IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2023-106455露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法
<>
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図1
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図2
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図3
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図4
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図5
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図6
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図7
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図8
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図9
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図10
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図11
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図12
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図13
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図14
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図15
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図16
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図17
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図18
  • 特開-露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106455
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20230725BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20230725BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230725BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20230725BHJP
【FI】
G03F1/62
B82Y20/00
B82Y40/00
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077419
(22)【出願日】2023-05-09
(62)【分割の表示】P 2022515311の分割
【原出願日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2020074343
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】石川 比佐子
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】関口 貴子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山田 健郎
(72)【発明者】
【氏名】周 英
(57)【要約】
【課題】厚みの均一性に優れる露光用ペリクル膜、上記露光用ペリクル膜を含むペリクル、露光原版及び露光装置、並びに、露光用ペリクル膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブ膜を含み、カーボンナノチューブ膜はカーボンナノチューブを含有し、カーボンナノチューブ膜は波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上であり、カーボンナノチューブ膜は厚みが1nm以上50nm以下であり、カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置したカーボンナノチューブ膜について、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが15%以下である露光用ペリクル膜。<条件>測定点の直径:20μm、基準測定波長:波長285nm、測定点数:121点、隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ膜を含み、
前記カーボンナノチューブ膜はカーボンナノチューブを含有し、
前記カーボンナノチューブ膜は波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上であり、
前記カーボンナノチューブ膜は厚みが1nm以上50nm以下であり、
前記カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置した前記カーボンナノチューブ膜について、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが15%以下である露光用ペリクル膜。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置した前記カーボンナノチューブ膜について、互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置のそれぞれにおいて、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率の測定及び平均反射率の算出を行った場合に、
前記平均反射率の最大値から前記平均反射率の最小値を差し引いた値が15%以下である請求項1に記載の露光用ペリクル膜。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、チューブ径が0.8nm以上6.0nm以下である請求項1又は請求項2に記載の露光用ペリクル膜。
【請求項4】
さらに、前記カーボンナノチューブ膜に接するように配置される保護層を備える請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の露光用ペリクル膜。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの有効長さが0.1μm以上である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の露光用ペリクル膜。
【請求項6】
ナノインデンテーション試験により測定される破断荷重が、1.0μN/nm以上である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の露光用ペリクル膜。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の露光用ペリクル膜と、
前記露光用ペリクル膜を支持する支持枠と、
を含むペリクル。
【請求項8】
原版と、前記原版のパターンを有する側の面に装着された請求項7に記載のペリクルと、を含む露光原版。
【請求項9】
請求項8に記載の露光原版を含む露光装置。
【請求項10】
露光光を放出する光源と、請求項8に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を含み、
前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記露光用ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
【請求項11】
前記露光光が、EUV光である請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の露光用ペリクル膜を製造する方法であって、
凝集体を含む粗カーボンナノチューブを準備する工程と、
前記粗カーボンナノチューブと溶媒とを混合して分散液を得る工程と、
前記分散液に含まれる前記凝集体を除去して、精製カーボンナノチューブを得る工程と、
前記精製カーボンナノチューブをシート状に成膜して、カーボンナノチューブ膜を製造する工程と、を含む露光用ペリクル膜の製造方法。
【請求項13】
前記精製カーボンナノチューブを得る工程において、平均相対遠心力が3,000xg以上である超遠心処理を行う請求項12に記載の露光用ペリクル膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、露光用ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置及び露光用ペリクル膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリクルに用いられるペリクル膜は、通常、シリコン基板上に、窒化シリコン(SiN)等を積層させて製造される。
一方で、光(例えばEUV光)に対する透過性及び耐性に優れる材料としてカーボンナノチューブが挙げられ、カーボンナノチューブ膜を用いたペリクルの開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、ペリクル膜は、厚みが200nm以下であり、ペリクル膜は、カーボンナノチューブ膜を含み、カーボンナノチューブ膜は複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、バンドルは径が100nm以下であり、カーボンナノチューブ膜中でバンドルが面内配向している、露光用ペリクル膜が開示されている。
【0004】
特許文献1:国際公開第2018/008594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のカーボンナノチューブ(CNT)膜は、CNTバンドルが十分に開繊されていない等の理由により、CNTバンドルが高次の凝集構造を形成することで、CNT膜における厚みの均一性が不足する場合があった。
CNT膜の厚みが不均一であることは、リソグラフィ工程において、CNT膜からなるペリクル膜を備えたペリクルを使用した際に透過光の面内分布不均一をもたらし、露光の際フォトレジストのDose量について面内のばらつきを生じさせるため、露光不良、描画性能の悪化等の原因となる。
