(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107600
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】軽量な電界シールド成形品
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230727BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20230727BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230727BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230727BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C08L71/10
C08K7/06
C08L63/00 Z
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008872
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】宮永 俊明
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
5E321
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD42
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH43
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL11
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD031
4J002CD051
4J002CD071
4J002CD111
4J002CH081
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GR01
5E321AA23
5E321BB34
5E321BB57
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】モバイル機器や電気自動車の電池ボックスなど、近年新規に求められつつある電界シールド用部品(部材)に供することができて、軽量且つ高強度で高い電界シールド性を有する成形品を提供する。
【解決手段】フェノキシ樹脂と炭素繊維とを含んだ炭素繊維強化複合材料からなる成形品であって、前記フェノキシ樹脂と前記炭素繊維の割合は、フェノキシ樹脂20~45重量部と炭素繊維60~80重量部であり、且つ、成形品の単位面積あたりの重量が0.2g/cm2以下であり、周波数1GHzの電波に対して58dB以上の電界シールド性を有することを特徴とする、炭素繊維強化複合材料からなる成形品である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ樹脂と炭素繊維とを含んだ炭素繊維強化複合材料からなる成形品であって、
前記フェノキシ樹脂と前記炭素繊維の割合は、フェノキシ樹脂20~45重量部と炭素繊維60~80重量部であり、
且つ、成形品の単位面積あたりの重量が0.2g/cm2以下であり、周波数1GHzの電波に対して58dB以上の電界シールド性を有することを特徴とする、炭素繊維強化複合材料からなる成形品。
【請求項2】
前記炭素繊維が一方向材で構成され、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に引っ張る荷重変形に対して40MPa以上の引張強度を有し、又は、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に曲げる荷重変形に対して90MPa以上の曲げ強度を有する請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記フェノキシ樹脂が現場重合型熱可塑製樹脂である請求項1又は2に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界シールド性が求められる容器や蓋、ボード類、壁材等の部材に適した成形品であって、炭素繊維強化複合材料からなる軽量且つ高強度で高い電界シールド性を有する成形品に関する。
【0002】
近年、通信インフラの整備に伴う各種電磁波発生の増加のみならず、モバイル機器等の急速な普及によって、微小領域でのモバイル機器自体に設置されている電池からの電磁波の発生等が問題になりつつある。
【0003】
さらには、この数年で急速に開発と普及が進みつつある電気自動車においては、モバイル機器以上の電池を搭載するため、これらの大型電池から発生する電磁波が車の室内環境に多大な影響を与えることが問題視されている。
【0004】
