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特開2023-106205被覆付きリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池
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  • 特開-被覆付きリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106205
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】被覆付きリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230725BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230725BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230725BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230725BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007394
(22)【出願日】2022-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 理史
(72)【発明者】
【氏名】森野 裕介
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029AM14
5H029BJ04
5H029HJ00
5H029HJ02
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA13
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】リチウム二次電池に適用した場合に、出力特性と耐電圧性とを良好にできる被覆付きリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】正極活物質と、
前記正極活物質の表面に配置され、ニオブ原子を含有する被覆層と、を有し、
X線吸収微細構造(XAFS)解析で測定されるX線吸収微細構造スペクトルにおいて、ニオブ(Nb)-L吸収端における各ピークを、吸収エネルギーの低い方から、ピークA、ピークB、ピークCとした場合に、前記ピークAと前記ピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上である被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、
前記正極活物質の表面に配置され、ニオブ原子を含有する被覆層と、を有し、
X線吸収微細構造(XAFS)解析で測定されるX線吸収微細構造スペクトルにおいて、ニオブ(Nb)-L吸収端における各ピークを、吸収エネルギーの低い方から、ピークA、ピークB、ピークCとした場合に、前記ピークAと前記ピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上である被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記ピークAと前記ピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上13.8eV以下である請求項1に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
正極活物質と、
前記正極活物質の表面に配置され、ニオブ原子を含有する被覆層と、を有し、
X線吸収微細構造(XAFS)解析で測定されるX線吸収微細構造スペクトルにおいて、ニオブ(Nb)-L吸収端における各ピークを、吸収エネルギーの低い方から、ピークA、ピークB、ピークCとした場合に、前記ピークAと前記ピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が3.1eV以下である被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記ピークAと前記ピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が2.3eV以上3.1eV以下である請求項3に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記ピークAと前記ピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が3.1eV以下である請求項1に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記ピークAと前記ピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上13.8eV以下であり、
前記ピークAと前記ピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が2.3eV以上3.1eV以下である請求項5に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記被覆層が非晶質である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記正極活物質が、層状構造を有する請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質は、ニッケル、コバルト、マンガンを含有し、
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の物質量比が、Ni:Co:Mn=x:y:zであり、0.4<x≦1.0、0≦y<0.3、0≦z<0.4、x+y+z=1の関係を充足する請求項8に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項10】
正極、負極、および固体電解質層を有し、
