(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104797
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】製パン練込用油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20230721BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20230721BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20230721BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230721BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D2/14
A21D13/00
A21D10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005999
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷内 佳奈子
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH02
4B026DK01
4B026DL03
4B026DL09
4B026DP01
4B026DX02
4B026DX05
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK10
4B032DK14
4B032DK51
4B032DL06
4B032DP13
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】増粘安定剤添加量を増やした場合でも生地分散性が高く、また、油脂組成物製造時に増粘することなく安定的に製造可能であり、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンを製造可能である製パン練込用油脂組成物の提供。
【解決手段】対水増粘安定剤濃度が1~10質量%であり、且つ、水相の粒径のメディアンが5μm以下である、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することが好ましい。糖分解酵素を含有することも好ましい。比重が0.9未満であることも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対水増粘安定剤濃度が1~10質量%であり、且つ、水相の粒径のメディアンが5μm以下である、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する請求項1に記載の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
糖分解酵素を含有する、請求項1又は2に記載の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
比重が0.9未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を含有するパン生地。
【請求項6】
請求項5に記載のパン生地の加熱処理品であるパン製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製パン練込用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パンに求められる食感としてはソフト性が基本であるが、最近では、しとりと口溶けに対する関心が高く、従来のパンに比べて、よりソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンが求められている。
【0003】
このようなパンを得るには、基本的には水分を多く配合すればよい。しかし、水分を多く配合したパン生地は、べたついた物性になり、丸めや成型時に扱いにくい等、生地物性が悪化してしまう問題があった。また、得られたパンは、確かにソフトでしっとりとしているが、ねちゃついた食感になってしまう問題もあった。
【0004】
そのため、増粘安定剤を生地に配合することが行われる。しかしここでより高い改良効果を求めて増粘安定剤を大量に配合すると、グルテン生成を阻害するためパン生地の伸展性が悪化し、得られるパンの体積も小さくなってしまい、かえってソフト性が失われ、ねちゃつき感も増してしまう。
【0005】
そのため、増粘安定剤を製パン練込用油脂組成物中に含有させてからパン生地に添加することが行われる。それによりパン生地製造の最終段階で添加することができ、グルテン生成に影響なく、また、生地物性に影響されることなく増粘安定剤を大量に添加することができる。そのため体積が大きく、よりソフトでしとりがあり口溶けも良好なパンを得ることができるようになった。
【0006】
このような、増粘安定剤を使用した製パン練込用油脂組成物の技術としては、液状油に増粘多糖類を分散した油脂組成物(例えば特許文献1参照)、油脂中に糊化膨潤した澱粉粒が分散した油脂組成物(例えば特許文献2参照)、水相に乳化剤並びにオリゴ糖及び/又はデキストリンを含有する油脂組成物(例えば特許文献3参照)、水相に特定分子量のデキストリンを含有する油脂組成物(例えば特許文献4参照)、高粘度キサンタンガムを含有する油脂組成物(例えば特許文献5参照)、特定の水溶性食物繊維を含有する油脂組成物(例えば特許文献6参照)などの提案がなされている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では増粘剤に油脂がコーティングされるため改良効果が効きにくく、特許文献2に記載の糊化膨潤澱粉は粒径が大きいため、パンの種類によっては食感に影響が出てしまう問題があった。
【0008】
特許文献3や特許文献4で使用するオリゴ糖やデキストリン、特許文献6に記載の水溶性食物繊維は粘度が低い安定剤のため添加量が多い場合、油相中に安定的に保持するのが困難になってしまう問題があった。
【0009】
特許文献5で使用するキサンタンガムは逆に極めて高粘度の安定剤であるため、組成物中に配合可能な量が限定されてしまうという問題があった。
【0010】
また、これらの方法では、高い改良効果を求めて増粘安定剤の含有量を増やすとその添加量の割に効果は頭打ちになるという問題があった。そしてさらに増粘安定剤の添加量を増やすとパンは逆に硬いものとなってしまう問題もあった。
【0011】
また、増粘安定剤の添加量を増やすことにより、油脂組成物の粘度も極めて高いものになるため、パン生地への分散性(生地分散性)が大きく低下してしまうことに加え、製造時において、増粘のため安定的な生産が困難になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005-000048号公報
【特許文献2】特開平08-224057号公報
【特許文献3】特開2012-125236号公報
【特許文献4】特開2013-102745号公報
【特許文献5】特開2014-000059号公報
【特許文献6】特開2019-165646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、増粘安定剤の添加量を増やした場合でも生地分散性が高く、また、油脂組成物製造時に増粘することなく安定的に製造可能である製パン練込用油脂組成物を提供することにある。
【0014】
