(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104614
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】防汚性部材および防汚性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230721BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230721BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230721BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230721BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20230721BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 101
B05D1/36 Z
B05D5/00 H
C08J7/043 Z CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005719
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 優史
(72)【発明者】
【氏名】信木 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】香川 博之
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4D075AB01
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4F100JM02C
(57)【要約】
【課題】
従来よりも容易に製造可能であり、かつ、高い防汚効果を長期にわたって持続可能な防汚性部材および防汚性部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の防汚性部材10aは、基材1と、基材1の表面に設けられた保持層2と、保持層2の表面に設けられた流動層3と、を有し、保持層2と流動層3との界面に、保持層2と流動層3とを貫通する界面貫通成分4を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられた保持層と、前記保持層の表面に設けられた流動層と、を有し、
前記保持層と前記流動層との界面に、前記保持層と前記流動層とを貫通する界面貫通成分を含むことを特徴とする防汚性部材。
【請求項2】
前記界面貫通成分は、前記流動層と化学結合する流動層親和部位と、前記保持層と化学結合する保持層親和部位とを含むことを特徴とする請求項1に記載の防汚性部材。
【請求項3】
前記流動層の成分の粘度が20mPa・s以上20000mPa・s以下であることを特徴とする請求項2に記載の防汚性部材。
【請求項4】
前記流動層の成分の粘度が30mPa・s以上15000mPa・s以下であることを特徴とする請求項2に記載の防汚性部材。
【請求項5】
前記流動層の成分の粘度が40mPa・s以上10000mPa・s以下であることを特徴とする請求項2に記載の防汚性部材。
【請求項6】
前記保持層が、芳香族系ポリエステル樹脂、芳香族-脂肪族混合系ポリエステル樹脂、脂肪族系ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合物(塩酢ビ樹脂)、ポリ酢酸ビニル樹脂、部分塩素化ポリプロピレン樹脂、部分塩素化ポリエチレン樹脂およびアセチルセルロース樹脂のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の防汚性部材。
【請求項7】
前記界面貫通成分の前記保持層親和部位が、としてアルキル基、アルキルエーテル基、アミノ基、アミノアルキル基、エチレングリコール基、オリゴエチレングリコール基、エチレンイミン基、オリゴエチレンイミン基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、アミド基、フェニル基、置換フェニル基、アルキルシリル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、クロロアルキル基、ブロモアルキル基、オリゴ(ジメチルシロキサン)基、ポリ(ジメチルシロキサン)基、オリゴ(イソブチレン)基およびポリ(イソブチレン)基のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の防汚性部材。
【請求項8】
