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特開2023-107827水産物由来遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107827
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】水産物由来遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20230727BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20230727BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20230727BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20230727BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C11B9/00 S
A23D9/013
A23L33/12
A61K31/201
A61K31/231
A61P3/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091348
(22)【出願日】2023-06-02
(62)【分割の表示】P 2021103241の分割
【原出願日】2015-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2014136436
(32)【優先日】2014-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠造
(72)【発明者】
【氏名】深江 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】大塚 尚美
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀明
(57)【要約】
【課題】炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法の提供。
【解決手段】水産物原料由来の油脂を加水分解又はアルコール分解して、遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルを得ること、前記遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルに対して蒸留を行い、当該遊離脂肪酸又は低級アルコールエステル中の炭素数18以下の脂肪酸の濃度を低減させること、逆相分配系のカラムクロマトグラフィーにより、炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルの画分を分取することを含む、炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、遊離ガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル又は遊離セトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステルを含み、
炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを全脂肪酸および全エステル中の90重量%以上含有し、
前記遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルが水産物原料由来である、組成物。
【請求項2】
炭素数20の遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、遊離ガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル、及び/又は、遊離ゴンドイン酸(n-9)若しくはその低級アルコールエステルを含み、炭素数22の遊離1価不飽和脂肪酸又
はその低級アルコールエステルが、遊離セトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル、及び/又は、遊離エルカ酸(n-9)若しくはその低級アルコールエステルを
含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
全脂肪酸中および全エステル中の遊離飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが10重量%以下であり、かつ
全脂肪酸中および全エステル中の遊離高度不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが5重量%以下である、
請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
全脂肪酸中および全エステル中の遊離高度不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが1重量%以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
遊離ガドレイン酸又はその低級アルコールエステルを少なくとも含み、遊離ガドレイン酸(n-11)又はその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中および全エステル中に70重量%以上含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
全脂肪酸中および全エステル中の炭素数18以下の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、1重量%以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物の、食品の製造における使用。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とするメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤。
【請求項9】
請求項8のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤と、添加成分と、を含むメタボリックシンドローム改善組成物又は生活習慣病予防用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産物由来の油脂から炭素数20以上の遊離1価不飽和脂肪酸(二重結合を1個もつ不飽和脂肪酸、以下、MUFAとも記す。)又はその低級アルコールエステルを製造する方法、遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステル、及びそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
魚油特有の脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(以下、EPA)、ドコサヘキサエン酸(
以下、DHA)などの多価不飽和脂肪酸(以下、PUFA)は、多くの生理活性を有することが
見出され、広く、サプリメント又は医薬品として利用されている。