また本発明の目的は、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンを製造可能である製パン練込用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、増粘安定剤を多く含有する製パン練込用油脂組成物を製造する際に、増粘安定剤を含む水相の粒度を微細なものとすることで上記課題を解決可能であることを見出した。
【0016】
本発明は、上記知見により得られたものであり、対水増粘安定剤濃度が1~10質量%であり、且つ、水相の粒径のメディアンが5μm以下であることを特徴とする製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、増粘安定剤添加量を増やした場合でも生地分散性が高く、また、油脂組成物製造時に増粘することなく安定的に製造可能である。また本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を使用することにより、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンを体積の減少を伴うことなく、安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物について詳述する。
【0019】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、増粘安定剤を、製パン練込用油脂組成物の水分の含有量に対する増粘安定剤含有量、すなわち対水増粘安定剤濃度が1~10質量%、好ましくは1~7質量%、さらに好ましくは1~5質量%となるように含有する。対水増粘安定剤濃度が1質量%未満であると、増粘安定剤を含む水相の粒度を微細化しにくくなり下記の粒径にすることが困難になる傾向があるのみならず、本発明の効果が得られない。また10質量%を超えるとパン生地への添加時に生地分散性が悪化し、口溶けやソフト性といった食感が得られない。また10質量%を超えると、場合によっては、油脂組成物の製造時に増粘しすぎて下記の粒径にすることが困難になるのみならず、油脂組成物の製造自体が困難となってしまう。
【0020】
なお、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物中の増粘安定剤含有量は、油脂組成物基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~1.0質量%、さらに好ましくは0.1~0.7質量%である。増粘安定剤の含有量が0.01質量%未満であるとしとり感に乏しいパンとなってしまうおそれがあり、また5質量%を超えると食感の硬いパンとなってしまう。
【0021】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物で使用する増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、糊化澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち本発明では口溶けが良好であるパン類が得られやすい理由から、キサンタンガム、グルコマンナン及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好ましく、キサンタンガム及びグルコマンナンを用いるのがより好ましい。
【0022】
ここで、キサンタンガム及びグルコマンナンを併用する場合、増粘安定剤中に占めるキサンタンガムとグルコマンナンの合計量の割合は、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%である。
【0023】
また、キサンタンガム及びグルコマンナンを併用する場合、それらの含有量の質量比率(キサンタンガム:グルコマンナン)が、10:90~95:5、特に20:80~95:5となるように両者を含有させることが好ましい。キサンタンガムとグルコマンナンの質量比率が10:90よりもグルコマンナンの質量が多いとボリュームの無いパン類となりやすく、95:5よりもキサンタンガムの質量が多いと食感の硬いパン類となりやすい。
【0024】
上記キサンタンガムとしては、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したときのキサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1000mPa・s以上、特に1200~2500mPa・sである、高粘度キサンタンガムを使用することが好ましい。
【0025】
本発明において、上記の測定条件で測定したときのキサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1000mPa・s以上のキサンタンガムを用いることで、添加量が少なくても口溶けが良好であるパン類が得られやすいという利点がある。
【0026】
なお、通常のキサンタンガムは、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が100~800mPa・s程度である。
【0027】
上記高粘度キサンタンガム及びグルコマンナンを併用する場合、それらの含有量の質量比率(高粘度キサンタンガム:グルコマンナン)が、10:90~90:10、特に50:50~90:10となるように両者を含有させることが好ましい。
【0028】
上記高粘度キサンタンガムは、通常のキサンタンガムを不溶性溶媒へ分散させて加熱したり、又は粉末状態のまま加熱したりする等の、無水条件下で加熱するという物理的加工を施すことによって得ることができる。
【0029】
上記高粘度キサンタンガムとしては、市販品を用いることもでき、該市販品としては、商品名ウルトラキサンタンV-T、ウルトラキサンタンV-7T(以上、伊那食品工業(株)製)、商品名GRINSTED Xanthan MAS-SH(ダニスコ社製)等が挙げられる。
【0030】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、水相の体積基準のメディアン径が5μm以下であることが必要であるが、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2~1.5μm以下であることが好ましい。水相の体積基準のメディアン径が5μm超であると本発明の効果、特に、生地分散性が悪化しやすい。また油脂組成物自体の安定性が低下しやすい。
【0031】
水相の体積基準のメディアン径の下限については製造可能である範囲であればよく、好ましくは0.01μm、より好ましくは0.1μm、さらに好ましくは0.2μmである。
【0032】
上記範囲の粒径とするには、対水増粘安定剤濃度を1~10質量%としたうえで、下述の油脂組成物製造時の油中水型乳化物作成時に通常の乳化攪拌速度や攪拌時間よりも攪拌速度や攪拌時間を上げる方法、下述のようにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを使用する方法や、下述の製造方法において、均質化装置を使用して均質化する工程を挿入する方法などがあげられる。
【0033】
なお、本発明では、上記水相の粒径の測定方法としては、光学顕微鏡を使用し、乳化滴100個の粒径を測定し、その値から算出する方法や、島津レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2100、島津製作所製)等を用いて測定する方法が挙げられる。
【0034】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物はポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することが、水相の粒径を微細にすることが容易である点で好ましい。
