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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105522
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】光学部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20230724BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G02B5/02 A
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006401
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】大園 拓哉
【テーマコード(参考)】
2H042
2H149
【Fターム(参考)】
2H042BA08
2H042BA12
2H042BA13
2H042BA15
2H042BA16
2H149DA01
2H149DA12
2H149DB05
2H149FD28
(57)【要約】
【課題】透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して安定して可逆的に連続して変化させ得る光学部材、製造方法の提供。
【解決手段】光学部材は、主面の上にある軸に対して所定角度を与えられて分子配向した液晶ポリマーからなる単位層を前記軸に沿って積層させた積層構造を有し、液晶ポリマーが架橋されたネマチック液晶エラストマからなる。所定角度に対する角度振幅を温度変化させて可逆的に拡散状態を変化させる。その製造方法は、部分架橋した液晶ポリマーからなるシート体又は板体を主面の上にある軸に沿って一軸延伸した後に張力を開放して所定温度に加熱し軸方向に収縮させ積層構造を与えられ、更に、2次架橋しネマチック液晶エラストマとする。
【選択図】図14

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート体又は板体からなり一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して可逆的に連続して変化させる光学部材であって、
前記主面の上にある軸に対して所定角度を与えられて分子配向した液晶ポリマーからなる単位層を前記軸に沿って積層させた積層構造を有し、前記液晶ポリマーが架橋されたネマチック液晶エラストマであり、前記所定角度に対する角度振幅を温度変化させて可逆的に前記拡散状態を変化させることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記角度振幅は昇温に伴って大きくなることを特徴とする請求項1記載の光学部材。
【請求項3】
シート体又は板体からなり一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して可逆的に連続して変化させる光学部材の製造方法であって、
部分架橋した液晶ポリマーからなるシート体又は板体を前記主面の上にある軸に沿って一軸延伸した後に張力を開放して所定温度に加熱し前記軸に沿って収縮させ、前記軸に対して所定角度を与えられて分子配向した前記液晶ポリマーからなる単位層を前記軸に沿って積層させた積層構造を与えられ、更に、2次架橋しネマチック液晶エラストマとして、前記所定角度に対する角度振幅を温度変化させて可逆的に前記拡散状態を変化させるようにしたことを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記角度振幅は昇温に伴って大きくなることを特徴とする請求項3記載の光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記所定温度は相転移温度以下の温度であることを特徴とする請求項3又は4に記載の光学部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散状態を可逆的に変化させる光学部材及びその製造方法に関し、特に、周囲の温度に対応して光拡散状態を可逆的に連続して変化させる光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散状態を可逆的に変化させる光学部材としては、液晶材料を利用したものが広く知られており、電圧の印加によって液晶材料の配向性を変化させて、光拡散状態を可逆的に制御している。