前記正極は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質と、硫化物系固体電解質と、を含有するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆付きリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量なリチウム二次電池の開発が強く望まれている。また、電気自動車用の電池として、高いエネルギー密度を有するリチウム二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、近年、全固体電池が注目されている。全固体電池は、正極層、固体電解質層、負極層等などから構成され、従来の有機溶媒等の電解質(電解液)を用いた電池と比較し、高エネルギー密度、高出力、高電圧、高安全性等の側面から、実用化が強く期待されている電池である。
【0004】
しかしながら、現状の全固体電池は、高出力特性、高電圧耐久性ともに、十分ではなく、その要因の一つとして、固体電解質と正極活物質の接触界面において、高抵抗層が形成されることが挙げられる。
【0005】
高抵抗層の形成を抑制するには、固体電解質と正極活物質の接触界面において、固体電解質と正極活物質の界面に界面層を介在させることが有効であることが指摘されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、電解質としてリチウムイオン伝導性固体電解質を用いた全固体リチウム電池において、前記リチウムイオン伝導性固体電解質が硫化物を主体としたものであり、かつ正極活物質の表面がリチウムイオン伝導性酸化物で被覆されていることを特徴とする全固体リチウム電池が開示されている。リチウムイオン伝導性酸化物として、LiNbO等が挙げられ、非晶質状態が好ましいとされている。
【0007】
特許文献2では、全固体型リチウム二次電池に用いる全固体型リチウム二次電池用正極活物質であって、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを含むスピネル型複合酸化物からなる粒子(「コア粒子」と称する)の表面が、Li、A(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlからなる群から選ばれた1種以上の元素)及びOを含む非晶質化合物で被覆されており、且つ、X線光電子分光分析(XPS)によって得られる、表面におけるA元素に対するLiのmol比率(Li/A)が1.0~3.5であることを特徴とする全固体型リチウム二次電池用正極活物質、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/004590号
【特許文献2】国際公開第2018/012522号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 1654-1661
【非特許文献2】J. Phys. Chem. Solids Vol.49, No.9, 1095-l099(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に示すような、LiとNbを含む非晶質のリチウムイオン伝導性酸化物層を、正極活物質と固体電解質層の界面に介在させるだけでは、良好な高出力特性と耐電圧性を同時に得ることは困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来技術が有する課題に鑑み、リチウム二次電池に適用した場合に、出力特性と耐電圧性とを良好にできる被覆付きリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
正極活物質と、
前記正極活物質の表面に配置され、ニオブ原子を含有する被覆層と、を有し、
X線吸収微細構造(XAFS)解析で測定されるX線吸収微細構造スペクトルにおいて、ニオブ(Nb)-L吸収端における各ピークを、吸収エネルギーの低い方から、ピークA、ピークB、ピークCとした場合に、前記ピークAと前記ピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上である被覆付きリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、リチウム二次電池に適用した場合に、出力特性と耐電圧性とを良好にできる被覆付きリチウム二次電池用正極活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の実施形態に係る被覆付きリチウム二次電池用正極活物質の断面模式図である。
図2図2は、実験例1-1、実験例1-4におけるX線吸収微細構造解析により得られたニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルである。
図3図3は、リチウム二次電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[被覆付きリチウム二次電池用正極活物質]
本実施形態の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質(以下、単に「被覆付き正極活物質」とも記載する)の断面模式図を図1に示す。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の被覆付きリチウム二次電池用正極活物質10は、正極活物質11と、正極活物質11の表面に配置され、ニオブ原子を含有する被覆層12とを有することができる。
(1)被覆付き正極活物質が含有する部材について
本実施形態の被覆付き正極活物質が有する各部材について説明する。
(1-1)正極活物質
正極活物質は、電気化学的反応により、Liを挿入・脱離できる正極活物質であればよく、その材料は特に限定されない。
【0017】
正極活物質は、例えば、LiCoO、LiNiO、LiNiCoMn(x+y+z=1)、LiNiCoAl(x+y+z=1)、LiMn、LiNi0.5Mn1.5、LiFePO、LiNiFePO等のインターカレーション型の正極活物質や、FeF、LiS等のコンバージョン反応型の正極活物質から選択された1種類以上を用いることができる。
【0018】