前記界面貫通成分の前記流動層親和部位が、パーフルオロアルキル基、オリゴ(ジメチルシロキサン)基、ポリ(ジメチルシロキサン)基、オリゴ(イソブチレン)基およびポリ(イソブチレン)基のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の防汚性部材。
【請求項9】
前記界面貫通成分が前記流動層の成分と異なり、
前記界面貫通成分が、前記保持層と相互作用する部位としてアルキル基、アルキルエーテル基、アミノ基、アミノアルキル基、エチレングリコール基、オリゴエチレングリコール基、エチレンイミン基、オリゴエチレンイミン基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、アミド基、フェニル基、置換フェニル基、アルキルシリル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、クロロアルキル基、ブロモアルキル基、オリゴ(ジメチルシロキサン)基、ポリ(ジメチルシロキサン)基、オリゴ(イソブチレン)基、ポリ(イソブチレン)基、から選ばれる1種類以上の部分構造を備え、
さらに、パーフルオロアルキル基、オリゴ(ジメチルシロキサン)基、ポリ(ジメチルシロキサン)基、オリゴ(イソブチレン)基、ポリ(イソブチレン)基、から選ばれる1種類以上の部分構造を、前記界面貫通成分と前記流動層の成分が共通して備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の防汚性部材。
【請求項10】
基材の表面に保持層を設ける工程と、前記保持層の表面に流動層を設ける工程と、を有し、前記保持層と前記流動層とを貫通する界面貫通成分を含むことを特徴とする防汚性部材の製造方法。
【請求項11】
前記保持層を設ける工程は、前記保持層の成分および前記界面貫通成分と、を含む溶液を塗布し、乾燥する工程であり、
前記保持層の表面に前記流動層を設ける工程は、前記保持層の表面に前記流動層の成分を含む溶液を塗布し、乾燥する工程であることを特徴とする請求項10に記載の防汚性部材の製造方法。
【請求項12】
前記保持層を設ける工程は、前記基材に前記界面貫通成分を含む前記保持層を貼り付ける工程であり、
前記流動層を設ける工程は、前前記保持層の表面に前記流動層を貼り付ける工程であることを特徴とする請求項10に記載の防汚性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性部材および防汚性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体外診断装置(生化学自動分析装置、検体前処理装置など)は、生体分子(血清など)やカビ等の付着を抑制するために、装置を構成する部材の表面に防汚性のコーティングが施される。タンパクに代表される巨大生体分子は、分子内に疎水部と親水部を併せ持つ複雑な構造的特徴を有し、部材の表面の単純な親水性/疎水性の制御では、生体分子の吸着抑制が不十分であるおそれがある。これに対し、部材の表面に流動性を有する表面を形成することで、従来技術では困難だった生体分子などの吸着抑制を実現できることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、部材の表面に防汚性を付与する技術として、基材100と、基材100の表面の分子固着層110と、分子固着層110の表面に設けられた潤滑層140を有する構成が開示されている。分子固着層110は、基材100と化学結合する頭部領域120と、潤滑層140側に伸びるテイル領域130を含む。潤滑層140は、基材100の表面へ汚染物質を付着させず、汚染物質の通過を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、防汚性能を有する潤滑層(流動層)を基材に保持するために、基材の表面に化学修飾を施している。この化学修飾は、基材の種類によっては施工が困難であり(特に、樹脂系の材料では困難)、化学修飾のために必要な工数も増えるため、コストも増大する。また、防汚効果の耐久性に対しても必ずしも十分ではなく、長期使用に課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、従来よりも容易に製造可能であり、かつ、高い防汚効果を長期にわたって持続可能な防汚性部材および防汚性部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、基材と、基材の表面に設けられた保持層と、保持層の表面に設けられた流動層と、を有し、保持層と流動層との界面に、保持層と流動層とを貫通する界面貫通成分を含むことを特徴とする防汚性部材である。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、基材の表面に保持層を設ける工程と、保持層の表面に流動層を設ける工程と、を有し、保持層と流動層とを貫通する界面貫通成分を含むことを特徴とする防汚性部材の製造方法である。
