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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107406
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】酸素還元用電極とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20230727BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230727BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230727BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20230727BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20230727BHJP
   C25B 1/21 20060101ALI20230727BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20230727BHJP
【FI】
C25B11/077
B01J37/02 301N
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/061
C25B1/21
C25B11/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008592
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】石田 智也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 航太朗
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA17
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB10C
4G169BB12C
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA13
4G169EC26
4G169FB14
4G169FB21
4G169FC08
4K011AA06
4K011AA11
4K011AA64
4K011BA02
4K011BA11
4K011DA03
4K021AB18
4K021DA13
(57)【要約】
【課題】 従来公知の酸素還元用電極に比べて低過電圧を示し、食塩電解プロセスの省エネルギー化に寄与する効果を奏する酸素還元用電極を提供する。
【課題解決手段】 多孔性導電性基材と該多孔性導電性基材上に形成されたマンガン酸化物とを有し、該マンガン酸化物のX線光電子分光法による表面分析によって、527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHが検出され、該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られるピーク面積比POH/Pが0.15以上0.30以下であることを特徴とする酸素還元用電極とその製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性導電性基材と該多孔性導電性基材上に形成されたマンガン酸化物とを有し、該マンガン酸化物のX線光電子分光法による表面分析によって、527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHが検出され、該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られるピーク面積比POH/Pが0.15以上0.30以下であることを特徴とする酸素還元用電極。
【請求項2】
前記マンガン酸化物が少なくともアモルファスである請求項1に記載の酸素還元用電極。
【請求項3】
前記マンガン酸化物の比キャパシタンスが200F/g以上である請求項1又は請求項2に記載の酸素還元用電極。
【請求項4】
前記マンガン酸化物のMn平均価数が3.5以上4.0以下である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項5】
前記マンガン酸化物の担持量が、電極の幾何面積当たり0.1mg/cm以上10mg/cm以下である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項6】
前記多孔性導電性基材が、カーボン繊維材料、導電性カーボン、及び金属材料の群から選ばれる1種以上である、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項7】
前記マンガン酸化物が、MnO、MnOOH、MnO、Mn及びMnの群から選ばれる1種以上である、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項8】
前記マンガン酸化物が、前記多孔性導電性基材上に電析されたマンガン酸化物である、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項9】
前記多孔性導電性基材が、親水化処理された多孔性導電性基材である、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項10】
