(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106883
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】低誘電非晶質シリカ粉体及びその製造方法、ならびに表面処理低誘電シリカ粉体、シリカスラリー、シリカ含有樹脂組成物、シリカ含有プリプレグ及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20230726BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C08J5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007868
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
【テーマコード(参考)】
4F072
4G072
【Fターム(参考)】
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD03
4F072AE02
4F072AE06
4F072AF06
4F072AG03
4F072AL13
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB13
4G072DD04
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH28
4G072HH30
4G072MM02
4G072MM36
4G072QQ09
4G072TT01
4G072TT06
4G072TT19
4G072TT20
4G072TT21
4G072TT30
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】誘電正接が非常に小さい低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体;凝集の少ないシリカスラリー;引張強度と誘電正接を両立できるシリカ含有樹脂組成物;ならびにシリカ含有プリプレグ及びプリント配線板を提供する。
【解決手段】VMCシリカを用いた低誘電非晶質シリカ粉体であって、
平均粒径が0.1~1.5μm、
比表面積が1.5~20m
2/g、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計含有量が700ppm以下、
シラノール量が100ppm以下、
比重2.2、
誘電正接が10GHzで0.0007以下、
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下
である低誘電非晶質シリカ粉体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VMCシリカを用いた低誘電非晶質シリカ粉体であって、
平均粒径が0.1~1.5μm、
比表面積が1.5~20m2/g、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計含有量が700ppm以下、
シラノール量が100ppm以下、
比重2.2、
誘電正接が10GHzで0.0007以下、
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下
である低誘電非晶質シリカ粉体。
【請求項2】
U(ウラン)及びTh(トリウム)の合計含有量が0.3ppb以下である請求項1記載の低誘電非晶質シリカ粉体。
【請求項3】
VMC法で調製されたシリカ粉体を700~1,100℃で加熱する工程を含む、請求項1又は2記載の低誘電非晶質シリカ粉体を製造する製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の低誘電非晶質シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理した表面処理低誘電シリカ粉体であって、
シランカップリング剤の処理濃度が、シリカ粉体に対してシランカップリング剤が単一分子層を形成する理論量の0.5~1.5倍、
誘電正接が10GHzで0.0010以下、
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下
である表面処理低誘電シリカ粉体。
【請求項5】
請求項1記載の低誘電非晶質シリカ粉体、又は請求項4記載の表面処理低誘電シリカ粉体を、有機溶剤に分散させたシリカスラリー。
【請求項6】
請求項1記載の低誘電非晶質シリカ粉体、請求項4記載の表面処理低誘電シリカ粉体、又は請求項5記載のシリカスラリーと、樹脂との混合物である、シリカ含有樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6記載のシリカ含有樹脂組成物とガラスクロスとを複合させた、シリカ含有プリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のシリカ含有プリプレグを用いたプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波領域における誘電正接が非常に小さい低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体及び凝集の少ないシリカスラリー、ならびにシリカ含有樹脂組成物、シリカ含有プリプレグ、プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gという次世代通信システム(26GHz~80GHzのミリ波領域)が流行しており、さらには6Gという次々世代の通信システムの開発も始まり、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらの通信システムを実現するためには、3~80GHzの高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となる。そして、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板やアンダーフィル材等の半導体用封止材は、高密化、極薄化と共に、低誘電特性化、特に低誘電正接化が強く望まれている。
