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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104853
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】異物混入評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20230721BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20230721BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230721BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20230721BHJP
   G01N 33/202 20190101ALN20230721BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N1/40
G01N1/28 X
G01N1/28 L
G01N23/2202
G01N33/202
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109865
(22)【出願日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022005052
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】曽我 賢一
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
2G055
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001FA02
2G001LA02
2G001NA17
2G001RA02
2G052AA11
2G052AA40
2G052AB27
2G052AC23
2G052AD15
2G052AD35
2G052AD55
2G052EA03
2G052EB01
2G052EB11
2G052ED01
2G052ED16
2G052FD09
2G052FD18
2G052GA13
2G052GA15
2G052GA19
2G052GA24
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA18
2G055AA01
2G055AA09
2G055BA01
2G055EA03
2G055EA04
2G055FA05
(57)【要約】
【課題】粉体材料の製造において、製造設備などからの異物混入リスクを想定した、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価が可能な手法を提供する。
【解決手段】貴金属元素を含む試料を、共沈剤にセレン含有物を用いると共に、分解工程、白煙処理工程、溶解工程、第1予備還元工程、第2予備還元工程、還元共沈工程、熟成工程、濾過工程、乾燥工程、及び測定工程に順次供することで、前記試料に含まれる貴金属元素の含有量を得ることを特徴とする異物混入評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属元素を含む試料と無機酸Xの混合物を加熱分解して分解液を得る分解工程と、
前記分解液を加熱濃縮し、白煙を発生させた後、蒸発乾固して白煙処理物を得る白煙処理工程と、
前記白煙処理物と無機酸Yの混合物を、加熱溶解して溶解液を得る溶解工程と、
前記溶解液と共沈剤であるセレン含有物の混合物を、加温して第1予備還元液を得る第1予備還元工程と、
前記第1予備還元液と水の混合物を、加温して第2予備還元液を得る第2予備還元工程と、
前記第2予備還元液と還元剤の混合物から、貴金属元素をセレンに随伴させた沈澱物を含む還元共沈液を得る還元共沈工程と、
前記還元共沈液を加温し、前記沈澱物を熟成させる熟成工程と、
前記還元共沈液を濾過し、熟成沈澱物を得る濾過工程と、
前記熟成沈澱物を乾燥し、乾燥沈澱物を得る乾燥工程と、
前記乾燥沈澱物の貴金属元素含有濃度を、蛍光X線分析法により測定する測定工程を有し、
前記試料に含有される貴金属元素の含有量を得ることを特徴とする異物混入評価方法。
【請求項2】
前記無機酸Xが、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸、及び、過酸化水素より選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の異物混入評価方法。
【請求項3】
前記無機酸Yが、塩酸を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項4】
前記セレン含有物が、セレン(VI)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項5】
前記還元剤が、塩化第一スズ、亜硫酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、シュウ酸、アスコルビン酸、次亜リン酸ナトリウム、及び、水素化ホウ素ナトリウムより選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項6】
前記熟成工程において、加温温度が60~120℃であり、加温時間が0.5~2時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項7】
前記貴金属元素が、金、銀、白金、パラジウムより選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項8】
