(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105844
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ピラン誘導体、製造法及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
C07D 407/06 20060101AFI20230725BHJP
C07D 409/14 20060101ALI20230725BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230725BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20230725BHJP
【FI】
C07D407/06
C07D409/14 CSP
C09K11/06 635
H01L31/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006826
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祥生
(72)【発明者】
【氏名】金子 岳史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 玄
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宏平
(72)【発明者】
【氏名】山縣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】青柳 圭哉
【テーマコード(参考)】
4C063
5F849
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063AA03
4C063BB03
4C063CC78
4C063CC92
4C063DD76
4C063DD78
4C063EE05
5F849AA03
5F849AB11
5F849BA01
5F849BA09
5F849CB06
5F849CB15
5F849FA04
5F849FA05
5F849GA02
5F849LA02
5F849XA02
5F849XA47
(57)【要約】 (修正有)
【課題】青色光用光電変換材料として適した高い外部量子効率を示す化合物を提供すること、該化合物を簡便に合成する方法、及び該化合物を含む光電変換素子を提供すること。
【解決手段】式(1)で示されるピラン誘導体。
式中、R
1~R
6は、各々独立に、H又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X
1及びX
2は、各々独立に、H、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。Ar
1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。Ar
2は、ベンゾフラン基等の複素芳香族基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるピラン誘導体。
【化1】
式(1)中、
R
1~R
6は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
X
1及びX
2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。
Ar
1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。
Ar
2は式(2)で示される複素芳香族基を表す。
【化2】
(式中、Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。R
1a~R
5aは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は炭素数3~12の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。*は結合部位を表す。)
【請求項2】
X1及びX2がシアノ基である、請求項1に記載のピラン誘導体。
【請求項3】
R1a~R5aが、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のアルキル基である、請求項1又は2に記載のピラン誘導体。
【請求項4】
Eが酸素原子である、請求項1から3のいずれか1項に記載のピラン誘導体。
【請求項5】
R1~R6が水素原子である、請求項1から4のいずれか1項に記載のピラン誘導体。
【請求項6】
Ar1が炭素数2~5のジアルキルアミノ基で1つ以上置換された炭素数6~18のアリール基であり、当該ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい、請求項1から5のいずれか1項に記載のピラン誘導体。
【請求項7】
式(3)
【化3】
(式中、R
1~R
5は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X
1及びX
2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。Ar
1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が一体となって窒素原子を含んで環を形成してもよい。また、当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるピラン化合物と、式(4)
【化4】
[式中、Ar
2は式(5)
【化5】
(式中、Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。R
1a~R
5aは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は炭素数3~12の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。*は結合部位を表す。)で示される複素芳香族基を表す。R
6は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。]で示されるカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、式(1)
【化6】
(式中、R
1~R
6、Ar
1、Ar
2、X
1及びX
2は、前記と同じ意味を表す。)で示されるピラン誘導体の製造方法。
【請求項8】
酸の存在下に、ピラン化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、請求項7に記載のピラン誘導体の製造方法。
【請求項9】