正極活物質は、層状構造を有することが好ましい。これは層状構造を有する正極活物質の場合、リチウム二次電池に適用した場合に、特に出力特性を高めることができるからである。正極活物質が、層状構造を有するとは、正極活物質の結晶構造が層状構造を有することを意味する。層状構造を有する正極活物質は、LiCoO、LiNiO、LiNiCoMn(x+y+z=1)、LiNiCoAl(x+y+z=1)等に代表される層状岩塩型構造(α-NaFeO型構造)、LiMnO、LiMnO-LiNiCoMn(x+y+z=1)等に代表されるLi過剰の層状構造、LiMnO等に代表されるジグザグ層状構造で示される構造のうち、少なくとも一つの構造が含まれることが好ましい。
【0019】
上記正極活物質の構造は、例えば、X線回折、電子線回折等の分析手法により、同定することができる。
【0020】
また、正極活物質は、ニッケル、コバルト、マンガンを含有することが好ましい。そして、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の物質量比が、Ni:Co:Mn=x:y:zであり、0.4<x≦1.0、0≦y<0.3、0≦z<0.4、x+y+z=1の関係を充足することが好ましい。これは、上記割合で、上記各元素を含有することで、リチウム二次電池に適用した場合に、放電容量を特に高くすることができるからである。
【0021】
なお、正極活物質が、上述のようにニッケル、コバルト、マンガンを含有する場合においても、該正極活物質は層状構造を有することが好ましい。
【0022】
上記の正極活物質が含有する各元素の物質量比は、例えば、蛍光X線分析、ICP発光分光法等の分析手法によって、評価、把握できる。
【0023】
本実施形態の被覆付き正極活物質が含有する正極活物質の形状は特に制限されず、数nm~数十μmの平均粒子径をもち、一次粒子や一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有する正極活物質粒子であってもよいし、薄膜状の正極膜(例えば、PLD(パルスレーザーデポジッション)法により成膜された正極膜)であってもよい。
(1-2)被覆層
被覆層には、例えばニオブ原子を含有する化合物を用いることができ、例えば、Nb等の酸化物、LiNbO、LiNbO、LiNb等のリチウム複合酸化物、NbF等のフッ化物、LiNbF等のリチウム複合フッ化物等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0024】
被覆層は、正極活物質の表面の少なくとも一部に配置されていればよいが、正極活物質の表面全体を覆うように配置することもできる。
(2)被覆層の局所構造について
既述のように、LiとNbを含む非晶質のリチウムイオン伝導性酸化物層を、正極活物質と固体電解質層の界面に介在させるだけでは、良好な高出力特性と耐電圧性を同時に得ることは困難であった。
【0025】
本発明の発明者は、係る要因について検討を行った。その結果、正極活物質と固体電解質層の界面に介在する層中において重要な役割を果たすNb原子周囲の局所的な構造について、十分な検討がなされていない点に着目した。そして、正極活物質表面のニオブ原子を含有する被覆層の構造に関して検討を行い、本発明を完成させた。
【0026】
本実施形態の被覆付き正極活物質が有するニオブ原子を含有する被覆層の局所構造について説明する。
【0027】
図2に、上記被覆層を有する被覆付き正極活物質について、X線吸収微細構造(XAFS)解析で測定を行った際の、吸収エネルギー2350eV以上2400eV以下の範囲に現れるニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトル(以下、単に「吸収スペクトル」とも記載する)を示す。図2(A)に示すように、係る吸収スペクトルは、吸収エネルギーの低い方から順に比較的強度の大きい2つのピークと、強度の小さい1つのピークの計3ピークが存在する。本明細書においては、上記吸収スペクトルにおいて、これら3ピークを吸収エネルギーの低い方から順に、ピークA、ピークB、ピークCとする。なお、各ピークのピークトップの吸収エネルギーは、ピークAは2370eVから2374.5eV、ピークBは2374.5eVから2379eV、ピークCは2382eVから2390eVの範囲に存在する。
【0028】
ここで、NbとOを含有する化合物において、XAFS測定における、ニオブ(Nb)-L吸収端のピーク位置は、主にNb原子周りの酸素配置に依存するものと考えられる。
【0029】
非特許文献1によれば、図2のニオブ(Nb)-L吸収端のピークA、ピークBはOの2p2/3軌道から、4d軌道への電子遷移に伴う吸収に相当し、ピークCは、Oの2p2/3軌道からNbの5s軌道への電子遷移に伴う吸収のエネルギーに相当するものとされる。
【0030】
また、非特許文献2によれば、酸素八面体構造に囲まれたNbとOが、配位子場理論により結合軌道を形成すると考えると、図2のピークA、ピークBのエネルギーは、Nb2p3/2のエネルギー順位から、それぞれ、2t2g、3eのエネルギー順位への電子遷移に伴う吸収エネルギーに相当するとされる。また、ピークCは、Nb2p3/2のエネルギー順位から、3a1gのエネルギー順位への電子遷移に伴う吸収に相当するとされる。
【0031】
いずれにしても、ピークA、ピークBのエネルギー差、およびピークA、ピークCのエネルギー差は、結合軌道間のエネルギー差を主に示しており、結合軌道のエネルギー差やエネルギー分裂幅は、Nb周囲の配位子(酸素)の配置、対称性、Nb-O間の結合距離による影響を主に反映しているものであるから、Nb原子周囲の局所的な構造を間接的に反映したパラメータであると言える。
【0032】
そして、本発明の発明者の検討によれば、ピークAとピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上であることが好ましく、12.9eV以上13.8eV以下であることがより好ましい。
【0033】
被覆層のNbの局所構造を反映する特徴的なピークA、ピークB、ピークCのうちピークAと、ピークCとの、それぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が、12.9eV以上となるように制御されることにより、被覆層のイオン伝導性の向上をもたらし、かつ被覆層中の局所構造がリチウム二次電池中でも安定に維持されやすくなる。このため、該被覆層を有する被覆付き正極活物質をリチウム二次電池に適用した場合に、出力特性、および耐電圧性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0034】
