(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105112
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】疾患の要因となる生体内タンパク質を標的とするコンジュゲートワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20230721BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20230721BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230721BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230721BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230721BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230721BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230721BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230721BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230721BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230721BHJP
C07K 14/54 20060101ALI20230721BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230721BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K38/08
A61K38/10
A61K47/64
A61P3/10
A61P17/06
A61P35/00
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P9/10 101
C07K14/54
C07K14/47
C07K7/08 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093490
(22)【出願日】2023-06-06
(62)【分割の表示】P 2021137656の分割
【原出願日】2017-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2016062872
(32)【優先日】2016-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】514055277
【氏名又は名称】株式会社ファンペップ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】中神 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
(72)【発明者】
【氏名】天満 昭子
(57)【要約】
【課題】疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープにキャリアタンパク質を連結した複合体を含有するワクチンであって、キャリアタンパク質の抗原性が低く、かつワクチンとして有効な抗体産生能を有するワクチンを提供すること。
【解決手段】配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープが連結された複合体を含むワクチン。疾患の要因となる生体内タンパク質は、DPP4、IL-17A、IgE、S100A9およびPCSK9からなる群より選択されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10、11、29~36のいずれかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、IL-17Aに対する免疫誘導用ペプチド。
【請求項2】
配列番号2~9のいずれかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、DPP4に対する免疫誘導用ペプチド。
【請求項3】
配列番号12に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、IgEに対する免疫誘導用ペプチド。
【請求項4】
配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、PCSK9に対する免疫誘導用ペプチド。
【請求項5】
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、S100A9に対する免疫誘導用ペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドと低抗原性キャリアタンパク質(ただし、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを除く)を含む免疫原性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患の要因となる生体内タンパク質を標的とするコンジュゲートワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然痘などの感染症の予防に古くから使われてきたワクチンの技術を癌や生活習慣病などの治療に用いる試みがされている。このような治療用ワクチンでは、標的タンパクに対する抗体誘導等の免疫誘導を引き起こす部位(エピトープ部位)をキャリアタンパク質に結合して用いる場合がある。そのようなキャリアタンパクとしてはKLH(Keyhole limpet hemocyanin:スカシガイヘモシアニン)、OVA(Ovalbumin:オボアルブミン)、BSA(Bovine serum albumin:ウシ血清アルブミン)等が知られている。例えば、INF-αの改変体を抗原部位として用いKLHに結合したものを投与し全身性エリテマトーデス(SLE)を治療することが試みられている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、KLH、OVA、BSA等は、それ自体が抗原性を有しており、抗原性が高くないエピトープをコンジュゲートして免疫する場合に、キャリアタンパク自体の抗原性が問題となる場合があった(非特許文献2)。
【0004】
本発明者らは、DPP4のエピトープペプチドとKLHとのコンジュゲートを、糖尿病の予防または治療に用いることを開示している(特許文献1)。また、本発明者らは、IL-17AのエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドとB型肝炎のウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むDNAワクチンを、IL-17Aが増悪因子として関与する疾患(全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ等)の予防または治療に用いることを開示している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2015/033831
【特許文献2】WO2015/099167
【0006】
【非特許文献1】ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 65, No. 2, February 2013, pp 447-456.
【非特許文献2】N.E. van Houten, M.B. Zwick1, A. Menendez, and J.K. Scott Vaccine. 2006 May 8; 24(19): 4188-4200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープにキャリアタンパク質を連結した複合体を含有するワクチンであって、キャリアタンパク質の抗原性が低く、かつワクチンとして有効な抗体産生能を有するワクチンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープとの複合体を含むワクチン。
[2]生体内タンパク質が、DPP4、IL-17A、IgE、S100A9およびPCSK9からなる群より選択される1種である前記[1]に記載のワクチン。
[3]IL-17Aのエピトープが、配列番号10、11、29~36のいずれかに示されるアミノ酸配列、または配列番号10、11、29~36のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドである前記[2]に記載のワクチン。
[4]DPP4のエピトープが、配列番号2~9のいずれかに示されるアミノ酸配列、または配列番号2~9のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドである前記[2]に記載のワクチン。
