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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107205
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】有機酸の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20230726BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230726BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230726BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20230726BHJP
   C12P 7/54 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B01D15/00 K
B01J20/26 G
B01J20/34 G
C12P7/40
C12P7/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200462
(22)【出願日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2022008185
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度~令和6年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、CO2有効利用拠点における技術開発「Gas-to-Lipidsバイオプロセスの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】中島田 豊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4B064AD01
4B064AD04
4B064CE09
4B064DA16
4D017AA03
4D017BA04
4D017CA13
4D017DA01
4D017DB10
4D017EA05
4G066AB05A
4G066AB10A
4G066AB10D
4G066AB21A
4G066AC17B
4G066AC33B
4G066AC35B
4G066BA28
4G066BA36
4G066CA56
4G066DA07
4G066DA20
4G066GA11
(57)【要約】
【課題】有機酸の回収後の溶液の再利用や回収した有機酸の有効利用を容易にし、処理コストの低減が可能な有機酸の回収方法を提供する。
【解決手段】有機酸の回収方法は、有機酸を含有する有機酸含有液から有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーとの共重合体である共重合ゲルを介在させて有機酸を吸着させる工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーとの共重合体である共重合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする有機酸の回収方法。
【請求項2】
前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表される、
【化1】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
ことを特徴とする請求項1に記載の有機酸の回収方法。
【請求項3】
前記有機酸を吸着させた前記共重合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記共重合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の有機酸の回収方法。
【請求項4】
前記有機酸を脱着させた前記共重合ゲルを再利用する、
ことを特徴とする請求項3に記載の有機酸の回収方法。
【請求項5】
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する非極性モノマー又は疎水性モノマーとの共重合体である共重合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする有機酸の回収方法。
【請求項6】
前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表される、
【化2】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
ことを特徴とする請求項5に記載の有機酸の回収方法。
【請求項7】
前記有機酸を吸着させた前記共重合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記共重合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の有機酸の回収方法。
【請求項8】
前記有機酸を脱着させた前記共重合ゲルを再利用する、
ことを特徴とする請求項7に記載の有機酸の回収方法。
【請求項9】
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーの重合体と重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーの重合体との混合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする有機酸の回収方法。
【請求項10】
前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表される、