また、ピークAとピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が3.1eV以下であることが好ましく、2.3eV以上3.1eV以下であることがより好ましい。
【0035】
被覆層のNbの局所構造を反映する特徴的なピークA、ピークB、ピークCのうちピークAと、ピークBとの、それぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が、3.1eV以下となるように制御されることにより、被覆層のイオン伝導性の向上をもたらし、かつ被覆層中の局所構造がリチウム二次電池中でも安定に維持されやすくなる。このため、該被覆層を有する被覆付き正極活物質をリチウム二次電池に適用した場合に、出力特性、および耐電圧性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0036】
なお、ピークAとピークCのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差(以下、「吸収エネルギー差1」とも記載する。)と、ピークAとピークBのそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差(以下、「吸収エネルギー差2」とも記載する。)とのいずれかが上記範囲を充足することで、既述の効果を得ることができる。このため、本実施形態の被覆付き正極活物質は、吸収エネルギー差1と、吸収エネルギー差2とのいずれか一方について上記範囲を充足していれば足りるが、吸収エネルギー差1と、吸収エネルギー差2との両方が上記範囲を充足することがより好ましい。
【0037】
上記被覆層を有する被覆付き正極活物質を適用したリチウム二次電池において、充放電を繰り返すことで電池セルは徐々に劣化して容量が低下していく。係る電池セルの劣化に伴い、被覆付き正極活物質に含まれる被覆層内のNbの局所構造も変化し、ニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルにも反映される。劣化が進行するに従い、上記説明したピークA、ピークBそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差は縮小し、ピークA、ピークCそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差は拡大する傾向にある。
【0038】
本発明の発明者の検討によれば、ピークA、ピークBそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が2.3eV以上であれば、電池セルの劣化は進行しておらず、高い出力を維持している。
【0039】
また、ピークA、Cそれぞれのピークトップにおける吸収エネルギーの差が13.8eV以下であれば、電池セルの劣化は進行しておらず、高い出力を維持している。
【0040】
このため、繰り返し充放電を行ったリチウム二次電池においても既述の吸収エネルギー差1が2.3eV以上であることが好ましい。また、吸収エネルギー差2が13.8eV以下であることが好ましい。
【0041】
さらに、被覆層は、低結晶性であることが好ましく、非晶質であることがより好ましい。これは、被覆層が低結晶性であることで、被覆層のリチウムイオン伝導性が向上して抵抗増加を抑制し、リチウム二次電池に適用した場合に、電池容量を高めることができるからである。被覆層が非晶質の場合、係る効果を特に高めることができる。被覆層が低結晶性であることは、例えばX線回折により確認することができ、非晶質であればNb化合物に由来する回折ピークが検出されない。
[リチウム二次電池]
本実施形態のリチウム二次電池は、正極と負極と固体電解質層とを有することができる。
【0042】
具体的には、例えば図3に示したリチウム二次電池30のように、正極31と、固体電解質層32と、負極33とを有することができる。図3に示すように、正極31と、負極33との間に固体電解質層32を配置することができ、これらの部材は、容器34内に封止できる。正極31、負極33にはそれぞれ正極端子311、負極端子331を設け、容器34外の部材と接続できるように構成できる。
【0043】
正極は、少なくとも既述の被覆付き正極活物質を含んでいればよく、既述の被覆付き正極活物質のみから構成しても良く、既述の被覆付き正極活物質と固体電解質とを含むこともできる。固体電解質としては、例えば硫化物系固体電解質や、酸化物系固体電解質、ポリマー電解質から選択された1種類以上を用いることができる。正極は、例えば既述の被覆付き正極活物質と、硫化物系固体電解質と、を含有することができる。
【0044】
正極は、被覆付き正極活物質と固体電解質以外に、導電助剤やバインダー、イオン液体等の材料や、その他添加剤等を含んでいてもよい。
【0045】
固体電解質層は、リチウムイオン伝導性の固体電解質を含有するものであればよく、固体電解質のみから構成されるものであってもよいし、例えば、バインダー等の材料を含んでいてもよい。
【0046】
負極は、少なくとも負極活物質を含んでいればよく、負極活物質のみから構成しても良く、負極活物質と固体電解質を含むこともできる。負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。 吸蔵物質は、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質を用いることができる。固体電解質としては、例えば硫化物系固体電解質や、酸化物系固体電解質、ポリマー電解質から選択された1種類以上を用いることができる。負極は、負極活物質と固体電解質以外に、導電助剤やバインダー、イオン液体等の材料や、その他添加剤等を含んでいてもよい。
(固体電解質について)
本実施形態のリチウム二次電池において使用される固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質であれば特に限定されない。固体電解質としては、例えば硫化物系固体電解質や、酸化物系固体電解質、ポリマー電解質から選択された1種類以上を用いることができる。
【0047】
なお、既述のように、固体電解質は、固体電解質層以外に、正極や負極に添加することもできるが、固体電解質層に用いる固体電解質と、正極や負極に用いる固体電解質とは同じであっても良く、異なっていても良い。
【0048】
