(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104890
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】液位測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 23/292 20060101AFI20230721BHJP
G01F 23/284 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
G01F23/292 B
G01F23/284
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211150
(22)【出願日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2022005276
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 幸基
(72)【発明者】
【氏名】石川 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓二
(72)【発明者】
【氏名】矢部 貴之
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AB01
2F014AC06
2F014FA01
2F014FC01
(57)【要約】
【課題】 高温の熔融金属を取り扱う容器内の液位を安定して測定することが可能な液位測定装置を提供する。
【解決手段】 タンディッシュに代表される上部が開放された容器V内に貯められている熔融金属Mの液面に向けて光波やマイクロ波などの液位検出用の電磁波を発信すると共に、該電磁波が溶融金属Mの液面で反射した後の反射電磁波を受信することで熔融金属Mの液位を測定する液位測定手段と、該反射前後の電磁波の進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面を備え、好ましくは該反射面にガスを吹き付けるガス吹付手段を備えた板状体からなる反射手段とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開放された容器内に貯められている熔融金属の液面に向けて液位検出用の電磁波を発信すると共に、前記電磁波が前記溶融金属の液面で反射した後の反射電磁波を受信することで前記熔融金属の液位を測定する液位測定手段と、
前記反射前後の電磁波の進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面を備えた板状体からなる反射手段とを有する液位測定装置。
【請求項2】
前記反射手段が、前記反射面にガスを吹き付けるガス吹付手段を有している、請求項1に記載の液位測定装置。
【請求項3】
前記電磁波が光波であり、前記液位測定手段が、前記発信の役割を担う放射部及び前記受信の役割を担う受光部を具備する光学式変位計であり、前記板状体がセラミック製である、請求項1に記載の液位測定装置。
【請求項4】
前記板状体がアルミナを99.9質量%以上含有している、請求項3に記載の液位測定装置。
【請求項5】
前記電磁波がマイクロ波であり、前記液位測定手段が、前記発信の役割と前記受信の役割とを共に担う送受信部を具備するマイクロ波式変位計であり、前記板状体がステンレス製である、請求項1に記載の液位測定装置。
【請求項6】
前記マイクロ波の進行方向をガイドする管状体が前記送受信部と前記反射手段との間に設けられており、前記容器の側壁の上端面に全周に亘ってキャスタブル耐火物からなる断面略三角形の反射部が形成されている、請求項5に記載の液位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液位測定装置に関し、特に電磁波を用いることで容器内に貯められている熔融金属の液位を非接触で測定する液位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製錬プラントに代表される高温の熔融金属(熔体とも称する)を取り扱う設備においては、所定量の熔融金属を受け入れて様々な処理を行なったり、後段の機器への安定供給のために熔融金属を一時的に貯留したりする目的で種々の容器が用いられている。例えば熔融金属として熔鋼を鋳造する設備においては、熔鋼の一時的な貯留用にタンディッシュと称する上部が開放された平面視略矩形の容器が用いられている。このタンディッシュには底部に排出口が設けられており、前段の製錬工程で生成された熔鋼をレードル(取鍋)を介してタンディッシュ内に注ぎ込んで一時的に貯留することで、下流側に位置するモールド(鋳型)に向けて該底部排出口から熔鋼を安定的に供給することが可能になる。
【0003】
上記モールドへの熔鋼の供給の際、熔鋼の供給量が変動すると、該モールドにおいて鋳造される鋳造品の品質にばらつきが生じるおそれがある。そこで、上記レードルの下部排出口にスライディングプレートを設けて該下部排出口の開度を調節することで、タンディッシュ内の熔鋼の貯留量に応じて該レードルからタンディッシュに熔鋼を注ぎ込む量を制御することが行なわれている。これにより、タンディッシュ内の熔鋼の貯留量を一定量に維持できるので、該モールドへの供給量を安定化することが可能になる。
【0004】
上記のようにレードルからタンディッシュに注ぎ込む熔鋼の量の制御するには、該タンディッシュ内の熔鋼の貯留量を把握することが必要になる。これは、タンディッシュ内に貯留している熔鋼の液位を測定することによって間接的に求めることができる。タンディッシュで取り扱う熔鋼の温度は約1000℃を超える高温になるため、従来、タンディッシュ内の熔鋼の液位の測定には熱電対が用いられていた。例えば特許文献1には、タンディッシュの側壁部を貫通して内側に突出する保護管内に熱電対を挿入し、その熱電対で急激な温度変化を検出したときに、熔鋼の液位がこの熱電対の設置位置(高さ)を通過したと判断する技術が開示されている。すなわち、熔鋼の液位が低下して熱電対の設置位置を下回った場合は、熱電対の検出温度が急激に低下し、逆に熔鋼の液位が上昇して熱電対の設置位置を上回った場合は、熱電対の検出温度が急激に上昇するので、ダンディッシュ内の熔鋼の液位を把握することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1の液位測定方法では、熱電対を収納する保護管を高温の熔鋼に接液させる必要があるため、熔鋼の液面がこの保護管の位置を境にして上下する度に熱電対は高温環境下及び低温環境下に繰り返し曝されるので断線することがあった。熱電対が断線すると当然のことながらタンディッシュ内の熔鋼の液位を把握することができなくなるので、タンディッシュ内の熔鋼を下流側のモールドに安定的に供給することが困難になるうえ、タンディッシュの上端部から熔鋼が溢れ出て鋳造装置の近くで作業をしている作業者を被災させるおそれがある。更に、上記の特許文献1の液位測定法では、熱電対の取付位置を基準にして液位がその上側にあるか又はその下側にあるかのいずれかしか把握できないので、ダンディッシュ内において例えば低レベル、中レベル、及び高レベルのように複数の液位を検知する必要がある場合は複数個の熱電対を設ける必要があった。
