(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107148
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】赤外線発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/08 20100101AFI20230726BHJP
H01L 33/38 20100101ALI20230726BHJP
【FI】
H01L33/08
H01L33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008290
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】諸原 理
(72)【発明者】
【氏名】安田 大貴
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA04
5F241CA34
5F241CA35
5F241CA36
5F241CA39
5F241CA93
5F241CB11
5F241CB22
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】発光強度の高い赤外線発光装置が提供される。
【解決手段】赤外線発光装置は、基板と、複数のメサ型半導体積層部と、を備え、複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、基板の上に、第1の半導体層(21)、発光層、第2の半導体層(23)が順に積層され、接続電極(E)によって、第1及び第2のメサ型半導体積層部(101、102)の第2の半導体層と、第3及び第4のメサ型半導体積層部(103、104)の第1の半導体層と、が電気的に接続され、第1のメサ型半導体積層部と、第2のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、第3のメサ型半導体積層部と、第4のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、接続電極は、平面視で少なくとも複数のメサ型半導体積層部の1つを横切るように形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
少なくとも第1のメサ型半導体積層部、第2のメサ型半導体積層部、第3のメサ型半導体積層部及び第4のメサ型半導体積層部を含む、複数のメサ型半導体積層部と、を備え、
前記複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、前記基板の上に、第1の半導体層、発光層、第2の半導体層が順に積層され、
接続電極によって、
前記第1のメサ型半導体積層部の前記第2の半導体層と、
前記第2のメサ型半導体積層部の前記第2の半導体層と、
前記第3のメサ型半導体積層部の前記第1の半導体層と、
前記第4のメサ型半導体積層部の前記第1の半導体層と、が電気的に接続され、
前記第1のメサ型半導体積層部と、前記第2のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、
前記第3のメサ型半導体積層部と、前記第4のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、
前記接続電極は、平面視で少なくとも前記複数のメサ型半導体積層部の1つを横切るように形成される、赤外線発光装置。
【請求項2】
前記接続電極は、平面視で少なくとも前記複数のメサ型半導体積層部の2つを横切るように形成される、請求項1に記載の赤外線発光装置。
【請求項3】
前記接続電極は、
前記第1のメサ型半導体積層部の前記第2の半導体層に電気的に接続される複数の延伸部である第1の延伸部の群と、
前記第4のメサ型半導体積層部の前記第1の半導体層に電気的に接続される複数の延伸部である第2の延伸部の群と、を備える、請求項1又は2に記載の赤外線発光装置。
【請求項4】
前記複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、平面視で長方形であり、
前記第1の半導体層と前記接続電極との接続部分は、前記長方形の長辺に沿って形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線発光装置。
【請求項5】
