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特開2023-105900フッ素化膜を備えたフッ素化構造体、該構造体の製造方法、及び該構造体の製造に用いる前駆溶液
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  • 特開-フッ素化膜を備えたフッ素化構造体、該構造体の製造方法、及び該構造体の製造に用いる前駆溶液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105900
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】フッ素化膜を備えたフッ素化構造体、該構造体の製造方法、及び該構造体の製造に用いる前駆溶液
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/392 20060101AFI20230725BHJP
   C08G 77/385 20060101ALI20230725BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230725BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230725BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08G77/392
C08G77/385
B32B27/00 101
B05D7/24 302L
B05D7/24 303A
B05D7/24 302Y
B05D7/24 301B
B05D7/24 303E
B05D1/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006919
(22)【出願日】2022-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/相界面制御による熱・物質移動促進プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】浦田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知哉
(72)【発明者】
【氏名】穂積 篤
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J246
【Fターム(参考)】
4D075AC64
4D075AD06
4D075AD09
4D075AE03
4D075BB21Z
4D075BB24Z
4D075BB26Z
4D075BB46X
4D075BB60Z
4D075BB61Z
4D075BB63Z
4D075BB68Z
4D075BB69Z
4D075BB92Y
4D075CA17
4D075CA36
4D075CA37
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB14
4D075EA06
4D075EA07
4D075EB14
4D075EB16
4D075EB43
4D075EB47
4D075EB51
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC37
4D075EC51
4F100AB10B
4F100AB11B
4F100AB17B
4F100AB21B
4F100AB31B
4F100AG00B
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100DC00A
4F100DD01A
4F100DJ00A
4F100EH462
4F100EH46A
4F100EJ082
4F100EJ08A
4F100YY00A
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA260
4J246BA26X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA340
4J246CA349
4J246CA34U
4J246CA34X
4J246CA460
4J246CA469
4J246CA46M
4J246CA46X
4J246CA820
4J246CA829
4J246CA82M
4J246CA82X
4J246FA071
4J246FA232
4J246FA372
4J246FA441
4J246FB051
4J246FE07
4J246GB33
4J246GC49
4J246GD08
4J246HA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】基材上の所望の箇所に、優れた撥液性を付与することが可能な、フッ素化膜を備えたフッ素化構造体及びその構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材と該基材上に形成されたフッ素化膜とを備えたフッ素化構造体であって、前記フッ素化膜は、有機シランと金属アルコシキドが共加水分解・縮重合することにより得られるポリシロキサン骨格を含み、該ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、下記の式(1)で表される基が結合した、フッ素化構造体及びその製造方法を提供する。
X-C-S-C-R-・・・(1)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表し、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表す。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材上に形成されたフッ素化膜とを備えたフッ素化構造体であって、
前記フッ素化膜は、有機シランと金属アルコシキドが共加水分解・縮重合することにより得られるポリシロキサン骨格を含み、該ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、下記の式(1)で表される基が結合した、フッ素化構造体。
X-C-S-C-R-・・・(1)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表し、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表す。]