【化3】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
ことを特徴とする請求項9に記載の有機酸の回収方法。
【請求項11】
前記有機酸を吸着させた前記混合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記混合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の有機酸の回収方法。
【請求項12】
前記有機酸を脱着させた前記混合ゲルを再利用する、
ことを特徴とする請求項11に記載の有機酸の回収方法。
【請求項13】
前記有機酸がカルボキシル基を有する有機酸である、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機酸の回収方法。
【請求項14】
前記有機酸がギ酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸からなる群から選択される1種以上である、
ことを特徴とする請求項13に記載の有機酸の回収方法。
【請求項15】
前記有機酸含有液として微生物によって前記有機酸を産生させた培地を用いる、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機酸の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸などの有機酸を水相から回収する方法としては、例えば溶媒抽出による方法がこれまで代表的な技術としてあった(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-141204号公報
【特許文献2】特開平02-111404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、溶媒抽出による方法は有機溶媒を多量に用いるため、回収後の溶液は再利用が困難であるとともに廃水が増えるため、処理コストが高くなるといった不利な点があった。
【0005】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有機酸の回収後の溶液の再利用や回収した有機酸の有効利用を容易にし、処理コストの低減が可能な有機酸の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係る有機酸の回収方法は、
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーとの共重合体である共重合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表されることが好ましい。
【化1】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
【0008】
また、前記有機酸を吸着させた前記共重合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記共重合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含んでもよい。
【0009】
また、前記有機酸を脱着させた前記共重合ゲルを再利用してもよい。
【0010】
本発明の第2の観点に係る有機酸の回収方法は、
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーと重合性不飽和基を有する非極性モノマー又は疎水性モノマーとの共重合体である共重合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表されることが好ましい。
【化2】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
【0012】
また、前記有機酸を吸着させた前記共重合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記共重合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含んでもよい。
【0013】
また、前記有機酸を脱着させた前記共重合ゲルを再利用してもよい。
【0014】
本発明の第3の観点に係る有機酸の回収方法は、
有機酸を含有する有機酸含有液から前記有機酸を回収する有機酸の回収方法であって、
前記有機酸含有液に、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーの重合体と重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーの重合体との混合ゲルを介在させて前記有機酸を吸着させる工程を含む、
ことを特徴とする。
【0015】
また、前記重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマーが式1で表され、
前記重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマーが式2で表されることが好ましい。
【化3】

(式1及び式2中、Rは置換されていてもよいアルキル基又はフェニル基、Rはアルキレン基、Zは重合性不飽和基、nは0以上の整数を表し、式2中、Xはハロゲンを表す。)
【0016】
また、前記有機酸を吸着させた前記混合ゲルを塩化物塩水溶液、硫酸塩水溶液、又は、硝酸塩水溶液に介在させて前記混合ゲルに吸着している前記有機酸を脱着させる工程を含んでもよい。
【0017】
また、前記有機酸を脱着させた前記混合ゲルを再利用してもよい。
【0018】
また、前記有機酸がカルボキシル基を有する有機酸であることが好ましい。
【0019】
また、前記有機酸がギ酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