前記濾過が、定量濾紙を用いた吸引濾過であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項9】
前記熟成沈澱物を、マイクロ波により乾燥し、蛍光X線分析装置に導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【請求項10】
前記蛍光X線分析法により前記乾燥沈澱物を測定後、前記乾燥沈澱物から得られた試料溶液をICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法より選択される1種以上を用いて測定し、前記蛍光X線分析法に対するチェック分析を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の異物混入評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体材料における異物混入評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体材料は、現在、電子機器関係をはじめ、様々な分野で幅広く利用されており、例えば、電子機器における配線や電極の製造には、樹脂型導電性ペースト、焼成型導電性ペーストの様に、ニッケル粉、銅粉などの金属フィラーが用いられ、電子部品と冷却用ヒートシンクとの接触面を埋める熱伝導性グリースの製造には、アルミニウム粉や銅粉などの金属粉や、酸化亜鉛粉、酸化アルミニウム粉などの金属酸化物粉、窒化ホウ素粉、窒化ケイ素粉、及び、窒化アルミニウム粉などの無機窒化物粉が用いられている。
【0003】
これらの粉体材料の特性は、それを構成する主成分元素の種類のほか、添加元素や不純物元素の種類と含有量、結晶構造や結晶粒の大きさ、及び、析出物の大きさや分布などの影響を受ける。最近では、特性向上のみならず、新たな特性の発現を目的とした、高純度材料の開発が活発化しており、開発品レベルでの不純物元素の含有量は、著しく低減されている。また、高純度材料などの開発品以外にも、大量生産される量産品の不純物元素の低減も図られており、従って、粉体材料に含まれる不純物元素を評価することは、特性についての研究を進める上で、必要不可欠である。
【0004】
ところで、粉体材料の製造工程では、製造設備などからの異物混入リスクが常に付きまとい、製造途中の中間品や完成品である製品に、異物が混入したか否か、どの種類の異物がどれだけの量で混入したかを、迅速・簡便に評価することの重要性は言うまでも無く、特に、潤滑油、パッキン片、接着剤カス、及び、はんだクズなどは、混入リスクが高い。中でも、はんだについては、主成分元素である鉛が、人体や環境に対して有害であるため、スズ・銀・銅からなるSnAgCu系はんだ、スズ・銀・インジウム・ビスマスからなるSnAgInBi系はんだなどを、鉛を含まない鉛フリーはんだや、金、銀などを添加した接着剤へ移行することが世界的に進められている反面、これまで、金、銀などの貴金属元素が、不純物元素として混入することは考えられ難く、それを想定したデメリットの調査だけでなく、異物混入評価方法も十分に検討されていないのが現状である。
【0005】
特許文献1には、貴金属元素含有試料として、例えば、自動車排ガス浄化用触媒、石油化学系触媒、リサイクル原料、鉱石、湿式製錬残渣、スラッジ等を分析対象に、Te共沈法の欠点である白金族元素の回収率が低い点、及び、含水ケイ酸生成により濾過性が悪化する点を改善した、定量分析目的の貴金属元素分離回収方法が開示されており、Pt、Pd、Rhなどの白金族元素や、Au、Agを含む貴金属含有試料を溶解させた塩酸溶液に、共沈剤としてTeとAsを複合添加し、SnClなどの還元剤を作用させて、貴金属元素をTe、Asに随伴させて沈澱させ、得られた沈澱物を濾過して回収することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、複数の貴金属元素を含有する試料における、各貴金属元素を分析する方法であって、溶解された試料を含有する酸性溶液から各貴金属元素を金属担体、及び、還元剤により共沈還元分離する工程と、共沈還元分離された各貴金属元素を溶解して溶解液を得る工程と、溶解液に対して各貴金属元素の分析を行う工程とを有する、貴金属元素の分析方法、及び、その関連技術が記載されている。
【0007】
非特許文献1には、黒鉛炉AASによる鉱石中の金、銀、白金、パラジウム、及び、ロジウムの分析についての検討内容が開示されており、試料をテフロン密閉容器中で加熱分解後、テルル共沈法により貴金属を共存元素から分離し、更に、陽イオン交換分離法を用いて完全に分離したことや、銀については、テルル共沈法で完全には捕集出来ないため、陽イオン交換分離法のみを用いて共存元素から分離したことが記載されている。
【0008】
しかしながら、まず、特許文献1の技術では、Te+Asの共沈剤を作製するのに、猛毒のAsを使用しており、クリーンな分析方法とは言い難く、安全性が損なわれるという欠点がある。
次に、特許文献2の技術では、ビスマス共沈分離/王水分解-ICPMS法を採用しているが、共沈した還元金属の溶解操作、得られた溶解液の定容・希釈操作が必要で、分析の迅速性が不十分であるほか、実施例における評価結果が、白金含有量、パラジウム含有量、及び、ロジウム含有量のみで、金含有量、銀含有量が全く記載されておらず、実際に金、銀が分析可能かどうかは不明である。
更に、非特許文献1の技術では、テルル共沈/イオン交換分離併用法を採用しているが、2つの分離操作を行わなければならず、銀の分析が別操作ともなるため、操作が煩雑で、分析に長時間を要するという欠点がある。
【0009】
この様に、これまでは、粉体材料の製造において、製造設備などからの異物混入リスクを想定した、金、銀などの貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価出来る方法は、残念ながら未開発のままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-308705号公報