【0003】
信号の伝送ロスはEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど損失を抑えることが知られている。特に、上記の式からもわかるように、伝送損失に対しては、誘電正接(tanδ)の寄与が大きいことが知られている。
【0004】
プリント配線板やアンダーフィル材等の半導体用封止材の低誘電正接化として、樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体を添加する方法が一般的である。しかしながら、誘電正接がミリ波領域で0.001以下の無機粉体はほとんど知られていない。
【0005】
代表的な汎用の無機粉体の一つであるシリカ粉体は、樹脂に添加する無機粉体として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。シリカ粉体は組成上石英ガラスと類似しているにも関わらず、その誘電特性は石英ガラスに及ばない。誘電特性、特に誘電正接を本来の石英ガラスのレベルに下げることができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体等の封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板等の充填剤として幅広い用途に展開できると考えられるが、このようなシリカ粉体は未だ見出されていない。また基材の薄層化によってシリカ粉体自体の小粒径化も望まれており、ボンディングフィルム用途では平均粒径2μm以下、プリプレグ用途ではフィラメント間へシリカ粉体が侵入する必要があるため平均粒径1μm以下が望まれている。
【0006】
特許文献1では、水蒸気分圧の低い雰囲気中で加熱処理により低シラノールシリカの製造を行っているものの、シラノール基の減少率しか言及されておらず、処理後のシリカのシラノール量が測定されていない上に、誘電正接に関する言及がない。
【0007】
特許文献2では、ゾルゲル法により製造されたシリカガラス繊維を加熱処理して、水分含有量が1,000ppm以下のシリカガラス繊維の製造を行っている。しかしながら、加熱処理後のシリカガラス繊維の水分含有量の記載はあるが、シラノール量、誘電正接には言及されていない
【0008】
また、シリカガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているものの、シラノール量の記載がなく、誘電正接についてもシリカガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。
【0009】
特許文献3では、溶融シリカを用いた加熱処理シリカ粉体の記載があるがシラノールに関する記載がなされておらず、依然としてシラノール量と誘電正接の関係は明らかにされていない。また35~40GHz付近の周波数でのみ誘電正接を測定しており、その他の周波数での誘電正接は不明である。また、溶融シリカは粒径が1.5μm以下のシリカを製造するには不適であり、1.5μm以下の溶融シリカはほとんど知られていない。今後、薄層化していく基板に対しては1.5μm以下のシリカ粉体が求められているため適用できないといった問題があった。また、溶融シリカは組成物中の金属不純物、特に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の濃度を減少させることは難しく、アルカリ金属やアルカリ土類金属を多く含有している場合、加熱によって非晶質の石英はクリストバライト化が進行する。クリストバライトは発がん性が知られており、クリストバライトを含んだシリカは公衆衛生上好ましくない。さらに溶融法で調製したシリカは微小粒径のシリカを含んでおり、微小粒子間の凝集が生じやすく、樹脂と混錬した際に流動性に悪影響を及ぼす場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-289416号公報
【特許文献2】特開平5-170483号公報
【特許文献3】特許第6793282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電正接が非常に小さい低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体;引張強度と誘電正接を両立できるシリカ含有樹脂組成物;凝集の少ないシリカスラリー;ならびにシリカ含有プリプレグ及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、VMC法(Vaporized Metal Combustion Method:爆燃法)で調製された、特定のシリカ粉体を、700~1,200℃で加熱することで、シリカ粉体中のシラノール量を低下させ、誘電正接が減少し、さらに40GHzの高周波でもシラノール量が少ないシリカ粉体であれば、誘電正接の悪化を抑制できることを見出した。また、加熱の際にシリカ粉体が発がん性物質であるクリストバライトに相転移することを抑制することができ、比重2.2である非晶質シリカ粉体が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