また、前記有機酸含有液として微生物によって前記有機酸を産生させた培地を用いてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機酸の回収後の溶液の再利用や回収した有機酸の有効利用を容易にし、処理コストの低減が可能な有機酸の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実験2における酢酸吸着等温線を示すグラフである。
図2】実験3における酢酸の吸着量を示すグラフである。
図3】実験4における酢酸の脱着量を示すグラフである。
図4】実験4における酢酸の脱着量を示すグラフである。
図5】実験6における酢酸の吸着量を示すグラフである。
図6】実験7における酢酸の吸着量を示すグラフである。
図7】実験8における酢酸の吸着量を示すグラフである。
図8】実験8における酢酸の吸着量を示すグラフである。
図9】実験9における酢酸の生産量及びフルクトースの消費量を示すグラフである。
図10】実験10における膨潤度を示すグラフである。
図11】実験10における酢酸吸着量を示すグラフである。
図12】実験10における酢酸吸着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<有機酸の回収方法の概要>
本実施の形態に係る有機酸の回収方法は、有機酸を含有する溶液に後述する共重合ゲル、混合ゲルを介在させ、共重合ゲル、混合ゲルに有機酸を吸着させ、回収する方法である。その共重合ゲル、混合ゲルを塩化物塩水溶液等の脱着液に浸漬することで、共重合ゲル、混合ゲルから有機酸を脱着させることができる。そして、有機酸を脱着させた共重合ゲル、混合ゲルを再利用することができるとともに、分離した有機酸の有効利用、有機酸回収後の溶液の再利用も可能である。
【0024】
<共重合ゲル>
用いる共重合ゲルは、重合性不飽和基を有する第3級窒素原子含有モノマー(以下、単に第3級窒素原子含有モノマーとも記す)と重合性不飽和基を有する第4級窒素原子含有モノマー(以下、単に第4級窒素原子含有モノマーとも記す)との共重合体を含む。重合性不飽和基は、ラジカル反応性の架橋可能な官能基であれば特に制限されない。
【0025】
第3級窒素原子含有モノマーは、化合物内に重合性不飽和基及び第3級窒素原子を有するモノマーであれば制限されない。また、第4級窒素原子含有モノマーについても、化合物内に重合性不飽和基及び第4級窒素原子を有するモノマーであれば制限されない。
【0026】
第3級窒素原子含有モノマー、第4級窒素原子含有モノマーとして、それぞれ式1、式2で表されるモノマーが挙げられる。
【0027】
【化4】
【0028】
式1及び式2中、Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は1~12であることが好ましく、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。アルキル基は一部の水素がフェニル基等の置換基のほか、後述の重合性不飽和基などの置換基に置換されていてもよい。また、式1及び式2中、Rはアルキレン基を表し、nは0以上、好ましくは0~6の整数を表す。また、式1及び式2中、Zは重合性不飽和基を表す。重合性不飽和基は、アクリロイル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基、又は、ビニル基であることが好ましい。また、式2中、Xはハロゲンを表し、塩素、臭素、ヨウ素であることが好ましい。
【0029】
第3級窒素原子含有モノマーとして、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアリルアミン、N,N-ジエチルアリルアミン等のN,N-ジアルキルジアリルアミン、メチルジアリルアミン等のアルキルジアリルアミン、などが挙げられる。
【0030】
第4級窒素原子含有モノマーとしては、上述した第3級窒素原子含有モノマーを、水または有機溶媒中で、4級化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、ジアルキル硫酸、炭酸ジアルキル、アルキルスルホネート、ベンゼンスルホネート、p-トルエンスルホネート、テトラフェニルボレート、チオシアネート)で4級化反応させて得られるモノマーが挙げられる。
【0031】
共重合ゲルは、上述した第3級窒素原子含有モノマー及び第4級窒素原子含有モノマーを用い、常法に従って重合して得られる。
【0032】
また、共重合ゲルは、他の成分を含有していてもよい。他の成分は、共重合ゲル中に共重合されていてもよく、例えば、共重合ゲルとして、上述したモノマーが架橋剤を介して重合され、その架橋剤の成分を含有する形態であってもよい。
【0033】
架橋剤としては、重合性不飽和基を有していれば、特に制限はなく、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類などの1級水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の2級水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-アクリロイルピペリジン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等のN-置換(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートジエステル等の2官能モノマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能以上のモノマーなどが挙げられる。
【0034】
