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特開2023-106290ポリフェノール配糖体の銀ナノ粒子複合材料、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106290
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ポリフェノール配糖体の銀ナノ粒子複合材料、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230725BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230725BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230725BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20230725BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20230725BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20230725BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20230725BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20230725BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08L65/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 Z
A01N25/10
C08G61/10
C08G81/00
C08K3/015
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168329
(22)【出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022007422
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「ポリ(アルブチン-エチレンイミン)共重合体(PArb-PEI)と銀ナノ粒子複合体合成による農業資材用抗酸化、抗菌・抗ウイルス化塗布技術への展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】芝▲崎▼ 祐二
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J031
4J032
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC03
4H011BC08
4H011BC19
4H011DF02
4H011DH08
4J002CE001
4J002CM011
4J002CQ031
4J002DA076
4J002FD186
4J002GB01
4J002GC00
4J002GH00
4J031AA48
4J031AA57
4J031AB04
4J031AC09
4J031AD01
4J031AE03
4J031AE17
4J031AF03
4J031AF09
4J031AF12
4J031CC09
4J032CA04
4J032CB01
4J032CC01
4J032CD02
4J032CE03
4J032CF01
4J032CF05
4J032CG00
4J032CG06
4J032CG08
(57)【要約】
【課題】
銀ナノ粒子の材料表面への均一な分散性を有し、銀ナノ粒子の材料表面への安定した固定化が可能であって、材料表面への必要最小限の銀ナノ粒子の導入と、使用状況に応じた銀ナノ粒子の再導入が容易な複合材料を提供し、当該複合材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】
フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物と銀ナノ粒子との複合材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物と銀ナノ粒子との複合材料。
【請求項2】
前記フェノール配糖体が、アルブチンであることを特徴とする、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、ポリアルブチンであることを特徴とする、請求項1または2記載の複合材料。
【請求項4】
前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、ポリイミンとの共重合体であることを特徴とする、請求項1または2記載の複合材料。
【請求項5】
前記ポリイミンが、ポリアルキレンイミンであることを特徴とする、請求項4記載の複合材料。
【請求項6】