硫化物系固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、またはアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物系固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0049】
酸化物系固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
[被覆付きリチウム二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態の被覆付き正極活物質の製造方法は、特に限定されることはないが、例えば以下の混合工程と、熱処理工程とを有することができる。
【0052】
混合工程では、母材である正極活物質に、ニオブを含むアルコキシド溶液を混合できる。
【0053】
熱処理工程では、混合工程で得られた混合物を熱処理できる。
【0054】
正極活物質の表面にニオブ原子を含有する被覆層を有する被覆付き正極活物質において、ニオブ原子を含有する被覆層の局所構造は、アルコキシド溶液の条件、混合条件、熱処理条件等により制御できる。従って、これらの条件を調整することで、被覆層のニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルにおいて、ピークトップにおける吸収エネルギーの差を所望の範囲とすることができる。
【0055】
以下、各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、まずニオブを含むアルコキシド溶液を調製できる。ニオブを含むアルコキシド溶液はニオブアルコキシドと、被覆層とする所望のニオブ化合物に応じた原料物質(原料化合物)と、を有機溶媒に溶解させて調製できる。例えば被覆層をLiNbO等のリチウムとの複合酸化物とする場合には、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシドおよびリチウムのうち少なくとも1種類と、を有機溶媒に溶解させてニオブを含むアルコキシド溶液を調製できる。
【0056】
ニオブアルコキシドとしては、例えば、ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタエトキシド、ニオブ-ペンタ-n-プロポキシド、ニオブ-ペンタイソプロポキシド、ニオブ-ペンタ-n-ブトキシド等から選択された1種類以上を用いることができ、これらの中でも、ニオブペンタエトキシドを好適に用いることができる。
【0057】
リチウムアルコキシドおよびリチウムのうち少なくとも1種類としては、例えば、リチウムエトキシド、リチウムメトキシド、プロポキシリチウム、リチウム等から選択され1種類以上を用いることができ、これらの中でも、リチウムエトキシド、リチウムを好適に用いることができる。
【0058】
有機溶媒としては、上記の化合物等を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコールを用いることができ、炭素数が4以下の低級アルコールを用いることが好ましい。低級アルコールとしては、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等から選択された1種類以上を用いることができ、エタノール、2-プロパノールを好適に用いることができる。
【0059】
ニオブアルコキシドは加水分解されやすいことから、有機溶媒は無水のものを用いるのが好ましい。また、アルコキシド溶液を調製する際には、雰囲気からの水分の混入を低減することが好ましい。具体的には例えば露点が-10℃以下に管理された空気環境下で操作することができる。アルコキシド溶液の状態でニオブアルコキシドの加水分解を抑制することが、被覆層の局所構造を制御するうえで有効と考えられる。
【0060】
本実施形態の被覆付き正極活物質の製造方法では、結晶性の低い、好ましくは非晶質の被覆層とするため、薄い被膜が得られるように比較的希薄なアルコキシド溶液とすることが好ましい。なお、Nb以外に添加するLi等は、所望の被覆層の組成(例えばLiNbO)に応じて、その物質量比を定めればよい。
【0061】
正極活物質と、ニオブを含むアルコキシド溶液を混合する方法は特に限定されないが、アルコキシド溶液を母材に薄く均一に被覆できる方法であることが好ましい。このため、例えば、母材である正極活物質を撹拌して流動させながら、アルコキシド溶液を噴霧する方法が好ましい。母材である正極活物質を撹拌して流動させる装置は、粒子が解砕されることや、衝撃によりダメージを受けることを抑制できればどのような装置、方法でも構わないが、例えば転動流動装置を用いることができる。また、撹拌装置や混合装置を外部から加熱することや、該装置内に導入される気体(空気等)の温度を調整することで、混合しながら乾燥することもできる。
(熱処理工程)
熱処理工程では、アルコキシド溶液を噴霧された母材を熱処理することにより、被覆層に含まれるニオブアルコキシド等を熱分解させることができる。係る熱処理により、例えばアルコキシド溶液がNbとLiを含有する場合には、被覆層はLiとNbを含む複合酸化物に近い状態となる。この熱処理の条件により、被覆層の局所構造を制御することもできる。
【0062】
熱処理の温度は特に限定されないが、200℃以上350℃以下の範囲とすることが好ましい。熱処理の温度を200℃以上とすることで、アルコキシドの熱分解を十分に進行させ、被覆層内の残留炭素を抑制し、リチウム二次電池に適用した場合に正極の抵抗を特に抑制できる。
【0063】
熱処理の温度を350℃以下とすることで、被覆層の結晶性を低下させることができ、低結晶性や、非結晶の被覆層とすることができる。このため、リチウム二次電池に適用した場合の抵抗を特に抑制できる。
【0064】
熱処理の時間についても特に限定されないが、例えば上記熱処理の温度で0.5時間以上保持することが好ましく、1時間以上であればより好ましい。保持する時間の上限は特に限定されないが、例えば12時間以下とすることが好ましい。
【0065】
アルコキシド溶液に含まれる炭素を十分に除去するためには、上記熱処理温度、および時間を調整するだけでなく、熱処理の温度よりも低い温度で一旦保持してから再度昇温させて熱処理の温度まで加熱することや、熱処理の温度までの昇温速度を遅くすることもできる。上記温度プロファイルとすることで、揮発しきれなかった溶媒等の炭素の除去を確実にするだけでなく、熱処理の温度や雰囲気の条件による被覆層の局所構造の制御が容易になると考えられる。
