(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105606
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ラッカーゼを含む消臭剤
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20230724BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230724BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20230724BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20230724BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L27/00 Z
A23L27/10 Z
A23L27/10 C
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006539
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 洋平
(72)【発明者】
【氏名】菅 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】丸島 和也
(72)【発明者】
【氏名】川島 忠臣
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イーシン
(72)【発明者】
【氏名】リアント,ディアン カルティカサリ
(72)【発明者】
【氏名】ン,シュー ビー
(72)【発明者】
【氏名】ムヌサミ,マヅハイヤン
(72)【発明者】
【氏名】チー,ザオ ヤン
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC02
4B035LE20
4B035LG04
4B035LG32
4B035LG33
4B035LG39
4B035LG51
4B035LK07
4B035LP21
4B035LP36
4B035LP41
4B035LP59
4B047LB02
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE08
4B047LG06
4B047LG37
4B047LG40
4B047LG46
4B047LG57
4B047LG70
4B047LP01
4B047LP02
(57)【要約】
【課題】新規消臭剤等の提供。
【解決手段】本発明は、有効成分としてササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む、消臭剤、を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む、消臭剤。
【請求項2】
ポリフェノールが緑茶抽出物又はコーヒー豆抽出物由来である、請求項1に記載の消臭剤。
【請求項3】
ポリフェノールがクロロゲン酸類及びカテキン類から成る群から選択される一種又は二種以上である、請求項1又は2に記載の消臭剤。
【請求項4】
ラッカーゼがササクレヒトヨタケの乾燥粉末として含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の消臭剤。
【請求項5】
ラッカーゼが耐熱性である、請求項1~4のいずれか一項に記載の消臭剤。
【請求項6】
ネギ科植物特有の臭いを消臭するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の消臭剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の消臭剤を含む、飲食品組成物。
【請求項8】
サプリメントの形態である、請求項1~7のいずれか一項に記載の飲食品組成物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の消臭剤と、悪臭の発生源とを接触させる工程を含む、消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)由来のラッカーゼを有効成分として含む、消臭剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラッカーゼ等のポリフェノール酸化酵素と、ポリフェノールとの組み合わせが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/032215号
【特許文献2】特開2014-230966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規消臭剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼが耐熱性や保存安定性等に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)
有効成分としてササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む、消臭剤。
(2)
ポリフェノールが緑茶抽出物又はコーヒー豆抽出物由来である、(1)に記載の消臭剤。
(3)
ポリフェノールがクロロゲン酸類及びカテキン類から成る群から選択される一種又は二種以上である、(1)又は(2)に記載の消臭剤。