前記ポリイミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする、請求項4記載の複合材料。
【請求項7】
前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、フェノール配糖体の重合体とポリイミンとの共重合体であることを特徴とする、請求項1記載の複合材料。
【請求項8】
前記フェノール配糖体の重合体が、ポリアルブチンであることを特徴とする、請求項7記載の複合材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、銀イオンを前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が有するフェノール性ヒドロキシ基によって還元することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料を含む、抗菌性材料または抗ウィルス材料。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料の、抗菌性材料または抗ウィルス材料への利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物と銀ナノ粒子との複合材料に関する。また、本発明は、前記複合材料を含む抗菌性材料または抗ウィルス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、新型コロナウィルスをはじめとして様々な病原体が人々の生活を脅かしている。基本的な対策としては、人間の場合にはマスクの着用、手洗い、うがい、居住空間の環境保全であり、動物の場合には育舎の環境保全が主体となる。
【0003】
抗菌・抗ウィルス薬剤や物品が世の中に溢れ、耐性菌の出現や人体への悪影響などからそれらを適切に使用することが難しくなっており、薬剤の環境中への大量放出も懸念されている。抗菌薬剤としては塩化ベンザルコニウムなどの有機系第四級アンモニウム塩が有効であるが、過度の使用は人体への悪影響が懸念される。抗ウィルス剤としては、ウィルスの外殻蛋白を破壊可能な有機系カチオン性化合物が有効であるとされているが、ウィルスの種類によって効果は異なる。
【0004】
一方、銀イオン(銀粒子)は無機系の抗菌・抗ウィルス剤として幅広く使用されている温和な薬剤であり、環境中への影響も小さい。このような観点から台所用品、浴室、公共施設などの様々な設備に銀イオン(銀粒子)含有プラスチックが導入されている。
銀イオン(銀粒子)は無機化合物であり、有機化合物であるポリマー材料とは本来相溶せず、ポリマー材料と分離して巨大粒子となってしまうことから、相溶化剤の添加が必須である。この相溶化剤が少なければ分散性が悪く、多すぎれば銀を覆って銀イオンの放出効果が低くなること、また、銀粒子のサイズが大きくなり過ぎた際に材料表面に偏在化すると、外界との摩擦などで剥がれ落ちることもあり、効果的ではない。
【0005】
したがって、ポリマー材料と銀イオン(銀粒子)との効率的相溶化技術の開発が望まれる。また、病原体はポリマー材料表面に作用するが、内部には接近できないことから、銀粒子を硬い材料内部に練り込んでしまうと、練り込まれた銀粒子は無駄となってしまう。
解決すべき課題として、銀粒子の材料表面への均一な分散と安定した固定化、必要十分量の銀粒子の導入と再導入可能なシステムの構築の2つの技術開発が挙げられる。
さらに、好ましくは銀粒子のサイズがナノメーターサイズであって、材料内部に閉じ込められている銀粒子の表面が、材料が水分を吸収することによって酸化され、銀イオンとしてゆっくりと溶け出すことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-252746号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Shibasaki et al.,Reactive and Functional Polymers 138(2019)39-45
【非特許文献2】Zhao Li et al.,ACS Omega 2020,5,32632-32640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、銀粒子の材料表面への均一な分散性を有し、銀粒子の材料表面への安定した固定化が可能であって、材料表面への必要最小限の銀粒子の導入と、使用状況に応じた銀粒子の再導入が容易で、銀イオンの徐放性を有する複合材料を提供し、当該複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、本発明の複合材料は以下の特徴を有する複合材料であり、当該複合材料の製造方法である。
(1)フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物と銀ナノ粒子との複合材料。
(2)前記フェノール配糖体が、アルブチンであることを特徴とする、上記(1)に記載の複合材料。