【0066】
熱処理温度よりも低い温度で一旦温度を保持する場合には、例えば100℃以上、熱処理の温度より20℃低い温度以下の温度で、10分間以上2時間以下保持することができる。また昇温速度を遅くする場合には、例えば0.5℃/分以下の昇温速度で熱処理の温度まで加熱することができる。
【0067】
熱処理の雰囲気は、アルコキシドの熱分解が促進するために酸化性雰囲気であればよいが、空気よりも酸素濃度が高いガスを導入しながら熱処理を行うのが好ましい。例えば、酸素濃度が50容量%以上のガスを用いることができる。
【0068】
本実施形態の被覆付き正極活物質の製造方法により得られる被覆付き正極活物質の、既述の吸収エネルギー差1や、吸収エネルギー差2は、上記説明した混合工程や熱処理工程の諸条件において、例えばアルコキシド溶液およびその調製方法、混合方法、熱処理の温度プロファイルや雰囲気等の条件を調整することで制御できる。
【0069】
このため、用いる正極活物質や、形成する被覆層に応じて予備試験等を行い、例えば混合工程におけるアルコキシド溶液の調製条件や、熱処理工程における熱処理条件等を選択することで、吸収エネルギー差1や、吸収エネルギー差2を所望の範囲に制御できる。
【実施例0070】
以下、実施例を参照しながら本実施形態をより具体的に説明する。但し、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
以下の実験例1-1~実験例1-9の被覆付き正極活物質を調製し、評価を行った。実験例1-1~実験例1-3、実験例1-5~実験例1-7、実験例1-9が実施例、実験例1-4、実験例1-8が比較例になる。
(実験例1-1)
(1)被覆付き正極活物質の製造
リチウムモノエトキシドとニオブペンタエトキシドを、エタノール溶液中に溶解させ、リチウムとニオブを含むアルコキシド溶液を作製した。溶液の作製は、露点が-20℃~-60℃に調整された空気環境下で行い、溶液中のLi、Nbの物質量比が、1:1となるようにし、エタノールに溶解して作製した。
【0071】
次に、LiNi0.5Co0.2Mn0.3の組成であらわされる層状構造の正極活物質粉末を、転動流動装置内で流動させ、上記ニオブを含むアルコキシド溶液を、流動層内に噴霧するとともに、流動層内に供給する空気の温度を制御した。これにより、正極活物質粉末の表面に、被覆層の前駆体である上記ニオブを含むアルコキシド溶液の被膜を形成した。(混合工程)
その後、表面に被覆層の前駆体を形成した正極活物質粉末を、酸素雰囲気下、150℃で30分間保持後、250℃の温度で3時間保持することにより、正極活物質と、正極活物質の表面に配置され、LiとNbを含有する被覆層とを有する被覆付き正極活物質を作製した。(熱処理工程)
LiとNbを含有する被覆層を有する被覆付き正極活物質の粉末に対して、粉末X線回折を実施したところ、LiNbO等の、Nb化合物に由来する回折ピークは確認されず、被覆層が非晶質の状態であることを確認した。
【0072】
XAFS測定は、LiとNbを含有する被覆層を有する被覆付き正極活物質の粉末に対して、大型放射光施設(立命館大学SR・センターの放射光源(ビームライン:BL―10))にて、2300eV以上から2600eV以下の範囲を掃引することで行った。XAFS測定を行う際、ピークA、ピークB、ピークCの付近の2350eVから2400eVの範囲は0.15eV以下のエネルギー間隔で掃引し、蛍光収量(PFY)法で実施した。
【0073】
また、合わせてKSOについてもXAFS測定を実施し、KSOのSO由来のWhite-line peak topが2481.72±0.02eVの間に入るように、エネルギー軸を校正した。
【0074】
得られた吸収スペクトルは、XAFS解析に広く用いられているXAFS解析ソフトウェア「Athena」を用い、バックグラウンドを除去し、XAFS振動が減衰した強度が1になるように規格化処理を行い、ピークA、ピークB、ピークCのピーク位置を求めるためのニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを得た。
【0075】
なお、バックグラウンドの除去は、吸収端よりも低エネルギー側においてはスペクトル形状を参考に、直線外挿によって行った。また、吸収端よりも高エネルギー側においてはXAFS振動が減衰した領域を参考に、振動の中心を通るスプライン曲線によってバックグラウンドを除去した。
【0076】
得られたニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを図2(A)~図2(C)に示す。図2(A)はピークA~ピークCを含む領域全体のスペクトルを示しており、図2(B)は、ピークA、ピークB近傍を拡大して示している。図2(C)はピークC近傍を拡大して示している。
【0077】
ニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルは、図2(A)に示すように強度の大きい二つの吸収ピーク(ピークA:2373.03eV、ピークB:2375.69eV)と、二つの吸収ピークよりも高エネルギー側の強度の小さいピーク(ピークC:2386.44eV)との3ピークを有している。本実験例においては、ピークAとピークBのピークトップの吸収エネルギー差が2.66eV、ピークAとピークCのピークトップの吸収エネルギー差が、13.41eVであった。
(2)電気化学特性評価
(2-1)全固体電池の作製
電気化学特性の評価は、次の方法により、硫化物系固体電解質を含有する全固体電池を作製して、評価を実施した。
(正極)
LiとNbを含有する被覆層を有する被覆付き正極活物質と硫化物系固体電解質粉末(LiPSCl、アルジロダイト型構造の硫化物系固体電解質)と、を質量比で被覆付き正極活物質:固体電解質=70:30の比で混合した。そして、得られた混合物を成形し正極とした。
(固体電解質層)
固体電解質層(セパレータ層)は、正極で用いたものと同じ固体電解質層粉末を用いて、成形し、製造した。
(負極)
負極は、インジウム箔にリチウム箔の小片を圧接し、インジウム中にリチウムを拡散させることにより作製したインジウムーリチウム合金を用いた。
【0078】
上記正極、固体電解質層、負極を、この順に三層積層して加圧成形し、ラミネート梱包することでリチウム二次電池を作製した。