前記接続電極は、絶縁膜を介して向かい合う構造を有していない、請求項1から4のいずれか一項に記載の赤外線発光装置。
【請求項6】
前記接続電極は、前記複数のメサ型半導体積層部を覆うように形成された絶縁膜の上に形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の赤外線発光装置。
【請求項7】
前記接続電極は、平面視で、前記第1のメサ型半導体積層部、前記第2のメサ型半導体積層部、前記第3のメサ型半導体積層部及び前記第4のメサ型半導体積層部を内包する最小の四角形に対して、前記最小の四角形の内側に含まれるように形成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の赤外線発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、赤外線発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に波長が2μm以上の長波長帯の赤外線は、その熱的効果及びガスによる赤外線吸収の効果から、人体を検知する人感センサ、非接触温度センサ及びガスセンサ等に使用されている。例えばガスセンサは、大気環境の監視及び保護、更には火災の早期検知などにも使用可能であり、近年注目されている。特に約2.5~約10.0μmまでの領域においては各種ガスに固有の吸収帯が数多く存在し、ガスセンサに用いるのに適した波長帯である。
【0003】
上記赤外線を使用したガスセンサの原理は以下のようなものである。例えば、赤外線の光源と受光素子の間の空間にガスが注入されると、特定のガスは特定の波長の赤外線を吸収する為、ガスの注入前と注入後の波長スペクトルを解析することでガスの種類、濃度を測定することが出来る。ここで、赤外線の光源としては例えば白熱球が使用されるが、白熱球から発せられる赤外線は白色光である。そのため、特定の波長を分光する為には受光素子側にフィルタを設ける必要がある。このようなフィルタは高価であり、また赤外線の強度を弱める為ガスセンサの感度を低下させる。更に白熱球の寿命が短い為に頻繁に光源を交換する必要がある。
【0004】
上記の様な問題を解決する為には光源として特定波長の赤外線を発する半導体の発光素子を使用することが有効である。赤外線を発する半導体の発光素子は、例えば赤外線LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)である。赤外線LEDを用いた分析機器は、それ以外の光源(例えば、電球等)を用いた分析機器と比較して小型化、軽量化、低消費電力化が可能である。赤外線LEDは、ポータブル、省スペース用途、低消費電力な分析機器用途に効果的な光源である。また赤外線LEDはIC(Integrated Circuit)を用いて駆動されることがある。
【0005】
このような赤外線LEDは、約2μm以上の波長の赤外線を発光可能なバンドギャップを有する発光層を、n層とp層とで挟んだいわゆるpn接合ダイオードの構造を有する。赤外線発光素子は、順方向電流が流れると、発光層内で電子と正孔が再結合することにより、バンドギャップに対応した赤外線を発光する。
【0006】
しかしながら、現在のところ、特に赤外領域においてLEDを光源とする分析機器は広く普及するに至っていない。その理由の一つとして、公知の赤外線LEDでは十分な発光強度が得られないために、分析機器全体として十分な信号強度(S/N比)が得られないということが挙げられる。発光強度を大きくするほどS/N比は向上するため、広く応用されるためには、十分な赤外線LEDの発光強度を得なければならない。
【0007】
また赤外線発光素子が約2μm以上の波長の赤外線を発光するために、発光層はいわゆるナローギャップ材料で構成されることが多い。このような赤外線発光素子は、ダイオード1段あたりにかかる電圧が低いために、直列に多段接続した構造を有することがある。例えば、特許文献1は、メサ型のLEDを直列に多段接続した構造を有する赤外線発光素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発光強度をさらに高めた赤外線発光装置の実現のため、赤外線を放出する半導体発光素子(LED)には、さらなる発光強度の向上が望まれている。
【0010】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、発光強度の高い赤外線発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態に係る赤外線発光装置は、