【特許文献2】特開2021-135297号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】BUNSEKI_KAGAKU_Vol.39(1990)_T5~9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、上記の従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、本発明者は、製造設備などからの異物混入リスクを想定した、貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価出来る方法を新たに開発するために、鋭意研究を積み重ねた。その結果、共沈剤にセレン含有物を用いると共に、分解工程、白煙処理工程、溶解工程、第1予備還元工程、第2予備還元工程、還元共沈工程、熟成工程、濾過工程、乾燥工程、及び、測定工程、これらの工程を順次経ることにより、クリーンな分析方法で、共沈分離のみの分離操作で、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価が可能な手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上のような鋭意研究の結果から、発明者が完成するに至った本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、貴金属元素を含む試料と無機酸Xの混合物を、加熱分解して分解液を得る分解工程と、前記分解液を加熱濃縮し、白煙を発生させた後、蒸発乾固して白煙処理物を得る白煙処理工程と、前記白煙処理物と無機酸Yの混合物を、加熱溶解して溶解液を得る溶解工程と、前記溶解液と共沈剤であるセレン含有物の混合物を、加温して第1予備還元液を得る第1予備還元工程と、前記第1予備還元液と水の混合物を、加温して第2予備還元液を得る第2予備還元工程と、前記第2予備還元液と還元剤の混合物から、貴金属元素をセレンに随伴させた沈澱物を含む還元共沈液を得る還元共沈工程と、前記還元共沈液を加温し、前記沈澱物を熟成させる熟成工程と、前記還元共沈液を濾過し、熟成沈澱物を得る濾過工程と、前記熟成沈澱物を乾燥し、乾燥沈澱物を得る乾燥工程と、前記乾燥沈澱物の貴金属元素含有濃度を蛍光X線分析法により測定する測定工程を有し、前記試料に含有される貴金属元素の含有量を得ることを特徴とする異物混入評価方法である。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様における無機酸Xが、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸、及び、過酸化水素より選択される1種以上を含むことを特徴とする異物混入評価方法である。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様における無機酸Yが、塩酸を含むことを特徴とする異物混入評価方法である。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様におけるセレン含有物が、セレン(VI)を含むことを特徴とする異物混入評価方法である。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1又は第2の態様における還元剤が、塩化第一スズ、亜硫酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、シュウ酸、アスコルビン酸、次亜リン酸ナトリウム、及び、水素化ホウ素ナトリウムより選択される1種以上を含むことを特徴とする異物混入評価方法である。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1又は第2の態様における熟成工程において、加温温度が60~120℃であり、加温時間が0.5~2時間であることを特徴とする異物混入評価方法である。
【0019】
本発明の第7の態様は、第1又は第2の態様における貴金属元素が、金、銀、白金、パラジウムより選択される1種以上であることを特徴とする異物混入評価方法である。
【0020】
本発明の第8の態様は、第1又は第2の態様における濾過が、定量濾紙を用いた吸引濾過であることを特徴とする異物混入評価方法である。
【0021】
本発明の第9の態様は、第1又は第2の態様において、熟成沈澱物を、マイクロ波により乾燥し、蛍光X線分析装置に導入することを特徴とする異物混入評価方法である。
【0022】
また、本発明の第10の態様は、第1又は第2の態様において、蛍光X線分析法により前記乾燥沈澱物を測定後、前記乾燥沈澱物から得られた試料溶液をICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法より選択される1種以上を用いて測定し、前記蛍光X線分析法に対するチェック分析を行うことを特徴とする異物混入評価方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、粉体材料の製造において、製造設備などからの異物混入リスクを想定した、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、その全体像を示す操作フロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、蛍光X線分析装置のX線管、及び、試料ホルダ付近の一例を示す図で、(a)は断面模式図、(b)は試料ホルダの分解斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、蛍光X線分析法での金の検量線の一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、蛍光X線分析法での銀の検量線の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、蛍光X線分析法での白金の検量線の一例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、蛍光X線分析法でのパラジウムの検量線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[本発明の一実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、その概略から説明する。