本発明で使用するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、その構成脂肪酸数及びグリセリンの重合度については特に制限されることなく用いることができる。
【0035】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~2質量%、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が0.05質量%よりも少ないと、水相の粒径が特定値以下とするために均質化処理等が必要となり油脂組成物の製造作業性が悪化することに加え、均質化処理を行わないと油中水型の乳化状態が不安定となるため好ましくない。一方、5質量%以下とすることで、生地分散性の低下のおそれを防止する点、及び、得られるパンの油性感や乳化剤風味のパンへの付与を防止する点から好ましい。
【0036】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、水相の粒径をより微細にすることができる点、および得られるパンの食感をよりソフトにすることが可能である点で、上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに加え、グリセリンモノ脂肪酸エステルを1.0~12質量%、好ましくは2.0~10.0質量%、より好ましくは4.0~10.0質量%含有する。
【0037】
上記グリセリンモノ脂肪酸エステルとは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、その構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。具体的には、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルモトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
本発明では、特に上記グリセリンモノ脂肪酸エステルの構成脂肪酸がパルミチン酸及びステアリン酸のうちの1種又は2種であることが、生地分散性を向上させることが可能である点で好ましく、パルミチン酸であることがより好ましい。
【0039】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルおよびグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の乳化剤を使用することができる。
【0040】
上記その他の乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム等が挙げることができる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
製パン練込用油中水型乳化油脂組成物がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルおよびグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の乳化剤を含有する場合、その量は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物はソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンが得られる点で、糖分解酵素を含有するものであることが好ましい。
【0042】
本発明で使用することのできる糖分解酵素としては、具体的には、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ、3糖生成アミラーゼ、4糖生成アミラーゼ、オリゴ糖生成型アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコシルトランスフェラーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0043】
なかでも本発明ではよりソフトなパンが得られ、且つ、長期にわたってその食感を保持可能であることから、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ、3糖生成アミラーゼ、4糖生成アミラーゼのうちの1種又は2種以上と、ヘミセルラーゼを併用することが好ましい。
【0044】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物で使用する油脂としては、特に制限はなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、キャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、ゴマ油、オリーブ油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに完全水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等が挙げられる。本発明では、これらの食用油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
なかでも、本発明では、ヨウ素価52~75のパーム分別軟部油を70質量%以上、特に90質量%以上、とりわけ100質量%含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を、油相中に50~95質量%、特に81~95質量%含有させることが、しとりのある食感のパンが得られる点で好ましい。
【0046】
上記油脂配合物における上記パーム分別軟部油以外の油脂は、適宜選択することができる。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、さらに、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
また、本発明では、上記エステル交換油脂1質量部に対しパーム油、パームステアリン、パームオレインから選ばれる少なくとも一種を0.03~0.3質量部、特に0.03~0.1質量部含有させることが、体積が大きく且つソフトなパンが得られる点で好ましい。
【0048】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物中、油脂の含有量は、組成物基準で好ましくは51~94質量%、より好ましくは55~90質量%、さらに好ましくは60~85質量%である。油脂の含有量が51質量%未満では、パン生地に添加した際の生地分散性が悪化することに加え、得られるパン生地の伸展性が悪化することがあり、その場合、得られるパンの体積が減少し、また内相、食感、さらには老化耐性も悪化してしまうおそれがある。一方、94質量%以下とすることで、上記増粘安定剤を安定的に配合することができる。尚、本発明の製パン練込用油脂組成物に、後述のその他の成分として、油脂を含有する成分を使用した場合は、上記油脂の含有量には、それらの成分に含まれる油脂分も含めるものとする。
【0049】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物における水分含有量は、組成物基準で好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは5~48質量%、更に好ましくは9~44質量%、特に好ましくは14~39質量%である。ここで、水分含有量が、組成物基準で2質量%以上であることで、上記増粘安定剤を安定的に配合することができる。また、得られるパン生地の伸展性が悪化するおそれがあることに加え、パン生地が乾きやすいため、得られるパンの体積が減少し、食感や老化耐性が悪化してしまうおそれもある。一方、48質量%超では、得られるパン生地が、べとつきやすく、油脂分が分離しやすくなる。尚、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物に、後述のその他の成分として、水分を含有する成分を使用した場合は、上記水分含有量には、それらの成分に含まれる水分も含めるものとする。