(4)
ラッカーゼがササクレヒトヨタケの乾燥粉末として含まれる、(1)~(3)のいずれかに記載の消臭剤。
(5)
ラッカーゼが耐熱性である、(1)~(4)のいずれかに記載の消臭剤。
(6)
ネギ科植物特有の臭いを消臭するための、(1)~(5)のいずれかに記載の消臭剤。
(7)
(1)~(6)のいずれかに記載の消臭剤を含む、飲食品組成物。
(8)
サプリメントの形態である、(1)~(7)のいずれかに記載の飲食品組成物。
(9)
(1)~(6)のいずれかに記載の消臭剤と、悪臭の発生源とを接触させる工程を含む、消臭方法。
【発明の効果】
【0007】
ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼは耐熱性に優れているため、通常のラッカーゼより容易に精製しやすいという利点がある。例えば、ササクレヒトヨタケのようなキノコからラッカーゼを抽出する場合、菌体を培養して菌体破砕、抽出などの一定の処理がなされるが、酵素を調製する際に一時的に温度が上昇しても、ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼは失活しにくいため、消臭剤を製造する際にも比較的過酷な処理条件を設定することができる。
【0008】
ササクレヒトヨタケは、耐熱性ラッカーゼを含有する他のキノコよりキノコ特有の臭いが少ないため、ラッカーゼを抽出せずに菌体をそのまま利用する場合、優れたラッカーゼ源となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ABTSでラッカーゼ活性を有することが確認されたサンプルについて、クロロゲン酸(CGA)とエピガロカテキンガレート(EGCG)を基質とした場合のラッカーゼ活性を吸光度変化により評価した結果を示す。
【
図2】ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼ活性を、ラッカーゼ活性を有していることが知られている素材(ニンジン、ゴボウ、リンゴ、ナシ)の凍結乾燥粉末から抽出したラッカーゼ活性と比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態又は実施態様について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
第一の態様において、有効成分としてササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む、消臭剤、が提供される。
【0012】
ハラタケ科ササクレヒトヨタケ属のササクレヒトヨタケは食用キノコの一種であり、ラッカーゼを産生することが知られている。ササクレヒトヨタケはラッカーゼをコードする遺伝子を複数有するが(Chunjuan Gu et al., "Engineering the Expression and Characterization of Two Novel Laccase Isoenzymes from Coprinus comatus in Pichia pastoris by Fusing an Additional Ten Amino Acids Tag at N-Terminus", PLoS One. 2014 Apr 7;9(4):e93912. doi: 10.1371/journal.pone.0093912. eCollection 2014.)、本明細書で使用する場合、ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼとは、ササクレヒトヨタケ由来である限り任意のラッカーゼであってよいが、耐熱性のものが好ましい。
【0013】
ササクレヒトヨタケは市販のものを使用することができ、例えばJAグリーン長野のコプリーヌ(YA-K-141)がその例として挙げられる。ササクレヒトヨタケの中でも、ラッカーゼ、好ましくは耐熱性のラッカーゼを高産生する株を使用することが好ましい。
【0014】
本明細書で使用する場合、耐熱性ラッカーゼとは、pH5.0で60℃30分間保持したときに、未処理時に比べ80%以上の相対活性を有するものを意味する。保存安定性を有するラッカーゼとは、凍結乾燥された状態で40℃7日間保持した場合に、残存活性が未処理時に比べ40%以上有しているものを意味する。
【0015】
消臭剤の効果を損なわない限り、有効成分としてササクレヒトヨタケ以外に由来するラッカーゼを使用することもできるが、ササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼのみを消臭剤に配合することが好ましい。
【0016】
ラッカーゼの配合量は、消臭されるべき悪臭の種類やその強度、ポリフェノールの種類やその配合量等により変動するが、消臭剤にラッカーゼが0.1~5.0重量%程度含まれている場合に消臭効果が発揮されると考えられる。ラッカーゼの量は使用するササクレヒトヨタケの部位や処理方法によって変動するため、限定することを意図するものではないが、例えば、ササクレヒトヨタケ全体を乾燥粉末とした場合、その乾燥粉末量は、消臭剤全体に対して、0.1~99.9重量%程度であり、好ましくは0.1~30.0重量%、より好ましくは2.0~20.0重量%であってもよい。
【0017】
ラッカーゼの原料となるササクレヒトヨタケは、その全体又は一部、例えば傘、柄、ひだ等を無処理のまま、又は凍結乾燥等の加工をしてから使用することもできる。あるいは、公知の手法に従い、ササクレヒトヨタケからラッカーゼを抽出し、これを有効成分として使用することもできる。ラッカーゼはササクレヒトヨタケの乾燥粉末として消臭剤に含めてもよい。