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を、不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。なお、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
1.概略
粉体材料を機器分析法、即ち、ICP発光分光分析(ICP-AES、ICP-OES)法、ICP質量分析(ICP-MS)法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析(MP-AES)法、フレーム原子吸光分析(AAS)法、及び、フレームレス原子吸光分析(FLAAS)法などにより、評価する場合は、酸分解やアルカリ融解の様な前処理を行い、試料を溶液化するが、試料中の超微量元素を分析する場合には、更に、対象元素の分離・濃縮操作が必要となる。
【0027】
共沈分離法(Coprecipitation method)は、その一手法で、共沈反応を利用した分離・濃縮操作であり、試料溶液と、対象元素と似た挙動を示す共沈元素を含む共沈剤(Carrier)と、中和剤、還元剤、及び、錯化剤などの反応試薬を混合し、対象元素を共沈元素と共に不溶性物質として沈澱させる。これにより、試料の主成分(マトリックス)元素が、評価結果に悪影響を及ぼすことや、分析装置内を汚染することなどを防ぎつつ、試料溶液を濃縮することで、検出感度の上昇を図ることが可能となる。
【0028】
共沈分離法の特徴としては、第一に対象元素の特性に応じ、共沈剤や反応試薬を適切に添加することで、対象元素のみを選択的に、或いは、多くの元素を同時に沈澱させることが出来る点、第二に環境面で好ましくない有機溶媒や、操作に時間が掛かるイオン交換樹脂を使用せず、安全、かつ、迅速・簡便に操作出来る点、第三に水酸化物、硫酸塩、及び、硫化物などのほか、単体としても沈澱させることができ、生成した沈澱は、濾過、遠心分離、及び、浮選などの手段により回収出来る点、といったことが挙げられる。
【0029】
ところで、蛍光X線分析(XRF)法は、主に、粉体材料などの固体試料を溶液化せず、直接、定性分析や定量分析が行える手段として、広く知られている。一般的に、上記の機器分析法では、日間変動があるため、測定の都度、標準溶液による検量線作成が必要となるのに対して、蛍光X線分析法では、標準試料による検量線作成を一度行えば、これを繰り返して何度も使用出来るなど、数多くのメリットが挙げられる。
【0030】
しかしながら、蛍光X線分析法は、超微量元素に対する検出感度が十分ではなく、この対策として、上記の共沈分離法が適用出来ないかと、本発明者は考えた。
即ち、仮に、分析対象となる元素Mの含有量が0.1ppm(μg/g)の試料であれば、これを1g使用した場合、一旦、溶液化した試料において、10mgの共沈元素に元素Mが全て捕集されると、元素Mの含有量が10ppmの沈澱物が得られる。この様にして元素Mが分離・濃縮された沈澱物を、今度は溶液化せず、蛍光X線分析法で迅速・簡便に評価することが、本発明の大きな特徴の一つである。
【0031】
また、本発明では、共沈剤にセレン含有物を用い、還元反応により、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素をセレンに随伴させた沈澱物が得られる。
例えば、鉄(III)が主成分元素である粉体材料において、塩酸で溶解した試料溶液中に存在する銀を、スズ(II)を還元剤に用いて共沈分離する場合、溶液中では、下記(1)式から(4)式に示す反応が、同時に進むと考えられる。
【0032】
【化1】
【0033】
上記反応式から、鉄(III)イオンは、還元されて鉄(II)イオンに変化するものの、溶解したままであり、銀とセレンのみが沈澱し、この沈澱を回収することで、主成分元素である鉄(III)から銀を分離することが出来る。スズ(II)イオンは、酸化されてスズ(IV)イオンに変化し、塩酸性溶液において、多くのイオンを還元して、金属の状態とすることが可能である。
【0034】
また、試料の溶液化においては、酸分解やアルカリ融解の様な前処理を行うことが出来る。アルカリ融解を前処理として行う場合には、試料量に対して過剰量の融剤を用いる必要があり、例えば、一般的な融剤であり、特許文献1にも記載されている、過酸化ナトリウム(Na)が残存していたならば、アルカリ融解後の水での浸出時に、下記(5)式の反応が進み、過酸化水素(H)が生成する。
【0035】
【化2】
【0036】
この過酸化水素は、非常に強力な酸化力を持ち、還元反応へ悪影響を及ぼす恐れがあり、銀の還元反応への悪影響には、特に注意しなければならない。この点では、酸分解を前処理として行う場合には、酸化性の酸である硝酸、過塩素酸を用いたとしても、これらは、硫酸による白煙処理などで完全に揮散させることができ、アルカリ融解に比べて有利である。なお、還元性の酸である塩酸単一で溶解可能な試料の場合、硫酸による白煙処理などは省略してもよい。