一方、光散乱を生じる構造界面の形状等を可逆的に変化させて、光拡散状態を制御する方法も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、表面方向のひずみを調整することで表面座屈による凹凸構造を変化させ、光拡散状態を可逆的に変更可能とする光学部材を開示している。例えば、ポリシロキサン系ポリマーからなる基板の上に、イミド系樹脂又は塩化ビニリデン系樹脂からなる薄膜層を与え凹凸空間周期を形成させる。この凹凸空間周期を0.1mm以上10mm以下とし、そのアスペクト比(溝深さ/凹凸空間周期)を0~0.3の範囲内で変化するようにひずみを調整することで、光拡散状態を可逆的に制御できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-153530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1では、温度によって光拡散積層体の表面層のひずみを変化さて光拡散状態から温度変化を検知でき、簡易の温度変化センサーへ適用できることも述べている。かかる用途においては、繰り返しの温度変化に対して連続して安定的に動作することが要求される。
【0006】
本発明は、上記したような事情を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して安定して可逆的に連続して変化させ得る光学部材及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光学部材は、シート体又は板体からなり一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して可逆的に連続して変化させる光学部材であって、前記主面の上にある軸に対して所定角度を与えられて分子配向した液晶ポリマーからなる単位層を前記軸に沿って積層させた積層構造を有し、前記液晶ポリマーが架橋されたネマチック液晶エラストマであり、前記所定角度に対する角度振幅を温度変化させて可逆的に前記拡散状態変化させることを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、周囲の温度に対応して透過光の拡散状態を安定して可逆的に連続して変化させ得るのである。
【0009】
また、本発明による製造方法は、シート体又は板体からなり一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して可逆的に連続して変化させる光学部材の製造方法であって、部分架橋した液晶ポリマーからなるシート体又は板体を前記主面の上にある軸に沿って一軸延伸した後に張力を開放して所定温度に加熱して前記軸に沿って収縮させ、前記軸に対して所定角度を与えられて分子配向した前記液晶ポリマーからなる単位層を前記軸に沿って積層させた積層構造を与えられ、更に、2次架橋しネマチック液晶エラストマとして与えられ、前記所定角度に対する角度振幅を温度変化させて可逆的に前記拡散状態を変化させるようにしたことを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、周囲の温度に対応して透過光の拡散状態を安定して可逆的に連続して変化させ得る光学部材を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による光学部材の一実施例の(a)外観写真及び(b)断面の偏光蛍光顕微鏡像である。
図2】本発明による光学部材の断面図である。
図3】本発明による光学部材の各製造工程における液晶エラストマの斜視図及び拡大図、液晶分子の配向を示す図である。
図4】本発明による光学部材の各製造工程における液晶エラストマの斜視図及び拡大図、液晶分子の配向を示す図である。
図5】光学部材の一実施例の原料を示す構造式である。
図6】光学部材の製造過程で生成する液晶ポリマーの構造を示す模式図である。
図7】1次架橋体を延伸させたときの工学ひずみに対する応力の関係を示すグラフである。
図8】延伸後の1次架橋体のアニーリングの温度に対する工学ひずみの関係を示すグラフである。
図9】アニーリングの温度により得られる積層構造の偏光蛍光顕微鏡像である。
図10】アニーリングの温度による透過光の散乱パターンの写真である。
図11】製造された光学部材の角度依存散乱光強度のグラフである。
図12】散乱角ごとの透過光の波長と散乱光強度との関係を示すグラフである。