(3)前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、ポリアルブチンであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の複合材料。
(4)前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、ポリイミンとの共重合体であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の複合材料。
(5)前記ポリイミンが、ポリアルキレンイミンであることを特徴とする、上記(4)に記載の複合材料。
(6)前記ポリイミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする、上記(4)または(5)に記載の複合材料。
(7)前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が、フェノール配糖体の重合体とポリイミンとの共重合体であることを特徴とする、上記(1)または(4)に記載の複合材料。
(8)前記フェノール配糖体の重合体が、ポリアルブチンであることを特徴とする、上記(7)に記載の複合材料。
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の複合材料の製造方法であって、銀イオンを前記フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が有するフェノール性ヒドロキシ基によって還元することを特徴とする複合材料の製造方法。
(10)上記(1)~(8)のいずれかに記載の複合材料を含む、抗菌性材料または抗ウィルス材料。
(11)上記(1)~(8)のいずれかに記載の複合材料の、抗菌性材料または抗ウィルス材料への利用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合材料は、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物に銀ナノ粒子が均一に分散されてなるものであって、銀ナノ粒子が容易に剥がれ落ちることなく、安定的に固定化されているものである。本発明の複合材料は、人体に対してほぼ無害でありながら抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性を示すことから、多目的機能性(抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性)フィルム、および、樹脂や金属表面に塗布することなどによって材料表面に機能性(抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性)を有する各種材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合材料に好適に用いられるフェノール配糖体のアグリコン(フェノール)部分としては、フェノール性ヒドロキシ基を2個以上有するものであれば特に限定されるものではないが、複合材料の製造の容易性などからベンゼン環にフェノール性ヒドロキシ基を2~4個有するものが好ましく、ベンゼン環にフェノール性ヒドロキシ基を2個有するものがより好ましい。
本発明の複合材料に好適に用いられるフェノール配糖体のグリコシル基(糖構造部分)としては、1個以上の糖構造を有するものであれば特に限定されるものではないが、複合材料の製造の容易性などから、糖構造を1~3個有するものが好ましく、糖構造を1個有するもの(単糖)がより好ましい。
本発明の複合材料に好適に用いられるフェノール配糖体としては、環境や健康への影響を考慮して天然フェノール配糖体が好ましく、比較的入手が容易なアルブチンがより好ましい。
【0012】
本発明において、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物としては、アルブチンの重合体であるポリアルブチンが好ましく用いられる。
また、銀ナノ粒子の分散性能、および固定化性能を向上させるため、ポリイミンとの共重合体であることがより好ましい。
本発明において、ポリイミンとしてはポリアルキレンイミンが好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0013】
本発明において、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物としては、フェノール配糖体の重合物とポリイミンとの共重合体であることがより好ましく、ポリアルブチンとポリイミンとの共重合体であることがさらに好ましく、ポリイミンとしてはポリアルキレンイミンが好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0014】