【0009】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも容易に製造可能であり、かつ、高い防汚効果を長期にわたって持続可能な防汚性部材および防汚性部材の製造方法を提供できる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】流動性を有する部材とその表面の汚染物質を示す模式図
【
図3】流動性を有する部材とその表面の汚染物質を示す模式図
【
図5】本発明の防汚性部材の製造方法の第1の例を示すフロー図
【
図6】本発明の防汚性部材の製造方法の第2の例を示すフロー図
【
図7】本発明の防汚性部材の製造方法の第3の例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の具体的な実施形態を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0014】
図1は本発明の防汚性部材の第1の例を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の防汚性部材10aは、基材1と、基材1の表面に設けられた保持層2と、保持層2の表面に設けられた流動層3と、を有し、保持層2と流動層3との界面に、保持層2と流動層3とを貫通する界面貫通成分4を含む。
【0015】
本発明で本発明の防汚性部材10aは、従来の防汚技術で吸着抑制が困難な巨大生体分子と接触する用途において特に高い防汚効果が得られる、本発明で提供する部材は特に水に対して高い撥液性を示すことから、水系の液体と接触する用途の部材で高い防汚効果が得られる、汚染物質(防汚対象)については限定されないが、例えば、吸着性の成分を含む水溶液(血清、血漿、体液もしくは前処理された体液、培養上清、生体試料やその抽出液、タンパク溶液および水道水など)、細胞や微生物などを含む水(体液もしくは前処理された体液、培養液、環境中の水および微生物やカビ胞子などで汚染させたなど)、が挙げられる。
【0016】
基材1の材料や形状については特に限定はなく、検体が接触する部位に用いる部材であっても構わないし、環境中の防汚対象が接触する部材であっても構わないし、廃棄物が接触する部材であっても構わないし、水が接触する部材であっても構わない。
【0017】
流動層3の材料は、防汚対象によって適したものを選ぶことができる、保持層2の材料は、流動層3の材料と基材1の材料によって適したものを選ぶことができる。流動層3も保持層2も、単一材料から形成されていても構わないし、複数材料から形成されていても構わない、
防汚性部材10aは、流動層3と保持層2の界面に、その界面を貫通する成分(以下、界面貫通成分4)を有することを特徴とする。界面貫通成分4は、流動層3を保持層2の表面に安定に形成させる役割を担う。界面貫通成分4は、保持層2に対して親和性を有する部位(保持層親和部位41)と、流動層3に対して親和性を有する部位(流動層親和部位40)を有する。これらの部位はそれぞれ別の化学構造であっても、同一の化学構造であってもよい。保持層2および流動層3の2つの層に対して親和性を有する界面貫通成分4を備えることで、流動層3が保持層2に対して強い親和性を有するようになり、流動層3が安定に保持される。
【0018】
上述した特許文献1では、固体表面を化学修飾して潤滑に用いる液体との親和性を向上させている。これに対し、界面貫通成分4を用いる本発明では、流動層3との親和性の向上に化学的に結合された官能基を必要としないため、化学修飾に関わる基材の制限や製造プロセスの制限を受けにくい。基材の制限とは、例えば、表面に官能基を付与しにくい材料を用いる場合や、高い官能基密度を実現しにくい材料を用いる場合に困難を伴うことである。製造プロセスの制限とは、例えば、基材の表面に官能基を付与するプロセスが必要であることや、それによって製造上の困難が生じることである。
【0019】
本発明の界面貫通成分4は流動層3と保持層2の界面に存在することがエネルギー的に十分に安定であり、コーティングなどの単純なプロセスによって自発的に界面に存在させることができる。このことから、本発明の防汚性部材10aを用いることで、防汚性を有する部材を比較的簡便かつ大規模に製造することができる、
界面貫通成分4の化学的な構造に関しては限定されない。界面貫通成分4が流動性を有する場合、界面貫通成分4を流動層3の成分として用いることができる。界面貫通成分4が流動性でない場合、界面貫通成分4を保持層2の成分として用いることができる。流動性を有する界面貫通成分4を流動層3の成分と兼用することが製造上の簡便さの観点からは好ましいが、これに限定されない、