基板と、
少なくとも第1のメサ型半導体積層部、第2のメサ型半導体積層部、第3のメサ型半導体積層部及び第4のメサ型半導体積層部を含む、複数のメサ型半導体積層部と、を備え、
前記複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、前記基板の上に、第1の半導体層、発光層、第2の半導体層が順に積層され、
接続電極によって、
前記第1のメサ型半導体積層部の前記第2の半導体層と、
前記第2のメサ型半導体積層部の前記第2の半導体層と、
前記第3のメサ型半導体積層部の前記第1の半導体層と、
前記第4のメサ型半導体積層部の前記第1の半導体層と、が電気的に接続され、
前記第1のメサ型半導体積層部と、前記第2のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、
前記第3のメサ型半導体積層部と、前記第4のメサ型半導体積層部と、が電気的に並列であり、
前記接続電極は、平面視で少なくとも前記複数のメサ型半導体積層部の1つを横切るように形成される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、発光強度の高い赤外線発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る赤外線発光装置の構造を例示する図である。
【
図2】
図2は、メサ型半導体積層部の構造を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、メサ型半導体積層部の平面視での形状を説明するための図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る赤外線発光装置の構造を説明するための拡大図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る赤外線発光装置の別の構造を説明するための拡大図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る赤外線発光装置のさらに別の構造を説明するための拡大図である。
【
図7】
図7は、発光効率を比較した結果を例示する図である。
【
図8】
図8は、比較例の赤外線発光装置の構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る赤外線発光装置が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0015】
<赤外線発光装置>
本実施形態に係る赤外線発光装置の構造を説明する前に、まず、比較例の赤外線発光装置が説明される。
図8はメサ型の赤外線LEDを直列に多段接続した一般的な構造を有する比較例の赤外線発光装置である。比較例の赤外線発光装置は、平面視で長方形の複数のメサ型の赤外線LEDを含む。比較例の赤外線発光装置では、メサ型の赤外線LEDのp層と隣接するメサ型の赤外線LEDのn層とが接続電極によって電気的に接続されて、直列の多段接続を形成している。例えば
図8の領域A1に含まれる4つのメサ型の赤外線LEDは、下部に示される回路図のように4つの赤外線LEDが直列に接続された構造となっている。ここで、接続電極は、赤外線LEDのp層及びn層に電気的に接続される金属の層である。
【0016】
例えばメサ型の赤外線LEDの発光強度を向上させる手法として、単位面積当たりの投入電流密度が一定の場合、メサ幅を大きくすることで1段のメサの発光面積を大きくすることが挙げられる。ただし、単純にメサ幅を大きくした場合、メサ内に電流密度の偏った分布が発生する。そのため、比較例の赤外線発光装置のような構造において、発光強度向上に寄与する実効的な発光面積を効果的に増やすことができず、所定の長さ以上に赤外線LEDのメサ幅を大きくしても発光強度が向上しないという問題があった。発明者は、この問題を解決するための方途について鋭意究明したところ、以下に説明する本実施形態に係る赤外線発光装置の構造に至った。
【0017】
図1は、本実施形態に係る赤外線発光装置の概略的構造を示す平面模式図である。比較例の赤外線発光装置がメサ型の赤外線LEDを直列に多段接続した構造であるところ、本実施形態に係る赤外線発光装置は電気的に並列なメサ型の赤外線LEDの組を有し、赤外線LEDの組が直列に接続される。例えば
