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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105989
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】粉体の製造方法および粉体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20230725BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20230725BHJP
   B01J 2/04 20060101ALI20230725BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230725BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20230725BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEP
C08B15/04
B01J2/04
B01J20/30
B01J20/24 C
B01J20/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007068
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真衣
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克夫
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
【テーマコード(参考)】
4C090
4F070
4G004
4G066
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA34
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BD21
4C090BD22
4C090BD34
4C090CA34
4C090DA05
4F070AA02
4F070AB03
4F070AC12
4F070AC36
4F070AE28
4F070CA05
4F070CB05
4F070CB12
4F070DA34
4F070DC01
4F070DC03
4F070DC06
4F070DC15
4G004EA08
4G066AB05D
4G066AB12D
4G066AC02B
4G066BA09
4G066BA17
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA54
4G066DA07
4G066FA02
4G066FA11
4G066FA14
4G066FA26
4G066FA33
4G066FA34
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】タンパク質の吸着能を向上させる技術を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を含む粉体の製造方法は、スラリーを噴霧乾燥する工程を含み、スラリーは、アニオン性基を有するセルロース繊維と、有機溶媒を含む溶媒と、を含み、セルロース繊維が溶媒に分散しており、ゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である。セルロース繊維を含む粉体は、セルロース繊維がアニオン性基を有し、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む粉体の製造方法であって、
スラリーを噴霧乾燥する工程を含み、
前記スラリーは、
アニオン性基を有するセルロース繊維と、有機溶媒を含む溶媒と、を含み、前記セルロース繊維が前記溶媒に分散しており、
ゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である、粉体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体の製造方法において、
前記スラリーの合計質量に対して、固形分換算で前記セルロース繊維が0.01質量%以上0.50質量%以下含まれる、粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粉体の製造方法において、
前記噴霧乾燥における入口温度が120℃以上180℃以下である、粉体の製造方法。
【請求項4】
セルロース繊維を含む粉体であって、
前記セルロース繊維がアニオン性基を有し、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である、粉体。
【請求項5】
請求項4に記載の粉体において、
前記セルロース繊維は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーである、粉体。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の粉体であって、
タンパク質の吸着に用いられる、粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の製造方法および粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、生分解性を有する天然由来材料であり、汎用性が高く、また、化学的および熱的安定性が比較的高い材料として知られている。セルロースは、タンパク質等の生体物質に対し、非特異的な相互作用や吸着を起こし難いため、精製・分離用カラムの充填剤や、酵素、微生物、細胞の固定化担体・吸着剤・膜材料等に用いられている。