図13】製造された光学部材の各温度における散乱パターンの写真である。
図14】製造された光学部材の温度と収縮との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための一形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1(a)に示すように、光学部材1は、ネマチック液晶エラストマからなるゴム状弾性体であり、シート体又は板体として製造される。同図(b)を併せて参照すると、光学部材1は、その主面の上(主面内)にある軸Xに沿って単位層となる層2を周期的に積み重ねた積層構造を有する。
【0014】
さらに図2を併せて参照すると、層2は、単位層として数μm程度の厚みを有し、その内部において液晶分子3を1方向に配向させてネマチックドメインを形成している。この分子配向は、層2の積層方向である軸Xの方向に対して所定角度の傾きを与えられている。さらに、この分子配向は隣り合う単位層同士で異なる方向となっている。このような積層構造は液晶エラストマの製造過程において自己形成されるものであり、その詳細については後述する。
【0015】
光学部材1は、周囲の温度に対応して積層構造の軸Xに対して所定角度で配向された液晶分子3について、この所定角度に対する角度振幅の大きさを変化させる。例えば、熱振動や液晶エラストマによる拘束力は温度によって変化するので、所定角度に配向されつつも各液晶分子3の角度振幅は拡大又は縮小するように変化することになる。つまり、昇温によって角度振幅が大となっていわゆる配向性は低下し、逆に降温によって角度振幅は小となっていわゆる配向性は高まる。その結果、一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度変化に対応して変化させ得ることになる。液晶分子の角度振幅は、可逆的に連続的に温度変化するもので、拡散状態の安定した変化を得ることができる。
【0016】
特に、層幅が可視光の波長と同等か数倍程度であると回折干渉によって可視光を良好に拡散する。これによって、光学部材1の透過光はその光軸と軸Xとを含む面内において異方散乱する。光学部材1は色分散も示すため、透過光の光軸の角度に鋭敏に依存するように着色を示す。さらに、光学部材1は温度を高くすると角度振幅を大きくし配向性を低下させて可視光に対してほとんど透明になり、上記したような積層構造をあたかも消失させたかのように見せる。なお、反射板を取り付けるなどで反射光の拡散状態も同様に変化させ得る。
【0017】
次に、このような光学部材1の製造方法の一例について説明する。
【0018】
図3(a1)及び(a2)に示すように、まず、部分架橋した液晶ポリマーからなるシート体又は板体を用意する。液晶ポリマーは、例えば、液晶分子、スペーサー分子、及び、架橋性分子それぞれのモノマーを原料として溶媒中で混合し、加熱重合して得ることができる。液晶分子としては、液晶性を発現する強直なモノマー分子であるメソゲンとも称される主鎖型の液晶分子を用いる。
【0019】
図5を併せて参照すると、例えば、原料としては以下のモノマーを使用し得る。同図(a)に示すように、液晶分子としては、主鎖型で両末端にアクリル基を有する2官能性のRM257を用いる。また、同図(b)に示すように、スペーサー分子としては、両末端にチオール基を有する2官能性のEDDETを用いる。さらに、同図(c)に示すように、架橋性分子としては、4つの末端にチオール基を有する4感応性のPETMPを用いる。なお、このとき、後述する光重合による2次架橋のために光ラジカル剤及び安定化剤を加えておく。
【0020】
これらを所定の比率で配合し、未反応のアクリル基を残すようにする。例えば、本実施例では、モル分率で、RM257:EDDET:PETMP=55:44:3の配合とし、チオール基の総数に対するアクリル基の総数を110%程度とした。そして、これらの原料を溶媒である30質量%のトルエンに混合し、アミン触媒(テトラエチルアミン)のもと、架橋前における等方相温度にてチオール-エン反応による加熱重合をさせて一次架橋体を得る。このとき、成形品である光学部材1の原形状の板体又はシート体となるよう所定の寸法の鋳型を用いてその形状を規定する。
【0021】
すると、図6(a)に示すような単位構造を有する一次架橋体である液晶ポリマーが生成される。そして、この液晶ポリマーの温度を室温に下げることでネマチック相に転移する。このとき、同図(b)に示すように、生成された液晶ポリマーは、微視的には液晶分子3の配向方向を揃えたドメイン4を形成する。