以下、本発明の一側面に係る複合材料の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書においては、フェノール配糖体をアルブチンとし、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物(体)をポリアルブチンとし、ポリイミンをポリエチレンイミンとして主に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、その他のフェノール配糖体やポリイミンであってもよい。
本発明の複合材料に好適に用いられるポリアルブチンは、それ自体公知の方法で製造することができる(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0015】
<共重合体モノマーの合成>
本発明において、ポリアルブチン(PArb)へのポリエチレンイミン(PEI)の導入のため、アルブチン(Arb)のグルコースユニットにおける6位のヒドロキシ基を活性化する目的で、トルエンスルホニル基を導入した。
アルブチン(Arb)のフェノール性ヒドロキシ基をベンジル化により保護した化合物(Arb-OBn)を合成し、続いて、ピリジンとジメチルアミノピリジン溶液中、室温で1時間トルエンスルホン酸クロリドと反応させることによって、グルコースユニットの6位のみにトルエンスルホニル基を選択的に導入した化合物(Arb-OBn-OTs)を得た。これを接触水素還元によってベンジル基のみを脱離させ、目的とするアルブチン(Arb)のグルコースユニットにおける6位のヒドロキシ基のみにトルエンスルホニル基を導入した化合物(Arb-OTs)を合成した。構造は、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、元素分析によって同定した。
【0016】
<共重合体の合成>
得られたArb-OTsを用いて、アルブチン(Arb)との酸化共重合を検討した。検討した重合条件を表1にまとめて示した。アルブチン(Arb)とArb-OTsの重合仕込み比を80:20、50:50、20:80mol%とし、重合温度は60℃、重合時間は48時間から120時間とした。
その結果、数平均分子量7~10kDaのポリマー(PArb-OTs)が収率70~86%で得られた。構造は、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、元素分析により同定した。
なお、核磁気共鳴スペクトルにより解析した共重合体モノマーのポリマー中における組成比は仕込み比とほぼ同等であり、所望の構造体を合成するにはモノマーの仕込み比を変化させるだけで達成可能であることが分かった。表2にモノマーならびにポリマーの溶解性試験の結果をまとめて示した。ポリマーはメタノールならびにジオキサンに対する溶解性が低下しているが、水への溶解性は良好であった。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
a)試料2 mgに溶媒1mLを用いた。 +:室温で溶解、+-:加熱後溶解、-:不溶
凡例 Chl クロロホルム、NMP N-メチルピロリドン、THF テトラヒドロフラン、DMS ジメチスルホキシド、DMA N,N-ジメチルアセトアミド、MeO メタノール、Tol トルエン、EA 酢酸エチル、DO 1,4―ジオキサン、He ヘキサン、HO 水
b)ArbとArb-OTsとの物質量比1:1の共重合体
【0019】
<ポリエチレンイミンとの共重合>
得られたポリマー(PArb-OTs)に対して、ポリエチレンイミン(PEI、分子量1.8kDaまたは10kDa)の導入を行った。ポリエチレンイミン(PEI)のアミノ基はトルエンスルホニル基と選択的に反応することができる。したがって、PArb-OTsはポリエチレンイミン(PEI)が少量であればPArb-OTs鎖にグラフト化された共重合体が、適量であればPArb-OTs間をポリエチレンイミン(PEI)鎖が連結したゲル化合物が、また、過剰量であればポリエチレンイミン(PEI)鎖にPArb-OTsがグラフト化された共重合体が得られると考えられる。分子設計によりこれら3種類の共重合体が合成可能であり、PArb-OTsとポリエチレンイミン(PEI)の組成比の異なる高分子材料の製造ができる。共重合の結果を表3にまとめて示した。共重合化はPArb-OTsとポリエチレンイミン(PEI)を水に溶解させ、70度で48~120時間加熱することで行った。共重合体の構造は赤外吸収スペクトルにより決定した。ポリアルブチン(PArb)はポリフェニレン骨格を持っているポリフェノールであり、共役の発達のため茶色の粉末であり、フィルム化は難しい。今回得られた共重合体サンプルは乾燥状態では硬い黒色フィルムであり、ポリアルブチン(PArb)もポリエチレンイミン(PEI)も水に可溶なセグメントであることから水に対して強い親和性を有し、膨潤させることができた。この性質は銀イオンの浸透、そしてナノ粒子化に非常に有利であるといえる。
【0020】
【表3】
【0021】
<銀ナノ粒子の調製>