前記酸素還元用電極が、Agを含有しない、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の酸素還元用電極。
【請求項11】
多孔性導電性基材を、マンガン濃度が10mmol/L以上のマンガン塩化合物を含む電解液中に浸漬し、銀塩化銀電極を参照極とする値で-0.1以上0.1V以下の電位で該多孔性導電性基材上にマンガン酸化物を電析させる電析処理工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の酸素還元用電極の製造方法。
【請求項12】
前記電析処理工程の前に、前記多孔性導電性基材に親水化処理を施す工程を含む請求項11に記載の酸素還元用電極の製造方法。
【請求項13】
前記マンガン塩化合物が、過マンガン酸塩、硫酸マンガン塩、及び硝酸マンガン塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項11又は請求項12に記載の酸素還元用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元用電極とその製造方法に関する。本発明の酸素還元用電極は、食塩電解や燃料電池の酸素還元用電極に適する。
【背景技術】
【0002】
食塩電解工業では一般に、陽極に塩素発生用電極、陰極に水素発生用電極を用い、陽極と陰極との間をフッ素系陽イオン交換膜で区画した、所謂、イオン交換膜法食塩電解が主流である。一方で、陰極を酸素還元用電極に置き換えることで、既存の水素発生型イオン交換膜法食塩電解に対して、電解電圧を概ね1V下げることが可能とされており、省エネルギー化の手段として注目されている。しかし、実際には酸素還元反応の高い過電圧に起因して、電圧削減効果は0.7V程度に留まり、エネルギー源として再利用が可能な水素が副生されない問題と相まって、大規模な実用化には至っていない。過電圧を低減する酸素還元用電極としては、これまでに触媒として銀を用いたものが広く研究されてきた。例えば特許文献1には、触媒成分として銀単体、銀-白金合金及び銀-パラジウム合金から選択される銀含有金属と、該銀含有金属に対するモル比が0.005~0.5であるマンガン酸化物を含んで成る酸素還元触媒を用いた食塩電解用酸素還元ガス拡散陰極が提案されている。当該酸素還元触媒は、銀1モルに対してマンガン酸化物が0.5モルを超える場合については銀の有効面積が低下し、過電圧が増加すると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-119817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、食塩電解の稼働電流(4.0~8.0kA/cm)に適用した際、高い過電圧が生じ、食塩電解プロセスの省エネルギー化を妨げていた。また、高価な銀を酸素還元触媒の主要な成分として使用するため製造コストが高い問題があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、従来公知の酸素還元用電極に比べて低過電圧を示し、食塩電解プロセスの省エネルギー化に寄与する効果を奏する酸素還元用電の提供を課題とする。また、本発明は、高価な銀を酸素還元用電極の主要な成分として使用しない酸素還元用電の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、多孔性導電性基材と特定のマンガン酸化物とを有する酸素還元用電極を用いることで、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、多孔性導電性基材と該多孔性導電性基材上に形成されたマンガン酸化物とを有し、該マンガン酸化物のX線光電子分光法による表面分析によって、527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHが検出され、該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られるピーク面積比POH/Pが0.15以上0.30以下であることを特徴とする酸素還元用電極及びその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の酸素還元用電極は、従来公知の酸素還元用電極に比べて低過電圧を示すため、食塩電解プロセスの省エネルギー化に寄与する効果を奏する。また、本発明の酸素還元用電極は、高価な銀を酸素還元用電極の主要な成分として使用しないため、製造コストの点において有利である。さらに、本発明の酸素還元用電極は、簡便な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルである。
図2】実施例2の酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルである。
図3】比較例1の酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルである。
図4】比較例2の酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルである。
図5】実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の酸素還元用電極の過電圧測定結果である。
