(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106660
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】半導体基板の評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20230726BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H01L21/66 L
H01L21/316 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007511
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康太
【テーマコード(参考)】
4M106
5F058
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106AA13
4M106CA24
4M106CA48
4M106DH03
4M106DJ12
4M106DJ18
4M106DJ27
5F058BA20
5F058BC02
5F058BE10
5F058BF63
(57)【要約】
【課題】
熱酸化膜の膜厚の違いから半導体基板の表面品質を精度高く評価する半導体基板の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
半導体基板の評価方法であって、半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することなく、前記半導体基板をパイロジェニック酸化して前記半導体基板の表面にパイロジェニック酸化膜を形成し、前記パイロジェニック酸化膜の膜厚に基づいて、前記半導体基板の表面品質の評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の評価方法であって、
半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することなく、前記半導体基板をパイロジェニック酸化して前記半導体基板の表面にパイロジェニック酸化膜を形成し、前記パイロジェニック酸化膜の膜厚に基づいて、前記半導体基板の表面品質の評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法。
【請求項2】
前記パイロジェニック酸化膜の膜厚を、1~10nmとすることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項3】
前記表面品質を、前記半導体基板の最終洗浄で形成された自然酸化膜の膜質及び/又は厚さとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項4】
前記表面品質を、前記半導体基板の表面粗さとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項5】
前記半導体基板をシリコン基板、前記パイロジェニック酸化膜をシリコン酸化膜とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体基板の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子の多層化、薄型化に伴って、素子を構成する各種膜についてより一層の薄膜化が要求されている。このような極薄のシリコン酸化膜を面内であるいは基板間で均一にかつ再現性良く形成するためには、半導体基板に予め形成される自然酸化膜の影響を無視することは不可能となっている(特許文献1)。なお、本明細書においては、半導体基板を洗浄することで形成される酸化膜(化学酸化膜と呼ばれることもある)も、自然酸化膜に含まれるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-49217号公報
【特許文献2】特許第6791453号公報
【特許文献3】特許第6791454号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】B.E.Deal and A.S.Grove, “General Relationship for the Thermal Oxidation of Silicon”, J.Apply.Phys., 36, 3770(1965).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの調査研究では、例えば半導体基板の洗浄方法が異なった場合、その後の熱酸化膜の膜厚の違いがあることがわかっている。さらに熱酸化後の酸化膜の違いが発生することにより、半導体集積回路素子の特性のバラツキや歩留まりの低下などの問題が懸念されている。そしてこの膜厚の違いは、必ずしも熱酸化前の自然酸化膜厚によらないことも分かっている(特許文献2,3)。
【0006】
しかしながら、この熱酸化膜の膜厚差は非常に小さく、外乱によるばらつきなのか、基板の表面品質によるものなのかどうかの判断のためには、熱酸化膜の膜厚差をより大きくして、違いをより明確化する手法が求められる。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、熱酸化膜の膜厚の違いから半導体基板の表面品質を精度高く評価する半導体基板の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、半導体基板の評価方法であって、半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することなく、前記半導体基板をパイロジェニック酸化して前記半導体基板の表面にパイロジェニック酸化膜を形成し、前記パイロジェニック酸化膜の膜厚に基づいて、前記半導体基板の表面品質の評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法を提供する。