【請求項2】
前記フッ素化膜が、逆オパール構造からなる凹凸を有する、請求項1に記載のフッ素化構造体。
【請求項3】
前記フッ素化膜が、パターン状に形成された、請求項1又は2に記載のフッ素化構造体。
【請求項4】
前記フッ素化膜の厚みが、0.10~500μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素化構造体。
【請求項5】
前記基材が、ガラス、シリコン、アルミニウム、スズ、銅、アルミニウム合金、及び銅合金からなる群から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ素化構造体。
【請求項6】
基材上に形成されたフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、
基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び下記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する硬化膜を得る工程、
前記硬化膜に、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
を含む、フッ素化構造体の製造方法。
CH=CH―R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表す。]
【請求項7】
基材上に形成された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、
基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、下記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜を得る工程、
前記膜から、前記高分子微粒子を溶解除去して、逆オパール構造からなる凹凸を有する膜とする工程、
前記凹凸を有する膜に、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
を含む、フッ素化構造体の製造方法。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表す。]
【請求項8】
前記基材表面にパターンが施されたマスクを載置し、該マスクを介して前記前駆溶液を塗布する、請求項6又は7に記載のフッ素化構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、
有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び下記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む、前駆溶液。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【請求項10】
請求項2に記載のフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、
有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、下記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む、前駆溶液。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素1~4のアルキル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化膜を備えたフッ素化構造体、該構造体の製造方法、及び該構造体の製造に用いる前駆溶液に関し、特に、基材の表面を、逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜で部分的に被覆することにより、親液性と撥液性のコントラストを有するパターン化表面を提供することが可能な、フッ素化構造体、該構造体の製造方法、及び該構造の製造に用いる前駆溶液組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰促進を与える表面処理として、親液表面と疎液表面がパターン化された表面が注目されている。親液表面と疎液表面がパターン化された表面は、撥液性物質を基材表面に塗布することでし得ることができる。特に、水のみならず表面張力の小さな液体に対し撥液性を与えるためには、表面エネルギーの小さな分子の利用では限界があり、凹凸構造を付与し超撥液性を付与する必要がある。
【0003】
凹凸構造は一般的に、リソグラフィー、粒子堆積法等で形成される。特に、粒子堆積法によって得られた粒子堆積膜は、特殊な装置を必要としない簡便な方法で製造されるため、注目されている。例えば、非特許文献1にはコロイド粒子を利用した凹凸構造の形成方法が紹介されている。この方法は、コロイド粒子を鋳型として、後処理によりコロイド粒子を除去することで、逆オパール構造と呼ばれる凹凸構造を形成する手法である。
【0004】
また、表面エネルギーの小さな分子としては、通常、フッ化アルキル基と凹凸構造体表面と反応する官能基を有する分子が利用されている。例えば、非特許文献2には鋳型としてポリメタクリル酸(PMMA)で構成された粒子と凹凸構造体の骨格源であるテトラアルコキシシラン(TEOS)の加水分解物を混合し、基材上で硬化させ、PMMA粒子を除去することで凹凸構造を形成し、パーフルオロアルキルトリクロロシランをTEOS由来の凹凸構造体シリカ骨格表面に反応させることで、超撥液表面を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-213181号公報
【特許文献2】特開2013-249389号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hatton et al.,Assembly of large-area, highly ordered,crack-freeinverse opal films,PNAS,June 8,2010,vol. 107、no. 23,10354-10359.
【非特許文献2】BURGESS ET AL. Wettingin Color: ColorimetricDifferentiationof Organic Liquids with High Selectivity, ACS Nano, December 20, 2011, vol.6,1427-1437.