【0050】
なお、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物でいう油中水型には、油中水中油型を含むものとする。
【0051】
また、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物における水分含有量は、例えば、常圧乾燥減量法により測定することができる。
【0052】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、必要により、増粘安定剤、乳化剤、糖分解酵素、油脂及び水以外のその他の材料を含有することができる。上記その他の材料として、上白糖・グラニュー糖・ブドウ糖・果糖・蔗糖・麦芽糖・乳糖・液糖・水飴・オリゴ糖・還元糖・はちみつ等の糖類、コーンスターチ・タピオカ澱粉・馬鈴薯澱粉・小麦澱粉・米澱粉・モチ米澱粉などの澱粉や加工澱粉、卵類、β-カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、プロテアーゼ・リパーゼなどの糖分解酵素以外の酵素、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム・乳清ミネラルなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、無機塩類、食塩、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを用いることができる。その他の材料は、本発明の目的を損なわない限り任意に使用することができるが、その含有量は、それぞれ、又は合計で、上記製パン練込用油中水型乳化油脂組成物中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0053】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の比重は好ましくは0.9未満、より好ましくは0.4~0.84、さらに好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75である。このような低比重とすることにより、パン生地製造時に生地分散性が特に優れ、且つ、良好な体積と歯切れを有するパンを得ることができる。
【0054】
製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに油脂組成物を充填し、該カップ内の油脂組成物の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して得られる数値を製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の比重とする。なお、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の比重は20℃において測定するものとする。
【0055】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の性状は、流動状やペースト状などの物性であってもよいが、パン生地製造時に生地分散性が良好である点で、可塑性油脂組成物であることが好ましい。
【0056】
ここで可塑性油脂組成物とは、油相のみ、又は油相と水相の乳化物を冷却、好ましくは冷却可塑化して得られる油脂組成物であり、その配合油脂に応じた温度域において可塑性を有していれば可塑性油脂組成物として扱うものである。
【0057】
次に、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の好ましい製造方法について説明する。例えば、まず、食用油脂を加温し、これに増粘安定剤、必要により、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、並びにその他の成分を添加し、油相とする。また、水に必要によりその他の成分を添加し、水相とする。上記の油相を加熱溶解し、水相を加え、混合し、油中水型の乳化油脂組成物とする。
【0058】
そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、さらに好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、さらに好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0059】
次に、冷却、好ましくは急冷可塑化を行なう。本発明において、上記冷却の冷却速度は好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0060】
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0061】
ここで、糖分解酵素を使用する場合は上記の油相及び/又は水相に含有させることができ、あるいは冷却後のまだ流動状を呈する間に添加混合することもできる。
【0062】
なお、増粘安定剤、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、糖分解酵素などの添加量は上述のとおりである。
【0063】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物では水相のメディアン径を5μm以下とする必要がある。その方法としては、通常よりも上記油相と水相の乳化時に攪拌を強くする方法、攪拌時間を長くする方法、さらには、製造する際のいずれかの製造工程で均質化工程を挿入する方法など、油中水型乳化物を製造する段階で乳化を強力なものとすることによって得ることができるが、これらと組み合わせ、且つ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを使用する方法により、より首尾よく得ることができる。
【0064】
上記の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物において、比重を0.9未満とする場合は、得られた油脂組成物をクリーミングして比重が0.9未満となるように含気させる方法でもよいが、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で油中水型乳化物に窒素、空気等を含気させる方法によることが好ましい。特に、冷却後のまだ流動状を呈する間に含気させることが好ましい。その場合は、連続式の含気装置を使用して連続的に注入する方法であることが好ましい。また、可塑性油脂組成物の製造過程で含気させる方法の場合は、連続式の含気装置を使用して連続的に注入する方法であることが好ましい。
【0065】
次に、本発明のパン生地について述べる。
本発明のパン生地は本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を含有するものである。具体的には本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を練り込んでなるものである。
【0066】