CNT膜の透明性を低下させ、導電性等の他の特性の面方向の均一さを低下させる原因となる可能性がある。
また、CNT膜の表面が不均一であることは、微視的な応力集中を引き起こし、CNT膜の機械的強度の低下をもたらす原因となる可能性もある。
【0006】
露光装置の解像力は、露光光の波長と投影光学系の開口数とに依存する。したがって、露光装置の解像力を向上させるためには、露光光の波長を短くすること、及び、投影光学系の開口数を大きくすることが有効であると考えられる(Proc. of SPIE Vol. 9422 94221G-7参照)。
【0007】
例えば、EUVリソグラフィ工程において、EUV光を用いてフォトマスク表面で結像を発生させる場合、開口数(NA)は0.0825~0.138の範囲とする場合がある。
EUVリソグラフィ用のペリクルはフォトマスク表面から約2mmの高さに配置されるため、フォトマスク表面で結像点を形成する光束線は、上述した開口数に従えば、直径が330μm~550μmに広がることになる(図1参照)。
EUVリソグラフィにおいて、入射光の入射瞳形状を様々な形状(例えば、二重極、四重極など)に変化させることができる変形照明法が採用される場合がある(図2、Proc. of SPIE Vol. 8886 888604-1参照)。
そのため、EUVリソグラフィにおいて、フォトマスク表面で結像を発生させるEUV光は、上述した直径内に入射したEUV光の一部である。
つまり、ペリクル膜において、フォトマスク表面に到達して結像に用いられるEUV光が通過する部分の面積と、上述した直径に相当する部分の面積と、の比率は、照明の形状によって変化するが、上記比率が1/10~1/20である場合、直径は約50μm~100μmと等価となる。
図3において、変形照明法における変形照明の形状の具体例を示す。
【0008】
一般的に、EUVリソグラフィ用のペリクル膜において、透過率の均一性は0.4%以下であることが求められる。上記透過率の均一性について、単位サイズ及び単位面積は、上述した直径を用いた面積と考えることができる。すなわち、直径が約50μm~100μmの面積を単位として、少なくとも露光面積である132mm×104mmの範囲全面、より好ましくはペリクル膜全面(144mm×110mm)の透過率が均一であることが求められる。
【0009】
ペリクル膜の内部に、50μm程度のダマ、凝集体などが存在することで、上記ダマ、凝集体が存在する部分において透過率が低下し、露光不良の原因となる場合がある。
以上より、直径50μm~100μmを単位として、ペリクル膜全面が、透過率の均一性が0.4%以下を保つように、均一な厚みのCNT膜を形成することが求められる。
【0010】
特許文献1において、CNT膜における厚みの均一性について充分な検討がされておらず、改善の余地がある。
また、透過率の均一性を評価する方法として反射率測定方法を用いることが有効であることを見出した。
【0011】
本開示の一実施形態の解決しようとする課題は、厚みの均一性に優れる露光用ペリクル膜、上記露光用ペリクル膜を含むペリクル、露光原版及び露光装置、並びに、露光用ペリクル膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> カーボンナノチューブ膜を含み、前記カーボンナノチューブ膜はカーボンナノチューブを含有し、前記カーボンナノチューブ膜は波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上であり、前記カーボンナノチューブ膜は厚みが1nm以上50nm以下であり、前記カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置した前記カーボンナノチューブ膜について、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが15%以下である露光用ペリクル膜。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
<2> 前記カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置した前記カーボンナノチューブ膜について、互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置のそれぞれにおいて、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率の測定及び平均反射率の算出を行った場合に、前記平均反射率の最大値から前記平均反射率の最小値を差し引いた値が15%以下である<1>に記載の露光用ペリクル膜。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
<3> 前記カーボンナノチューブは、チューブ径が0.8nm以上6.0nm以下である<1>又は<2>に記載の露光用ペリクル膜。
<3-1> 前記カーボンナノチューブ膜は、網目構造を有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜。
<4> さらに、前記カーボンナノチューブ膜に接するように配置される保護層を備える<1>~<3>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜。
<5> 前記カーボンナノチューブの有効長さが0.1μm以上である<1>~<4>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜。
<6> ナノインデンテーション試験により測定される破断荷重が、1.0μN/nm以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜。
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜と、前記露光用ペリクル膜を支持する支持枠と、を含むペリクル。
<8> 原版と、前記原版のパターンを有する側の面に装着された<7>に記載のペリクルと、を含む露光原版。
<9> <8>に記載の露光原版を含む露光装置。
<10> 露光光を放出する光源と、<8>に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を含み、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記露光用ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
<11> 前記露光光が、EUV光である<10>に記載の露光装置。
<12> <1>~<6>のいずれか1つに記載の露光用ペリクル膜を製造する方法であって、凝集体を含む粗カーボンナノチューブを準備する工程と、前記粗カーボンナノチューブと溶媒とを混合して分散液を得る工程と、前記分散液に含まれる前記凝集体を除去して、精製カーボンナノチューブを得る工程と、前記精製カーボンナノチューブをシート状に成膜して、カーボンナノチューブ膜を製造する工程と、を含む露光用ペリクル膜の製造方法。
<13> 前記精製カーボンナノチューブを得る工程において、平均相対遠心力が3,000xg以上である超遠心処理を行う<12>に記載の露光用ペリクル膜の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態によれば、厚みの均一性に優れる露光用ペリクル膜、上記露光用ペリクル膜を含むペリクル、露光原版及び露光装置、並びに、露光用ペリクル膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ペリクル膜へEUV光が入射する場合に、ペリクル膜におけるEUV光の直径を説明するための概略図である。
図2】変形照明法の入射瞳形状の具体例を示す図である。
図3】変形照明法における変形照明の形状の具体例を示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係るCNT膜を示す断面図である。
図5】本開示の一実施形態に係るCNT膜とCNT集合体を示す模式図である。
図6】波長285nm及び400nmにおける反射率と膜厚みの関係を示すグラフである。
図7】本開示における反射率の3σ及び平均反射率の測定を行う際、選定された測定位置の配置を表す概略図である。
図8】(a)本開示における反射率の3σ及び平均反射率の測定を行う際、選定された測定位置の配置を表す概略図を示す。(b)本開示における反射率の3σ及び平均反射率の測定を行う際、選定した各「測定位置」における測定点の配置を表す概略図を示す。
図9】空気層/CNT膜の層/シリコン基板のモデルを示す概略図である。
図10】本開示における膜厚みへの換算方法にて、波長285nmの反射率及び膜厚みを測定した場合の、反射率と膜厚みとの関係をプロットしたグラフである。
図11】EUV透過率と膜厚みとの関係を表すグラフである。
図12】波長285nmの反射率とEUV透過率との関係を表すグラフである。
図13】本開示の一実施形態に係るCNT集合体のCNTバンドル太さを求める方法の模式図である。
図14】(a)保護層106をCNT膜100と基板110との間に設けた場合のペリクルの図である。(b)保護層106をCNT膜100、202の露光原版側の面に設けた場合のペリクルの図である。(c)保護層106をCNT膜100と基板110との間に設けた場合のペリクルに露光原版181を接続した図である。
図15】本開示の一実施形態に係るペリクルの模式図(断面図)である。
図16】本開示の一実施形態に係るCNT膜の製造方法を示す断面図である。
図17】本開示の一実施形態に係るCNT膜の製造方法を示す断面図である。
図18】実施例1に係るCNT膜の表面の画像である。
図19】比較例1に係るCNT膜の表面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
以下、本開示の実施形態に係る露光用ペリクル膜、カーボンナノチューブ膜及びカーボンナノチューブ集合体について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0017】
≪露光用ペリクル膜≫
本開示の露光用ペリクル膜は、カーボンナノチューブ膜を含み、カーボンナノチューブ膜はカーボンナノチューブを含有し、カーボンナノチューブ膜は波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上であり、カーボンナノチューブ膜は厚みが1nm以上50nm以下であり、カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置したカーボンナノチューブ膜について、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが15%以下である。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【0018】
ペリクル膜がCNT膜を含有する場合、CNT膜は、CNTバンドルが十分に開繊されていない等の理由により、CNTバンドルが高次の凝集構造を形成する場合があり、CNT膜における厚みの均一性が不足する場合があった。