このような電磁波による影響を回避するため、従来、電磁波シールド性を有する材料を用いて、電磁波シールドが必要な機器等の筐体を作製したり、或いは電磁波を発生する箇所自体を、電磁波シールド性を有する材料、例えば、壁やドア等で囲う工夫を施してきた。
【0005】
これらの多くは、鋼製の壁や板、或いは導電性のフィラーを混合したコンクリートなどを用いて作製されており、建物や産業機器、或いは医療等の病室や医療機器等に用いられてきた。
【0006】
しかしながら、近年の電磁波シールドが求められるのは、急速な通信環境等の普及によって増大したモバイル機器や、炭酸ガス排出削減のための環境対策上の電気自動車に由来する装置や機器であり、これまで対策されてきた不動産や設置された電気機器とは異なることから、新たな電磁波シールド技術が求められていた。
【0007】
すなわち、モバイル機器や電気自動車は、人が持ち歩く、或いは移動におけるエネルギーを省力化する必要があるため、従来の鋼製材料やコンクリート材料が高重量となってこれらの新規装置には必ずしも好ましい素材ではなく、軽量且つ高強度、さらにはそれらの基礎物性を有した上での高い電界シールド性が求められている。
【0008】
このような素材への要求に対して、特許文献1では、ポリオレフィンやポリアミド等の熱可塑性樹脂と炭素繊維を用いた繊維強化複合材料を提案しており、例えばパソコンの筐体などの電気・電子機器用途用などへの提供を提案している。
【0009】
また、特許文献2では、シクロオレフィンモノマーを重合触媒、不連続炭素繊維等を混合した重合性組成物を連続炭素繊維に含侵させて高い電界シールド性を有する成形部材の製造方法を提案している。
【0010】
さらには、特許文献3では、成形易さによる部品の設計自由度を高めるために、3mm長さ未満の炭素繊維とポリプロピレン樹脂を組み合わせた射出成形又は圧縮成形を可能とする樹脂組成物による車載用バッテリィーケースを提案している。
【0011】
【特許文献1】特開2005-239939号公報
【特許文献2】特開2011-66170号公報
【特許文献3】特開2014-62189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来、鋼製材料や導電性フィラー配合コンクリート材料で実現してきた電界シールド材料製部材に対して、近年、熱可塑性樹脂と炭素繊維からなる炭素繊維強化複合材料を用いた電界シールド性材料が提案され、電気・電子機器或いは車両等の新たなニーズを求める機器や装置への提案がなされてきている。
【0013】
しかしながら、昨今求められる電界シールド性部材は、モバイルや電気自動車等の新規産業機器であって、人が持ち運ぶことを前提とするモバイルのような小型機器向けであったり、或いは電気自動車という従来の内燃機関ベースの自動車に搭載される電池とは規模が異なる大型電池を搭載した車両等での適用が想定されることから、従来提案されてきた素材で構成される部材での対応が難しい。そのため、軽量性であり、且つその上での高い電界シールド性が求められることから、従来材料では必ずしも好ましい方式とは言えない。
【0014】
つまり、新たに求められているのは、より軽量性であり、且つ軽量化を実現した上で高い強度を有する部材であり、そのような基礎的物性を満足した上での高い電界シールド性の発現である。すなわち、実際の部品に設計された場合には、軽量性を得るために、薄い厚みで構成し、しかしながらその薄さの上での高い強度を維持して、且つ高い電界シールド性を有する部品を、求められる商品の複雑な形状デザインに自由に対応できる成形品によって提供された部品が求められている。
【0015】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、モバイル機器や電気自動車の電池ボックスなど、近年新規に求められつつある電界シールド用部品(部材)に供することができて、軽量且つ高強度で高い電界シールド性を有する成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維との高い密着性を有し、且つ熱可塑性によって自由な成形を可能とし、且つ他の熱可塑性樹脂に比較して低温での成形性を可能とするフェノキシ樹脂に着目し、これらを必要な配合組成で組み合わせることによって、軽量且つ高強度で高い電界シールド性を有する成形品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)フェノキシ樹脂と炭素繊維とを含んだ炭素繊維強化複合材料からなる成形品であって、前記フェノキシ樹脂と前記炭素繊維の割合は、フェノキシ樹脂20~45重量部と炭素繊維60~80重量部であり、且つ、成形品の単位面積あたりの重量が0.2g/cm2以下であり、周波数1GHzの電波に対して58dB以上の電界シールド性を有することを特徴とする、炭素繊維強化複合材料からなる成形品。
(2)前記炭素繊維が一方向材で構成され、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に引っ張る荷重変形に対して40MPa以上の引張強度を有し、又は、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に曲げる荷重変形に対して90MPa以上の曲げ強度を有する(1)に記載の成形品。