[5]IgEのエピトープが、配列番号12に示されるアミノ酸配列、または配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドである前記[2]に記載のワクチン。
[6]S100A9のエピトープが、配列番号13に示されるアミノ酸配列、または配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドである前記[2]に記載のワクチン。
[7]PCSK9のエピトープが、配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列、または配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドである前記[2]に記載のワクチン。
[8]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと生体内タンパク質のエピトープが、ε-アミノカプロン酸を介して連結されている前記[1]~[7]のいずれかに記載のワクチン。
[9]前記複合体のN末端のアミノ酸がアセチル化されている前記[1]~[8]のいずれかに記載のワクチン。
[10]前記複合体のC末端のアミノ酸がアミド化されている前記[1]~[9]のいずれかに記載のワクチン。
[11]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープとの複合体を含む免疫原性組成物。
[12]生体内タンパク質が、DPP4、IL-17A、IgE、S100A9およびPCSK9からなる群より選択される1種である前記[11]に記載の免疫原性組成物。
[13]配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープとの複合体の有効量を、動物に投与することを含む、前記生体内タンパク質が要因となる疾患の予防または治療方法。
[14]生体内タンパク質が要因となる疾患の予防または治療に用いるための、配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、前記生体内タンパク質のエピトープとの複合体。
[15]生体内タンパク質が要因となる疾患の予防または治療用医薬を製造するための、配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、前記生体内タンパク質のエピトープとの複合体の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、キャリアタンパク質の抗原性が低く、かつワクチンとして有効な抗体産生能を有する、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープにキャリアタンパク質を連結した複合体を含有するワクチンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】OSK-1ペプチド(配列番号1)とマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号17)を、ε-Acpをリンカーとして連結したOSK-1-DPP4コンジュゲートによる抗体産生作用を評価した結果を示す図である。
【
図2】OSK-1-DPP4コンジュゲートの抗体産生作用と、KLHとマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号17)とのコンジュゲート(KLH-DPP4)の抗体産生作用を比較した結果を示す図である。
【
図3】OSK-1-DPP4コンジュゲートにより産生されたIgGのサブクラスを解析し、KLH-DPP4コンジュゲートとAlum併用群およびKLH-DPP4コンジュゲートとOSK-1併用群と比較した結果を示す図である。
【
図4】OSK-1ペプチド(配列番号1)とWT1プペプチド(配列番号28)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-WT1コンジュゲートを予め投与したマウスにがん細胞を皮下移植し、腫瘍増殖抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図5】OSK-1-WT1コンジュゲートを予め投与したマウスにがん細胞を皮下移植し、延命効果を評価した結果を示す図である。
【
図6】マウスにがん細胞を皮下移植し、移植と同日からOSK-1-WT1コンジュゲートの投与を開始した場合の腫瘍増殖抑制効果を評価した結果を示す図である。
【
図7】マウスにがん細胞を皮下移植し、移植と同日からOSK-1-WT1コンジュゲートの投与を開始した場合の延命効果を評価した結果を示す図である。
【
図8】OSK-1-DPP4コンジュゲートによる標的タンパクに対するIgE産生を、KLH-DPP4コンジュゲートによる標的タンパクに対するIgE産生と比較した結果を示す図である。
【
図9】OSK-1ペプチドとマウスIL-17Aのエピトープペプチド(配列番号21)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-DPP4コンジュゲートの(A)アミノ酸分析結果および(B)HPLC分析結果を示す図である。
【
図10】OSK-1ペプチドとマウスIL-17Aのエピトープペプチド(配列番号31)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-DPP4コンジュゲートの(A)アミノ酸分析結果および(B)HPLC分析結果を示す図である。
【
図11】OSK-1ペプチドとマウスIL-17Aのエピトープペプチド(配列番号32)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-DPP4コンジュゲートの(A)アミノ酸分析結果および(B)HPLC分析結果を示す図である。
【
図12】OSK-1ペプチドとマウスIL-17Aのエピトープペプチド(配列番号40)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-DPP4コンジュゲートの(A)アミノ酸分析結果および(B)HPLC分析結果を示す図である。
【
図13】OSK-1-IL-17Aコンジュゲートによる抗体産生作用を評価した結果を示す図である。
【
図14】イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの皮膚状態により、OSK-1-IL-17Aコンジュゲートの薬効を評価した結果を示す図である。
【
図15】イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの耳の厚さにより、OSK-1-IL-17Aコンジュゲートの薬効を評価した結果を示す図である。
【
図16】OSK-1-IL-17AコンジュゲートまたはKLH-IL-17Aコンジュゲートを投与したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの乾癬誘導開始から6日目の皮膚状態を示す図である。
【
図17】イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの皮膚状態により、OSK-1-IL-17AコンジュゲートとKLH-IL-17Aコンジュゲートの薬効を比較した結果を示す図である。
【
図18】イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの耳の厚さにより、OSK-1-IL-17AコンジュゲートとKLH-IL-17Aコンジュゲートの薬効を比較した結果を示す図である。
【
図19】OSK-1-IL-17AコンジュゲートまたはKLH-IL-17Aコンジュゲートを投与したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの乾癬誘導開始から12日目の皮膚をインボルクリン染色した結果を示す図である。
【
図20】OSK-1-IL-17AコンジュゲートまたはKLH-IL-17Aコンジュゲートを投与したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの乾癬誘導開始から12日目の皮膚をF4/80染色した結果を示す図である。
【
図21】OSK-1-IL-17AコンジュゲートまたはKLH-IL-17Aコンジュゲートを投与したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスの乾癬誘導開始から12日目の皮膚をGr-1染色した結果を示す図である。
【
図22】OSK-1-IL-17AコンジュゲートまたはKLH-IL-17Aコンジュゲートを投与したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスにおける血中IL-17濃度を測定した結果を示す図である。
【