塩基の存在下に、ピラン化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、請求項7に記載のピラン誘導体の製造方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含んでなる光電変換素子。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか1項に記載のピラン誘導体を光電変換層に含んでなる光電変換素子。
【請求項12】
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、請求項11に記載の光電変換素子。
【請求項13】
フラーレン誘導体がC60又はC70である、請求項12に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラン誘導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、光センサーや撮像素子などのセンサー、及び太陽電池などの光発電装置に使用されている。有機光電変換材料を用いる光電変換素子が特許文献1などに開示されている。
【0003】
光電変換素子としては、シリコン半導体を用いた素子が広く用いられており、特に撮像素子としてはシリコンフォトダイオードが主に使用されている。このようなシリコンフォトダイオードは可視光領域全域に感度を有しているため、この上部にRGBがモザイク状に配置されたカラーフィルターを配置し、各画素をRGBそれぞれの受光部として振り分けることでカラー撮像を行っている。本方式ではカラーフィルターでの入射光の損失により光の利用効率が低いため、撮像素子の高感度化の障壁となることが懸念される。そこで、RGB各色の有機光電変換膜を積層した撮像素子(以下積層型有機撮像素子)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。本方式はカラーフィルターを用いた場合と比べてカラーフィルターによる光の損失がなく、光の利用効率が数倍となるため、カメラなどのデバイスの高画素化に伴う画素の微細化に優位性を持つ、高感度デバイスへの利用が期待されている。
【0004】
積層型有機撮像素子の光電変換膜としては、各色に対応する波長領域にて高い外部量子効率を示すことが求められる。すなわち、B層(青色用光電変換膜)の場合、青色光領域である400~500nmにおいて高い外部量子効率を示すことが求められる。
【0005】
特許文献1~3には、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジピロメテン誘導体等を含む青色用光電変換素子が記載されているが、いずれも本発明のピラン誘導体を含む光電変換素子とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/195935号
【特許文献2】国際公開第2020/196029号
【特許文献3】国際公開第2021/029223号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,2011年、50巻、024103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、青色光用光電変換材料として適した高い外部量子効率を示す化合物を提供すること、該化合物を簡便に合成する方法、及び該化合物を含む光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、新規なピラン誘導体を含む光電変換素子が青色光の波長域において高い外部量子効率を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、
[1]
式(1)で示されるピラン誘導体。
【0011】
【0012】
式(1)中、
R1~R6は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
X1及びX2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。
Ar1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。
Ar2は式(2)で示される複素芳香族基を表す。
【0013】
【0014】
(式中、Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。R1a~R5aは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は炭素数3~12の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。*は結合部位を表す。);
[2]
X1及びX2がシアノ基である、前記[1]に記載のピラン誘導体;
[3]
R1a~R5aが、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のアルキル基である、前記[1]又は[2]に記載のピラン誘導体;
[4]
Eが酸素原子である、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載のピラン誘導体;
[5]
R1~R6が水素原子である、前記[1]から[4]のいずれか1項に記載のピラン誘導体;
[6]
Ar1が炭素数2~5のジアルキルアミノ基で1つ以上置換された炭素数6~18のアリール基であり、当該ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい、前記[1]から[5]のいずれか1項に記載のピラン誘導体;
[7]
式(3)
【0015】
【0016】
(式中、R1~R5は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X1及びX2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。Ar1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が一体となって窒素原子を含んで環を形成してもよい。また、当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。)で示されるピラン化合物と、式(4)
【0017】
【0018】
[式中、Ar2は式(5)
【0019】
【0020】
(式中、Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。R1a~R5aは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は炭素数3~12の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。*は結合部位を表す。)で示される複素芳香族基を表す。R6は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。]で示されるカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、式(1)