【非特許文献3】Ma et al., Superamphiphobic Coatings fromCombination of a Biomimetic Catechol-Bearing Fluoropolymer and HalloysiteNanotubes, Advanced Materials Interfaces, September 29, 2017, vol.4, 1700907.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2に記載の手法においてパターン化表面の作製を試みた場合、パーフルオロアルキルトリクロロシランは凹凸構造体以外の箇所にも反応するため、基材全面がフッ素化されてしまい、撥液表面となってしまう課題があった。
本発明は、こうした従来技術に鑑みてなされたものであり、従来技術における課題を解決して、基材上の所望の箇所のみに優れた撥液性を付与することが可能なフッ素化膜を備えたフッ素化構造体、好ましくは、親液性と撥液性の高コントラストを有するパターン化表面を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体、及び該構造体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の従来技術における課題を解決すべく検討した結果、凹凸構造をフッ素化する方法として、チオールと不飽和炭化水素基の反応であるチオール-エン反応に着目し、不飽和結合を有する骨格物質の製造方法として、ゾル-ゲル法に着目した。
なお、ゾル-ゲル法とは、金属アルコキシドの加水分解反応とそれに続く縮重合反応によって、ゾル及びゲル状態を経由して固体を形成する方法である。
【0009】
ゾル-ゲル法で形成する皮膜の1つとして、本発明者らは、既に、有機シランと金属アルコキシドとを有機溶媒、水、触媒を含む溶液中で共加水分解・縮重合させた前駆液を、基材表面に塗布後、所定時間、室温、大気圧下で静置することにより得られる有機-無機透明ハイブリッド皮膜が、金属、金属酸化膜、合金、半導体、ポリマー、セラミックス、ガラス、樹脂等の各種基材と密着する密着性を示すことを見いだしている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0010】
そこで、本発明者らは、不飽和結合を有する有機シランを用い、これにテトラアルコシキシラン等の金属アルコシキドを混合したゾル-ゲル液を前駆溶液に用いて、或いは該ゾル-ゲル液にポリスチレン粒子を混合しこれを前駆溶液に用いて、基材上に皮膜を形成した後、該皮膜をチオール-エン反応によりフッ素化する方法について検討した。
その結果、非特許文献2に示された方法では凹凸構造体以外の箇所もフッ素化されてしまい、目標のパターン化表面を得ることができなかったのに対し、この方法によれば基材上の所望の箇所のみをフッ素化し得ることが判明した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づくものであって、上記の課題を解決するための手段として、以下を提案するものである。
[1]基材と該基材上に形成されたフッ素化膜とを備えたフッ素化構造体であって、
前記フッ素化膜は、有機シランと金属アルコシキドが共加水分解・縮重合することにより得られるポリシロキサン骨格を含み、該ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、下記の式(1)で表される基が結合した、フッ素化構造体。
X-C-S-C-R-・・・(1)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表し、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表す。]
[2]前記フッ素化膜が、逆オパール構造からなる凹凸を有する、[1]に記載のフッ素化構造体。
[3]前記フッ素化膜が、パターン状に形成された、[1]又は[2]に記載のフッ素化構造体。
[4]前記フッ素化膜の厚みが、0.10~500μmである、[1]~[3]のいずれかに記載のフッ素化構造体。
[5]前記基材が、ガラス、シリコン、アルミニウム、スズ、銅、アルミニウム合金、及び銅合金からなる群から選ばれる、[1]~[4]のいずれかに記載のフッ素化構造体。
[6]基材上に形成されたフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、
基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び下記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する硬化膜を得る工程、
前記硬化膜に、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
を含む、フッ素化構造体の製造方法。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表す。]
[7]基材上に形成された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、
基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、下記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜を得る工程、
前記膜から、前記高分子微粒子を溶解除去して、逆オパール構造からなる凹凸を有する膜とする工程、
前記凹凸を有する膜に、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
を含む、フッ素化構造体の製造方法。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表す。]
[8]前記基材表面にパターンが施されたマスクを載置し、該マスクを介して前記前駆溶液を塗布する、[6]又は[7]に記載のフッ素化構造体の製造方法。
[9][1]に記載のフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、