図6】実施例1、実施例2、比較例3、比較例4の酸素還元用電極の過電圧測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の酸素還元用電極は、多孔性導電性基材と該多孔性導電性基材上に形成されたマンガン酸化物とを有し、該マンガン酸化物のX線光電子分光法による表面分析によって、527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHが検出され、該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られるピーク面積比POH/Pが0.15以上0.30以下である。
前記多孔性導電性基材は、酸素還元用電極の強度を補強し、集電と電子伝導を行い、かつ酸素還元反応における反応物質である酸素ガスを触媒成分まで速やかに供給する目的で用いられる。よって上記機能を有する材料であれば特に限定するものではなく、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等のカーボン繊維材料、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン、及びニッケル、銀、銅、鉄、チタン、ステンレス合金鋼から成るエキスパンドメタル又はメッシュ等の金属材料の群から選ばれる1種以上、等が挙げられる。中でも耐腐食性に優れ、加工が容易な点でカーボン繊維材料が好ましい。
【0009】
前記マンガン酸化物は、気液固の三相界面が形成され酸素還元反応が進行する反応場に位置する触媒の主成分である。マンガン酸化物は、特に限定するものではなく、例えば、MnO、MnOOH、MnO、Mn及びMnの群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらのマンガン酸化物については、市販品をそのまま用いることもできるし、一般公知の方法に従って合成したものを用いることもできる。当該合成方法としては、特に限定するものではなく、例えば、湿式法であれば2価のマンガン塩水溶液(硫酸塩など)を電解酸化あるいは化学酸化する方法や、7価のマンガン塩水溶液(過マンガン酸塩など)を電解還元あるいは化学還元する方法等を挙げることができ、乾式法であれば原料の粉末状マンガン化合物(水酸化マンガン、炭酸マンガンなど)を酸化処理する方法や高温で焼成する方法等を挙げることができる。
【0010】
前記マンガン酸化物は本発明の効果に支障の出ない範囲で、異種金属元素を含有していても良い。異種金属元素としては特に限定するものではなく、例えば、Ag、Co、Cr、Cu、Fe、Ir、Mo、Nb、Ni、Pd、Pt、Ru、Ti、V、W、Zn及びZrの群から選ばれる1種以上の金属を挙げることができる。前記マンガン酸化物は、Agを含有しなくても良い。
前記マンガン酸化物は、高い触媒活性が得られる点で、少なくともアモルファスであることが好ましい。
本発明の酸素還元用電極は、Agを含有しなくても良い。
【0011】
本発明の酸素還元用電極が有するマンガン酸化物は、X線光電子分光法による表面分析によって、527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHが検出され、該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られるピーク面積比POH/Pが0.15以上0.30以下である。前記ピーク面積比POH/Pは、好ましくは0.18以上0.30以下であり、より好ましくは0.20以上0.30以下である。
ここでピークPOHはマンガン酸化物表面に酸素欠陥が存在することで増大するピークであるため、ピーク面積比POH/Pは実質的にマンガン酸化物表面の酸素欠陥量に比例して増加する。また、マンガン酸化物表面の酸素欠陥は酸素還元反応時の活性点として機能することが知られている。POH/Pが0.15より小さい場合、高電流密度で電極を使用した際に、マンガン酸化物表面に反応活性点が少ないため、過剰な電圧が生じ、食塩電解プロセスの省エネルギー化を大きく妨げてしまう。0.30より大きい場合、マンガン酸化物の触媒効果が十分に得られない。
【0012】
前記マンガン酸化物の比キャパシタンスは電位掃引速度2mV/sにおいて200F/g以上であることが好ましい。マンガン酸化物のキャパシタンスはMnの3価/4価のレドックスに由来する成分(以下、「擬似キャパシタンス」ともいう。)とマンガン酸化物表面でのイオンの吸脱着に由来する成分(以下、「電気二重層キャパシタンス」ともいう。)から成り、双方ともマンガン酸化物の電気化学的有効表面積の大きさに比例して増加する。すなわち、比キャパシタンスが200F/g以上のマンガン酸化物は、触媒表面上に三相界面が形成される機会が増え、過電圧が減少しやすくなる。該比キャパシタンスの下限値としては、250F/g以上がより好ましく、300F/g以上が更に好ましい。また、該比キャパシタンスの上限値としては、1000F/g以下が好ましく、800F/g以下がより好ましく、500F/g以下が更に好ましい。
【0013】
前記マンガン酸化物のMn平均価数は、3.5以上4.0以下であることが好ましく、3.7以上4.0以下であることがより好ましい。なお、マンガン酸化物のMn平均価数は、X線光電子分光法による表面分析によって、75eVから95eVの範囲に得られるMn3sに由来するピークの分裂幅から算出することができる。
【0014】
本発明の酸素還元用電極は、カーボン上での2電子還元をより抑制でき、過電圧の上昇をより抑制できるため、マンガン酸化物の担持量が、電極の幾何面積当たり0.1mg/cm以上10mg/cm以下であることが好ましく、0.1mg/cm以上5mg/cm以下であることがより好ましい。なお、マンガン酸化物の担持量は、酸素還元用電極を酸溶解した後、誘導結合プラズマ発光分析(以下「ICP」ともいう。)法により定量することで算出することができる。