さらに、上記低誘電非晶質シリカ粉体、上記低誘電非晶質シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理した表面処理低誘電シリカ粉体、又はこれらを分散させたシリカスラリーと、樹脂とを混合したシリカ含有樹脂組成物は、引張強度と誘電正接を両立できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
従って、本発明は下記発明を提供する。
1.VMCシリカを用いた低誘電非晶質シリカ粉体であって、
平均粒径が0.1~1.5μm、
比表面積が1.5~20m2/g、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計含有量が700ppm以下、
シラノール量が100ppm以下、
比重2.2、
誘電正接が10GHzで0.0007以下、
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下
である低誘電非晶質シリカ粉体。
2.U(ウラン)及びTh(トリウム)の合計含有量が0.3ppb以下である1記載の低誘電非晶質シリカ粉体。
3.VMC法で調製されたシリカ粉体を700~1,100℃で加熱する工程を含む、1又は2記載の低誘電非晶質シリカ粉体を製造する製造方法。
4.1~3のいずれかに記載の低誘電非晶質シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理した表面処理低誘電シリカ粉体であって、
シランカップリング剤の処理濃度が、シリカ粉体に対してシランカップリング剤が単一分子層を形成する理論量の0.5~1.5倍、
誘電正接が10GHzで0.0010以下、
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下
である表面処理低誘電シリカ粉体。
5.1記載の低誘電非晶質シリカ粉体、又は4記載の表面処理低誘電シリカ粉体を、有機溶剤に分散させたシリカスラリー。
6.1記載の低誘電非晶質シリカ粉体、4記載の表面処理低誘電シリカ粉体、又は5記載のシリカスラリーと、樹脂との混合物である、シリカ含有樹脂組成物。
7.6記載のシリカ含有樹脂組成物とガラスクロスとを複合させた、シリカ含有プリプレグ。
8.7に記載のシリカ含有プリプレグを用いたプリント配線板。
【発明の効果】
【0015】
本発明の低誘電非晶質シリカ粉体であれば、誘電正接が非常に小さく高周波でも誘電正接が悪化しない。また、今後の5G用途の基材の薄層化に対しても平均粒径1.5μm以下の低誘電非晶質シリカ粉体を提供できる
さらに、上記低誘電非晶質シリカ粉体、上記低誘電非晶質シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理した表面処理低誘電シリカ粉体、又はこれらを分散させたシリカスラリーと、樹脂とを混合したシリカ含有樹脂組成物は、引張強度と誘電正接を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】シリカ粉体量と誘電正接(10GHz)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
[VMCシリカ粉体]
本発明の低誘電非晶質シリカ粉体の原料となるシリカ粉体は、VMC法によって調製されたVMCシリカである(以下、VMC法によって調製されたシリカをVMCシリカという場合がある。)。VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものである。VMC法によれば、瞬時に大量の酸化物粒子が得られる。例えば、シリカ粉体を得る場合には金属ケイ素粉体を投入すればよい。投入する金属ケイ素粉体の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、得られるシリカ粉体の粒子径を調整することが可能である。金属ケイ素については精製工程を採用することができ、精製するシリカ粉体のα線源(U、Th)の量や、鉄、アルミニウムを低減することに有効である。
【0018】
VMCシリカ粉体の平均粒径は0.1~1.5μmが好ましく、0.3~1.0μmが好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折散乱法による体積平均粒径(累積平均径D50(メディアン径))であり、装置としては、MicrotracBEL社製 粒子径・粒子形状分析装置 SYNC等を用いることができる。
【0019】
VMCシリカ粉体の比表面積は1.5~20m2/gが好ましく、3.0~10m2/gが好ましい。なお、比表面積は、N2ガス吸着量によって測定するBET1点法にて測定した値である。VMCシリカ粉体の平均粒径や比表面積を調整することで、低誘電非晶質シリカ粉体の平均粒径や比表面積の調整が可能である。
【0020】
VMCシリカ粉体のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計含有量が、質量換算で700ppm以下であれば、加熱処理の工程でクリストバライト化せずに、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が質量換算で700ppm以下の低誘電非晶質シリカ粉体を得ることができる。よりクリストバライト化を抑制する観点からアルカリ金属及びアルカリ土類金属が質量換算で500ppm以下がより好ましい。なお、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0021】
なお、本発明において、アルカリ金属とは、周期表において第1族に属する元素のうち水素を除いたリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムをいう。また、アルカリ土類金属とは、周期表において第2族に属する元素のうちベリリウムとマグネシウムを除いたカルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムをいう。