上記CNTバンドルの凝集構造は、光学顕微鏡で観察した場合に、他の領域と比較して色味が濃い領域(凝集体とも称する)、又はいわゆるダマ状の領域(単に、ダマとも称する)として観察できる。
【0019】
本開示の露光用ペリクル膜は、上記の構成により、CNTバンドルの凝集構造を抑制することができるため、厚みの均一性に優れる。
【0020】
<CNT膜>
本開示におけるCNT膜は、CNTを含有し、かつ、波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上である。
【0021】
(CNT膜の構成)
以下に、CNT膜100について説明する。図4は、CNT膜100を含有するペリクル膜202の断面図である。図5はCNT膜100と、CNT102が集合して形成されるCNT集合体101の模式図である。図5は、CNT膜における領域A1の拡大図も示している。
【0022】
図4において、CNT膜100は、CNT集合体101で構成される。
図5に示すようにCNT集合体101は、多くのCNT(又はCNTバンドル)102を含む。
【0023】
<反射率>
本開示におけるCNT膜は、CNT膜をシリコン基板上に配置し、配置したCNT膜について、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが15%以下である。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
なお、σは標準偏差を表す。
【0024】
上記反射率測定方法を用いることにより、その透過率均一性を評価することができる。
測定波長は、膜厚みのわずかな厚み違いを検出することができることから、285nmの波長が好ましい。
例えば、波長400nm~800nmの可視光を用いた場合には、膜厚みに対する反射率の変化が、紫外光領域に比べて小さくなるため、可視光領域よりも紫外光を用いることが好ましい。
【0025】
図6に示すように、1nm~20nmの膜厚み範囲において、波長400nmの反射率が46%から42%へと、4%しか変化が見られないが、波長285nmの紫外光の反射率を用いた場合では、厚みが1nmから20nmに変わると反射率は72%から40%へと、32%もの変化が生じ得る。
仮に反射率の測定精度が0.5%とすると、紫外光の反射率を用いた場合の膜厚みの測定精度は0.3nmであり、1nm以下のわずかな膜厚みの違いを検出することが可能となる。
【0026】
上記CNT膜を配置する基板としてシリコン基板と紫外線とを用いることで、1nm~50nmの膜厚みのバラツキを、感度よく高精度に測定できる。
シリコン以外の材質からなる基板を用いた場合においても、自立膜状態での反射率測定は可能である。しかし、膜厚みのわずかな変化をとらえるため、高精度かつ再現性高く反射率を測定するためには、(1)紫外線の波長領域において、反射率(屈折率及び消衰係数)が高い基板であること、及び(2)基板表面からの正反射光を正確に得ることができ、基板の表面平滑性が高い(例えば表面粗さRa=0.3nm以下)基板であることが好ましい。
これらの観点から、金属製の基板やシリコン基板が好ましい。
汎用的に用いられており、基板の品質にばらつきが少ないことから、シリコン基板を用いることがより好ましい。
【0027】
反射率測定におけるスポットサイズ(即ち測定点の直径)は特に制約はないが、10μm~1000μmの範囲にあることが好ましい。
チューブ径が数nm、又はバンドルの径が100nm以下の網目構造からなるCNT膜については、バンドルや網目の面密度(厚み)のばらつきが生じやすく、厚みのばらつきの程度は厚みを測定する際のスポット径に依存する傾向がある。膜厚みの均一性の指標となる3σの値は、測定面積に逆比例するために、スポットサイズを把握することで、50μm~100μmにおける3σの値に換算することができる。
ただし、測定装置の測定精度によるばらつき(3σ)が真の値に比べて十分に小さいことが好ましいため、スポットサイズは、好ましくは10μm~1000μmであり、より好ましくは20μm~500μmである。
【0028】
反射率測定において、反射光を検出する方法としては特に制限はなく、フォトダイオード、光電子増倍管などを用いることができる。
また、フォトダイオードアレイ、CCD(Charge Coupled Device)等のマルチチャンネル検出器を用いてもよい。
分光された反射光をフォトダイオードアレイで検出することで、複数の波長における反射率を得ることができる。また、CCD検出器の画素サイズを50μm~100μm程度に調整して、反射光強度の分布を測定してもよい。
厚みの均一性を評価するうえで、反射率の測定点数は100点以上であることが好ましい。
【0029】
CNT膜は、反射率の3σが15%以下であることで、上記測定点数の測定点を含む領域内において、局所的に膜の均一性に優れる。
上記同様の観点から、上記反射率の3σが、12.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。
反射率の3σの下限としては特に制限はない。例えば、CNT膜は、反射率の3σが0%超であってもよく、0.1%以上であってもよい。
【0030】
[反射率の3σ及び平均反射率]
「上記測定点、上記基準測定波長及び上記測定点数において、反射分光膜厚み計で測定される反射率の3σ及び平均反射率」の測定方法について説明する。
まず、シリコン基板上にCNT膜を配置し、配置されたCNT膜の対角線をX軸とする。
シリコン基板上にCNT膜を配置する際には、シリコン基板及びCNT膜を隙間なく密着させる。シリコン基板とCNT膜との間に水、有機溶媒などの溶媒を挟み、その後に溶媒を乾燥させることによって、シリコン基板及びCNT膜を隙間なく密着させることができる。
例えば、水面に浮かせたCNT膜を、シリコン基板で掬い取ったのちに、乾燥させてもよく、溶媒がのっているシリコン基板上にCNT膜を乗せて乾燥させることで、シリコン基板とCNT膜とを密着させることができる。
支持枠にペリクル膜が張り付いている場合は、溶媒等で濡らしたシリコン基板を準備し、ペリクル膜のうち自立膜領域(即ち支持枠と接していない領域)に対応する部位を前記シリコン基板に接触させることで、シリコン基板上にCNT膜を配置させることもできる。
シリコン基板のサイズに制限はないが、広い面積のペリクル膜を密着させる観点から、8インチ以上のサイズのシリコンウェハを用いることが好ましい。
次に、CNT膜上の任意の「測定位置」を選定する。
選定した「測定位置」において、X軸方向の測定点として隣接する測定点における中心点間距離が40μmとなる間隔で11点を、Y軸方向の測定点として隣接する測定点における中心点間距離が40μmとなる間隔で11点を設定する。即ち、縦11点×横11点、合計の測定点数121点を設定する。
そして、基準測定波長を波長285nmとし、各測定点の反射率を測定して反射率の3σ及び平均反射率を算出する。
なお、測定点の測定範囲は、直径20μmの範囲である。
測定点の設定の具体例として、図7において、選定した「測定位置」における測定点の配置を表す概略図を示す。
反射率測定装置として顕微分光膜厚み計(例えば、大塚電子株式会社製のOPTM、型式:A-1)を、レンズとして、例えば反射型の10倍レンズを、測定点の直径を調整するための装置として直径200μmのアパーチャー(測定点の直径:20μm)を、それぞれ用いる。また、反射強度測定のリファレンスとしてアルミニウム基板を用いる。
反射率Rs(λ)は、下記の式により求められる。
【0031】
【数1】


【0032】
ここで、I(λ)は、波長λにおけるシリコン基板上のCNT膜の反射強度を表し、Iref(λ)はリファレンスの反射強度を表し、Rref(λ)はリファレンスの絶対反射率を表す。
リファレンスとしてアルミを用いた場合、アルミの光学定数は既知であるため、Rref(λ)を計算により求めることができる。なお、リファレンスと、シリコン基板上のCNT膜の反射強度測定において、ゲイン、露光時間等は同一条件である。これにより、シリコン基板上のCNT膜の絶対反射率が得られる。
波長285nmにおける反射率は、波長285nmにおける反射強度及びリファレンスの絶対反射率を用いて以下の式により求められる。
【0033】
【数2】


【0034】
本開示におけるCNT膜は、カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置したカーボンナノチューブ膜について、互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置のそれぞれにおいて、反射分光膜厚み計を用い、下記条件にて反射率の測定及び平均反射率の算出を行った場合に、
平均反射率の最大値から平均反射率の最小値を差し引いた値(本開示において、「平均反射率の最大値と最小値との差」ともいう)が15%以下であることが好ましい。
<条件>
測定点の直径:20μm
基準測定波長:波長285nm
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【0035】
平均反射率の最大値と最小値との差が15%以下であることで、互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置におけるそれぞれの平均反射率の間で、平均反射率の差を小さくすることができる。その結果、本開示におけるCNT膜は、広域的に膜の均一性に優れる。
上記同様の観点から、上記平均反射率の最大値と最小値との差が、12%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。
平均反射率の最大値と最小値との差の下限としては特に制限はない。例えば、CNT膜は、平均反射率の最大値と最小値との差が、0%超であってもよく、0.1%以上であってもよい。
【0036】
[平均反射率の最大値と最小値との差]
「互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置のそれぞれにおいて、反射分光膜厚み計で平均反射率を測定した場合における、平均反射率の最大値と最小値との差」の測定方法について説明する。
まず、シリコン基板上にCNT膜を隙間なく配置する。
配置されたCNT膜の対角線をX軸とし、X軸上に、互いに距離が2cm以上離れた複数の「測定位置」を選定する。
なお、各測定位置における測定範囲は、0.40mm×0.40mmの範囲である。
「測定位置」の選定の具体例として、図8(a)において、選定された測定位置の配置を表す概略図を示す。また、図8(b)において、選定した各「測定位置」における測定点の配置を表す概略図を示す。
選定した各「測定位置」において、上述の[反射率の3σ及び平均反射率]の項に記載の方法により、各測定点の反射率を測定して平均反射率を算出する。
得られた各「測定位置」における平均反射率から、平均反射率の最大値と最小値との差を算出する。
なお、複数の測定位置の測定数は、例えば、5点であってもよい。
【0037】
~膜厚み(光学厚み)への換算方法~
各測定点について、波長間隔1nm~2nmの範囲で、波長200nm~600nmの範囲における反射率スペクトルを取得する。