植物油は広く食用に用いられており、飽和脂肪酸が血中のコレステロール値を高めるのに対し、植物油に多く含まれる炭素数18の不飽和脂肪酸である、オレイン酸(1価)、リノール酸(2価)、リノレン酸(3価)はコレステロール値を低下させるということから注目されている。特に、炭素数18のMUFAであるオレイン酸は善玉コレステロールに影響せず、悪玉コレステロールだけを低下させるため、健康に良いといわれている。植物油に含まれるMUFAには炭素数20、22のものもあり、これらは、菜種油、アラセイトウ油、辛子油、キリ油等に多く含まれる。主に炭素数20以上のMUFAは、LC-MUFAとも呼ばれ
ている。植物油由来のLC-MUFAの製造方法については、尿素付加、再結晶などの方法が報
告されている(例えば、WO89/08095及び特開平9-278706号)。
【0003】
また、魚油にも1価不飽和脂肪酸(以下、MUFA)、主に炭素数20又は22のMUFA(以下、炭素数20以上のMUFAをLC-MUFA)が含まれている。魚油由来のLC-MUFAにも、コレステロール低下作用などの生理活性があることが報告されている(例えば、WO2012/121080)。植物油由来のLC-MUFAはn-9が主であるのに対し、魚油由来のものはn-11が主であるという違いがある。n-9とは、脂肪酸のメチル末端から9番目の結合が二重結
合であることを示し、n-11とは、脂肪酸のメチル末端から11番目の結合が二重結合であることを示す。
【0004】
植物油と異なり、水産物由来の油脂中にはMUFA以外に炭素数12~24で二重結合0~6個をもつ多種類の脂肪酸が含まれている。水産物油脂からの精製例として、WO2012/121080には、サンマ油をエチルエステル化してODSカラムに付しMUFAを濃縮するラボスケールでの精製方法が記載されている。この方法で得られる水産物由来の炭素数20及び/又は22のMUFAの濃度は70%程度と示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水産物由来の油脂中に含まれるMUFA以外に炭素数12~24で二重結合0~6個をもつ多種類の脂肪酸の中には、精製処理においてMUFAと類似の挙動を示すものが存在するため、MUFAを高濃度に効率よく濃縮するのは容易ではなく、これまで産業利用可能な方法によって量産された例は認められない。
サンマ、タラ等の水産物油脂中に豊富に含まれるLC-MUFAは、メタボリックシンドロー
ムに対する改善効果を有することが報告されているが、水産物油脂中には炭素数20以上の高度不飽和脂肪酸(以下、LC-PUFAとも記す。)も含まれており、正確にLC-MUFA又はそのエステルの効果を検証する上において障害となっている。医薬品として有用なLC-MUFA
又はそのエステル等を臨床的に、あるいは更に広範囲な疾患領域へ適用するためには、LC-MUFAを高濃度に含むもの、又はLC-MUFA以外の成分がほとんど含まれない、例えばLC-MUF
A濃度(純度)が85重量%以上、更には90重量%以上のものを、大量に高効率で生産
することが求められている。
【0006】
特に、水産物油脂由来のLC-MUFAは、植物油由来の油脂に含まれるLC-MUFAと二重結合の位置が異なる異性体を主成分とする。そのような異性体を高濃度に含む水産物油脂由来のLC-MUFAについては、高濃度な水産物油脂由来のLC-MUFAが世に存在しないため、その供給手段が必要である。
本発明は、高濃度なLC-MUFAを効率よく得るための、又はLC-PUFA及び飽和脂肪酸含有量が低いLC-MUFAを効率よく得るための、工業的製造方法、及びそれによって得られた高純
度のLC-MUFAを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法、並びに炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルの各態様を含む。
[1] 以下を含む、炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法:水産物原料由来の油脂を加水分解又はアルコール分解して、遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルを得ること、前記遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルに対して蒸留を行い、当該遊離脂肪酸又は低級アルコールエステル中の炭素数18以下の脂肪酸の濃度を低減させること、逆相分配系のカラムクロマトグラフィーにより、炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルの画分を分取すること。
[2] 水産物原料由来の油脂が、水産物から得た粗油に対して脱ガム、脱酸、脱色及び脱臭からなる群より選択される少なくとも1つの精製処理により得られた精製油である、[1]の方法。
[3] 蒸留が、精留である[1]又は[2]の方法。
[4] 蒸留が、分子蒸留又は短行程蒸留である[1]又は[2]の方法。
[5] 蒸留が、規則充填物を用いた精留である[1]~[3]のいずれか1の方法。
[6] カラムクロマトグラフィーにより、全脂肪酸中の濃度が70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上である炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを得る[1]~[5]のいずれか1の方法。
[7] 蒸留実施後の炭素数18以下の遊離脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルの濃度が、全脂肪酸中の30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下である[1]~[6]のいずれか1の方法。
[8] 蒸留及びカラムクロマトグラフィーの実施後の遊離高度不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルの濃度が、全脂肪酸中の5重量%以下、又は1重量%以下である[1]~[7]のいずれか1の方法。
[9] [1]~[8]のいずれか1の方法により得られ得る炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステル。
[10] 少なくとも、遊離ガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル又は遊離セトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステルを含み、
炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを全脂肪酸の70重量%以上、80重量%以上、又は、90重量%以上含有する、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[11] 炭素数20の遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、遊離ガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル、及び/又は、遊離ゴンドイン酸(n-9)若しくはその低級アルコールエステルであり、炭素数22の遊離1価不飽