【0022】
VMCシリカ粉体中のU(ウラン)、Th(トリウム)の合計含有量は、質量換算で0.3ppb以下が好ましい。
【0023】
[低誘電非晶質シリカ粉体]
低誘電非晶質シリカ粉体の平均粒径は0.1~1.5μmであり、0.3~1.0μmが好ましい。平均粒径が0.1μm未満では、比表面積が大きく樹脂へ高充填化できず、1.5μmを超えるとガラスクロスのフィラメント間等の狭部への充填性が悪く未充填等の不具合が発生する。さらに、低誘電非晶質シリカ粉体をアンダーフィル材や高速基板の充填剤として使用する場合は、平均粒径が0.1~1.0μmが好ましく、0.1~0.5μmがより好ましい。低誘電非晶質シリカ粉体には、低誘電シリカ粉体は流動性や加工性等特性向上のため、異なる平均粒径の低誘電非晶質シリカ粉体をブレンドしてもよい。
【0024】
低誘電非晶質シリカ粉体の比表面積は1.5~20m2/gであり、3.0~10m2/gが好ましい。
【0025】
低誘電非晶質シリカ粉体中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計含有量は700ppm以下が好ましく、350~700ppmが好ましく、0ppmであってもよい。
【0026】
低誘電非晶質シリカ粉体中のU(ウラン)やTh(トリウム)の合計含有量は、放射線による基板の誤動作を防止するため、質量換算で0.3ppb以下が好ましく、0.2~0.3ppbがより好ましく、0ppbであってもよい。このように、不純物濃度を低く抑えることで、低誘電非晶質シリカ粉体の誘電特性等がより好ましいものとなる。上記不純物の濃度は原子吸光光度法や、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等により測定することができ、詳細は実施例の記載による。
【0027】
本発明の低誘電非晶質シリカ粉体は、高速通信用半導体等の封止材や高速通信用基板、アンテナ基板等のプリント配線板用の充填剤として幅広い用途に展開できるように、誘電正接(10GHz)を0.0007以下である。そして、このような誘電正接を有する低誘電非晶質シリカ粉体を得るためには、VMCシリカ粉体を熱処理する方法が挙げられる。
【0028】
[製造方法]
低誘電正接化のための加熱温度は700~1,200℃が好ましく、800~1,100℃がより好ましく、900~1,100℃がさらに好ましい。加熱方法としてはシリカ粉体を電気加熱炉、マッフル炉等で加熱する方法が挙げられる。
【0029】
VMCシリカ粉体の加熱処理時間は加熱温度によって異なり、実用的には30分~72時間が好ましく、1時間~24時間がより好ましく、2時間~12時間がさらに好ましい。加熱後の室温までの冷却は、徐冷でも急冷でも問題はない。溶融状態のVMCシリカが一結晶化しないように、適宜最適化することができる。
【0030】
加熱雰囲気としては、空気中、窒素等の不活性ガス中で常圧、真空中や減圧下でも特に限定されるものではないが、通常はコスト等も考え常圧、空気中で行う。
【0031】
加熱処理したVMCシリカ粉体が非結晶かどうかは、XRD等で確認できるが、より簡便に確認する方法としては、低誘電非晶質シリカ粉体の比重を測定することで判断ができる。非晶質のシリカ粉体の比重は2.2であり、クリストバライトの比重は2.3であるため加熱後の比重が2.2のままであればクリストバライト化は進行していないことがわかる。なお、比重の測定は、JIS Z8807:2012に基づいた真比重の測定値である。
【0032】
加熱処理したVMCシリカ粉体中のシラノール量を赤外分光分析法で分析することにより、所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができる。
【0033】
GHz帯では分極による双極子が電場に応答し誘電が引き起こされることが知られている。このため、GHz帯における低誘電特性化には、構造中から分極を減らすことがポイントとなる。
誘電率は下記Clausius-Mossottiの式で示され、モル分極率、モル容積が因子となる。このことから、分極を小さくすること、モル容積を大きくすることが低誘電率化においてポイントとなっている。
誘電率=[1+2(ΣPm/ΣVm)]/[1-(ΣPm/ΣVm)]
(Pm:原子団のモル分極率,Vm:原子団のモル容積)
【0034】
また、誘電正接(tanδ)は交流電場に対する誘電応答の遅れであり、GHz帯では双極子の配向緩和が主たる要因となる。このため、誘電正接を小さくするためには、双極子をなくす(無極性に近い構造とする)方法が考えられる。
以上のことから、GHz帯におけるシリカ粒子の低誘電特性化のアプローチとして、本発明では、極性基である水酸基(シラノール)濃度を低く抑えることとした。
【0035】
以上の観点から、本発明では、熱処理後のVMCシリカ粉体中のシラノール量(Si-OH)濃度が、質量換算で100ppm以下であり、80ppm以下が好ましく、60ppm以下がより好ましく、0ppmであってもよい。
【0036】
なお、シリカ粉体中の水酸基(Si-OH)濃度は、赤外分光分析法により3680cm-1付近のピークの透過率を測定することにより定量することができる。これは、3680cm-1付近の赤外吸収が内部シラノールに帰属されることから(特許文献1参照)、この特性吸収帯に基づいて誘電正接に影響する極性基であるシラノールを特定して定量するものである。これにより、誘電正接の低下の程度をより具体的に見積もることができる。なお、3740cm-1付近に帰属される孤立シラノールの赤外吸収(特許文献1参照)が、本発明では無視できる程度であるため、上記のように3680cm-1付近のピークのみについて透過率を測定すれば、誘電正接の低下を十分に見積もることができる。
【0037】