有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び下記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む、前駆溶液。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
[10][2]に記載のフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、
有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、下記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む、前駆溶液。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素1~4のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材上の所望の箇所に優れた撥液性を付与することが可能な、フッ素化膜を備えたフッ素化構造体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、親液表面を有する基材上にフッ素化膜をパターン状に形成することで、親液表面と撥液表面がパターン化された表面を得ることができる。さらに、パターン化されたフッ素化膜を、逆オパール構造からなる凹凸を有する膜とすることで、親液性と撥液性のコントラストを高くして、沸騰促進体として有用な構造体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るフッ素化構造体の製造工程と作用・機序を模式的に示す図
図2】本実施形態におけるチオール-エン反応(TER)によるフッ素化を模式的に示す図
図3】本実施形態に係る逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化構造体の伝熱体への適用を模式的に示す図
図4】実施例2で得られた、フッ素化された逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面の外観及びSEM像を撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一の側面は、基材と該基材上に形成されたフッ素化膜とを備えたフッ素化構造体であって、前記フッ素化膜は、有機シランと金属アルコシキドが共加水分解・縮重合することにより得られるポリシロキサン骨格を含み、該ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、下記の式(1)で表される基が結合した、フッ素化構造体である。
X-C-S-C-R-・・・(1)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表し、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表す。]
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【0015】
また、本発明の第二の側面は、基材上に形成されたフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び上記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する硬化膜を得る工程、前記硬化膜に、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、を含む、フッ素化構造体の製造方法である。
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表す。]
【0016】
また、本発明の第三の側面は、基材上に形成された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法であって、基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、上記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、上記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する被膜を得る工程、前記被膜から、前記高分子微粒子を溶解除去して、逆オパール構造からなる凹凸を有する被膜とする工程、前記凹凸を有する被膜に、上記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、を含む、フッ素化構造体の製造方法である。
【0017】
また、本発明の第四の側面は、基材と、該基材上に形成されたフッ素化膜とを備えたフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、上記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び上記の式(2)で金属アルコキシドを含む、前駆溶液である。
【0018】
また、本発明の第五の側面は、基材上に形成された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体を製造するための前駆溶液であって、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、上記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、上記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む、前駆溶液である。
【0019】
本発明は、以上の側面により、基材上にフッ素化膜を備えたフッ素化構造体、又は基材上に逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体、及びこれらのフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造方法、並びにこれらのフッ素化膜を備えたフッ素化構造体の製造に用いる前駆溶液を提供するものである。
【0020】
なお、本明細書において、数値範囲等を「~」を用いて表す場合、その両端の数値等を含む。
【0021】
以下、本発明の各側面について、その最良の形態を含めて、さらに具体的な本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。