そして、CNT膜の光学定数として表1に示す光学定数(屈折率:n、消衰係数:k)の値を用い、空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層モデルを用いて、波長範囲225~500nmにおける反射率スペクトルを最小二乗法により解析を行うことで、各測定点の膜厚みを算出する。
「測定位置」の膜厚みは、「測定位置」に含まれる121点の各測定点の膜厚みの平均値とする。
波長範囲225~500nmにおける反射率スペクトルを最小二乗法により解析を行うことで、各測定点の膜厚みを算出する方法について以下に説明する。
【0038】
膜厚みは、空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層モデルを用いて、以下の式(a)~式(c)による関係式を用いて算出する。
なお、図9は、空気層/CNT膜の層/シリコン基板のモデルを示す概略図である。
【0039】
反射率Rsは、振幅反射率rを用いて以下の式(a)で表される。
【0040】
【数3】


【0041】
上記式中、*は複素共役を表す。
【0042】
空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層からの振幅反射率rは以下の式(b)で表される。
【0043】
【数4】


【0044】
上記式中、r01は空気層とCNT膜の層の界面からの振幅反射率を表し、r12はCNT膜の層とシリコン基板層の界面からの振幅反射率を表し、iは虚数単位を表す。
上記式中、δは波長λの光が膜内を1往復する場合に生じる位相差であり、以下の式(c)で表される。
【0045】
【数5】


【0046】
上記式中、dは膜厚みを表し、Nは複素屈折率(N=n-ik)を表し、φは入射角を表す。また、iは虚数単位を表す。
【0047】
膜厚みは、上記式(a)~式(c)による関係式を用いて、波長範囲225~500nmにおける反射率Rsに対して膜厚みdを変数として、最小二乗法により計算することで得られる。
【0048】
図10は、不均一なCNT膜をシリコン基板上に転写したサンプルについて、上述した方法にて、波長285nmの反射率及び膜厚みを測定した場合の、反射率と膜厚みとの関係をプロットしたグラフである。
図10に示す通り、上述の方法により、反射率の値によって膜厚みの違いを精度よく求めることができている。
【0049】
【表1】


【0050】
本開示におけるCNT膜は、厚みが1nm以上50nm以下である。
厚みが1nm以上であることで、機械的強度を向上させることができる。
厚みが50nm以下であることで、例えば、本開示におけるCNT膜をペリクル膜として用いた場合に、支持部材なしに自立させることができるとともに、80%以上の透過率を維持することができる。
ペリクル膜の破損を防止する観点及び異物遮蔽性の観点(つまり、ペリクル膜を異物が通過しないようにする観点)から、ペリクル膜の厚みは、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。
EUV光の透過率を高くする観点から、ペリクル膜の厚みは、40nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましい。
【0051】
CNT膜の厚みは、以下の方法により測定する。
上述した[平均反射率の最大値と最小値との差]に記載の方法により、互いに距離が2cm以上離れた複数の測定位置のそれぞれにおいて、反射分光膜厚み計で反射率を測定する。ただし、反射率の測定条件は以下の通りである。
<条件>
測定点の直径:20μm
測定波長:波長200nm~600nm(波長間隔:1.3~1.5nm)
測定点数:121点
隣接する測定点における中心点間距離:40μm
【0052】
そして、上述の「膜厚み(光学厚み)への換算方法」に記載の方法により、各測定点の膜厚みを算出する。また、各測定位置に含まれる各測定点(121点)の膜厚みの平均値を算出することで、各測定位置の膜厚みを算出する。
そして、算出した各測定位置の膜厚みの平均値を算出して得られる値をCNT膜の厚みとする。
また、同様にして、各測定点の膜厚みの標準偏差から、各測定位置の膜厚みのσを算出する。
【0053】
(透過率)
本開示におけるCNT膜は、波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上である。また、本開示におけるCNT膜は、波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が90%以上であることがより好ましい。
【0054】
ペリクル膜のEUV光の透過率Trはフォトダイオードで測定される。具体的には、ペリクル膜を設置しない状態で検出される電流値(入射光強度I)、及びペリクル膜を設置した状態で検出される電流値(透過光強度I)から、下記の式(2)に基づいて求められる。
【0055】
【数6】


【0056】
EUV透過率は膜厚みの増加に伴い直線的に減少する傾向にある。
図11は、EUV透過率と膜厚みとの関係を表すグラフである。
また、図12は、波長285nmの反射率とEUV透過率との関係を表すグラフである。
【0057】
本開示のCNT膜は、機械的強度の観点から、ナノインデンテーション試験により測定される破断荷重が、1.0μN/nm以上であることが好ましく、2.0μN/nm以上であることがより好ましく、3.0μN/nm以上であることがさらに好ましい。
破断荷重の上限値としては、特に制限はない。例えば、本開示のCNT膜は、ナノインデンテーション試験により測定される破断荷重が、40.0μN/nm以下であってもよく、20.0μN/nm以下であってもよく、10.0μN/nm以下であってもよい。
【0058】
[ナノインデンテーション試験]
まず、深さ30um以上、直径80μmの円形孔を備える、インデンテーション試験用のシリコンウェハを用意する。
次に、ペリクル膜を水、酸またはアルカリ性水溶液、有機溶媒などの液体の液面に浮かせ、上述したインデンテーション試験用のシリコンウェハ上に、CNT膜(つまりペリクル膜)を、円形孔を覆うように配置して、CNT膜の一部が自立した構造を持つ評価用サンプルを作製する。
次に、CNT膜における円形孔を覆う箇所の中心に対して、円錐圧子(R=10μm)を1μm/sの速度で押し込むことで、CNT膜に荷重を付加する。そして、CNT膜に塑性変形又は破壊が生じた段階で、塑性変形又は破壊が生じた際の降伏点における荷重を測定する。得られた荷重を膜厚で除した値を破断荷重として算出することで膜強度を測定する。ナノインデンテーション試験は、例えば、株式会社エリオニクス製のENT-2100を用いて行う。
【0059】
露光用ペリクル膜に含まれるCNT膜100は、網目構造を有することができる。即ち、CNT膜100中に、複数本のCNT102が網目状に絡み合って網目構造を形成することができる。
また、CNT膜100は、細孔を有することができる。即ち、CNT102が絡み合って細孔を形成することができる。
【0060】
微視的な応力の集中を抑制してCNT膜の機械的強度を向上させる観点からは、細孔分布が均一であることが好ましい。
すなわち、CNT膜が均一な細孔を有する構造を備えることにより、膜の機械的強度を高めることができる。CNT膜が均一な細孔を有する構造を備えること、即ちCNT膜における細孔分布が狭いことは、例えば、引張強度の増大をもたらす。
【0061】
CNT膜は、CNTバンドルが絡み合い、高分子、紙、不織布、多孔質等に類似した膜構造を有する。CNT膜に容積が大きい細孔が存在する場合、上記大きい細孔を起点として膜が破壊されやすくなる。細孔の容積が小さいことは、例えば、引っ張り試験において測定される引張強度のばらつきの減少をもたらす。
【0062】
CNT集合体101には単層のCNT102あるいは2層のCNT102が含まれてもよい。
【0063】
また、CNT集合体101は、CNTバンドルの太さの分布を取った場合の相対標準偏差が30%以下であることが好ましい。
なお、CNTバンドルの太さは、以下の方法により測定する。
【0064】
図13は、CNTバンドル太さを求める方法の模式図である。CNTバンドル太さの求め方は、以下の通りである。
(1)輪郭線L1を描く。(2)同じCNTバンドルに属する2本の輪郭線に対して垂直な方向の距離D1を測ることで、バンドル太さを得る。(3)バンドルが枝分かれ及び合流をしている節目付近についてはバンドル太さとしてカウントしない。(4)2本の輪郭線はバンドル太さを求める点における接線が15°以下で交わるか平行であることを条件とする。(5)画像の端から反対側の端へ直線を引き、その線が横断したCNTバンドルの輪郭線毎に上記のバンドル太さを求めカウントする。これはカウントの重複を避けるためである。また、この評価では、輪郭線は人の目で判断してもよい。
【0065】
<CNT>
本開示におけるCNT膜は、CNTを含有する。
CNTは、チューブ径が0.8nm以上6.0nm以下であることが好ましい。
チューブ径が0.8nm以上6.0nm以下であることで、例えば、本開示におけるCNT膜をペリクル膜として用いた場合に、EUV光の透過率が高くなる。
【0066】
CNTは、長さが10nm以上であることが好ましい。
CNTの長さが10nm以上であることで、CNTどうしが良好に絡み合い、機械的強度に優れるCNT膜を得ることができる。
CNTの長さの上限には特に制限はないが、上限は、例えば10cmであってもよい。
【0067】
CNTのチューブ径及び長さは、電子顕微鏡観察により、20以上の炭素材料(一次粒子)について測定した値の算術平均値とする。
電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)等を用いることができる。
【0068】
本開示の露光用ペリクル膜は、ペリクル膜の強度をより高くする観点のため、CNTの有効長さが0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。
CNTの有効長さの上限に制限はない。例えば、CNTの有効長さは30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。
【0069】
(CNTの有効長さの測定)
CNTの有効長さは以下の方法により測定する。
まず、フーリエ変換赤外分光器(例えば、 Bruker社のFT-IR分光器Vertex 80vなど)を用いて、CNT膜の遠赤外スペクトルを測定する。
次に、CNT膜を、高抵抗(つまり低キャリア密度)のSi基板上に転写する。
以下の文献[21]~[23]に記載の方法に従い、プラズモン共鳴のピーク値から、キンク、欠陥等の影響を受けた導電路からなる「CNTの有効長さ」のCNTチャネルを推定してCNTの有効長さを評価する。CNTの有効長さの算出にあたりチューブ径の平均値を用いる。チューブ径の平均値は、電子顕微鏡でCNTを撮像したCNTの直径の平均値を求める方法で求めることができる。
[21] T. Nakanishi, T. Ando, Optical Response of Finite-Length Carbon Nanotubes, J. Phys. Soc. Japan. 78 (2009) 114708.