また、共重合ゲルは、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と第4級窒素原子含有モノマーの重合体とが相互侵入高分子網目(IPN:interpenetrating polymer network)構造を形成した形態であってもよい。IPN構造をした共重合ゲルは、例えば、以下のようにして得ることができる。第3級窒素原子含有モノマーを用い、常法に従って重合させる。得られた第3級窒素原子含有モノマーの重合体を乾燥させ、これを第4級窒素原子含有モノマーのモノマー溶液に浸漬させ、第3級窒素原子含有モノマーの重合体を膨潤させる。そして、常法に従って第4級窒素原子含有モノマーを重合させることにより第4級窒素原子含有モノマーの重合体が形成され、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と第4級窒素原子含有モノマーの重合体によるIPN構造の共重合ゲルが得られる。
【0035】
また、IPN構造は、逆に第4級窒素原子含有モノマーの重合体を乾燥させ、これを第3級窒素原子含有モノマーのモノマー溶液に浸漬させて膨潤させたのちに第3級窒素原子含有モノマーを重合させてもよい。
【0036】
また、共重合ゲルは、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と第4級窒素原子含有モノマーの重合体とが半相互侵入高分子網目(semi-IPN:interpenetrating polymer network)構造を形成した形態であってもよい。semi-IPN構造をした共重合ゲルは、例えば、以下のようにして得ることができる。第3級窒素原子含有モノマーを用い、常法に従ってポリマーを重合させる。得られた第3級窒素原子含有ポリマーを第4級窒素原子含有モノマーの溶液に添加し、第3級窒素原子含有ポリマーを溶解させる。そして、常法に従って第4級窒素原子含有モノマーを重合させることにより第3級窒素原子含有ポリマーを含んだ第4級窒素原子含有モノマーの重合体が形成され、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と第4級窒素原子含有モノマーの重合体によるsemi-IPN構造の共重合ゲルが得られる。共重合ゲルは、上述した架橋剤を用いて重合されていてもよい。
【0037】
また、semi-IPN構造は、逆に第4級窒素原子含有ポリマーを第3級窒素原子含有モノマーの溶液に添加し、第4級窒素原子含有ポリマーを溶解させる。そして、常法に従って第3級窒素原子含有モノマーを重合させることにより第4級窒素原子含有ポリマーを含んだ第3級窒素原子含有モノマーの重合体を形成させてもよい。
【0038】
また、共重合ゲルは、重合成不飽和基を有する非極性モノマーあるいは疎水性モノマー(以下、総称して単に非極性モノマーとも記す)を併用して重合された共重合体、具体的には、第3級窒素原子含有モノマー、第4級窒素原子含有モノマー及び非極性モノマーの共重合体を含んでいてもよい。
【0039】
ここで、非極性モノマーは、上述した共重合ゲルの重合に用いられる第3級窒素原子含有モノマー、及び、第4級窒素原子含有モノマーよりも水に溶解しにくい(水への溶解度が小さい)特性を有するモノマーをいう。
【0040】
非極性モノマーを併用した共重合ゲルでは、水が介在した際の膨潤度(吸水量)が抑えられる。共重合ゲルを容量に制限のあるカラム等に充填して使用する場合などでは、膨潤度の大きい共重合ゲルでは充填量を少なくする必要がある。このため、相対的に吸着成分(第3級アミン及び第4級アミン)が少なくなってしまう。膨潤度が小さいと多く共重合ゲルを充填することが可能になるため、吸着成分が相対的に多くなり、有機酸の回収効率が高まる。
【0041】
非極性モノマーあるいは疎水性モノマーとして、N-tertブチルアクリルアミドの他、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
アクリレート(例えば、メタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソブチルアクリレートおよびオクタデシルアクリレート)、
アルキレン(例えば、エチレンおよびプロピレン);C4~C12-アルキル置換エチレンイミン;
アルキルアクリルアミド(ここで、アルキル基は、低級アルキルより大きい(特に、アルキルアクリルアミドにおいて、このアルキル基は、4個以上の炭素原子、代表的には4~12個の炭素原子を有する(例えば、ヘキシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミドなど)));
スチレンおよび疎水的に誘導体化されたスチレン(すなわち、1以上の疎水性置換基で置換されたスチレン、例えば、C5~C12ヒドロカルビル基);
ビニルエーテル;
ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル);
およびビニルハライド(例えば、塩化ビニル)。
なお、上記の非極性モノマーの説明で用いられる、用語「アルキル」は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシルおよびテトラコシル、ならびにシクロペンチルおよびシクロヘキシルのようなシクロアルキル基などの、1~約24個の炭素原子の分枝または非分枝の飽和炭化水素基をいう。用語「低級アルキル」は、1~4個の炭素原子のアルキル基をいい、従って、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、およびt-ブチルを含む。
また、上記の非極性モノマーの説明で用いられる、用語「アルキレン」は、1~約24個の炭素原子、代表的には、1~約12個の炭素原子を含む、分枝または非分枝の二官能性の飽和炭化水素鎖をいい、例えば、メチレン(-CH-)、エチレン(-CH-CH-)、プロピレン(-CH-CH-CH-)、2-メチルプロピレン(-CH-CH(CH)-CH-)、ヘキシレン(-(CH-)などが挙げられる。
【0042】