【0018】
ラッカーゼと組み合わされるポリフェノールは、任意のものを使用することができるが、緑茶抽出物又はコーヒー豆抽出物由来であることが好ましい。本明細書で使用する場合、緑茶抽出物由来のポリフェノールとは、緑茶等の緑茶抽出物、特に茶葉の抽出物に含まれる、カテキン類やプロアントシアニジン類、これらの酸化重合などによる生成物であるテアシネンシン類、ウーロンテアニン、テアフラビン類、テアルビジン類等を意味する。カテキン類の例として、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等が挙げられる。中でもエピガロカテキンガレートが好ましい。
【0019】
本明細書で使用する場合、コーヒー豆出物由来ポリフェノールとは、グリーンコーヒー豆等の未焙煎のコーヒー豆又は焙煎後のコーヒー豆の抽出物に含まれる、クロロゲン酸類等のポリフェノールを意味する。クロロゲン酸類の例として、クロロゲン酸、フェルラ酸、p-クマル酸,カフェ酸、ジカフェオイルキナ酸等が挙げられる。中でもクロロゲン酸が好ましい。
【0020】
緑茶抽出物由来のポリフェノールとコーヒー豆抽出物由来のポリフェノールはいずれも、精製せずに複数のポリフェノールを含む抽出物のまま消臭剤に含めてもよい。また、緑茶抽出物又はそれに含まれる1又は複数のポリフェノールと、コーヒー豆抽出物又はそれに含まれる1又は複数のポリフェノールとを適宜組み合わせて配合してもよい。
【0021】
ポリフェノールの配合量は、消臭されるべき悪臭の種類やその強度、ラッカーゼの配合量等により変動するが、例えば、消臭剤全体に対して、0.1~99.9重量%程度であり、より好ましくは5.0~40.0重量%であってもよい。
【0022】
消臭剤の効果を損なわない限り、有効成分として緑茶抽出物又はコーヒー豆抽出物に含まれないポリフェノールを使用することもできるが、消臭剤には緑茶抽出物由来のポリフェノールのみ、コーヒー豆抽出物由来のポリフェノールのみ、あるいはそれらの組み合わせのみを配合することが好ましい。
【0023】
消臭剤の形態は任意なものでよく、例えば粉末状、液状、半固形状態、固形状態等がその例として挙げられるが、粉末状であることが好ましい。所望とする形態に応じて必要な加工が適宜なされるが、例えば、形態を粉末状とする場合、ササクレヒトヨタケを凍結乾燥した後、粉砕工程にかけ、得られた乾燥粉末とポリフェノールとを混合することで粉末状の消臭剤が得られる。
【0024】
ラッカーゼとポリフェノールの配合比率は、消臭効果を奏する範囲で適宜調節される。配合比率は使用するラッカーゼの形態によっても変動するため、限定することを意図するものではないが、ラッカーゼを含むササクレヒトヨタケの乾燥粉末とポリフェノールの場合、1~7:10、好ましくは0.1~50:10、より好ましくは1~10:10であってもよい。
【0025】
消臭剤が対象とする悪臭には口臭、体臭等の各種の臭いが包含されるが、ネギ科植物特有の臭い、例えばアリシン等のイオウ化合物に起因する臭いが好ましい。悪臭は口臭、体臭に限定されず、その例として、ラッカーゼとポリフェノールとの組み合わせにより除去又は軽減が期待されるその他の悪臭、例えば冷蔵庫内での臭い、生ゴミ臭、下駄箱臭等が挙げられる。本明細書で使用する場合、ネギ科植物との用語が意図する範囲は広く、特に限定されることを意図するものではないが、その例としてネギ、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ等が挙げられる。
【0026】
第二の態様において、有効成分としてササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む消臭剤を含む、飲食品組成物、が提供される。
【0027】
飲食品組成物は飲食品そのものでもよいし、調味料、食品添加物、その他の飲食品原料であってもよい。飲食品組成物にはサプリメントも含まれる。飲食品組成物は液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の任意の形態で提供され得る。
【0028】
飲食品組成物は、その形態に応じて適宜消臭剤の有効成分以外に他の成分を含有することができる。そのような他の成分としては、消臭剤以外の成分、例えば、サプリメントの場合には公知の栄養成分、例えばミネラル成分、ビタミン類や、あるいは食品で通常使用される乳化剤、酸味料、酸化防止剤、甘味料、着色料等がある。ラッカーゼとポリフェノールとの組み合わせによる消臭効果を損なわない限り、公知の消臭成分が配合され得る。
【0029】
飲食品組成物は容器に充填され得る。血栓症改善剤の有効成分を容器に充填する際、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、香料、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合してもよい。
【0030】
第三の態様において、有効成分としてササクレヒトヨタケ由来のラッカーゼと、ポリフェノールとを含む消臭剤と、悪臭の発生源とを接触させる工程を含む、消臭方法、が提供される。
【0031】
悪臭の発生源は、ラッカーゼとポリフェノールとの組み合わせにより除去又は軽減が期待される上記悪臭を発生する場所であれば特に限定されない。
【0032】