[22] T. Morimoto, S.K. Joung, T. Saito, D.N. Futaba, K. Hata, T. Okazaki, Length-dependent plasmon resonance in single-walled carbon nanotubes, ACS Nano. 8 (2014) 9897-9904.
[23] T. Morimoto, T. Okazaki, Optical resonance in far-infrared spectra of multiwalled carbon nanotubes, Appl. Phys. Express. 8 (2015).
【0070】
CNTの有効長さを長くする方法としては、例えば、キンク、欠陥等が少ないCNTを用いる方法が挙げられる。キンク、欠陥等が少ないCNTは、結晶化度が高く、直線性に優れたCNTであってもよい。
また、G/Dが10以上(又は20以上)でありキンクの長さが100nm以上であるCNTを用いる方法も挙げられる。
また、粗CNT及び溶媒から分散液を製造する際に、CNTにダメージ、欠陥等を増加又は蓄積させない方法も挙げられる。CNTにダメージ、欠陥等を増加又は蓄積させない方法とは、具体的には、超音波分散や機械的にせん断力を加える際の時間、強度及び温度を適切に調整する方法であってもよい。
【0071】
本開示のCNT膜は、共鳴ラマン散乱測定法により測定されるG/D比が、10以上であることが好ましい。
上記G/D比が10以上であることで、良好にグラファイト化されたCNTが含まれるCNT膜を得ることができ、機械的強度に優れるCNT膜を得ることができる。
共鳴ラマン散乱測定法は、レーザー波長として532nmを用い、例えば、HORIBA Scientific社製のXploRAを用いて行う。
【0072】
また、CNT集合体101は、CNTのバンドルの間隔が一定距離離れて均一に分散されていることが好ましい。
CNT集合体101が分散されていることは、例えば、SEM像を高速フーリエ変換(FFT)することにより確認することができる。
FFT画像は中心に近いほど、元画像において低周波数となる周期構造を表し、中心から離れるにしたがって元画像において高周波数となる周期構造を表す。また、FFT画像のピクセル距離及び輝度を用いてフィッティングすることで解析してもよい。この場合、下記の式(OrnsteinZernikeの式)を用いてもよい。
【0073】
【数7】


【0074】
上記式中、Iは輝度、vはピクセル距離である。A、B、Cはフィッティング定数である。
【0075】
(保護層)
本開示の露光用ペリクル膜は、さらに、CNT膜に接するように配置される保護層を備えることが好ましい。
本開示の露光用ペリクル膜が保護層を備えることで、水素ラジカル耐性(すなわち、還元耐性)及び酸化耐性を向上させることができる。
図14において、保護層106は、CNT膜に接するように設けることができる。たとえば、CNT膜100の露光原版側の面に設けられてもよいし、CNT膜100と基板110との間に設けてもよいし図(図14(a))、CNT膜100の上に積層させて最上面の層としてもよいし、これらを組み合わせてもよい。
水素ラジカルはペリクル膜の両面に発生しうるため、上記を組み合わせることが好ましい。すなわち、保護層106を、CNT膜100の露光原版側の面に形成し、さらにCNT膜100の上にも積層させて最上面の層とすることが好ましい。
図14に、保護層106をCNT膜100の露光原版側の面に設けた場合のペリクルの図(図14(b))、及び、保護層106をCNT膜100と基板110との間に設けた場合のペリクルに露光原版181を接続した図(図14(c))を示す。
【0076】
保護層106は、SiO(x≦2)、Si(a/bは0.7~1.5)、SiON、Y、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、BC、SiC及びRhからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0077】
EUV光の透過を阻害しないためには、保護層の膜厚は、1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上5nm以下がより好ましい。
保護層の膜厚を1nm以上10nm以下とすることにより、保護層にEUV光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0078】
ペリクル膜の膜厚に対する保護層の膜厚の割合は、0.03以上1.0以下であることが好ましい。上記数値範囲であれば、保護層にEUV光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0079】
また、保護層を積層すると、新たに生成した層界面、すなわち保護層と空気の界面、及び保護層とペリクル膜との界面で、EUV光の反射が生じ、透過率が低下するおそれがある。これらの層界面でのEUV光の反射率は、ペリクル膜及び保護層の厚み、ならびにペリクル膜及び保護層を構成する元素の種類に応じて、算出することができる。そして、反射防止膜の原理と同様に膜厚を最適化することによって、反射率を低下させることができる。
保護層の厚みの均一性及び表面粗さは、特に限定されない。また、保護層は連続層又は海島状のどちらであってもよい。
【0080】
≪ペリクル≫
本開示のペリクルは、本開示の露光用ペリクル膜と、露光用ペリクル膜を支持する支持枠と、を含む。
【0081】
本開示のペリクルは、支持枠209でペリクル膜202を支持する。図15を用いて、本開示に係るペリクル20の製造方法を説明する。
【0082】
シリコンウェハ、ガラス、金属、ポリマーフィルム等の基板上にCNTを形成する。得られたCNTを、水、酸またはアルカリ性水溶液、有機溶媒などの液体の液面に浮かせることで基板から剥離する。液面に浮いたCNTの膜を、接着剤などを塗布した支持枠で掬い取ることで、支持枠に固定する。得られたCNTの膜がペリクル膜202となる。
ペリクル膜の均一性を向上させる観点から、CNTを形成する基板の粗度Raは、100nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、1nm以下がさらに好ましい。
【0083】
液体上に膜を浮かせてから掬い取ることで自立膜を得る方法としては、グラフェンなどのtransfer技術を用いてもよい。
たとえば、液面に浮いたCNTの膜を液体の液面から掬い取る際に、ポリマーフィルムなどの基材を用いてCNTの膜を支えながら、接着剤などを塗布した支持枠で固定することで膜を掬い取ってもよい。ポリマーフィルムなどの基材をエッチングにより除去することで、CNT膜を得ることができる。
【0084】
基板上に形成されたCNTバルク構造体が膜としての十分な強度を有する場合は、化学気相成長用基板から機械的に剥離し、ペリクル膜202としても良い。ペリクル膜202を支持枠209で支持する方法は特に限定されず、従来のペリクルと同様の方法を用いることができる。
CNT形成に用いた金属触媒はEUV透過率低下の原因となりうるが、化学気相成長用基板からCNTを剥離することで、CNT形成に用いた金属触媒をほとんど含まないペリクル膜202が得られるため好ましい。
支持枠209の形状、大きさ、材質には特に限定はない。支持枠209としては、第2の枠体と同様の材質を用いることができる。
【0085】
ペリクルの他の実施態様としては、例えば、国際公開第2018/008594号において開示されている[実施形態1]及び[実施形態2]が挙げられる。
【0086】
≪露光原版≫
本開示の露光原版は、原版と、原版のパターンを有する側の面に装着された本開示のペリクルと、を含む。
本開示の露光原版は、本開示のペリクルを備えるので、本開示のペリクルと同様の効果を奏する。