【0022】
図3(a1)を再び参照すると、このドメイン4の粒径は数ミクロン程度であり、ドメイン4を多数備えたポリドメイン構造を呈する。また、各ドメイン4は複屈折をその配向方向に有するため、液晶ポリマー全体としては光を強く散乱し白濁した外観となる。
【0023】
次いで、図3(b1)に示すように、得られた液晶ポリマーを主面の上の軸Xに沿って一軸延伸する。ここでは室温にて延伸を行った。これによって同図(b2)に示すように延伸した方向である軸Xの方向に液晶分子3を優位に配向させる。
【0024】
図7を参照すると、工学ひずみe(以下、単に「ひずみ」と称する)を1.5程度とするまで液晶ポリマーを延伸させる場合において、ひずみeと応力とは直線的な関係とはならない。例えば、ひずみeが1程度となるまでは応力が直線的に上昇しない領域を有する。これは、ネマチック液晶エラストマに特有のソフト弾性領域として知られており、かかる領域において液晶分子3の向きが1方向に揃い、液晶ポリマー全体としてモノドメインとなる。すると、ポリドメイン構造のドメイン境界からの散乱がなくなるため液晶ポリマーは透明になり、ネマチック液晶エラストマとなる。
【0025】
さらに、図4(a1)に示すように、延伸させる際に付与していた荷重を除去して応力を開放すると、主鎖型の液晶分子によるネマチック液晶エラストマではひずみが充分に元に戻らず、ひずみeを1程度とするまで戻してそれ以上のひずみを残存させる。つまり、残存したひずみによって延伸する前に対して約2倍の長さとなった。これは、ネマチック秩序によって形状回復が抑制されたためである。
【0026】
次いで、図4(b1)に示すように、ネマチック相-等方相の相転移温度以下の所定温度で加熱してアニーリングを行う。アニーリングでは、例えば1分程度の加熱を行うことが好ましいが、加熱に伴い液晶エラストマは軸Xの方向に収縮する。ネマチック状態の液晶エラストマにおいて、温度を上昇させると配向性が低下し液晶分子の向きを不安定にさせる。すると、ネマチック秩序によって抑制されていたエントロピー弾性の一部が開放される。そのため、一軸延伸される前の状態に戻ろうとして配向方向(軸Xの方向)に非可逆的に収縮するのである。アニーリング後、液晶エラストマは室温まで冷却される。
【0027】
図8を併せて参照すると、アニーリングにおける加熱温度の上昇に伴って連続的に収縮も大きくなり、相転移温度TNIに達するとひずみを0とするまで収縮してしまう。そこで、上記したようにアニーリングでは相転移温度以下の温度、すなわちネマチック温度範囲の温度で加熱する。この温度範囲の加熱であれば、ネマチック秩序が維持される。一方でマクロな収縮を生じるため、軸Xの方向に揃ったモノドメインが同方向の圧縮を受けて、この圧縮を吸収すべく棒体の座屈のように軸Xの方向に配向していた液晶分子を軸Xの方向に対して交互に傾けるように回転させる現象を生じる。
【0028】
その結果、図9に示すように、互い違いとなるように異なる向きに回転した液晶分子のドメインによる単位層がストライプ状に軸Xの方向に重なって観察されるようになる。このように、熱収縮による自己組織化を生じさせ、ストライプ状に観察される積層構造を有するネマチック液晶エラストマを得る。なお、図4(b2)に示したように、液晶分子の向きはx-y平面内に限定されない。つまり、軸Xを含む全ての平面に液晶分子の互い違いの構造が存在し得る。
【0029】
また、図10に示すように、無偏光の赤色レーザー光(波長633nm)を各温度でアニーリングした液晶エラストマの主面に垂直方向に照射したときの透過光の散乱パターンでは、ドメインによる積層構造に対応する1次の散乱バンドが観察された。なお、ここでは、製造途中の帯状の液晶エラストマの長手方向(軸Xの方向)の端部を固定して吊り下げ、自重のみが負荷されるようにしている。
【0030】
ここで得られたストライプ状の積層構造は、熱的にも力学的にも不安定であり、昇温やひずみにより非可逆的に乱れてしまう。そこで、一次架橋体を得る際に未反応のまま残したアクリル基同士を光架橋によってアクリル-アクリル反応を生じさせる。これによって、一時架橋体に更なる架橋によるネットワークを形成させて構造を安定化させる。そのために、上記したように光重合のための光ラジカル剤及び安定化剤を予め加えておく。光ラジカル剤としては、例えばイルガキュア(Irgacure)2959 0.2質量%、安定化剤としては、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT:butylated hydroxytoluene) 0.5質量%を用い得る。そして、紫外線を照射し、発生したラジカルによって反応を進行させる。その結果、上記した熱収縮によって自己組織化した積層構造を2次架橋によってそのまま安定化させることができる。これにより、加熱に対して可逆的に応答するような安定化された積層構造を有する光学部材1を得ることができる。