【0009】
このような半導体基板の評価方法によれば、熱酸化膜の膜厚の違いから半導体基板の表面品質を精度高く評価する半導体基板の評価方法を提供することができる。
【0010】
このとき、前記パイロジェニック酸化膜の膜厚を、1~10nmとすることができる。
【0011】
このように膜厚が薄い範囲の場合に、特に、半導体基板の表面品質の評価をより精度高く行うことができる。
【0012】
このとき、前記表面品質を、前記半導体基板の最終洗浄で形成された自然酸化膜の膜質及び/又は厚さとすることができる。また、前記表面品質を、前記半導体基板の表面粗さとすることができる。
【0013】
本発明に係る半導体基板の評価方法は、特にこのような半導体基板の表面品質の評価に好適である。
【0014】
このとき、前記半導体基板をシリコン基板、前記パイロジェニック酸化膜をシリコン酸化膜とすることができる。
【0015】
本発明に係る半導体基板の評価方法は、特にシリコン基板に形成されるシリコン酸化膜に対して好適である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の半導体基板の評価方法によれば、熱酸化膜の膜厚の違いから半導体基板の表面品質を精度高く評価する半導体基板の評価方法を提供することができる。また、熱酸化膜厚に影響する半導体基板製造に係る工程条件を明確にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例と比較例におけるSC1洗浄温度と熱酸化膜の膜厚の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
上述のように、熱酸化膜の膜厚の違いから半導体基板の表面品質を精度高く評価する半導体基板の評価方法が求められていた。
【0020】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、半導体基板の評価方法であって、半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することなく、前記半導体基板をパイロジェニック酸化して前記半導体基板の表面にパイロジェニック酸化膜を形成し、前記パイロジェニック酸化膜の膜厚に基づいて、前記半導体基板の表面品質の評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法により、半導体基板の表面品質を精度高く評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
以下、図面を参照して説明する。
【0022】
シリコン基板などの半導体基板上に薄い熱酸化膜を形成するためには、一般的には、半導体基板を石英チューブの外側にヒータやランプを備えた熱処理炉内に設置して、半導体基板を加熱した状態で酸素を炉内に導入して、半導体を酸化することで半導体酸化膜を作製する。このような手法により10nm以下の薄い熱酸化膜を形成するためには、温度を900℃以下に下げる、酸素の分圧を下げるなどの手段をとる。このように酸化種として酸素を用いる方法を一般的にドライ酸化と呼び、形成された酸化膜をドライ酸化膜などと呼称することもある。
【0023】
一方で、酸化種として水(加熱水蒸気)を用いるパイロジェニック酸化(パイロ酸化、ウエット酸化ということもある)と呼ばれる方法がある。このようなパイロジェニック酸化法で形成された酸化膜を、パイロジェニック酸化膜(パイロ酸化膜)と称することもある。加熱水蒸気の導入方法としては、水を酸素でバブリングして炉内に供給する方法や、酸素と水素を炉内に個別に導入し炉内で燃焼させて水を生成させる方法などがある。特に、清浄度や安定性、安全性を考慮して、近年ではガス導入部に予備燃焼室を備え、この予備燃焼室で予め酸素と水素を燃焼させて、熱処理炉内へ導入する方法が一般的である。このパイロ酸化処理の酸化速度はドライ酸化に比べて大きく、一般的には厚い酸化膜を形成するために用いられることが多い(非特許文献1)。
【0024】
この半導体の酸化には、酸化種が酸化膜を拡散して酸化膜/半導体界面に到達する必要があり、酸化速度は酸化種の拡散によって律速されるために、酸化時間とともに(熱酸化膜厚の増加ととともに)遅くなっていく。しかしながら、酸化膜厚は酸化膜厚が薄い場合や酸化の初期のように酸化種の拡散の影響が小さい場合は、拡散の影響は小さく、酸化膜/半導体界面の反応(構造)にも依存する。
【0025】
このように、薄い酸化膜では半導体基板表面に形成されている自然酸化膜の影響も無視することはできず、自然酸化膜の膜厚や膜質が熱酸化膜の膜厚にも影響する。
【0026】
本発明者らはこれまでに、例えば、半導体基板の洗浄条件(洗浄液の種類や組成等)の違いが、洗浄により半導体基板表面に形成される自然酸化膜の構成(膜質、膜厚等の品質)に影響を及ぼすことを解明してきた(特許文献2,3)。
【0027】
本発明者らがさらに検討を行い、熱酸化方法、特にドライ酸化とパイロ酸化を比較したところ、パイロジェニック酸化で形成される酸化膜の膜厚が、特に半導体基板の洗浄条件の影響をより強く受けることが分かった。これは上述の通り、薄い酸化膜では酸化種の拡散以外に酸化膜/半導体界面の影響を強く受けるためである。
【0028】
本発明者らは、自然酸化膜が存在する半導体基板を、半導体基板の表面品質の違いに影響される熱酸化膜の膜厚の差がより大きくなるような半導体基板の熱処理方法で酸化、すなわち、自然酸化膜の膜質の影響を反映しやすいパイロジェニック酸化することで、半導体基板の表面品質を精度高く評価できることに想到した。そして、本発明者らは、半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することなくパイロジェニック酸化して半導体基板の表面にパイロジェニック酸化膜を形成し、パイロジェニック酸化膜の膜厚に基づけば、半導体基板の表面品質の評価を精度高く行うことが可能となることを見出した。