図1の領域A1に含まれる4つのメサ型の赤外線LEDは、下部に示される回路図のように並列接続された2組の赤外線LEDが直列に接続された構造となっている。構造の詳細については後述するが、電気的に並列なメサ型の赤外線LEDによって電流密度の偏った分布が生じないように実効的な発光面積を増やすことができる。以下、本実施形態に係る赤外線発光装置の断面構造の概要、基板、メサ型半導体積層部(メサ型の赤外線LED)の要素の説明の後に、複数の赤外線LEDの電気的な接続などが説明される。
【0018】
図2は、メサ型半導体積層部の構造を説明するための断面図である。メサ型半導体積層部は、本実施形態においてメサ型の赤外線LEDである。複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、第1の半導体層21、発光層22、第2の半導体層23を備え、基板10の上に形成される。
図2に示すように、基板10の上に、第1の半導体層21、発光層22、第2の半導体層23がこの順に積層されてメサ型半導体積層部を構成する。また、メサ型半導体積層部の側面には、SiO
2の層が形成され、その上に、絶縁膜であるSiNの層が形成される。絶縁膜は、複数のメサ型半導体積層部を覆うように形成される。接続電極Eは、絶縁膜の上に形成されて、赤外線LEDの第2の半導体層23(p層)及び第1の半導体層21(n層)に電気的に接続する。詳細について後述するが、接続電極Eの接続は、並列に対応するp層-p層の接続及びn層-n層の接続と、直列に対応するn層-p層の接続と、を含む。接続電極Eは、絶縁膜を介して積層方向に向かい合う構造を有していない。つまり、本実施形態に係る赤外線発光装置の製造において、電極形成工程を1回で行うことができる。
【0019】
図3は、メサ型半導体積層部の平面視での形状を説明するための図である。本実施形態において、複数のメサ型半導体積層部のそれぞれは、平面視で長方形である。
図3の例では、平面視でのメサ型半導体積層部の形状が長方形R1として示されている。長方形R1は長辺L11と短辺L12を有する。また、
図3の例では、平面視において第2の半導体層23に対応する長方形R2も示されている。長方形R2は長辺L21と短辺L22を有する。第1の半導体層21と接続電極Eとの接続部分は、長方形R1の長辺L11に沿って形成されてよい。また、第2の半導体層23と接続電極Eとの接続部分は、長方形R2の長辺L21に沿って形成されてよい。第1の半導体層21又は第2の半導体層23と接続電極Eとの接続部分の形状を、長辺L11又は長辺L21に沿うように形成することによって、メサ内に電流密度の偏った分布が生じにくくなる。
【0020】
<基板>
基板10は、例えば既知の成膜技法により形成される複数の半導体積層部を支持するための支持基板である。基板10は、単元素半導体材料からなるものであってよいし、化合物半導体材料からなるものであってよい。基板10は、放出される赤外線透過性を有する材料からなる。一例として、基板10は、ヒ化ガリウム(GaAs)、シリコン(Si)、リン化インジウム(InP)及びアンチモン化インジウム(InSb)等といった半導体材料からなるが、これらに限られない。また、基板10は、典型的には単結晶基板であり得るが、これに限られない。本実施形態において、基板10は、化合物半導体の単結晶成長の観点から選択された、単結晶GaAs基板であるとする。基板10の面方位には特に制限はないが、(001)、(111)、(101)等が望ましい。また、これらの面方位に対して1°から5°程度傾斜した面方位が用いられてよい。
【0021】
基板10において、ドナー不純物又はアクセプター不純物によるドーピングの制限はない。ただし、基板10の上に形成される複数の赤外線LEDのそれぞれを直列又は並列に接続可能にする観点から、半導体積層部から電気的に分離(すなわち、半絶縁又は絶縁)されることが望ましい。
【0022】
ここで、基板10の表面は、半導体製造プロセスにおいて、真空中で加熱して酸化膜が除去されてよいし、有機物、金属等の汚染物質を除去した後、酸又はアルカリの洗浄剤による洗浄処理が行われてよい。
【0023】
<第1の半導体層>
第1の半導体層21は、基板10上に形成される第1の導電型の半導体層である。第1の半導体層21は、例えば、ヒ化アルミニウム(AlAs)、ヒ化ガリウム(GaAs)、ヒ化インジウム(InAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、アンチモン化インジウム(InSb)及びリン化インジウム(InP)のいずれか又はいずれかによる混晶の化合物半導体材料からなる。