【0022】
《基材》
本実施形態で使用し得る基材としては、例えば、ガラス、シリコン、アルミニウム、スズ、銅などの金属、金属酸化膜、アルミニウム合金や銅合金等の合金、半導体、セラミックス、樹脂、木材、紙、繊維等の適宜の材料を任意に使用することができる。特に、親液性と撥液性のコントラストを有するパターン化表面を提供することを目的とする場合には、親液性の基材を用いることが好ましく、基材の具体例としては、例えば、ガラス、シリコン、アルミニウム、スズ、銅、アルミニウム合金、及び銅合金が好適なものとして例示される。
【0023】
これらの基材の形状は、板状、凹凸状、粉末状、チューブ状、ポーラス状、繊維状等、任意な形状の基材を使用することができる。
また、本実施形態においては、特に、基材の前処理は必要としないが、プラズマやUV等で基材表面を洗浄/活性化した後に使用することも可能である。
さらに、基材上に、任意の易接着層を形成した後に使用することも可能である。
【0024】
《フッ素化膜》
本実施形態に係るフッ素化膜は、有機シランと金属アルコシキドが共加水分解・縮重合することにより得られるポリシロキサン骨格を含み、該ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、下記の式(1)で表される基が結合した膜であって、下記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シランと、下記の式(2)で表される金属アルコシキドを含む前駆溶液を用いて基材上に形成された後、下記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させることで得られる。
【0025】
X-C-S-C-R-・・・(1)
[式中、Xは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基を表し、Rは、単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表す。]
CH=CH-R-Si-(OR・・・(1´)
(式中、Rは、前記のRと同じものを表し、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
Si(OR・・・・・・・・・・(2)
(式中、Rは、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。)
X-C-SH・・・・・・・・・(3)
(式中、Xは、前記のXと同じものを表す。)
以下、さらに詳しく記載する。
【0026】
〈式(1´)で表される有機シラン〉
上記式(1´)で表される有機シランは、フッ素化膜の原料として用いられるものであり、上記式(1´)において、Rは、単結合又はアルキレン基であり、アルキレン基である場合、その炭素数は、入手容易性の点から10以下であり、好ましくは6以下である。具体的には、Rとして、単結合又はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、より好ましくは、単結合又はメチレン基が挙げられる。
また、上記式(1´)におけるアルコキシ基である-ORは、フッ素化膜における前記ポリシロキサン骨格を形成する際の共加水分解・縮重合反応に寄与する基であって、加水分解速度および加水分解後の離脱基の揮発性の点から、アルキル基(R)の炭素数は、1~4が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。
【0027】
式(1´)で表される有機シランとして、具体的にはビニルトリメトキシシラン、ビニルジエトキシメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルジエトキシメトキシシラン等を用いることができる。
【0028】
〈式(2)で表される金属アルコキシド〉
上記式(2)で表される金属アルコキシドは、前記式(1´)で表される有機シランとともにフッ素化膜の原料として用いられるものであり、式(2)におけるアルコキシ基である-ORは、前述の-ORとともに、フッ素化膜における前記ポリシロキサン骨格を形成する際の共加水分解・共縮重合反応に寄与する基であって、加水分解速度および加水分解後の離脱基の揮発性の点から、アルキル基(R)の炭素数は、1~4が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。
【0029】
《フッ素化構造体の製造方法》
本実施形態において、フッ素化構造体の製造方法は、
[1]基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、上記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、及び上記の式(2)で表される金属アルコキシドを含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する硬化膜を得る工程、及び
[2]前記硬化膜に、上記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
を含む。
図1は、本実施形態に係るフッ素化構造体の製造工程を模式的に示す図であり、前記[1]及び[2]の工程を、該図の上段左部から下段に示す。
以下、さらに詳しく記載する。
【0030】
〈前記[1]の工程〉
第1図の上段左部に示すように、前記不飽和結合を含有する有機シランと前記金属アルコキシドに、有機溶媒、水、及びゾル-ゲル触媒を加えた前駆溶液を基材に塗布し、該前駆溶液中のアルコキシ基同士を反応させて加水分解及び共縮重合することにより、酸素を介してSi分子が結合されたポリシロキサン骨格を有する膜を形成し、基材との密着性を改良するとともに、前記有機シラン由来の不飽和結合を含む膜を得ることができる。
【0031】
本実施形態では、金属アルコキシドと不飽和結合を含有する有機シランのモル比(金属アルコキシド/有機シラン)が、0.5以上の任意のモル比、好ましくは0.5~100のモル比、さらに好ましくは1~5で混合されていること、得られる膜が、前記基材と強固に密着すること、得られる膜が、平面、曲面、凹凸面、ポーラス面の中から選択した少なくとも1種類以上の表面から構成された混合表面と強固に密着することを、好ましい実施態様としている。
【0032】