本開示のペリクルに原版を装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある原版用接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版と支持枠と、を固定してもよい。
ここで、原版としては、支持基板と、この支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含む原版を用いることができる。
吸収体層がEUV光を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜であってもよい。吸収体層には、EUV光等への吸収性が高い観点から、クロム(Cr)、窒化タンタル等を用いることができる。
【0087】
≪露光装置≫
本開示の露光装置は、本開示の露光原版を含む。このため、本開示の露光原版と同様の効果を奏する。
本開示の露光装置は、露光光を放出する光源と、本開示の露光原版と、光源から放出された露光光を露光原版に導く光学系と、を含み、露光原版は、光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されていることが好ましい。
上記露光光は、EUV光であることが好ましい。
上記の態様によれば、EUV光等によって微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
【0088】
≪露光用ペリクル膜の製造方法≫
本開示における露光用ペリクル膜の製造方法は、上述の本開示の露光用ペリクル膜を製造する方法であって、凝集体を含む粗カーボンナノチューブを準備する工程(準備工程)と、粗カーボンナノチューブと溶媒とを混合して分散液を得る工程(粗カーボンナノチューブ分散液製造工程、粗CNT分散液製造工程ともいう)と、分散液に含まれる凝集体を除去して、精製カーボンナノチューブを得る工程(精製カーボンナノチューブ製造工程、精製CNT製造工程ともいう)と、精製カーボンナノチューブをシート状に成膜して、カーボンナノチューブ膜を製造する工程(カーボンナノチューブ膜製造工程、CNT膜製造工程ともいう)と、を含む。
以下に、CNT膜100の製造方法を図16及び図17を用いて説明する。
【0089】
〔基板の用意〕
まず、図16に示すように、基板110を用意する。例えば、基板110には、シリコン(Si)ウェハが用いられる。なお、図16に示すように、基板110上に下地層120を形成させてもよい。下地層120は、スパッタリング法、CVD法、熱酸化法などにより形成される。例えば、下地層120には、CVD法により形成された窒化シリコン(SiN)膜が用いられる。なお、基板110及び下地層120を含めて基板110と呼んでもよい。なお、下地層120上に異なる膜をさらに設けてもよい。
【0090】
<準備工程>
準備工程は、凝集体を含む粗CNTを準備する工程である。
粗CNTは、凝集体を含むCNTであれば特に制限なく用いることができる。
例えば、株式会社名城ナノカーボン社製のeDIPS、ゼオンナノテクノロジー株式会社製のZEONANO、OCSiAl社製のTUBALL等の市販品を入手してもよく、粗CNTを合成してもよい。
粗CNTの合成方法としては、改良直噴熱分解合成法(Enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis、以下、eDIPS法ともいう)、スーパーグロース法、レーザーアブレーション法等が挙げられる。
上記の中でも、粗CNTの合成方法としては、eDIPS法が好ましい。
【0091】
eDIPS法によって合成された粗CNTは、直径の分布、CNTの結晶性、及び直線性により優れる。
そのため、CNTバンドル、及びCNTバンドルの網目構造が、結晶性の高いCNT、すなわち欠陥密度の低いCNTから構成される。また、バンドルのサイズや網目の分布も揃えることができる。その結果、CNT膜の表面の均一性を向上させることができ、なおかつ強靭なCNT膜を得ることが可能となる。
また、乾式法によって合成された粗CNTは、CNTバンドルが凝集されることを抑制することができるため、CNTバンドルの太さを小さくすることができ、CNT膜の厚みをより薄くすることが可能となる。
【0092】
〔eDIPS法〕
eDIPS法とは、直噴熱分解合成法(Direct Injection Pyrolytic Synthesis、以下、DIPS法ともいう)を改良したCNT合成法である。
DIPS法とは、触媒(あるいは触媒前駆体)、及び反応促進剤を含む炭化水素系の溶液をスプレーで霧状にして高温の加熱炉に導入することによって、流動する気相中で単層CNTを合成する気相流動法である。
eDIPS法とは、触媒で使用されるフェロセンが反応炉内の上流下流側で粒子径が異なるという粒子形成過程に着目し、有機溶媒のみを炭素源として用いてきたDIPS法とは異なり、キャリアガス中に比較的分解されやすい、すなわち炭素源となりやすい第2の炭素源を混合することによって単層CNTの成長ポイントを制御した方法である。
詳細には、Saito et al., J. Nanosci. Nanotechnol., 8 (2008) 6153-6157を参照して製造することができる。
【0093】
eDIPS法によって合成されたCNTの市販品としては、例えば、名城ナノカーボン社製の商品名「MEIJO eDIPS」が挙げられる。
【0094】
<粗CNT分散液製造工程>
粗CNT分散液製造工程は、粗CNTと溶媒とを混合して分散液を得る工程である。
【0095】
(分散液)
分散液は、本開示におけるCNT膜の製造に用いられる。
分散液は、準備工程で得られた粗CNTを含む。
分散液中において、粗CNTは小さく砕かれた状態で存在しており、CNT集合体が形成されている。
分散液は、必要に応じて高粘度のペースト状であってもよい。
【0096】
分散液は、粗CNTの他に、さらに分散剤を含んでもよい。
分散剤は粗CNTの太いバンドルをほどくために用いられる。また、成膜後分散剤を除く必要がある場合には、低分子量の分散剤を使用することが好ましい。
【0097】
分散剤としては、フラビン誘導体、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
上記フラビン誘導体としては、例えば下記式で表される有機側鎖フラビンが挙げられる。
有機側鎖フラビンは、半導体性CNTと金属性CNTを分離可能な分散剤であり、CNTのバンドルをほどく効果を有する。凝集体粒子として細かく大量に溶媒中に分散させる観点から、有機側鎖フラビンは好適である。
【0098】
【化1】


【0099】
分散剤としては、半導体性CNTと金属性CNTを分離可能な分子としてポリフルオレン(poly(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl))を用いてもよい。
分散剤としては、ドデシル硫酸ナトリウムなどの既知の界面活性剤を用いてもよい。
【0100】
(溶媒)
分散液は、CNTの他に、さらに溶媒を含む。
溶媒としては、特に限定されない。
例えば、分散剤として有機側鎖フラビンを用いる場合は、溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどを用いることができる。
分散剤として界面活性剤を用いる場合は、溶媒としては、(重水を含む)水を用いることができる。
【0101】
分散剤を用いない場合は、溶媒としては、n-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、プロピレングリコール、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0102】