【0029】
例えば、基準となるパイロジェニック酸化膜の膜厚を設定しておき、この基準値と比較することで半導体基板の表面品質の変化を把握することができる。
【0030】
また、本発明に係る半導体基板の評価方法を用いれば、半導体基板の品質の評価に基づいて、洗浄工程など熱酸化前の工程の管理を行うことも可能となる。後述の実施例に示すように、パイロジェニック酸化による膜厚の変化は、半導体基板の洗浄条件の変化をより感度高く反映する。このことを利用し、洗浄工程の評価を行うことも好ましい。例えば、通常の製品を処理する洗浄工程を定期的なモニタリングとして、熱酸化膜の膜厚の推移を把握することで、洗浄条件の変化や異常の発生などを検出することも可能となる。
【0031】
なお、パイロジェニック酸化膜の膜厚は、半導体集積回路素子の薄膜化への影響を考慮して、1~10nmとすることが好ましい。本発明に係る半導体基板の評価方法は、このような膜厚が薄い範囲の場合に特に、半導体基板の表面品質の評価をより精度高く行うことができる。
【0032】
表面品質を、半導体基板の最終洗浄で形成された自然酸化膜の膜質及び/又は厚さとすることができる。本発明に係る半導体基板の評価方法では、特に、半導体基板の最終洗浄で形成された自然酸化膜の膜質が、パイロジェニック酸化による酸化膜の膜厚に強く影響を及ぼすため、より精度の高い評価を行うことができる。
【0033】
また、表面品質を、半導体基板の表面粗さとすることもできる。半導体基板の洗浄条件は半導体基板の表面粗さにも影響を及ぼす。このため、酸化膜/半導体界面の影響をより強く反映するパイロジェニック酸化を用いる本発明に係る半導体基板の評価方法では、半導体基板の表面粗さを精度高く評価することも可能である。
【0034】
半導体基板としてはシリコン基板が好ましい。この場合、パイロジェニック酸化膜はシリコン酸化膜である。本発明に係る半導体基板の評価方法は、特にシリコン基板の評価において有効である。
【実施例0035】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0036】
(実施例)
直径300mm、ボロンドープの通常抵抗率(約10Ωcm)のシリコン基板を準備した。シリコン基板表面に形成されている自然酸化膜の影響を排除し初期化するために0.5%HFで洗浄後に、洗浄液の温度を40、45、50、60、70℃としてSC1洗浄(NH4OH濃度:3%)を行った。
【0037】
この後、これらのシリコン基板を熱酸化としてパイロ酸化(700℃、N
2希釈、酸化時間:23分)し、熱酸化膜を形成した。熱酸化後の熱酸化膜厚を分光エリプソメータで基板中の面内5点を測定して、SC1洗浄温度が熱酸化膜厚に与える影響を評価した。その結果、
図1(面内5点の平均と最大(MAX)と最小(MIN)のプロット)に示すように、SC1洗浄温度が高くなるほど熱酸化膜厚が厚くなることがわかった。
【0038】
SC1洗浄温度は、シリコン基板表面の粗さと、シリコン基板表面に洗浄で形成された自然酸化膜の品質に影響を及ぼすと考えられる。本実施例で示されたように、自然酸化膜を除去せずにパイロ酸化を行った場合、パイロ酸化膜の膜厚は品質の違いを感度高く反映できるため、パイロ酸化膜の膜厚に基づいて評価を行うことで、半導体基板の表面品質(本実施例の場合は、シリコン基板表面の粗さと、シリコン基板表面に洗浄で形成された自然酸化膜の品質)の評価を精度高く行うことが可能であることがわかった。
【0039】
また、この結果をもとにすれば、洗浄装置の日常管理を行うことが可能になる。すなわち、酸化膜厚が通常と違う厚さになった場合は、洗浄装置の温度管理に異常があることがわかる。本例はわかりやすいように薬液温度を振ったが、日常管理として酸化膜厚を決めてモニタリングをしていけば、洗浄条件の変動を検知できる。
【0040】
(比較例)
直径300mm、ボロンドープの通常抵抗率(約10Ωcm)のシリコン基板を準備した。シリコン基板表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、洗浄液の温度を40~70℃としてSC1洗浄(NH4OH濃度:3%)を行った。
【0041】
この後、これらのシリコン基板を熱酸化としてドライ酸化(900℃、N
2希釈、酸化時間:23分)し、熱酸化膜を形成した。熱酸化後の熱酸化膜厚を、分光エリプソメータで基板中の面内5点を測定して、SC1洗浄温度が熱酸化膜厚に与える影響を評価した。その結果、
図1(面内5点の平均と最大(MAX)と最小(MIN)のプロット)に示すように、SC1洗浄温度が高くなるほど熱酸化膜厚が厚くなる傾向が見られたものの、実施例のパイロ酸化と比較してSC1洗浄温度による熱酸化膜厚の差が小さいことがわかる。
図1に示すように、比較例では、薬液温度による酸化膜厚の差があることはわかるが、酸化時の基板面内でのばらつきを考慮すると薬液温度の影響が小さくなりその差が不明確である。
【0042】
このように、実施例のパイロ酸化に代えてドライ酸化を行った比較例の場合には、シリコン基板表面の品質の変化に対するドライ酸化膜厚の変化が小さく、シリコン基板表面の評価の精度が低いことがわかった。
【0043】
以上の通り、本発明の実施例によれば、パイロ酸化で形成した熱酸化膜(パイロ酸化膜)の膜厚が、SC1洗浄条件(温度)の変動を精度高く反映していることがわかった。パイロ酸化を行うと、半導体基板の品質を精度高く評価でき、洗浄条件の変化の影響をより精度高く評価できることがわかった。また、洗浄工程や洗浄機の管理にも適用できることがわかった。さらに、従来の方法では測定、評価できなかった半導体基板の表面品質の変化を評価することも可能と考えられる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。