信号の伝送ロスはEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど損失を抑える。特に、伝送損失に対しては、誘電正接(tanδ)の寄与が大きい。そのため、より低誘電正接が求められている。
【0038】
本発明の加熱処理により、10GHzの誘電正接を本来の石英粉体のレベルである0.0007以下とすることができる。本発明の低誘電非晶質シリカ粉体の誘電正接は、10GHzで0.0007以下であり、0.0006以下が好ましく、0.0005以下がより好ましく、0.0003であってもよい。
【0039】
40GHz付近の高周波では、加熱処理によって低誘電非晶質シリカ粉体内部のシラノール量を減少させることで誘電正接の悪化が抑制でき、(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)を2.0以下にすることができる。本発明の低誘電非晶質シリカ粉体は、より高周波での伝送損失を抑えるために、(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)は1.8以下がより好ましく、1.0~1.5がさらに好ましい。
【0040】
加熱処理で得られた低誘電非晶質シリカ粉体は処理温度によっては一部融着したシリカ粉体もあることから、ボールミル等の解砕装置を使用して解砕したのち、篩により100μm超の粗粒や凝集粒子を取り除き使用する。このようにして得られた低誘電シリカ粉体を篩(例えば、150メッシュのもの)により100μmを超える粗粒や凝集粒子を取り除き使用することが好ましい。
【0041】
[表面処理低誘電シリカ粉体]
上記低誘電非晶質シリカ粉体の表面を、シランカップリング剤等のカップリング剤で処理することで、表面処理低誘電シリカ粉体を得ることができる。シランカップリング剤による表面処理は、高温処理した低誘電非晶質シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で被覆することで樹脂組成物等を製造する際に、樹脂と低誘電シリカ粉体表面の接着を強固にするためである。
【0042】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、ガンマアミノプロピルトリメトキシシラン、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン、N-ベータアミノエチルガンマアミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベータアミノエチルガンマアミノプロピルトリエトキシシラン、ガンマメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0043】
シランカップリング剤の濃度は、低誘電非晶質シリカ粉体(以下、本発明の低誘電非晶質シリカ粉体を含め、シリカ粉体と記載する場合がある。)に対してシランカップリング剤が単一分子層を形成する理論量の0.5~1.5倍である。この理論量は、処理されるシリカ粉体の比表面積とシランカップリング剤の最小被覆面積から、下記式に基づき求められる。
【0044】
【0045】
本発明においては、上記式で得られた理論量の0.5~1.5倍で、シランカップリング処理する。0.5倍未満であると樹脂との密着不良が生じるおそれがある。一方、1.5倍以上を超えると、シランカップリング剤自体の極性基によって誘電正接が悪化するおそれがある。0.5~1.5倍の間で処理することにより上記シランカップリング剤が均一に付着し、低誘電非晶質シリカ粉体表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、基板等を製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない配合が可能となる。
【0046】
表面処理低誘電シリカ粉体の誘電正接は、10GHzで0.0010以下であり、0.0080以下が好ましい。
(40GHzの誘電正接)/(10GHzでの誘電正接)が2.0以下であり、1.8以下がより好ましく、1.0~1.5がさらに好ましい。
【0047】
その他、平均粒径、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量、比重等については、低誘電非晶質シリカ粉体と同じ範囲が好ましい。
【0048】
[シリカスラリー]
上記表面処理低誘電シリカ粉体を有機溶剤に分散させた後に解砕を行い、シリカスラリーとすることができる。シリカ粉体を直接樹脂に添加すると少なからずシリカ粉体が凝集するために、添加後に3本ロール等で解砕処理を行う必要がある。しかしながらシリカスラリーは有機溶剤中にシリカ粉体が分散しているため、樹脂へ添加後に解砕処理を行う必要がないため基板等の調製時に好適である。
【0049】
シリカスラリーの有機溶剤としては公知の有機溶剤を用いることができ、トルエン、アニソール、シクロヘキサノン等から選択することができる。有機溶剤の沸点は100℃~200℃が好ましく、100℃未満だと解砕時に熱で揮発して十分な液量が保てずになり、不適である。また沸点が200℃以上だと後の工程において高温で乾燥する必要があり、樹脂の酸化劣化が進行するため不適である。
【0050】
シリカスラリーの解砕に関してはビーズミルやボールミル、キャビテーションミル等から選択することができる。解砕に粉砕時間に関しては解砕方法によって適宜調整し、凝集が無くなった時点で停止することが好ましい。凝集の確認方法としてはレーザー光回折法等によって測定粒子径分布を測定することで確認することができる。解砕前の低誘電非晶質シリカ粉体に関しては粒径が均一であることが好ましく、微小シリカ粉体を等が含まれていると上手く解砕ができずに、樹脂に添加した際にシリカ粉体が凝集してしまうおそれがある。
【0051】
[シリカ含有樹脂組成物]