【0021】
【0022】
(式中、R1~R6、Ar1、Ar2、X1及びX2は、前記と同じ意味を表す。)で示されるピラン誘導体の製造方法;
[8]
酸の存在下に、ピラン化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、前記[7]に記載のピラン誘導体の製造方法;
[9]
塩基の存在下に、ピラン化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする、前記[7]に記載のピラン誘導体の製造方法;
[10]
前記[1]から[6]のいずれか1項に記載のピラン誘導体を含んでなる光電変換素子;
[11]
前記[1]から[6]のいずれか1項に記載のピラン誘導体を光電変換層に含んでなる光電変換素子;
[12]
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、前記[11]に記載の光電変換素子;
[13]
フラーレン誘導体がC60又はC70である、前記[12]に記載の光電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のピラン誘導体(1)は、青色光領域において高い外部量子効率を示すことから、青色光用有機光電変換素子用材料に代表される有機電子材料としての適用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明のピラン誘導体(1)及び複素芳香族基(2)におけるR1~R6、X1、X2、Ar1、Ar2、E及びR1a~R5aの定義について説明する。
【0026】
R1~R6で表される炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基又はシクロブチル基などを例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、メチル基が好ましい。
【0027】
R1~R6としては、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0028】
X1及びX2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を例示することができ、ピラン誘導体(1)の吸光特性が優れる点でフッ素原子が好ましい。
【0029】
X1及びX2としては、ピラン誘導体(1)の吸光特性が優れる点でフッ素原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基が好ましく、シアノ基がさらに好ましい。
【0030】
Ar1で表される炭素数6~18のアリール基としては、特に限定するものではなく、具体的には、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基、3,5-ターフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントレニル基、2-フェナントレニル基、3-フェナントレニル基、4-フェナントレニル基、9-フェナントレニル基、1-フルオレニル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、4-フルオレニル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-1-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-3-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-4-イル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、9-ピレニル基、1-トリフェニレニル基又は2-トリフェニレニル基等を例示することができる。ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-1-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-3-イル基又は9,9-ジメチル-9H-フルオレン-4-イル基が好ましい。
【0031】
Ar1で表される炭素数2~5の複素芳香族基としては、特に限定するものではなく、具体的には、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-チオフェニル基、3-チオフェニル基、1-ピロリル基、2-(1-メチル)ピロリル基、3-(1-メチル)ピロリル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、1-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、4-(1-メチル)イミダゾリル基、5-(1-メチル)イミダゾリル基、トリアゾリル基等を例示することができる。ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、2-フラニル基又は2-チオフェニル基が好ましい。
【0032】
Ar1で表される炭素数6~18のアリール基及び炭素数2~5の複素芳香族基は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。当該炭素数6~10のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でフェニル基が好ましい。当該炭素数2~5のジアルキルアミノ基としては、2つのアルキル基は直鎖上、分岐状のいずれでもよい。また2つのアルキル基は一体となって環を形成していてもよく、酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成していてもよい。具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル、4-モルホリニル基、4-チオモルホリニル基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でジメチルアミノ基、1-ピロリジニル基、1-ピペリジニル基又は4-モルホリニル基が好ましい。当該炭素数12~18のジアリールアミノ基としては、2つのアリール基は窒素原子と一体となって環を形成していてもよく、酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子と一体となって環を形成していてもよい。具体的には、ジフェニルアミノ基、1-ナフチル(フェニル)アミノ基、2-ナフチル(フェニル)アミノ基又は9-9H-カルバゾイル基、10-10H-フェノキサジニル基、10-10H-フェノチアジニル基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でジフェニルアミノ基又は9-9H-カルバゾイル基が好ましい。
【0033】