【0003】
微細繊維状セルロースは、セルロースナノファイバーとも呼ばれ、木材等のセルロース系原料を解繊処理することにより得られるナノオーダーのセルロース繊維である。従来から、セルロースナノファイバーについて、タンパク質等の生体物質に対する吸着特性に関する研究結果が報告されている。例えば、非特許文献1には、TEMPO酸化セルロースナノファイバーに対するタンパク質の吸着特性が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ramon Weishaupt,他8名“TEMPO-OxidizedNanofibrillated Cellulose as a High Density Carrier for Bioactive Molecules”, Biomacromolecules,2015, 16, 11, 3640-3650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のセルロースナノファイバーは、タンパク質の吸着能が十分であるとは言えず、改善の余地があった。このため、タンパク質の吸着能を向上させることができる技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の形態として実現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、セルロース繊維を含む粉体の製造方法が提供される。この粉体の製造方法は、スラリーを噴霧乾燥する工程を含み、前記スラリーは、アニオン性基を有するセルロース繊維と、有機溶媒を含む溶媒と、を含み、前記セルロース繊維が前記溶媒に分散しており、ゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である。
【0008】
(2)上記形態の粉体の製造方法において、前記スラリーの合計質量に対して、固形分換算で前記セルロース繊維が0.01質量%以上0.50質量%以下含まれていてもよい。
【0009】
(3)上記形態の粉体の製造方法において、前記噴霧乾燥における入口温度が120℃以上180℃以下であってもよい。
【0010】
(4)本発明の他の形態によれば、セルロース繊維を含む粉体が提供される。この粉体は、前記セルロース繊維がアニオン性基を有し、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である。
【0011】
(5)上記形態の粉体において、前記セルロース繊維は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーであってもよい。
【0012】
(6)上記形態の粉体は、タンパク質の吸着に用いられてもよい。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、タンパク質吸着剤や、カラム充填剤、固定化担体等の形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態の製造方法によれば、タンパク質の吸着能が優れた粉体を製造できる。また、本実施形態の粉体によれば、タンパク質の吸着能が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のセルロース繊維を含む粉体の製造方法は、スラリーを噴霧乾燥する工程を含む。このスラリーは、アニオン性基を有するセルロース繊維と、有機溶媒を含む溶媒と、を含み、セルロース繊維が溶媒に分散しており、ゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である。
【0017】
[セルロース繊維]
本実施形態において用いられるセルロース繊維は、アニオン性基を有する。アニオン性基を有することによって、タンパク質に対する吸着能を高めることができる。
【0018】
アニオン性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1種等が挙げられる。本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)に限らず、塩型、すなわちカルボン酸塩基(-COOX、Xはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型とが混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、および硫酸基等についても、同様に、酸型に限らず塩型も含む概念であり、酸型と塩型とが混在してもよい。塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩やホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミンや2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0019】
一実施形態において、アニオン性基としては、カルボキシ基が好ましい。カルボキシ基を含有するセルロース繊維としては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化することによって形成された酸化セルロース繊維や、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化することによって形成されたカルボキシメチル化セルロース繊維等が挙げられる。