接触は、悪臭の発生源に消臭剤を適用して行うこともできる。適用方法としては散布、噴霧、又は塗布等があり、消臭剤の剤形によって適宜当業者が決定することができる。しかしながら、接触工程において消臭剤が直接適用される発生源に人体の部位は含まれない。ラッカーゼとポリフェノールの消臭効果を損なわない限り、その他の公知の消臭剤を組み合わせて使用することができる。
【0033】
適用のタイミングは特に限定されず、悪臭が知覚された時点で適宜行うことができる。予防的な観点で悪臭が発生すると予想される箇所に事前に消臭剤を適用してもよい。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例の記載に限定されない。
【0035】
実施例1:ラッカーゼ産生菌株の選抜
本発明の微生物は食品製造に使用する目的を有することから、ASTARのNPL保存菌株であって食品や医薬品から分離された株のうち550株から、ラッカーゼ産生株の選抜を実施した。
【0036】
最初の選抜ではまず、PDA培地(Potato Glucose Agar、シグマ社)に550株の微生物株を植菌し、446株の生育を確認した。この446株について5種類の寒天培地に各微生物株を植菌し、ラッカーゼの産生の有無を確認した。ネガティブコントロールとしてPDA培地、1%DMSO含有PDA培地を、ラッカーゼ産生を確認するために基質を含有した寒天培地として1%DMSO、5000ppm緑茶抽出物(GTE、Life Extension, USA)含有PDA培地、1%DMSO、5000ppmコーヒー豆抽出物(GCE、Life Extension, USA)含有PDA培地、および1mM ABTS含有PDA培地を準備した。5種類の寒天培地に各微生物株を植菌し、植菌3日後、7日後、10日後、14日後に寒天培地の色の変化を観察した。色が変化する経過やその強度によって、表1のとおりTier 1とTier 2に分類した。試験は2回実施し、1回目でラッカーゼ産生が確認された254株について再度確認試験を実施し、分類を行った。
【0037】
【0038】
試験の結果、446株のうち190株でラッカーゼの産生が確認され、そのうちTier 1は72株、Tier 2は73株であった。
【0039】
実施例2:耐熱性の評価
実施例1で選抜されたTier 1およびTier 2の145株のうち、食経験が豊富な56株を選んで次の試験を実施した。
【0040】
ラッカーゼの耐熱性、保存安定性を評価するために、各微生物株を50mLの液体培地(1%グルコース、1.5%酵母エキス、0.09%硫酸アンモニウム、0.2%リン酸二水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.01%塩化カルシウム2水和物、0.05%塩化カリウム、0.05% Thiamine Mononitrate、1mL Trace Element、pH5.0)に植菌し、30℃で7日間培養した。Trace Elementは、Na2B4O7・10H2O 0.04g/L、CuSO4・5H2O 0.4g/L、FePO4・4H2O 0.8g/L、MnSO4・4-5H2O 0.8g/L、NaMoO4・2H2O 0.8g/L、ZnSO4・7H2O 8g/Lを含有する。
【0041】
培養7日後に上清を回収し、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でバッファー置換(100倍以上)を行いながら4倍濃縮した。その後、等量の10%デキストリン溶液を添加し、400μLずつ分注して凍結乾燥を行った。このサンプルをラッカーゼの耐熱性および保存安定性の評価に用いた。
【0042】
耐熱性の評価は、次の通り行った。
各サンプルは、蒸留水400μLを添加して再懸濁した。サーマルサイクラー(Bio-Rad社、CFX)を用いて、51℃、60.3℃、70.8℃、および75℃で30分間加熱した。その後、冷却し、適宜希釈を行ってラッカーゼ活性の測定に用いた。
【0043】
96ウェルプレートに0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)125μL、25μLのサンプル、25μLのABTS溶液(4.5mM)を添加し、420nmの吸光度を60分間測定した。測定開始から10分後までの吸光度変化をラッカーゼ活性として算出した。各加熱処理サンプルの活性を非加熱サンプルに対する相対値として算出した(NTは活性非検出)。
【0044】
その結果、60.3℃、30分の加熱で80%以上の活性が残っているものが9株見出された(表2)。
【0045】
【0046】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0047】
以上の結果から、Stropharia rugosoannulata、Hericium coralloides、Coprinus comatus、Hericium erinaceus、Kuehneromyces mutabilis、Grifola frondosa、Pleurotus cornucopiaeの7種が優れたラッカーゼを産生することが確認された。
【0048】
実施例4:市販キノコの評価
次に、本発明のラッカーゼは食品として用いるため、実施例1で選抜された中で市販で入手できるキノコについてラッカーゼの耐熱性、保存安定性をそれぞれ評価した。市販キノコは、日本およびシンガポールで入手可能なものを用いた(表4)。
【0049】