また、本実施形態では、不飽和結合を有する有機シランと金属アルコキシドのモル比を調整することで、後述する逆オパール構造を有する凹凸を形成する際に用いる溶剤に前記基材を浸漬した際のソルベントクラックの発生、膜の剥離を抑制し、均一に逆オパール構造を有する凹凸を形成できることを好ましい実施態様としている。
【0033】
(溶媒)
前記前駆溶液に用いる有機溶媒は、透明で均一な皮膜を形成するために、少量の水と混和し、かつ、不飽和結合を有する有機シランと金属アルコキシドを溶解させることができること、基材上に前駆溶液を塗布した際、速やかに揮発するものであることが望ましい。すなわち、蒸気圧が水より高い、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を用いて前駆溶液を調製することが好ましい。
【0034】
添加する水の量は、前駆溶液に含まれる全ての反応性官能基であるアルコキシ基が加水分解し、Si-OH基を生成するために、アルコキシ基のモル数以上の水が含まれていることが好ましい。水の量が上記のモル数より少なくても、皮膜の形成は可能である。しかし、上記のモル数以上の水を含むことによって、十分な加水分解を行い、加水分解していない有機シランおよび金属アルコキシドが処理中に揮発することが避けられるので、歩留まりが向上する。
【0035】
(ゾル-ゲル触媒)
本実施形態に係る前駆溶液では、不飽和結合を有する有機シラン及び金属アルコキシドのアルコキシ基の加水分解を促進させる(Si-OH基の生成)ために、アルコキシ基の加水分解を促進する効果を有するゾル-ゲル触媒が使用される。
例えば、不飽和結合を有する有機シランと金属アルコキシドの縮重合物質がpH1~3で安定化する場合には、塩酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を使用することが好ましい。
【0036】
(前駆溶液の塗布)
本実施形態において、前駆溶液は、硬化後の膜厚で0.10~500μmとなるように塗布されることが好ましい。
前駆溶液の塗布方法は、特に制限はなく、例えば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、ローラーコーティング法、バーコティング法、インクジェットコーティング法、グラビアコーティング法、スプレー法から選択したいずれかの方法が利用可能である。
【0037】
本実施形態においては、基材表面にパターンが施されたマスクを載置し、該マスクを介して前記前駆溶液を塗布することで、パターン状に塗布することもできる。
パターンの形状及び大きさは特に限定されないが、例えば、ドット径の大きさは10μmから10mmの間で制御することができる。また、ピッチ間はドット径の100~5000%の範囲で指定することができる。
また、マスクの材質も特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ガラスなどが好ましく用いられる。
【0038】
(硬化膜の形成)
前記の基材上に塗布された前駆溶液を加熱、硬化させることによって、前記有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜を形成できる。
膜の硬化温度は、特に制限はなく、用いる溶媒が揮発可能な温度であり、好ましくは0~150℃、より好ましくは室温~100℃である。
また、膜の硬化時間は、用いる溶媒と温度によって変動するが、好ましくは、1分間~24時間である。
なお、熱以外のエネルギーを加えて、前記有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合反応を誘起することもできる。
【0039】
〈前記[2]の工程〉
前記[2]の工程は、第1図の下段に示すように、チオール-エン反応(TER)を用いてフッ素化を行う工程であり、該工程では、前記[1]の工程で形成された硬化膜に、前記の式(3)(X-C-SH)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いて反応を進行させると、該チオール化合物のSH基と前記の式(1´)(CH=CH-R1-Si-(OR)で表される有機シランが有する不飽和結合とのチオール-エン反応により、ポリシロキサン骨格を形成するケイ素原子のうち一部のケイ素原子に、X-C-S-C-R-で表される基が結合したフッ素化膜が得られる。
【0040】
図2は、本実施形態におけるチオール-エン反応によるフッ素化を模式的に示す図である。該図に示すように、チオール-エン反応を用いる方法は原理的に二重結合の存在している部位のみで選択的に反応が進行するため、従来一般的に利用される方法における有機シラン等が非選択的に系内で反応する(下地も撥液性になる)という問題が発生しない。
【0041】
具体的には、前記の硬化膜が形成された基材を、上記の式(3)で表されるチオール化合物、触媒、及び溶媒が混合された溶液に浸漬し、チオール-エン反応を進行させ、反応後、基材を前記溶媒で洗浄してフッ素化膜が得られる。
【0042】
(上記の式(3)で表されるチオール化合物)
上記の式(3)におけるXは、CF(CFn-1(n=1~10の整数)で表されるフルオロアルキル基であり、n(炭素数)は6~10が好ましく、8が特に好ましい。
【0043】
(ラジカル発生剤)
チオール-エン反応で使用されるラジカル発生剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソオブチレート、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾビス系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ラウロイル、過酢酸tert-ブチル、過安息香酸tert-ブチル、tert-ブチルヒドロペルオキシド、tert-ブチルペルオキシピバレート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーイソノナノエート、t-アミルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0044】
(溶媒)
チオール-エン反応において、用いる有機溶媒は、前記チオール化合物及び前記ラジカル発生剤を溶解させることができ、該反応を阻害させない溶媒であることが望ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等の有機溶媒が挙げられる。
【0045】
(チオール-エン反応)