【0007】
本発明は上記の熱電対による液位測定方法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、熔鋼を取り扱うタンディッシュのように、高温の熔融金属を取り扱う容器内の液位を安定して測定することが可能な液位測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る液位測定装置は、上部が開放された容器内に貯められている熔融金属の液面に向けて液位検出用の電磁波を発信すると共に、前記電磁波が前記溶融金属の液面で反射した後の反射電磁波を受信することで前記熔融金属の液位を測定する液位測定手段と、前記反射前後の電磁波の進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面を備えた板状体からなる反射手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容器内の熔融金属の液位を安定して測定することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態の液位測定装置を用いて容器内の熔融金属の液位を測定している状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の液位測定装置が有する光学式変位計の模式的な構成図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の液位測定装置が有する制御手段、並びにその入力手段及び出力手段の構成図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態の液位測定装置の測定対象となる溶鋼が発する光の波長と分光放射輝度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図2の光学式変位計が有するPSDの模式的な正面図である。
【
図6】
図1の液位測定装置が有する反射手段の斜視図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態の液位測定装置の使用方法を示すブロックフロー図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態の液位測定装置において行なわれる演算処理のベースとなる入射位置と液位の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の第2の実施形態の液位測定装置を用いて容器内の熔融金属の液位を測定している状態を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態の液位測定装置が有するマイクロ波式変位計の種々のタイプの模式的な正面図である。
【
図11】
図9の液位測定装置で液位を測定する原理を示すグラフである。
【
図12】本発明の第2の実施形態の液位測定装置が有する制御手段、並びにその入力手段及び出力手段の構成図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態の液位測定装置が好適に具備する管状体をマイクロ波式レベル計及び反射手段と共に示す斜視図である。
【
図14】
図9の容器の上端面の上に好適に形成される反射部の断面図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態の液位測定装置の使用方法を示すブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、容器内の液位測定対象物の液位を電磁波を用いて非接触で測定する本発明の液位測定装置の実施形態について説明する。この本発明の実施形態の液位測定装置は、上部が開放された容器内の熔融金属の液面に向けて液位検出用の電磁波を発信すると共に、該電磁波が該熔融金属の液面で反射した後の反射電磁波を受信することで該熔融金属の液位を測定する液位測定手段と、上記液面での反射前後の電磁波の進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面を備えた板状体からなる反射手段とを有している。
【0012】
上記の電磁波による液位測定は、可視光線や赤外線を用いた光学式と、マイクロ波を用いた電波式(マイクロ波式)とに大別することができる。そこで、以下の説明では、該電磁波に光波(光)を採用する光学式変位計(レベル計)を液位測定手段に用いた第1の実施形態について先ず説明し、次に該電磁波にマイクロ波を採用するマイクロ波式変位計(レベル計)を液位測定手段に用いた第2の実施形態について説明する。
【0013】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態の液位測定装置は、
図1に示すように、タンディッシュに代表される上部が開放された容器V内に貯められている液位測定対象となる熔融金属Mの液面に向けて液位検出用の検出光Dを放射する放射部11と、この検出光Dが液位測定対象の熔融金属Mの液面で反射した後の反射検出光Rを受光する受光部12とを備える光学式変位計(レーザー変位計)10を有している。この液位測定装置は、更に上記の検出光D及び反射検出光Rの進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面20aを備えた板状体からなる反射手段20を有している。
【0014】
図1に示すように、反射手段20は容器Vの上方において図示しない支持部によって支持されるので、容器V内の高温の熔融金属Mの熱に曝される。従って、反射手段20を構成する板状体の材質は、かかる高温雰囲気に曝されても容易に変形しないような耐熱性に優れたものであることが好ましい。このような耐熱性に優れた材質としては、セラミック材やSUS材等を挙げることができ、熱による変形がより生じにくい点からセラミック材がより好ましい。