【0024】
また、第1の半導体層21は、そのバンドギャップが、発光層22のものよりも大きい半導体材料が選択され得る。これにより、発光層22内へのキャリアの閉じ込め効果の向上が期待される。
【0025】
ここで、第1の半導体層21が積層構造を有する場合、第1の半導体層21のうち、少なくとも、発光層22と直接的に接する層のバンドギャップが発光層22のものよりも大きいことが好ましい。
【0026】
第1の半導体層21は第1の導電型を有し、第2の半導体層23が有する第2の導電型とは逆の導電型を有する。
【0027】
本開示において、導電型とは、キャリアの種別に従ったいわゆるn型又はp型のいずれかをいう。典型的には、n型半導体は、例えばリン(P)等のドナー不純物がドーピングされた不純物半導体である。また、p型半導体は、例えばホウ素(B)等のアクセプター不純物がドーピングされた不純物半導体である。ただし、第1の半導体層21は、導電型半導体として機能すれば良く、必ずしもこのような不純物のドーピングがなされていなくてよい。本開示では、バースタイン-モス効果(Burstein-Moss effect)による赤外線透過率の向上の観点から、第1の導電型をn型とし、第2の導電型をp型とする。ただし、組み合わせはこれに限られず、第1の導電型をp型とし、第2の導電型をn型としてよい。ここで、不純物がドーピングされた場合の第1の半導体層21のドーパント濃度(不純物密度)は、金属との接触抵抗の低減の観点から、1×1018cm-3以上であることが好ましく、また、結晶性確保の観点から、1×1019cm-3以下であることが好ましい。
【0028】
<発光層>
発光層22は、第1の半導体層21上に形成される所定の波長を有する赤外線を発光する半導体層である。本実施形態において、発光層22は、約2μm以上の波長を有する赤外線の放出に対応するバンドギャップを有する化合物半導体で構成される。一例として、発光層22は、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、InSb及びInPのいずれか又はいずれかによる混晶の半導体材料からなる。
【0029】
発光層22は、単層構造であってよいし、積層構造であってよい。本実施形態において、発光層22は、バンドギャップが互いに異なる半導体層による多重量子井戸構造であるとするが、これに限られない。
【0030】
また、発光層22は、導電型(n型又はp型)半導体であってよいし、不純物を全く又はほとんど含まない真性(i型)半導体であってよい。
【0031】
<第2の半導体層>
第2の半導体層23は、発光層22上に形成される第2の導電型の半導体層である。本実施形態において、第2の導電型はp型である。第2の半導体層23は、例えば、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、InSb及びInPのいずれか又はいずれかによる混晶の化合物半導体材料からなる。本実施形態において、第2の半導体層23は、第1の半導体層21及び発光層22とのダブルヘテロ接合を考慮して選択される化合物半導体材料からなる。
【0032】
第2の半導体層23は、単層構造であってよいし、積層構造であってよい。第2の半導体層23が積層構造を有する場合、第2の半導体層23のうち、少なくとも、発光層22と直接的に接する層のバンドギャップが発光層22のものよりも大きいことが好ましい。
【0033】
不純物がドーピングされた場合の第2の半導体層23のドーパント濃度(不純物密度)は、金属との接触抵抗の低減の観点から、1×1018cm-3以上であることが好ましく、また、結晶性確保の観点から、1×1019cm-3以下であることが好ましい。
【0034】
<電極>
第2の半導体層23に設けられる電極(上部電極層)、第1の半導体層21に設けられる電極(下部電極層)の材料としては、中赤外域において反射率の高い材料が好まれ、例えばAu、Alを用いることができる。また上部電極層と下部電極層は、接触抵抗の低減、密着性の向上及び電極材料と半導体材料との相互拡散防止のために、異なる電極材料を積層することもできる。例えばTi、Pt、Ni、Crなども用いることができる。上部電極層における反射率を阻害しないように各層の膜厚が設計される。電極の材料はこれらに限定されない。上部電極層と下部電極層は、別々の材料でよいし、同じ材料でよい。上部電極層と下部電極層は、一工程で、同時に形成されてよい。