図23】血中PCSK9濃度により、OSK-1-PCSK9コンジュゲートの薬効を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、疾患の要因となる生体内タンパク質を標的とするコンジュゲートワクチンを提供する。本発明のワクチンは、配列番号1に示されるアミノ酸配列(ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK)と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドと、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープとの複合体を含むワクチンであればよい。本明細書において、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをOSK-1ペプチドまたはOSK-1と記載する場合がある。なお、本明細書において、「コンジュゲート」と「複合体」は同義に使用される。
【0012】
本明細書において「ワクチン」は、動物に投与することにより免疫反応を引き起こす免疫原を含む組成物を意味する。それゆえ、本発明のワクチンは、免疫原性組成物と換言することができる。本発明のワクチンは、予防的に投与されるものに限定されず、疾患が発症した後に治療的に投与されるものであってもよい。
【0013】
配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列が挙げられる。好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列である。配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列をからなるペプチドと実質的に同質の活性を有するペプチドが好ましい。具体的には、生体内タンパク質のエピトープとの複合体による抗体産生能が、同一の生体内タンパク質のエピトープと配列番号1に示されるアミノ酸配列をからなるペプチドとの複合体による抗体産生能と同等(例えば、約0.5~2倍)であることが挙げられる。
【0014】
疾患の要因となる生体内タンパク質は特に限定されないが、例えば、DPP4、IL-17A、IgE、S100A9、PCSK9などが挙げられる。なお、本明細書において、「生体内タンパク質」は内在性タンパク質(endogenous protein)を意味する。
【0015】
DPP4(ジペプチジルペプチターゼ-4:Dipeptidyl Peptidase-4)は、インスリン分泌に関わるインクレチンを分解する酵素である。インクレチンは食事後などの高血糖時においてインスリン分泌を促進し、血糖値を低下させる消化管ホルモンである。そこで、DPP4の機能を阻害してインクレチンの分解を抑えれば、インクレチン濃度が上昇し、インスリン分泌が促進されて糖尿病の症状を改善することができる。それゆえ、多数のDPP4阻害薬が糖尿病治療薬として開発、承認されている。したがって、抗DPP4抗体を誘導するワクチンにより、糖尿病を治療することが期待できる。
【0016】
OSK-1-DPP4コンジュゲートに使用されるヒトDPP4のエピトープは、DPP4の機能を阻害する抗体(中和抗体)を産生可能なエピトープであれば特に限定されないが、以下のアミノ酸配列からなるペプチドを好適に用いることができる。
・ENSTFDEFG(配列番号2)
・NKRQLITEE(配列番号3)
・KNTYRLKLYS(配列番号4)
・YSDESLQYPK(配列番号5)
・PPHFDKSKKY(配列番号6)
・GLPTPEDNLD(配列番号7)
・FSKEAKYYQ(配列番号8)
・NSSVFLENSTFDEFG(配列番号9)
なお、ヒトDPP4のアミノ酸配列およびヒトDPP4をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれNP_001926(NCBI)およびNM_001935(NCBI)である。
【0017】
また、上記配列番号2~9のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、DPP4の機能を阻害する抗体を産生可能なペプチドも、OSK-1-DPP4コンジュゲートに使用されるヒトDPP4のエピトープとして好適である。
【0018】
IL-17A(インターロイキン17A:interleukin-17A)は、ホモ2量体の糖タンパク質であり、単にIL-17とも称される。IL-17Aは主に活性化T細胞より産生され、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、マクロファージなど広範囲にわたる細胞に作用して、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞接着因子などの種々の因子を誘導して炎症を誘導することが知られている。ヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体(セクキヌマブ)は、尋常性乾癬および関節症性乾癬の治療薬として使用されている。また、IL-17Aは、関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患、非小細胞性肺癌、大腸癌、膵臓癌をはじめとする様々な癌、動脈硬化症などに関与することが報告されている。したがって、抗IL-17A抗体を誘導するワクチンにより、これらのIL-17Aが関与する疾患を治療することが期待できる。
【0019】
OSK-1-IL-17Aコンジュゲートに使用されるヒトIL-17Aのエピトープは、IL-17Aの機能を阻害する抗体(中和抗体)を産生可能なエピトープであれば特に限定されないが、以下のアミノ酸配列からなるペプチドを好適に用いることができる。
・RSSDYYNR(配列番号10)
・PKRSSDYYNRSTSPW(配列番号11)
・CPNSEDKNFPR(配列番号29)
・RNEDPERYPS(配列番号30)
・NRSTSPW(配列番号31)
・LHRNEDP(配列番号32)
・RYPSVIWEA(配列番号33)
・PKRSSDYYNR(配列番号34)
・TNPKRSSDYYNR(配列番号35)
・TNTNPKRSSDYYNR(配列番号36)
なお、ヒトIL-17Aのアミノ酸配列およびヒトIL-17Aをコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれNP_002181(NCBI)およびNM_002190(NCBI)である。
【0020】
また、上記配列番号10、11、29~36のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、IL-17Aの機能を阻害する抗体を産生可能なペプチドも、OSK-1-IL-17Aコンジュゲートに使用されるヒトIL-17Aのエピトープとして好適に用いることができる。さらに、配列番号11に示されるアミノ酸配列の第3-10位のアミノ酸配列を含む部分配列からなるペプチドも、OSK-1-IL-17Aコンジュゲートに使用されるヒトIL-17Aのエピトープとして好適である。
【0021】
アレルギーは特定の物質(アレルゲン)により引き起こされ、アレルゲンが体内に入ると免疫系が作動しIgEが産生される。産生されたIgE抗体は肥満細胞や好塩基球に結合した状態で保持され、再びアレルゲンが体内に入ってくるとIgEとアレルゲンが結合しヒスタミンやロイコトリエンといったケミカルメディエーターが放出されアレルギー症状を引き起こす。あるアレルゲンに対してアレルギーを発症している場合、そのアレルゲンに対する特異的IgEが過剰に産生され、このことによりアレルギー症状は悪化していく。IgEの働きを阻害し、または無効化することによりアレルギー症状を緩和することが可能であり、抗ヒトIgE抗体(オマリズマブ)が気管支喘息の治療に用いられている。したがって、抗IgE抗体を誘導するワクチンにより、気管支喘息、花粉症、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を治療することが期待できる。
【0022】
OSK-1-IgEコンジュゲートに使用されるヒトIgEのエピトープは、IgEの機能を阻害する抗体(中和抗体)を産生可能なエピトープであれば特に限定されないが、以下のアミノ酸配列からなるペプチドを好適に用いることができる。
・YQCRVTHPHLP(配列番号12)
なお、ヒト免疫グロブリンε鎖定常領域のアミノ酸配列およびヒト免疫グロブリンε鎖定常領域をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれP01854(UniProtKB)およびNG_001019(NCBI)である。
【0023】
また、上記配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、IgEの機能を阻害する抗体を産生可能なペプチドも、OSK-1-IgEコンジュゲートに使用されるヒトIgEのエピトープとして好適である。
【0024】
S100タンパク質は、細胞種特異的に発現する2個のEF-handを持つカルシウム結合性タンパク質であり、現在までに20種類のサブファミリーが確認されている。S100A9(MRP14とも称される。)は低分子量カルシウム結合性S100タンパク質に属しており、種々の炎症性疾患に関連していることがわかっている。また、細胞性動脈炎、嚢胞性線維症、慢性関節リウマチ、皮膚病、慢性炎症性腸疾患、慢性気管支炎、いくつかの悪性腫瘍、および自己免疫疾患を含む数多くの炎症性疾患の患者において、S100A9血清レベルが亢進することが明らかにされている。また、S100A9を遮断すると、出血のリスクを上げずに血栓が予防される可能性があることが報告されている。したがって、抗S100A9抗体を誘導するワクチンにより、アテローム血栓症、心筋梗塞や脳梗塞における血栓形成を予防することが期待できる。