【0015】
本発明の第1の実施形態の液位測定装置は、従来の熱電対による液位測定装置とは異なり、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mに対して非接触で液位の測定ができるうえ、上記のように反射手段20を容器Vの上方に設けることによって光学式変位計10を容器Vの上方を避けた位置に配設することができる。これにより、高温の熔融金属Mから発せられる輻射熱や上方に向って立ち昇る対流熱から光学式変位計10の放射部11や受光部12が曝されるのを防ぐことができる。また、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mの液面に対して、検出光Dの光軸をほぼ垂直に入射させることができるので、測定レンジを広くとることができる。すなわち、容器V内の熔融金属Mの液位が空状態から満液状態の範囲内のどのレベルにあるかを長期に亘って安定的に測定することが可能になる。以下、上記の本発明の第1の実施形態の液位測定装置を構成する各要素について具体的に説明する。
【0016】
1-1 光学式変位計
本発明の第1の実施形態の液位測定装置が有する光学式変位計10は、前述したように、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mの液面に向けて検出光Dを放射する放射部11と、該検出光Dが該熔融金属Mの液面で反射した後の反射検出光Rを受光する受光部12とを備えている。
図2に示すように、放射部11は検出光Dを生成する光源11a及び該光源11aから発せられる検出光Dを集光して測定対象物に投光する投光レンズ11bから主に構成され、受光部12は反射検出光Rを受光する受光素子12a及び反射検出光Rを該受光素子12aに結像させる受光レンズ12bから主に構成される。これらを
図2に示すように配設することで、3角測量方式により熔融金属Mの液位を測定することができる。
【0017】
すなわち、液位測定対象の熔融金属Mの液面から同じ距離Pで離間する投光レンズ11bの中心と受光レンズ12bの中心とが互いに離間する距離をQとし、受光レンズ12bの中心が受光素子12aの受光面から離間する距離をFとし、受光レンズ12bの中心から受光素子12aの受光面に下した垂線が該受光面に交わる点から反射検出光Rが該受光面に入射する位置までの距離をXとしたとき、距離Pは下記式1から求めることができる。
【0018】
[式1]
P=(F/X)・Q
【0019】
上記式1の4つの変数のうち、Q及びFは光学式変位計10の構造で定まる値であるので、距離Pは距離Xから一意的に求めることができる。後述するように、受光素子12aから出力される反射検出光Rの入射位置に応じた出力値に基づいて容器V内の熔融金属Mの液位を求める演算処理は、CPU(Central Processing Unit)等の制御手段によって行なうことができる。このCPUは、例えば
図3に示すように、上記の所定のアルゴリズムに沿った演算処理に必要な情報を格納する記憶部13と、この記憶部13に格納された情報に基づいて該演算処理する演算部14とから構成される。なお、CPUは光学式変位計10に内蔵されていてもよいし、光学式変位計10とCPUとは別の装置でもよい。記憶部13には、キーボードやタッチスクリーンなどの基準液位入力手段15から後述するように基準となる熔融金属Mの液位を入力できるようになっており、更に、上記の演算処理で求めた液位のデータはディスプレイなどの液位表示手段16に出力され、そこで表示されるようになっている。
【0020】
(1)放射部
放射部11は、検出光Dとして例えばレーザー光を発振するレーザー発振器を含む光源11aと、この光源11aから照射したレーザー光を集光させる投光レンズ11bとで構成される。光源11aは高温の熔融金属Mの液位検出に適した波長のレーザー光を発振できるものであれば特に限定はなく、一般的なものを採用することができる。ここで液位検出に適した波長とは、検出光Dが熔融金属Mの液面で反射した後の反射検出光Rを受光部12において正確に受光可能な波長であり、例えば測定対象の熔融金属Mが熔鋼の場合は、波長400nm~700nmのレーザー光が好ましく、波長500nm~550nmの緑色のレーザー光や波長400nm~500nmの紫色や青色のレーザー光がより好ましい。その理由は、溶鋼が発する光の波長と、ある面積から放出される(又は通過する)光線の強度を示す物理量である分光放射輝度との関係を熔融の温度をパラメータとして示した
図4のグラフから分かるように、熔鋼が発する光は波長780nm以上の赤外線を多く含むので、この波長とは異なる波長を有するレーザー光を検出光に用いることで液位をより正確に測定することが可能になるからである。
【0021】
図4を参照しながら具体的に説明すると、波長500nm~550nmの緑色のレーザー光に関しては、溶鋼の温度が2000Kである場合は、溶鋼が発する500nm~550nmの領域(緑色光)の分散放射輝度が、溶鋼が発する780nm~820nm(赤色光)の領域の分散放射輝度に比べて1/10以下となっており、この比率は、溶鋼の温度が1500Kになると1/100以下になる。すなわち、熔鋼が発する光は、波長780nm以上の赤外線に比べて波長500nm~550nmの光をあまり多く含んでいないため、この波長500nm~550nmに対応する波長領域を有する緑色のレーザー光を発振する発振器を用いることにより、溶鋼が発する光と反射検出光Rとを区別しやすくなる。しかも、緑色のレーザー光は可視光であり視認しやすいため、反射検出光Rを受光部12に入射させる際の位置合わせの作業が、赤色レーザー光を用いる場合に比べて容易になる。
【0022】
他方、波長400nm~500nmの紫色や青色のレーザー光に関しては、溶鋼の温度が2000Kである場合は、溶鋼が発する400nm~500nmの領域(緑色光)の分散放射輝度が、溶鋼が発する780nm~820nm(赤色光)の領域の分散放射輝度に比べて1/100以下となっており、この比率は溶鋼の温度が1500Kになると1/1000以下になる。よって、この波長400nm~500nmに対応する波長領域を有する紫色や青色のレーザー光を発振する発振器を用いる場合は、溶鋼が発する光と反射検出光Rとをより一層容易に区別することができる。
【0023】
(2)受光部
