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特開2023-106753改質燃焼灰の製造方法、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法、並びに低カリウム燃焼灰の製造方法及びセメント資源化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106753
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】改質燃焼灰の製造方法、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法、並びに低カリウム燃焼灰の製造方法及びセメント資源化方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20230726BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20230726BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B09B3/00 303L
C04B7/38 ZAB
C04B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007674
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕之
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA08
4D004AA37
4D004AB06
4D004AC05
4D004BA02
4D004BA04
4D004CA22
4D004CA27
4D004CB05
4D004CB31
4D004CC02
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA12
(57)【要約】
【課題】木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造することが可能な改質燃焼灰の製造方法を提供すること。
【解決手段】改質燃焼灰の製造方法が開示される。当該製造方法は、塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、加熱工程の塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程とを備える。塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比(K/Cl)は、0.01~1.40である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造する改質燃焼灰の製造方法であって、
塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の前記塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程と、
を備え、
前記塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、前記木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比(K/Cl)が、0.01~1.40である、
改質燃焼灰の製造方法。
【請求項2】
前記改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量が、1.0~10.0質量%である、
請求項1に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程が、前記木質バイオマスと、塩素含有プラスチックとを加熱する工程であり、
前記塩素含有プラスチックの割合が、前記木質バイオマス100質量に対して1~30質量部である、
請求項1又は2に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程が、前記木質バイオマスの燃焼灰と、塩素含有プラスチックとを加熱する工程であり、
前記塩素含有プラスチックの割合が、前記木質バイオマスの燃焼灰100質量に対して20~3000質量部である、
請求項1又は2に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項5】
前記塩素含有プラスチック中の塩素量が、0.5~20質量%である、
請求項3又は4に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程で排出される前記塩化水素を含むガスの流速が、2~20m/sである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項7】
前記塩化水素が、塩素含有プラスチックを燃焼させて発生する塩化水素である、
請求項1又は2に記載の改質燃焼灰の製造方法。
【請求項8】
木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰に改質する木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法であって、
塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の前記塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程と、
を備え、
前記塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、前記木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比(K/Cl)が、0.01~1.40である、