本発明のシリカ含有樹脂組成物は、上記低誘電非晶質シリカ粉体、上記表面処理低誘電シリカ粉体、又は上記シリカスラリーと、樹脂との混合物である。樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられ、充填剤として熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に配合することができる。
【0052】
特に、上記表面処理低誘電シリカ粉体を用いた場合、その樹脂組成物は、樹脂硬化シートの引張強度が、上記表面処理低誘電シリカ粉体の代わりに、シランカップリング剤で処理していない低誘電シリカ粉体を用いた場合の引張強度に比べて、1.5倍以上が好ましく、1.6倍以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1.7倍程度である。
【0053】
シリカ含有樹脂組成物中の低誘電非晶質シリカ粉体換算での、低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体、又は上記シリカスラリーの配合量は、10~80体積%が好ましく、25~50体積%が好ましい。樹脂の配合量は50~75体積%が好ましい。その他、硬化剤、溶剤等を配合してもよい。
【0054】
[シリカ含有プリプレグ]
上記低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体及びシリカスラリーを含んだ樹脂組成物を、繊維基材に含浸させて加熱乾燥させることでシリカ含有プリプレグとしても使用できる。
【0055】
前記繊維基材としては、積層板に使用されている公知のものを使用できる。例えばEガラス、Sガラス、Tガラス、NEガラス、Qガラス(石英ガラス)等の無機繊維;ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等の有機繊維等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも誘電特性の観点から、無機繊維が好ましく、Tガラス、NEガラス、Qガラスがより好ましい。
【0056】
繊維基材の厚さとしては特に制限はないが、5~500μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、20~80μmがさらに好ましい。この範囲であれば、柔軟性に優れ、低反り、高強度のシリカ含有プリプレグが得られる。これらの繊維基材は、誘電特性の向上、樹脂への親和性を向上させるために、シランカップリング剤等で表面処理してもよい。
【0057】
シリカ含有プリプレグ中における樹脂組成物の含有量は特に制限はないが、20~90体積%が好ましく、30~80体積%がより好ましく、40~70体積%がさらに好ましい。この範囲であれば、誘電特性、低反りを維持したまま、導体への接着強度を高めることができる。
【0058】
本発明のシリカ含有プリプレグの厚さは特に制限はないが、10~500μmが好ましく、25~300μmがより好ましく、40~200μmがさらに好ましい。この範囲であれば、銅張積層板を良好に調製することができる。
本発明のシリカ含有プリプレグは、あらかじめ加熱によって半硬化(B-stage化)させてもよい。B-stage化の方法としては特に制限はないが、例えば、本発明の環状イミド樹脂組成物を溶剤に溶解させ、繊維基材に含浸させて乾燥させた後、80~200℃の温度で1~30分間、加熱することでB-stage化ができる。
【0059】
[プリント配線板]
上記シリカ含有プリプレグを用いて伝送損失の小さいプリント配線板を調製することができる。具体的には、本発明のシリカ含有プリプレグは銅箔を重ねてプレスして加熱硬化させ、銅張積層板として使用してもよい。銅張積層板の製造方法としては、特に制限はないが、例えば上記シリカ含有プリプレグを1~20枚、好ましくは2~10枚用い、その片面又は両面に銅箔を配置してプレスして加熱硬化することにより製造することができる。
【0060】
銅箔の厚みとしては特に制限はないが、3~70μmが好ましく、10~50μmがより好ましく、15~40μmがさらに好ましい。この範囲であれば、高信頼性を保持した、多層の銅張積層板を成形することができる。銅張積層板の成形条件は、特に制限はないが、例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用し、温度100~400℃、圧力1~100MPa、加熱時間0.1~4時間の範囲で成形することができる。また、本発明のシリカ含有プリプレグ、銅箔、内層用配線板を組合せて成形し、銅張積層板を成形することもできる。
【0061】
回路加工の方法としては、特に制限はないが、例えば開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工する方法が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物やシリカ含有プリプレグと銅箔を順次積層するビルドアップ法でプリント配線板を製造してもよい。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
I:低誘電非晶質シリカ粉体
[実施例I-1]
VMC法で調製されたアドマテックス社製シリカ粉体SO-C2(平均粒径0.5μm、比表面積6m2/g)をヤマト科学株式会社製電気炉、FO-810で1,100℃、5時間加熱した。
【0064】
[実施例I-2]
シリカ粉体を、VMC法で調製されたアドマテックス社製シリカ粉体SO-E2(平均粒径0.5μm、比表面積6m2/g)に変更した以外は、実施例I-1と同様に加熱した。
【0065】
[実施例I-3]
実施例I-2の加熱温度を700℃に変更した以外は、実施例I-2と同様にして調製した。
【0066】
[実施例I-4]