(3)前記フェノキシ樹脂が現場重合型熱可塑製樹脂である(1)または(2)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フェノキシ樹脂と炭素繊維を適切な配合組成で組み合わせることによって、軽量且つ高強度で高い電界シールド性を発現する成形品を実現できる。特に、フェノキシ樹脂を用いることによって260℃以下の温度での成形が可能となるほか、高い設計自由度に基づく形状デザインを有する部材を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例、比較例で得られた成形板について、試験片としての(a)引張試験及び(b)曲げ試験の様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、フェノキシ樹脂25~45重量部と炭素繊維60~80重量部を有した炭素繊維強化複合材料からなる成形品であって、軽量且つ高強度で高い電界シールド性を有する。望ましくは、フェノキシ樹脂30~40重量部と炭素繊維70~75重量部を有した炭素繊維強化複合材料からなる成形品であることが好ましい。
【0021】
本発明の成形品は、単位面積あたりの重量が0.2g/cm2以下であり、また、周波数1GHzの電波に対して58dB以上の高い電界シールド性を有している。望ましくは、単位面積あたりの重量0.18g/cm2以下であり、周波数1GHzの電波に対して60dB以上の高い電界シールド性を有していることが好ましい。電界シールド性が58dBよりも低くなると、他の電波による通信障害やラジオ等への雑音等への影響が発生する恐れが生ずるために好ましくはない。また、電界シールド性が58dB以上を有するには、その時の成形品の厚みを厚くすることで達成することが可能となるが、厚みを厚くすると成形品の重量が増加するために、モバイル機器や移動体用の成形品としては必ずしも好ましいとは言えなくなる。その点で本成形品の単位面積あたりの重量は0.2g/cm2以下である。
【0022】
本発明の成形品の構造はシート状基材(プリプレグ)の積層構造であることが好ましい。なお、シート状基材の積層構造とは、一方向材や綾織りや平織りなどのクロス材のプリプレグが厚み方向に積み重ねられた状態、すなわち、それぞれのシート状基材における炭素繊維が厚み方向で交互に重なった状態であれば良く、たとえば、一方向材を、全て同じ繊維方向で重ねた状態や、0度方向と90度方向に互いに重ねた状態や、-45度と45度を重ねたものや、-45度、0度、90度、45度のような疑似等方的に重ねた層構造であっても構わない。
【0023】
特に、シート状基材が一方向材のみで構成される場合、前記一方向材のプリプレグを同じ繊維方向で厚み方向に積み重ねられた積層構造を有する成形品は、その炭素繊維の長さ方向に対して垂直に引っ張る荷重変形に対する引張強度(90度引張強度)が40MPa以上、かつ、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に曲げる荷重変形に対する曲げ強度(90度曲げ強度)が90MPa以上であることが望ましく、90度引張強度は50MPa以上、90度曲げ強度は100MPa以上であることがより望ましい。このような積層構造を有する成形品は繊維方向に対して垂直な方向への引張や曲げ荷重がクロス材等に比べると低下するが、前述した90度引張強度および90度曲げ強度を満たしていれば例えば車載用途などにも適用できる十分な強度を有しているのでこれらの用途に対しても好適に使用することができる。なお、成形品の構成がその他の場合であっても、40MPa以上の引張強度、かつ、90MPa以上の曲げ強度を有している必要があるのは言うまでもない。
【0024】
さらに、シート状基材は必ずしも連続繊維で形成される必要は無く、一方向材やクロス材のプリプレグのチョップドシートを敷き詰めた層構成も適用できる。
【0025】
このチョップドシートについては、特に限定するものではないが、長さ50mm以下の炭素繊維で構成されたシートを使用すると、プレス成形時に好ましいハンドリング性が得られ、自由な成形品形状を得られやすい。しかしながら、長さ5mm未満の炭素繊維になると、繊維が短くなるがゆえに、充分な強度や弾性率が得られないばかりではなく、繊維通しが重なって得られる導通性が得られにくくなり、高い電界シールド性が得られなくなるため、好ましくなくなる。なお、この炭素繊維長さは、望ましくは10mm以上40mm以下であることが好ましい。
【0026】
チョップドシートは、新規の炭素繊維とフェノキシ樹脂から作製してもよいが、一度作製されて成形された成形品類を破砕処理して得られたリサイクル品を使用することも可能である。
【0027】
炭素繊維の種類については、特に限定するものではなく、ピッチ系炭素繊維及びPAN系炭素繊維のいずれの使用も可能である。また、弾性率や強度等の各種種類の炭素繊維を、目的に応じて自由に選定して使用することが可能である。さらに、炭素繊維の表面の少なくとも一部に金属メッキを施してもよい。