木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法で製造される改質燃焼灰から、カリウム量が低減された低カリウム燃焼灰を製造する低カリウム燃焼灰の製造方法であって、
前記改質燃焼灰を水で洗浄し、可溶分を除去する洗浄工程を備える、
低カリウム燃焼灰の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で製造される低カリウム燃焼灰をセメント原料として使用する、
低カリウム燃焼灰のセメント資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質燃焼灰の製造方法、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法、並びに低カリウム燃焼灰の製造方法及びセメント資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、カーボンニュートラルとされる木質バイオマスを燃料としてボイラで燃焼させて発電するシステムが注目されている。加えて、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の後押しもあり、木質バイオマスを利用した発電設備の認定件数は増加傾向にある。一方で、これに伴い、木質バイオマスの燃焼によって発生する灰(木質バイオマス燃焼灰)の発生量の増加が懸念されている。この木質バイオマス燃焼灰は、有効な利用方法が少なく、多くが埋立処分されているのが実情であり、木質バイオマス燃焼灰の安定的な利用が望まれている。
【0003】
木質バイオマス燃焼灰の利用方法として肥料としての利用が検討されている。木質バイオマス燃焼灰中のカリウム及びシリカ成分は、肥料成分として有用であると考えられており、例えば、特許文献1では、木質バイオマス燃焼灰を含む肥料が開示されている。
【0004】
また、木質バイオマス燃焼灰の他の利用方法として、セメントのクリンカー原料としての利用が有効であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-85319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
木質バイオマス燃焼灰中のカリウム成分は肥料として有効な成分であるが、多くの木質バイオマス燃焼灰では、カリウム成分が難溶性カリウムとして存在している。この難溶性カリウムは、アルミノシリケート(結晶)構造内にカリウムが取り込まれた状態であると考えられ、安定した状態で存在しているためカリウム成分の活用が容易ではない。そのため、木質バイオマス燃焼灰中のカリウム成分を水溶性カリウムに改質することが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造することが可能な改質燃焼灰の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を、塩化水素を含むガスの雰囲気下で加熱することによって、滞留時間の短くなる飛灰回収でも効率的に水溶性カリウム量の割合が多い改質燃焼灰に改質できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一側面は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造する改質燃焼灰の製造方法に関する。当該製造方法は、塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、加熱工程の塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程とを備える。塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比(K/Cl)は、0.01~1.40である。木質バイオマスは、燃焼することによって木質バイオマス燃焼灰に変換される。木質バイオマス燃焼灰は、ケイ素及びアルミニウムから構成されるアルミノシリケート構造を有し得る。当該製造方法によれば、塩化水素を含むガスの雰囲気下で加熱することによって、木質バイオマス燃焼灰のアルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれているような難溶性カリウムを水溶性カリウムに改質し、改質燃焼灰を得ることができる。塩化水素は、塩素含有プラスチックを燃焼させて発生する塩化水素であってよい。
【0010】
上記改質燃焼灰の製造方法は、加熱工程において、塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する。水溶性カリウムに改質した後の木質バイオマス燃焼灰を主灰又は炉底灰として回収しようとすると、改質前に造粒等の前処理が必要となり、コストアップになる場合がある。また、造粒等の前処理なしに、木質バイオマス燃焼灰を主灰又は炉底灰として回収しようとすると、飛散防止のためにガスの流速を低くする必要がある。このとき、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を改質するためには、ガス中の塩化水素の濃度を高める必要があるが、高濃度の塩化水素を使用することにより、設備の腐食が問題となる場合がある。そのため、上記改質燃焼灰の製造方法は、主灰又は炉底灰を回収する場合に比べて、コストを抑えつつ、低濃度の塩化水素を使用することから、設備の腐食を抑制することが可能となる。
【0011】
改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、1.0~10.0質量%であってよい。
【0012】