第3級窒素原子含有モノマー及び第4級窒素原子含有モノマーと非極性モノマーとの配合比(モル比)は、適宜設定されればよく、例えば、2:1~1:2であり、1:1であることが好ましい。非極性モノマーの配合比が高いと得られる共重合ゲルの膨潤度を抑えられるが、吸着成分である第3級アミン及び第4級アミンの相対量が減少する。
【0043】
また、非極性モノマーを併用して重合される場合、非極性架橋剤あるいは疎水性架橋剤が用いられるとよい。非極性架橋剤は、重合性不飽和基を二以上有し、上述した共重合ゲルの重合に用いられる第3級窒素原子含有モノマー、及び、第4級窒素原子含有モノマーよりも水に溶解しにくい特性を有する架橋剤であればよい。非極性架橋剤として、例えば、二官能以上のアクリルアミド、アクリレート、メタクリレートのうち、酸素原子の数が少ないもの(酸素原子が2個以下)が好適に用いられる。具体例として、ヘキサンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を例示することができる。
【0044】
<混合ゲル>
混合ゲルは、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と、第4級窒素原子含有モノマーの重合体とを含む。第3級窒素原子含有モノマー、及び、第4級窒素原子含有モノマーについては、上記説明と同様である。
【0045】
それぞれの重合体は、それぞれ第3級窒素原子含有モノマー、第4級窒素原子含有モノマーを常法に従って重合して得られる。それぞれ、上述した架橋剤を用いて重合されていてもよい。
【0046】
第3級窒素原子含有モノマーの重合体と、第4級窒素原子含有モノマーの重合体との配合比に制限はないが、重量比で1:9~9:1、好ましくは4:6~6:4、より好ましくは5:5である。
【0047】
混合ゲルは、他の成分を備えていてもよい。また、第3級窒素原子含有モノマーの重合体、第4級窒素原子含有モノマーの重合体は、それぞれ、第3級窒素原子含有モノマー、第4級窒素原子含有モノマーの他、他の成分を含有した重合体であってもよい。
【0048】
<有機酸含有液>
有機酸としてカルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、イタコン酸、レブリン酸、サッカリン酸などが挙げられる。
【0049】
<有機酸の回収方法>
有機酸を含有する有機酸含有液に共重合ゲル及び/又は混合ゲルを介在させる。共重合ゲル及び/又は混合ゲルに有機酸を吸着するので、有機酸含有液から有機酸が吸着した共重合ゲル及び/又は混合ゲルを分離、回収する。共重合ゲル及び/又は混合ゲルを有機酸含有液に介在させる手法はどのような手法であってもよく、例えば、共重合ゲル及び/又は混合ゲルをそのまま有機酸含有液に投入したり、共重合ゲル及び/又は混合ゲルを網袋等に入れた状態で有機酸含有液に浸漬させたりする方法などが挙げられる。
【0050】
また、有機酸を吸着した共重合ゲル及び/又は混合ゲルを有機酸含有液から分離し、塩化物イオン、硫酸イオン、又は、硝酸イオンを含有する脱着液に浸漬することで、共重合ゲル及び/又は混合ゲルから有機酸を脱着させることができる。脱着液として、例えば、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等の塩化物塩水溶液、硝酸カリウム水溶液等の硝酸塩水溶液、硫酸マグネシウム水溶液等の硫酸塩水溶液等が挙げられる。
【0051】
そして、有機酸を脱着させた共重合ゲル及び/又は混合ゲルは、再度有機酸含有液に介在させて有機酸を吸着させることができ、複数回の再利用が可能である。また、有機酸回収後の有機酸含有液についても再利用が可能である。
【0052】
有機酸含有液は有機酸を含有していれば制限されず、種々の有機酸製造プロセスにおいて生じる各種有機酸含有液などが用いられる。例えば、微生物による有機酸の生産プロセスにおいて生じる有機酸を含有する培地でもよい。
【0053】
一例として、酢酸生成菌を利用した酢酸製造プロセスにおいて、共重合ゲル及び/又は混合ゲルを介在させた培地にて酢酸生成菌を培養する。酢酸生成菌は、培地への酢酸の蓄積によって、細胞活性が低下し、酢酸の生成速度の低下や生産停止を引き起こす。しかし、培地に共重合ゲル及び/又は混合ゲルを介在させておくことで、共重合ゲル及び/又は混合ゲルが酢酸を吸着し、培地中の酢酸濃度の上昇が抑えられるので、酢酸生成菌の細胞活性が維持され、酢酸生成速度が維持される。
【0054】
また、共重合ゲル及び/又は混合ゲルは吸着した有機酸を温和な条件で脱着可能であることから、共重合ゲル及び/又は混合ゲルを一旦培地から分離して酢酸等の有機酸を脱着させ、その共重合ゲル及び/又は混合ゲルを再度培地に介在させることができる。また、酢酸等の有機酸回収後の培地についても廃棄することなく、この培地を再度利用して酢酸菌等の培養が可能である。
【0055】
このように、培地、共重合ゲル及び/又は混合ゲルともに再利用して用いることができるため、効率的、且つ、低コストな酢酸等の有機酸製造プロセスに資する。
【実施例0056】
(共重合体、重合体の合成)
メスフラスコ内にモノマー、架橋剤、重合促進剤、及び、蒸留水を入れて混合し、重合溶液を調製した。
別のメスフラスコ内に開始剤と水を入れて混合し、開始剤溶液を調製した。
重合溶液、及び、開始剤溶液を1時間室温で窒素曝気した後、窒素雰囲気下で混合し、ポリプロピレン管に注入してパラフィルムで密閉した。
ポリプロピレン管を7℃の恒温水槽で4時間保持し、重合を行い、それぞれ共重合体又は重合体を得た。
【0057】
なお、モノマーとして、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級化塩を用いることで、第3級アミン及び第4級アミンを有する共重合体(以下、共重合ゲル1)を得た。
