位が観察される。走査型電子顕微鏡等による多結晶ダイヤモンドの表面解析の方法は、実施例に記載の方法である。
【0026】
多結晶ダイヤモンド層は、[111]面と[110]面の結晶粒径の比([111]面/[110]面の)が、2倍以下であることが好ましく、1~2倍であることがより好ましい。
【0027】
多結晶ダイヤモンドの厚みとしては、特に制限されず、例えば5μm以上、好ましくは10~50μm程度、より好ましくは15~40μm程度、さらに好ましくは20~30μm程度である。多結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドの表面に層状に形成された、多結晶ダイヤモンド層であることが好ましい。
【0028】
熱フィラメントCVD法を利用して、単結晶ダイヤモンドの表面に、多結晶ダイヤモンドを形成して、本発明のダイヤモンド接合体を製造する方法としては、例えば、以下の工程を備える方法が挙げられる。
工程(0):単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程
工程(1):ダイヤモンド粒子が付着した単結晶ダイヤモンドが配置された真空容器中に、炭素源、必要に応じて不純物源(例えば、ホウ素源、リン源など)を含むキャリアガスを導入する工程
工程(2):炭素源を含むキャリアガスをフィラメントで加熱して、多結晶ダイヤモンドを単結晶ダイヤモンド表面の少なくとも一部に製膜する製膜工程
【0029】
本発明のダイヤモンド接合体の製造方法においては、熱フィラメントCVD法により、単結晶ダイヤモンドの表面に多結晶ダイヤモンドを形成する(具体的には、前記工程(1)及び(2))前に、単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程(0)を行うことが重要である。すなわち、本発明のダイヤモンド接合体の製造方法は、単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程と、熱フィラメントCVD法により、ダイヤモンド粒子が表面に付着した単結晶ダイヤモンドの表面に多結晶ダイヤモンドを形成する工程とを備えることが好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド表面の結晶方位の影響が特に好適に低減された、一様な多結晶ダイヤモンドが形成される。
【0030】
単結晶ダイヤモンドの表面にダイヤモンド粒子を付着させる工程(0)は、例えば、ダイヤモンド粒子を含む溶液に単結晶ダイヤモンドを浸漬する方法により行うことができる。ダイヤモンド粒子を含む溶液としては、粒径1μm程度以下のランダムな結晶方位を持ったダイヤモンド砥粒をアルコールなどに分散させた溶液などが挙げられる。また、浸漬時間は、0.1~3時間程度が挙げられる。当該ダイヤモンド溶液の温度は、10~40℃程度が挙げられる。浸漬後、単結晶ダイヤモンド表面に当該ダイヤモンド溶液を乾燥させることにより、表面にダイヤモンド粒子が付着した単結晶ダイヤモンドが得られる。当該ダイヤモンド粒子の粒径は1μm程度以下に限定される訳ではなく、所望の加工精度が許す範囲の粒径であればよい。ダイヤモンド粒子としては、例えば、ナノダイヤモンド粒子(粒径が10nm程度以下のダイヤモンド粒子)、ミクロダイヤモンド粒子(粒径が100nm~1000nm程度のダイヤモンド粒子)が挙げられる。
【0031】
単結晶ダイヤモンド表面にダイヤモンド粒子を付着させることで、様々な面方位を有する単結晶ダイヤモンド表面の結晶方位がランダムとなり、共有結合によって単結晶ダイヤモンド表面に結合した多結晶ダイヤモンドが、面方位に依存せず、一様かつ強固に形成される。このため、本発明のダイヤモンド接合体の製造は、単結晶ダイヤモンド表面にダイヤモンド粒子を付着させてから、多結晶ダイヤモンドを結晶成長させる。なお、本発明のダイヤモンド接合体において、このようにして形成される一様な多結晶ダイヤモンドは、前記の通り、走査型電子顕微鏡による表面解析において、結晶粒径が10μm未満であり、且つ、電子線後方散乱回折を用いた逆極点図方位マップにて、全ての単結晶面に2種類以上の結晶方位が観察される多結晶ダイヤモンド膜となるという特徴を有している。
【0032】
次に、ダイヤモンド粒子を付着させ単結晶ダイヤモンドが配置された真空容器中に、炭素源、必要に応じて不純物源(例えば、ホウ素源、リン源など)を含むキャリアガスを導入する工程(1)において、真空容器中に配置するフィラメントを構成する金属としては、フィラメントを構成できるものであれば特に制限されない。金属元素の具体例としては、前記の通り、タングステン、タンタル、レニウム、ルテニウム等が挙げられ、これらの中でもタングステンが好ましい。金属元素は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
工程(1)においては、真空容器中を真空状態とした後、炭素源を含むキャリアガスを導入する。炭素源としては、ダイヤモンドを形成できるものであれば特に制限されず、例えば、メタンなどが挙げられる。炭素源は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、不純物としてホウ素をドープする場合であれば、ホウ素源としては、ホウ素としてダイヤモンド中にドープされて、ダイヤモンドの結晶構造を保持できるものであれば、特に制限されず、好ましくはトリメチルボロン、ジボランなどが挙げられる。不純物源は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
キャリアガスとしては、特に制限されず、例えば、水素ガスを使用することができる。炭素源を含むキャリアガス中における炭素源の濃度としては、好ましくは0.5~5.0体積%程度、より好ましくは1.0~3.0体積%程度が挙げられる。
【0035】