Ar1としては、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-1-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-3-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-4-イル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-(5-メチル)フラニル基、2-(5-メチル)チオフェニル基、2-(5-フェニル)フラニル基、2-(5-フェニル)チオフェニル基、4-(ジメチルアミノ)フェニル基、4-(ジエチルアミノ)フェニル基、4-(1-ピロリジニル)フェニル基、4-(1-ピペリジニル)フェニル基、4-(4-モルホリニル)フェニル基、4-(ジメチルアミノ)-1-ナフチル基、6-(ジメチルアミノ)2-ナフチル基、4-(ジフェニルアミノ)フェニル基、4-{1-ナフチル(フェニル)アミノ}フェニル基又は4-(9-9H-カルバゾイル)フェニル基が好ましく、2-(5-フェニル)フラニル基、2-(5-フェニル)チオフェニル基、4-(ジメチルアミノ)フェニル基、4-(ジエチルアミノ)フェニル基、4-(1-ピロリジニル)フェニル基、4-(1-ピペリジニル)フェニル基、4-(4-モルホリニル)フェニル基、4-(ジメチルアミノ)-1-ナフチル基、6-(ジメチルアミノ)2-ナフチル基、4-(ジフェニルアミノ)フェニル基、4-{1-ナフチル(フェニル)アミノ}フェニル基又は4-(9-9H-カルバゾイル)フェニル基がさらに好ましく、2-(5-フェニル)チオフェニル基、4-(ジメチルアミノ)フェニル基、4-(1-ピペリジニル)フェニル基又は4-(4-モルホリニル)フェニル基が特に好ましい。
【0034】
Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表し、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で酸素原子又は硫黄原子が好ましく、酸素原子がさらに好ましい。
【0035】
R1a~R5aで表されるハロゲン原子としては、X1及びX2で例示したハロゲン原子と同様のものを挙げることができ、ピラン誘導体(1)の吸光特性が優れる点でフッ素原子が好ましい。
【0036】
R1a~R5aで表される炭素数1~4のアルキル基は、R1~R6で例示した炭素数1~4のアルキル基と同様のものを挙げることができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、メチル基が好ましい。
【0037】
R1a~R5aで表される炭素数6~18のアリール基としては、Ar1で例示した炭素数6~18のアリール基と同様のものを挙げることができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で、フェニル基が好ましい。
【0038】
R1a~R5aで表される炭素数3~12の複素芳香族基としては、特に限定するものではなく、具体的には、2-フラニル基、3-フラニル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピロリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、2-ベンゾフラニル基、3-ベンソフラニル基、2-ベンゾチエニル基、3-ベンソチエニル基、1-インドリル基、2-インドリル基、3-インドリル基、1-カルバゾイル基、2-カルバゾイル基、3-カルバゾイル基、4-カルバゾイル基、9-カルバゾイル基、ジベンゾフラン-2-イル基、ジベンゾフラン-3-イル基、ジベンゾフラン-4-イル基、ジベンゾチオフェン-2-イル基、ジベンゾチオフェン-3-イル基又はジベンゾチオフェン-4-イル基等を例示することができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点で2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基が好ましい。
【0039】
R1a~R5aで表される炭素数6~18のアリール基及び炭素数3~12の複素芳香族基は、炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。当該炭素数1~4のアルキル基としては、R1~R6で例示した炭素数1~4のアルキル基と同様のものを挙げることができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。当該ハロゲン原子としてはX1及びX2で例示したハロゲン原子と同様のものを挙げることができ、ピラン誘導体(1)の合成が容易な点でフッ素原子が好ましい。
【0040】
R1a~R5aとしては、合成が容易な点で水素原子、メチル基、フェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基又は4-フルオロフェニル基が好ましく、水素原子、メチル基又はフェニル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0041】
本発明のピラン誘導体(1)としては、特に限定するものではなく、例えば、下記の1-1から1-51に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。なお本明細書中、Me、Etはそれぞれメチル基、エチル基を表す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
1-1から1-51で示される化合物のうち、本発明のピラン誘導体(1)としては、合成が容易な点で1-16、1-17、1-18、1-19、1-20、1-21、1-22、1-23、1-24、1-25、1-26、1-27、1-35、1-37、1-39、1-40又は1-41で示される化合物が好ましく、1-17、1-18、1-21又は1-22で示される化合物がさらに好ましい。
【0046】
式(1)で表される化合物のピラン環と、Ar1とAr2が置換した2つの二重結合には、それぞれE体及びZ体の異性体が存在する。本明細書では便宜的にE体の異性体のみ表しているが、E体の異性体に限定されるものではなく、Z体の異性体も本発明のピラン誘導体(1)に含まれる。
【0047】
次に、本発明のピラン誘導体(1)の製造方法(以下、本発明の製造方法と称する。)について説明する。
【0048】
本発明のピラン誘導体(1)は、次の反応式に示される工程1により製造することができる。
【0049】
【0050】