本発明でいうパン生地の種類としては、澱粉類、水及びイーストを含む製パン原料を混捏した生地であれば特に制限されず、食パン生地、フランスパン生地、バラエティブレッド生地、ブリオッシュ生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地、マフィン生地、ピザ生地、スコーン生地、蒸しパン生地、ワッフル生地、イングリッシュマフィン生地、バンズ生地、イーストパイ生地等のパン生地を挙げることができる。
【0067】
本発明のパン生地における上記本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の含有量は、通常のパン生地製造時の添加量と特に変わることなく、パン生地の種類に応じて適宜決定することができるが、パン生地で使用する澱粉類100質量部に対し、好ましくは3~45質量部、さらに好ましくは5~25質量部である。ここで含有量が3質量部以上とすることで、本発明の効果が得られやすく、45質量部以下とすることで、ベーカリー生地、特にパン生地の場合における生地のべたつきを容易に防止できる。
【0068】
上記澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉及び胚芽などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉及び松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉及び米澱粉などの澱粉並びにこれらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理及びグラフト化処理から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工澱粉等が挙げられる。
【0069】
本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは100質量%使用することが望ましい。
【0070】
また小麦粉類は強力粉のみ又は、強力粉と薄力粉との併用が好ましい。
【0071】
本発明のパン生地の水分含有量は、パン生地で使用する澱粉類100質量部に対し、好ましくは30~150質量部、さらに好ましくは50~100質量部である。
上記の水としては、天然水や水道水の他に、パン生地で用いる水分を含む材料中の水分も含むものとする。水分を含む材料としては、牛乳、濃縮乳、クリームなどの乳や乳製品、卵類、液糖などが挙げられる。また乳化物を使用する場合には、上記水の含有量とは、該乳化物に含まれる水分をも含む。
【0072】
本発明のパン生地で用いるイーストとしては、ドライイースト、生イースト、冷蔵パン用イースト、冷凍パン用イースト等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明のパン生地におけるイーストの含有量は、特に制限されるものではないが、澱粉類100質量部に対し、生イーストの場合は、好ましくは1.5~10質量部、ドライイーストの場合は、好ましくは0.5~4質量部である。
【0073】
本発明のパン生地は必要によりその他の材料を含有している場合がある。本発明のパン生地に用いられるその他の材料としては、例えば、アルギン酸・アルギン酸塩・キサンタンガム・グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・ペクチン・カルボキシメチルセルロース・寒天・グルコマンナンなどの食物繊維、上記の本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物以外の練り込み用油脂組成物、ロールイン油脂、フラワーペースト、バタークリーム、糖類や甘味料、澱粉、増粘安定剤、β-カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、全卵、生卵黄、生卵白、殺菌全卵、殺菌卵黄、殺菌卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄などの卵類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチンなどの乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを挙げることができる。その他の材料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、上記澱粉類100質量部に対して合計で200質量部以下となる範囲で用いることができる。
【0074】
なお、上記の「本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物以外の練り込み用油脂組成物」としては、例えば、増粘安定剤を含有しない油脂組成物、水相の粒径のメディアンが5μm超の油脂組成物、水中油型乳化脂、ショートニング、バター、粉末油脂組成物などが挙げられる。
【0075】
なお、上記の本発明の製パン練込用油脂組成物以外の練り込み用油脂組成物を使用する場合の含有量は、本発明のパン生地で使用する澱粉類100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、さらに好ましくは0~10質量部、最も好ましくは0~5質量部である。
【0076】
また、上記の糖類や甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、液糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、転化糖液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖、ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草などが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0077】
さらに上記パン生地の好ましい製造方法は特に制限されないが、好ましくは、澱粉類、水及びイーストを含む製パン原料を混捏した生地に、上記本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を添加し、さらに混捏するものである。
【0078】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は、この際に、増粘安定剤添加量を増やした場合でも生地分散性が高いという特徴を有するものである。
【0079】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物に拠ると生地分散性が高いものになる理由については明らかではないが、おそらくは下記のような理由によるものと考えられる。
【0080】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は高濃度の増粘安定剤含有水相が微細化された状態で油中水型乳化物中に多数分散しているため、パン生地に添加されると該水相が破壊されることなくパン生地中に分散し、粗粒の場合などのように破壊された水相がミキサー壁面に付着して、生地に入っていきにくくなったり、生地中でだまになったりすることなく素早く均質に分散するものと考えられる。そしてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルがあると、該水相が微細で強固なものとなり、さらにその効果が増すものと考えられる。
【0081】
また、本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物に拠ると体積の減少をほとんど伴うことなく、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンを安定して得ることができる理由についても明らかではないが、おそらくは下記のような理由によるものと考えられる。