【0015】
次に、本発明の酸素還元用電極の製造方法について説明する。
本発明の酸素還元用電極の製造方法は、マンガン酸化物の担持量のコントロールが容易であり、形成するマンガン酸化物に酸素欠陥が導入されやすいという点で、多孔性導電性基材を、マンガン濃度が10mmol/L以上のマンガン塩水溶液を含む電解液中に浸漬し、銀塩化銀電極を参照極とする値で-0.1以上0.1V以下の電位で該多孔性導電性基材上にマンガン酸化物を電析する電析処理工程を含むものである。
【0016】
前記マンガン塩化合物としては、例えば、過マンガン酸塩、硫酸マンガン塩、硝酸マンガン塩等を挙げることができ、当該過マンガン酸塩としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等を挙げることができるが、過マンガン酸カリウムが好ましい。
【0017】
前記マンガン塩化合物を含む電解液中のマンガン濃度については10mmol/L以上である。マンガン濃度が10mmol/Lより小さい場合、マンガン酸化物表面に十分な酸素欠陥が導入されず、本発明の効果が得られない。当該マンガン濃度として、20mmol/L以上400mmol/L以下が好ましい。
【0018】
溶媒としては、例えば、純水、水道水及び河川水等の水が挙げられる。
前記多孔性導電性基材上にマンガン酸化物を電析させる電位は、銀塩化銀電極を参照極とする値で-0.1V以上0.1V以下である。電析させる電位が当該範囲外の場合、マンガン酸化物表面に十分な酸素欠陥が導入されず、本発明の効果が得られない。マンガン酸化物の形成が進行しやすく、さらに水素発生等の副反応が生じる可能性が低いという点から、前記多孔性導電性基材上にマンガン酸化物を電析させる電位は、銀塩化銀電極を参照極とする値で-0.05V以上0.05V以下が好ましく、-0.01V以上0.01V以下がより好ましい。電析手法としては、特に限定するものではなく、例えば、定電流電析、定電位電析、サイクリックボルタンメトリー(以下、「CV」ともいう。)電析及びパルス電析等を挙げることができる。中でも、マンガン酸化物粒子の形成電位を一定に保つことで副反応の発生を抑制しやすいという点で、定電位電析が好ましい。前記電析処理工程の前には、多孔性導電性基材に親水化処理を施す工程を含むことが好ましい。前記多孔性導電性基材の中でも、特にカーボン材料の表面は一般的に疎水性であるため、電析処理工程前に親水化処理を施すことで表面に濡れ性と電気化学的活性が付与され、マンガン酸化物の均一な担持を促すことができる。親水化処理としては特に限定するものではなく、例えば、濃硫酸及び過マンガン酸の混合物と多孔性導電性基材表面とを接触させる方法等を挙げることができる。
【0019】
本発明の酸素還元用電極の製造方法は、電析処理工程の後に、洗浄工程や乾燥工程を有していても良い。洗浄方法としては、特に限定するものではなく、例えば、純水、水道水及び河川水等の水で酸素還元用電極の表面を洗い流す方法等が挙げられる。乾燥方法としては、特に限定するものではなく、例えば、酸素還元用電極をデシケーター内、真空下において1時間以上3時間以下常温乾燥する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の酸素還元用電極は、例えば、食塩電解用陰極等として用いることができる。
【実施例0021】
以下に、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されて解釈されるものではない。
<マンガン酸化物の担持量測定>
酸素還元用電極に含まれるマンガン酸化物の担持量測定はICP法により行った。すなわち、酸素還元用電極を過酸化水素水と塩酸水溶液とで加熱酸溶解することで、測定溶液を調製した。誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:SPS3500、Seiko Instruments Inc.製)を用い、得られた測定溶液中の化学組成を分析することで、マンガン酸化物の担持量を算出した。
【0022】
<薄膜X線回折の測定>
X線回折装置(商品名:Ultima4、リガク製)を使用し、酸素還元用電極の薄膜X線回折の測定を行った。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン速度は2θとして1°/min、測定範囲は2θとして1°から50°の範囲で測定した。なお本発明の酸素還元用電極は多孔性導電性基材も含有しており、多孔性導電性基材のX線回折ピークも同時に観測されるため、参照系として多孔性導電性基材のみのX線回折パターンを測定し、比較を行うことで、触媒成分の主要な結晶相を決定した。
【0023】
<X線光電子分光の測定>
X線光電子分光装置(商品名:Al Kα、Thermo Scientific製)を用いて、酸素還元電極に含まれるマンガン酸化物のX線光電子分光スペクトルを測定した。スペクトルの取得は電圧1805V、電流3mAの条件で放射されるAlKα(単色)を励起X線として照射することで行った。結合エネルギースケールはC1s(284.8eV)シグナルにより補正した。該スペクトルから527eVから534eVの範囲にMn-O結合のO1sに由来するピークPと、529eVから535eVの範囲にMn-OH結合のO1sに由来するピークPOHを検出した。該ピークPOHの面積を該ピークPの面積で除して得られる値をピーク面積比POH/Oとした。ピーク分離およびピーク面積は、X線光電子分光装置に付属の解析ソフトウェアAvantageを用いてピークフィッティングすることにより求めた。
【0024】
<比キャパシタンスの測定>