【0028】
本発明の成形品のマトリックス樹脂であるフェノキシ樹脂は、溶液中あるいは無溶媒下にて原料化合物から公知の方法で製造されるが、無溶媒下で製造されるフェノキシ樹脂のうち、原料化合物をin situで重合させて得られるフェノキシ樹脂については、現場重合型フェノキシ樹脂もしくは熱可塑性エポキシ樹脂とも呼称される。
【0029】
フェノキシ樹脂と現場重合型フェノキシ樹脂は、いずれも2官能フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂による直鎖状のポリマーであるということは同じであるが、フェノキシ樹脂は分子量及び分子量分布が一定範囲内に制御され、加熱してもそれ以上重合が進まないのに対して、現場重合型フェノキシ樹脂は、加熱により分子量の増加が確認されることが異なる。
本発明では、炭素繊維強化複合材料における繊維強化樹脂層の母材樹脂として、溶液中で製造したフェノキシ樹脂、ほぼ無溶媒下で製造されたフェノキシ樹脂、現場重合型フェノキシ樹脂のいずれであっても使用することができる。
【0030】
ここでいうフェノキシ樹脂は特にその分子構造を限定するものではないが、重量平均分子量が30,000以上、100,000未満のものが好ましい。重量平均分子量が100,000以上になると、溶融粘度の増加によって成形に必要な加熱温度が260℃を超えることとなることに加え、熱劣化による樹脂の脆化の恐れもあるほか、加熱冷却に時間がとられて成形サイクルタイムが長くなってしまう。また逆に重量平均分子量が30,000未満になると分子鎖が短くなることによって十分な強度や弾性率が得られなくなる。
なお、省エネルギー化の点で成形温度は低いほど好ましいが、成形温度が100℃以下になると、賦形性が低下するほか、成形時に十分に加熱ができなかった層内にクラックやボイドを発生させる可能性や層間接着性の低下が生ずるため、好ましくない。
【0031】
フェノキシ樹脂は、プラント等で重合されたペレットタイプの樹脂を、一度押出し成形やフィルム成形機にてフィルム化したものを、炭素繊維と一体化して炭素繊維強化複合材料を作製するのが一般的だが、流動床法や静電塗工法などの粉体塗工法を用いることともできる。しかし、炭素繊維の充填量の向上や、炭素繊維と樹脂の密着性をより強固にするために、現場重合型フェノキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0032】
現場重合型フェノキシ樹脂については、特に制限するものではないが、1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)と1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)とを、前記化合物(A)と前記化合物(B)との重合触媒(C)を使用して重付加反応により直鎖状に重合させることにより、前記化合物(A)と前記化合物(B)とが重合してなる熱可塑性樹脂を前記金型で成形することを特徴とするフェノキシ樹脂である。なお、上記の化合物(B)は、フェノール性水酸基のかわりに官能基としてカルボキシル基やアミノ基、イソシアネート基、イソシアネートエステル基、アセチル基を有するものであってもよい。
【0033】
1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、などのビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂及びこれらのメチル基による置換体を挙げることができ、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびビフェノール型エポキシ樹脂及びこれらのメチル基による置換体が好ましい。
なお、これら2官能エポキシ樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0034】
1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)としては、ビスフェノール化合物又はビフェニル化合物が好ましい。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールフルオレン、ビスフェノールS、ビスフェノールEやビスフェノールZ等の特殊ビスフェノールなどが挙げられる。ビフェノール化合物としては、例えば、ビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラメチルビフェノールなどが挙げられる。この他の2官能フェノール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、カテコール、メチルカテコールなどのベンゼンジオール類や、ナフタレンジオールなどのナフタレンジオール類などが挙げられる。また難燃性を付与する目的で、リン含有フェノール化合物を用いてもよい。