加熱工程が、木質バイオマスと、塩素含有プラスチックとを加熱する工程である場合、塩素含有プラスチックの割合は、木質バイオマス100質量に対して1~30質量部であってよい。加熱工程が、木質バイオマスの燃焼灰と、塩素含有プラスチックとを加熱する工程である場合、塩素含有プラスチックの割合は、木質バイオマスの燃焼灰100質量に対して20~3000質量部であってよい。塩素含有プラスチック中の塩素量は、0.5~20質量%であってよい。
【0013】
加熱工程で排出される塩化水素を含むガスの流速は、2~20m/sであってよい。
【0014】
本発明の他の側面は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰に改質する木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法に関する。当該改質方法は、塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、加熱工程の塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程とを備える。塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比は、0.01~1.40である。
【0015】
本発明の他の側面は、上記の製造方法で製造される改質燃焼灰から、カリウム量が低減された低カリウム燃焼灰を製造する低カリウム燃焼灰の製造方法に関する。当該製造方法は、改質燃焼灰を水で洗浄し、可溶分を除去する洗浄工程を備える。
【0016】
本発明の他の側面は、低カリウム燃焼灰のセメント資源化方法に関する。当該セメント資源化方法は、上記の製造方法で製造される低カリウム燃焼灰をセメント原料として使用するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造することが可能な改質燃焼灰の製造方法が提供される。また、本発明によれば、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰に改質する木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法が提供される。また、本発明によれば、改質燃焼灰から低カリウム燃焼灰を製造する低カリウム燃焼灰の製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、低カリウム燃焼灰を用いた改質燃焼灰のセメント資源化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、改質燃焼灰の製造設備の一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、改質燃焼灰の製造設備の他の実施形態を示す概略図である。
図3図3は、参考例で用いた反応装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
[改質燃焼灰の製造方法]
一実施形態の改質燃焼灰の製造方法は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を得るものである。本実施形態の製造方法は、少なくとも加熱工程及び回収工程を備える。
【0021】
加熱工程及び回収工程は、塩化水素を含むガスを使用する又は塩化水素を含むガスが発生することから、通常、ガスフローが可能であり、かつ塩化水素を含むガスが漏洩しない反応系で実施される。
【0022】
図1は、改質燃焼灰の製造設備の一実施形態を示す概略図である。図1で示される改質燃焼灰の製造設備は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱する加熱工程を実施するための燃焼炉と、燃焼炉から塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程を実施するための集塵装置とを備える。燃焼炉は、塩化水素を含むガスが導入されるための導入管を有している。
【0023】
燃焼炉内に塩化水素を含むガスを導入することにより、反応系を、塩化水素を含むガスの雰囲気とすることができる。燃焼炉は、処理対象である木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の量によって適宜選択することができる。燃焼炉としては、例えば、ロータリーキルン炉、流動床炉、循環式流動床炉、ストーカー炉等が挙げられる。
【0024】
集塵装置に回収される飛灰は、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰であり得る。集塵装置としては、例えば、サイクロン、バグフィルター、電気集塵機、スプレー式湿式集塵機等が挙げられる。
【0025】
図2は、改質燃焼灰の製造設備の他の実施形態を示す概略図である。図1で示される改質燃焼灰の製造設備と異なる点は、塩化水素を含むガスを導入するのではなく、塩素含有プラスチックを加熱することにより、塩化水素を発生させる点である。燃焼炉内で塩素含有プラスチックを加熱することにより、反応系を、塩化水素を含むガスの雰囲気とすることができる。
【0026】
図1及び図2で示される改質燃焼灰の製造設備は、木質バイオマスを燃料としてボイラで燃焼させて発電するシステムに応用することができる。このようなシステムでは、エネルギーの産出とともに、改質燃焼灰の製造が可能となる。
【0027】
以下、改質燃焼灰の製造方法の各工程を詳細に説明する。
【0028】
<加熱工程>
本工程は、塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する工程である。
【0029】
木質バイオマスとは、林地残材、製材工場の残材、建設廃材、パームヤシ殻、草本植物、農業残渣等の木質資源を意味し、木質バイオマスを利用した発電では、流動床炉型、ストーカー炉型、キルン炉型等の燃焼装置で燃焼し、得られた熱エネルギーを利用する。
【0030】