受光部12は、例えばPSD(Position Sensitive Detector)からなる受光素子12aと、光学式変位計10の光源11aから発振された検出光Dとしてのレーザー光が、容器V内に貯められている熔融金属Mの液面で反射した後に再び光学式変位計10に戻ってきたレーザー光である反射検出光Rを受光素子12aにスポット光として集光させる受光レンズ12bとで構成されている。なお、受光部12には、特定の波長の光のみを通過させる干渉フィルターを取り付けてもよい。例えば検出光Dに採用した波長の光のみを通過させる干渉フィルターを取り付けることで、スポット光以外の光の入射を効果的に抑制することができる。
【0024】
上記のPSDは、高抵抗半導体基板の片面又は両面に形成された均一な抵抗層の両端に、信号取り出し用の1対の電極が設けられた構造を有している。これにより、該抵抗層の表面にスポット光として反射検出光Rが入射すると、その入射位置に光量に比例した電荷が発生する。発生した電荷は光電流として抵抗層に到達し、上記の1対の電極までのそれぞれの距離に逆比例して分割され、出力電極から取り出される。例えばPSDが
図5に示す構造を有する場合は、反射検出光Rの入射位置と、出力電極X
1、X
2のそれぞれの出力電流I
X1、I
X2との間には下記式2及び式3に示す関係が成立する。よって、これら式2及び式3から導くことのできる式4に基づいて、光量及びその変化とは無関係にスポット光の入射位置X
Aを求めることができる。ここで、I
X1は電極X
1の出力電流、I
X2は電極X
2の出力電流、I
0は全光電流(I
X1+I
X2)、L
Xは受光面の長さ、X
AはPSDの電気的中心位置から入射位置までの距離をそれぞれ表している。
【0025】
[式2]
IX1=((LX/2-XA)/LX)×I0
[式3]
IX2=((LX/2+XA)/LX)×I0
[式4]
(IX2-IX1)/(IX1+IX2)=2×XA/LX
【0026】
(3)記憶部
光学式変位計10内に一般的に内蔵されるCPU(Central Processing Unit)の内部に割り当てられた記憶領域である記憶部13は、上記の式4の他、熔融金属Mの液位の算出に必要な式を記憶すると共に、後述する演算部14から出力される値や、基準液位入力手段15において入力された値を記憶する役割を担っている。
【0027】
(4)演算部
光学式変位計10内に一般的に内蔵されるCPUの内部に割り当てられた演算領域である演算部14は、上記の記憶部13に格納された情報を取り出して所定のアルゴリズムに沿って演算を実行し、演算結果を上記記憶部13に出力する役割を担っている。
【0028】
(5)基準液位入力手段及び液位表示手段
上記の受光素子12aから出力される出力値は、光学式変位計10から測定対象の熔融金属Mの液面までの距離を相対的に表わすデータであるので、上記の演算部14で演算処理するには、基準となる液位を入力する必要がある。そのため、上記の記憶部13には、入力端末からなる基準液位入力手段15を介して該基準となる液位を入力できるようになっている。
【0029】
この基準液位入力手段15には、例えばディスプレイに表示されているメニュー画面に指で直接触れることで入力操作を行なうことが可能な入力装置であるタッチパネルが好適に用いられる。このようにして基準液位入力手段15から入力された基準液位の情報に、受光素子12aにおける入射位置の変位に応じて一意的に変化する補正値を加算することで、容器V内の液位測定対象の熔融金属Mの液位を算出することができる。上記の演算処理で求めた液位のデータは、計器室に設けたディスプレイなどの液位表示手段16に出力され、そこで表示されるようになっている。
【0030】
1-2 反射手段
本発明の第1の実施形態の液位測定装置が有する反射手段20は、前述したように検出光D及び反射検出光Rの進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる反射面20aを備えた好適には平面視略矩形の板状体からなり、この板状体の材料は、耐熱性に優れたセラミック材であることが好ましい。このセラミック材の種類には特に限定はないが、より低い熱膨張係数を有するものが好ましく、また、より高いヤング率を有するものがより好ましい。このようなセラミック材としては、例えばアルミナを99.9質量%以上含有するセラミック材を挙げることができる。上記のように板状体をセラミック材にすることで、液位測定対象の熔融金属Mが貯められている容器Vのほぼ真上に反射手段20を設けることが可能になる。これにより、容器Vの上方を避けて設けられている光学式変位計10の放射部11から放射される検出光(レーザー光)Dの光軸を、液位測定対象の熔融金属Mの液面に対してほぼ垂直に入射させることができる。
【0031】
すなわち、レーザー光の反射手段として一般的に用いられるガラス材製のミラーや樹脂製のプリズムを反射手段20を構成する板状体の材質に用いると、熱の影響を受けて変形しやすいため、使用しているうちに検出光Dや反射検出光Rの進行方向がずれていき、熔融金属Mの液位を正確に測定できなくなることが懸念される。また、ガラス製のミラーは熱伝導率が非常に低く、反射面側とその反対側とで熱膨張差が生じやすいため、割れてしまうことが懸念される。これに対して、上記のように反射手段20の板状体をセラミック製にすることで、容器V内の溶鋼による輻射熱や対流熱によって反射手段20が加熱された場合でも、その熱影響による変形を防止することができる。これにより、液位測定対象の熔融金属Mの液位を長期間に亘って安定的に測定することができる。
【0032】
上記の反射手段20を構成する板状体は、検出光D及び反射検出光Rを反射させる反射面20aの表面粗さがRa0.2以下である。これにより、反射手段20の反射面20aにおいて、乱反射を抑えて検出光Dや反射検出光Rの正反射率を高めることができるので、より安定的に液位を測定することが可能になる。なお、上記のRa0.2以下の表面粗さは、板状体に対して例えば研磨加工を施すことによって実現することができる。反射手段20を構成する上記板状体は、更にその厚みが4mm以上であることが好ましい。このような厚みに設定することで、検出光Dや反射検出光Rが板状体の厚み方向に透過するのを抑制し、波長領域が300nm~1000nmのレーザー光を85%以上反射させることができるので、更に安定的な液位の測定が期待できる。
【0033】
上記の反射手段20は、更に反射面20aに圧縮エアーなどのガスを吹き付けるガス吹付手段を備えていてもよい。これにより、反射手段20を構成する上記板状体を適度に冷却できるので、熱による変形をより確実に抑制することができるうえ、容器V内の熔融金属Mから発生するヒュームなどの微粒子が反射面20aに付着するのを防ぐことができる。上記のガス吹付手段は例えば
図6に示す構造により実現することができる。
【0034】
すなわち、この