さらに、これら2官能フェノール化合物は単独でも、2種以上を組合わせて使用することもできるほか、粘度や溶解性、反応性、重合物の物性を調整する為に、2官能フェノール化合物の一部を同じ構造のアセチル化合物に置き換えてもよい。
【0035】
上記化合物(A)と上記化合物(B)との配合量は、化合物(A)1モルに対して化合物(B)0.9~1.1モルが好ましく、0.95~1.05モルがより好ましい。化合物(B)の割合が0.9モル未満の場合、過剰なエポキシ基が副反応をおこすことにより、重合物がゲル化し熱可塑性が損なわれる恐れがある。また、化合物(B)の割合が1.1モル超の場合はエポキシ基が過少となり、重合物の分子量が十分に向上しない。
【0036】
重合触媒(C)は、トリフェニルホスフィン、トリス(パラトルイル)ホスフィン、トリス(オルソトルイル)ホスフィン、トリス(パラメトキシフェニル)ホスフィンなどのリン系重合触媒、4-メチルイミダゾール、1B2MZ、1B2PZ、TBZ(四国化成工業株式会社製)などのイミダゾール化合物、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン系化合物、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩類、18-クラウンー6(18―C―6)/AcOK錯体、18―C―6/KF錯体などのクラウンエーテル錯体、金属塩化物などが挙げられる。
【0037】
重合触媒(C)の配合量は、エポキシ樹脂(A)と前記エポキシ基との反応性を有する官能基を1分子中2つ有する化合物(B)からなる熱可塑性樹脂組成物の総量〔(A)と(B)の合計〕に対して、0.01重量%以上5重量%以下であることが望ましい。0.01重量%未満である場合は、現場重合において時間がかかってしまうために生産性が低下する恐れがあるほか、目標の分子量に到達するまでに何らかの理由で失活する恐れがある。5重量%を超える場合は、重合反応が速やかに進行する一方で貯蔵安定性を損なってプロセス適合性に問題が発生する恐れがあり、反応に関与するが骨格には取り込まれない成分であるため、重合後の物性を損なう恐れがあるほか、単純に高価であるため、経済的にも不利益である。より好ましくは0.05~1.0重量%である。
【0038】
2官能エポキシ化合物(A)、2官能フェノール化合物(B)、重合触媒(C)に加えて反応遅延剤を用いることも好ましい。反応遅延剤は、トリ-n-ブチルボレート、トリ-n-オクチルボレート、トリ-n-ドデシルボレート等のトリアルキルボレート類、トリフェニルボレート等のトアリールボレート類が反応遅延剤として使用され、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
本発明の成形品は、電磁波シールド性能をさらに向上させるために、気相成長炭素繊維やCNTなどのナノカーボン材料のほか、カーボンブラックや金属粉などがフェノキシ樹脂に配合されていてもよく、金属箔を最外層もしくは内層に備えていてもよい。
また、電磁波シールド性や繊維強化複合材料として要求される機械物性を維持できる範囲内で、赤燐などの難燃剤を配合してもよいし、耐熱性や耐衝撃性の向上を目的にポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルテレフタレート樹脂などのフェノキシ樹脂以外の熱可塑性樹脂を配合してマトリックス樹脂をポリマーアロイとしてもよい。
【0040】
本発明の成形品の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
【0041】
まず初めに、マトリックス樹脂となるフェノキシ樹脂のフィルムを作製する。フィルムの作製方法については押出成形やインフレーション法、キャスト法など従来公知の方法を用いることができる。なお、キャスト法を用いる場合は、フィルムの残留溶剤量が1.5wt%以下となるようにすることが好ましい。また、現場重合型フェノキシ樹脂を用いる場合は、重合反応が過剰に進行する恐れがあるので反応遅延剤を使用してもよい。
次いで、炭素繊維を前記フィルムで挟み込み、プレスロールを通して加熱加圧含浸することによってプリプレグを作製する。
【0042】
作製したプリプレグは複数枚を積層したり、カッティングしてチョップドシートにして堆積させたのち、金型を用いて熱プレス機により加熱成形する。このとき、前述したように、フェノキシ樹脂の重量平均分子量が30,000~100,000以内であるために特に分子構造を問わず、成形温度260℃以下の比較的低温で成形が可能である。なお、このときマトリックス樹脂を現場重合型フェノキシ樹脂にすると、加熱成形と重合が同時進行するためにプリプレグの層間接着力が高められるので好ましい。また、この加熱成形の際に金属箔を最外層に配置したり、内層にインサートしておいてもよい。さらに、積層したプリプレグを一旦平板状に成型したのちに金型を用いて熱プレス機で2次的な賦形加工を行うこともできる。
【0043】