流動層3の成分は、防汚に適した物性を示す限り、化学的な構造に関しては限定されない。防汚に適した物性とは、例えば溶解性や表面エネルギーや流動性や密度などである、溶解性については、防汚対象と流動層3の成分が混和性である場合、流動層3が保持層2から遊離して防汚対象に混和することで防汚効果が得られないため、防汚対象に対して十分に溶解性が低い必要がある。また、混和性でない場合でも物理的な相互作用によって流動層3が防汚対象に混入することもあるため、留意が必要である、流動性や密度については、防汚対象を表面から十分に取り除き得る流動性が得られる限りにおいて限定されないが、様々な要因によって適した範囲が存在する、
図2および
図3は流動性を有する部材とその表面の汚染物質を示す模式図である。防汚対象5が保持層2に接触せず、面内方向に移動可能である限り、防汚性・撥液性が発揮される、このとき、流動層3の粘度が低いほど、面内方向での移動が容易であるため、防汚性・撥液性は高い。例えば、下記参考文献1、2では、粘度の低いシリコーンオイル(動粘度として5cSt程度、密度が0、913g/cm
3程度であるため粘度としては4、6mPa・s程度)を用いることで高い防汚性を実現している、また、上述した特許文献1では、3~15mPa・sの範囲の粘度の潤滑剤を用いて液膜を調製することで効果が得られるとしている、。
【0020】
参考文献1:Nature 2011, 477, 443-447
参考文献2:ACS Biomater. Sci. Eng. 2015, 1, 43-51
このように、低い粘度領域での液膜形成に関して従来より検討されている、しかし、我々の検討の結果、必ずしも粘度が低い方が実用上の観点から望ましいとは限らないことが判明した。
【0021】
まず、流動層3の粘度が低い場合、防汚対象5が流動層3に接触した際に、保持層2に偶発的に接触する可能性が高いことが判明した(
図2)。これは、特に防汚対象5の比重が流動層3の成分の比重より大きいときに顕著である、例えば、防汚対象5が水系で、流動層3の成分が有機系の液体(シリコーン系の液体など)の場合などである、ただし、これは、防汚対象5が一定の速度をもって流動層3に接触する場合などは比重に関係なく発生する現象である。防汚対象5が偶発的に保持層2に接触した場合、防汚対象5やその中の成分が保持層2に吸着され蓄積されることで、保持層2の流動層3に対する保持能が低下したり、蓄積された成分が流動層3より上部の表面に出ることで防汚性が失われたりする。このような現象は防汚性部材の長期的な耐久性を低下させるため、流動層3の成分としては、防汚性と耐久性を両立させる範囲の粘度の液体を用いることが望ましい、
また、流動層3の粘度が低い場合、防汚対象5が流動層3に接触した際に、流動層3の成分が防汚対象5に混入しやすいことが判明した(
図3)。例えば、防汚対象5が水系である場合、防汚対象と空気の界面エネルギーが高く(B部分)、流動層の成分と空気の界面エネルギーが低いため(A部分)、エネルギー的に安定化させる方向で流動層の成分が水と空気の界面に入り込みやすい。このようにして流動層の成分が防汚対象に混入すると、部材の表面から流動層の成分が失われることで耐久性が低下したり、混入した流動層の成分が他の場所に移動して汚染となったり、混入した流動層の成分によって装置性能が低下したりする。このような現象を低減するため、流動層の成分としては、防汚性と非混入性を両立させる範囲の粘度の液体を用いることが望ましい。
【0022】
これらの観点から、流動層の成分の粘度としては、20mPa・s以上20000mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以上15000mPa・s以下であることがより好ましく、40mPa・s以上10000mPa・s以下であることがさらに好ましい、
界面貫通成分4は、前述の通り、保持層2に対して親和性を有する部位(保持層親和部位)41と、流動3層に対して親和性を有する部位(流動層親和部位)40を有する。簡便に製造でき、防汚性と耐久性を両立可能な構成として、以下に2例を示す、
第1は、界面貫通成分4として、保持層親和部位41と流動層親和部位40の構造が異なる例である、このような例の場合、保持層2と流動層3で成分や物性が大きく異なっていても製膜可能であることから、材料選定の自由度が高い、例えば、保持層2は、製膜性や基材との密着性などの観点から材料を選定し、流動層3は、防汚性や耐久性の観点から材料を選定することが可能である。保持層2の成分としては、例えば、芳香族系ポリエステル樹脂、芳香族-脂肪族混合系ポリエステル樹脂、脂肪族系ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合物(塩酢ビ樹脂)、ポリ酢酸ビニル樹脂、部分塩素化ポリプロピレン樹脂、部分塩素化ポリエチレン樹脂およびアセチルセルロース樹脂などであるが、これらに限定されない。