【0037】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法は、分解工程、白煙処理工程、溶解工程、第1予備還元工程、第2予備還元工程、還元共沈工程、熟成工程、濾過工程、乾燥工程、及び、測定工程を有する。なお、本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法では、潤滑油、パッキン片、接着剤カス、はんだクズなどの混入を想定しており、有機物、ケイ素、スズなどを含むものを示し、その試料中の金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素含有量を評価する場合を一例とする。
以下、本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法における各工程について、具体的に説明する。
【0038】
2.各工程
図1は、本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、その全体像を示す操作フロー図であり、操作フロー図の順序に従って説明する。
【0039】
<分解工程>
電子天秤で秤量した試料を容器に移し入れ、試料と無機酸Xを混合後、加熱分解して分解液を得る工程である。容器としては、ガラスビーカーやテフロン(登録商標)(以降は「テフロン」の後に記載すべき「(登録商標)」の記載は省略する。)ビーカーなどが挙げられ、ケイ素を含む試料の場合には、ケイ素を分解・揮散させるのにフッ化水素酸が必要となるため、フッ化水素酸に侵されないテフロンビーカーを用いるのが好ましい。試料量は、対象元素である金、銀などの貴金属元素含有量にもよるが、10g以下が好ましく、5g以下がより好ましく、0.1~2gが特に好ましい。
【0040】
無機酸Xは、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、硫酸(HSO)、過塩素酸(HClO)、フッ化水素酸(HF)、及び、過酸化水素(H)より選択される1種以上を含んでおり、試料の溶解のほか、有機物を分解・揮散させるため、塩酸、硝酸、硫酸を含むことが好ましく、加えてケイ素も分解・揮散させるため、塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸を含むことがより好ましく、効率良く分解・揮散を行うため、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸を含むことが特に好ましい。また、試料に多くの有機物が含まれている場合、過塩素酸は、分解の仕上げとして工程の終盤に用いるのがよく、試料の一部が溶け残る(未溶解残渣)場合には、これを溶解させるため、適宜、過酸化水素を用いてもよい。
なお、加熱分解温度は、200℃以上とするのが好ましい。
【0041】
<白煙処理工程>
分解工程に続き、分解液を加熱濃縮し、白煙を発生させた後、蒸発乾固して白煙処理物を得る工程である。
無機酸Xに含まれる硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸由来の白煙により、有機物やケイ素を完全に揮散させる。また、後工程の第1予備還元工程、第2予備還元工程、還元共沈工程、熟成工程において、還元反応へ悪影響を及ぼす恐れがある、酸化性の硝酸、過塩素酸の余剰分も、白煙発生後、蒸発乾固することにより、完全に揮散させる。なお、加熱濃縮、及び、蒸発乾固温度は、200℃以上とするのが好ましい。
【0042】
<溶解工程>
白煙処理工程に続き、白煙処理物と無機酸Yを混合後、加熱溶解して溶解液を得る工程である。無機酸Yは、塩酸を含んでおり、後工程の第1予備還元工程、第2予備還元工程において、対象元素である金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素、共沈元素であるセレンを、十分に予備還元するため、塩酸単一であることが好ましい。なお、加熱溶解温度は、80~150℃とするのが好ましい。
【0043】
<第1予備還元工程>
溶解工程に続き、溶解液と共沈剤であるセレン含有物を混合後、加温して第1予備還元液を得る工程である。
前工程まで、容器にテフロンビーカーを用いていた場合は、本工程以降の作業性を考慮し、溶解液をガラスビーカーに移し替えておくのがよい。
また、共沈剤であるセレン含有物は、セレン(IV)を含むものになると、二酸化セレン(SeO)や亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)などの様に、三酸化二ヒ素(As)程の強烈な毒性は無いものの、それと同じく、GHS(The_Globally_Harmonized_System_of_Classification_and_Labelling_of_Chemicals:「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」)における「どくろラベル(急性毒性の絵表示)」の表示義務がある物質となるので、安全性の観点から、セレン酸ナトリウム(NaSeO)など、セレン(VI)を含むものを用いるのが好ましい。なお、加温温度は、80~120℃とするのが好ましく、加温時間は、10分以上とするのが好ましい。
【0044】
<第2予備還元工程>
第1予備還元工程に続き、第1予備還元液と水を混合後、加温して第2予備還元液を得る工程である。
後工程の還元共沈工程において、対象元素である金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属元素、共沈元素であるセレンを、十分に還元するため、含まれる塩酸の酸濃度が1.0~6.0molとなる様、第1予備還元液と水を混合するのが好ましい。なお、加温温度は、80~120℃とするのが好ましく、加温時間は、30分以上とするのが好ましい。
【0045】
<還元共沈工程>
第2予備還元工程に続き、第2予備還元液と還元剤を混合後、貴金属元素をセレンに随伴させた沈澱物を含む還元共沈液を得る工程である。