【0025】
OSK-1-S100A9コンジュゲートに使用されるヒトS100A9のエピトープは、S100A9の機能を阻害する抗体(中和抗体)を産生可能なエピトープであれば特に限定されないが、以下のアミノ酸配列からなるペプチドを好適に用いることができる。
・GHHHKPGLGE(配列番号13)
なお、ヒトS100A9のアミノ酸配列およびヒトS100A9をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれNP_002956(NCBI)およびNM_002965(NCBI)である。
【0026】
また、上記配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、S100A9の機能を阻害する抗体を産生可能なペプチドも、OSK-1-S100A9コンジュゲートに使用されるヒトS100A9のエピトープとして好適である。
【0027】
PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)は、家族性高コレステロール血症の原因遺伝子であることが同定され、その後の研究からPCSK9は肝細胞表面に発現しているLDL受容体を分解し、肝臓が血中のLDL-Cを取り込む能力を低下させることがわかっている。PCSK9の機能を阻害することにより、LDL受容体の分解を抑制し、血中コレステロールの肝臓への取り込みを促進することによって血中コレステロール値を低下させることが可能である。抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体(エボロクマブ)が家族性高コレステロール血症および高コレステロール血症の治療に使用されており、PCSK9の機能を阻害するRNAi医薬が開発されている。したがって、抗PCSK9抗体を誘導するワクチンにより、高コレステロール血症を治療することが期待できる。
【0028】
OSK-1-PCSK9コンジュゲートに使用されるヒトPCSK9のエピトープは、PCSK9の機能を阻害する抗体(中和抗体)を産生可能なエピトープであれば特に限定されないが、以下のアミノ酸配列からなるペプチドを好適に用いることができる。
・LRPRGQPNQC(配列番号14)
・SRHLAQASQ(配列番号15)
・SRSGKRRGER(配列番号16)
なお、ヒトPCSK9のアミノ酸配列およびヒトPCSK9をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれNP_777596(NCBI)およびNM_174936(NCBI)である。
【0029】
また、上記配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、PCSK9の機能を阻害する抗体を産生可能なペプチドも、OSK-1-PCSK9コンジュゲートに使用されるヒトPCSK9のエピトープとして好適である。
【0030】
なお、本発明のワクチンの効果を確認するために、実験動物(マウス等)を用いて実験を行う場合、上記のヒトエピトープ配列に対応する実験動物のエピトープ配列を用いて実験を行うことが好ましい。用いる実験動物の対応するエピトープ配列は、公知のデータベース(NCBI等)を用いて標的タンパク質のアミノ酸配列を取得し、対応するヒトのアミノ段配列とアライメントすることにより設計することができる。表1に、上記配列番号2~16のヒトエピトープ配列に対応するマウスエピトープ配列を示す。
【0031】
【0032】
表1において、ヒトDPP4の全長アミノ酸配列はNP_001926、マウスDPP4の全長アミノ酸配列はAAH22183、ヒトIL-17Aの全長アミノ酸配列はNP_002181、マウスIL-17Aの全長アミノ酸配列はNP_034682、ヒトIgEの全長アミノ酸配列はP01854、マウスIgEの全長アミノ酸配列はP06336、ヒトS100A9の全長アミノ酸配列はNP_002956、マウスS100A9の全長アミノ酸配列はCAC14292、ヒトPCSK9の全長アミノ酸配列はNP_777596、マウスPCSK9の全長アミノ酸配列はNP_705793の各アクセッション番号で登録されているアミノ酸配列に基づく。
【0033】
本発明のワクチンに使用される生体内タンパク質のエピトープの大きさは特に限定されないが、20アミノ酸以下が好ましく、15アミノ酸以下がより好ましく、13アミノ酸以下がさらに好ましく、12アミノ酸以下がさらに好ましく、11アミノ酸以下がさらに好ましく、10アミノ酸以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、3アミノ酸以上が好ましく、4アミノ酸以上がより好ましく、5アミノ酸以上がさらに好ましく、6アミノ酸以上がさらに好ましい。
【0034】
OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体は、両者が直接連結されていてもよく、リンカー(スペーサーと同義)を介して連結されていてもよい。リンカーはOSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープを連結できるものであれば特に限定されない。例えば、β-アミノアラニン、γ-アミノ酪酸、ε-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、12-アミノラウリン酸、グルタミン酸、p-アミノ安息香酸等のアミノカルボン酸を用いることができる。また、天然のタンパク質に存在するL-アミノ酸やそれらのD-アミノ酸も用いることができる。本願明細書の実施例ではε-アミノカプロン酸をリンカーとして使用しているが、これに限定されない。
【0035】
OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体における連結順序は特に限定されず、N末端側がOSK-1ペプチドでC末端側が生体内タンパク質のエピトープでもよく、逆にN末端側が生体内タンパク質のエピトープでC末端側がOSK-1ペプチドでもよい。好ましくは、N末端側がOSK-1ペプチドでC末端側が生体内タンパク質のエピトープの順序である。
【0036】
当該複合体はそのN末端のアミノ酸がアセチル化されていることが好ましい。また、当該複合体はそのC末端のアミノ酸がアミド化されていることが好ましい。より好ましくは、複合体のN末端のアミノ酸がアセチル化されており、かつC末端のアミノ酸がアミド化されていることである。
【0037】
OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体は、融合タンパク質として製造することができる。具体的には、公知の遺伝子工学的手法により、OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープの融合タンパク質をコードする融合遺伝子を作製し、当該遺伝子を発現可能に挿入した組み換え発現ベクターを構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させ、精製することにより製造することができる。OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体は、上記融合遺伝子と公知のin vitro転写・翻訳系(例えば、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽または大腸菌由来の無細胞タンパク質合成系等)を用いて、製造することができる。また、バクテリオファージを用い、その表面にOSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体を組み換えタンパク質として発現させる場合は、当該複合体を単離、精製せずに、ファージ表面に発現させたままで対象動物に投与することも可能である。
【0038】
また、OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体は、公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)または液相合成法により製造することができる。複合体がOSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープを直接連結したものである場合、または複合体がOSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとを適当なアミノ酸を介して連結したものである場合は、複合体の全体を一度に合成することができる。また、OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープを別々に合成し、その後に2つのペプチドを、適当なリンカーを用いて連結してもよい。
【0039】