得られた成形品は、必要に応じて穴あけや塗装、部品の取り付けなどの後加工が行われた後、自動車やその他車輌、航空機などの移動・運輸機器に搭載される装置類や、サーバーやノート型パソコンなどの電気・電子機器、ロボットや検査機器などの産業機器、医療機器における電磁波遮蔽部材として好適に用いられる。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
〔引張試験〕
引張試験は、JIS-K-7165に準じて実施した。試験片は、巾40mm×長さ100mm×厚み1mmの大きさで、
図1に示したように、炭素繊維の長さ方向が試験片の短手方向と同一になるように作成し、炭素繊維の長さ方向に対して垂直に引っ張る荷重変形に対する引張強度を測定した。なお、本発明では、作製したプリプレグの1層厚みを0.2mmとなるように作製したため、厚み1mmの炭素繊維強化複合材料はプリプレグ5層、厚み2mmの炭素繊維強化複合材料はプリプレグ10層からなる。
【0045】
〔曲げ試験〕
曲げ試験は、JIS-K-7074に準じて実施した。試験片は、引張試験と同じものを使用し、炭素繊維の長さ方向に対して平行な方向に圧子に用いて曲げ荷重をかけたときの強度を測定した。なお、本発明では、作製したプリプレグの1層厚みを0.2mmとなるように作製したため、厚み1mmの炭素繊維強化複合材料はプリプレグ5層、厚み2mmの炭素繊維強化複合材料はプリプレグ10層からなる。
【0046】
〔電界シールド測定〕
電界シールド測定はKEC法により測定した。また、電界シールド性の評価は電波1GHzの時のシールド性の値より評価した。
【0047】
〔炭素繊維の重量分率wt%〕
炭素繊維の重量分率は、炭素繊維強化複合材料全体の重量に占める炭素繊維の重量分率で定義した。また、これに基づいて、炭素繊維強化複合材料における樹脂と炭素繊維との重量割合を示した(表1)。
【0048】
〔成形品の単位面積当たりの重量〕
成形品の単位面積当たりの重量については、下式により算出した。
なお、本発明においては電磁波シールド測定に用いた試験片について、電子天秤を使用して成形品の重量を測定し、鋼尺を用いて成形品の外形を測定することで成形品面積を算出している。
[成形品の単位面積あたりの重量(g/mm2)=[成形品重量(g)]/[成形品面積(mm2)]
【0049】
実施例1、比較例1~3
フェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル製 YP-50S)、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー製 プライムポリプロF704NP)、ポリアミド樹脂(ユニチカ製 A1030BRT)をフィルム成形機にて、厚み0.02~0.04mm厚みのフィルムを作製して、プリプレグ成形機にてフィルムスタッキング方式にて、樹脂フィルムとPAN系炭素繊維(東レ製、トレカ(登録商標)T700SC-12000)を一体化して、PAN系炭素繊維の重量比が48~67重量部となる連続一方向のプリプレグを作製した。次に、このプリプレグを指定大きさにカットして、繊維長さ方向にそろうように5層重ねて積層シートとし、一方向強化型の炭素繊維強化複合材料の成形板(成形品)を作製した。成形板の成形は汎用のプレス成形機を使用し、積層シートの上下を金属板で挟んで型締め圧0.5MPa、成形温度200℃で5分保持で成形し、その後プレス機より取り出して、室温にて10分放置後に金属板より取り出して評価を行った。なお、ポリフェニレンサルファイド樹脂については市販の0.05mm厚みのフィルム(東レ、トレリナ PPSフィルム)を使用した。
【0050】
90度方向の引張および曲げ試験の結果を表1に示す。これより、フェノキシ樹脂製の炭素繊維強化複合材料は、他の熱可塑性樹脂製炭素繊維強化複合材料に比べて、高い90度方向の引張および曲げ強度が得られることが確認された。繊維方向に対して90度方向に負荷を生じて引張る試験の場合、その強度は強化繊維とマトリックス樹脂の密着強度に依存することを考えれば、本発明によるフェノキシ樹脂は非常に好ましい強度物性を発現することが確認された。
【0051】
【0052】
実施例2~5
炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂をフェノキシ樹脂にして、その樹脂の製法を、現場重合型とフィルムスタック型(一般型)の2種類でプリプレグシートを作製して、PAN系炭素繊維の重量比が67重量部(フェノキシ樹脂は33重量部)となる連続一方向のプリプレグシートを作製し、次に、実施例1と同様に、このプリプレグシートを指定大きさにカットして、繊維長さ方向にそろうように5層重ねて積層シートとし、一方向強化型の炭素繊維強化複合材料の成形板(成形品)を作製した。なお、成形板の成形は汎用のプレス成形機を使用した。なお、フィルムスタック型により作製したプリプレグシートは実施例1と同じフェノキシ樹脂を使用し、そのプリプレグシートを用いた成形板のプレス成形では、積層シートの上下を金属板で挟んで型締め圧0.5MPaで、成形温度を200~300℃まで変化させた各種成形温度で5分保持で成形し、その後プレス機より取り出して、室温にて10分放置後に金属板より取り出して評価を行った。