還元剤は、塩化第一スズ(SnCl)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸ヒドラジン(NSO)、シュウ酸(C)、アスコルビン酸(C)、次亜リン酸ナトリウム(NaHPO)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)より選択される1種以上を含んでおり、還元力の制御の容易さを考慮するならば、塩化第一スズを含むことが好ましい。
【0046】
<熟成工程>
還元共沈工程に続き、沈澱物を含む還元共沈液を加温し、沈澱物を熟成させて熟成沈澱物を得る工程である。
加温温度は、60~120℃とするのが好ましく、加温時間は、0.5~2時間とするのが好ましい。なお、対象元素にロジウムが含まれる場合、加温時間は、6時間以上とするのがより好ましい。
【0047】
<濾過工程>
熟成工程に続き、熟成沈澱物を含む還元共沈液を濾過し、熟成沈澱物を回収する工程である。
濾過操作は、例えば、吸引濾過などの公知の手段で行えばよい。
また、濾過に用いる濾紙としては、例えば、通常の定量濾紙のほか、酢酸セルロース濾紙、親水性PTFE濾紙などのメンブランフィルターが挙げられるが、メンブランフィルターは、付着した熟成沈澱物が乾燥後に剥がれ易くなるため、定量濾紙を用いるのが好ましい。
また、熟成沈澱物を含む還元共沈液は、濾過の前に予めガラス棒などで十分に撹拌し、熟成沈澱物を微細化しておくのが好ましい。
この様にすることで、濾紙に付着した熟成沈澱物層の表面が平滑となり、蛍光X線分析法での測定バラツキを、より抑制することが出来る。なお、回収した熟成沈澱物は、例えば、水で5、6回洗浄するのがよい。
【0048】
<乾燥工程>
濾過工程に続き、濾紙に付着した熟成沈澱物を乾燥し、乾燥沈澱物を得る工程である。
乾燥方法としては、乾燥機やドライヤーを用いた乾燥のほか、迅速、かつ、均一な乾燥を行う観点からは、例えば、電子レンジなどを用いたマイクロ波による乾燥が好ましい。
【0049】
<測定工程>
乾燥工程に続き、乾燥沈澱物の貴金属元素含有濃度を、例えば図2(a)に示す形態の蛍光X線分析法により測定し、乾燥沈澱物の貴金属元素含有濃度を基に、試料の貴金属元素含有量を得る工程である。
乾燥沈澱物の蛍光X線分析装置への装填では、例えば、図2(b)に示す様に、枠体21、支持部22、穴部23、マスク24、及び、マスク穴部25からなる、試料ホルダ20を用いることが出来る。
【0050】
図2(a)に示す蛍光X線分析法では、分析装置への装填において、乾燥沈澱物27が付着した濾紙26を、一次X線Xを照射するX線管10、発生した元素固有の蛍光X線Xを検出するX線検出器30が搭載された側(下面)に、乾燥沈澱物27が向く様に、マスク24の上に配置し、更に、その反対側に重石28を配置して、乾燥沈澱物27が付着した濾紙26を固定する。この様にすることで、X線管10より照射された一次X線Xは、試料ホルダ20の穴部23、マスク穴部25を通過し、乾燥沈澱物27が付着した濾紙26に当たり、乾燥沈澱物27を構成している元素から、元素固有の蛍光X線Xを発生させる。そして、蛍光X線Xは、X線検出器30により検出され、そのX線強度が測定されることで、最終的に対象元素の含有量が判明する。
【0051】
測定は、絶対検量線法、標準添加法、内標準法などの方法で行うことが出来る。また、定性的な評価で事足りる場合には、評価元素のシグナル強度と濃度の相関式を利用する検量線法ではなく、構成元素の種類と量に対して、シグナル強度が一致する様に組成を推定する、理論演算のファンダメンタル・パラメータ法(FP法)を用いても構わない。
図3図4図5図6に、蛍光X線分析法での金、銀、白金、パラジウムの検量線の一例を示す。
【実施例0052】
以下、本発明の一実施形態に係る、異物混入評価方法について、実施例などにより詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。また、これらの実施例などにおける試薬類は、特に説明が無い限り、全て富士フィルム和光純薬株式会社製(試薬特級)のもの、及び、これらから作製したものを用いた。更に、これらの実施例などにおける水は、全て超純水を用いた。
【0053】
(試料準備)
酸化鉄(Fe)粉試薬を製品A、酸化銅(CuO)粉試薬を製品B、酸化ニッケル(NiO)粉試薬を製品Cとし、これらに対して、製造設備などから異物が混入したことを想定し、接着剤(株式会社スリーボンド製:1533C)を乾燥し粉砕したもの、鉛フリーはんだ(佐々木半田工業株式会社製:三菱マテリアル高純度スズ4.5N+4N純銀+24K純金使用音響用鉛フリーハンダ/Sn4.5N-Ag-Au)を粉砕したもの、それぞれを無作為に加えて混合した。そして、混合処理後の製品A、B、Cを試料A、B、Cとした。
【0054】
(評価対象の貴金属元素)
(1)実施例1~3、比較例1~4では、鉛フリーはんだ由来となる「金」、「銀」を評価対象とした。
(2)実施例4、比較例5では、さらに貴金属元素が含まれていないことを確認するために、「白金」、「パラジウム」を評価対象とした。
【実施例0055】
(1)通常検体(A1、A2)の作製
試料Aを2検体併行で前処理し、通常検体(A1、A2)を作製した。
まず、電子天秤を用いて薬包紙に試料1.0gを秤量し、その試料を200mlテフロンビーカーに移し入れ、テフロンビーカーに少量の水のほか、無機酸Xとして塩酸10ml、硝酸10ml、硫酸(1+1)2ml、過塩素酸5ml、フッ化水素酸10mlを、そのテフロンビーカー内に加えて混合後、時計皿で蓋をしたテフロンビーカーをホットプレート上で、200℃以上で加熱し、試料を加熱分解して分解液を得た。
引き続き、そのテフロンビーカーを200℃以上で加熱し、分解液を加熱濃縮して、無機酸Xに含まれる硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸由来の白煙を、テフロンビーカー内で十分に発生させた後、時計皿を外し、白煙が出なくなるまでテフロンビーカーを加熱して、分解液を完全に蒸発乾固させ、白煙処理物を得た。