【0082】
本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物は高濃度の増粘安定剤含有水相が微細化された状態で油中水型乳化物中に多数分散しているため、界面の表面積が著しく増加し、粗粒の場合とちがって増粘安定剤というパンのソフト化成分が、より有効にパン生地に作用し、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好なパンを安定して得ることができるものと考えられる。そして増粘安定剤が一気に生地中に均質に溶解・分散しにくいため、体積の減少という弊害が発生しにくいのだと考えられる。
【0083】
本発明のパン生地の製造方法は、速成法、ストレート法、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法、冷凍生地法等の製パン法を適宜選択することができる。上記冷凍生地法は、混涅直後に冷凍する板生地冷凍法、分割丸め後に生地を冷凍する玉生地冷凍法、成型後に生地を冷凍する成型冷凍法、最終発酵(ホイロ)後に生地を冷凍するホイロ済み冷凍法等の種々の方法が採用できる。
【0084】
得られた本発明のパン生地は、通常のパンと同様に、フロアタイム、分割、ベンチタイム、成形、ホイロ後に、焼成などの加熱工程を経ることにより、パンを得ることができる。
【0085】
最後に本発明のパン(パン製品)について説明する。
本発明のパンは、本発明のパン生地を加熱処理、好ましくは焼成することによって得ることができ、ソフトでしとりがあり、口溶けが良好であるという特徴を有する。
【0086】
なお、焼成温度や時間などの各種条件は通常のパン同様、適宜選択することができる。また、上記焼成は蒸し焼きを含むものである。
【実施例0087】
以下に、本発明の実施例、比較例、使用例等によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等によって制限されるものではない。
【0088】
<製パン練込用油中水型乳化油脂組成物の製造>
(実施例1)
ヨウ素価60のパームスーパーオレインのランダムエステル交換油95質量%、及びパーム油5質量%からなる混合油脂80質量部を60℃前後に加温し、グリセリンモノパルミチン酸エステル3質量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部、高粘度キサンタンガム0.2質量部、グルコマンナン0.03質量部、及び酸化防止剤(ミックストコフェロール)0.01質量部を添加し混合した油相と、水16.26質量部からなる水相を中速で混合攪拌し油中水型の乳化物とした。乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。得られた乳化物を殺菌し、急冷可塑化工程(冷却速度-20℃/分以上)にかけて急冷可塑化し、ここにマルトース生成α-アミラーゼ900質量ppm、α-アミラーゼ90質量ppm、ヘミセルラーゼ600質量ppmを添加し、均一に混合し、さらに窒素ガスを比重0.75となるように分散したのち、さらに冷却することで、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Aを得た。
【0089】
上記高粘度キサンタンガムは、GRINSTED Xanthan MAS-SH(ダニスコ社製)であり、この高粘度キサンタンガムは、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したとき、キサンタンガム1質量%水溶液の粘度が1800mPa・sであった。
【0090】
(実施例2)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を0.5質量部に、グルコマンナン0.03質量部を0.075質量部に、及び水16.26質量部を15.915質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が3.6質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Bを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0091】
(実施例3)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を0.6質量部に、グルコマンナン0.03質量部を0.09質量部に、及び水16.26質量部を15.8質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が4.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Cを得た。なお、乳化物製造時はやや増粘するが、安定的な製造が可能であった。
【0092】
(比較例1)
高粘度キサンタンガムおよびグルコマンナンを無添加に、及び水16.26質量部を16.49質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が0質量%であり、水相の粒径のメディアンが3μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Dを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0093】
(比較例2)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を0.06質量部に、グルコマンナン0.03質量部を0.01質量部に、及び水16.26質量部を16.42質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が0.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが2μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Eを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0094】
(比較例3)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を0.1質量部に、グルコマンナン0.03質量部を0.015質量部に、及び水16.26質量部を16.375質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が0.7質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Fを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0095】
(比較例4)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を2質量部に、グルコマンナン0.03質量部を無添加に、及び水16.26質量部を14.49質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が14.0質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Gを得た。なお、乳化物製造時は増粘が激しく、安定的な製造が困難であった。
【0096】
(実施例4)