各キノコサンプルを凍結乾燥後、1.5gのキノコ粉末に15~25mLの0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)を加え、2時間浸透した。
【0050】
その後、上清を回収し、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でバッファー置換を行いながら3.75mLまで濃縮し、等量の10%デキストリン溶液を添加した後に凍結乾燥を行った。
【0051】
耐熱性試験、保存安定性試験は、実施例2、3と同様に行った。市販キノコの中ではm9(Coprinus comatus)、m10(Hericium erinaceus)、m15(Grifola frondose)、m17(Pleurotus ostreatus)が高い耐熱性と保存安定性を有していたが、その中でもCoprinus comatusが最も強いラッカーゼ活性を有していた。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例5:ポリフェノールを基質としたラッカーゼ活性
次に、ABTS以外の基質に対する反応性を評価した。
この試験ではABTSで活性が確認されたサンプルについてのみ評価した。
クロロゲン酸(CGA、シグマ)を終濃度0.22~1.79mMで、もしくはエピガロカテキンガレート(EGCG、シグマ)を終濃度0.18~1.43mMとなるように添加した。また、サンプルは希釈をせずに用いた。活性は測定開始0~10分の390nmの吸光度変化から算出した。
【0055】
その結果、Lentinula edodes(m1、m2)、Pleurotus eryngii(m3、m4)、Coprinus comatus(m9)、Hericium erinaceus(m10)、Agaricus bisporus(m13)で2つの基質に対する活性が確認された(
図1)。
【0056】
実施例4の耐熱性、保存安定性も含め、Coprinus comatus(m9)、Hericium erinaceus(m10)が優れたラッカーゼ活性を有していた。また、m10はキノコ臭が強い一方でm9はキノコ臭が非常に弱いため、m9が食品用のラッカーゼ源として最も優れていた。
【0057】
実施例6:他の野菜・フルーツ由来のラッカーゼとの比較
ラッカーゼ活性を有していることが知られている素材(ニンジン、ゴボウ、リンゴ、ナシ)の凍結乾燥粉末から抽出したラッカーゼ活性と市販のCoprinus comatus(m9)のラッカーゼ活性の比較を行った。
【0058】
野菜、フルーツについては皮を剥き、凍結乾燥を行った後に実施例4の市販キノコと同様の方法でラッカーゼの抽出を行い、活性の比較を行った。
【0059】
ABTS(終濃度0.32mM、0.64mM)に対するラッカーゼ活性測定は、サンプルを10倍希釈で用い、CGA(終濃度0.45-1.79mM)とEGCG(終濃度0.36~1.43mM)に対するラッカーゼ活性測定は、サンプルを希釈せずに用いた。活性は、測定開始0-10分の420nm(ABTS)と390nm(CGA、EGCG)の吸光度変化から算出した。
【0060】
その結果、Coprinus comatusがいずれの基質においても最も強いラッカーゼ活性を有していることが確認された(
図2)。
【0061】
実施例7:匂いの比較
キノコ、野菜、フルーツをそのままラッカーゼ素材として用いる場合、その凍結粉末の匂いが食品に影響を与える。そこで、各凍結乾燥粉末の匂いの比較を行った。その結果、Coprinus comatusとリンゴ、ナシが比較的好ましい匂いであった(表6)。
【0062】
【0063】
実施例8:ラッカーゼ素材中の一般生菌数の評価
キノコ、野菜、フルーツをそのままラッカーゼ素材として用いる場合、加熱することでラッカーゼが失活する可能性があることから、素材中の一般生菌数が少ないことが望ましい。そこで、ラッカーゼ素材中の一般生菌数を所定の方法により測定した。
【0064】
乾燥粉末0.5gを4.5mLの滅菌水に懸濁し、希釈した懸濁液1mLと標準寒天培地(酵母エキス0.25%、ハイポリペプトン0.5%、グルコース0.1%、寒天1.5%)を混合し、プレートで35℃、2日間静置培養した。
【0065】
その結果、Coprinus comatusとリンゴでは一般生菌が検出されなかった。以上の実施例6、7、8の結果から、Coprinus comatusがラッカーゼ素材として最も優れていた。
【0066】
【0067】
実施例9:Coprinus comatusのニンニク臭低減効果
実際にCoprinus comatusの凍結乾燥粉末がニンニク臭低減効果を有するかを評価するために、官能評価を実施した。まず、0.1Mリン酸バッファー(pH5.7)にポリフェノールとしてGTE(太陽化学、終濃度7.2mg/mL)、GCE(VIDYA社、終濃度22mg/mL)とCoprinus comatus凍結乾燥物(終濃度12mg/mLもしくは60mg/mL)を1.5mLチューブでニンニク搾汁液(全体の1/10量、100μL)と混合し、37℃で2時間浸透した。その後、反応溶液を新しい1.5mLチューブに移し、80℃で30分加熱した。
【0068】
官能評価はJIS規格に従い、ニンニク臭を判別する訓練を受けた4名について、延べ6回採点法で実施した。加熱後のサンプルから発生するニンニク臭を0(ニンニク臭なし)から2(ネガティブコントロールのニンニク臭)の3段階で評価した。
【0069】
その結果、Coprinus comatusの用量依存的なニンニク臭の低減が確認された(表8)。
【0070】