【0053】
なお、現場重合型のフェノキシ樹脂は、ビスフェノールA(日鉄ケミカル&マテリアル製)118質量部とビスフェノールA型エポキシ樹脂YD-128(日鉄ケミカル&マテリアル製)112質量部、トリ-o-トリルホスフィン(北興化学工業(株)製:商品名:TOTP)3質量部をシクロヘキサノン3質量部に溶解した溶液をプラネタリ―ミキサーにて混合後、シリコーン離型剤を塗布した離型紙上にコーティング温度40℃で均一に塗工することでフィルムを作製し、一方向に引き揃えた炭素繊維とともにロールプレスすることによってプリプレグを得た。また、得られたプリプレグは積層し、加熱プレス機で160℃で40分間加圧することで成形板を作製した。
【0054】
90度方向の引張および曲げ試験の結果を表2に示す。これより、現場重合型で作製したフェノキシ樹脂製の炭素繊維強化複合材料は、一般型のフェノキシ樹脂で作製した炭素繊維強化複合材料に比べて、比較的低い成形温度でも高い90度方向の曲げ強度が得られることが確認された。なお、一般型のフェノキシ樹脂製の炭素繊維強化複合材料でも成形温度を最適化すれば好ましい90度の曲げ強度を得られることは確認された。本発明ではフェノキシ樹脂によって好ましい炭素繊維強化複合材料を得ることができるが、より好ましくは現場重合型フェノキシであることが好ましいことが確認された。
【0055】
【0056】
実施例6~8、比較例4
炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂をフェノキシ樹脂にして、各種仕様の炭素繊維構造を有する炭素繊維強化複合材料の成形板(成形品)を作製した。十字積層材と一方向材については、実施例2の作製法と同様に、現場重合型フェノキシ樹脂とPAN系炭素繊維で、PAN系炭素繊維の重量比が67重量部(フェノキシ樹脂は33重量部)となる連続一方向のプリプレグシートを作製し、次に、このプリプレグシートを指定大きさにカットして、十字積層材では、0度層と90度層を交互に10層重ねて炭素繊維強化複合材料の成形板を作製し、一方向材では0度層を5層重ねて炭素繊維強化複合材料の成形板を作製した。なお、比較例4のポリプロピレン樹脂については、ポリプロピレン樹脂の粘度が高いため、PAN系炭素繊維の重量比が43重量部(ポリプロピレン樹脂は57重量部)となる連続一方向のプリプレグシートをフィルムスタック法で作製し、次に、このプリプレグシートを指定大きさにカットして、十字積層材では、0度層と90度層を交互に10層重ねて炭素繊維強化複合材料の成形板を作製した。ランダム材は、現場重合型フェノキシ樹脂とPAN系炭素繊維で、PAN系炭素繊維の重量比が67重量部となる連続一方向のプリプレグシートを作製後、このプリプレグシートを炭素繊維長さ方向に40mm、巾20mmにカットしたチョップド型のプリプレグテープを切り出し、これをランダムな配向になるように敷き詰めた後、厚みが0.6mmになるようにスペーサーで厚みコントロールを行った上でプレス成形により炭素繊維強化複合材料の成形板を作製した。なお、成形板の成形は汎用のプレス成形機を使用し、成形温度200℃にて重合させて成形板を作製した。さらに、炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂をポリアミド樹脂にして、炭素繊維構造が十字積層仕様となる炭素繊維強化複合材料の成形板を作製した。十字積層材は、実施例1と同様に、PAN系炭素繊維の重量比が67重量部となる連続一方向のプリプレグシートを作製し、次に、このプリプレグシートを指定大きさにカットして、0度層と90度層を交互に10層重ねて炭素繊維強化複合材料の成形板を作製した。なお、成形板の成形は汎用のプレス成形機を使用し、積層シートの上下を金属板で挟んで型締め圧0.5MPa、成形温度250℃で5分保持で成形し、その後プレス機より取り出して、室温にて10分放置後に金属板より取り出して評価を行った。
【0057】
電界シールド測定試験は、180mm×180mmの正方形状に作製した成形板を用いて、KEC法にて実施した。
【0058】
結果を表3に示す。現場重合型で作製したフェノキシ樹脂製の炭素繊維強化複合材料は、炭素繊維基材の仕様にかかわらず、比較例4のポリプロピレン樹脂で作製した炭素繊維強化複合材料よりも高い電界シールド性が得られることを確認した。
【0059】
以上の発明によれば、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂とした炭素繊維強化複合材料によって、マトリックス樹脂と炭素繊維の高い界面強度を有した機械的物性を満足し、且つ高い電界シールド性を得られる成形品を得られることを確認した。この成形品は熱可塑性樹脂製炭素繊維強化複合材料ゆえに、加熱による二次加工性に優れており、複雑に設計された部品形状等へもフレキシブルに対応することが可能となる。すなわち、モバイル機器の筐体や電池のカバー、電気自動車や産業機器の大型電池ボックスの蓋やカバー、筐体等への応用が可能となる。