(式中、R1~R5は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X1及びX2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表し、少なくとも一方はシアノ基である。Ar1は炭素数6~18のアリール基又は炭素数2~5の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~5のジアルキルアミノ基及び炭素数12~18のジアリールアミノ基からなる群から選択される置換基で1つ以上置換されていてもよい。当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。また、当該ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基は、2つのアルキル基又はアリール基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒素原子を含んで一体となって環を形成してもよい。
Ar2は式(5)
【0051】
【0052】
(式中、Eは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。R1a~R5aは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は炭素数3~12の複素芳香族基を表し、当該アリール基及び複素芳香族基は炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。*は結合部位を表す。)で示される複素芳香族基を表す。)
工程1はピラン化合物(3)とカルボニル化合物(4)を反応させ、本発明のピラン誘導体(1)を製造する工程である。
【0053】
工程1に用いるピラン化合物(3)における置換基としては、式(1)で示されるピラン誘導体の置換基と同様のものを挙げることができる。
【0054】
工程1に用いるピラン化合物(3)としては、例えば、下記の3-1から3-34に示す構造の化合物を具体的に例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【0056】
【0057】
3-1から3-34で示される化合物のうち、合成が容易な点で3-16、3-17、3-18、3-19、3-20、3-21、3-22、3-23、3-24、3-25、3-26又は3-27で示される化合物が好ましく、3-17、3-18、3-21又は3-22で示される化合物がさらに好ましい。ピラン化合物(3)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができ、例えば、Jornal of the American Chemical Society,2009年、131巻、14043頁に開示されている方法等に従えば、得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0058】
工程1に用いるカルボニル化合物(4)における置換基としては、式(1)で示されるピラン誘導体の置換基と同様のものを挙げることができる。
【0059】
工程1に用いるカルボニル化合物(4)としては、例えば、下記の4-1から4-17に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0060】
【0061】
4-1から4-17で示される化合物のうち、合成が容易な点で4-1、4-2、4-5、4-6又は4-7で示される化合物が好ましく、4-1で示される化合物がさらに好ましい。カルボニル化合物(4)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができ、例えば、Chemical Communications、2017年、53巻、7545頁に開示されている方法等に従えば、得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0062】
工程1で用いるピラン化合物(3)とカルボニル化合物(4)とのモル比に特に制限はなく、収率がよい点でピラン化合物(3):カルボニル化合物(4)のモル比が1:0.1以上1:10以下の範囲にあることが好ましく、反応収率が良い点で1:0.5以上1:2以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0063】
工程1は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、具体的には、ジイソプロピルエ-テル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド;N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N,N’-ジメチルプロピレンウレア(DMPU)等のウレア;ジメチルスルホキシド(DMSO);メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、オクタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール;及び、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限はない。本発明のピラン誘導体(1)の反応収率がよい点で脂肪族炭化水素、アルコール又はニトリルが好ましく、アセトニトリルがさらに好ましい。
【0064】
工程1は酸の存在下で行うことで、反応を促進することができる。用いられる酸としては、特に限定されるものではないが、無機酸又は有機酸のいずれでもよく、無機酸としては塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、また、有機酸としては酢酸、プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸等を例示することができる。本発明のピラン誘導体(1)の反応収率が良い点で、塩酸、硫酸又はp-トルエンスルホン酸が好ましく、p-トルエンスルホン酸がさらに好ましい。
【0065】
工程1に用いる酸のモル当量は特に制限はなく、収率がよい点でカルボニル化合物(4)と酸のモル比が1:0.01以上1:100以下の範囲にあることが好ましく、反応収率が良い点で1:0.1以上1:10以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0066】
工程1は塩基の存在下で行うことで、反応を促進することができる。用いられる塩基としては、特に限定されるものではないが、無機塩基又は有機塩基のいずれでもよく、無機塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の金属炭酸塩、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の金属酢酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等の金属リン酸塩、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルキルオキシド等を、また、有機塩基としてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン等の第三級アルキルアミン、ピリジン、ピラジン、キノリン等の環状アジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、モルホリン等の第二級環状アミン等を例示することができる。本発明のピラン誘導体(1)の反応収率がよい点で、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジン又はN-メチルピペラジン等の有機塩基が好ましく、ピペリジン又はN-メチルピペラジンがさらに好ましい。