シリカ粉体を、VMC法で調製されたアドマテックス社製シリカ粉体SO-C1(平均粒径0.3μm、比表面積15m2/g)に変更した以外は、実施例I-1と同様に加熱した。
【0067】
[実施例I-5]
シリカ粉体を、VMC法で調製されたアドマテックス社製シリカ粉体SO-C4(平均粒径1.1μm、比表面積5m2/g)に変更した以外は、実施例I-1と同様に加熱した。
【0068】
[比較例I-1]
実施例I-2で用いたシリカ粉体SO-E2を、加熱処理せずにそのまま用いた。
【0069】
[比較例I-2]
実施例I-2の加熱温度を500℃に変更した以外は、実施例I-2と同様にして調製した。
【0070】
[比較例I-3]
実施例I-2の加熱温度を1,300℃に変更した以外は、実施例I-2と同様にして調製した。融着して物性測定不可であった。
【0071】
[比較例I-4]
シリカ粉体を、溶融法で調製されたフミテック社製シリカ粉体F-205(平均粒径5.5μm、比表面積6m2/g)に変更した以外は、実施例I-1と同様に加熱した。クリストバライト化が進行していた。
【0072】
実施例I、比較例Iで調製したシリカ粉体の物性を表1に示す。
【0073】
【0074】
II:表面処理低誘電シリカ粉体
[実施例II-1]
実施例I-2で調製した低誘電非晶質シリカ粉体を、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503(信越化学社製))で単一膜形成に必要な理論量の0.5倍添加して、日本コークス工業社製FMミキサーで5分攪拌した後に室温で3日熟成させた。
【0075】
[実施例II-2]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)の添加量を、単一膜形成に必要な理論量の1.0倍に変更した以外は、実施例II-1と同様に調製した。
【0076】
[実施例II-3]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)の添加量を、単一膜形成に必要な理論量の1.5倍に変更した以外は、実施例II-1と同様に調製した。
【0077】
[比較例II-1]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)の添加量を、単一膜形成に必要な理論量の0.25倍に変更した以外は、実施例II-1と同様に調製した。
【0078】
[比較例II-2]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)の添加量を、単一膜形成に必要な理論量の2.0倍に変更した以外は、実施例II-1と同様に調製した。
【0079】
[比較例II-3]
ゾルゲル法で調製されたアドマテックス社製シリカ粉体YA050C(平均粒径0.05μm、比表面積65m2/g)をヤマト科学株式会社製電気炉、FO-810で1,100℃、5時間加熱した。加熱したシリカ粉体を3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)で、単一膜形成に必要な理論量の1.0倍添加して、日本コークス工業社製FMミキサーで5分攪拌した後に室温で3日熟成させた。実施例II、比較例IIで調製した表面処理シリカ粉体の物性を表2に示す。
【0080】
【0081】
III:シリカスラリー
[実施例III-1]
実施例II-2で調製した表面処理低誘シリカ粉体70部に対して、辻本化学工業株式会社製アニソール30部添加し、フロイント・ターボ社製ビーズミルAqua turbo TZ-10を用いて流速16m/sで7分間解砕した。
【0082】
[比較例III-1]
比較例I-4で調製した一部クリストバライト化した加熱シリカ粉体を、KBM-503で単一膜形成に必要な理論量の1倍添加して、日本コークス工業社製FMミキサーで攪拌した後に室温で3日熟成させた。その後III-1と同様の条件にてビーズミルで解砕した。
【0083】
[比較例III-2]
比較例II-3で調製した加熱ゾルゲルシリカ粉体を、実施例III-1と同様の条件にてビーズミルで解砕した。
実施例III、比較例IIIで調製したシリカスラリーの物性を表3に示す。
【0084】
【0085】
物性測定方法を以下に示す。
1.平均粒径
MicrotracBEL社製 粒子径・粒子形状分析装置 SYNCによって粒度分布を測定して、体積平均粒径(累積平均径D50(メディアン径))を平均粒径とした。
【0086】
2.比表面積
島津製作所社製トライスターII Plus 3030を用いてBET法にて測定した。
【0087】
3.クリストバライト化の確認(比重)
マウンテック社製全自動真密度測定装置Macpycnoを用いてJIS Z8807:2012 に基づいて加熱後のシリカ粉体の真比重を測定した。シリカ粉体の比重が2.2であればクリストバライト化は進行しておらず、2.3であればクリストバライト化は進行していると判断した。
【0088】
4.アルカリ金属、アルカリ土類金属、U、Th含有量の測定方法
シリカ粉体1gをテフロン(登録商標)ビーカーに正確に秤量し,フッ化水素酸5mL及び硝酸2mLを加え30分間静置した。その後ホットプレート上で加熱溶解し,最終的に乾固させた。ここに、硝酸2.5mLを加えてビーカー内の残渣を溶解し,25mLのメスフラスコに移し、水で希釈し横河アナリティカルシステムズ社製HP4500型ICP-MSを用いてシリカ粉体に含まれるアルカリ金属、アルカリ土類金属、U、Th等の含有量を測定した。
【0089】
5.シラノール量の測定
シリカ粉体を厚さ0.15cmのアルミパンに摺り切りまで充填したサンプルを調製し、得られたサンプルの赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity-1S)、拡散反射測定装置(DRS-8000A)を用いて拡散反射法によって水酸基起因である3680cm-1付近のピークの透過率Tを測定した。得られた透過率の値を基に、下記に示すLambert-Beerの法則を適用し、吸光度Aを求めた。吸光度A=-Log10T