リンカーの導入は、ペプチド合成化学でよく知られた方法で行うことができる。まず標準的な手法によりリンカー位置までのペプチド断片を作成し、リンカーとして用いるアミノカルボン酸のアミノ基を適切に保護したものを用いて標準的な条件下ペプチド合成化学で用いられる縮合剤で当該リンカー基を縮合し、次いで、リンカー基の保護基を脱保護してから、次の位置の目的のアミノ酸を導入すればよい。例えばペプチド自動合成機でよく用いられる固相法ペプチド合成法はその一例である。このような操作で用いられるアミノカルボン酸の保護基としては、tBOC(tert-Butyl Oxy Carbonyl)基、FMOC(Fluorenyl-MethOxy-Carbonyl)基等が挙げられる。縮合剤としては、例えばDCC(N,N’-Dicyclohexylcarbodiimide)、EDC((N-(3-Dimethylaminopropyl) -N'-ethylcarbodiimide)等のカルボジイミド系化合物、CDI(1,1'- カルボニルジイミダゾール)等のイミダゾール系化合物、BOP(benzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate)等のホスホニウム塩系化合物、HBTU(O-(Benzotriazol-1-yl)-N,N,N’,N’-tetramethyluronium hexafluorophosphate)、HCTU(O-(6-Chlorobenzotriazol-1-yl)-N,N,N’,N’-tetramethyluronium hexafluorophosphate)等のウロニウム塩系化合物などを用いることができる。また、上記の条件を適切に組み合わせれば、OSK-1の所定のペプチド断片と表的の生体内タンパクエピトープ部位配列のペプチド断片をそれぞれ作製して適切に保護した後、適切な保護を施したリンカー基を用い、縮合または脱保護のステップを適宜組み合わせて操作することにより所望のコンジュゲートを得ることもできる。
【0040】
本発明のワクチンは、アジュバントを含まなくても疾患の要因となる生体内タンパク質の機能を阻害する抗体を誘導することができる点で有用性が高い点で有用である。ただし本発明のワクチンは、1種以上のアジュバントを含んでいてもよい。本発明のワクチンがアジュバントを含む場合、公知のアジュバントの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウムアジュバント(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩またはその組み合わせ)、フロイントアジュバント(完全または不完全)、TLRリガンド(例えば、CpG、Poly(I:C)、Pam3CSK4など)、BAY、DC-chol、pcpp、モノホスホリル脂質A、QS-21、コレラ毒素、ホルミルメチオニルペプチドなどが挙げられる。好ましくは、アルミニウムアジュバント、TLRリガンドまたはこれらの組み合わせである。本発明のワクチンがアジュバントを含む場合、アジュバントの配合量は特に限定されず、アジュバントの種類等により適宜選択すればよい。例えば、アルミニウムアジュバント(水酸化アルミニウム)およびCpGを併用する場合、本発明の融合タンパク質に対して質量比でアルミニウムアジュバントが約1~100倍量、CpGが約1~50倍量を配合することが好ましい。
【0041】
本発明のワクチンは、経口投与または非経口投与により投与することができる。非経口投与としては、例えば腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、鼻腔内投与、経皮投与、経粘膜投与、舌下投与、吸入投与などが挙げられる。好ましくは、非経口投与であり、より好ましくは、皮内投与、皮下投与または筋肉内投与である。また、非経口投与の手段には、マイクロニードル注射、無針注射、スタンプ等が含まれる。
【0042】
本発明のワクチンは、OSK-1ペプチドと生体内タンパク質のエピトープとの複合体と薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口投与用製剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口投与用製剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0043】
経口投与用の固形製剤に用いられる添加剤としては、例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン等の賦形剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の結合剤;トウモロコシデンプン等の分散剤;繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;グルタミン酸、アスパラギン酸等の溶解補助剤;安定剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子類等の水溶性高分子;白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、ハチミツ、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム等の甘味剤、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のコーティング剤等が挙げられる。
経口投与用の液体製剤は、一般的に用いられる希釈剤に溶解、懸濁又は乳化されて製剤化される。希釈剤としては、例えば、精製水、エタノール、それらの混液等が挙げられる。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0044】
非経口投与用の注射剤に用いられる添加剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等の等張化剤;リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等の緩衝剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等の保存剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の増粘剤;亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等の安定化剤;塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等のpH調整剤等が挙げられる。また注射剤には、適当な溶解補助剤、例えば、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、リソレシチン、プルロニック(登録商標)ポリオール等の非イオン界面活性剤等をさらに配合してもよい。注射剤等の液状製剤は、凍結保存または凍結乾燥等により水分を除去して保存することもできる。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0045】
本発明のワクチンは、免疫系を有するあらゆる動物(ヒト、非ヒト)を投与対象とすることができる。例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス等の哺乳動物;ニワトリ、アヒル、ガチョウ等の鳥類が挙げられる。本発明のワクチンは動物薬として有用であるが、ヒトの小児および成人を対象とすることが好ましい。
【0046】
本発明のワクチンの投与回数および投与間隔は特に限定されない。例えば、単回投与でもよく、約2日~約8週間の間隔で複数回投与してもよい。ワクチン投与量は、投与対象、投与方法などにより異なるが、1回投与量を約0.01μg~約10mgとすることが好ましく、約0.1μg~約1mgとすることがより好ましく、約1μg~約0.1mgとすることがさらに好ましい。
【0047】
本発明には、本発明のワクチンの有効量を動物に投与することを含む、標的生体タンパク質が要因となる疾患の予防または治療方法が含まれる。
また、本発明には、生体内タンパク質が要因となる疾患の予防または治療に用いるための、本発明のワクチンが含まれる。
さらに、本発明には、生体内タンパク質が要因となる疾患の予防または治療用医薬を製造するための、本発明のワクチンの使用が含まれる。
【0048】
本発明のワクチンにおいて、疾患の要因となる生体内タンパク質のエピトープのキャリアタンパク質として用いられるOSK-1は20個のアミノ酸からなるペプチドであり、OSK-1自身の抗原性は非常に低いので、キャリアタンパク質の抗原性に由来する好ましくない効果や副作用を低減することができる。一方、OSK-1は短いペプチドであるにも関わらず強いアジュバント効果を有するので、ワクチンとして有効な抗体産生能を付与することができる。また、OSK-1と生体内タンパク質のエピトープとの複合体により産生される抗体には、Th2タイプのIgG1だけでなくTh1タイプのIgG2a、IgG2bおよびIgG3が多く含まれるので、アレルギー反応等の副作用を低減することができる点で非常に有用である。さらに、KLH等の天然物由来のキャリアタンパク質を使用する場合には不純物の問題が生じるが、OSK-1は合成により製造できるのでこのような問題を回避することができる。また、OSK-1は短いペプチドであるので、製造コストを抑えることができる点でも有利である。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