【0056】
次に、そのテフロンビーカーに無機酸Yとして塩酸40mlを加えて混合後、時計皿で蓋をしたテフロンビーカーをホットプレート上で、120℃で加熱し、白煙処理物を加熱溶解して溶解液を得た。
この溶解液を少量の水で300mlガラスビーカーに移し入れ、そのガラスビーカーに共沈剤としてセレン(VI溶液(セレン酸ナトリウム1gを、水80mlで溶解したもの)を1ml(セレンとして約5mg)加えて混合後、時計皿で蓋をしたガラスビーカーをホットプレート上で、120℃で10分間加温して第1予備還元液を得た。
【0057】
続いて、そのガラスビーカーに液量が200ml(塩酸の酸濃度が2.4mol)となる様、水を加えて混合後、時計皿で蓋をしたガラスビーカーをホットプレート上で、120℃で30分間加温して第2予備還元液を得た。
【0058】
そして、そのガラスビーカーに還元剤として塩化第一スズ溶液(20w/v%、塩酸2.4mol)を20ml加えて混合し、貴金属元素をセレンに随伴させた沈澱物を含む還元共沈液を得た。
更に、そのガラスビーカーを時計皿で蓋をし、ホットプレート上で、120℃で1時間加温し、還元共沈液に含まれる沈澱物を十分に熟成させた。
その熟成操作を経た還元共沈液について、定量濾紙No.5C(直径50mm)により吸引濾過を行い、熟成沈澱物を濾別し、回収後の熟成沈澱物を水で5~6回洗浄した。
【0059】
次に、熟成沈澱物を濾紙ごと電子レンジ(600W)に入れ、3分間加熱して乾燥させ、乾燥沈澱物が付着した濾紙、即ち、通常検体(A1、A2)を得た。
【0060】
(2)添加回収率検体(A+)の作製
通常検体(A1、A2)とは別に、金、銀の添加回収率を評価するための検体として、添加回収率検体(A+)を1検体作製した。
200mlテフロンビーカーに金標準溶液(1mg/l)1ml、銀標準溶液(1mg/l)1mlを加え、60℃で乾燥させた後、テフロンビーカーを冷却した。そして、この乾燥した金、銀を含むテフロンビーカーを用いて、上記の通常検体(A1、A2)の作製と同様の操作を行い、添加回収率検体(A+)を得た。
即ち、分析操作過程における元素の損失などが無ければ、添加回収率検体(A+)の金、銀添加量は0.001mg(1μg)であり、通常検体(A1、A2)よりも、試料ベースで1ppm高値に検出される。
【0061】
(3)空試験検体(BL)の作製
通常検体(A1、A2)、添加回収率検体(A+)とは別に、分析操作過程における金、銀の汚染(コンタミネーション)の有無を確認するための検体として、空試験検体(BL)を1検体作製した。
200mlテフロンビーカーに試料を秤量しない以外は、上記の通常検体(A1、A2)の作製と同様の操作を行い、空試験検体(BL)を得た。
【0062】
(4)標準試料の作製
通常検体(A1、A2)、添加回収率検体(A+)、空試験検体(BL)とは別に、蛍光X線分析法における検量線作成用の標準試料として、標準試料を6試料作製した。
200mlテフロンビーカーに試料を秤量せず、その代わりに、300mlガラスビーカーに金標準溶液、及び、銀標準溶液を、それぞれ0、1、2、5、10、20μgとなる様に添加し、無機酸Yとして塩酸40mlを加えて混合後、時計皿で蓋をしたガラスビーカーをホットプレート上で、120℃で加熱し、溶解液を得た。ガラスビーカーに共沈剤としてセレン(VI)溶液(セレン酸ナトリウム1gを、水80mlで溶解したもの)を1ml(セレンとして約5mg)加えて混合後、時計皿で蓋をしたガラスビーカーをホットプレート上で、120℃で10分間加温して第1予備還元液を得た。
これ以降は、上記の通常検体(A1、A2)の作製と同様の操作を行い、標準試料を得た。
【0063】
(5)蛍光X線分析法による測定
標準試料をはじめ、通常検体(A1、A2)、添加回収率検体(A+)、空試験検体(BL)を、蛍光X線分析装置であるアクシオス(Axios)(スペクトリス株式会社製)を用いて測定した。
また、上記の操作は、一般的な分析手段である検量線法の適用を想定したものだが、それに限らず、標準添加法の適用を想定し、分析検体を作製しても構わない。また、検量線法では、内標準を用いない「絶対検量線法」、若しくは、目的元素と物理的・化学的性質の類似した元素を内標準として用いる「内標準法」のどちらかを選択する。
【0064】
検量線法は、分析検体の対象元素濃度に対して、既知濃度の標準試料を段階的に複数準備し、使用する分析装置特有の信号を測定することにより、濃度と信号との関係を求めて検量線を得る方法である。標準試料は、可能な限り分析検体の組成に近付けるのが好ましく、分析検体に、対象元素以外の元素が多量に含まれている場合は、干渉作用による妨害を相殺するため、標準試料にも、これらの元素を添加する。
【0065】
標準添加法は、1つの試料から所定量を分取した複数の併行検体を準備し、それぞれに標準物質の異なる量を段階的に加え、対象元素濃度の異なった複数の分析検体を作製して、使用する分析装置特有の信号を測定する。
【0066】
即ち、「分析対象である試料に、標準物質を直接添加」して、分析検体を作製する。これにより、添加した標準物質の濃度と信号との関係を求めて検量線を作成し、検量線とX軸との交点から、試料の対象元素濃度を得ることが出来る。この方法は、検量線が良好な直線性を示し、かつ、検量線とX軸が交差する場合に適用可能であり、共存元素の影響が除かれるため、複雑な組成、及び、液性の試料を分析する上で、非常に好ましい。
但し、標準添加法は、1つの試料において、対象元素濃度の異なった分析検体を複数作製しなければならず、検量線法に比べて、分析検体数、ひいては測定に掛かる時間が、かなり増えてしまうデメリットもある。検量線法、及び、標準添加法のどちらを選択するかは、試料に含まれる共存元素のほか、必要な分析精度や分析納期などを考慮して決定すればよい。
【0067】
(6)評価結果
