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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105550
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】シリコーン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20230724BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230724BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006451
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】出山 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 脩吾
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002DA016
4J002DA026
4J002DE106
4J002DE146
4J002DF016
4J002FD016
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】熱伝導性充填剤を高充填した場合でも流動性を保持し、作業性に優れたシリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)成分:式(1)で表される、数平均分子量(Mn)が13,000以下であるオルガノポリシロキサンと(B)成分:熱伝導性充填剤を含有するシリコーン樹脂組成物。
式(1)中、Rは独立して、一価飽和炭化水素基、または一価芳香族炭化水素基であり、Rは一価飽和炭化水素基であり、Xは酸素または二価炭化水素基であり、nは1以上の整数であり、aは1~3の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:式(1)で表される、数平均分子量(Mn)が13,000以下であるオルガノポリシロキサンと
(B)成分:熱伝導性充填剤
を含有するシリコーン樹脂組成物。


式(1)中、Rは独立して、一価飽和炭化水素基、または一価芳香族炭化水素基であり、Rは独立して一価飽和炭化水素基であり、Xは酸素または二価炭化水素基であり、nは1以上の整数であり、aは1~3の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の多くは使用中に熱を発生させるため、機能の維持には熱の除去が必要である。特に最近の電子部品では回路基板の高集積化、高出力化に伴い発熱量も多くなっているため、熱対策は重要な課題となっている。
【0003】
電子部品から熱を除去する手段としては、例えば電子部品とヒートシンクなどの冷却部材との間に熱伝導性のグリースやシートなどの熱伝導性材料を介在させることにより電子部品から熱を逃がす方法が提案されている。このような熱伝導性材料の一つとして、オルガノポリシロキサンおよび酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末などの熱伝導性充填剤からなるシリコーン樹脂組成物が利用されている(特許文献1、特許文献2、または特許文献3を参照)。
【0004】
上記の熱伝導材料においては、熱伝導性を予測する式として、Bruggemanのモデルが知られている。この式においては、熱伝導性充填剤の充填率が低いと充填率に関わらず熱伝導率がほとんど変化しない一方、一定以上の充填率で急激に上昇することが示されている。つまり、熱伝導率を上昇させるためには、いかに多くの熱伝導性充填剤を充填するかが重要となる。
【0005】
一方で、熱伝導性充填剤の充填率を増加させると、熱伝導材料に使用される樹脂組成物の流動性が著しく低下し、樹脂組成物の吐出や塗布が困難となるだけでなく、電子部品やヒートシンク表面の細かな凹凸に追従できなくなり、接触熱抵抗が大きくなる問題がある。この問題を解決する方法として、樹脂組成物に熱伝導性充填剤の分散性を向上させるための添加剤を使用する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-054099号公報
【特許文献2】特開2004-091743号公報
【特許文献3】特開2000-063873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、熱伝導性充填剤を高充填した状態でも流動性を保持し、作業性が良好なだけでなく、電子部品等の表面凹凸に追従して接触熱抵抗を低減することで高い放熱性能を有するシリコーン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の構造を有し、数平均分子量(Mn)が13,000以下であるオルガノポリシロキサンと、熱伝導性充填剤を含有するシリコーン樹脂組成物の組合せが有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すシリコーン樹脂組成物が提供される。
項1.(A)成分:式(1)で表される、数平均分子量(Mn)が13,000以下であるオルガノポリシロキサンと
(B)成分:熱伝導性充填剤
を含有するシリコーン樹脂組成物。


式(1)中、Rは独立して、一価飽和炭化水素基、または一価芳香族炭化水素基であり、Rは独立して一価飽和炭化水素基であり、Xは酸素または二価炭化水素基であり、nは1以上の整数であり、aは1~3の整数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、熱伝導性充填剤を高充填した場合でも流動性が保持されるため、作業性に優れる。また、電子部品やヒートシンク表面の凹凸に追従するため、高い放熱性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分は、式(1)で表される片末端にアルコキシシリルを有するオルガノポリシロキサンである。
【0013】