銀のナノ粒子化技術は様々な手法により達成されている。もっとも一般的な手法は硝酸銀の1価の銀イオンを還元剤により0価にするものである。ここで、還元剤としては化学合成的なNaBH、あるいはビタミンCとして知られるアスコルビン酸、グルコース、ポリフェノール類などが用いられている(例えば、非特許文献2参照)。アルブチン(Arb)はモノフェノールであり、還元作用がある。また、ポリアルブチン(PArb)はポリフェノールであることから、やはり銀ナノ粒子の調製に適用可能であると考えられる。そこで、各種条件による銀ナノ粒子の調製を検討した。アルブチン(Arb)を用いた検討結果を表4に、ポリアルブチン(PArb)を用いた検討結果を表5にそれぞれまとめて示した。
硝酸銀に対して当モルのアルブチン(Arb)を用いると銀ナノ粒子が5.4%得られた。反応温度、反応時間を調整することで、収率はさらに改善されると考えられるが、50℃、3時間に条件を統一し、還元剤の仕込比を変化させた。硝酸銀に対して2倍量の還元剤を用いたところ収率は8.4%まで向上した。
一方、ポリアルブチン(PArb)を還元剤として用いた場合、アルブチン(Arb)と同条件、すなわち硝酸銀に当モル量の還元剤を加えた場合、アルブチン(Arb)では5.4%しか銀ナノ粒子が得られなかったのに対してポリアルブチン(PArb)では22%と非常に高効率でナノ粒子の調製が可能であることが分かった。なお、ポリアルブチン(PArb)の添加量を増加させることで、銀ナノ粒子の収率は72%まで向上することがわかった。
この結果は以下のように理解できる。すなわち、アルブチン(Arb)は銀イオンに接触して還元反応が起こるが、生成した0価の銀はアルブチン(Arb)近傍に存在し、クラスター化ができない。一方で、ポリアルブチン(PArb)により還元された銀は近傍の銀と融合し、銀ナノ粒子が効率よく成長したと考えられる。
以上の結果は、ポリアルブチン(PArb)をマトリックスとして用いることで、銀イオンの吸着を促すことが可能であり、内部で効率的な還元が起こり、銀ナノ粒子が成長できることを明確に示唆するものである。
なお、銀ナノ粒子の生成は紫外可視分光計による417.5nmに認められる銀ナノ粒子のプラズモン吸収、熱重量減少測定、透過型電子顕微鏡(TEM)により確認した。透過型電子顕微鏡(TEM)写真からは、粒径24nmの銀ナノ粒子が均一に分散して生成していることを確認できた。
また、同様の条件でポリエチレンイミン(PEI)とPArb-OTsとの共重合体(PArb-co-PEI)においても、銀ナノ粒子が生成することが確認できた。
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
<ポリマーへの銀ナノ粒子の固定化>
上記検討結果をもとに、ポリマーを水に膨潤させ、そこに硝酸銀水溶液を滴下することでポリマーと銀ナノ粒子との複合体の調製を検討した。硝酸銀水溶液の濃度を変化させることでポリマーフィルム中に銀イオンを導入し、内部でナノ粒子化させることに成功した。銀ナノ粒子の生成量が多すぎる場合にはフィルムが硬く脆くなってしまった。そのため、フィルム1gに対して適正な銀ナノ粒子の質量は0.1g程度以下である。
病原体がフィルムに接触すると、フィルムから病原体に対して銀イオンが溶出し、病原体を死滅させることができる。病原体に対する有効銀イオン濃度は一般的に1μg/g以上とされていることから、フィルムに対して0.1~10wt%の銀の導入が必要十分量であるといえる。なお、フィルムの柔軟性はポリアルブチン(PArb)とポリエチレンイミン(PEI)の組成比により変化した。すなわち、ポリアルブチン(PArb)が多ければ多いほど硬く、ポリエチレンイミン(PEI)が多いほど柔軟であった。
【0025】
本発明の複合材料に好適に用いられるフェノール配糖体であるアルブチン(Arb)には、抗菌性は認められないが、その重合物であるポリアルブチン(PArb)には抗菌作用が認められる(例えば、非特許文献1参照)。
本発明の複合材料に用いられる銀ナノ粒子には、抗菌・抗ウィルス作用を有することが知られている。
銀イオン(銀粒子)を利用した既存の抗菌・抗ウィルス剤は常時銀イオンを溶出しているが、本発明の複合材料では細菌やウィルスがない状態では使用する銀ナノ粒子がフェノール配糖体をモノマーとして含む重合物に安定的に固定化されているため、既存の単純な銀粒子固定化樹脂と比べて銀ナノ粒子(銀イオン)の溶出速度を低く抑えることが可能であり、非常に長い期間における抗菌、抗ウィルス効果が期待できる。
【0026】
本発明の複合材料は、人体に対してほぼ無害であり、抗酸化性、抗菌性、および抗ウィルス性を示す。そのため、該複合材料そのものを用いた、抗酸化性、抗菌性、および抗ウィルス性を有する、多目的機能性フィルムを製造することができる。
また、該複合材料を樹脂や金属表面に塗布することなどによって材料表面に機能性(抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性)を有する各種材料を製造することができる。
【0027】
本発明の複合材料は、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物からなり、当該重合物は酸化重合によって合成される。したがって耐熱性に優れる複合材料とすることができる。