得られた酸素還元用電極を作用極とし、対極にPtメッシュ、参照電極に酸化水銀電極を用いて、液温25℃の1mol/L水酸化ナトリウム中、0~+1.0Vの電位範囲で、2mV/sの掃引速度でCVを行った。測定にはポテンショスタット/ガルバノスタット(商品名:SP-150、Bio Logic Science Instruments製)を用い、得られたデータから比キャパシタンス(F/g)を算出した。比キャパシタンス(Csp)は下式より算出した。
sp=Q/(ΔE×m)
ここでQはCV波形より見積もったアノード掃引時の通過電気量(C)であり、BioLogic社のEC-Labソフトを用いて算出した。ΔEは電位掃引幅(V)、mはマンガン酸化物の担持量(g)である。
【0025】
<過電圧の測定方法>
得られた酸素還元用電極を作用極とし、対極にPtメッシュ、参照電極に酸化水銀電極を用いて、液温60℃、pH=14の1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中、作用極の背面から40mL/分の速度で純酸素ガスを供給しながら、0.251Vから-0.899Vまで、5mV/sの掃引速度でリニアスイープボルタンメトリーを行った。測定にはポテンショスタット/ガルバノスタット(商品名:SP-150、Bio Logic Science Instruments製)を用いた。リニアスイープボルタンメトリーの直前には、インピーダンス測定(100mHz~10kHz、振幅幅5mV)により溶液抵抗が測定し、ポテンショスタットの機能により電位を自動補正した。得られた測定電位(E酸化水銀電極)から、下式を用いて可逆水素電極電位(ERHE)を求めた。
RHE=0.059×pH+0.123+E酸化水銀電極
過電圧は、酸素還元反応の平衡電位1.23Vから、電流が8kA/mに到達した際の可逆水素電極電位を差し引くことによって求めた。
【0026】
実施例1
最初に多孔性導電性基材の親水化処理工程を行った。まず、95質量%の濃硫酸20mLに2gの過マンガン酸カリウムを加え、室温で2時間の撹拌を行った。この溶液に直径19mmのカーボンペーパー(商品名:39BB、Sigracet社製)の片面を2分間接触させた後、蒸留水で洗浄を行った。該カーボンペーパーを、電気炉を用いて大気雰囲気で150℃2時間焼成し、電析処理工程に用いる基材(以下、「電析用基材」ともいう。)を得た。
得られた電析用基材を作用極(反応面積:0.0707cm)とし、対極にPtメッシュ、参照電極に銀塩化銀電極を用いて、電解セル中に配置した。電解セルをマンガン濃度が50mmol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液10mLで満たし、液温を25℃に保ちながら、参照極に対して0Vの電位で通過電気量が4C/cmに達するまで電析を行った。その後、電極表面を水洗し、真空下25℃で1時間乾燥することで酸素還元用電極を得た。
得られた酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルを図1に示す。X線光電子分光法による表面分析によって、酸素還元用電極に含まれるマンガン酸化物のPOH/Oは0.21であった。得られた酸素還元用電極の薄膜X線回折測定結果から、X線回折パターンはカーボンペーパーに由来するもの以外にピークを示さず、堆積しているマンガン酸化物はアモルファスであると推定された。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の比キャパシタンスは327F/gであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の電極の幾何面積当たりの担持量は0.85mg/cmであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物のMn平均価数は3.97であった。
得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、8kA/mにおいて平衡電位に対して0.57Vの過電圧が観測された。過電圧測定結果を図5および図6に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例2
電析用基材を得た後、電解セルをマンガン濃度が100mmol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液10mLで満たしたこと以外は、実施例1と同様に行い、酸素還元用電極を作製した。
得られた酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルを図2に示す。酸素還元用電極に含まれるマンガン酸化物のPOH/Oは0.24であった。得られた酸素還元用電極の薄膜X線回折測定結果から、X線回折パターンはカーボンペーパーに由来するもの以外にピークを示さず、堆積しているマンガン酸化物はアモルファスであると推定された。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の比キャパシタンスは285F/gであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の電極の幾何面積当たりの担持量は1.53mg/cmであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物のMn平均価数は3.89であった。