(2-2)放電容量の評価
作製した全固体電池を25℃環境下において、電流密度0.1Cでセル電圧3.63V(Li電位基準で4.25V)まで定電流充電を行った後、セル電圧3.63Vで定電圧充電を電流密度が0.01Cとなるまで実施した。その後、0.1Cでセル電圧2.38V(Li電位基準で3.00V)まで、定電流放電を行った後、セル電圧2.38Vで定電圧放電を、電流密度が0.01Cとなるまで実施した。
【0079】
その後、同様の条件で、セル電圧3.63Vまでの定電流充電、およびセル電圧3.63Vでの定電圧充電を実施した後、電流密度1Cでセル電圧2.38Vまで、定電流放電を行い、この時の放電容量で、出力特性の評価を実施した。本実験例においては、120mAh/gの放電容量であった。
(2-3)高電圧時容量維持率の評価
作製した全固体電池を25℃環境下において、電流密度0.1Cでセル電圧3.93V(Li電位基準で4.55V)まで定電流充電を行った後、3.93Vで定電圧充電を電流密度が0.01Cとなるまで実施した。
【0080】
その後、0.1Cでセル電圧2.38V(Li電位基準で3.00V)まで、定電流放電を行った後、2.38Vで定電圧放電を、電流密度が0.01Cとなるまで実施した(初回充放電)。
【0081】
この時の定電流放電容量を耐久試験前容量Aとした。A=178.0mAh/gであった。
【0082】
その後、初回充放電の充電時と同様の条件にてセル電圧3.93Vまでの定電流充電、および3.93Vでの定電圧充電を実施した充電状態にて電池を60℃環境下に移し、セル電圧3.93Vで定電圧連続充電(トリクル充電)を120時間実施した。
【0083】
その後、電池を25℃に戻し、初回充放電の放電時と同様の条件にてセル電圧2.38Vまでの定電流放電、および2.38Vでの定電圧放電を実施した(2回目充放電)。
【0084】
次いで、再度、初回充放電時と同様の条件で充放電を行った(3回目充放電)。
【0085】
この時(3回目充放電時)の定電流放電容量を耐久試験後容量Bとした。B=151.3mAh/gであった。この、B/A×100を、高電圧耐久性を示す「高電圧時容量維持率」と定義して評価した。本電池においては、B/A×100=85.0%であった。
【0086】
評価結果を表1に示す。
(実験例1-2)
熱処理工程の熱処理温度を300℃とした点以外は、実験例1-1と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-3)
熱処理工程の熱処理温度を350℃とした点以外は、実験例1-1と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-4)
熱処理工程の熱処理温度を400℃とした点以外は、実験例1-1と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0087】
また、得られたニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを図2(A)~図2(C)に示す。
(実験例1-5)
LiNi0.5Co0.2Mn0.3の組成であらわされる層状構造の正極活物質粉末を、LiNi0.8Co0.1Mn0.1の組成であらわされる層状構造の正極活物質粉末に変更し、熱処理工程の熱処理温度を200℃とした点以外は実験例1-1と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-6)
熱処理工程を250℃とした点以外は実験例1-5と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-7)
熱処理工程を300℃とした点以外は実験例1-5と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-8)
熱処理工程を400℃とした点以外は実験例1-5と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
(実験例1-9)
全固体電池を作製する際に、硫化物系固体電解質粉末を、70LiS-30P(Li11)とした点以外は実験例1-1と同様にして被覆付き正極活物質を製造し評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
表1に示すように、正極活物質の組成がLiNi0.5Co0.2Mn0.3の場合、X線吸収微細構造(XAFS)測定のニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルにおけるピークAとピークCのピークトップにおける吸収エネルギーの差が12.9eV以上のときに、放電容量が大きくなり、良好な出力特性を示していることも確認できる。また、この場合、高電圧時容量維持率も高くなり、耐電圧性に優れることも確認できる。
【0089】
また、ピークAとピークBのピークトップにおける吸収エネルギーの差が3.1eV以下のときに、放電容量が大きくなり、良好な出力特性を示していることも確認できる。また、この場合、高電圧時容量維持率も高くなり、耐電圧性に優れることも確認できる。
【0090】
正極活物質の組成が、LiNi0.8Co0.1Mn0.1の場合も、同様の傾向を示すことが確認できた。
【0091】
エネルギー密度の観点では、正極活物質の組成がLiNi0.8Co0.1Mn0.1の場合、LiNi0.5Co0.2Mn0.3の場合と比べて大きくなり、より良好な結果を与えることを確認できた。
【0092】
また、実験例1-9に示すように、使用する硫化物系固体電解質が、LiS-Pの場合も、同様の効果が得られることを確認できた。
[実験例2]
実験例2では、セルの形態であっても、XAFS測定によって、同様の結果が得られることを示す。
【0093】
実験例2-1~実験例2-6はいずれも実施例になる。
(実験例2-1)
実験例1-2で作製したLiとNbを含有する被覆層を有する被覆付き正極活物質の粉末を用い、実験例1-2と同様の手法により、全固体電池を作製した。
【0094】
XAFS測定は、作製した全固体電池を、既述の大型放射光施設において、2300eV以下から2400eV以上の範囲を掃引することで行った。XAFS測定を行う際、ピークA、ピークB、ピークCの付近の2350eVから2400eVの範囲は0.17eV以下のエネルギー間隔で掃引した。
【0095】