和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、遊離セトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル、及び/又は、遊離エルカ酸(n-9)若しくはその低級アルコール
エステルである、[10]の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[12] 全脂肪酸中の少なくとも70重量%が炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルであり、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離セトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の遊離飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが10重量%以下であり、かつ全脂肪酸中の遊離高度不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが5重量%以下である、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[13] 全脂肪酸中の少なくとも90重量%が炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルであり、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離セトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の遊離飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが5重量%以下であり、かつ全脂肪酸中の遊離高度不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが1重量%以下である、[12]の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[14] 遊離ガドレイン酸又はその低級アルコールエステルを少なくとも含み、遊離ガドレイン酸(n-11)又はその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中に30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、又は70重量%以上含有する、[9]~[13]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[15] 全脂肪酸中の炭素数18以下の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下である[9]~[14]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[16] 水産物の油脂から得られ得る[9]~[15]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル。
[17] [9]~[16]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルの、食品の製造における使用。
[18] [9]~[16]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルを有効成分とするメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤。
[19] [18]のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤と、添加成分と、を含むメタボリックシンドローム改善組成物又は生活習慣病予防用組成物。
[20] [9]~[16]のいずれか1の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルの、[18]に記載のメタボリックシンドローム改善組成物又は生活習慣病予防用組成物の製造における使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、高濃度のLC-MUFAを効率よく得ることができる。また、本発明
の一態様により、LC-PUFA及び飽和脂肪酸含有量が低く、高濃度かつ高収率に水産物油脂
由来のLC-MUFAを提供することができる。本発明の一態様により、LC-MUFAの組成物中の飽和脂肪酸ならびにLC-PUFAの含有量を低くすることが可能となる。LC-MUFAを機能性成分として利用する場合に、飽和脂肪酸及び/又はLC-PUFAの濃度が低いことが求められる用途
に用いるのに適している。脂肪酸は炭素数又は二重結合の数が異なるとその物性だけでなく、生理機能に大きな違いを生じる。従来分離するのが困難であった水産物油脂由来のLC-MUFAを炭素数別に分離できたことにより、個々の機能を明確にし、有効利用することが
できる。LC-MUFAを有効成分とする医薬品、サプリメントなどの用途に適する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「油」又は「油脂」とは、本明細書では、トリグリセリドのみのものだけでなく、トリグリセリドを主成分とし、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、コレステロール、遊離脂肪酸等の他の脂質が含まれている粗油も含む。「油」又は「油脂」は、これらの脂質を含む組成物を意味する。
【0010】
用語「脂肪酸」には、遊離の飽和若しくは不飽和脂肪酸それら自体だけでなく、遊離の
飽和若しくは不飽和脂肪酸、飽和若しくは不飽和脂肪酸アルコールエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、ステリルエステル等中に含まれる構成単位としての脂肪酸も含まれ、構成脂肪酸とも言い換えられ得る。本明細書において、特に断らない限り、脂肪酸を含む化合物の形態については省略する場合がある。脂肪酸を含む化合物の形態としては、遊離脂肪酸形態、脂肪酸アルコールエステル形態、グリセロールエステル形態、リン脂質の形態、ステリルエステル形態等を挙げることができる。同一の脂肪酸を含む化合物は、油中、単一の形態で含まれていてもよく、2つ以上の形態の混合物として含まれていてもよい。
脂肪酸の加水分解又はアルコール分解の反応効率は高いことが経験的に判明しており、加水分解又はアルコール分解後には、主として遊離脂肪酸形態又はそれらの低級アルコールエステル形態の脂肪酸を含む組成物が得られる。このため、加工工程後の脂肪酸については、特に断らない限り、組成物であること、及び、脂肪酸が遊離脂肪酸形態又は低級アルコールエステル形態の脂肪酸であることを省略して表記することがある。ただし、遊離脂肪酸形態又は低級アルコールエステル形態以外の形態の脂肪酸が含まれることを完全に排除するものではない。
【0011】
脂肪酸を表記する際に、炭素数、二重結合の数及び二重結合の場所を、それぞれ数字とアルファベットを用いて簡略的に表した数値表現を用いることがある。例えば、炭素数20の飽和脂肪酸は「C20:0」と表記され、炭素数18の一価不飽和脂肪酸は「C18:1」等と表記され、アラキドン酸は「C20:4,n-6」等と表記され得る。「n-」は、脂肪酸のメチル末端から数えた二重結合の位置を示し、例えば「n-6」であれば、二重結合の位置が脂肪酸のメチル末端から数えて6番目であることを示す。この方法は当業者には周知であり、この方法に従って表記された脂肪酸については、当業者であれば容易に特定することができる。