木質バイオマス燃焼灰とは、木質バイオマスを燃焼させた際に発生する灰を意味し、燃焼装置の底部に蓄積する主灰と、集塵装置で回収される飛灰とを含む概念である。木質バイオマスを燃焼させ際には、木質バイオマス以外の一般ごみ等の可燃物、石炭、重油等の化石燃料などをともに燃焼させてもよいが、木質バイオマスの割合は、被燃焼物全量を基準として、50質量%以上であることが好ましい。
【0031】
木質バイオマス燃焼灰中の主な元素は、アルミノシリケート構造を構成するケイ素及びアルミニウム、植物の栄養成分であるリン及びカリウムである。木質バイオマス燃焼灰において、カリウムの大部分は、アルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれていると考えられ、難水溶性の状態で存在する。
【0032】
本工程では、塩化水素を含むガスの雰囲気下、700~1100℃に加熱した反応系に、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を導入してこれらを加熱してもよいし、塩化水素を含むガス以外の雰囲気で700~1100℃に木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱した反応系に、塩化水素を含むガスを導入してこれらを加熱してもよい。
【0033】
塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱することにより、木質バイオマスは、直ちに燃焼して、木質バイオマス燃焼灰に変換されると考えられる。なお、乾燥した状態の木質バイオマスにおいて、木質バイオマス中の木質バイオマス燃焼灰の量は、木質バイオマスに100質量部に対して、通常1~5質量部である。他方、木質バイオマス燃焼灰(木質バイオマスから木質バイオマス燃焼灰に変換されたものを含む)においては、塩化水素を含むガスの雰囲気下での加熱により、以下の式(1)で表される反応が進行し、木質バイオマス燃焼灰中のカリウム(KO)が水溶性の塩化カリウム(KCl)に変換されると考えられ、水溶性カリウム量の割合を高くすることができる。
O+2HCl→2KCl+HO (1)
【0034】
塩化水素を含むガス中の塩化水素の平均体積濃度は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を安定的に改質できることから、好ましくは、0.005~10体積%である。塩化水素の平均体積濃度は、より好ましくは0.01~5体積%、さらに好ましくは0.1~2体積%である。塩化水素の平均体積濃度は、例えば、反応装置内に、塩化水素に対応する濃度計を設置し、塩化水素の濃度変化を追跡することによって求めることができる。また、予め準備した所定の濃度の塩化水素を含むガスを用いる場合、塩化水素の平均体積濃度は、準備したガスにおける塩化水素の所定の濃度であり得る。塩化水素の平均体積濃度は、例えば、導入する空気、窒素等の流量等を変動させることによって調整することができる。塩素含有プラスチックを燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、塩化水素の平均体積濃度は、塩素含有プラスチックの使用量、塩素含有プラスチックの塩素含有量、導入する空気量等を変動させることによって調整することができる。
【0035】
塩化水素を含むガス中の塩素量(単位時間当たりの塩素量)に対する、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量(単位時間当たりのカリウム量)のモル比(K/Cl)(カリウムのモル量(単位時間当たりのカリウムのモル量)/塩素のモル量(単位時間当たりの塩素のモル量))は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を安定的に改質できることから、0.01~1.40である。木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量は、例えば、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。塩化水素を含むガス中の塩素量は、例えば、反応装置内に、塩化水素に対応する濃度計を設置して塩化水素の濃度を実測し、当該濃度に基づき、塩素量を求めることができる。なお、塩素含有プラスチックを、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱するための反応系で木質バイオマス及び/又はその燃焼灰とともに加熱して塩化水素を発生させる場合、塩素含有プラスチック中の塩素量を、塩化水素を含むガス中の塩素量と見なしてもよい。ただし、塩素含有プラスチックに炭酸カルシウム等の塩素と反応する成分が含まれる場合、塩化水素の発生量が低くなる傾向にあるため、実際に発生する塩化水素の濃度を実測し、当該濃度に基づき、塩素量を求めることが望ましい。当該モル比は、好ましくは0.05~1.00、より好ましくは0.06~0.20である。
【0036】
塩化水素を含むガスにおける塩化水素は、一般工業用ガス又は一般化学実験による反応ガス(例えば、濃硫酸に濃塩酸を滴下することによって発生するガス)を使用することができる。
【0037】
塩化水素を含むガスにおける塩化水素は、塩素含有プラスチックを酸化雰囲気で燃焼させることによって発生する塩化水素であってもよい。塩素含有プラスチックは、例えば、塩化ビニル樹脂及び/又は塩化ビニリデン樹脂を含む廃プラスチックであってよい。一般に、廃プラスチックは、塩化ビニル樹脂及び/又は塩化ビニリデン樹脂に加えて、包装用フィルム、家電製品、食品用トレイ、衣料品等で用いられる、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリルブタジエンスチレン等の樹脂を含み得る。また、廃プラスチックは、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)等であってもよい。塩素含有プラスチックを燃焼させるときの塩素含有プラスチック中の塩素量は、0.5~20質量%であってよく、好ましくは0.6~10質量%、より好ましくは1~5質量%である。酸化雰囲気は、酸素が含まれる雰囲気であれば特に制限されないが、好ましくは酸素の体積濃度が0.1~24体積%である。酸化雰囲気は、例えば、空気雰囲気であってよい。塩素含有プラスチックを燃焼させる際の温度は、好ましくは700~1100℃、より好ましくは750~1050℃、さらに好ましくは800~1000℃である。