【0067】
工程1に用いる塩基のモル当量は特に制限はなく、収率がよい点でカルボニル化合物(4)と塩基のモル比が1:0.001以上1:100以下の範囲にあることが好ましく、反応収率が良い点で1:0.01以上1:10以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0068】
工程1を実施する際の反応温度には特に制限はなく、通常は-80℃以上200℃以下の範囲から適宜選択された温度にて実施することができ、本発明のピラン誘導体(1)の反応収率が良い点で0℃以上150℃以下の範囲から適宜選択された温度にて実施することが好ましく、10℃以上140℃以下の範囲から適宜選択された温度にて実施することがさらに好ましい。
【0069】
本発明のピラン誘導体(1)は、工程1の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華、又は分取HPLC等で精製してもよい。
【0070】
さらに、本発明のピラン誘導体(1)を含む光電変換素子(以下、「本発明の光電変換素子」と称する。)について説明する。本発明の光電変換素子は、基板、負極層、光電変換層、及び正極層を含む。また、必要に応じて負極層と光電変換層との間に正孔輸送層及び/又は電子ブロッキング層を、正極層と光電変換層との間に電子輸送層及び/又は正孔ブロッキング層を設けてもよい。
【0071】
本発明の光電変換素子において、本発明のピラン誘導体(1)をいずれの層に用いても良いが、光電変換層に用いることが好ましい。
【0072】
該光電変換層には、フラーレン誘導体を含んでいてもよい。該フラーレン誘導体としては、[60]フラーレン(C60)、[70]フラーレン(C70)、フェニル-C61-酪酸メチル([60]PCBM)、フェニル-C71-酪酸メチル([70]PCBM)、フェニル-C85-酪酸メチル([84]PCBM)等を例示することができ、[60]フラーレン(C60)又は[70]フラーレン(C70)が好ましい。
【0073】
該光電変換層にフラーレン誘導体を含む場合、本発明のピラン誘導体(1)とフラーレン誘導体の混合比は1:0.01以上1:100以下が好ましく、1:0.1以上1:10以下がさらに好ましい。
【0074】
本発明の光電変換素子は、キャリア輸送性の向上を目的として、負極と光電変換層との間に正孔輸送層を、正極と光電変換層との間に電子輸送層を設けてもよい。正孔輸送層としては、特に限定されるものではなく、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよく、具体的にはトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマーが挙げられる。電子輸送層としては、特に限定されるものではなく、電子の注入または輸送、正孔の障壁性のいずれかを有するものであり、具体的にはニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体又はオキサジアゾール誘導体を例示することができる。また、暗電流発生の抑制を目的として、負極と光電変換層との間に電子ブロッキング層を、正極と光電変換層との間に正孔ブロッキング層を設けてもよい。電子ブロッキング層としては、2,7-ビス(9-カルバゾリル)-9,9-スピロビフルオレン(Spiro-2CBP)、3,7-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-2,6-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,5-b‘]ジフラン(CZBDF)等のトリアリールアミン類を挙げることができる。正孔ブロッキング層としては、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド等のナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等を例示することができる。なお、正孔輸送層は電子ブロッキング層を兼ねていてもよく、電子輸送層は正孔ブロッキング層を兼ねていてもよい。
【0075】
本発明の光電変換素子の光電変換層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロッキング層及び電子ブロッキング層(以下、「有機層」と称する。)の製造法に特に限定はないが、真空蒸着法による成膜が可能である。真空蒸着法による成膜は、汎用の真空蒸着装置を用いることにより行うことができる。真空蒸着法により膜を形成する際の真空槽の真空度は、有機電界発光素子作製の製造タクトタイムや製造コストを考慮すると、一般的に用いられる拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ等により達成しうる1×10-6Pa以上1×10-2Pa以下程度が好ましい。蒸着速度は、形成する膜の厚さによるが、0.005nm/秒以上1.0nm/秒以下が好ましい。また、汎用の装置を用いたスピンコート法、インクジェット法、キャスト法又はディップ法等による成膜も可能である。
【0076】
本発明の光電変換素子の正極層及び負極層は、導線等の電気的な導体を介して電源に接続されている。正極層又は負極層のいずれかは本発明の光電変換素子の基板と接触することができる。基板と接触する電極は便宜上、下部電極と呼ばれる。本発明の光電変換素子に置いては、正極層、負極層のいずれを下部電極としてもよい。
【0077】
本発明の光電変換素子の正極層及び負極層(以下、「電極」と称する。)としては、受光面となる少なくとも一方は光透過性であることが好ましい。光透過性の電極としては、一般的な透明電極材料を用いることができ、インジウム-錫酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫、アルミニウム又はインジウム・ドープ型酸化錫、マグネシウム-インジウム酸化物、又はニッケル-タングステン酸化物等の金属酸化物、窒化ガリウム等の金属窒化物、セレン化亜鉛等の金属セレン化物、又は硫化亜鉛等の金属硫化物を例示することができる。光透過性や導電性が良い点で金属酸化物が好ましく、ITO、IZO、酸化錫がさらに好ましい。また、該電極はプラズマ蒸着されたフルオロカーボンで改質することができる。
【0078】
受光面でない他方の電極については、先に例示した透明電極材料に加え、不透明又は反射性の電極材料を使用することができる。該不透明又は反射性の電極材料としては、金、銀、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0079】