図6に示す平面視略矩形の板状体からなる反射手段20は、該板状体の一端部が反射面20a側に突出することで側方から見た形状が略L字形になっており、この突出部分にガス導入路21が設けられている。このガス導入路21には斜め下方に向って延在する複数の分岐路22が連通しており、これら分岐路22の各々の先端開口部23は、該突出部分の段差面20bにおいて反射面20aを臨むようにして開口している。かかる構造により、例えばテフロン(登録商標)などの耐熱性のフレキシブルチューブ24を介して図示しない圧縮エアーの供給源からガス導入路21に圧縮エアーを供給することで、反射面20aに効果的に圧縮エアーを吹き付けることができる。
【0035】
なお、反射手段20の個数は
図1に示す1個に限定されるものではなく、2個の反射手段を容器Vの上方に配設することで、検出光Dと反射検出光Rとを別々の反射手段でそれぞれ反射させてもよい。また、検出光D及び反射検出光Rの各々を2個以上の反射手段を用いて2回以上反射させてもよい。上記のように複数個の反射手段を用いることで、光学式変位計や反射手段の設置位置の自由度が高まるので、例えば既設の設備において設置スペースに制約のあるような場合であっても、本発明の第2の実施形態の液位測定装置を採用することが可能になる。
【0036】
1-3 液位測定装置の使用方法
次に、上記した本発明の第1の実施形態の液位測定装置の使用方法について、上部が開放された容器Vとしてのダンディッシュ内に液位測定対象の熔融金属Mとして熔鋼が貯められている場合を例に挙げて
図7のブロックフロー図を参照しながら説明する。先ず、ステップ1において、タンディッシュ内に流下する熔鋼や該ダンディッシュ内に貯められている熔鋼から光学式変位計10が悪影響を受けないように、溶鋼を装入する前の内部が空の状態のタンディッシュの斜め上方で且つ該ダンディッシュから水平方向に離間した位置に、本発明の第1の実施形態の液位測定装置を構成する光学式変位計10を設置する。
【0037】
次に、ステップ2において、本発明の第2の実施形態の液位測定装置を構成する反射手段20をタンディッシュの上方に配設する。その際、光学式変位計10を起動し、その光源から放射させた検出光(レーザー光)Dが反射手段20の反射面20aで反射した後にタンディッシュの底面で反射することができ、更に、その反射検出光Rが再度反射手段20の反射面20aで反射した後に光学式変位計10の受光部12で受光できるように、反射手段20の位置と角度を調節する。また、必要に応じて光学式変位計10の位置と角度も調節する。
【0038】
次に、ステップ3において、基準液位入力手段15から基準となる熔鋼の液位L0(例えば、ゼロ)を入力することでその値を記憶部13に記憶させる。そして、この液位L0のときの受光素子12aとしてのPSDにおける反射検出光Rの入射位置を求めるべく、光学式変位計10を起動してその放射部11の光源から検出光Dを放射させてタンディッシュの底面で反射させ、その反射検出光Rが光学式変位計10の受光部12のPSDに入射したときに生じる出力電流Ix1、Ix2を記憶部13に出力させる。これにより、記憶部13に予め記憶させておいた式4に基づいてタンディッシュが空状態の液位L0のときのスポット光(反射検出光R)の入射位置X0を演算部14で算出させ、その算出結果の値を記憶部13に記憶させる。
【0039】
次に、ステップ4において、タンディッシュ内に熔鋼のダミーとして高さLBの箱状体を入れ、基準液位入力手段15から液位LBを入力することでその値を記憶部13に記憶させる。そして、上記のステップ3と同様に、この液位LBのときのPSDにおける入射位置を求めるべく、光学式変位計10を起動してその放射部11の光源から検出光Dを放射させて該箱状体の上面で反射させ、その反射検出光Rが光学式変位計10の受光部12のPSDに入射したときに生じる出力電流IX1、IX2を記憶部13に出力させる。これにより、記憶部13に予め記憶させておいた式4に基づいて液位LBにおけるスポット光(反射検出光R)の入射位置XBを演算部14で算出させ、その算出結果の値を記憶部13に記憶させる。なお、箱状体による液位測定後はタンディッシュから箱状体を取り出す。
【0040】
次に、ステップ5において、任意のスポット光(反射検出光R)の入射位置X
Lに対して熔鋼の液位を一意的に求める下記式5の演算式のパラメータを、上記のステップ3及び4で記憶部13に記憶させた液位L
0と入射位置X
0との組、及び液位L
Bと入射位置X
Bとの組に基づいて演算部14で算出させ、その算出結果の値を記憶部13に記憶させる。なお、式5の変数の関係を示す、横軸を入射位置[X]、縦軸を液位[mm]とするグラフを
図8に示す。
【0041】
[式5]
L=L0+((LB-L0)/(XB-X0))×(XL-X0)
【0042】
以上で液位測定の準備が完了したので、最後にステップ6において、反射手段20のガス導入路21にフレキシブルチューブ24を介して圧縮エアーを供給した後、タンディッシュ内に熔鋼を装入すると共に、光学式変位計10を起動してその放射部11の光源11aから検出光Dを放射させて反射手段20での反射を経て熔鋼の液面で反射させた後、その反射検出光Rを反射手段20での反射を経て入射部12のPSDに入射させる。これにより、CPUは、PSDから出力される電流値Ix1、Ix2を式4に代入することで、スポット光(反射検出光)の入射位置XLを算出して記憶部13に記憶すると共に、式5に代入することでタンディッシュ内の熔鋼の液位Lを算出する。算出した液位は、液位表示手段16としての例えば計器室のディスプレイに表示される。
【0043】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態の液位測定装置を用いることで、従来の熱電対による液位測定とは異なり非接触で液位測定ができるうえ、熔融金属を貯留する容器から離間した位置に光学式変位計を配設することができるので、熔融金属から発せられる輻射熱や対流熱によって該光学式変位計が悪影響を受けるのを防ぐことができる。また、該容器に熔融金属が存在していない空の状態から満液状態までの広い測定レンジにおける任意の液位を測定することができる。
【0044】
2.第2の実施形態
本発明の第2の実施形態の液位測定装置は、
図9に示すように、容器V内に貯められている液位測定対象となる熔融金属Mの液面に向って液位検出用の検出マイクロ波Wを送信する役割と、この検出マイクロ波Wが液位測定対象の熔融金属Mの液面で反射した後の反射検出マイクロ波Uを受信する役割とを両方とも担う送受信部31を備えたマイクロ波式変位計30を有している。この液位測定装置は、更に上記の検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uの進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる表面粗さRa0.2以下の反射面40aを備えた板状体からなる反射手段40を有している。