【0012】
本明細書において「粗油」とは、上述した脂質の混合物であって、生物から抽出された状態の油を意味する。本明細書において「精製油」とは、粗油に対して、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、及び脱臭工程からなる群より選択される少なくとも1つの油脂の精製工程を行い、リン脂質及びステロールなどの目的物以外の物質を除去する精製処理を行った油を意味する。
【0013】
本発明において、「水産物から得られる油脂」又は「水産物原料由来の油脂」とは、魚類、甲殻類、又は海産動物に含まれる油脂、リン脂質、ワックスエステルなどを含む脂質が例示される。LC-MUFAの含有量が多い魚種としては、サンマなどサンマ科に属する魚、
マダラ、スケトウダラ、タイセイヨウダラ、ギンダラ等のタラ科に属する魚、シロザケ、ギンザケ、ベニザケ、カラフトマス、タイヘイヨウサケ、ニジマス等のサケ科の魚、カラフトシシャモ、シシャモ等のキュウリウオ科の魚、ニシン等のニシン科の魚などが例示される。このほか、イカナゴ、マグロ、サバ、キンメダイ、ムツ、アコウダイ、アラスカめぬけ、オオサガなどの魚にも比較的多く含まれている。また、アブラツノザメ、ウバザメ、ギンザメなどのサメ類の肝油にも多く含まれる。アザラシ及びクジラなどの動物に由来する油脂も利用できる。LC-MUFAが多くない原料であっても、濃縮して用いることができ
る。
【0014】
五訂日本食品標準成分表には、サンマ(生)の脂肪酸中に含まれるドコセン酸(C22:1)は19.3重量%、イコセン酸(C20:1)は17.2重量%、モノ不飽和脂肪酸の総量は50.1重量%であると記載されている。サンマ油は魚油の中でもモノ不飽和脂肪酸の含有量が多いのが特徴である。脂肪酸中に、ドコセン酸及びイコセン酸をそれぞれ10重量%以上、好ましくは15重量%以上含有する魚油を選択することが好ましい。さんま、タラ類など漁獲量の多い魚種の魚油が原料として適している。
【0015】
本発明において、「1価不飽和脂肪酸」、又は「MUFA」とは、二重結合を1つ有する脂肪酸であり、「高度不飽和脂肪酸」、又は「PUFA」とは、二重結合を4つ以上有する脂肪酸である。MUFA又はPUFAであって、炭素数20以上の長鎖(Long Chain)の脂肪酸をLC-MUFA、又はLC-PUFAと記した。
LC-MUFAのうち、本発明では、炭素数20及び/又は22のMUFA、特に、n-11の異性体
を高濃度に得ることができる。
【0016】
炭素数20のMUFAはIUPAC名ではエイコセン酸(イコセン酸)と呼ばれ、二重結合の位
置によりcis-icos-9-enoic acid(n-11、慣用名ガドレイン酸)、cis-icos-11-enoic acid(n-9、慣用名ゴンドイン酸 (Gondoic acid))などと呼ばれる。炭素数22のMUFAはIUPAC名ではドコセン酸と呼ばれ、二重結合の位置によりcis-docos-11-enoic acid(n-11、
慣用名セトレイン酸)、 cis-docos-13-enoic acid(n-9、慣用名エルカ酸)などと呼ば
れる。水産物油脂には、n-11のガドレイン酸及び/又はセトレイン酸が多く含まれる。
【0017】
魚油等に含まれるMUFA以外の脂肪酸には、飽和脂肪酸(炭素数14、16、18、20等)、2価、3価の不飽和脂肪酸(炭素数18、20等)、及び4価以上の高度不飽和脂肪酸(PUFA、炭素数20、22等)が挙げられる。これらのうち、高度不飽和脂肪酸は、魚油等に特徴的な脂肪酸であり、例えば、炭素数20以上、二重結合数4以上の脂肪酸であり、具体的にはアラキドン酸(20:4,n-6)、エイコサペンタエン酸(20:5,n-3)、ドコサペンタエン酸(22:5,n-6)、ドコサヘキサエン酸(22:6,n-3)などが挙げられる。
本発明においてMUFAのエステルとはMUFAの炭素数1~3の低級アルコール、好ましくはMUFAのエタノールのエステルである。
【0018】
本発明の一態様に係る炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法は、水産物原料由来の油脂を加水分解又はアルコール分解して、遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルを得ること(以下、加工工程という場合がある)、前記遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルに対して蒸留を行い、当該遊離脂肪酸又は低級アルコールエステル中の炭素数18以下の脂肪酸の濃度を低減させること(以下、蒸留工程という場合がある)、及び、逆相分配系のカラムクロマトグラフィーにより、炭素数20及び/又は22の遊離1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルの画分を分取すること(以下、カラム工程という場合がある)、を含み、場合によって、他の工程を含むことができる。
【0019】
各水産物原料から粗油を得る方法はいかなる方法でも構わない。サンマ粗油を例にすると、通常、その他の魚油と同様に以下のような方法で採取される。サンマ全体又は水産加工から発生する魚の頭、皮、中骨、内臓等の加工残滓を粉砕して蒸煮した後、圧搾して煮汁(スティックウォーター)と圧搾ミールに分離する。煮汁とともに得られる油脂を煮汁から遠心分離により分離し、サンマ粗油とする。
一般に魚油の粗油は、原料に応じて、脱ガム工程、脱酸、活性白土又は活性炭を用いた脱色、水洗工程、水蒸気蒸留等による脱臭工程などの精製工程を経て精製魚油とされる。本発明の原料として、この精製魚油を用いることもできる。換言すれば、本発明の一態様の方法に用いられる水産物原料由来の油脂は、水産物から得た粗油に対して、このような一般的な精製工程を行って得られた精製油とすることができる。例えば、水産物から得た粗油に対して、脱ガム工程、脱酸工程、及び脱色工程の少なくとも1つの精製処理を行った精製油を水産物原料由来の油脂とすることができる。
【0020】
本発明の一態様の方法における加工工程は、水産物原料由来の油脂を、加水分解又はアルコール分解により、遊離の脂肪酸又は低級アルコールエステルに分解する工程である。加水分解は、油脂に水と酸などの触媒又は酵素とを加え反応させ、グリセリンに結合した
脂肪酸を遊離させることである。アルコール分解は、油脂に炭素数1~3の低級アルコール、好ましくはエタノール、と触媒又は酵素とを加え反応させ、グリセリンに結合した脂肪酸と低級アルコールとのエステルを生成させるものである。遊離の脂肪酸又は低級アルコールエステルをグリセリンから分離させることにより、所望の脂肪酸を濃縮することが可能になる。
【0021】
本発明の一態様における方法の蒸留工程は、蒸留により、加工工程で製造した遊離脂肪酸又は低級アルコールエステル中の炭素数18以下の脂肪酸の濃度を低減させる工程である。ここで炭素数18以下の脂肪酸を可能な限り除去することにより、続く、カラム工程がより有効に機能することができる。炭素数18以下の脂肪酸は、30面積%以下、20面積%以下、10面積%以下、5面積%以下、又は1面積%以下、換言すれば、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下に低減させるのが好ましい。実施例の表2及び表3の結果に示されるように、精留のような蒸留により炭素数18以下の脂肪酸の濃度をより低くしておくとカラム工程でC20:1画分にC20:1をより多く濃縮することができる。