また、モノマー、架橋剤、重合促進剤、及び、開始剤を表1に示しているように、モノマーとして、第3級アミンを有するN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドを用いることで、第3級アミンを有する重合体(以下、重合体1)を得た。
また、モノマーとして、第4級アミンを有するN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級化塩を用いることで、第4級アミンを有する重合体(以下、重合体2)を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
<実験1>各種有機酸の吸着実験
各種の有機酸水溶液(ギ酸水溶液、酢酸水溶液、プロピオン酸水溶液、酪酸水溶液)を調製し、NaOHを添加してpH7.0に調整した。
それぞれの有機酸水溶液に共重合ゲル1を浸漬(24時間、30℃)し、平衡吸着実験を行った。共重合ゲル1への有機酸の吸着量は、有機酸水溶液中の有機酸濃度の測定値に基づいて算出した。
【0060】
その結果を表2に示す。いずれの有機酸においても、共重合ゲル1への吸着が確認できた。
【0061】
【表2】
【0062】
<実験2>酢酸の吸着容量の測定
pH7.0に調整した濃度の異なる各種の酢酸水溶液に共重合ゲル1を浸漬(24時間、30℃)した。そして、それぞれの酢酸水溶液中の酢酸濃度を測定し、酢酸の吸着量を求めることで酢酸吸着等温線を導いた。
【0063】
その結果を図1に示す。共重合ゲル1の吸着容量は、約40mg/g-dry-gel(0.67mmol/g-dry-gel)であった。
【0064】
<実験3>吸着時間の検証
酢酸水溶液(10g/L、pH7.0、30℃)への共重合ゲル1の浸漬時間を変化させて吸着試験を行い、酢酸吸着量への影響を検証した。
【0065】
その結果を図2に示す。浸漬時間に応じて共重合ゲル1への酢酸の吸着が見られた。反応開始直後、すぐに共重合ゲル1への酢酸の吸着が開始しており、約30分で吸着が平衡状態となった。共重合ゲル1は、速やかに酢酸の吸着が可能であることを示した。
【0066】
<実験4>酢酸の脱着実験
共重合ゲル1に吸着した酢酸を、脱着液(NaCl水溶液)によって回収する検討を行った。まず、共重合ゲル1(1g)を酢酸水溶液(10g/L、pH7.0、30℃)に24時間浸漬させ、酢酸を吸着させた。酢酸が吸着している共重合ゲル1を各種濃度(0M、0.1M、0.6M、3M)のNaCl水溶液(20mL、室温、pH未調整)にそれぞれ浸漬した。そして、共重合ゲル1からNaCl水溶液に溶出する酢酸を経時的に定量した。
【0067】
図3にその結果を示す。水に浸漬させた場合では、共重合ゲル1からの酢酸の溶出はないが、脱着液のNaCl濃度が高くなるに従い、また浸漬時間が長くなるに従い、酢酸の溶出量が増大した。ほぼ0分のタイムポイントは、共重合ゲル1を脱着液に添加後、混合してすぐにサンプリングしたものであり、共重合ゲル1を脱着液に入れた直後に酢酸が脱着していることを示している。また、0.6M NaCl水溶液(海水と同程度)では、共重合ゲル1の浸漬後30分でほぼ完全に酢酸を回収可能であり、穏やかな条件での脱着回収が可能である。
【0068】
また、脱着液として、塩化ナトリウム水溶液のほか、塩化カリウム水溶液、硝酸カリウム水溶液、硫酸マグネシウム水溶液を用い、酢酸の脱着を行った。
【0069】
共重合ゲル1(1g)を酢酸水溶液(20g/L、pH7.0、30℃)に24時間浸漬させ、酢酸を吸着させた。酢酸が吸着している共重合ゲル1をそれぞれの脱着液(いずれも1M、20mL、30℃)に15分間浸漬させ、共重合ゲル1から脱着液に溶出した酢酸を定量した。
【0070】
その結果を図4に示す。塩化カリウム水溶液、硝酸カリウム水溶液、硫酸マグネシウム水溶液を用いた場合も、塩化ナトリウム水溶液を用いた場合と同等の結果を示した。
【0071】
<実験5>共重合ゲル1の再利用性の検証
共重合ゲル1を用い、酢酸水溶液への浸漬による酢酸の吸着、及び、脱着液への浸漬による酢酸の脱着を行い、共重合ゲル1の再利用性について検証した。
【0072】
共重合ゲル1(3g)をカラムにつめ、20mLの酢酸水溶液(10g/L、pH7.0)を2回通過させて結合反応とした。15mLの脱イオン水を通過させることで洗浄し、洗浄は新しい脱イオン水で3回繰り返した。脱着反応は15mLの0.6M NaCl溶液を4回通過させることで行った。同じ共重合ゲル1を用い、この吸着及び脱着の工程を5回繰り返し行った。
【0073】
表3にその結果を示す。共重合ゲル1の性能低下はほぼ見られず、共重合ゲル1は繰り返し再利用が可能であることが示された。
【0074】
【表3】
【0075】
<実験6>共重合ゲルと混合ゲルとの比較
共重合ゲル1は4級カチオン性モノマー(ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩)と3級カチオン性モノマー(ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)を架橋重合した共重合体である。これらのモノマーを共重合しなかった重合体1と重合体2との混合ゲル(以下、混合ゲル1)について検証した。
【0076】
共重合ゲル1(0.5g)、混合ゲル1(重合体1(0.25g)+重合体2(0.25g))をそれぞれ酢酸水溶液(10g/L、pH7.0)に24時間浸漬させて酢酸の吸着を行い、それぞれの酢酸の吸着量を求めた。
【0077】
その結果を図5に示す。共重合ゲル1と混合ゲル1とでは、大きな違いは見られず、第3級窒素原子含有モノマーの重合体と第4級窒素原子含有モノマーの重合体とを併用することでも吸着性能を有することが示された。
【0078】
一方で、膨潤後の体積は、混合ゲル1が試験した酢酸溶液中で約13mLに対し、共重合ゲル1では4mL程度であり、共重合ゲル1を用いることで膨潤が抑えられる効果があった。共重合体を用いると酢酸水溶液中での膨潤が抑制され、使用体積が重要になる場合には有用である。
【0079】