【0023】
保持層親和部位41は保持層2の成分に対して適切に選ぶことができるが、例えば、アルキル基、アルキルエーテル基、アミノ基、アミノアルキル基、エチレングリコール基、オリゴエチレングリコール基、エチレンイミン基、オリゴエチレンイミン基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、アミド基、フェニル基、置換フェニル基、アルキルシリル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、クロロアルキル基およびブロモアルキル基、などであるが、これらに限定されない。また、これらの中から2種類以上でも構わない、ただし、界面貫通成分4と流動層3の成分を兼用する場合には、保持層親和部位41が流動性や防汚性に与える影響を少なく留めることが望ましいため、流動層親和部位40に対して占有体積が小さい方が好ましい。
【0024】
流動層3の成分や流動層親和部位40は防汚対象によって適切に選ぶことができる。界面貫通成分4において、保持層親和部位41と流動層親和部位40の位置関係やモル比は限定されない。流動層親和部位としてポリマーやオリゴマーを用いる場合、保持層親和部位41は側鎖として導入されていても構わないし、末端に導入されていても構わない。また、流動層親和部位40は必ずしも直鎖である必要はなく、分岐していても構わない。流動層3の成分は流動性を示す必要があるため、例えば、オリゴ(ジメチルシロキサン)系、ポリ(ジメチルシロキサン)系、置換オリゴ(ジメチルシロキサン)系、置換ポリ(ジメチルシロキサン)系、ポリブテン系、ポリイソブチレン系、炭化水素系、フッ化炭化水素系、ポリエーテル系、フッ化ポリエーテル系およびイオン液体系などから選ばれる部分構造を持つことができるが、これらに限定されない。
【0025】
第2は、界面貫通成分4として、保持層親和部位41と流動層親和部位40の構造が同じ例である、このような例の場合、保持層2と流動層3で成分や物性が類似である必要があるため、第1の例と比較して材料選定の自由度は低いが、界面貫通成分4と流動層3の成分を兼用する場合に、異なる構造の保持層親和部位41による防汚性への影響の懸念がない。このような場合、保持層2の成分としては、例えば、架橋ポリ(ジメチルシロキサン)系樹脂、架橋置換ポリ(ジメチルシロキサン)系樹脂、ポリ(ジメチルシロキサン)部分構造を有する樹脂、ポリエチレン樹脂、分岐ポリエチレン樹脂およびフッ素樹脂などから選ぶことができるが、これらに限定されない。
【0026】
また、流動層3の成分は、例えば、オリゴ(ジメチルシロキサン)系、ポリ(ジメチルシロキサン)系、置換オリゴ(ジメチルシロキサン)系、置換ポリ(ジメチルシロキサン)系、ポリブテン系、ポリイソブチレン系、炭化水素系、フッ化炭化水素系、ポリエーテル系、フッ化ポリエーテル系およびイオン液体系などから選ぶことができるが、これらに限定されない。
【0027】
保持層親和部位41と流動層親和部位40の構造が同じ場合、界面貫通成分4が保持層にどこまで深く相互作用するかは組合せにより異なり、界面貫通成分4が保持層の中にほぼ完全に混合するような形式で相互作用することもあるし、混合までしないとしても数原子分程度の深さまで入り込んだ状態で相互作用する場合もある。このような例においても、第1の例と同様に、流動層3の成分は直鎖である必要はなく、分岐していても構わない。
【0028】
図5~
図7は、それぞれ、本発明の防汚性部材の製造方法の第1の例から第3の例を示すフロー図である。本発明で提供する防汚性を有する部材の製造方法は限定されない。例えば、保持層2と流動層3を同時に形成しても構わないし、保持層2を形成した後に流動層3を形成しても構わない。保持層2の形成に際して、化学的な反応を伴っていても構わないし、伴っていなくても構わない。
【0029】
図4は本発明の防汚性部材の第2の例を示す模式図である。保持層2と基材1の間に、保持層2の基材に対する密着性を向上させる補助層6を形成しても構わない、例えば、ポリプロピレンのような基材を用いた際に塩素化ポリプロピレンを補助層として用いるなどが可能である、塗布性を向上させる目的の表面処理は公知技術が多数あるため、それらの中から適切に選ぶことができる、