【0045】
図9に示すように、反射手段40は容器Vの上方において図示しない支持部によって支持されるので、反射手段40は、容器V内の高温の熔融金属Mの熱に曝される。従って、反射手段40を構成する板状体の材質は、高温雰囲気に曝されても容易に変形しないような耐熱性に優れたものが好ましく、このような耐熱性に優れた材質としては、セラミック材やSUS材を挙げることができるが、これらの中では、後述するように、液位測定にマイクロ波を用いる本発明の第2の実施形態の液位測定装置の場合は、反射面での吸収を抑える点からSUS材を用いるのが好ましい。
【0046】
本発明の第2の実施形態の液位測定装置においても、第1の実施形態の液位測定装置と同様に、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mに対して非接触で液位の測定ができるうえ、上記のように反射手段40を容器Vの上方に設けることで、マイクロ波式変位計30を容器Vの上方を避けた位置に配設することができる。これにより、高温の熔融金属Mから発せられる輻射熱や上方に向って立ち昇る対流熱にマイクロ波式変位計30の送受信部31が曝されるのを防ぐことができる。また、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mの液面に対して、検出マイクロ波Wのマイクロ波軸をほぼ垂直に入射させることができるので、測定レンジを広くとることができる。すなわち、容器V内の熔融金属Mの液位が空状態から満液状態の範囲内のどのレベルにあるかを長期に亘って安定的に測定することが可能になる。
【0047】
更に、上記の検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uに採用するマイクロ波は、凡そ0.1mm~1000mm程度の波長を有し、光と同程度の凡そ30万km/秒の速度を有する電磁波であり、その経路に存在する気体の温度、圧力、流速等の雰囲気条件の影響をほとんど受けないうえ、マイクロ波は熔鋼が発する光に多く含まれる波長780nm以上の電磁波(赤外線)と比べても波長が十分に長く、且つ、
図4に示す可視光の波長と比べても波長が十分に長いことから、上記赤外線、及び上記可視光との識別が容易である。そのため、可視光線を用いる場合に比べてより高い精度で測定を行なうことが可能になる。
【0048】
上記のマイクロ波式変位計30で液位を測定する方式には、周波数を時間と共に変化させながら発信した検出マイクロ波が、液位測定対象の液面で反射して戻ってきたときの周波数のずれから液位を求めるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式、及び液位測定対象の液面に向けて発信したパルス状の検出マイクロ波が、該液面で反射して反射検出マイクロ波として戻ってくるまでの時間を測定して液位を求めるパルス方式があり、上記のマイクロ波式変位計にはいずれも採用することができる。以下、上記の本発明の第2の実施形態の液位測定装置の各要素について、FMCW方式のマイクロ波式変位計を採用する場合をとり挙げて具体的に説明する。
【0049】
2-1 マイクロ波式変位計
本発明の第2の実施形態の液位測定装置が有するマイクロ波式変位計30は、前述したように、容器V内に貯められている液位測定対象の熔融金属Mの液面に向けて検出マイクロ波Wを送信すると共に、該検出マイクロ波Wが該熔融金属Mの液面で反射した後の反射検出マイクロ波Uを受信する送受信部31を備えている。この送受信部31は、
図9に示すように、送信方向に延びるアンテナを有しており、ここで例えば周波数5GHz~30GHz程度の検出マイクロ波Wを送信すると共に、液位測定対象の熔融金属Mの液面で反射して戻ってきた反射検出マイクロ波Uを受信することができる。
【0050】
この送受信部31のタイプは、マイクロ波を適切に送受信できるものであれば特に限定はなく、
図10に示すように、例えば、先細のテーパー形に形成された棒状のアンテナがフッ素樹脂で覆われた形態のロッドアンテナ型(a)、アンテナの先端部にメガホン形状のホーンが取り付けられた形態のホーンアンテナ型(b)、マイクロ波を伝搬させる働きをするパイプ状のプローブを取り付けた形態のウェーブガイド型(c)等を好ましく使用することができる。
【0051】
上記のマイクロ波式変位計30において、熔融金属Mの液位を測定するときは、送受信部31のアンテナから検出マイクロ波Wを送信すると共に、該検出マイクロ波Wが液位測定対象の熔融金属Mの液面で反射した後に戻ってきた反射検出マイクロ波Uを送受信部31で受信する。このとき、送信する検出マイクロ波Wの周波数を、所定の範囲内において連続的且つ直線的に変化させる。そして、受信した反射検出マイクロ波Uの周波数と、この受信したときに送信する検出マイクロ波Wの周波数との差を測定することで、発信したマイクロ波が熔融金属Mの液面で反射して戻ってくるまでの時間が間接的に分かるので、熔融金属Mの液位を測定することが可能になる。
【0052】
図11を参照しながら、上記のFMWC方式による液位測定の原理について詳細に説明する。例えば
図11に示すように、送受信部31から送信する検出マイクロ波Wの周波数を最大周波数f
maxと最小周波数f
minとの間で掃引時間Tの鋸歯状パターンで連続的且つ直線的に変調させる場合において、送信周波数がf(0)となる時点t(0)に送信された検出マイクロ波Wが、液位測定対象の溶融金属Mの液面で反射した後に送信周波数と同じ周波数f(0)を有する反射検出マイクロ波Uとして送受信部31に戻って受信されたときの時間がt(1)のとき、このマイクロ波の往復に要した時間である「Δt=t(1)-t(0)」が経過する間に送受信部31から送信される検出マイクロ波Wの送信周波数は、t(0)時点の送信周波数f(0)からt(1)時点の送信周波数f(1)に変化する。
【0053】
前述したように、送受信部31から送信する検出マイクロ波Wの送信周波数は連続的且つ直線的に変調され、その経時的変化である増加率αは
図11に示すα=(f
max-f
min)/Tであることが分かっているので、時間t(0)での検出マイクロ波Wの送信周波数f(0)と、この周波数f(0)に等しい周波数を有する反射検出マイクロ波Uを受信したときの検出マイクロ波Wの送信周波数f(1)を検出することで、これらの周波数差であるΔfを「Δf=f(1)-f(0)」としたとき、比例関係から導かれる下記式6からΔtを求めることができる。