【0035】
(構造の詳細)
図4は、本実施形態に係る赤外線発光装置の構造を説明するための拡大図である。
図4の例では、赤外線発光装置の複数のメサ型半導体積層部として、第1のメサ型半導体積層部101、第2のメサ型半導体積層部102、第3のメサ型半導体積層部103及び第4のメサ型半導体積層部104が示されている。
図4は、
図1の領域A1の一部を拡大した図に対応する。したがって、赤外線発光装置の複数のメサ型半導体積層部は、少なくともこれらの4つのメサ型半導体積層部を含む。以下に説明する4つのメサ型半導体積層部の構造は、赤外線発光装置の他のメサ型半導体積層部についても同様である。
【0036】
接続電極Eによって、第1のメサ型半導体積層部101の第2の半導体層23と、第2のメサ型半導体積層部102の第2の半導体層23と、第3のメサ型半導体積層部103の第1の半導体層21と、第4のメサ型半導体積層部104の第1の半導体層21と、が電気的に接続される。第1のメサ型半導体積層部101と、第2のメサ型半導体積層部102と、が電気的に並列であって、第1の組を構成する。また、第3のメサ型半導体積層部103と、第4のメサ型半導体積層部104と、が電気的に並列であって、第2の組を構成する。また、接続電極Eによって、第1の組と第2の組とが直列に接続されている。
【0037】
図4に示すように、接続電極Eは第1のメサ型半導体積層部101の第2の半導体層23に電気的に接続される複数の延伸部Bである第1の延伸部の群と、第4のメサ型半導体積層部104の第1の半導体層21に電気的に接続される複数の延伸部Bである第2の延伸部の群と、を備える。
図4において、第1の延伸部の群に属する延伸部Bを「B1」と示している。また、第2の延伸部の群に属する延伸部Bを「B2」と示している。このような接続電極Eの構成によって、平面視における、接続部分の間隔Dが定められる。接続部分は、第1の半導体層21又は第2の半導体層23と、接続電極Eとが接続する部分であって、
図4では破線の四角で示されている。接続部分の間隔Dは、メサ内の電流密度の偏った分布を生じにくくするために、所定長さ以下であることが望ましい。所定長さは、例えば50μmであるが、これに限定されない。また、
図3で示した長方形R2の短辺L22も所定長さ以下であることが望ましい。
【0038】
また、接続電極Eは、平面視で少なくとも複数のメサ型半導体積層部の1つを横切るように形成される。
図4の例において、接続電極Eは、第2の延伸部によって、第3のメサ型半導体積層部103を横切っている(領域A2参照)。また、接続電極Eは、第2の延伸部と第1の延伸部とそれらの連結領域によって、第2のメサ型半導体積層部102も横切っている。つまり、
図4の例の接続電極Eは、平面視で少なくとも複数のメサ型半導体積層部の2つを横切るように形成されている。
【0039】
ここで、接続電極Eは、平面視で、第1のメサ型半導体積層部101、第2のメサ型半導体積層部102、第3のメサ型半導体積層部103及び第4のメサ型半導体積層部104を内包する最小の四角形に対して、最小の四角形の内側に含まれるように形成される。最小の四角形は、例えば
図1の領域A1が対応する。接続電極Eは、配線のために、複数のメサ型半導体積層部の外部の領域を使用することがない。換言すると、平面視で、接続電極Eが複数のメサ型半導体積層部の範囲をはみ出ることがない。そのため、本実施形態に係る赤外線発光装置は小型化を実現できる。
【0040】
ここで、接続電極Eの形状は
図4の例に限定されない。
図5は、本実施形態に係る赤外線発光装置の別の構造を説明するための拡大図である。
図4の場合と異なり、接続電極Eは、第1の延伸部と第2の延伸部との連結領域が、第2のメサ型半導体積層部102の第2の半導体層23と、第3のメサ型半導体積層部103の第1の半導体層21と、を覆う程度に幅を広げた形状になっている。
図5の例において、第1の半導体層21と接続電極Eとの接続部分(
図5のC)は、長方形R1の長辺L11(
図3参照)に沿って形成される。また、第2の半導体層23と接続電極Eとの接続部分は、長方形R2の長辺L21(
図3参照)に沿って形成される。このような接続部分の形状によって、メサ内に電流密度の偏った分布が生じにくくなる。ここで、
図5の例でも、接続電極Eは、第2の延伸部によって、第3のメサ型半導体積層部103を横切っている(領域A2参照)。