保持層2の形成には、保持層2の成分に対して適した公知技術を用いることができる、例えば溶媒に可溶の成分を用いる場合は、保持層2の成分を溶媒に溶かしたものを塗布して乾燥することで保持層2とすることができる、また、保持層2の形成の過程で硬化反応などが必要な場合は、例えば保持層2の前駆体を塗布した後に硬化させることで保持層2とすることができる、保持層2の成分と界面貫通成分4の表面エネルギーが適切である場合、このような塗布の際に保持層2の成分に界面貫通成分4をあらかじめ添加しておくことで、形成した保持層2の表面に界面貫通成分4を偏在させることもできる、一方で、例えばフィルム状などにあらかじめ加工した保持層2を基材の上に貼り付けることもできる、
流動層3の形成にも、流動層3の成分に対して適した公知技術を用いることができる、例えば溶媒に可溶の成分を用いる場合は、流動層3の成分を溶媒に溶かしたものを塗布して乾燥することで流動層3とすることができる、流動層3の成分の分配係数次第では、流動層3の成分を溶解させた溶液を表面に接触させるのみでも、溶媒中から表面上に移動して流動層を形成することができる、流動層3の成分を直接接触させることでも流動層を形成することができる。また、適切な蒸気圧を有する場合は、蒸着などの気相系のプロセスを用いることもできる、
界面貫通成分4を流動層3と保持層2の界面に偏在させる手段は限定されない。前述のように、保持層2の成分と界面貫通成分4の混合物を用いてもよいし、保持層2を形成した後に塗布などによって保持層2の表面に偏在させてもよいし、流動層3の成分と界面貫通成分4の混合物を用いてもよい。界面貫通成分4と流動層3の成分を兼用する場合は、界面貫通成分4の保持層2の表面への偏在と流動層3の形成を同時に実施できる、
本発明で提供する防汚性を有する部材は、必ずしも表面の全てが流動層3で覆われている必要はなく、保持層2についても必ずしも平坦である必要はない、上述のような流動層3や保持層2の形成方法に際し、工程中に自発的な相分離などが発生することは十分に考えられることであり、流動層3の被覆率や保持層2の平坦性に影響する。例えば凹凸構造や海島構造の発生によって流動層3に不均一な分布が生じることが考えられる。ただし、流動層3の被覆率が低いことが必ずしも防汚性や耐久性に影響するとは限らず、防汚対象にとって十分な流動性が担保できる限りにおいて、流動層3の被覆率は限定されない、また、保持層2の平坦性が低いことも必ずしも防汚性や耐久性に影響するとは限らないため、十分な防汚性が担保できる限りにおいて、保持層2の平坦性は限定されない、場合によっては流動層3の被覆が完全でないことや、保持層の2平坦性が低い方が防汚性や耐久性に対して有利に影響することも考えられる。
【実施例0030】
以下、本発明について、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0031】
[実施例1の防汚性部材の作製]
実施例例1では、末端修飾PDMS(ジメチルシロキサン、粘度:500mPa・s)を流動層3の成分かつ界面貫通成分4として、ポリエステル樹脂を保持層2の成分として用いる防汚性部材を作製した。
【0032】
末端にアミノプロピル基(-C3H6-NH2)を備える末端修飾PDMS(1、5質量%)とポリエステル樹脂(10質量%)のMEK溶液を、PP(ポリプロピレン)製の筒状部材の内壁に塗布し、自然乾燥させた。末端修飾PDMSとポリエステル樹脂は相溶せず、末端修飾PDMSの方が表面エネルギーが低いため、溶媒の乾燥によって相分離し、PP側にポリエステル樹脂が、空気側に末端修飾PDMSが偏在した、また、偏在に際し、一部の末端修飾PDMSは末端部分がポリエステル樹脂側に相溶することで、界面を貫通した成分を含む構造となった。
【0033】
[防汚性評価1]
筒状部材の防汚性は、筒状部材の内部にウマ血清を滴下し、その付着物の量から評価した。垂直方向から30度の角度で傾斜をつけたPP製の筒の内側にウマ血清(10mL)を滴下した。滴下終了後に、ウマ血清由来の鱗状付着物の重量を測定した。
【0034】
上述した実施例1の防汚性部材の構成において、流動層3を備えない構成を有する比較例1の防汚性部材を作製した。比較例1のPP製の筒に対してウマ血清を用いて防汚性を評価したところ、7.2mgの鱗状付着物が確認された。
【0035】
一方、上述した実施例1の防汚性部材粘度500mPa・sの末端修飾PDMSを用いたところは、鱗状付着物は0、5mg以下であり、比較例1の付着物量の1/14以下であった。
【0036】
上述した実施例1の防汚性部材の構成において、粘度が30000mPa・sより大きい末端修飾PDMSを用いて比較例2の防汚性部材を作製した。比較例2の防汚性部材は、流動性が不十分だったため、付着物量は比較例1とほぼ同等であった。
【0037】
[実施例2の防汚性部材の作製]
実施例2では、シリコーンオイル(粘度:100m・Pa)を流動層3の成分かつ界面貫通成分4として、架橋PDMS樹脂を保持層2の成分として防汚性部材を作製した。
【0038】