【0038】
塩化水素を含むガスは、好ましくは酸素を含む。すなわち、塩化水素を含むガスの雰囲気は、酸化雰囲気であってよい。この場合、塩化水素を含むガス中の酸素の平均体積濃度は、好ましくは0.1~24体積%、より好ましくは5~24体積%、さらに好ましくは10~24体積%、特に好ましくは15~24体積%である。なお、酸素の平均体積濃度は、接触時間の始点から終点までの反応装置内の酸素の濃度の平均値を意味する。塩化水素を含むガスは、塩化水素に加えて、酸素、窒素、二酸化炭素等を含んでいてもよい。
【0039】
塩素含有プラスチックを燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱するための反応系とは別に塩化水素を発生させるための反応系を別に設け、当該反応系で発生させてもよい。
【0040】
塩素含有プラスチックを燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、当該塩化水素は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱するための反応系で木質バイオマス及び/又はその燃焼灰とともに加熱して(燃焼させて)発生させてもよい(図2参照)。すなわち、加熱工程は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰と、塩素含有プラスチックとを加熱する工程であってよい。
【0041】
加熱工程が、木質バイオマスと、塩素含有プラスチックとを加熱する工程である場合、塩素含有プラスチックの割合は、木質バイオマス100質量に対して1~30質量部であってよく、好ましくは1.5~10質量部、より好ましくは2~7.5質量部である。
【0042】
加熱工程が、木質バイオマス燃焼灰と、塩素含有プラスチックとを加熱する工程である場合、塩素含有プラスチックの割合は、木質バイオマス燃焼灰100質量部に対して、20~3000質量部であってよく、30~1000質量部であってよく、100~600質量部である。
【0043】
塩素含有プラスチックを、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱するための反応系で木質バイオマス及び/又はその燃焼灰とともに加熱して塩化水素を発生させる場合、塩素含有プラスチックと木質バイオマス及び/又はその燃焼灰とを反応系に同時に投入してもよく、それぞれ別々に投入してもよい。
【0044】
塩素含有プラスチックを、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱するための反応系で木質バイオマス及び/又はその燃焼灰とともに加熱する場合であっても、雰囲気ガスとして塩化水素を含むガスを導入してもよい。
【0045】
木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の加熱温度は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を安定的に改質できることから、700~1100℃である。加熱温度は、好ましくは750~1050℃、より好ましくは800~1000℃である。
【0046】
木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の加熱時間は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を安定的に改質できることから、好ましくは1~120分である。加熱時間は、より好ましくは10~120分、さらに好ましくは15~120分、特に好ましくは40~90分である。
【0047】
なお、加熱時間の始点は、塩化水素を含むガスの雰囲気下、700~1100℃に加熱した反応系に、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰が導入された時点、又は、塩化水素を含むガス以外の雰囲気で700~1100℃に木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を加熱した反応系に、塩化水素を含むガスが導入された時点であり得る。塩素含有プラスチックを燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、所定のガスが導入された時点は、例えば、事前に加熱時間と塩化水素発生量との関係を把握しておき、これを基に判断することも可能である。
【0048】
<回収工程>
本工程は、加熱工程のガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程である。ここでの集塵装置で回収される飛灰が、改質燃焼灰であり得る。
【0049】
加熱工程で排出される塩化水素を含むガスの流速は、飛灰を効率よく回収できることから、2~20m/sであってよい。加熱工程で排出される塩化水素を含むガスの流速は、例えば、燃焼炉に導入される空気量を調整することによって調整することができる。当該流速は、好ましくは5~15m/s、より好ましくは7~12m/sである。
【0050】