T=3680cm-1付近の透過率
次いで、前記式により求めた吸光度から、下記式によりシリカ粉体中のシラノール量C(ppm)を求めた。
C=100/d(cm)×A
ε:モル吸光係数(シラノールのモル吸光係数ε=77.5dm3/mol・cm)、d:サンプルの厚さ(光路長)(0.15cm)
【0090】
6.誘電正接の測定方法
実施例I-1を例にして低誘電非晶質シリカ粉体の10GHzでの誘電正接の計算方法を示す。下記表4に示す割合で、低誘電非晶質シリカ粉体を低誘電マレイミド樹脂であるSLK-3000(信越化学工業社製 商品名)と硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)を含むアニソール溶剤に混合、分散、溶解してワニスを調製した。低誘電非晶質シリカ粉体を低誘電マレイミド樹脂に対して体積%で0%、11.1%、33.3%、48.1%となるように添加し、バーコーターで厚さ200μmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0091】
【0092】
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを調製した。樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0093】
得られた誘電正接の値を
図1に示すように横軸にシリカ粉体の体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットからシリカ粉体の体積%vs誘電正接の直線を作成した。この直線を外挿し、シリカ粉体100%の誘電正接を実施例1-1の低誘電非晶質シリカ粉体の誘電正接の値とした。
【0094】
粉体を直接測定できるとする測定機もあるが、測定ポットの中にシリカ粉体を充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために本発明では、上記した測定方法からシリカ粉体の誘電正接を求めた。他の実施例及び比較例の10、40GHzでの計算も同様にして行った。
【0095】
7.KBM-503処理の効果の確認
実施例I-2、実施例II、比較例IIで調製した表面処理シリカ粉体を、低誘電マレイミド樹脂(SLK-3000)に対して体積%で48.1%となるように添加し、ジクミルパーオキサイドを低誘電マレイミド樹脂(SLK-3000)に対して0.2部添加した後にバーコーターで厚さ200μmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0096】
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを調製した。樹脂硬化シートを島津製作所社製オートグラフ、AGS-Xにて引張試験を行った。KBM-503処理を行っていない実施例2のシリカ粉体を含有した樹脂硬化シートに対して引張強度を比較した。
【0097】
8.シリカスラリーの解砕度の確認
実施例III及び比較例IIIで調製したシリカスラリーを、低誘電マレイミド樹脂(SLK-3000)を含むアニソール溶剤に、シリカ粉体が樹脂に対して体積%で33.3%となるように混合してワニスを調製した。バーコーターで厚さ20μmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで厚さ10μmの樹脂薄膜を調製し、目視でシリカ粉体の凝集の有無を確認した。
【0098】
表1によると、VMC法で調製されたシリカ粉体は平均粒径が1.5μm以下であり、アルカリ金属、アルカリ土類が少ないため、加熱時にクリストバライト化を防ぐことができた。また、加熱温度に関して温度が上がるほどシラノール量が減少していき、それに伴って誘電正接が低下していくことがわかる。低シラノール量のものであれば、40GHzの誘電正接は10GHzの誘電正接の2.0倍以内に抑えることができる。加熱温度が1,300℃を超えると、シリカの融着が進行するため、基板材料としてはふさわしくない。また、実施例I-2のようにU、Th量の少ないシリカを用いれば、α線による基板の誤作動を抑制できる。
【0099】
表2に示したように加熱した低誘電非晶質シリカ粉体に対するシランカップリング剤の処理量は多くなればなるほど誘電正接が悪化するため、シランカップリング剤の処理理論量に対して0.5~1.5倍であれば、樹脂組成物に配合した場合、樹脂の引張強度と誘電正接を両立できる。比較例II-3では、シランカップリング剤の処理理論量に対しては1.0倍であるものの、比表面積が大きいため必要なカップリング剤が多くなってしまい誘電正接が悪化していた。
【0100】
表3によれば、VMC法で調製されたシリカ粉体は微小シリカ等が含まれていないため、スラリー化した後に樹脂に添加しても凝集しない。一方、溶融法で調製されたシリカは微小シリカが凝集してしまっている。また、ゾルゲル法で調製されたシリカは粒径が小さいためスラリー中で解砕ができずに凝集が確認された。
【0101】
さらに、本発明の低誘電非晶質シリカ粉体を用いて、シリカ含有プリプレグ及びこれを用いたプリント配線板を調製した。
【0102】
本発明によれば、今後の5G用途の基材の薄層化に対応できる平均粒径が1.5μm以下であり、誘電正接が非常に小さく高周波でも誘電正接が悪化しない低誘電非晶質シリカ粉体、表面処理低誘電シリカ粉体、及びシリカスラリー及びスラリーを提供できる。これと樹脂との混合物であるシリカ含有樹脂組成物を用いることで、伝送損失の非常に小さいプリント配線板を調製することができるという著大な効果を奏することが期待される。
【0103】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。