【0031】
このようにして、一対の主面の一方から入射して他方から出射する透過光の拡散状態を周囲の温度に対応して可逆的に連続して変化させる光学部材1を得ることができる。特に、上記した積層構造体を構成する各単位層においては、1軸ネマチックによる複屈折の軸方向が隣接する層毎に交互に異なる。そして、光学部材1によれば、単位層の分子配向の軸Xに対する所定角度を維持しつつ、温度変化によってかかる所定角度に対する液晶分子の角度振幅を変化させ、連続的に透過光の拡散状態を安定して可逆的に変化させ得る。
【0032】
次に、上記したようにして製造した光学部材1の特性について説明する。
【0033】
得られた光学部材1は、1軸性ネマチックの複屈折の方向を交互に異なるように配置した積層構造を有し、透過型のグレーティングを構成する。つまり、その層幅Λ(図4(b1)参照)及び透過光の波長に応じて透過する光に干渉を生じ、ある特定の方向に散乱を生じることになる。
【0034】
そこで、図11に示すように、光学部材1の主面に沿ったx方向及びy方向の角度依存散乱光強度を調査した。ここでx方向は、軸Xと同一方向(層の延びる方向と略垂直方向)であり、y方向は、軸Xと垂直方向(層の延びる方向と略平行な方向)である。その結果、x方向では散乱光強度が角度によって大きく変化する(同図(a)参照)のに対し、y方向では散乱光強度の角度依存性が小さい(同図(b)参照)ことが判った。つまり、光学部材1の主面の上では角度依存散乱光強度に強い異方性を有することが判った。また、x方向においては、温度によっても角度依存性が大きく変わることが判った。このような光学部材1は、室温において白色光を入射させると、パール調の光沢を有するように見える(図1(a)参照)。
【0035】
また、図12に示すように、光の色(波長)によっても散乱角が異なる。そのため、微妙な角度の違いで外観の色調が変化することになり、イリデセンスと称されるギラギラした意匠を呈する。なお、20℃においてはこのように散乱を生じるが、同図に示す通り100℃においては400~700nmの波長の光に対して透明になる。
【0036】
図13に示すように、赤色レーザー光(波長633nm)を光学部材1の主面に垂直方向に照射すると、22℃において散乱パターンを示し、昇温とともに連続的に透明に近くなって、80℃ではほぼ透明となった。
【0037】
また、図14に示すように、光学部材1は温度を上昇させるに伴って収縮し、少なくとも120℃までは可逆的に形状を変化させた。なお、本実施例において相転移温度TNIは78℃である。
【0038】
ここで、光学部材1は、積層構造の各層において軸Xに対する所定角度を有して液晶分子を配向させるが、昇温に応じてかかる所定角度に対する各液晶分子の角度振幅を大きくするとともに、全体として軸X方向に収縮する。このとき、昇温に伴う液晶分子の角度振幅の増大によって液晶分子の配向性を低下させていくとともに、各層における複屈折の異方性を低下させていくと考えられる。そのため、積層構造をあたかも消失させたかのように透明になる。一方、可逆的な挙動であるため、冷却すると各液晶分子の角度振幅が減少して液晶分子の配向性を上昇させ、積層構造をあたかも復活させたかのように透過光に対して散乱を生じるようになる。
【0039】
以上のように、光学部材1は、各液晶分子の角度振幅を温度によって連続的に変化させることができ、透過光や反射光の拡散状態を変化させ得る。また、色分散を有するため、角度に鋭敏に依存する着色も示す。一方、昇温によって透明となるが、その中間状態も温度によって制御可能である。また、光学部材1は積層構造をその内部に有するため、表面の擦過や特定の屈折率を有する液体との接触などによる影響を受けづらい。
【0040】
なお、上記では、自己形成によって積層構造を得るようにさせたが、リソグラフィによって精工な積層構造を形成させてもよい。
【0041】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0042】
1 光学部材
2 層
3 液晶分子
4 ドメイン

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14