〔ペプチドの製造例〕
文献「Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce(1984)、Fmoc solid synthesis:a practical approach,Oxford University Press(2000)」および「第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」等に記載の方法に従い、全自動固相合成機を用いて、保護ペプチド樹脂をFmoc法で合成した。得られた保護ペプチド樹脂にトリフルオロ酢酸(TFA)とスカベンジャー(チオアニオール、エタンジチオール、フェノール、トリイソプロピルシラン、水等の混合物)を加えて、樹脂から切り出すとともに脱保護して、粗ペプチドを得た。この粗ペプチドを、逆相HPLCカラム(ODS)を用いて、0.1%TFA-H20/CH3CNの系でグラジエント溶出し、精製を行った。目的物を含む画分を集め凍結乾燥して、目的のペプチドを得た。合成したペプチドのアミノ酸配列は、アミノ酸シーケンサーG1000A(Hewlett Packard)、PPSQ-23A(島津製作所)またはProciscLC(ABI社)を用いて確認し、得られたペプチドのN末端をアセチル化した。
【0051】
〔実施例1:OSK-1-DPP4コンジュゲートによる抗体産生の検討1〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)とマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号17)を、ε-Acpをリンカーとして連結(コンジュゲート)したOSK-1-DPP4コンジュゲート(Ac-ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK-X-ENSTFESFG (X = ε-Acp))による抗体産生作用を評価した。群構成は、生理食塩水群およびOSK-1-DPP4コンジュゲート群(100μg/mouse)の2群とした(6匹/群)。Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与前、投与から2週間おきに8週後まで採血し、DPP4エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
【0052】
結果を
図1に示した。OSK-1-DPP4コンジュゲートの投与により、DPP4エピトープペプチドに対する抗体産生が認められた。
【0053】
〔実施例2:OSK-1-DPP4コンジュゲートによる抗体産生の検討2〕
実施例1と同じOSK-1-DPP4コンジュゲートによる抗体産生作用を、KLH(Keyhole limpet hemocyanin:スカシガイヘモシアニン)とマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号17)とのコンジュゲート(KLH-DPP4)の抗体産生作用と比較した。群構成は、KLH-DPP4コンジュゲート群(20μg/mouse)、OSK-1-DPP4コンジュゲート群(100μg/mouse)、OSK-1-DPP4コンジュゲート(100μg/mouse)+Alum(Alhydrogel 2%(InvivoGen)1 mg/mouse)併用群の3群とした(2匹/群)。Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与前、投与から2週間おきに6週後までと、12週後に採血し、DPP4エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
【0054】
結果を
図2に示した。OSK-1-DPP4コンジュゲートはKLH-DPP4コンジュゲートと同等の抗体産生能が認められた。また、OSK-1-DPP4コンジュゲートとAlumの併用群では、相乗効果が認められた。
【0055】
〔実施例3:産生された抗体のIgGサブクラスの解析〕
実施例1および2と同じOSK-1-DPP4コンジュゲートにより産生されたIgG抗体のIgGサブクラスを、実施例2と同じKLH-DPP4コンジュゲートにより産生されたIgG抗体のIgGサブクラスと比較した。群構成は、OSK-1-DPP4コンジュゲート群(100μg/mouse)、KLH-DPP4コンジュゲート(20μg/mouse)+Alum(Alhydrogel 2%(InvivoGen)1 mg/mouse)併用群、KLH-DPP4コンジュゲート(20μg/mouse)+OSK-1(100μg/mouse)併用群の3群とした。Balb/cマウスに2週間隔で3回および投与開始から9週後に1回、合計4回皮内投与した後、投与後11週に採血し、DPP4エピトープペプチドに対するIgG抗体の抗体価をIgGサブクラスごとにELISAにより測定した。
【0056】
結果を
図3に示した。KLH-DPP4コンジュゲートとAlumの併用群では、Th2タイプのIgGであるIgG1が特に高い傾向であった。一方、OSK-1-DPP4コンジュゲート群では、Th1タイプのIgGであるIgG2a、IgG2bにも高い産生が認められた。また、KLH-DPP4コンジュゲートとOSK-1の併用群では、同様にTh1タイプであるIgG2b、IgG3の抗体価が高かった。
【0057】
〔参考例1:OSK-1-WT1コンジュゲートによる抗腫瘍効果の検討1〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)とWT1ペプチド(配列番号28)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-WT1コンジュゲート(Ac-ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK-X-RMFPNAPYL (X = ε-Acp))による抗腫瘍効果を評価した。また、WT1ペプチドワクチンの抗腫瘍効果に対するOSK-1ペプチドのアジュバント効果について検討した。群構成は、生理食塩水群、WT1ペプチド(100μg/mouse)+ポリ(I:C)(InvivoGen;Poly(I:C) HMW VacciGrade、50μg/mouse)群、WT1ペプチド(100μg/mouse)+OSK-1ペプチド(100μg/mouse)群、OSK-1-WT1コンジュゲート(350μg/mouse)群の4群とした(6匹/群)。C57BL/6Jマウスにワクチンを週に1回、4回投与し、4回目の投与から1週間後にB16F10メラノーマ細胞(1×105cells/mouse)を背部皮内に移植した。細胞移植から1週間後に再度ワクチンを投与した。細胞移植後、週に2回体重および腫瘍径を測定した。腫瘍径はデジタルノギスを用いて測定し、長径×短径2を腫瘍体積とした。
【0058】
腫瘍体積の結果を
図4に、生存率の結果を
図5に示した。OSK-1ペプチドをアジュバントとしてWT1ペプチドワクチンと共に投与した場合、腫瘍増殖抑制効果および延命効果は認められなかった。OSK-1-WT1コンジュゲート群では、腫瘍増殖抑制効果および延命効果が認められた。
【0059】
〔参考例2:OSK-1-WT1コンジュゲートによる抗腫瘍効果の検討2〕
参考例1と同じOSK-1-WT1コンジュゲートによる抗腫瘍効果を評価した。群構成は、生理食塩水群、WT1ペプチド(100μg/mouse)+ポリ(I:C)(InvivoGen;Poly(I:C) HMW VacciGrade、50μg/mouse)群、OSK-1-WT1コンジュゲート(350μg/mouse)群、シスプラチン(5mg/kg)群の4群とした(10匹/群)。C57BL/6JマウスにB16F10メラノーマ細胞(3×105cells/mouse)を背部皮内に移植し、同じ日にワクチンを皮内投与した。細胞移植日をDay0とし、Day7、14、21、28、35にワクチンを投与した。細胞移植後、週に2回、デジタルノギスを用いて腫瘍径を測定し、長径×短径2を腫瘍体積とした。
【0060】
腫瘍体積の結果を
図6に、生存率の結果を
図7に示した。細胞移植日と同時にワクチン投与を開始した場合、OSK-1-WT1コンジュゲートの腫瘍増殖抑制効果は弱いものの、Day32までは生理食塩水投与群(陰性対照)と比較して腫瘍体積は低い値を推移した。また、OSK-1-WT1コンジュゲートは、WT1ペプチド+ポリ(I:C)群およびシスプラチン群と同等の延命効果が認められた。
【0061】
〔実施例4:OSK-1-DPP4コンジュゲートによる抗体産生の検討3〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)と7種類のマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号3,5,6,8,18,19,20)および1種類のヒトDPP4のエピトープペプチド(配列番号9)を、それぞれε-Acpをリンカーとしてコンジュゲートした8種類のOSK-1-DPP4コンジュゲートを製造した。以下、各OSK-1-DPP4コンジュゲートを「OSK1-DDP4-配列番号」で表記する。