【0054】
[式6]
Δt=Δf・T/(fmax-fmin)
【0055】
上記の式6で求めた時間Δtは、送受信部31のアンテナと熔融金属Mの液面との間をマイクロ波が往復するのに要した時間であるので、下記式7に示すように、この時間Δtにマイクロ波の速度Vをかけて2で除することで、液位測定対象の熔融金属Mの液面から送受信部31のアンテナまでマイクロ波が進行した距離Lを求めることができる。そして、容器V内の熔融金属Mの液位が基準となる液位のとき(例えば液位ゼロの空のとき)の上記の距離Lを予め液位測定装置を用いて求めておくことで、容器V内の熔融金属Mの任意の液位を液位測定装置で測定することが可能になる。
【0056】
[式7]
L=Δt・V・(1/2)
【0057】
上記のように、式6の演算式に送受信部31から出力される周波数の値f(0)及びf(1)を代入した後、式7の演算式に基づいて容器V内の熔融金属Mの液位を求める演算処理は、CPU(CentralProcessingUnit)等の制御手段によって行なうことができる。このCPUは、例えば
図12に示すように、上記の所定のアルゴリズムに沿った演算処理に必要な情報を格納する記憶部32と、この記憶部32に格納された情報に基づいて該演算処理を行なう演算部33とから構成される。なお、CPUはマイクロ波式変位計30に内蔵されていてもよいし、マイクロ波式変位計30とCPUとは別の装置でもよい。
【0058】
上記の記憶部32は、キーボードやタッチスクリーンなどの基準液位入力手段34から入力される後述する基準となる熔融金属Mの液位のほか、熔融金属Mの液位の算出に必要な式を記憶すると共に、後述する演算部33から出力される値を記憶する役割を担っている。また、上記演算部33は、上記の記憶部32に格納された情報を取り出して所定のアルゴリズムに沿って演算を実行し、演算結果を上記記憶部32に出力する役割を担っている。更に、上記の演算処理で求めた液位のデータはディスプレイなどの液位表示手段35に出力され、そこで表示されるようになっている。なお、送受信部31から出力される出力値に基づいて算出される値は、この送受信部31のアンテナから液位測定対象の熔融金属Mの液面までの距離であるので、上記の演算部33で容器V内の熔融金属Mの液面を演算処理させるため、容器V内の基準となる液位を入力する必要がある。この基準液位を入力する入力端末として、基準液位入力手段34が設けられている。
【0059】
2-2 反射手段
本発明の第2の実施形態の液位測定装置が有する反射手段40は、前述したように検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uの進行方向をそれぞれ所定の方向に変えるために反射させる反射面40aを備えた好適には平面視略矩形の板状体からなり、反射手段40は液位測定対象の熔融金属Mが貯められるダンディッシュなどの容器Vのほぼ真上に設けられるので、該板状体の材質は、耐熱性に優れたものであることが好ましい。このような耐熱性に優れた材質としてはセラミック材やSUS材等を挙げることができる。このように耐熱性に優れた材質で板状体を形成することで、容器Vの上方を避けて設けられているマイクロ波式変位計30の送受信部31から送信される検出マイクロ波Wを、液位測定対象の熔融金属Mの液面に対してほぼ垂直に入射させることができる。
【0060】
上記の材質の中では、マイクロ波をより高い反射率で反射できる点からSUS材がより好ましい。すなわち、セラミック材は一般的に無機粉末を焼結させて成形するので、微視的には無数の微細な空隙部が存在している。そのため、マイクロ波がセラミック材の表面で反射する際、このセラミック材においてマイクロ波が透過や吸収により減衰してしまう。これに対して、SUS材の場合は、上記のセラミック材とは異なりその表面(即ち、反射面40a)に微細な空隙部がほぼ存在しておらず緻密であるため、SUS材で上記板状体を形成することで、検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uの進行方向を変えるために反射させる際のこれら検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uの減衰を抑制することができる。これにより、板状体の材質にセラミック材を用いる場合に比べて、より良好に液位測定を行なうことが可能になる。なお、SUS材は熱膨張係数がガラス材とほぼ同等であるものの、熱伝導率がガラス材と比べて十分に高いため、反射面側とその反対側とで熱膨張差が生じにくい。よって熱による曲がりが生じにくいという利点も有している。
【0061】
上記板状体に用いるSUS材にはSUS304等のオーステナイト系のステンレス鋼を用いてもよいが、SUS430等のフェライト系や、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼のように、より低い熱膨張係数を有するステンレス鋼を用いることがより好ましい。なお、炭素鋼はステンレス鋼と比べて腐食が生じやすい材料であるうえ、表面に酸化膜が形成されやすく反射面において高い反射率を維持するのが困難であるため、反射手段20の板状体の材質に炭素鋼を用いるのは好ましくない。
【0062】
上記の反射手段40を構成する板状体は、検出マイクロ波W及び反射検出マイクロ波Uを反射させる反射面40aの表面粗さがRa0.2以下である。これにより、反射手段40の反射面40aにおいて、乱反射を抑えて検出マイクロ波Wや反射検出マイクロ波Uの正反射率を高めることができるので、より安定的に液位を測定することが可能になる。なお、上記のRa0.2以下の表面粗さは、板状体に対して例えば研磨加工を施すことによって実現することができる。
【0063】
上記の反射手段40は、
図6に示す第1の実施形態の反射手段20と同様に、反射面40aに圧縮エアーなどのガスを吹き付けるガス吹付手段を備えていてもよい。これにより、反射手段40を構成する上記板状体を適度に冷却できるので、熱による変形をより確実に抑制することができるうえ、熔融金属Mから発生するヒュームなどの微粒子が反射面40aに付着するのを防ぐことができる。
【0064】
本発明の第2の実施形態の液位測定装置においては、更に
図13に示すように、両端が開口した例えば金属製のパイプからなる管状体41の一端部に上記の反射手段40を設けると共に、管状体41の他端部にマイクロ波式変位計30の送受信部31のアンテナを挿し込むように設けるのが好ましい。これにより、容器V内の熔融金属Mから発生する輻射熱や熱風等から送受信部31のアンテナをより確実に保護することができる。また、マイクロ波の進行方向を管状体41の内側でその延在方向にガイドすることができるので、より高精度に液位を測定することが可能になる。