改質燃焼灰の改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量よりも多い。改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、例えば、1.0~10.0質量%であってよく、好ましくは1.2~7.0質量%、より好ましくは1.5~5.0質量%である。ここで、改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、以下の方法によって測定することができる。まず、改質燃焼灰のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定する。次に、改質燃焼灰に、改質燃焼灰の質量に対して10倍の水を加え、30分間撹拌し水溶性カリウムを溶解させる。ろ過によって残渣固形分を回収し、残渣固形分のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定する。次いで、得られた改質燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(1)に基づき、改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量を算出することができる。
改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量(質量%)
=[(改質燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(改質燃焼灰の総量(g))]×100 (1)
【0051】
改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合は、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合よりも高い。改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合は、例えば、30質量%以上であってよい。ここで、改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合は、上記の改質燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(2)に基づき、算出することができる。
改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合(質量%)
=[(改質燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(改質燃焼灰のKO絶対量(g))]×100 (2)
【0052】
[木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法]
一実施形態の木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法は、塩化水素を含むガスの雰囲気下で、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を700~1100℃で加熱する加熱工程と、加熱工程の塩化水素を含むガスとともに排出される飛灰を回収する回収工程とを備える。塩化水素を含むガス中の塩素量に対する、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰中のカリウム量のモル比は、0.01~1.40である。当該改質方法によれば、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰を、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰に改質することができる。なお、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰の改質方法で使用される材料、装置等は、改質燃焼灰の製造方法で使用される材料、装置等と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【0053】
[低カリウム燃焼灰の製造方法]
一実施形態の低カリウム燃焼灰の製造方法は、上記の製造方法で製造される改質燃焼灰から、カリウム量が低減された低カリウム燃焼灰を得るものである。当該製造方法は、少なくとも洗浄工程を備える。
【0054】
<洗浄工程>
本工程は、改質燃焼灰を水で洗浄し、可溶分を除去する工程である。より具体的には、改質燃焼灰と水とを一定量で撹拌してスラリーを作製し、不溶の改質燃焼灰(低カリウム燃焼灰)と可溶分とを分離する工程である。可溶分には、改質燃焼灰から溶出した塩化カリウム等のアルカリ金属塩が含まれる。本工程は、通常、改質燃焼灰を100℃以下の温度(例えば、25℃の室温)に冷却してから実施される。
【0055】
改質燃焼灰と水との撹拌は、通常使用される撹拌装置を用いて行うことができる。改質燃焼灰と水との撹拌は、必要に応じて、加温しながら行ってもよい。
【0056】
改質燃焼灰と水との撹拌において、改質燃焼灰に対する水の質量比(水の質量/改質燃焼灰の質量)は、効率よくアルカリ金属塩を除去できることから、好ましくは1~20である。当該質量比は、より好ましくは3~15、さらに好ましくは5~12である。
【0057】
改質燃焼灰を洗浄するための水は、塩化水素を含む塩酸水であってもよい。塩酸水を用いることによって、改質燃焼灰中の塩化カリウム等のアルカリ金属塩をより一層充分に溶出させることが可能となる。塩酸水の濃度は、特に制限されないが、0.01~2mol/Lであってよい。塩酸水は、市販の塩酸水を希釈したものであってよい。また、塩酸水は、改質燃焼灰の製造方法の加熱工程で排出される塩化水素を含むガス中の塩化水素を気液接触させることによって得られる塩酸水を含んでいてもよい。
【0058】