PDMS系接着剤(Silpuran、10質量%)のトルエン溶液をSUS製の板状部材に塗布し、自然乾燥させた。十分に硬化した後に、シリコーンオイルを水/エタノール(体積比1:13混合物)に溶解させた飽和溶液の中に1時間浸漬した。この過程で、水/エタノール混合溶液に溶解していたシリコーンオイルがPDMS系接着剤で形成された保持層に溶解することで界面貫通成分となり、さらにその上にシリコーンオイルによる流動層3が形成された。
【0039】
[防汚性評価2]
板状部材の防汚性は、板上にウマ血清を滴下し、その付着物の量から評価した、水平方向から5度の角度で傾斜をつけたSUS製の板に対してウマ血清(0.5mL)を滴下した、滴下終了後に、ウマ血清由来の鱗状付着物の量が確認された、付着物の量はタンパク中のカルボニル伸縮に由来する波数領域におけるIR吸収強度から相対比較した。
【0040】
上述した実施例2の防汚性部材の構成において、SUS製の板状部材に対し、流動性を示さないシリコーン系防汚コーティング(市販品A)を施した比較例3の防汚性部材を作製し、ウマ血清を用いて防汚性を評価した。得られたIR吸収強度を相対評価の基準値とした。
上述した実施例2の防汚性部材は、付着物量は比較例3の約1/50であった。
【0041】
[実施例3の防汚性部材の作製および評価]
上述した実施例2の防汚性部材において、粘度50mPa・sのシリコーンオイルを用いたところ、付着物量は比較例3の約1/50であった、
上述した実施例2の防汚性部材において、粘度5mPa・sのシリコーンオイルを用いて比較例4の防汚性部材を作製したところ、付着物量は実施例2の約10倍であった。粘度が低いことでウマ血清が保持層と接触しやすく、防汚性が持続しなかったことが示された。
【0042】
製造例3では、シリコーンオイルを流動層の成分として、末端修飾PDMSを界面貫通成分として、ポリエステル樹脂を保持層の成分として用いる系を検討した、
SUS製の板状部材上に製造例1と同様にして表面に末端修飾PDMSを備えたポリエステルを形成した後に、製造例2と同様にしてシリコーンオイルの層を表面に形成した、
[実施例4の防汚性部材の作製および評価]
上述した実施例3にて、粘度が30000mPa・sより大きい末端修飾PDMSを界面貫通成分4として用い、粘度100mPa・sのシリコーンオイルを流動層3の成分として実施例4の防汚性部材の作製したところ、付着物量は比較例3の約1/50であった。
【0043】
[実施例5の防汚性部材の作製及び評価]
実施例5では、ポリブテンを流動層3の成分かつ界面貫通成分4として、分岐ポリエチレン樹脂を保持層2の成分として用いて防汚性部材を作製した。
【0044】
具体的には、分岐ポリエチレン樹脂のフィルムを、ポリブテン(10質量%)のトルエン溶液に浸漬した後に空気中に引き上げて自然乾燥させた、分岐ポリエチレン樹脂がトルエンで膨潤した際に隙間にポリブテンが含浸され、界面を貫通する状態となった。自然乾燥させたフィルムを樹脂製の板状部材に貼り付けることで、基材1と保持層2と界面貫通成分4と流動層3を備える状態とした。防汚性は、SUS製の板状部材と同様にして評価し、比較例3に対して比較した(防汚性評価2)。
【0045】
[実施例6の防汚性部材の作製および評価]
実施例5において、粘度8000mPa・sのポリブテンを用いて実施例6の防汚性部材を作製したところ、付着物量は比較例3の約1/10であった。
【0046】
上述した実施例4にて、粘度が400000mPa・sよりおきいポリブテンを用いたところ、流動性が不十分だったため、付着物量は比較例3とほぼ同等であった。
【0047】
[実施例7の体外診断装置への適用]
実施例7では、本発明が提供する部材の体外診断装置への適用を検討した。実施例1でコーティングされた筒状部材を、体外診断装置の試作機に取り付け、模擬検体を通過させた、コーティングのない筒状部材を取り付けて同様に検討した場合と比較して、検体に由来する筒内の詰まり発生の頻度が有意に低下した。
【0048】
[実施例8の体外診断装置への適用]
実施例8では、本発明が提供する部材の体外診断装置への適用を検討した。実施例1と同様のプロセスでコーティングされたディスク状部材を、体外診断装置の試作機に取り付け、ディスク状部材に結露水が接触する条件において動作させた、コーティングのないディスク状部材を取り付けて同様に検討した場合と比較して、カビの発生量を有意に低減することができた。
【0049】
以上、説明した通り、本発明によれば、従来よりも容易に製造可能であり、かつ、高い防汚効果を長期にわたって持続可能な防汚性部材および防汚性部材の製造方法を提供できることが示された。
【0050】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。