試料としては、ラミネート梱包された電池を梱包状態のまま用い、蛍光収量(PFY)法で実施した。
【0096】
得られた吸収スペクトルは、XAFS解析に広く用いられているXAFS解析ソフトウェア「Athena」を用い、バックグラウンドを除去し、XAFS振動が減衰した強度が1になるように規格化処理を行い、ピークA、ピークB、ピークCのピーク位置を求めるためのニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを得た。
【0097】
なお、バックグラウンドの除去は、吸収端よりも低エネルギー側においてはスペクトル形状を参考に、直線外挿によって行った。また、吸収端よりも高エネルギー側においてはXAFS振動が減衰した領域を参考に、振動の中心を通るスプライン曲線によってバックグラウンドを除去した。
【0098】
ニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルは、強度の大きい二つの吸収ピーク(ピークA:2373.02eV、ピークB:2375.77eV)と、二つの吸収ピークよりも高エネルギー側の強度の小さいピーク(ピークC:2386.39eV)との3つのピークを有していた。本実験例においては、ピークAとピークBのピークトップの吸収エネルギー差が2.75eV、ピークAとピークCのピークトップの吸収エネルギー差が、13.37eVであった。評価結果を表2に示す。
(実験例2-2)
実験例2-1と同様にして作製した全固体電池を25℃環境下において、電流密度0.1Cでセル電圧3.33V(Li電位基準で3.95V)まで定電流充電を行った後、3.33Vで定電圧充電を電流密度が0.01Cとなるまで実施した。そして、実験例2-1と同様にしてXAFS測定を行い、充電後のリチウム二次電池について、被覆付き正極活物質のニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを得た。評価結果を表2に示す。
(実験例2-3)
実験例2-1と同様にして作製した全固体電池を25℃環境下において、電流密度0.1Cでセル上限電圧3.63V(Li電位基準で4.25V)まで定電流充電を行った後、セル電圧3.63Vで定電圧充電を電流密度が0.01Cとなるまで実施した。
【0099】
その後、0.1Cでセル電圧2.38V(Li電位基準で3.0V)まで、定電流放電を行った後、2.38Vで定電圧放電を、電流密度が0.01Cとなるまで実施した(初回充放電)。
【0100】
この時の定電流放電容量を耐久試験前容量Aとした。A=155.0mAh/gであった。
【0101】
その後、電池の耐久性評価試験として、初回充放電の充電時と同様の条件にてセル電圧3.63Vまでの定電流充電、およびセル電圧3.63Vでの定電圧充電を実施した充電状態にて電池を60℃環境下に移し、セル電圧3.63Vで定電圧連続充電(トリクル充電)を120時間実施した。
【0102】
その後、電池を25℃に戻し、初回充放電の放電時と同様の条件にてセル電圧2.38Vまでの定電流放電、およびセル電圧2.38Vでの定電圧放電を実施した(2回目充放電)。
【0103】
次いで、再度、初回充放電時と同様の充放電を行った(3回目充放電)。
【0104】
この時(3回目充放電時)の定電流放電容量を耐久試験後容量Bとした。B=154.9mAh/gであった。
【0105】
この、B/Aが耐久性試験における容量維持率を示しており、[1-(B/A)]×100を「容量劣化率」と定義した。なお、実験例2-1、実験例2-2においては耐久性試験前のため、容量劣化率は0%となる。本実験例の電池においては1-(B/A)=0.1%であった。
【0106】
その後、25℃環境下において、電流密度0.1Cでセル電圧3.33V(Li電位基準で3.95V)まで定電流充電を行った後、3.33Vで定電圧充電を電流密度が0.01Cとなるまで実施した。そして、実験例2-1と同様にしてXAFS測定を行い、充電後のリチウム二次電池について、被覆付き正極活物質のニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルを得た。評価結果を表2に示す。
(実験例2-4)
実験例2-3の1回目~3回目の充放電を行った際のいずれにおいても、充電時の上限電圧を上限電圧3.73V(Li電位基準で4.35V)とした点以外は、実験例2-3と同様に充放電を行い、評価を行った。評価結果を表2に示す。
(実験例2-5)
実験例2-3の1回目~3回目の充放電を行った際のいずれにおいても、充電時の上限電圧を上限電圧3.83V(Li電位基準で4.45V)とした点以外は、実験例2-3と同様に充放電を行い、評価を行った。評価結果を表2に示す。
(実験例2-6)
実験例2-3の1回目~3回目の充放電を行った際のいずれにおいても、充電時の上限電圧を上限電圧3.93V(Li電位基準で4.55V)とした点以外は、実験例2-3と同様に充放電を行い、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0107】
【表2】
表2から、X線吸収微細構造(XAFS)測定のニオブ(Nb)-L吸収端のX線吸収微細構造スペクトルにおけるピークAとピークCのピークトップにおける吸収エネルギーの差や、ピークAとピークBのピークトップにおける吸収エネルギーの差が、電池の容量劣化率と相関していることが分かる。
【0108】
ピークA~ピークCは、正極活物質と固体電解質との界面に含有される3d遷移金属原子または4d遷移金属原子の周囲の配位子の配置、対称性、原子間距離等に関係する。このため、ピークAとピークBそれぞれの吸収エネルギーの差、またはピークAとピークCの吸収エネルギーの差が変化することは、正極活物質と固体電解質との界面の劣化状態を反映したものと考えられる。
【0109】
したがって、実験例1-1~実験例1-9のような正極活物質単体の測定からだけではなく、充放電を行った全固体電池においても、ピークAとピークBそれぞれの吸収エネルギーの差、またはピークAとピークCの吸収エネルギーの差から、正極活物質と固体電解質の界面の劣化が少ない、すなわち、界面の抵抗が小さい、全固体電池であることを、判断することができる。
【符号の説明】
【0110】
10 被覆付きリチウム二次電池用正極活物質
11 正極活物質
12 被覆層
30 リチウム二次電池
31 正極
311 正極端子
32 固体電解質層
33 負極
331 負極端子
34 容器
図1
図2
図3