式(1)中、Rは独立して、一価飽和炭化水素基、または一価芳香族炭化水素基であり、Rは独立して一価飽和炭化水素基であり、Xは酸素または二価炭化水素基であり、nは1以上の整数であり、aは1~3の整数である。
【0014】
一価飽和炭化水素基としては、直鎖アルキル、分岐鎖アルキル、環状アルキルなどを挙げることができる。直鎖アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、n-ブチルを挙げることができる。分岐鎖アルキルとしては、例えば、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、2-エチルヘキシルを挙げることができる。環状アルキルとしては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルを挙げることができる。一価芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニルやトリルを挙げることができる。
【0015】
二価炭化水素基の好ましい例としては、直鎖アルキレン、分岐鎖アルキレンを挙げることができる。直鎖アルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、n-ブチレンを挙げることができる。分岐鎖アルキレンとしては、例えば、メチルメチレン、ジメチルメチレンを挙げることができる。
【0016】
アルコキシシリルとしては、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリプロポキシシリル、メチルジメトキシシリル、メチルジエトキシシリル、エチルジメトキシシリル、エチルジエトキシシリル、プロピルジメトキシシリル、プロピルジエトキシシリル、ジメチルメトキシシリル、ジメチルエトキシシリル、ジエチルメトキシシリル、ジエチルエトキシシリル、ジプロピルメトキシシリル、ジプロピルエトキシシリル、などを挙げることができる。これらの中でも、熱伝導性充填剤との親和性、製造原料の入手容易性等の観点から、トリメトキシシリルが好ましい。
【0017】
好ましい例として、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。


式(2)中、nは1以上の整数である。
【0018】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定される前記(A)成分のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が13,000以下である必要がある。数平均分子量(Mn)がこの範囲にあると、熱伝導性充填剤同士の間の距離が適切に保たれることで分散性が良好となり、流動性に優れたシリコーン樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
より流動性に優れたシリコーン樹脂組成物を得るには、前記(A)成分のMnは、7,000以下が好ましく、2,000以上7,000以下がより好ましい。
【0020】
[(B)成分]
(B)成分は、本発明のシリコーン樹脂組成物において熱伝導性充填剤として機能する。(B)成分は、一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
【0021】
(B)成分の具体例としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、ダイヤモンド、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ガラス繊維、またはこれらの二種以上の組合せを挙げることができる。(B)成分の充填剤において、結晶形、粒子径、表面状態、表面処理の有無などについては特に限定されない。
【0022】
上記の中でも、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛が好ましい。粒子径としては1~200μmが好ましく、粒子径の異なる熱伝導性充填剤を併用する形態も好ましい。
【0023】
[(C)成分]
本発明の組成物には、さらに(C)成分として、前記(A)成分以外のオルガノポリシロキサンを添加することができる。(C)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物の粘度調整、硬化性付与、耐熱性、絶縁性などを目的として適宜用いられるが、これに限定されるものではない。(C)成分は、一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよく、非硬化性でも、熱、湿気、あるいは活性エネルギー線照射による硬化性を持っていてもよい。
【0024】
(C)成分の具体例としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサン、カルボキシ変性ポリシロキサン、カルビノール変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、アルケニル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン、またはこれらの二種以上の組合せを挙げることができる。
【0025】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、(B)成分100質量部に対して、(A)成分の含有量が0.1~50質量部であることが好ましく、0.1~30質量部であることがより好ましく、0.1~10質量部がさらに好ましく、1~5質量部が特に好ましい。(B)成分100質量部に対する(A)成分の含有量がこの範囲であると、(B)成分を安定して分散させることができ、かつ過剰な添加を抑えて(B)成分の充填率を十分に確保できるため、十分な放熱性が得られる。
【0026】
(C)成分を添加する場合は、(B)成分100質量部に対して、(C)成分の含有量が1~50質量部であることが好ましく、1~30質量部であることがより好ましく、5~30質量部がさらに好ましく、5~15質量部が特に好ましい。(B)成分100質量部に対する(C)成分の含有量がこの範囲であると、組成物における粘度範囲の調整、耐熱性等の効果を十分に確保しつつ、(B)成分の充填率を確保することができる。
【0027】
本発明のシリコーン樹脂組成物には、その目的が損なわれない範囲で、他の界面活性剤、可塑剤、消泡剤、硬化剤などの各種添加剤を配合させることができる。
【0028】
シリコーン樹脂組成物の粘度は、各成分の種類、含有量によって変わるが、本発明の(A)成分は(B)成分を安定的に分散させることができるため、(B)成分、(C)成分が同一の条件において、本発明の(A)成分を使用することで組成物の粘度はより小さくなり、流動性もより良好である。
【0029】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分および必要に応じて(C)成分や各種添加剤をニーダー等で混錬することで製造することができる。
【実施例0030】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における「部」、「%」は特記のない限りいずれも質量基準(質量部、質量%)である。また、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0031】
<数平均分子量(Mn)の測定>
オルガノポリシロキサンの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定した。標準試料としてポリスチレンを用い、ポリスチレン換算分子量を測定した。なおGPC法によるポリスチレン換算分子量測定は、以下の測定条件で行った。
a)測定機器:日本分光製HPLC LC-2000Plus series
b)カラム:Shodex KF-804L ×2本
c)オーブン温度:40℃
d)溶離液:トルエン0.7mL/min
e)標準試料:ポリスチレン
f)注入量:20μL
g)濃度:0.05g/10mL
h)試料調製:トルエンを溶媒として、室温で攪拌して溶解させた。
【0032】
<流動性評価用サンプルの調製>
(A)成分または(A)成分の比較用成分として、式(2)で表される(A-1)~(A-4)および(A’-1)のオルガノポリシロキサンを用いた。(A)成分の比較用成分は、以降(A’)成分と記載する
【0033】