【0065】
上記の管状体41の長さには特に限定はないが、容器V内の熔融金属Mの熱の影響を受けないように送受信部31を容器Vから水平方向に十分に離間させることが可能な十分な長さを有していることが好ましい。このように容器Vから送受信部31を離間させた場合であっても、検出マイクロ波Wや反射検出マイクロ波Uを管状体41の内側でガイドできるので、液位測定の精度を損なうことなくマイクロ波変位計30をより確実に熱影響から保護することが可能になる。また、管状体41に反射手段40を支持する役割も担わせることで反射手段40用の支持具を別途設ける必要がなくなるので設置コストを抑えることができるうえ、例えば容器Vの周辺に十分な設置スペースがない場合でも反射手段40と管状体41とを容易に配置することが可能になる。
【0066】
上記の上部が開放された容器Vは、
図9の容器VをA-A部分で切断した断面図である
図14に示すように、その側壁の上端面に全周に亘ってキャスタブル耐火材からなる断面略三角形の反射部V
1が形成されていることが好ましい。これにより、容器Vの側壁の上端面に入射する検出マイクロ波W
2やW
3を、反射手段40が設けられている方向とは異なる方向に反射させることができるので、これら容器Vの側壁の上端面で反射するマイクロ波W
2やW
3と、容器V内の熔融金属Mの液面で反射するマイクロ波W
1とが共に送受信部31に受信されて不正確な液位を測定する問題を効果的に回避することができる。
【0067】
2-3 液位測定装置の使用方法
次に、上記した本発明の第2の実施形態の液位測定装置の使用方法について、上部が開放された容器Vとしてダンディッシュ内に液位測定対象の熔融金属Mとして熔鋼が貯められている場合を例に挙げて
図15のブロックフロー図を参照しながら説明する。先ず、ステップ1において、タンディッシュ内に流下する熔鋼や該ダンディッシュ内に貯められている熔鋼からマイクロ波式変位計30が悪影響を受けないように、熔鋼を装入する前の内部が空の状態のタンディッシュの斜め上方で且つダンディッシュから水平方向に離間した位置に、本発明の第2の実施形態の液位測定装置を構成するマイクロ波式変位計30を設置する。
【0068】
次に、ステップ2において、本発明の第2の実施形態の液位測定装置を構成する反射手段40をタンディッシュの上方に配設する。その際、マイクロ波式変位計30を起動し、その送受信部31から送信した検出マイクロ波Wが反射手段40の反射面40aで反射した後にタンディッシュの底面で反射することができ、更にその反射検出マイクロ波Uが再度反射手段40の反射面40aで反射した後にマイクロ波式変位計30の送受信部31で受信できるように、反射手段40の位置と角度を調節する。また、必要に応じてマイクロ波式変位計30の位置と角度も調節する。
【0069】
次に、ステップ3において、基準液位入力手段34から基準となる熔鋼の液位L0(例えば、ゼロ)を入力することでその値を記憶部32に記憶させる。例えば液位L0をタンディッシュ内に熔鋼が存在していない空の状態の液位とする場合は、この空の状態において検出マイクロ波Wを送信し、その送信周波数f(0)を記憶部32に記憶させる。そして、タンディッシュの底面で反射させた反射検出マイクロ波Uを受信し、その受信時点における検出マイクロ波Wの送信周波数f(1)を記憶部32に記憶させる。これら記憶部32に記憶させたf(0)及びf(1)と、予め記憶部32に記憶させておいた送信周波数の経時的な増加率α、及びマイクロ波の速度Vから、送受信部31のアンテナからタンディッシュ底面までのマイクロ波の経路距離L0´を下記式8に基づいて算出し、その値を記憶部32に記憶させる。
【0070】
[式8]
L0´=((f(1)-f(0))/α)×V×(1/2)
【0071】
以上で液位測定の準備が完了したので、最後にステップ4において、反射手段40のガス導入路にフレキシブルチューブを介して圧縮エアーを供給した後、タンディッシュ内に熔鋼を装入すると共に、マイクロ波式変位計30を起動して熔鋼の液位Lの測定を開始する。即ち、送受信部31から検出マイクロ波Wを送信し、その送信周波数F(0)を記憶部32に記憶させる。
【0072】
そして、熔鋼の液面(液位L)で反射させた反射検出マイクロ波Uを受信し、その受信時点における検出マイクロ波Wの送信周波数F(1)を記憶部32に記憶させる。そして、記憶部32に記憶させたF(0)及びF(1)と、予め記憶部32に記憶させておいた送信周波数の経時的な増加率α、及びマイクロ波の速度Vから、送受信部31から熔鋼の液面(液位L)までのマイクロ波の経路距離L´を下記式9に基づいて算出させ、その値を記憶部32に記憶させる。
【0073】
[式9]
L´=((F(1)-F(0))/α)×V×(1/2)
【0074】
そして、記憶部32に記憶させたL0と、算出したマイクロ波の経路距離L0´及びL´とを下記式10に代入することで、タンディッシュ内の熔鋼の液位Lを算出させる。算出した液位は液位表示手段35としての例えば計器室のディスプレイに表示させることができる。
【0075】
[式10]
L=L0+(L0´-L´)
【0076】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態の液位測定装置を用いることで、従来の熱電対による液位測定とは異なり非接触で測定ができるうえ、熔融金属を貯留する容器から離間した位置にマイクロ波式変位計を配設することができるので、熔融金属から発せられる輻射熱や対流熱によってマイクロ波式変位計が悪影響を受けるのを防ぐことができる。また、容器に熔融金属が存在していない空の状態から満液状態までの広い測定レンジにおける任意の液位を測定することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 光学式変位計
11 放射部
11a 光源
11b 投光レンズ
12 受光部
12a 受光素子
12b 受光レンズ
13 記憶部
14 演算部
15 基準液位入力手段
16 液位表示手段
20、40 反射手段
20a、40a 反射面
20b 段差面
21 ガス吹出口
22 連通孔
23 ガス導入孔
24 フレキシブルチューブ
30 マイクロ波式変位計
31 送受信部
32 記憶部
33 演算部
34 基準液位入力手段
35 液位表示手段
D 検出光
W 検出マイクロ波
M 熔融金属
R 反射検出光
U 反射検出マイクロ波
V 容器
V1 反射部
Ix1、Ix2 出力電流
X1、X2 出力電極