また、多結晶ダイヤモンドに不純物を含ませる場合であれば、キャリアガス中における炭素源に対する不純物源の濃度としては、多結晶ダイヤモンド中に含ませる不純物濃度に応じて適宜設定すればよい。例えば、不純物としてホウ素を含ませる場合、多結晶ダイヤモンドにおけるホウ素の濃度を1×1018atoms/cm3~1×1021atoms/cm3とする場合であれば、キャリアガス中における炭素源に対するホウ素源の濃度としては、好ましくは100ppm以上、より好ましくは1000~20000ppm程度、さらに好ましくは5000~10000ppm程度が挙げられる。
【0036】
工程(2)においては、キャリアガスをフィラメントで加熱して、多結晶ダイヤモンドを半導体基板の上に製膜する製膜工程を行う。フィラメントの加熱温度は、使用するフィラメントを構成する金属元素の種類や、多結晶ダイヤモンド中に含有させる金属元素や不純物の濃度に応じて、適宜設定すればよく、好ましくは2000~2400℃程度、より好ましくは2000~2200℃程度が挙げられる。
【0037】
工程(2)における真空容器内の全圧としては、特に制限されず、例えば10~100Torr程度、より好ましくは10~80Torr程度が挙げられる。
【0038】
工程(2)における単結晶ダイヤモンドの温度としては、特に制限されず、例えば700~1100℃程度、より好ましくは700~900℃程度が挙げられる。
【0039】
工程(2)における製膜時間は、目的とする厚み等に応じて適宜選択すればよく、通常3~50時間程度である。
【実施例0040】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0041】
<実施例1>
基材として、高温高圧法により合成した単結晶ダイヤモンド基板を用意した。当該単結晶ダイヤモンドの表面は、[100]面、[111]面、[110]面などの複数の面方位のものを用意した。
【0042】
また、ダイヤモンド粒子を含む溶液を用意した。粒形1μm程度以下のダイヤモンド粒子3gをイソプロピルアルコール200mLへ投入し、超音波洗浄機にて30分間処理した。
【0043】
次に、室温(25℃)において、上記ダイヤモンド溶液中に基材(単結晶ダイヤモンド)を浸漬し、超音波処理を30分間施し、基材の表面にナノダイヤモンドを付着させた。次に、表面にナノダイヤモンドを付着させた基材を熱フィラメントCVD装置内に設置した。フィラメント(タングステン純度99.95%)と基材表面間の距離は10mmとし、水素流量1000sccmに対し、メタン濃度3%、トリメチルボロン濃度665ppm、結晶成長時のフィラメント温度は約2500℃の条件で多結晶ダイヤモンドを10時間成長させて、単結晶ダイヤモンドからなる基材の表面に多結晶ダイヤモンドが形成されたダイヤモンド接合体を製造した。得られたダイヤモンド接合体の多結晶ダイヤモンドの厚みは、5μmであった。
【0044】
<参考例1>
基材の表面にダイヤモンド粒子を付着させなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ダイヤモンド接合体(単結晶ダイヤモンド基板)を製造した。
【0045】
[各面方位毎の結晶成長の観察]
面方位毎の結晶成長を観察するため、単結晶ダイヤモンドの[111]面、[110]面、及び[100]面が表面とされた基板を準備し、単結晶ダイヤモンドの表面の[111]面、[110]面、及び[100]面の表面にナノダイヤモンドを付着させた場合と、付着させなかった場合にそれぞれの基板上に形成された多結晶ダイヤモンドの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた像を図1(ナノダイヤモンドの付着あり)及び図2(ナノダイヤモンドの付着なし)に示す。なお、各基板の表面は、熱混酸処理(250℃~450℃の硫酸と硝酸の混合液中で基板を煮沸洗浄する処理)を行ってから観察した。図1及び図2において、それぞれ、[111]面、[110]面、及び[100]面の上に形成された多結晶ダイヤモンドの表面のSEM像(10000倍)である。図1に示されるように、基材の表面にナノダイヤモンドを付着させた場合は、多結晶ダイヤモンドの結晶成長の均一性が非常に高く、一様な多結晶ダイヤモンドが形成されていることが分かる。一方、図2に示されるように、基材の表面にナノダイヤモンドを付着させなかった場合には、多結晶ダイヤモンドが形成されているものの、結晶成長後のモフォロジー(粒径、結晶の自形)が面方位毎に異なることが分かる。
【0046】
[多結晶ダイヤモンドの走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察]
実施例1及び参考例1で得られたダイヤモンド接合体の多結晶ダイヤモンドについて、走査型電子顕微鏡(SEM)により表面観察を行ったところ、実施例1については、図1に示す通り粒径が0.1~1μm程度であり、[111]面、[110]面、及び[100]面の全ての単結晶面にランダムな結晶方位が2種類以上観察され、参考例1については、図2に示す通り粒径が0.1~1μm程度であり、ランダムな結晶方位が観察された。参考例1のダイヤモンド接合体の多結晶ダイヤモンドについては、[111]面及び[110]面にはランダムな結晶方位が2種類以上観察されたが、[100]面については1種類の結晶方位([100]方向)のみが観察された。また、実施例1の多結晶ダイヤモンド層は、[111]面と[110]面の結晶粒径の比が、2倍以下であり、結晶粒径の大きさのばらつきが小さな一様な結晶粒径を有していた。
【0047】
さらに、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて、図1と同様、基板の[100]面上、[111]面上に多結晶ダイヤモンドが成長したサンプルについて、逆極点図方位(IPF)マップ(図3)を行った結果、いずれも、ランダムな2方向以上の方位を持った表面であることが確認された。さらに、基板の[110]面上に多結晶ダイヤモンドが成長したサンプルも、SEM観察結果から[111]、[110]面と同様に、ランダムな2方向以上の方位を持った表面であることは明らかである。
図1
図2
図3