【0062】
6種類のマウスDPP4のエピトープペプチド(配列番号3,5,6,8,18,19)を含むOSK-1-DPP4コンジュゲートを、1匹あたり100μgの用量で、Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与前、投与から2週おきに採血し、各エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
初回投与から4週後の抗体価を表2に示した。抗体価はhalf maximum値で示した。Half maximum値は、測定機における最大吸光度の半分の吸光度示す血清の希釈倍率であり、血清希釈倍率と吸光度のシグモイド曲線を作成して算出した。
【0063】
【0064】
OSK1-DDP4-6、OSK1-DDP4-9およびOSK1-DDP4-12の3種類のOSK-1-DPP4コンジュゲートを、1匹あたり250μgの用量で、Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。初回投与から4週後、9週後および13週後に採血し、各エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
結果を表3に示した。抗体価はhalf maximum値で示した。
【0065】
【0066】
〔実施例5:HbA1c値によるOSK-1-DPP4コンジュゲートの評価〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)とDPP4のエピトープペプチド(配列番号6)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-DPP4コンジュゲートを、1匹あたり100μgの用量で、高脂肪食(DIO SERIES DIET D12492、日本クレア株式会社)を自由摂取させたBalb/cマウスに2週間おきに3回皮内投与した。初回投与後57日に採取した血液の一部を速やかにEDTA処理済みチューブに分注し、転倒混和させて、EDTA処理血液を調製した。HbA1c測定用に約20μLをマイクロチューブに分注し、HbA1c測定機器クオラボ(ニプロ)を用いて測定した。その結果、OSK-1-DPP4コンジュゲート群のHbA1c値(%、NGSP)はコントロール群(KLH投与群)のHbA1c値と比較して、-0.4%の改善を示した。
【0067】
〔実施例6:経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)によるOSK-1-DPP4コンジュゲートの評価〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)と2種類のDPP4のエピトープペプチド(配列番号6および配列番号9)を、それぞれε-Acpをリンカーとしてコンジュゲートした2種類のOSK-1-DPP4コンジュゲートを、1匹あたり250μgの用量で、高脂肪食(DIO SERIES DIET D12492、日本クレア株式会社)を自由摂取させたBalb/cマウスに2週間おきに3回皮内投与した。さらに初回投与後63日目に1匹あたり250μgのOSK-1-DPP4コンジュゲートを皮内投与した。初回投与後77日目に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施した。OGTT実施前日から約16時間の絶食を行い、OGTT実施中は絶食状態を維持した。20%グルコース液を5mL/kgの用量で単回経口投与した。採血および血糖値測定は無麻酔下で行った。動物の尾を軽く剃刀にて傷付け、漏出する血液中の糖濃度を血糖自己測定器(ニプロフリースタイルフリーダム)にて測定した。血糖値は、糖負荷前、糖負荷後30、60、90および120分の計5時点で測定し、経時的な濃度推移より各投与群の血糖上昇曲線下面積AUC(time*mg/dl)を算出した。その結果、2種類のOSK-1-DPP4コンジュゲート投与群のAUCは、どちらもコントロール群(KLH投与群)のAUCと比較して低下した。
【0068】
〔実施例7:OSK-1-DPP4コンジュゲートによるIgE産生の検討〕
OSK1-DPP4-17による標的タンパクに対するIgE産生を、キャリアタンパク質をKLHに変更したKLH-DPP4-17と比較した。KLH-DPP4-17群は、KLH-DPP4-17が20μg/mouseおよびAlum(Alhydrogel 2%(InvivoGen))が1mg/mouseになるように混合し皮内投与した。OSK-1-DPP4-17群は100μg/mouseで皮内投与した。Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与し、さらに11週目に4回目の投与を行った。21週目に採血し、血清中のDPP4に対するIgE抗体量をELISAにより測定した。
【0069】
結果を
図8に示した。KLH-DPP4-17群では、標的タンパクに対するIgE産生が見られたが、OSK1-DPP4-17群では、標的タンパクに対するIgE産生は見られなかった。
【0070】
〔実施例8:OSK-1-IL-17Aコンジュゲートによる抗体産生の検討〕
(1)OSK-1-IL-17Aコンジュゲートの製造
OSK-1ペプチド(配列番号1)と10種類のマウスIL-17Aのエピトープペプチド(配列番号21,22,31~33,37~41)を、それぞれε-Acpをリンカーとしてコンジュゲートした10種類のOSK-1-IL-17Aコンジュゲートを製造した。以下、各OSK-1-IL-17Aコンジュゲートを「OSK1-IL-配列番号」で表記する。これらの代表例として4種類のエピトープペプチド(配列番号21,31,32,40)を含むコンジュゲートについて、
図9~12にそれぞれ(A)アミノ酸分析結果および(B)HPLC分析結果を示した。他のコンジュゲートも実質的に同様の分析結果を得た。
【0071】
(2)抗体価の測定
10種類のOSK-1-IL-17Aコンジュゲートを表4に記載の用量で、Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与前、投与から2週間おきに6週後まで採血し、各エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
初回投与から6週後の結果を表4に示した。また、2,4,6週後の抗体価の変化を
図13に示した。抗体価はhalf maximum値で示した。
【0072】
【0073】
〔実施例9:イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスによるOSK-1-IL-17Aコンジュゲートの評価(1)〕
乾癬モデルとして、イミキモド誘発乾癬様皮膚炎モデルを使用した。6週齢のBALB/cマウスに3種類のOSK-1-IL-17Aコンジュゲート(OSK1-IL-31、OSK1-IL-32、OSK1-IL-40)を、1匹あたり500μgの用量で、2週間おきに3回皮内投与した。3回目のワクチン投与から2週間後に背中を剃毛し、さらに脱毛クリームを用いて脱毛した皮膚に、1日あたりイミキモド62.5mg分のベセルナクリーム5%(商品名、持田製薬)を、8日間毎日塗布することにより乾癬を誘導した。耳に塗布する場合は、片耳につき1日あたりイミキモド0.35mg分のベセルナクリーム5%を、8日間毎日塗布することにより乾癬症状を誘導した。
【0074】
乾癬誘導開始から8日間(0~7日目)、皮膚状態(紅斑、肥厚度、白色鱗屑の症状範囲)を毎日観察し、各0~4の5段階(0:なし、1:軽度、2:中等症、3:重症、4:きわめて重症)で点数化して評価した。耳の厚さは、乾癬誘導開始から8日間(0~7日目)、デジタルノギスを用いて毎日測定した。皮膚状態の結果を
図14に、耳の厚さの結果を
図15に示した。用いた4種類のOSK-1-IL-17Aコンジュゲートは、イミキモド誘発乾癬様皮膚炎を抑制することが示された。
【0075】
〔実施例10:イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスによるOSK-1-IL-17Aコンジュゲートの評価(2)〕
(1)皮膚状態および耳の厚さ
OSK-1-IL-17AコンジュゲートとしてOSK1-IL-21を用い、1匹あたり100μg、300μgまたは1000μgの用量で、Balb/cマウスに2週間おきに3回皮内投与した。また、キャリアタンパク質をKLHに変更したKLH-IL-21を、1匹あたり20μgの用量で、Balb/cマウスに2週間おきに3回皮内投与した。KLH-IL-21については、1回目の投与ではフロイント完全アジュバント(SIGMA)50μL/mouseを、2回目および3回目の投与ではフロイント不完全アジュバント(SIGMA)50μL/mouseを、アジュバントとして混合し投与した。用いたワクチンおよびベセルナクリーム5%を13日間毎日塗布したこと以外は、上記実施例9と同じ手順で行った。
【0076】
乾癬誘導開始から6日目の皮膚状態を写真撮影し、
図16に示した。乾癬様皮膚炎誘発期間中(0~12日目)の皮膚の状態の変化を
図17に示し、乾癬様皮膚炎誘発期間中(0~7日目)の耳の厚さの変化を