粗CNTと溶媒とを混合して分散液を得る手法として、例えば、キャビテーションを用いた手法(超音波分散法)、機械的にせん断力を加える手法(ボールミル、ローラーミル、振動ミル、混練機、ホモジナイザー等)、及び乱流を用いた手法(ジェットミル、ナノマイザー等)が挙げられる。
【0103】
上記の手法は、粗CNTを細かく解すことにより溶媒中に分散させることができる。そのため、精製CNT製造工程の後も高濃度のCNT分散液を得ることが可能となる。
一方、粗CNTを細かく解しすぎた場合、CNTにダメージが蓄積し、ペリクル膜の強度低下を招く可能性がある。そのため、強度が低下しない程度に処理時間、強度、温度等を適切に調整することが好ましい。
【0104】
<精製CNT製造工程>
精製CNT製造工程は、分散液に含まれる凝集体を除去して、精製CNTを得る工程である。
精製CNT製造工程を行うことによって、凝集性の高い繊維状ナノチューブが除去された精製CNTを得ることができる。精製CNTを用いてCNT膜を製造することで、厚みの均一性に優れたCNT膜を得ることができる。
【0105】
分散液に含まれる凝集体を除去する方法としては、例えば、分散液に含まれる凝集体を沈殿させる方法が挙げられる。
具体的には、静置、ろ過、膜分離、遠心処理及び超遠心処理が挙げられる。
上記の中でも、凝集体を除去に優れる観点から、分散液に含まれる凝集体を除去する方法としては、超遠心処理が好ましい。即ち、精製カーボンナノチューブを得る工程において、超遠心処理を行うことが好ましい。
【0106】
超遠心処理は、平均相対遠心力が3,000xg以上であることが好ましい。
平均相対遠心力が3,000xg以上であることで、より細かな凝集体を除去することが可能となり、ペリクル膜の均一性を高めることができる。
上記同様の観点から、平均相対遠心力が5,000xg以上であることがより好ましい。
ここで、平均相対遠心力とは、ある回転数で延伸した場合に発生する平均の遠心力のことであり、最大半径と最小半径の中間点における相対遠心力のことをいう。
【0107】
超遠心処理は、平均相対遠心力は200,000xg以下であることが好ましい。
平均相対遠心力が200,000xg以下であることで、相対遠心力が過度に高いことにより、凝集体の発生、及び、分散液中に分散したCNT自体の沈降を抑制することができる。
上記同様の観点から、平均相対遠心力が150,000xg以下であることがより好ましい。
【0108】
また、遠心時間は、目標とする相対遠心力に到達してからの保持時間を5分以上、180分以下であることが好ましい。
【0109】
<CNT膜製造工程>
CNT膜製造工程は、精製CNTをシート状に成膜して、CNT膜を製造する工程である。
【0110】
〔成膜〕
精製CNTをシート状に成膜する。これによって、CNT膜を形成することができる。
図17に示すように下地層120上に、CNT膜100を形成する。具体的には、CNT膜100は下地層120上にCNT集合体を含む分散液を塗工し、乾燥等によって溶媒を除去することにより形成される。なお、必要に応じて分散液中の分散剤を溶かす溶媒等で洗浄することによって分散剤を除去してもよい。
【0111】
塗工方法としては、粘度又はCNT集合体の濃度に応じた方法を用いてもよい。例えば、ブレードコート法、スリットコート法、スピンコート法、ディップコート法といった塗工法が用いられてもよい。なお、CNT膜は塗工することにより成膜されるため、得られるCNT膜の面積、厚み等はCNT合成法によっては制限されず、塗工法によって制御される。したがって、上記の塗工法を適宜選択して用いることで、種々の厚みのCNT膜を大面積に亘って成膜することができる。
上記の中でも、塗工方法としては、スピンコート法及びディップコート法が好ましい。
【0112】
CNT膜を成膜した後、溶媒を除去するための乾燥方法は、特に限定されない。また用途に応じては乾燥しなくてもよい。
例えば、溶媒としてトルエンを用いる場合は、室温で静置して溶媒を乾燥させてもよい。溶媒として水又は高沸点の溶媒を用いる場合、適宜加熱して溶媒を乾燥してもよい。
また、溶媒として表面張力の小さな溶媒を用いる場合、温度、蒸気圧等を制御することにより、CNT集合体の形状を制御することができる。表面張力の小さな溶媒としては、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体などが挙げられる。
【0113】
分散剤を除去する方法は特に限定されない。また用途に応じては除去しなくてもよい。
例えば、CNT膜100に有機側鎖フラビンが含まれてもよい。分散剤はCNT同士の凝集を防ぐために用いることから、一般に、CNT表面に吸着する性質を有する。
このため、分散の際に使用した溶媒と異なる溶媒で洗浄することで、同一の溶媒を使用する場合と比較して、より少量にて、及び、より短時間にて分散剤を除去することができる。
例えば、分散剤として有機側鎖フラビンを用いる場合、洗浄剤としてクロロホルムを用いて洗浄してもよい。
洗浄剤としては、水、酸又はアルカリの水溶液、クロロホルム、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトンなどが挙げられる。また、分散剤としてコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いる場合は、水又はエタノールを用いて洗浄することが好ましい。
【0114】
また、分散剤を除去する方法としては、洗浄剤を用いる方法以外に、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体によって洗浄する方法、酸素中で加熱して分散剤を燃焼、溶解、蒸発又は昇華させる方法、電気化学的に酸化又は還元を行い除去されやすい化学構造へ変化させて除去する方法等が挙げられる。
【0115】
〔CNT膜の剥離〕
最後に、CNT膜100が形成された基板110から、CNT膜100を剥離する。
CNT膜100が形成された基板110を溶剤に浸漬し、振とうすることにより、CNT膜100は基板110から剥離される。溶剤としては、酸又はアルカリの水溶液、有機溶媒などの洗浄剤を用いてもよい。
分散液に酸性ポリマーを用いる場合は、洗浄剤はアルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化セシウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム(水酸化コリンともいう)水溶液等が挙げられる。
以上により、CNT膜100が製造される。
【実施例0116】
以下、実施例等により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
本実施例において、反射率の3σ及び平均反射率の測定、並びに膜厚み(光学厚み)への換算、膜の厚み及びEUV光の透過率は、上述の方法により行った。
【0117】
(実施例1)
〔準備工程〕
凝集体を含む粗CNTとして、改良直噴熱分解合成法(eDIPS法)により合成された単層CNT(粗CNT、株式会社名城ナノカーボン製、商品名:EC1.5-P、チューブ径:1nm~3nm、チューブ径の平均値:1.7nm、チューブの長さ:100nm以上)を準備した。
【0118】
〔粗CNT分散液製造工程〕
改良直噴熱分解合成法(eDIPS法)により合成された単層CNT30mgに対して、イソプロピルアルコール70mL及びエタノール30mLを添加し、さらに添加剤としてポリアクリル酸30mgを添加し、マグネチックスターラーを用いて1000rpm(revolutions per minute)にて、40℃、18時間で攪拌して懸濁液を得た。
【0119】
得られた懸濁液に対して、プローブ型超音波ホモジナイザーを用いて、出力40%で合計2時間超音波分散を行った。この際、20分ごとに5分間氷冷した。