<実験7>他の吸着担体との比較実験
共重合ゲル1のほか、イオン交換樹脂など他の吸着材を用い、酢酸の吸着能について比較した。酢酸水溶液(20mL、10g/L、pH7.0、30℃)に各種吸着材(0.5g)を24時間浸漬し、平衡吸着させ、酢酸濃度の低下により吸着量を算出した。
【0080】
使用した吸着材は以下の通りである。
・陽イオン交換樹脂1(PK208;三菱ケミカル株式会社製)
・陰イオン交換樹脂1(PA312;三菱ケミカル株式会社製)
・陽イオン交換樹脂1+陰イオン交換樹脂1(重量比1:1)
・ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
・ポリ-ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩
・混合ゲル2(ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸+ポリ-ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩)(重量比1:1)
・共重合ゲル2(ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩との共重合体)
・ポリエチレンイミン
・共重合ゲル1
【0081】
その結果を図6に示す。強塩基性陰イオン交換樹脂である陰イオン交換樹脂1が共重合ゲル1とほぼ同等の吸着性能を示した以外は、共重合ゲル1が優位であった。なお、吸着量がマイナスを示したものについては、吸着材の水の吸収が高いことから、結果として酢酸水溶液の酢酸濃度が上昇したためと考えられる。
【0082】
<実験8>培地を用いた酢酸の吸着実験
酢酸を産生する微生物(酢酸生成菌;Acetobacterium woodii)の培養で用いられる培地中の酢酸の吸着について検証した。使用する培地(基礎培地)は以下のようにして調製した。
【0083】
(基礎培地の調製)
嫌気的に培地を調製する方法として、Hungateの方法(Hungate, R. E., 1969, Methods Microbiol., 3B: 117-132)を改変したMillerらの方法(Miller, T. L. et al., 1974, Appl. Microbiol., 27: 985-987)を用いた。
【0084】
各成分の組成、及び、調製手順を以下に示す。
NHCl(1.0g)、KCl(0.1g)、MgSO・7HO(0.2g)、NaCl(0.8g)、KHPO(0.1g)、CaCl(0.02g)、微量元素溶液(10ml)、及び、ビタミン溶液(10ml)をイオン交換水に溶解し、800mLにメスアップした。
これを湯浴でボイル(20分間)し、N2を注入しながら氷中で冷却(20分間)の後、予めN2を注入しておいた125mLバイアル瓶に40mLずつ分注した。
さらに、3分間Nを注入した後、ブチルゴム栓およびアルミシールで密閉し、オートクレーブ(121℃、15分)で加熱した。
更に、植菌前に還元剤(システイン)を終濃度1.2g/L、フルクトースを10g/L、Yeast extractを1g/L、NaHCOを10g/Lになるように添加した。
【0085】
なお、微量元素溶液、ビタミン溶液、フルクトース溶液、還元剤溶液、NaHCO溶液、Yeast extract溶液は、以下のように調製して用いた。
【0086】
(微量元素溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。調製した溶液は遮光し4℃で保存した。
Nitrilotriacetic acid(2.0g)(Nitrilotriacetic acidを溶解させた後、KOHでpH6.0に調整)、MnSO・HO(1.0g)、Fe(SO(NH・6HO(0.8g)、CoCl・6HO(0.2g)、ZnSO・7HO(0.2mg)、CuCl・2HO(20.0mg)、NiCl・6HO(20.0mg)、NaMoO・2HO(20.0mg)、NaSeO(20.0mg)、NaWO(20.0mg)
【0087】
(ビタミン溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。調製した溶液は遮光し4℃で保存した。
Biotin(2.0mg)、Folic acid(2.0mg)、Pyridoxine hydrochloride(10.0mg)、Thiamine・HCl(5.0mg)、Riboflavin(5.0mg)、Nicotinic acid(5.0mg)、Calcium D-(+)-pantothenate(5.0mg)、Vitamin B12(0.1mg)、p-Aminobenzoic acid(5.0mg)、Thioctic acid(5.0mg)
【0088】
(フルクトース溶液(200g/L)の調製)
フルクトースをイオン交換水と混合し200g/Lの濃度で調製、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。N2ガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓およびアルミキャップで密閉した。オートクレーブ(121℃、15分)で加熱後、室温保存した。
【0089】
(還元剤(システイン)溶液(60g/L)の調製)
L-システイン・HCl・HOをイオン交換水と混合して60g/Lの濃度に調製し、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。Nガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓およびアルミキャップで密閉した。オートクレーブ(121℃、15分)で加熱後、遮光し室温保存した。
【0090】
(NaHCO溶液(100g/L)の調製)
NaHCO(100g)をイオン交換水に溶解し、1Lにメスアップした。フィルター滅菌後、オートクレーブ済みバイアル瓶に分注し、密閉した。COを2時間通気することにより脱気した。