図18に示した。これらの結果により、KLH-IL-17AコンジュゲートよりOSK-1-IL-17Aコンジュゲートのほうが、イミキモド誘発乾癬様皮膚炎を強く抑制できることが示された。
【0077】
(2)免疫組織化学染色
イミキモド塗布により乾癬様皮膚炎を誘導した際に皮膚に存在している免疫細胞およびインボルクリンの発現を免疫組織化学染色により検出した。
乾癬誘導開始から12日目の背部皮膚および耳介を採取し、4%PFAで固定後、パラフィン包埋を行った。切片作成後、脱パラフィン、抗原賦活化処理を行い、非特異反応ブロッキング、一次抗体反応、標識二次抗体反応を行った。角化の最終マーカーであるインボルクリン染色により角化傾向を、マクロファージのマーカーであるF4/80および顆粒球のマーカーであるGr-1でそれぞれ染色し、免疫細胞を検出した。
【0078】
インボルクリン染色の結果を
図19に、F4/80染色の結果を
図20に、Gr-1染色の結果を
図21にそれぞれ示した。これらの結果から、正常皮膚では有棘層上部に認められるインボルクリンの発現が、イミキモド塗布により表皮の広い範囲に広がり角化の亢進が起こっていることが確認された。OSK-1-IL-17Aコンジュゲート投与群では、KLH-IL-17Aコンジュゲート投与群より、この現象が顕著に抑制されている所見が認められた。また、イミキモドを塗布した皮膚、耳介においてF4/80に陽性を示すマクロファージや、Gr-1に陽性を示す顆粒球の増加がより顕著に認められた。一方、OSK-1-IL-17Aコンジュゲート投与群では、KLH-IL-17Aコンジュゲート投与群より、これらの免疫細胞の浸潤が顕著に抑制されていた。
【0079】
(3)IL-17の血中濃度
乾癬誘導開始前(0日目)および乾癬誘導開始から12日目に採血し、血清中のIL-17濃度を、Mouse IL-17A/F Heterodimer Quantikine ELISA Kit(R&D systems社)を用いて測定した。
結果を
図22に示した。(A)はイミキモドを塗布していないマウス(0日目)の結果であり、(B)はイミキモドを塗布したマウス(12日目)の結果である。(B)に示したように、OSK-1-IL-17Aコンジュゲート投与群はKLH-IL-17Aコンジュゲート投与群に比べ、IL-17A/Fの血中濃度が低かった。また、(A)に示したように、コンジュゲート投与後イミキモド塗布開始前の血中IL-17A/Fは、KLH-IL-17Aコンジュゲート投与群のみ上昇が認められた。
【0080】
(4)乾癬部位における炎症関連因子の発現
乾癬誘導開始から12日目に乾癬部位の皮膚を採取し、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kitを使用して皮膚組織中のRNAを抽出した。Taqman Gene Expression Assaysのプライマーおよびプローブを使用し、リアルタイムPCR法によって、IL-17A、IL-17F、IL-22およびIL-23の炎症関連因子のメッセンジャーRNAを測定した。
その結果、OSK-1-IL-17Aコンジュゲート非投与のマウスでは各種因子のメッセンジャーRNAが上昇したが、OSK-1-IL-17Aコンジュゲート投与群では、各因子のメッセンジャーRNAの発現は抑制されていた。
【0081】
上記実施例9,10では、イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスを用いたが、OSK-1-IL-17Aコンジュゲートの薬効の評価には、IL-23誘発性乾癬様皮膚炎モデルマウスを使用することもできる。具体的には、例えば、W. Jiangら(”A Toll-Like Receptor 7, 8, and 9 Antagonist Inhibits Th1 and Th17 Responses and Inflammasome Activation in a Model of IL-23-Induced Psoriasis” W. Jiang, et al, 1784 Journal of Investigative Dermatology (2013), Volume 133)の記載に従って実施することができる。すなわち、6~8週齢のC57BL/6マウスを用い、0.5mgのマウスIL-23を20mLのPBSに溶解し、例えば0、2、4、6、10、12および14日目に、被験動物の左耳に皮内注射することにより、皮膚炎を誘導する。皮膚炎を誘導したマウスを無作為に群分けし、被験物質または対照物質(例えばPBS)を投与する。例えば、3、6、9、12および15日目に、被験物質または対照物質を皮下投与する。例えば18日目に耳介の厚さをデジタルノギスで測定する。また、耳介を採取して、病理組織学的検査に供する。
【0082】
〔実施例11:OSK-1-IgEコンジュゲートによる抗体産生の検討〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)とマウスIgEのエピトープペプチド(配列番号23)を、ε-AcpをリンカーとしてコンジュゲートしたOSK-1-IgEコンジュゲートを製造し、1匹あたり100μgまたは250μgの用量で、Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与から2週おきに採血し、各エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
8週後の抗体価を表5に示した。抗体価はhalf maximum値で示した。
【0083】
【0084】
〔実施例12:OSK-1-PCSK9コンジュゲートによる抗体産生の検討〕
OSK-1ペプチド(配列番号1)と3種類のマウスPCSK9のエピトープペプチド(配列番号25,26,27)を、それぞれε-Acpをリンカーとしてコンジュゲートした3種類のOSK-1-PCSK9コンジュゲートを製造し、1匹あたり100μgまたは250μgの用量で、Balb/cマウスに2週間隔で3回皮内投与した。投与から2週おきに採血し、各エピトープペプチドに対する抗体価をELISAにより測定した。
8週後の抗体価を表6に示した。抗体価はhalf maximum値で示した。
【0085】
【0086】
〔実施例13:血中のPCSK9濃度によるOSK-1-PCSK9コンジュゲートの評価〕
実施例12において、OSK1-PCSK9-27を250μgの用量で投与したマウス(OSK-1-PCSK9コンジュゲート投与群)から、投与前および投与2、4、6週後に採取した血清中のPCSK9濃度を測定した。コントロールとして、OSK-1投与群を設け、同じスケジュールで投与および採血を行い、血清中のPCSK9濃度を測定した。測定には、Mouse Proprotein Convertase 9/PCSK9 Quantikine ELISA Kit(R&D systems)を使用した。ここで、PCSK9抗体を投与すると血中PCSK9濃度の上昇が認められることが報告されている。この現象は抗体によりPCSK9タンパクが安定化し体内からの消失が遅くなるためだと考えられている。このことから、ワクチン投与による血中PCSK9値の上昇は、ワクチン投与により産生された抗体が標的タンパクと作用していることを示す現象のひとつであると考えられる(Peptide-Based Anti-PCSK9 Vaccines - An Approach for Long-Term LDLc Management, PLoS One. 2014; 9(12), An Anti-PCSK9 Antibody Reduces LDL-Cholesterol On Top Of A Statin And Suppresses Hepatocyte SREBP-Regulated Genes; Int.J.Biol.Sci.2012, 8(3):310-327) 。
【0087】
結果を
図23に示した。OSK-1-PCSK9コンジュゲート投与群では、投与前にと比較して、投与後2~6週間後の血中のPCSK9値が上昇した。
【0088】
〔参考例3: KLH-PCSK9コンジュゲートの血中脂質量に対する効果〕
KLHとマウスPCSK9のエピトープペプチド(配列番号26)をコンジュゲートしたKLH-PCSK9コンジュゲートを使用した。7週齢のApoE欠損マウスを日本チャールズリバーから購入した。KLH-PCSK9コンジュゲート低用量群(5μg(PCSK9ペプチド)/mouse)、KLH-PCSK9コンジュゲート高用量群(50μg(PCSK9ペプチド)/mouse)、KLH投与群およびコントロールとして生理食塩水投与群を設けた。KLH投与群のマウスには、コンジュゲート投与群に投与したコンジュゲートに含まれるKLHと等量のKLHを投与した。投与前にKLH-PCSK9コンジュゲートまたはKLH単独を等容積のフロイントアジュバント(和光純薬)と混合し、皮下投与した。初回はフロイント完全アジュバントを使用し、2回目以降はフロイント不完全アジュバントを使用した。合計3回(0、14および28日目)コンジュゲートを投与し、最終投与の24週後に採血して脂質量を測定した。その結果、KLH-PCSK9コンジュゲート投与群では、CM(カイロミクロン)、VLDLの値が約半分に低下し、TG(中性脂肪)の値が約3分の2に低下した。
【0089】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。