得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、8kA/mにおいて平衡電位に対して0.51Vの過電圧が観測された。過電圧測定結果を図5および図6に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を上記表1に示す。
【0029】
比較例1
電析用基材を得た後、電解セルをマンガン濃度が2mmol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液10mLで満たしたこと以外は、実施例1と同様に行い、酸素還元用電極を作製した。
得られた酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルを図3に示す。酸素還元用電極に含まれるマンガン酸化物のPOH/Oは0.06であった。得られた酸素還元用電極の薄膜X線回折測定結果から、堆積しているマンガン酸化物はδ―MnOの結晶構造を有していた。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の比キャパシタンスは113F/gであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の電極の幾何面積当たりの担持量は1.77mg/cmであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物のMn平均価数は3.78であった。
得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、測定電位範囲で8kA/mに到達することが出来なかった。過電圧測定結果を図5に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を上記表1に示す。
【0030】
比較例2
電析用基材を得た後、電解セルをマンガン濃度が50mmol/Lの硫酸マンガン水溶液10mLで満たしたことと、参照極に対して1Vの電位で電析を行ったこと以外は、実施例1と同様に行い、酸素還元用電極を作製した。
得られた酸素還元用電極のX線光電子分光スペクトルを図4に示す。酸素還元用電極に含まれるマンガン酸化物のPOH/Oは0.10であった。得られた酸素還元用電極の薄膜X線回折測定結果から、X線回折パターンはカーボンペーパーに由来するもの以外にピークを示さず、堆積しているマンガン酸化物はアモルファスであると推定された。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の比キャパシタンスは187F/gであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物の電極の幾何面積当たりの担持量は2.45mg/cmであった。得られた酸素還元用電極中のマンガン酸化物のMn平均価数は3.64であった。
得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、8kA/mにおいて平衡電位に対して0.65Vの過電圧が観測された。過電圧測定結果を図5に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を上記表1に示す。
【0031】
比較例3
電析用基材を得た後、電解セルを100mmol/Lの硝酸銀と500mmol/Lの水酸化アンモニウムと100mmol/Lの硝酸アンモニウムを含む水溶液10mLで満たしたことと、参照極に対して-0.082Vの電位で電析を行ったこと以外は、実施例1と同様に行い、酸素還元用電極を作製した。
得られた酸素還元用電極の薄膜X線回折測定結果から、電極は金属銀を有していた。得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、8kA/mにおいて平衡電位に対して0.63Vの過電圧が観測された。過電圧測定結果を図6に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を上記表1に示す。
【0032】
比較例4
電析用基材を作用極とし、対極にPtメッシュを用いて、電解セル中に配置した。電解セルを20mmol/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸と500mmol/Lの硫酸を含む水溶液10mLで満たし、液温を25℃に保ちながら、-10mA/cmの電析電流密度で400秒間電析を行った。その後、電極表面を水洗し、真空下25℃で1時間乾燥することで酸素還元用電極を得た。
得られた酸素還元用電極の粉末X線回折測定結果から、電極は金属白金を有していた。得られた酸素還元用電極を用いて過電圧を測定したところ、8kA/mにおいて平衡電位に対して0.64Vの過電圧が観測された。過電圧測定結果を図6に示す。
電極の作製方法、電極の物性、電極性能を上記表1に示す。
【0033】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の酸素還元用電極の過電圧測定結果を図5に示し、実施例1、実施例2、比較例3、比較例4の酸素還元用電極の過電圧測定結果を図6に示す。
実施例、比較例の結果から、本発明の実施例は比較例より低い酸素還元電圧を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の酸素還元用電極は、例えば、食塩電解用陰極として用いることができ、本発明の酸素還元用電極を用いることによって、省電力、かつ低コストで、工業的に優れた食塩電解プロセスを提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6