超音波分散を行った後、脱泡処理を行い、粗CNTを含む分散液(粗CNT分散液)を得た。
【0120】
〔精製CNT製造工程〕
得られた粗CNT分散液に対して、高速遠心分離機(himac 商品名CS100GX)を用いて、平均相対遠心力150,000xg、120分、10℃の条件下で遠心処理を行った。
遠心処理を行った後、上澄み液を除去することで、凝集体又はダマ状のCNTが除去された、精製CNTを含む分散液(精製CNT分散液)を得た。
【0121】
〔CNT膜製造工程〕
8インチサイズのシリコン基板(粗度Ra:0.15nm)に、精製CNT分散液を、1500rpmの回転速度にてスピンコートし、シリコン基板上にCNTの薄膜を得た。
薄膜を水洗して薄膜中のポリアクリル酸を除去して乾燥させた後、水にシリコン基板を浸透させた。次に、CNTの薄膜のみを水中に残し、シリコン基板のみを水から取り出すことで、CNTの薄膜をシリコン基板から剥離して、水の液面上に浮いている状態にて、網目構造を有するCNT膜を製造した。
【0122】
〔配置〕
水の液面上に浮いている状態のCNT膜を8インチサイズのシリコン基板ですくい取ることによって、シリコン基板上にCNT膜(ペリクル膜)を配置した。
【0123】
(比較例1)
〔精製CNT製造工程〕を行わず、〔粗CNT分散液製造工程〕で得られた粗CNT分散液を用いて〔CNT膜製造工程〕及び〔配置〕を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により、シリコン基板上に、網目構造を有するCNT膜(ペリクル膜)を配置した。
【0124】
(実施例2)
〔粗CNT分散液製造工程〕
改良直噴熱分解合成法(eDIPS法)により合成された単層CNT(粗CNT、株式会社名城ナノカーボン製、商品名:EC1.5-P、チューブ径:1nm~3nm、チューブ径の平均値:1.7nm、チューブの長さ:100nm以上)30mgに対して、イソプロピルアルコール70mL及びエタノール30mLを添加し、さらに添加剤としてポリアクリル酸30mgを添加し、マグネチックスターラーを用いて1000rpm(revolutions per minute)にて、40℃、18時間で攪拌して懸濁液を得た。
得られた懸濁液に対して、ホモジナイザー(SMT社製 型式:HF93)を用いて、10000rpmで25℃、1時間攪拌を行うことで、粗CNTを含む分散液(粗CNT分散液)を得た。
【0125】
〔精製CNT製造工程〕
得られた粗CNT分散液に対して、高速遠心分離機を用いて、平均相対遠心力50,000xg、60分、10℃の条件下で遠心処理を行った。
遠心処理を行った後、上澄み液を除去することで、凝集体又はダマ状のCNTが除去された、精製CNTを含む分散液(精製CNT分散液)を得た。
〔CNT膜製造工程〕において、8インチサイズのシリコン基板に、精製CNT分散液を、シリコン基板とブレードとのギャップを20μmとして、ブレードコート法で塗布し、シリコン基板上に、網目構造を有するCNT膜(ペリクル膜)を配置した。
【0126】
(実施例3)
シリコン基板とブレードとのギャップを10μmとしたこと以外は、実施例2と同様の方法で精製CNTを含む分散液(精製CNT分散液)の製造とCNT膜製造工程を実施し、シリコン基板上に、網目構造を有するCNT膜(ペリクル膜)を配置した。
【0127】
上記実施例及び比較例で得られたCNT膜(ペリクル膜)の厚み及びEUV光の透過率を、表2に示す。
【0128】
-評価-
~平均反射率及び反射率の3σ~
反射率測定において、測定位置としてX=5mm、25mm、50mm、75mm及び95mmの位置を選定した。
選定したそれぞれの位置における測定点の平均反射率及び反射率の3σを測定した。測定点の直径は20μmである。
結果を表2に示す。
【0129】
~膜厚みの平均値及び膜厚みの3σ~
上述した方法で、X=5mm、25mm、50mm、75mm及び95mmの各測定位置において、膜厚みの平均値及び膜厚みの3σを測定した。また、各測定位置における膜厚みの平均値を平均することで、厚みを得た。結果を表2に示す。
【0130】
~EUV透過率の測定~
CNT膜(ペリクル膜)に対してEUV照射装置(ニュースバル(施設名) BL-10、兵庫県立大)にて、波長13.5nmの光(EUV)を照射し、EUV透過率測定を行った。入射光強度の半値全幅から求めたビームサイズは1.0mm×0.06mmであった。
【0131】
~反射顕微鏡観察~
光学顕微鏡により、シリコン基板上のCNT膜の表面観察を行った。
図18は実施例1に係るCNT膜の表面の画像である。図18において、わずかに淡い濃淡分布が見られるが、ダマ状又は凝集体はほとんど観察できず、不均一領域は視認できなかった。
図19は、比較例1に係るCNT膜の表面の画像である。図19において、ダマ状又は凝集体が観察され、不均一な膜厚みである様子が視認できた。
【0132】
CNTの有効長さは、上述した方法で評価した。評価の際にチューブ径は1.7nmとして評価した。
【0133】
【表2】


【0134】
カーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ膜を含み、波長13.5nmにおけるEUV光の透過率が80%以上であり、厚みが1nm以上50nm以下であり、カーボンナノチューブ膜をシリコン基板上に配置し、配置したカーボンナノチューブ膜について、反射分光膜厚み計を用い、上述の条件にて反射率を測定した場合に、反射率の3σが10%以下である実施例に係る露光用ペリクル膜は、膜厚みの3σが小さく、厚みの均一性に優れていた。
一方、反射率の3σが10%超である比較例1は、膜厚みの3σが大きく、厚みの均一性に劣っていた。
【0135】
実施例1のペリクル膜は、全ての測定位置で反射率の3σは10%以下であり、平均反射率の最大値と最小値との差が15%以下であった。
実施例1のペリクル膜は、シリコン基板上へ配置されたCNT膜を光学顕微鏡で観察したところ、わずかに淡い濃淡分布が見られるが、ダマ状又は凝集体は観察できず、膜厚みが不均一である不均一領域は視認できなかった。
実施例1のペリクル膜は、膜厚みの平均値が小さく、膜厚みの3σについてもばらつきが少なかった。そのため、実施例1のペリクル膜は、局所的な領域においても、広域的な領域においても、膜厚みにばらつきが少ないことが示された。即ち、実施例1のペリクル膜は、厚みの均一性に優れることが示された。
また、実施例1のペリクル膜は、全面にわたってEUV透過性に優れているためEUVペリクル膜として適している。
【0136】
比較例1のペリクル膜は、全ての測定位置で反射率の3σは10%以上であり、平均反射率の最大値と最小値との差が10%以上であった。
比較例1のペリクル膜は、シリコン基板上へ配置されたCNT膜を光学顕微鏡で観察したところ、明確な濃淡分布が全面に観察され、ダマ状又は凝集体が全面に観察され、不均一領域が視認できた。
比較例1のペリクル膜は、局所的な領域において膜厚みにばらつきが生じており、厚みの均一性に劣っていた。
【0137】
実施例2のペリクル膜は、全ての測定位置で反射率の3σは10%以下であった。
実施例2のペリクル膜は、局所的な領域において膜厚みにばらつきが少なかった。
広域的な領域において、実施例1ほどではないものの、膜厚みにばらつきが少ないことが示された。
【0138】
実施例3のペリクル膜は、全ての測定位置で反射率の3σは10%以下であった。
また、平均反射率の最大値と最小値との差が5%以下であった。
実施例3のペリクル膜は、局所的な領域において膜厚みにばらつきが非常に少なかった。
広域的な領域において、膜厚みにばらつきが非常に少ないことが示された。
【0139】
2020年4月17日に出願された日本国特許出願2020-074343号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19