本発明の光電変換素子の電極の製造法に特に限定はないが、真空蒸着法、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学反応法(ゾル-ゲル法など)、塗布法等による成膜が可能である。
【0080】
本発明の光電変換素子は、基板上に形成される。該基板は、意図される受光方向に応じて、光透過性又は不透明であってよい。光透過性は基板を通して受光するのに好ましく、該基板としては透明ガラス、石英又はプラスチック等を例示することができる。不透明基板としてはシリコン、酸化シリコン等を例示することができる。また該基板は、多重の材料層を含む複合構造であってよい。
【0081】
本発明の光電変換素子の製造方法に特に限定はないが、基板上に電極層、有機層及び電極層を順次成膜することにより製造することができる。なお、予め電極層を成膜した基板を用い、有機層及び電極層を順次成膜してもよい。
【実施例0082】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0083】
[1H-NMR測定]
1H-NMRの測定には、Bruker ASCEND 400(400MHz;BRUKER社製)を用いた。1H-NMRは、重クロロホルム(CDCl3)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
【0084】
[薄膜作製、光電変換素子作製及び膜厚測定]
薄膜作製及び光電変換素子作製は真空蒸着法により行い、EROLA-500(アルバック機工(株)製)を用いた。基板は、予め中性洗浄剤及び純水により洗浄し乾燥させた後、酸素プラズマ洗浄を行ったものを用いた。膜厚測定には触針式膜厚測定計DektakXT(BRUKER社製)を用いた。
【0085】
[吸収スペクトル測定]
吸収スペクトル測定には分光光度計V-750(日本分光製)を用いた。スキャンスピード400nm/分で測定を行った。測定試料には真空蒸着法により石英基板上に作製した薄膜を用いた。
【0086】
[外部量子効率測定]
外部量子効率の測定には太陽電池分光感度測定装置(相馬光学社製)を用いた。照射光強度50μW/cm2で測定を行った。
【0087】
試薬類は市販品を用いた。
【0088】
合成実施例-1
【0089】
【0090】
(E)-2-(2-メチル-6-(4-(チオフェン-2-イル)スチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.19g,0.55mmol)、2-ベンゾフランカルバルデヒド(0.12g,0.83mmol)及びピペリジン(0.054mL,0.55mol)をアセトニトリル(50mL)に懸濁させ、100℃にて18時間撹拌した。析出した固体をろ取し、アセトニトリル、メタノール及びヘキサンで洗浄することで赤色固体の2-(2-((E)-2-(ベンゾフラン-2-イル)ビニル)-6-((E)-4-(チオフェン-2-イル)スチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.23g,89%)を得た。
1H-NMR(CDCl3):δ7.67-7.61(m,3H),7.61(d,J=15.8Hz,1H),7.53(d,J=8.2,0.9Hz,1H),7.47-7.32(m,7H),7.28(ddd,J=15.8Hz,1H),7.03(s,1H),6.96(d,J=15.8Hz,1H),6.74(d,J=2.0Hz,1H),6.67(d,J=2.0Hz,1H),6.56(d,J=15.7Hz,1H).
【0091】
合成実施例-2
【0092】
【0093】
(E)-2-(2-(4-(ジメチルアミノ)スチリル)-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.5g,4.9mmol)、2-ベンゾフランカルバルデヒド(1.1g,7.4mmol)及びピペリジン(0.48mL,4.9mol)をアセトニトリル(100mL)に懸濁させ、100℃にて18時間撹拌した。析出した固体をろ取し、アセトニトリル、メタノール及びヘキサンで洗浄した。この固体を熱アセトニトリルに懸濁させ、室温まで冷却してろ過することで得られた固体を、さらに熱トルエンに懸濁させ、室温まで冷却してろ過することで紫色固体の2-(2-((E)-2-(ベンゾフラン-2-イル)ビニル)-6-((E)-4-(ジメチルアミノ)スチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(1.6g,76%)を得た。
1H-NMR(CDCl3):δ7.61(brd,J=7.8Hz,1H),7.51(dd,J=8.4,0.9Hz,1H),7.48(brd,J=8.7Hz,2H),7.46(d,J=15.8Hz,1H),7.39(ddd,J=8.4,7.2,1.3Hz,1H),7.36(d,J=15.8Hz,1H),7.27(ddd,J=7.8,7.2,0.9Hz,1H),7.00(s,1H),6.93(d,J=15.8Hz,1H),6.72(brd,J=8.7Hz,2H),6.69(d,J=2.0Hz,1H),6.59(d,J=2.0Hz,1H),6.53(d,J=15.8Hz,1H),3.08(s,6H).
【0094】
合成実施例-3
【0095】
【0096】
(E)-2-(2-メチル-6-(4-(ピペリジン-1-イル)スチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.55g,1.6mmol)、2-ベンゾフランカルバルデヒド(0.35g,2.4mmol)及びピペリジン(0.16mL,1.6mol)をアセトニトリル(100mL)に懸濁させ、100℃にて18時間撹拌した。析出した固体をろ取し、アセトニトリル、メタノール及びヘキサンで洗浄した。この固体を熱アニソールに溶解させ、室温まで冷却してろ過することで得られた紫色固体の2-(2-((E)-2-(ベンゾフラン-2-イル)ビニル)-6-((E)-4-(ピペリジン-1-イル)スチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.38g,50%)を得た。
1H-NMR(CDCl3):δ7.62(brd,J=7.5Hz,1H),7.52(dd,J=8.2,0.9Hz,1H),7.48(brd,J=8.9Hz,2H),7.46(d,J=15.8Hz,1H),7.39(ddd,J=8.2,7.5,1.3Hz,1H),7.37(d,J=15.7Hz,1H),7.27(ddd,J=7.5,7.5,0.9Hz,1H),7.00(s,1H),6.95(d,J=15.8Hz,1H),6.92(brd,J=8.9Hz,2H),6.71(d,J=2.0Hz,1H),6.62(d,J=2.0Hz,1H),6.56(d,J=15.7Hz,1H),3.40-3.30(m,4H),1.76-1.61(m,6H).