【0091】
(Yeast extract溶液(50g/L)の調製)
Yeast extract(5g)をイオン交換水に溶解し、100mLにメスアップした。沸騰水中で30分間ボイルの後、N2を注入しながら氷中で30分間冷却し、125mLバイアルに50mLずつ分注した。ブチルゴム栓とアルミシールで密閉し、オートクレーブにより滅菌した。
【0092】
この基礎培地に酢酸を溶解し、NaOHを加えてpH7.0に調整した酢酸含有培地(酢酸濃度10g/L、pH7.0)を用意した。また、pH無調整酢酸水溶液(酢酸濃度10g/L、pH2.9)を用意した。
【0093】
酢酸含有培地(20mL)およびpH無調整酢酸水溶液(20mL)に陰イオン交換樹脂1(0.5g)、共重合ゲル1(0.5g)を24時間浸漬し、酢酸の吸着量を比較した。
【0094】
pH7.0の酢酸含有培地での酢酸吸着量の結果を図7に、pH無調整酢酸含有水溶液の酢酸吸着量の結果を図8にそれぞれ示す。pH7.0の酢酸含有培地について、共重合ゲル1と陰イオン交換樹脂1とを比較すると、陰イオン交換樹脂1では吸着性能が著しく低下したが、共重合ゲル1では吸着性能を保持している。
【0095】
また、pH2.9のpH無調整酢酸含有水溶液についても、陰イオン交換樹脂1は吸着性能が著しく低下し、共重合ゲル1では吸着性能を保っている。共重合ゲル1は、培地成分などの夾雑物の存在下や低pHなど様々な条件変化においても、吸着性能が影響されにくく、優れた酢酸吸着性を有することが示された。
【0096】
<実験9>培地の再利用の検証
酢酸含有培地における共重合ゲル1の再利用性について検証した。
上述した基礎培地(以下、新鮮培地)にて、酢酸生成菌(Acetobacterium woodii)を培養し、酢酸生成させた。完全に基質が酢酸に変換された新鮮培地から菌体を取り除き、共重合ゲル1を用いて新鮮培地中の酢酸を回収した。
【0097】
酢酸を回収した後の培地に、培養により消費された成分(フルクトース、及び、他の成分(培地成分のうち、微量元素溶液、ビタミン溶液、Yeast extract、還元剤))を新鮮培地と同量添加して、再利用培地を調製した。この再利用培地にて、再度、酢酸生成菌を培養し、酢酸を生成させた。
【0098】
図9に、新鮮培地を用いた場合と再利用培地を用いた場合のフルクトースの消費量と酢酸の生産量の経時変化を示す。再利用培地の場合でも、フルクトースから酢酸への変換が新鮮培地とほぼ遜色なく行われており、共重合ゲル1による処理が酢酸生成菌の活性に影響を与えないことがわかる。酢酸回収後の培地を再利用することが可能であり、これにより培地に用いる水の消費を抑えることが可能である。
【0099】
<実験10>非極性モノマーを併用して重合した共重合ゲルの吸着実験
非極性モノマーを併用して共重合ゲルを合成し、酢酸の吸着実験を行った。
【0100】
非極性モノマーとしてN-tert-ブチルアクリルアミド、疎水性の架橋剤として1,6-ヘキサンジオールジメタクリラートを用いた。そして、表4に示す組成にて、上記の共重合体の合成と同様の方法で共重合ゲル2~4を合成した。
【0101】
【表4】
【0102】
実験1と同様の手法により、共重合ゲル1~4(乾燥状態、0.5g)を酢酸水溶液(20mL、NaOHを添加してpH7.0に調整)に混合し、振盪させながら30℃で24時間吸着させ、膨潤度(吸水量)及び酢酸の吸着量を測定した。
【0103】
共重合ゲル1~4の膨潤度を図10に示す。非極性モノマーを併用して重合した共重合ゲル2~4では、非極性モノマーを併用していない共重合ゲル1に比べて、膨潤度が1/8~1/20に低下した。また、共重合ゲル2~4の合成時の架橋剤の濃度が高いほど膨潤度が低下している。
【0104】
また、共重合ゲルの酢酸の吸着量を図11に示す。共重合ゲル1に比べ、共重合ゲル2~4の吸着量は、凡そ半分程度であった。共重合ゲル2~4では、共重合ゲル1に比べ、吸着成分であるN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及び、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級化塩の割合が半分であったためと考えられる。
【0105】
また、共重合ゲル2~4の酢酸の吸着量は、膨潤度の低下割合に比べて高いことがわかる。吸着成分の量が同等であり架橋剤の割合が増えた分、共重合ゲル2~4それぞれの全体に占める吸着成分の割合が減少したためである(0.4→0.33→0.25)。
【0106】
そして、膨潤状態における共重合ゲル1~4の酢酸吸着量(mg/ml wet gel)を下記の計算式により求めた。
酢酸吸着量(mg/ml wet gel)
=平均酢酸吸着量(mg/g-dry gel)/膨潤度(ml-wet gel/g-dry gel)
【0107】
その結果を図12に示す。膨潤状態においては、共重合ゲル2~4の酢酸吸着量は、共重合ゲル1に比べて4~8倍に増加している。乾燥状態での同量の共重合ゲル1~4において、共重合ゲル2~4は共重合ゲル1に比べて吸着成分は少ない。しかしながら、膨潤状態での同体積における共重合ゲル1~4においては、共重合ゲル2~4は共重合ゲル1に比べて膨潤が抑えられるため、共重合ゲル1よりも吸着成分の割合が高まり、吸着量を増大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上のように、有機酸の回収方法では、有機酸の回収後の溶液を再利用でき、処理コストの低減が可能である。酢酸生成菌を利用した酢酸製造プロセス等、有機酸製造プロセスでの利用が期待される。
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図10
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図12