チオール-エン反応の温度は、特に制限はないが、ラジカル発生剤の10時間半減期の温度以上、かつ溶媒の沸点以下が好ましい。
また、時間は、用いる溶媒と温度によって変動するが、好ましくは、1~24時間である。
なお、例えば紫外線照射などの、熱以外のエネルギーを加えて、チオール-エン反応を誘起することもできる。
【0046】
(パターン状に形成されたフッ素化膜を有するフッ素化構造体)
本実施形態においては、前記[1]の工程の基材上に前駆溶液を塗布する際に、パターンが施されたマスクを介して前駆溶液を塗布し、硬化させることで、パターン状に形成されたフッ素化膜を有するフッ素化構造体を得ることができる。特に、基材として、ガラス、シリコン、アルミニウム、スズ、銅、アルミニウム合金、及び銅合金等の親液表面を有する基材を用い、該基材上に本実施形態に係るフッ素化膜をパターン状に形成することで、親液表面と撥液表面がパターン化された表面を得ることができるため、得られたフッ素化構造体を伝熱体に適用した場合には、優れた沸騰促進体として機能する。
【0047】
《基材上に形成された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を備えたフッ素化構造体》
本実施形態に係るフッ素化構造体は、基材上に形成されたフッ素化膜が逆オパール構造からなる凹凸を有することが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る、逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜は、ポリスチレン(以下、PSと略称する)等の高分子からなる微粒子の積層構造(オパール構造)を鋳型として、後処理により該微粒子を除去することで、逆オパール構造と呼ばれる凹凸構造を形成する手法により形成され、巨視的に細孔の配列に3次元的連続性を有する凹凸構造を有している。
したがって、フッ素化膜が逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化構造体は、より撥液性が高められ、特に前述のように親液表面を有する基材上にパターン状に形成された場合、高コントラストな親液表面と撥液表面が得られるので、優れた沸騰促進構造体を提供することができる。
【0049】
図3は、本実施形態に係る逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化構造体の伝熱体への適用を模式的に示す図であり、親液部位と撥液部位を有することで、撥液部位による核沸騰開始温度低下と親液部位による限界熱流束が向上する。
【0050】
具体的には、本実施形態に係る、逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を有するフッ素化構造体は、
[1―1]基材の上に、有機溶媒、水、ゾル-ゲル触媒、前記の式(1´)で表される不飽和結合を有する有機シラン、前記の式(2)で表される金属アルコキシド、及び高分子微粒子のコロイド溶液を含む前駆溶液を塗布し、硬化させて、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜を得る工程、
[1-2]前記膜から、前記高分子微粒子を溶解除去して、逆オパール構造からなる凹凸を有する膜とする工程、及び
[2]前記凹凸を有する膜に、前記の式(3)で表されるチオール化合物を含有する溶液を用いてチオール-エン反応を進行させる工程、
により製造される。
【0051】
前記[1―1]、[1-2]及び[2]の工程を、前記図1の上段及び右部に示す。図中、「複合膜」は、前述した積層構造(オパール構造)のポリスチレンビーズと、それを鋳型として形成された、有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜を意味している。
以下、さらに詳しく記載する。
【0052】
〈前記[1―1]の工程〉
前記[1―1]の工程は、第1図の上段に示すように、基材に塗布される前駆溶液中に、鋳型となる高分子微粒子のコロイド液を含む点以外は、前述の[1]の工程と同じである。
鋳型となる高分子微粒子は、前駆溶液中の溶媒には溶解せず、次の[2]の工程において溶解除去することが可能な高分子化合物から構成され、具体的には、ポリスチレンやポリアクリレート等の高分子化合物を例示することができ、中でも、ポリスチレンが好ましく用いられる。
【0053】
鋳型となる高分子微粒子の形状は真球又は略球形であることが好ましく、高分子微粒子は、水やアルコール等に単分散させてコロイド溶液とされてから、前駆体液に混合される。
コロイド液中の高分子微粒子の大きさは、適宜選択されるが、好ましくは50nm~5μm、より好ましくは100nm~2μmである。
また、コロイド液中における高分子微粒子の含有量は、高分子微粒子がコロイド液中で安定して分散し得る範囲であれば、特に限定されないが、1~5wt%が好ましい。
【0054】
さらに、前駆溶液に混合される該コロイド液の量は、該コロイド液中の高分子微粒子の含有量と、前駆溶液中の高分子微粒子と該高分子微粒子を鋳型として形成される硬化膜の比率に応じて決定される。
すなわち、前駆溶液中の高分子粒子質量([高分子微粒子]と表す)と該高分子微粒子を鋳型として形成される硬化膜質量([硬化膜]と表す)の比率は、好ましくは、[硬化膜]/[高分子微粒子]の値が2以下であり、さらに好ましくは1以下であり、この比率となるように、コロイド液中の高分子粒子の含有量に応じて、混合されるコロイド液の量が決定される。
【0055】
〈前記[1-2]の工程〉
前記[1-2]の工程は、前記[1-2]の工程で形成された膜から、前記高分子微粒子を溶解除去して、逆オパール構造からなる凹凸を有する膜とする工程であり、該工程では、硬化後の有機シランと金属アルコシキドの共加水分解・縮重合物を含有する膜から、前記の高分子微粒子を溶解除去するために、高分子微粒子をだけを溶解することができる溶媒を用いる必要がある。
したがって用いる溶媒は、高分子微粒子に用いた高分子化合物に応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、高分子微粒子としてポリスチレンビーズを用いた場合、好ましい溶媒として、トルエンやテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられ、中でもトルエンが好ましく用いられる。
【0056】
〈前記[2]の工程〉