【0041】
図6は、本実施形態に係る赤外線発光装置のさらに別の構造を説明するための拡大図である。
図4及び
図5の場合と異なり、
図6の例の接続電極Eは、第1の延伸部、第2の延伸部、連結領域に相当する部分が互いに分離されて構成される。第1の延伸部に相当する接続電極Eは、
図6において「E1」と示されており、p層-p層の接続を行う。また、第2の延伸部に相当する接続電極Eは、
図6において「E2」と示されており、n層-n層の接続を行う。また、連結領域に相当する接続電極Eは、
図6において「E3」と示されており、n層-p層の接続を行う。つまり、接続電極Eは、3つの金属の層である「E1」、「E2」及び「E3」を含んで構成されてよい。
【0042】
(実施例)
実施例を用いて、上記の実施形態に係る赤外線発光装置の効果について検証が行われた。実施例の赤外線発光装置は、公知の製造方法によって、上記の実施形態に係る赤外線発光装置の構造となるように製造された。一方、比較例は、
図8のようにメサ型の赤外線LEDを直列に多段接続した一般的な構造を有し、公知の製造方法によって製造された。
【0043】
図7は、一定の電流(100mA)で動作させた場合における、実施例及び比較例の赤外線発光装置の発光効率を比較した結果を示す図である。波長を2.5μmから5μmについて発光効率を測定したところ、特に波長が3μmから4μmの赤外線の発光において、比較例に比べて実施例の発光効率が高いことが示された。ここで、
図7の実線の曲線が比較例(従来構造)を示し、破線の曲線が実施例(本実施形態)を示す。また、同じ実施例及び比較例について、発光効率の電流密度依存性を測定したところ、比較例では電流密度の増加に伴い発光効率の低下が見られた。つまり、実施例の発光効率の向上は、偏った電流密度分布の抑制に伴う改善であることがわかった。
【0044】
例えば
図4を参照すると、実施例の赤外線発光装置では、並列に接続された第1のメサ型半導体積層部101が形成するダイオードと第2のメサ型半導体積層部102が形成するダイオードが、赤外線発光装置に印可された電圧に応じて同じように動作する。したがって、この2つのダイオードは、全体としては直列段数が1段のダイオードとして振る舞う。このとき、1段あたりの実効的なメサ幅は、第1のメサ型半導体積層部101のメサ幅と第2のメサ型半導体積層部102のメサ幅の和となる。これは、比較例の赤外線発光装置の1段あたりのメサ幅の2倍に相当する。しかし、実施例の赤外線発光装置における、1つのダイオードのメサ幅は変わらない。そのため、実施例の赤外線発光装置では、直列1段あたりの実効的なメサ幅を広げながら、1つのダイオードのメサ幅は電流密度分布が発生しない所定の長さ以下で設計することができるため、発光強度が向上している。
【0045】
実施例と比較例との対比から明らかなように、本実施形態に係る赤外線発光装置は発光強度の高めることができる。
【0046】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0047】
上記の実施形態において複数のメサ型半導体積層部の並列数は2つであったが、3つ以上であってよい。
【0048】
また、上記の実施形態において直列接続の前後の並列数は同じ(2つ)であるが、直列接続の前後で並列数が変わってよい。つまり、直列接続の前後の並列数は非対称であってよい。
【0049】
また、
図4などの例において、接続電極Eは第1の延伸部の群を有していたが、1つの第1の延伸部だけを有してよい。同様に、接続電極Eは第2の延伸部の群を有していたが、1つの第2の延伸部だけを有してよい。
【0050】
また、
図4などの例において、接続電極Eが備える第1の延伸部の群の数と第2の延伸部の群の数とは同じであるが、これらの数が異なる、すなわち非対称であってよい。
【0051】
また、
図4などの例において、第1の延伸部及び第2の延伸部は、均一な幅で延びているが、第1の半導体層21又は第2の半導体層23との接続部分と、その他の部分とで幅が異なる形状であってよい。例えばコンタクト抵抗を下げるために、第1の半導体層21又は第2の半導体層23との接続部分の幅が広く、それ以外の配線部分の幅が狭い形状であってよい。
【符号の説明】
【0052】
10 基板
21 第1の半導体層
22 発光層
23 第2の半導体層
101 第1のメサ型半導体積層部
102 第2のメサ型半導体積層部
103 第3のメサ型半導体積層部
104 第4のメサ型半導体積層部
B 延伸部
E 接続電極