【0020】
セルロース繊維におけるアニオン性基の量は、特に限定されないが、セルロース繊維の乾燥質量に対して0.5~3.0mmol/gであることが好ましく、1.5~2.0mmol/gであることがより好ましい。アニオン性基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、乾燥質量を精秤したセルロース繊維を用いて0.5~1質量%スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。硫酸基についても、同様の電気伝導度測定によって測定することができる。その他のアニオン性基についても、公知の方法で測定することができる。
アニオン性基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース繊維質量(g)〕
【0021】
本実施形態において用いられるセルロース繊維は、I型結晶構造を有することが望ましい。セルロースI型結晶は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、セルロース繊維に水不溶性を持たせて、水に対する膨潤を抑え、耐久性を高めることができる。このため、I型結晶構造を有するセルロース繊維を用いることにより、タンパク質の吸着能に優れ、かつ、耐久性の高い粉体を提供することができる。
【0022】
セルロース繊維がI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定によって得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近との2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0023】
セルロース繊維としては、例えば、平均繊維径が3nm以上500nm以下である微細繊維状セルロース(セルロースナノファイバー)を用いてもよい。微細繊維状セルロースの平均繊維径は、より好ましくは3nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは3nm以上30nm以下である。
【0024】
セルロース繊維の平均繊維径は、次のようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%のセルロース繊維の水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を平均繊維径とする。
【0025】
セルロース繊維の平均アスペクト比は、特に限定されないが、50以上1000以下であることが好ましく、100以上800以下であることがより好ましく、200以上500以下であることがさらに好ましい。
【0026】
セルロース繊維の平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。すなわち、先に述べた方法に従い平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像からセルロース繊維の平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、平均繊維長とする。そして、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維径(nm)
【0027】
微細繊維状セルロースは、解繊処理を行うことにより得てもよい。解繊処理は、アニオン性基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理としては、特に限定されないが、例えば、高速回転下でのホモミキサーや、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、微細繊維状セルロースの水分散液を得ることができる。
【0028】
好ましい一実施形態の微細繊維状セルロースとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性された酸化微細繊維状セルロースが挙げられる。酸化微細繊維状セルロースは、木材パルプ等の天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカル等を挙げることができる。N-オキシル化合物としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化された微細繊維状セルロースは、一般に、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(以下、TOCNとも呼ぶ)と称されている。本実施形態において、セルロース繊維は、微細繊維状セルロースであることが好ましく、酸化微細繊維状セルロースであることがより好ましく、TOCNであることがさらに好ましい。なお、酸化微細繊維状セルロースは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基またはケトン基を有していてもよいが、アルデヒド基およびケトン基を実質的に有していないことが好ましい。
【0029】
[溶媒]