前記[2]の工程は、第1図の右部に示すように、同図下段に示す前述の[2]の工程と同じであるので、説明を省略する。
【実施例0057】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
以下に、実施例及び比較例に用いた濡れ性の評価方法について示す。
(静的接触角)
接触角は3μLの液滴を水平に設置した各種試料表面に静置し、試料の水平方向より液滴の形状をカメラにより撮影し、液体・固体・気体のなす角度を静的接触角と定義した。
【0059】
(表面エネルギー)
表面エネルギーは各種平滑表面において水、ジヨードメタン、グリセロールの静的接触角を測定し、これらの値を用いて非特許文献3に記載の酸・塩基理論式により、算出した。
【0060】
(実施例1)
エタノール4mL、テトラエトキシシラン(TEOS)4mL、及びビニルトリメトキシシラン6mlの混合溶液に、0.01M塩酸を0.72mL添加し、24時間撹拌し、骨格源となる前駆溶液を調製した。
紫外線照射したアルミニウム基材表面に、ドットパターン(穴径3.0mm、穴間隔5.0mm)が施されたシリコーン樹脂製のマスクを貼付し、穴内に上記前駆溶液を3.0μL滴下し、80℃24時間硬化させ、パターン化した硬化膜を得た。
【0061】
次に、パターン化した硬化膜が形成をされたアルミニウム基材表面を、イソプロパノール20mL、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.07g、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカン-1-チオール1mLが混合された溶液に浸漬し、70℃で24時間撹拌し、チオール-エン反応を進行させた。
反応後、サンプルをイソプロパノールで洗浄し、フッ素化硬化膜をパターン化したアルミニウム基材表面を得た。
パターン化したアルミニウム基材表面上における、濡れ性の各値は以下の表1に示すとおりである。
【0062】
(実施例2)
エタノール4mL、テトラエトキシシラン(TEOS)4mL、及びビニルトリメトキシシラン6mlの混合溶液に、0.01M塩酸を0.72mL添加し、24時間撹拌し、骨格源を調製した。
この骨格源に固形分率が2.5wt%となるように、所定量のエタノールを更に添加した溶液50μLと、これに2.5wt%のポリスチレンコロイド溶液(ポリスチレン粒子の粒径1.0μm)200μLを添加し、前駆溶液とした。
紫外線照射したアルミニウム基材表面に、ドットパターン(穴径3.0mm、穴間隔5.0mm)が施されたシリコーン樹脂製のマスクを貼付し、穴内に上記前駆溶液を3.0μL滴下し、80℃24時間硬化させた。硬化後、ポリスチレン粒子をトルエンで除去し、100℃で乾燥することで逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面を得た(図1
【0063】
次に、逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面を、イソプロパノール20mL、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.07g、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカン-1-チオール1mLが混合された溶液に浸漬し、70℃で24時間撹拌し、チオ-ルエン反応を進行させた。
反応後、サンプルをイソプロパノールで洗浄し、フッ素化された逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面を得た。
図4は、得られた、フッ素化された逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面の外観及びSEM像を撮影した写真である。
フッ素化された逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面上における濡れ性の各値は以下の表1に示すとおりであった。
【0064】
(比較例1)
エタノール13.5mL、及びテトラエトキシシラン(TEOS)2.63mLの混合溶液に、0.01M塩酸を10mL添加し、24時間撹拌し、骨格源とした。この骨格源に固形分率が2.5wt%となるように、所定量のエタノールを更に添加した50μLと、これに2.5wt%のポリスチレンコロイド溶液(ポリスチレン粒子の粒径1.0μm)200μLを添加し、前駆溶液とした。
紫外線照射したアルミニウム基材表面に、ドットパターン(穴径3.0mm、穴間隔5.0mm)が施されたシリコーン樹脂製のマスクを貼付し、穴内に上記前駆溶液を3.0μL滴下し、80℃で24時間硬化させた。
硬化後、ポリスチレン粒子をトルエンで除去し、100℃で乾燥することで逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム基材表面を得た。
【0065】
次に、密閉可能なテフロン(登録商標)容器に、逆オパール構造体をパターン化したアルミニウム表面、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシラン(トリクロロ-1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルシラン)100μLが入ったガラス瓶を静置し、密閉後、120℃に設定されたオーブン内に24時間静置した。
フッ素化された逆オパール構造からなる凹凸を有するフッ素化膜を有する構造体をパターン化したアルミニウム基材表面上における濡れ性の各値は、表1に示すとおりであった。
【0066】
【表1】
【0067】
上記表の結果から、比較例1の方法では、アルミニウム下地表面におけるエタノールの接触角が60°となり、アルミニウム下地表面もフッ素化されて、部位選択的な撥液化が困難であることが明らかである。これに対し、実施例1及び2に示されるように、本発明の、不飽和結合を有する官能基を基材表面にパターン化し、その部位のみをフッ素化する方法によれば、アルミニウム下地表面はフッ素化されず、親液性及び撥液性の高コントラストを有する表面を形成することが可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフッ素化膜構造体を基材上にパターン状に形成することで、親液表面と撥液表面がパターン化された表面を得ることができるため、得られたフッ素化構造体は、優れた沸騰促進機能を有する伝熱体を提供することができる。
図1
図2
図3
図4