【0097】
合成実施例-4
【0098】
【0099】
(E)-2-(2-メチル-6-(4-モルホリノスチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.60g,1.7mmol)、2-ベンゾフランカルバルデヒド(0.38g,2.6mmol)及びピペリジン(0.17mL,1.7mol)をアセトニトリル(100mL)に懸濁させ、100℃にて18時間撹拌した。析出した固体をろ取し、アセトニトリル、メタノール及びヘキサンで洗浄した。この固体を熱アニソールに溶解させ、室温まで冷却してろ過することで得られた赤色固体の2-(2-((E)-2-(ベンゾフラン-2-イル)ビニル)-6-((E)-4-モルホリノスチリル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(0.57g,69%)を得た。
1H-NMR(CDCl3):δ7.62(brd,J=7.5Hz,1H),7.55-7.50(m,3H),7.47(d,J=15.8Hz,1H),7.40(ddd,J=7.8,7.5,1.3Hz,1H),7.38(d,J=15.8Hz,1H),7.28(ddd,J=7.8,7.5,0.9Hz,1H),7.01(s,1H),6.95(d,J=15.8Hz,1H),6.93(brd,J=8.8Hz,2H),6.73(d,J=2.0Hz,1H),6.65(d,J=2.0Hz,1H),6.61(d,J=15.8Hz,1H),3.91-3.84(m,4H),3.33-3.27(m,4H).
【0100】
評価実施例-1
本発明のピラン誘導体を構成成分とする光電変換素子を作製し、その性能評価を行った。
【0101】
基板には、2mm幅のITO膜がストライプ状にパターンされたITO透明電極付きガラス基板を用いた。この基板を中性洗浄剤及び純水により洗浄し乾燥させた後、酸素プラズマ洗浄した。洗浄後の基板に、正孔輸送層として3,7-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-2,6-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,5-b‘]ジフラン(CZBDF、膜厚30nm)、光電変換層として本発明のピラン誘導体(1-18)と[60]フラーレン(C60)の共蒸着膜(膜厚100nm、共蒸着比率1:1)、電子輸送層としてN,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(膜厚30nm)を順に真空蒸着法により製膜した。続いて該製膜基板にITOストライプと直行するようにメタルマスクを配し、正極層としてアルミニウムを0.3nm/秒の製膜速度で真空蒸着した。製膜後、この多層膜を酸素及び水分濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス内で封止し、受光面積4mm2の光電変換素子を作製した。封止は、ガラス製の封止キャップとエポキシ型紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を用いた。
【0102】
評価比較例-1
ピラン誘導体(1-18)の代わりに市販品の2-tert-ブチル-4-(ジシアノメチレン)-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジン-9-イル)ビニル]-4H-ピラン(DCJTB)を用いた以外は評価実施例-1と同様の操作を行い、光電変換素子を作製した。
【0103】
表1に評価実施例及び評価比較例において作製した光電変換素子の3V印加時の外部量子効率(波長450nmの光照射時)及び暗電流の測定結果を示した。該外部量子効率及び暗電流は、いずれも評価比較例の測定値を1.00とした相対値を示した。本発明の光電変換素子は、青色光領域に感度を有する光電変換素子として駆動し、また、評価比較例-1と比較し、高い外部量子効率と低い暗電流を示した。光電変換素子としては、感度の指標である外部量子効率は高い方が好ましく、ノイズの指標である暗電流は低い方が好ましい。したがって本発明の光電変換素子は、評価比較例-1と比較し優れた性能を示すことが分かった。
【0104】
本発明のピラン誘導体(1)は、有機フォトダイオード材料、有機撮像素子用材料、有機薄膜太陽電池材料、有機半導体レーザー材料、有機ELディスプレイ材料、フォトニック結晶材料等の電子材料等に利用することができる。