不溶の改質燃焼灰(低カリウム燃焼灰)と可溶分との分離は、ろ過によって行うことができる。また、ろ過によって得られる残渣固形分を乾燥処理してもよい。乾燥処理を行う場合は、その条件を、例えば、20~300℃で0.1~100時間とすることができる。
【0059】
[低カリウム燃焼灰のセメント資源化方法]
一実施形態の低カリウム燃焼灰のセメント資源化方法は、上述の製造方法で製造される低カリウム燃焼灰をセメント原料として使用するものである。上述の製造方法で製造される低カリウム燃焼灰は、カリウム量が充分に低減されていることから、セメント原料として使用することができ、セメント資源化が可能となる。
【実施例0060】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[木質バイオマス燃焼灰の準備]
木質バイオマス燃焼灰は、木チップ及びPKS(パームやし殻)を循環流動床型の燃焼炉で燃焼させて発生した灰を、集塵機で回収したものを用いた。木質バイオマス燃焼灰の物性及び成分を表1及び表2に示す。表1及び表2中の、木質バイオマス燃焼灰の化学成分分析値(%)及び強熱減量は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に、木質バイオマス燃焼灰の密度及びブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。また、表1中の木質バイオマス燃焼灰の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2200)を用いて測定されるメディアン径(D50:頻度の累積が50%となるときの粒子径)とした。表2中の化学成分分析値(%)は、蛍光X線分析測定装置(株式会社リガク製 Simultix12)で測定した。
【0062】
表1中の木質バイオマス燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、以下の方法によって測定した。まず、木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。次に、木質バイオマス燃焼灰に、木質バイオマス燃焼灰の質量に対して10倍の水を加え、30分間撹拌し水溶性カリウムを溶解させた。ろ過によって残渣固形分を回収し、残渣固形分のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定いた。次いで、得られた木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(3)に基づき、木質バイオマス燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量を算出した。
改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量(質量%)
=[(木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(木質バイオマス燃焼灰の総量(g))]×100 (3)
【0063】
表1中の木質バイオマス燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合は、上記の木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(4)に基づき、算出することができる。
改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合(質量%)
=[(木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(木質バイオマス燃焼灰のKO絶対量(g))]×100 (4)
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
[塩素含有プラスチックの準備]
(1)RPF(表3に示す物性を有する、古紙及び廃プラ含有固形燃料)
・JIS M 8820:2000に準拠して測定:全水分
・JIS M 8812:2006に準拠して測定:揮発分、固定炭素
・JIS Z 7302:2009に準拠して測定:高位発熱量、低位発熱量、KO、Cl
(2)ポリ塩化ビニル試薬(ポリ塩化ビニル粉、富士フイルム和光純薬株式会社製、ポリ塩化ビニル中の塩素量:56.0質量%)
【0067】
【表3】
【0068】
(実施例1)
[改質燃焼灰の製造及び評価(1)]
<改質燃焼灰の製造>
改質燃焼灰の製造は、図2に示される改質燃焼灰の製造設備を用いて行った。木質バイオマス燃焼灰である燃焼灰Aとともに、RPF及びポリ塩化ビニル試薬を、連続的に燃焼炉としてのロータリーキルン炉において800℃で加熱した。ロータリーキルン炉への各原料の供給量は、RPF及びポリ塩化ビニル試薬中には、塩素と反応する炭酸カルシウム等の成分がほとんど含まれていないため、RPF及びポリ塩化ビニルの塩素量(塩素含有プラスチック中の塩素量:2.2質量%)を、塩化水素を含むガス中の塩素量と見なし、塩化水素を含むガス中の塩素量に対する木質バイオマス燃焼灰中のカリウム量のモル比が0.37となるように設定した。各原料の具体的な供給量は表4に示すとおりである。RPFの可燃物を燃焼させるため、ロータリーキルン炉へ導入する空気の量を調整し、出口の排ガス中の酸素濃度が10体積%前後となるようにし、排出される塩化水素を含むガスの流速を9.7m/sに設定した。より詳細な温度制御は灯油バーナーを用いて実施した。加熱後の燃焼灰Aの大部分は、排ガス(塩化水素を含むガス)とともに移動し、飛灰(改質燃焼灰)を出口経路に設けた集塵装置としてのサイクロンにて回収した。
【0069】
【表4】
【0070】
<改質燃焼灰の評価>