本実施形態における溶媒としては、有機溶媒を含む。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコールや、ケトン、エーテル、エステル等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-プロパノール等が挙げられる。有機溶媒としては、誘電率が比較的高く、スラリー中のセルロース繊維が凝集することを抑制する観点から、アルコールを用いることが好ましく、メタノールまたはエタノールを用いることがより好ましい。また、噴霧乾燥後に得られる粉体におけるタンパク質吸着能を向上させる観点から、エタノールを用いることが特に好ましい。また、溶媒として、有機溶媒とともに水を含んでいてもよい。有機溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。溶媒に有機溶媒が含まれることにより、噴霧乾燥によって形成される粉体における細孔の状態を適切な状態に保つことができる。
【0030】
溶媒における有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、75質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。なお、溶媒の残部は、水である。
【0031】
[スラリー]
スラリーは、有機溶媒を含む溶媒に、アニオン性基を有するセルロース繊維が分散したものである。溶媒とセルロース繊維とを混合攪拌することにより、セルロース繊維が溶媒に分散したスラリーを得ることができる。スラリーの合計質量に対するセルロース繊維の含有量は、特に限定されないが、例えば、固形分換算で0.01質量%以上0.50質量%以下含まれることが好ましく、0.02質量%以上0.50質量%以下含まれることがより好ましく、0.04質量%以上0.50質量%以下含まれることがさらに好ましく、0.04質量%以上0.40質量%以下含まれることがより一層好ましく、0.04質量%以上0.20質量%以下含まれることが特に好ましい。上記下限以上とすることにより、生産効率を向上できる。また、上記上限以下とすることにより、スラリーの粘度が過度に上昇することを抑制できるので、噴霧乾燥する際にノズルが詰まることを抑制でき、その結果、生産効率の低下を抑制できる。
【0032】
本実施形態におけるスラリーのゼータ電位は、-40mV以上-20mV以下である。ゼータ電位とは、電気二重層のすべり面での電位のことであり、界面動電位とも称される。スラリーのゼータ電位は、-40mV以上-25mV以下であることがより好ましい。上記下限以上とすることにより、噴霧乾燥後に得られる粉体におけるタンパク質吸着能を向上できる。また、上記上限以下とすることにより、スラリーにおけるセルロース繊維の分散性が低下することを抑制できるので、噴霧乾燥する際にノズルが詰まることを抑制でき、その結果、生産効率の低下を抑制できる。ゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定することができる。より具体的には、ゼータ電位測定装置を用いて、pH7.0の純水中、0.2mg/mL、温度25℃の条件により測定できる。
【0033】
[噴霧乾燥]
本実施形態にかかる粉体の製造方法は、有機溶媒を含む溶媒にアニオン性基を有するセルロース繊維が分散したスラリーを噴霧乾燥する工程を含む。
【0034】
噴霧乾燥の方式としては、特に限定されないが、例えば、スラリーを2流体式や4流体式等のノズル方式であってもよく、回転ディスク方式であってもよい。噴霧乾燥における入口温度は、特に限定されないが、100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。上記範囲内とすることにより、噴霧乾燥後に得られる粉体におけるタンパク質吸着能をより向上できる。本明細書において、「噴霧乾燥における入口温度」とは、噴霧乾燥装置の乾燥室と、その乾燥室にガスを導入する配管との接合部分において計測される温度を意味する。噴霧乾燥におけるスラリー流量は、特に限定されないが、例えば、BUCHI社製、ミニスプレードライヤー B-290を用いる場合、1mL/分以上10mL/分以下であることが好ましい。噴霧乾燥におけるガス流量は、特に限定されないが、1L/分以上10L/分以下であることが好ましい。噴霧乾燥に用いるガスとしては、例えば、希ガスや窒素ガス等を用いることができる。
【0035】
[粉体]
上述の製造方法によって、セルロース繊維を含む粉体を得ることができる。この粉体は、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である。
【0036】
粉体の比表面積は、50m/g以上400m/g以下であることがより好ましく、100m/g以上300m/g以下であることがさらに好ましい。上記下限以上とすることにより、タンパク質吸着能を向上できる。また、上記上限以下とすることにより、粉体の物理強度を付与することができる。本明細書において、「比表面積」とは、BET法による窒素吸着比表面積を意味する。粉体の比表面積は、77Kでの窒素吸着等温線を、容量測定器を用いて測定することにより求められる。
【0037】
粉体の全細孔容積は、0.1cm/g以上0.85cm/g以下であることがより好ましく、0.2cm/g以上0.75cm/g以下であることがさらに好ましい。上記下限以上とすることにより、タンパク質吸着能を向上できる。また、上記上限以下とすることにより、粉体の物理強度を付与することができる。本明細書において、「全細孔容積」とは、全ての細孔の容積の総和を意味する。粉体の全細孔容積は、相対圧が1に十分近い状態における吸着ガス量を液体換算することで測定できる。
【0038】