各分析検体における金、銀の測定値から、試料に含まれる金、銀の含有量を算出した。具体的には、通常検体(A1、A2)の測定値である「試料測定値」と、空試験検体(BL)の測定値である「空試験値」から、式(6)により、金、銀の含有量を算出した。また、各分析検体における金、銀の測定値から、金、銀の添加回収率を算出した。具体的には、添加回収率検体(A+)の測定値である「添加測定値」と、通常検体(A1、A2)の測定値である「試料測定値」から、式(7)により、金、銀の添加回収率を算出した。
【0068】
【化3】
【0069】
【化4】
【0070】
上記式(6)、式(7)から算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【実施例0071】
試料Aの代わりに試料Bを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【実施例0072】
試料Aの代わりに試料Cを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【実施例0073】
試料Aに、さらに貴金属元素が含まれていないことを確認するために、評価対象の貴金属元素を白金、パラジウムに置き換え、又、それらに対する標準溶液を作製したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、白金、パラジウムの評価結果を求めた。
算出された白金、パラジウムの評価結果を、表2に示す。
【0074】
(比較例1)
第1予備還元工程において、共沈剤として、セレン含有物の代わりにテルル含有物(テルル酸ナトリウム)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【0075】
(比較例2)
試料Aの代わりに試料Bを用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【0076】
(比較例3)
試料Aの代わりに試料Cを用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【0077】
(比較例4)
第1予備還元工程において、共沈剤として、セレン含有物の代わりにビスマス含有物(塩化ビスマス)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、金、銀の評価結果を求めた。
算出された金、銀の評価結果を、表1に示す。
【0078】
(比較例5)
試料Aに、さらに貴金属元素が含まれていないことを確認するために、評価対象の貴金属元素を白金、パラジウムに置き換え、又、標準溶液を作製したこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、白金、パラジウムの評価結果を求めた。
算出された白金、パラジウムの評価結果を、表2に示す。
【0079】
3.結論
表1における金、銀の評価結果が示す通り、本発明を用いた実施例1~3では、通常検体(例えば、A1、A2)の2検体併行での含有量が、どちらの元素でも良く一致しており、かつ、添加回収率検体(例えば、A+)の添加回収率も、どちらの元素でも99.0~102%と良好であり、得られた金、銀の定量値についての信頼性を判断する上で、非常に好ましい範囲となった。
【0080】
これに対して、特許文献1、特許文献2、及び、非特許文献1にも記載されている様に、従来技術であるテルルやビスマスを共沈元素とした比較例1~4では、金のみが実施例に近い評価結果となったものの、銀に関しては、実施例1~3に匹敵する良好な評価結果が得られなかった。
【0081】
また、表2における白金、パラジウムの評価結果が示す通り、本発明を用いた実施例4では、通常検体(A1、A2)の2検体併行での定量値が、どちらの元素でも0.1ppm未満となり、金、銀以外の貴金属元素が含まれていないことが確認出来たと共に、添加回収率検体(A+)の添加回収率が、どちらの元素でも99.0%以上と良好であったことから、実際に白金、パラジウムが試料に含まれていた場合にも、これらの元素を正確に分析可能であることが示された。
これに対して、従来技術であるテルルを共沈元素とした比較例5では、添加回収率検体(A+)の添加回収率において、実施例4に匹敵する良好な評価結果が得られなかった。
【0082】
即ち、本発明によれば、粉体材料の製造において、製造設備などからの異物混入リスクを想定した、金、銀などの貴金属元素含有量を、安全、かつ、迅速・簡便に評価でき、上記の評価結果は、その裏付けとするのに十分なものであると言える。
そして、本発明においては、例えば、蛍光X線分析法での評価後の分析検体を、塩酸、硝酸、及び、過酸化水素より選択される1種以上を含むことを特徴とする無機酸Zを用い、濾紙に付着した乾燥沈澱物を溶解し、この溶解液を、定容のほか、適宜、希釈して試料溶液とし、得られた試料溶液を、ICP発光分光分析法やICP質量分析法などの機器分析法で評価することにより、蛍光X線分析法に対するチェック分析を任意で行うことも可能である。
【0083】
また、本発明の技術範囲は、上記の一実施形態などで説明した態様に制限されるものではない。上記の一実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることが有り得る。なお、上記の一実施形態などで説明した要件は、適宜、組み合わせることが出来る。更に、法令で許容される限り、本明細書で引用した全ての文献の内容を援用し、本文の記載の一部とするものである。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【符号の説明】
【0086】
10 X線管
20 試料ホルダ
21 枠体
22 支持部
23 穴部
24 マスク
25 マスク穴部
26 濾紙
27 乾燥沈澱物
28 重石
30 X線検出器
一次X線
蛍光X線
図1
図2
図3
図4
図5
図6