改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量について、以下の手順に従って求めた。まず、得られた改質燃焼灰のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。次に、改質燃焼灰に、改質燃焼灰の質量に対して10倍の水を加え、30分間撹拌し水溶性カリウムを溶解させた。ろ過によって残渣固形分を回収し、残渣固形分のKO絶対量(g)を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。次いで、得られた改質燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(1)に基づき、改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量を算出した。改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量は、2.1質量%であった。
改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量(質量%)
=[(改質燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(改質燃焼灰の総量(g))]×100 (1)
【0071】
改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合について、以下の手順に従って求めた。改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)割合は、上記の改質燃焼灰のKO絶対量(g)及び残渣固形分のKO絶対量(g)から、下記式(2)に基づき、算出した。改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合は、39質量%であった。
改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合(質量%)
=[(改質燃焼灰のKO絶対量(g)-残渣固形分のKO絶対量(g))/(改質燃焼灰のKO絶対量(g))]×100 (2)
【0072】
上記に示すように、所定の製造方法で製造された、実施例1の改質燃焼灰は、燃焼灰Aに比べて、水溶性カリウム(KO)量が多く、全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合も高かった。この結果から、本発明の改質燃焼灰の製造方法が、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造することが可能であることが確認された。
【0073】
(実施例2)
[改質燃焼灰の製造及び評価(2)]
<反応装置の準備>
以下の反応装置を用いて、改質燃焼灰の製造を行った。図3は、参考例で用いた反応装置を示す概略図である。図2に示される反応装置100は、加熱部20と、排ガストラップ部30とを備える。加熱部20は、加熱対象である木質バイオマス灰26が充填されたセラミックス管22と、セラミックス管22を加熱するための管状炉24とから主に構成される。セラミックス管22は、塩化水素発生部10と連結する連結管44及び管状炉24内のガスを排出するためのガス排出管46を有している。塩化水素は、連結管44からセラミックス管22内に導入される。塩素含有廃棄物を燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、塩化水素発生部10から塩化水素が発生し、連結管44からセラミックス管22内に導入される。排ガストラップ部30は、ガス排出管46から排出される塩化水素を主にトラップするためのものである。
【0074】
<改質燃焼灰の製造>
木質バイオマス燃焼灰である燃焼灰B(飛灰の割合:100質量%)25gを、セラミックス管(外径φ50mm、内径φ42mm)内に充填し、燃焼灰Bが充填されたセラミックス管を加熱部における管状炉内に配置した。管状炉内部は、空気雰囲気とし、管状炉を1000℃まで加熱した。管状炉が1000℃に到達した後、濃硫酸に濃塩酸を滴下することによって発生する塩化水素と空気とを用いて調製した塩化水素を含むガス(酸素の体積濃度:21体積%)を管状炉に導入した。塩化水素ガスの導入量は表5に示すとおりである。塩化水素を含むガスの雰囲気下の燃焼灰Bの加熱時間の始点を、塩化水素を含むガスが導入された時点とし、加熱時間を30分とした。その後、管状炉を室温(25℃)まで冷却し、改質燃焼灰を回収した。燃焼灰Bは、飛灰の割合が100質量%であることから、加熱工程後の燃焼灰Bは、回収工程で回収される飛灰と見なすことができる。改質燃焼灰中の水溶性カリウム(KO)量及び改質燃焼灰の全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)割合についても表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5に示すように、塩化水素を含むガス中の塩素量に対する燃焼灰B中のカリウム量のモル比が0.01~1.40であるという条件で製造された、実施例2-1~2-4の改質燃焼灰は、燃焼灰Bに比べて、水溶性カリウム(KO)量が多く、全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合も高かった。なお、表5に示すように、塩化水素を含むガス中の塩素量に対する燃焼灰B中のカリウム量のモル比が低いほど、水溶性カリウム(KO)量が多く、全カリウム(KO)量中の水溶性カリウム(KO)の割合も高くなる傾向にあることが判明した。これらの結果から、本発明の改質燃焼灰の製造方法が、木質バイオマス及び/又はその燃焼灰から、水溶性カリウム量の割合が増加した改質燃焼灰を製造することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
10…塩化水素発生部、20…加熱部、22…セラミックス管、24…管状炉、26…木質バイオマス灰、30…排ガストラップ部、44…連結管、46…ガス排出管、100…反応装置。
図1
図2
図3