粉体の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。上記下限以上とすることにより、粉体取り扱い時の粉立ちを抑制できる。また、上記上限以下とすることにより、粉体取り扱い時の充填量を上げることができる。粉体の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察することで確認できる。本明細書における「粉体の平均粒子径」は、SEM画像を用いて、少なくとも20個の粒子においてそれぞれの最大径を測定し、その平均値を求めることにより算出できる。
【0039】
[タンパク質の吸着方法等]
本実施形態にかかる粉体は、タンパク質吸着能に優れるため、タンパク質の吸着に好適に用いることができ、例えば、タンパク質吸着剤や、カラム充填剤、固定化担体等に好適に用いることができる。本実施形態にかかる粉体にタンパク質を吸着する方法としては、特に限定されず、例えば、タンパク質を含んだ溶液に粉体を浸漬してもよく、撹拌や振とう等を行ってもよい。また、例えば、本実施形態にかかる粉体を入れた容器にタンパク質を含む溶液を流して、粉体にタンパク質を吸着させてもよい。
【0040】
本実施形態において、吸着させるタンパク質としては特に制限されず、例えば、酵素、抗体、ホルモン等の各種タンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質を含ませる溶媒にも特に制限はなく、各種緩衝液(リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、Tris、HEPES等)が好適に用いられる。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[原料]
・TOCN:TEMPO酸化セルロースナノファイバー(レオクリスタI-2SX、第一工業製薬株式会社製、セルロース濃度:2質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、数平均繊維径:4nm、平均アスペクト比:280、カルボキシ基量:1.9mmol/g)
・セルロース粒子(比較例):Cellufine c-500(JNC株式会社製)
・エタノール
・メタノール
・イソプロパノール
【0043】
[粉体の調製]
溶媒50mLに、以下に示す量のTOCNを加えて、分散機(IKA社製、ホモジナイザー T10 basic)を用いて70W、Power 6、30000rpmの条件で60分間撹拌することによって、セルロース繊維が溶媒に分散したスラリーを調製した。スラリーの噴霧乾燥は、噴霧乾燥器(BUCHI社製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて行った。噴霧乾燥は、以下に示す入口温度で、液体供給速度2.5mL/分、ガス流量6L/分、液滴径10~200μmの条件で行った。これにより、TOCNを含む粉体を得た。
【0044】
(1)溶媒濃度の影響
以下の表1に示すように、溶媒としてエタノールを用いた場合の溶媒濃度の影響を調べた。エタノール濃度は質量%とし、残量は水とした。試料1~試料5では、スラリーにおけるエタノール濃度を表1に示す値とし、スラリーの合計質量に対するTOCN濃度を固形分換算で0.08質量%とした。噴霧乾燥における入口温度は、120℃とした。試料6は、溶媒に分散させる前の状態のTOCNであり、試料7は、汎用のセルロース粒子である。
【0045】
試料1~試料5における噴霧乾燥前のスラリー溶液について、ゼータ電位を測定した。また、噴霧乾燥によって得られた粉体(試料1~試料5)、試料6および試料7を、それぞれ水に分散させた溶液について、ゼータ電位を測定した。また、噴霧乾燥によって得られた粉体(試料1~試料5)、試料6および試料7について、比表面積(BET値)、全細孔容積、リゾチーム吸着量を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0046】
[測定方法]
・ゼータ電位
ゼータ電位(mV)は、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて測定した。pH7.0の純水中において、粉体濃度を0.2mg/mLとし、温度25℃の条件により測定した。
【0047】
・比表面積(BET値)
比表面積(m/g)は、77Kでの窒素吸着等温線を、容量測定器(ベル社製、BELSORP28SA)を用いて測定した。
【0048】
・全細孔容積
全細孔容積(cm/g)は、相対圧が1に十分近い状態における吸着ガス量の液体換算値を、容量測定器(ベル社製、BELSORP28SA)を用いて測定した。
【0049】
・リゾチーム吸着量
以下に示す方法により、リゾチーム吸着量(mg Lys/g TOCN)を測定した。リゾチームとして、ニワトリ卵白由来リゾチーム(MPバイオメディカル製、ゼータ電位:7.8mV、大きさ:4.5×3.0×3.0nm、等電点:11)を用いた。まず、リゾチーム10~40mgを水50mLに加え、振とう機を用いて30分間撹拌した後、上記粉体、TOCNまたはセルロース粒子を10mg加えて振とう機を用いて120分間撹拌した。その後、遠心分離(15000rpm、5分間)を行い、遠心分離後の上清について、紫外可視近赤外分光法(281nm)により、吸光度を測定し、別途作成した検量線との比較により、上清中の遊離のタンパク質量を定量した。投入したリゾチームの質量から、上清中の遊離のタンパク質量を差し引くことによって、試料に吸着したリゾチームの質量を求めた。リゾチーム吸着量(mg Lys/g TOCN)は、試料におけるセルロース繊維の固形分質量あたりの、吸着したリゾチームの質量とした。
【0050】
【表1】
【0051】
[測定結果]