蒸留方法はいずれの方法であってよく、なかでも炭素数18以下の脂肪酸をできるだけ除去できる方法が好ましい。このような蒸留方法としては、分子蒸留、短行程蒸留等の単蒸留;及び精留を挙げることができ、特に精留が好ましい。精留及び単蒸留はいずれも、薄膜式加熱蒸発器を含む薄膜蒸留であることが好ましい。
【0022】
LC-MUFAと炭素数18以下の脂肪酸を分離するには、精留は、短行程蒸留、分子蒸留等
の単蒸留に比べて分離が良く、このため、C18以下の脂肪酸を効率良く低減することができる。精留の条件は、原料とする低級アルコールエステルの脂肪酸組成により調整することができる。好ましい精留条件として塔底温度は220℃以下であり、好ましくは150~220℃、特に好ましくは150~200℃である。減圧条件は10mmHg以下、より好ましくは1mmHg以下、更に好ましくは0.1mmHg以下である。圧力の下限値については特に制限はなく、用い
られる装置により適宜設定される。分離の理論段数を高めるための内部構造には、充填式、棚段式等の各種様式を採用することができ、より好ましくは規則充填物を用いる充填式である。短行程蒸留、分子蒸留等の単蒸留は、精留に比べて、生産性に優れて大量処理に適している。単蒸留、特に短行程蒸留又は分子蒸留における好ましい蒸留条件としては、蒸発面温度が120℃以下、好ましくは50~120℃、さらに好ましくは50~80℃である。単蒸留、特に短行程蒸留又は分子蒸留における好ましい減圧条件は0.05mmHg以下、より好ましくは0.0013mmHg以下である。圧力の下限値については特に制限はなく、用いられる装置により適宜設定される。
【0023】
本発明の一態様の方法におけるカラム工程は、炭素数20及び/又は22のMUFAを、濃縮、あるいは、これらを他の不飽和脂肪酸と分離するための工程である。炭素数20及び/又は22のMUFAを他の不飽和脂肪酸と分離するには、逆相分配系のカラムクロマトグラフィーが適している。具体的にはODSカラムが好ましい。固定相として逆相分配系の吸着剤であれば特に指定なく用いることができ、好ましくはオクタデシルシリル(ODS)を用いたODSカラムである。吸着剤量は、好ましくは、カラムクロマトグラフィーに供する原料量の10倍重量以上、より好ましくは100倍重量以上である。吸着剤量の上限値については特に制限はなく、例えば1000倍量とすることができる。溶離液及び移動相については、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル等の各種極性溶媒、又はそれら極性溶媒に水を加えた含水溶媒を用いることができ、好ましくは、メタノールである。
【0024】
上述の加工工程からカラム工程を順に実施することにより、換言すれば、蒸留及びクロマトグラフィーを実施することにより、全脂肪酸中に占める炭素数20及び/又は22の遊離のMUFA又はそれらの低級アルコールエステルを高濃度に濃縮することができ、例えば
、これらを単独で、又は組み合わせた合計で、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は、95重量%以上に濃縮することができ、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下とすることができる。
蒸留及びクロマトグラフィーを実施することにより、全脂肪酸中に占める炭素数18以下の遊離の脂肪酸又はその低級アルコールエステルの濃度を低減することができ、例えば、これらを単独で又は組み合わせた合計で、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下に低減することができる。
【0025】
蒸留及びクロマトグラフィーを実施することにより、全脂肪酸中に占める遊離飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルを、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下に低下させることができる。
蒸留及びクロマトグラフィーを実施することにより、全脂肪酸中に占めるPUFAを5重量%以下、又は1重量%以下に低下させることができる。
【0026】
得られる遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、水産物の油脂から得られるため、高濃度に濃縮される炭素数20の遊離の1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、遊離のガドレイン酸(n-11)及び/又は遊離のゴンドイン酸(n-9)又はそれ
らの低級アルコールエステルであることができ、高濃度に濃縮される炭素数22の遊離の1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、遊離のセトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル及び/又は遊離のエルカ酸(n-9)若しくはその低級ア
ルコールエステルであることができる。得られる遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、少なくとも遊離のガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル、又は遊離のセトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステルを含むことができ、少なくとも遊離のガドレイン酸又はその低級アルコールエステルを含むことができる。
【0027】
なかでも、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、遊離のガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中に30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、又は70重量%以上含有することができ、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下で含有することができる。
遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中に30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、又は70重量%以上含有することができ、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下で含有することができる。
【0028】
遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、遊離のゴンドイン酸若しくはその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中に5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、又は20重量%以上含有することができ、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下含有することができる。
遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、遊離のエルカ酸若しくはその低級アルコールエステルを、全脂肪酸中に1重量%以上、2重量%以上、又は3重量%以上含有することができ、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下含有することができる。
【0029】
遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル中に遊離のガドレイン酸及び遊離のセトレイン酸若しくはそれの低級アルコールエステルが共に存在する場合、これらの合計の濃度は、全脂肪酸中99.99重量%以下、又は99.9999重量%以下とすることができる。
遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル中に遊離のガドレイン酸、遊離のセトレイン酸、遊離のゴンドイン酸及び遊離のエルカ酸、又はそれらの低級アルコールエステルが2つ以上、共に存在する場合、これらの合計の濃度は、全脂肪酸中99.99重量%以下
、又は99.9999重量%以下とすることができる。
このような遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、LC-MUFAを有効成分とする
医薬品又はサプリメントとして好ましい。
【0030】
本発明の一態様により製造することができる、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の少なくとも70重量%が炭素数20及び/又は22のMUFAである遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、LC-MUFAを有効成分とする医薬品又はサプ
リメントとして好ましく適用できる。
【0031】
なかでも、本発明の一態様による以下の、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の少なくとも70重量%が炭素数20及び/又は22のMUFAであり、かつ飽和脂肪酸が10重量%以下であり、PUFAが5重量%以下の遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステル;あるいは、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の少なくとも90重量%が炭素数20及び/又は22のMUFAであり、かつ飽和脂肪酸が5重量%以下であり、PUFAが1重量%以下である、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、LC-MUFAを有効成分とする医薬品又はサプリメントとしてより好ましい。
特に、医薬品用には、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の少なくとも90重量%が炭素数20及び/又は22のMUFAであり、飽和脂肪酸が1重量%以下であり、PUFAが1重量%以下である、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルが好ましい。
【0032】
これらの遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルでは、全脂肪酸中に占める炭素数18以下の遊離の脂肪酸又はその低級アルコールエステルが、例えば、これらを単独で又は組み合わせた合計で、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。
【0033】
ガドレイン酸(n-11)、セトレイン酸(n-11)のような水産物からしか得られない異性体の研究、開発、製品化に、本発明の一態様に係るこれらの高純度の組成物は欠かせないものである。
本発明の一形態に係る遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルは、少なくともガドレイン酸又はセトレイン酸を含み、炭素数20及び/又は22の遊離の1価不飽和脂肪酸を高濃度に含むので、ガドレイン酸又はセトレイン酸のような水産物由来の物質の研究、開発、製品化に好ましく適用される。本発明の一形態に係る遊離脂肪酸又は低級アルコールエステルは、上記に加えて、炭素数18以下の脂肪酸、飽和脂肪酸及び高度不飽和脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1つの脂肪酸の濃度が低い場合には、より好ましく適用される。
【0034】
本発明の一態様に係る遊離の脂肪酸は、それらの塩としてもよい。塩としては、カリウム塩及びナトリウム塩などが例示される。
【0035】
上述のように、本発明の一態様に係る組成物は、LC-MUFAを高濃度で含有し、場合によ
って、飽和脂肪酸、LC-PUFA等の含有量を極めて低くすることができる。このため、LC-MUFAを高い濃度で要求される用途への適用に極めて有用である。このような用途としては、例えば、食品用、サプリメント用、医薬品用等を挙げることができる。LC-MUFAの機能性
を目的とする用途、例えば、メタボリックシンドローム改善、生活習慣病予防等の用途に用いることが特に好ましい。
【0036】
本発明の他の態様では、本発明の一態様に係る組成物をメタボリックシンドローム改善剤として、メタボリックシンドローム改善が求められる対象に、メタボリックシンドローム改善に有効な量で、投与することを含むメタボリックシンドローム改善方法が提供される。
本発明の更に他の態様では、本発明の一態様に係る組成物を生活習慣予防剤、生活習慣病予防が求められる対象に、生活習慣予防に有効な量で、投与することを含む生活習慣病予防方法が含まれる。
投与対象としては、ヒト、動物等が挙げられる。
【0037】
例えば、以下の(a)~(c)の本発明の一態様に係る組成物は、これらの改善方法又は予防方法におけるメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤として用いられる:
(a) 少なくとも遊離ガドレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸(n-11)若しくはその低級アルコールエステルを含み、炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸又はそれらの低級アルコールエステルを全脂肪酸の70重量%以上、80重量%以上、又は、90重量%以上含有する、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルを含む組成物;
(b) 全脂肪酸中の少なくとも70重量%が炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸であり、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の飽和脂肪酸が10重量%以下であり、かつ全脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸が5重量%以下である、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルを含む組成物;及び、