高粘度キサンタンガム0.2質量部を通常粘度のキサンタンガム0.6質量部に、グルコマンナン0.03質量部を無添加に、及び水16.26質量部を15.89質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が3.8質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Hを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0097】
尚、用いた通常粘度のキサンタンガムは、エコーガムKO-B(大日本住友製薬製)であり、このキサンタンガムは、B型粘度計で、25℃、60rpmの条件下で測定したとき、キサンタンガム1質量%水溶液の粘度が500mPa・sであった。
【0098】
(実施例5)
高粘度キサンタンガム0.2質量部をカラギーナン0.6質量部に、グルコマンナン0.03質量部を無添加に、及び水16.26質量部を15.89質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が3.8質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Iを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0099】
(実施例6)
高粘度キサンタンガム0.2質量部をグアーガム0.3質量部に、グルコマンナン0.03質量部を無添加に、及び水16.26質量部を16.19質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.9質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Jを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0100】
(実施例7)
油相と水相を混合攪拌して油中水型の乳化物を製造する際のスピードを中速から中低速に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが4μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Kを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0101】
(比較例5)
油相と水相を混合攪拌して油中水型の乳化物を製造する際のスピードを中速から低速に変更し以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが8μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Lを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0102】
(実施例8)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部を無添加に、及び混合油脂80質量部を80.5質量部に変更し、油相と水相を混合攪拌して油中水型の乳化物を製造する際にホモミキサーを使用して均質化を行った以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Mを得た。なお、乳化物製造時はやや増粘したが、安定的な製造が可能であった。
【0103】
(実施例9)
グリセリンモノパルミチン酸エステル3質量部を5.5質量部に、及び混合油脂80質量部を77.5質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Nを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0104】
(実施例10)
グリセリンモノパルミチン酸エステル3質量部を無添加に、及び混合油脂80質量部を83質量部に変更した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが2μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Oを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0105】
(実施例11)
窒素ガスを分散する工程を行わなかった以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.91であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Pを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0106】
(実施例12)
マルトース生成α-アミラーゼ、α-アミラーゼ、および、ヘミセルラーゼを、窒素ガスを分散する工程の前ではなく、水相を添加する前の油相に添加・分散した以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Qを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0107】
(実施例13)
マルトース生成α-アミラーゼ、α-アミラーゼ、および、ヘミセルラーゼを、そのまま添加するのではなく、ヨウ素価60のパームスーパーオレインのランダムエステル交換油95質量%、及びパーム油5質量%からなる混合油脂1質量部に分散させてから添加し、その分、混合油脂の配合量を80質量部から79質量部に減じた以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Rを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0108】
(実施例14)
混合油脂80質量部を93.76質量部に変更し、水16.26質量部を2.5質量部に変更し、マルトース生成α-アミラーゼ、α-アミラーゼ、および、ヘミセルラーゼを無添加とした以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が9.2質量%であり、水相の粒径のメディアンが3μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Sを得た。なお、乳化物製造時はやや増粘したが、安定的な製造が可能であった。
【0109】
(実施例15)
マルトース生成α-アミラーゼ、α-アミラーゼ、および、ヘミセルラーゼを無添加とした以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Tを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0110】
(比較例6)
混合油脂80質量部を66.26質量部に変更し、水16.26質量部を30質量部に変更し、マルトース生成α-アミラーゼ、α-アミラーゼ、および、ヘミセルラーゼを無添加とした以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が0.8質量%であり、水相の粒径のメディアンが2μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である比較例の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Uを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0111】
(実施例16)
α-アミラーゼを無添加とした以外は、実施例1の配合および製法で、対水増粘安定剤濃度が1.4質量%であり、水相の粒径のメディアンが1μmであり、比重が0.75であり、可塑性油脂組成物である本発明の製パン練込用油中水型乳化油脂組成物Vを得た。なお、乳化物製造時は増粘することなく、安定的な製造が可能であった。
【0112】