表1に示すように、溶媒濃度が高いほど、噴霧乾燥によって得られる粉体の比表面積、全細孔容積が増大する傾向にあることがわかった。また、溶媒濃度が高いほど、噴霧乾燥によって得られる粉体のリゾチーム吸着量が増加する傾向にあることがわかった。溶媒が水のみである試料1や、比較例としての試料6および試料7では、リゾチーム吸着量が低かった。これに対し、有機溶媒が溶媒に含まれる試料では、噴霧乾燥によって得られる粉体のリゾチーム吸着量が増大することがわかった。乾燥前スラリーのゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である試料4および試料5では、リゾチーム吸着量が特に多く、タンパク質の吸着性に優れる粉体が得られたことが示された。また、試料4および試料5では、噴霧乾燥によって得られた粉体を水に分散させた溶液のゼータ電位の絶対値が、噴霧乾燥前のスラリー溶液のゼータ電位の絶対値と比較して、増加していた。このことから、乾燥前スラリーのゼータ電位が-40mV以上-20mV以下である試料4および試料5において、噴霧乾燥によって得られた粉体は、水に良好に分散することが示唆された。
【0052】
(2)噴霧乾燥温度の影響
以下の表2に示すように、噴霧乾燥における入口温度の影響を調べた。試料8~試料13では、溶媒として100%エタノールを用い、スラリーの合計質量に対するTOCN濃度を固形分換算で0.08質量%とし、噴霧乾燥における入口温度を表2に示す値とした。噴霧乾燥によって得られた粉体の比表面積および全細孔容積を、上記と同様の方法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[測定結果]
表2に示すように、噴霧乾燥における入口温度に関わらず、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、かつ、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である粉体を製造できることが示された。また、噴霧乾燥における入口温度を150℃以下とした試料8~試料11では、噴霧乾燥における入口温度を180℃とした試料12、試料13と比較して、得られた粉体の比表面積および全細孔容積がより大きい傾向があった。
【0055】
(3)スラリーにおけるセルロース繊維濃度の影響
以下の表3に示すように、スラリーにおけるセルロース繊維濃度の影響を調べた。試料14~試料17では、溶媒として100%エタノールを用い、スラリーの合計質量に対するTOCN濃度(固形分換算)を表3に示す値とし、噴霧乾燥における入口温度を120℃とした。噴霧乾燥によって得られた粉体の比表面積および全細孔容積を、上記と同様の方法により測定した。測定結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
[測定結果]
表3に示すように、いずれの試料においても、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、かつ、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である粉体を製造できることが示された。
【0058】
(4)溶媒の種類の影響
以下の表4に示すように、溶媒の種類の影響を調べた。試料18~試料20では、表4に示す溶媒を用い、スラリーの合計質量に対するTOCN濃度を固形分換算で0.08質量%とし、噴霧乾燥における入口温度を120℃とした。噴霧乾燥前のスラリー溶液のゼータ電位、噴霧乾燥によって得られた粉体を水に分散させた溶液のゼータ電位、噴霧乾燥によって得られた粉体の比表面積、全細孔容積およびリゾチーム吸着量を、上記と同様の方法により測定した。測定結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
[測定結果]
表4に示すように、いずれの試料においても、噴霧乾燥前のスラリー溶液のゼータ電位が-40mV以上-20mV以下であった。また、比表面積が50m/g以上400m/g以下であり、かつ、全細孔容積が0.1cm/g以上0.85cm/g以下である粉体を製造できることが示された。また、いずれの試料においても、リゾチーム吸着量が極めて大きく、タンパク質吸着性に優れる粉体を製造できることがわかった。
【0061】
(5)溶媒の種類によるTOCN分散性および噴霧状態への影響
以下の表5に示すように、溶媒の種類によるTOCN分散性および噴霧状態への影響
を調べた。試料21~試料23として、表5に示す溶媒(100%)を用い、スラリーの合計質量に対するTOCN濃度を固形分換算で0.08質量%とした場合のTOCN分散性を評価した。さらに、噴霧乾燥における入口温度を120℃とした場合の噴霧状態を評価した。また、噴霧乾燥前のスラリー溶液のゼータ電位と、噴霧乾燥によって得られた粉体を水に分散させた溶液のゼータ電位とを、上記と同様の方法により測定した。評価結果および測定結果を表5に示す。なお、表5では、各有機溶媒の沸点および誘電率についても、あわせて示している。
【0062】
【表5】
【0063】
[評価結果]
表5に示すように、溶媒の誘電率が高いほど、スラリーにおけるTOCNの分散性が良好であった。また、メタノールおよびエタノールでは、噴霧乾燥における噴霧状態が良好であった。TOCNの分散性が良好であることによって、噴霧乾燥においてノズルが詰まることを抑制できたと考えられる。このため、セルロース繊維の分散性が良好な溶媒を用いることにより、粉体の製造効率の低下を抑制できることが示唆された。
【0064】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。