(c) 全脂肪酸中の少なくとも90重量%が炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸であり、少なくとも遊離ガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、全脂肪酸中の飽和脂肪酸が5重量%以下であり、かつ全脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸が1重量%以下である、遊離脂肪酸又はその低級アルコールエステルを含む組成物。
【0038】
魚類由来の精製油には、炭素数20及び/又は22の1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルが30重量%程度含まれており、このような魚類由来の精製油には、メタボリックシンドローム改善効果がある(例えば、WO2012/121080;Lipids
(2011) Vol.46, pp.425-434;J. Agric. Food Chem., 2011, Vol.59, pp.7482-7489 ;Lipids in Health and Disease, 2011, vol.10, pp.189-199等、参照)。本発明の一態様
によるメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤は、少なくとも遊離のガドレイン酸若しくはその低級アルコールエステル又は遊離のセトレイン酸若しくはその低級アルコールエステルを含み、より高い濃度、例えば70重量%以上の炭素数20及び/又は22の遊離の1価不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルを含むものであるので、より高いメタボリックシンドローム改善効果又は生活習慣病予防効果が期待できる。
【0039】
本発明の他の態様によれば、上記(a)~(c)のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤と、添加成分とを含むメタボリックシンドローム改善用組成物又は生活習慣病予防用組成物が提供される。添加成分としては、例えば、医薬品として使用される場合、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤及び着色剤などを挙げることができる。本発明の他の態様によるメタボリックシンドローム改善用組成物又は生活習慣病予防用組成物は、好ましくは、ゼラチン等の軟カプセル、又は、粉末油脂に加工してから、錠剤又はカプセルなどとして提供することができる。メタボリックシンドローム改善用組成物又は生活習慣病予防用組成物は、上記(a)~(c)のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤と、添加成分とを所定の配合比で配合し、必要に応じて、所望の剤型に加工することなどの付加的工程を経ることにより、製造することがで
きる。メタボリックシンドローム改善用組成物又は生活習慣病予防用組成物におけるメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤の含有率は、効果が期待できる含有率であれば特に制限はなく、例えば、0.01重量%~100重量%、0.1重量%~100重量%、又は3重量%~100重量%とすることができる。
【0040】
上記(a)~(c)のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤は、それぞれ食品素材として食品に用いることができる。食品は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、消費者庁の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品又は栄養機能食品をも含む。例えば、メタボリックシンドローム改善作用を有する旨の表示又は生活習慣病予防作用を有する旨の表示を付した機能性食品とすることができる。上記(a)~(c)のメタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤を食品素材として用いる場合、これらを含有する食品は、必要に応じて他の食品素材と組み合わせること、更には任意の形状に成形することなどの付加的工程を経て製造できる。メタボリックシンドローム改善剤又は生活習慣病予防剤の食品における含有率については特に制限はなく、効果が期待される含有率とすることができる。食品素材として、食品の他に、動物用の餌料用の添加成分として用いてもよい。
【0041】
医薬品又は食品として投与対象に投与する場合、症状の程度、投与対象の年齢、体重及び健康状態などの条件に応じて、適宜設定される。例えば、成人であれば有効成分量として1mg~1g/kg/日、好ましくは5mg~300mg/kg/日の量で、本組成物を、経口又は非経口的
に、1日1回若しくは2~4回、又はそれ以上に分割して、適宜間隔をあけて投与することができる。
【0042】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り、0%又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。
【0043】
本明細書において、不定冠詞「a」又は「an」が付された要素は、文脈中で明確に示す又は結びつけることがない限り、1つ又は複数の要素が存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」又は「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
本明細書に記載の動詞「含む(comprising)」及びその活用は、非限定的な意味で使用
され、かつこの用語に続く事項が含まれ、特別に言及されない事項は除かれないことを意味する。
本明細書において、発明の各態様(aspect)に関する一実施形態(embodiment)中で説明された各発明特定事項(feature)は、任意に組み合わせて新たな実施形態としてもよ
く、このような新たな実施形態も、本発明の各態様に包含され得るものとして、理解されるべきである。
【0044】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお下記実施例において、特記しない場合、「%」は「重量%」を意味する。
【実施例0045】
脂肪酸組成は、常法にしたがって求めることができる。具体的には、測定対象となる油脂を、低級アルコールと触媒を用いてエステル化し、脂肪酸低級アルコールエステルを得
る。次いで、得られた脂肪酸低級アルコールエステルを、ガスクロマトグラフィーを用いて分析する。得られたガスクロマトグラフィーのチャートにおいて各脂肪酸に相当するピークを同定し、Agilent ChemStation積分アルゴリズム(リビジョンC.01.03[37]、Agilent Technologies)を用いて、各脂肪酸のピーク面積を求める。ピーク面積とは、各種脂肪酸を構成成分とする油脂をガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID)等を用いて分析したチャートのそれぞれの成分のピーク面積の全ピーク面積に対する割合(面積%)であり、そのピークの成分の含有比率を示すものである。上述の測定方法により得られた面積%による値は、試料中の各脂肪酸の重量%による値と同一として互換可能に使用できる。日本油化学会(JOCS)制定 基準油脂分析試験法 2013版 2.4.2.1-2013 脂肪酸組成(FID恒温ガスクロマトグラフ法)及び、同2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロ
マトグラフ法)を参照のこと。
脂肪酸組成については実施例に示す方法によるガスクロマトグラフィーにより、脂質組成については、TLC/FIDを用いた。詳細な条件は実施例に示した。
【0046】
実施例で使用されるアルキルエステル化方法のエチルエステル化率は、95%~100%であることが経験的に判明している。このため、本実施例の項において、得られる原料エチルエステルでは、含有する飽和又は不飽和脂肪酸のほとんどが脂肪酸エチルエステル形態であると推測された。このため、以下では、試料中に含まれる飽和又は不飽和脂肪酸はすべてエチルエステル形態の飽和又は不飽和脂肪酸として記載する。ただし、遊離脂肪酸形態又は低級アルコールエステル形態以外の形態の脂肪酸が含まれることを完全に排除するものではない。
【0047】
[実施例1]
新鮮なサンマより採取したサンマ粗油4,000kgについて脱ガム、脱酸及び脱色処理を行
い、サンマ精製油を3,520kg得た。得られたサンマ精製油2,000kgをナトリウムエチラートとエステル交換させてエチルエステル化を行い、抗酸化剤としてビタミンEを0.5%添加
し、サンマ油エチルエステル(試料A)を1,999kg得た。得られたサンマ油エチルエステ
ルの分析値を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[実施例2]
精留によるサンマ油エチルエステルの精製
サンマ油エチルエステル100.06gを500mL三口フラスコに入れラボラトリーパッキンEX(25mm×50mm、スルザーケムテック)を5つ挿入した桐山製作所製の真空ジャケット付精留塔(真空ジャケット付分留管(桐山製作所)、分留ヘッド(桐山製作所))を用いて塔底温
度185℃,塔底圧力0.8mmHg(約107Pa)、塔内最上部圧力8Pa、塔内最上部蒸気温度133℃の条件で精密蒸留を行ない、精留留分43.2g(試料B)と精留残分54.5g(試料C)を得た。試料B及びCの脂肪酸組成を表2に示す。
【0050】
[実施例3]
分子蒸留によるサンマ油エチルエステルの精製
サンマ油エチルエステル905.5gを日本車両製造(株)製の遠心式分子蒸留装置(MS-150)に入れ,蒸発面温度90℃,圧力0.015Torrで蒸留を行ない、蒸留留分209.7gと蒸留残分596.2g(試料D)を得た。試料Dの脂肪酸組成を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
[実施例4]
蒸留後にHPLCによるLC-MUFAの精製
精留又は分子蒸留により精製した脂肪酸エチルエステルを含む試料C及びDに対して、更に、ODS(Octa Decyl Silyl)-HPLCにより高度精製を実施した。なお分離条件は、以下の通りである。
分離条件
カラム:JAIGEL-ODS-AP-30,SP-120-15(日本分析工業株式会社)、30φ×200mm
溶離液:メタノール
流速:20mL/min
カラム温度:40℃
サンプル負荷量:6.30g
検出器:示差屈折計
【0053】
示差屈折計のピーク及び保持時間を指標にして、C20:1を含み得る画分(以下、C20:1画分という)、C22:1を含み得る画分(以下、C22:1画分という)を、以下の試料E~Hからそれぞれ分取した。各画分の脂肪酸組成を表3に示す。脂肪酸組成(%)は、前述のように、ガスクロマトグラフィーのチャートに基づく面積比である。
試料E:試料Cを原料として、C20:1画分を分取した試料
試料F:試料Cを原料として、C22:1画分を分取した試料
試料G:試料Dを原料として、C20:1画分を分取した試料
試料H:試料Dを原料として、C22:1画分を分取した試料
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、試料E~Hのいずれも、ODS-HPLC精製を実施することにより、LC-MUFAの含有比率を高めることができた。特に試料E、F、Gでは、95重量%以上の濃度に
濃縮できた。
【0056】
一方、最初の精製工程として精留を用いた試料Cを原料とした場合は、分子蒸留を用いた試料Dを原料とした場合よりも、精製工程後に、炭素数20のLC-MUFAをより濃縮する
ことができた(試料E、F)。これは、蒸留工程で炭素数18以下の脂肪酸の残存が少なく、HPLC工程で、炭素数18以下の脂肪酸の存在によるC20:1の分離効率の低下が効果的に抑制されたことによる。最初の蒸留工程の方法の選択によってはC20:1の濃度を高めることが効果的であることがわかる。このため、C20:1を高濃度で含有するLC-MUFAエチルエステルを得るためには、HPLC精製よりも前の精製工程において炭
素数18以下の脂肪酸及び飽和脂肪酸を除いておくことが有効であることが分かった。
さらに驚くべきことに、精留を用いて炭素数18以下の脂肪酸及び飽和脂肪酸を除いておくことでLC-MUFAはより高濃度となり、LC-MURAが同程度の濃度である試料Eと試料Gを比較すると、LC-MUFAの回収率が1.34倍となることがわかった。
【0057】
本実施例で示されるように、本発明の態様によって得られる組成物は、LC-MUFAを高濃
度で含有し、飽和脂肪酸及びLC-PUFAの含有量が極めて低い。このため、LC-MUFAを高い濃度で要求される用途への適用に極めて有用である。このような用途としては、例えば、食品用、サプリメント用、医薬品用等を挙げることができる。LC-MUFAの機能性を目的とす
る用途、例えば、メタボリックシンドローム改善、生活習慣病予防等の用途に用いることが特に好ましい。
【0058】
2014年7月2日に出願された日本国特許出願第2014-136436号の開示は
、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ガドレイン酸(n-11)エチルエステル、及びセトレイン酸(n-11)エチルエステルを含む、脂肪酸低級アルコールエステル組成物であって、
炭素数20及び22の1価不飽和脂肪酸のエチルエステルを全組成物に対して90重量%以上含有し、
炭素数20の1価不飽和脂肪酸のエチルエステルが、ガドレイン酸(n-11)エチルエステル、及びゴンドイン酸(n-9)エチルエステルを含み、炭素数22の1価不飽和脂肪酸
のエチルエステルが、セトレイン酸(n-11)エチルエステル、及びエルカ酸(n-9)エチ
ルエステルを含む、
脂肪酸低級アルコールエステル組成物。
【請求項2】
全組成物に対して飽和脂肪酸エチルエステルが5重量%以下であり、かつ
全組成物に対して高度不飽和脂肪酸エチルエステルが5重量%以下である、
請求項1に記載の脂肪酸低級アルコールエステル組成物。
【請求項3】
全組成物に対して高度不飽和脂肪酸エチルエステルが1重量%以下である、
請求項1または2に記載の脂肪酸低級アルコールエステル組成物。
【請求項4】
ガドレイン酸(n-11)エチルエステルを、全組成物に対して70重量%以上含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の脂肪酸低級アルコールエステル組成物。
【請求項5】
全組成物に対して炭素数18以下の脂肪酸のエチルエステルが、1重量%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の脂肪酸低級アルコールエステル組成物。
【請求項6】
水産物の油脂由来である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脂肪酸低級アルコールエステル組成物。