<菓子パン生地および菓子パンの製造>
上記製パン練込用油中水型乳化油脂組成物A~Vを用いて、下記の配合および製法で菓子パン生地A~V、さらに該菓子パン生地A~Vを焼成し、菓子パンA~Vを得た。
【0113】
得られた菓子パンは下記の評価基準に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
【0114】
<菓子パンの配合及び製法>
強力粉70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。
【0115】
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉30質量部、上白糖15質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.2質量部及び水23質量部を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。ここで、実施例1~16及び比較例1~6で得られた製パン練込用油中水型乳化油脂組成物20質量部をそれぞれ投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、菓子パン生地を得た。得られた菓子パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
【0116】
得られた菓子パン生地は、フロアタイムを30分とり、50gに分割した。さらに30分ベンチタイムを取った後、丸め成形をし、38℃、相対湿度85%、50分のホイロを取った後、上火200℃下火200℃のオーブンで10分焼成して菓子パンをそれぞれ得た。
【0117】
<生地分散性評価基準>
なお、生地分散性(油脂組成物の練り込まれ状態)については、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を添加後の低速3分、中速3分、高速1分のミキシング中において、油脂組成物の練り込まれ状況を目視により観察し、下記の評価基準に従って評価を行い、結果を同じく表1に記載した。
【0118】
・生地分散性
◎:中速2分で均質に練り込まれている。
○:軽く、やや転がりながらも生地に練り込まれ、且つ、中速3分で均質に練り込まれている。
△:塊状になり、中速3分でも均質に練り込まれなかったが高速1分までに均質に練り込まれた。
×:塊状になり、中速3分・高速1分でも均質に練り込まれることはなく塊が残ってしまった。
××:生地が滑って、中速3分でも均質に練り込まれることはなかった。
【0119】
<菓子パン評価基準>
また、得られた菓子パンについて、焼成1日後及び3日後に、ソフト性、しとり、及び、口溶けを、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった評価を表1に記載した。なお同数の場合は一段上の評価とした。
【0120】
・食感(ソフト性)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0121】
・食感(しとり)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0122】
・食感(口溶け)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:ねちゃつく
××:ぱさつきを感じる。
【0123】
【0124】
表1に示すとおり、上記実施例により製造したパンは、いずれも良好な生地分散性及び食感を有しており、しかも、食感の経時劣化が効果的に抑制されていた。
一方、対水増粘安定剤濃度が1質量%未満である比較例1~3、6ではしとり感やソフト感等の食感が劣り、また食感の経時劣化がおおきかった。
また、対水増粘安定剤濃度が10質量%超である比較例4では、増粘が大きく、生地分散性及び食感がいずれも劣るものであった。
更に、水相の粒径が大きい比較例5では、生地分散性及び口溶けが悪いという結果が得られた。
【0125】
<食パン生地および食パンの製造>
上記製パン練込用油中水型乳化油脂組成物A、D、GおよびVを用いて、下記の配合および製法で食パン生地A、D、GおよびV、さらに該食パン生地A、D、GおよびVを焼成し、食パンA、D、GおよびVを得た。
【0126】
得られた食パンは下記の評価基準に従って評価を行い、結果を表2に記載した。
【0127】
<食パンの配合及び製法>
強力粉(商品名「カメリア」:日清製粉製)70質量部、生イースト2質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、4時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉(商品名「イーグル」:日本製粉製)30質量部、上白糖5質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.5質量部及び水25質量部を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。ここで、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物8質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、食パン生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。ここで、フロアタイムを20分とった後、230gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、モルダー成形し、6本をU字にして3斤型プルマン型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分ホイロをとった後、200℃に設定した固定窯に入れ40分焼成してプルマン型食パンを得た。
【0128】
<生地分散性評価基準>
なお、生地分散性(油脂組成物の練り込まれ状態)については、製パン練込用油中水型乳化油脂組成物を添加後の低速3分、中速3分、高速1分のミキシング中において、油脂組成物の練り込まれ状況、すなわち生地分散性を目視により観察し、下記の評価基準に従って評価を行い、結果を同じく表2に記載した。
【0129】
<食パン評価基準>
また、得られた食パンについて、焼成1日後及び3日後に、ソフト性、しとり、及び、口溶けを、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった評価を表2に記載した。なお同数の場合は一段上の評価とした。
【0130】
・生地分散性
○:軽く、やや転がりながらも生地に練り込まれ、且つ、中速3分で均質に練り込まれている。
△:塊状になり、中速3分でも均質に練り込まれなかったが高速1分までに均質に練り込まれた。
×:塊状になり、中速3分・高速1分でも均質に練り込まれることはなく塊が残ってしまった。
××:生地が滑って、中速3分でも均質に練り込まれることはなかった。
【0131】
・食感(ソフト性)
◎+:極めて良好
◎:良好
○:やや良好
△:やや悪い
×:悪い
【0132】
・食感(しとり)
◎+:極めて良好
◎:良好
○:やや良好
△:ややぱさついた感じである
×:乾いた食感である
【0133】
・食感(口溶け)
◎:歯切れが極めて良好
○:歯切れが良好
△:ややねちゃつく、又は、ややひきが感じられる。
×:ねちゃつきが激しい、又は、ひきが強い。
【0134】
【0135】
表2の通り、本発明の組成物の製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物の効果は、澱粉量に対し、使用量が比較的少ない食パンの場合でも優れていた。