また、当該重合物はフェノール配糖体からなるポリフェノールであり、当該ポリフェノールは抗酸化性を有し、本発明の複合材料は、耐候性に優れる複合材料とすることができる。
【0028】
本発明の複合材料において、銀ナノ粒子の固定化は、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物の水膨潤液に銀イオン(例えば、硝酸銀)を含む水溶液を加えることで、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が有するフェノール性ヒドロキシ基によって銀イオンが還元されることによって行われる。したがって、特に還元剤を必要とすることなく、自動的に固定化が行われる。
したがって、本発明の複合材料において、固定化された銀ナノ粒子が減少した場合でも、銀イオン(例えば、硝酸銀)を含む水溶液を該複合材料表面に噴霧等することによって、複合材料に含まれるフェノール配糖体をモノマーとして含む重合物が有するフェノール性ヒドロキシ基によって銀イオンが自動的に還元され、銀ナノ粒子を容易に固定化することができ、抗酸化性、抗菌性、および抗ウィルス性を再生、復活することができる。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0030】
<Arb-OTsの合成>
アルブチン(Arb)のフェノール性ヒドロキシ基をベンジル化により保護し、続いて、ピリジンとジメチルアミノピリジンの存在下、グルコースユニットの6位のみをトルエンスルホニル基とした下記化合物(Arb-OBn-OTs)5.28g、エタノール150mLを反応容器に加えて溶解し、10%炭素担持パラジウム0.792gを加え、水素雰囲気下で50℃、24時間攪拌した。セライトを用いてろ過を行い、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、溶媒を留去した。60℃で12時間減圧乾燥させることによって下記化合物(Arb-OTs)を白色粉末(融点67.1~71.6℃)として得た(収率89.5%)。
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
【0033】
<ArbとArb-OTsとの酸化共重合:PArb-OTsの合成>
フラスコ(50mL)にCu-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)錯体0.149g、トリス塩酸緩衝溶液(pH=9)4mLを加えて溶解し、アルブチン(Arb)0.545g、上記化合物(Arb-OTs)0.853gを加え、60℃で48時間、酸素雰囲気下で攪拌した。得られた溶液についてイオン交換水を用いて透析した後、凍結乾燥することによって下記の酸化共重合体(PArb-OTs)を茶褐色粉体として得た(収率70%)。
【0034】
【化3】
【0035】
<ポリエチレンイミン(PEI)とPArb-OTsとの共重合:PArb-co-PEIの合成>
ビーカーにポリエチレンイミン(PEI、Mn=10KDa)0.40g、上記の酸化共重合体(PArb-OTs、Mn=6.0KDa)0.48g、イオン交換水5mLを加えて溶解させた。溶解しないものを濾過により除去した後、溶液をテフロン(登録商標)製シャーレに移した。これを70℃で72時間反応させ、さらに減圧下100℃で12時間乾燥させることによって、共重合体(PArb-co-PEI)を厚さ130μmの黒色フィルムとして得た。このフィルムのゲル分率は99%であった。
【0036】
<銀ナノ粒子複合体-1の調製>
反応容器にポリアルブチン(PArb)0.270gを加え、トリエチルアミンを含むイオン交換水を加えて溶液のpHを8とした。硝酸銀0.034gをイオン交換水2mLに溶解させて調製した0.1mol/Lの硝酸銀水溶液を加え、50℃で1時間反応させた。得られたフィルムを取り出し、水で洗浄して、銀ナノ粒子複合体-1を得た。
得られた銀ナノ粒子複合体-1について透過型電子顕微鏡(TEM)によって、銀ナノ粒子(粒径24nm)が生成されていることを確認した。
【0037】
<銀ナノ粒子複合体-2の調製>
反応容器にポリエチレンイミン(PEI)とPArb-OTsとの共重合体(PArb-co-PEI)0.50gを加え、トリエチルアミンを含むイオン交換水を加えて溶液のpHを8とした。硝酸銀0.079gをイオン交換水4.7mLに溶解させて調製した0.1mol/Lの硝酸銀水溶液を加え、50℃で1時間反応させた。得られたフィルムを取り出し、水で洗浄して、銀ナノ粒子複合体-2を得た。
得られた銀ナノ粒子複合体-2について透過型電子顕微鏡(TEM)、および広角X線回折測定(WAXD)によって、銀ナノ粒子(粒径10nm)が生成されていることを確認した。
【0038】
<銀イオンの徐放性測定>