(式(2)中、nは表1に示す数平均分子量(Mn)になるように任意に選択される1以上の整数である)
【0034】
表1
【0035】
(A)成分または(A’)成分、(B)成分および(C)成分を表2~3に示す成分比で混合して実施例1~8および比較例1~3の組成物を得た。すなわち、軟膏壺容器に(A)成分または(A’)成分、(B)成分および(C)成分を量り取り、スパチュラを用いて攪拌し、次いでシンキー社 あわとり練太郎 真空タイプ(型式:ARV-310)を用いて、常圧条件下にて2000rpmで1分間、減圧条件下にて2000rpmで1分間、混錬することで流動性評価用組成物を調製した。
【0036】
<流動性評価>
上記の通り調製した流動性評価用組成物サンプルを、レオメーター(アントンパール社製、MCR302)を用いて、下記の条件で、異なるせん断速度における組成物粘度を測定することで、流動性を評価した。
a)プレート形状:円形平板25mmφ
b)試料厚み:1mm
c)温度:25±1℃
d)せん断速度:1.0~10s-1
【0037】
表2
【0038】
表3
*1 平均径45μmの球形アルミナ(デンカ株式会社製DAW-45)
*2 平均径5μmの球形アルミナ(デンカ株式会社製DAW-03)
*3 ジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製KF-96-300CS)
【0039】
数平均分子量(Mn)が13,000以下である(A)成分を添加した組成物(実施例1~8)は、数平均分子量(Mn)が13,000よりも大きい(A’)成分を添加した組成物(比較例1~3)や(A)成分および(A’)成分を添加していない組成物(比較例4)に比べて組成物粘度が低く、流動性が良好な結果となった。以上のことから、本発明のシリコーン樹脂組成物は特性に優れると結論できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、トランジスター、ICチップ、メモリー素子などの発熱性電子部品とヒートシンクなどの冷却部材との間に介在させる熱伝導性材料として利用できる。