作製した銀ナノ粒子複合体-2を0.1g採取して試料とした。試料をビーカーに入れ、イオン交換水500mLを加えて浸漬し、24時間放置した。得られた水溶液を別のビーカーに全て移し、水溶液中の銀イオン濃度を測定した。残った試料(銀ナノ粒子複合体-2)に、新たにイオン交換水500mLを加え、同様の操作を繰り返して銀イオンの溶出実験を継続した。測定した銀イオン濃度と、試料(銀ナノ粒子複合体-2)に導入した銀イオン量から、24時間毎の溶出量(%)を算出した。測定の結果、銀ナノ粒子複合体-2から溶出される銀イオンの割合は、5.0%/週(7日)であった。
【0039】
<耐候性試験>
銀ナノ粒子複合体-2をフィルム状(大きさ:50×50mm、厚さ:0.05mm)に成型したものを、屋外に1か月間放置した。その結果、フィルムの形状、色、強度に変化は見られなかった。
【0040】
<抗菌性試験>
大腸菌に対する抗菌性試験を行った。
微量の大腸菌を含むLB培地95μLと試験液5μLをwell内で混合し、35℃で振盪しながら一晩インキュベートした。ピペッティングにより大腸菌懸濁液をよく混合した後、プレートリーダーで630nmの濁度(吸光度)を測定した。さらに、その後、3000rpmで10分間遠心処理することで、大腸菌をwellの底に沈降させ、写真撮影した。茶色く濁った部位が大腸菌の繁殖したコロニーであり、コロニーが消失する濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。
硝酸銀水溶液のMICは62.5mg/gであり、低い抗菌性を示した。ポリアルブチン(PArb)は大腸菌に対してほとんど抗菌性を示さないが、共重合体(PArb-co-PEI)はMIC12.5mg/gの抗菌性を示した。この共重合体(PArb-co-PEI)に銀を導入した銀ナノ粒子複合体-2も同程度の抗菌性を示したが、銀を導入した効果はほとんど認められなかった。これは、銀ナノ粒子複合体中では銀イオンとしてではなく、ほとんどが銀ナノ粒子として存在するためであると考えられる。
一方、銀の導入量を共重合体(PArb-co-PEI)100mgに対して1000μgとした銀ナノ粒子複合体では、共重合体(PArb-co-PEI)よりも高い抗菌性が認められ、銀イオンの溶出による効果であると言える。
【0041】
<抗ウィルス試験-1>
MDCK細胞(イヌ腎細胞)を宿主細胞とするインフルエンザウイルスAH1N1Aを用いた抗ウィルス試験を行った。
試験液を1.08mLずつチューブに分注した。D-PBS(-)を用いて1.0~5.0×10PFU/mLに希釈調製したインフルエンザウイルス溶液0.12mLを加えて混合し、反応液とした。反応液をよく攪拌した後、25℃で静置した。所定時間経過後、反応液0.12mLを採取して、SCDLP培地1.08mLを加えて混合し、10倍希釈を行った。さらに、同培地を用いた10倍段階希釈系列を調製した。10倍段階希釈系列を、事前に播種した宿主細胞に1mLずつ滴下し、37℃、5%CO下で1時間感染処理を行った。ウィルス感染後、細胞上清を0.8%オキソイド寒天溶液に置換し、37℃、5%CO下で1~2日間培養した。プラークの形成を目視で確認した後、5%グルタルアルデヒド溶液で固定し、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラークの数の測定データを元にウィルス感染力価を測定した。
試験の結果、PArb-co-PEI(10mg/g)のウィルス感染減少率は94.98%、10μg/gの銀ナノ粒子を導入したPArb-co-PEI(10mg/g)複合体のウィルス感染減少率は99.87%であった。
【0042】
<抗ウィルス試験-2>
大腸菌を宿主細胞とするバクテリオファージQβを用いた抗ウィルス試験を行った。
バクテリオファージQβ(1×1011pfu/mL)をペプトン生理食塩水で希釈し、900μLの試験液にそれぞれ100μLのファージ液を加えた。5分間静置(25℃、湿度約30%)し、試験液によるファージ液の不活化を行った。これを120μLずつ分取してSCDLP培地1080μLに加え(計1200μL)、25℃で5分間静置した後、37℃で10分間インキュベートし、1mLずつ分取した。これを、45℃に保温しておいた2mLCaLB軟寒天培地の大腸菌NBRC13965株培養液100μL(約1×10cfu/mL)に混合した。これをCaLB寒天培地(直径9cm)へ広げ、固まったら37℃で一晩培養して、ファージが大腸菌を溶菌することで形成される溶菌班(プラーク)の数を計測し、感染力価を測定した。
試験の結果、PArb-co-PEI(10mg/g)のウィルス感染減少率は99.99%以上であった。また、10μg/gの銀ナノ粒子を導入したPArb-co-PEI(10mg/g)複合体では抗ウィルス活性が高すぎるため、ウィルス感染減少率は測定不能であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の複合材料は、フェノール配糖体をモノマーとして含む重合物に銀ナノ粒子が均一に分散され、安定的に固定化されているものであり、人体に対してほぼ無害であり、多目的機能性(抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性)フィルム、材料表面に機能性(抗酸化性、抗菌性、抗ウィルス性)を有する各種材料を提供することができる。