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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107829
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20230727BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G01N21/01 D
G01N35/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091471
(22)【出願日】2023-06-02
(62)【分割の表示】P 2019209249の分割
【原出願日】2019-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】足立 作一郎
(72)【発明者】
【氏名】氣田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】松岡 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】森 弘充
(72)【発明者】
【氏名】今村 伸
(72)【発明者】
【氏名】高田 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 誠
(57)【要約】
【課題】複数のLED光を合波することにより広い波長帯域にわたって安定した光量を得るとともに、各LED素子の温度特性を合わせることができる、自動分析装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動分析装置は、第2LEDからの出射光が反射することにより、第1LEDからの出射光と同じ光軸上で合波するように構成されており、前記第1LEDと前記第2LEDは、同一の温度調整部材と接している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を測定する自動分析装置であって、
前記試料を収容した反応容器に対して光を照射する光源、
前記光源の温度を調整する温度調整機構、
を備え、
前記光源は、第1LEDと第2LEDを有し、
前記温度調整機構は、前記第1LEDと前記第2LEDそれぞれに対して接触した同一の部材によって構成されており、
前記第2LEDから用いる光の波長帯の光量は、前記波長帯における前記第1LEDの光量よりも大きく、
前記光源はさらに、
前記第1LEDが出射する第1光のうち少なくとも一部を通過させる第1光学素子、
前記第2LEDが出射する第2光を反射する第2光学素子、
を備え、
前記第1光学素子は、前記第2光のうち少なくとも一部を反射するように構成されており、
前記第1光学素子と前記第2光学素子は、前記第1光学素子を通過した前記第1光と前記第1光学素子において反射した前記第2光が同じ光軸上で合波して合波光となるように配置されていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記自動分析装置はさらに、前記第2光を拡散させる拡散部材を備えることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記拡散部材は、前記第2LEDと前記第2光学素子との間に配置され、前記第2光を拡散させる拡散板によって構成されていることを特徴とする請求項2記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記拡散部材は、前記第2光を拡散するように前記第2光学素子の反射面を加工することによって、前記第2光学素子の反射面上に構成されている
ことを特徴とする請求項2記載の自動分析装置。
【請求項5】
前記第1光は、前記合波光を受光する受光器の受光面上において、第1拡散範囲内に拡散し、
前記第2光は、前記受光面上において、第2拡散範囲内に拡散し、
前記拡散部材は、前記第1拡散範囲を前記第2拡散範囲が包含するように、前記第2光を拡散させる
ことを特徴とする請求項2から4いずれか1項記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記波長帯は、中心波長が350nm以下の紫外光であることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記第1光学素子は、ダイクロイックフィルタであることを特徴とする請求項1または6記載の自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる成分量を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿等の生体試料に含まれる、タンパク質、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の成分量を分析するための自動分析装置においては、液体収容用の容器に対して検体と試薬とを分注し、吸光・蛍光・発光等の光学特性の変化に基づいて検査項目を分析するのが一般的である。自動分析装置の吸光分析においては、光源からの光を試料または試料と試薬とが混合した反応溶液に照射し、試料または反応溶液を通過した単一または複数の測定波長の透過光量を受光素子によって測定して吸光度を算出し、吸光度と濃度の関係から成分量を求める方法が用いられる。
【0003】
吸光分析の光源は、多数の検査項目に対応するために発光スペクトルが広く、また、高精度の吸光度計測をするために測定波長において一定以上の光量を安定して得られるものが望ましい。そのため、従来、キセノンランプやハロゲンランプ等が用いられてきた。これらの光源は、一定以上の光量が得られる一方で、光量が安定するまでの時間はおよそ30分程度と比較的長い。さらには、光量が大きい分、エネルギー消費も大きく寿命も限定的であり、例えばハロゲンランプの場合には約1,000時間での交換が必要とされ、自動分析装置としてのメンテナンス頻度は多くなる。
【0004】
近年、吸光分析の光源として、長寿命が期待される発光ダイオード(Light Emitting Diode、以下LED)が検討されている。例えば特許文献1は、フィルタによってハロゲンランプ光と紫外光のLED光を合波する構成を記載している。ハロゲンランプの光量低下が特に紫外光で顕著であるので、同文献においては紫外光のLEDを利用している。同文献はさらに、ハロゲンランプ光と紫外光のLED光を合波するとき、フィルタを一部反射する光を用いることにより光量劣化をモニタリングし、精度の高い分析性能を維持することを試みている。
【0005】
吸光分析の光源としてLEDを用いる場合、点灯時の自己発熱や環境温度によって発光スペクトルと光量が変化して分析精度が低下することが懸念される。これを防ぐために特許文献2においては、LED測光部と反応セル(試料または反応溶液を格納する部材)とが接触した温調ブロックを用いている。同文献は、LEDを用いることにより装置のコンパクト化を図るとともに、LEDの発光素子を熱容量の大きい部材に固定して予熱温調する。これにより、外気温度と自己発熱の影響を受けることなくLED素子を一定範囲の温度に保持することにより、一定レベル以上の光量安定性を得ることを可能にしている。
【0006】
自動分析装置は、測定対象とする成分に応じて、使用する試薬と光の波長が異なり、その波長範囲は340nm~800nmと広範囲である。したがって、1つのLED光で全波長帯域をカバーすることは難しく、複数のLEDを用いる。自動分析装置の吸光分析の方法として、2波長測定法が知られている。この方法は、2つの波長の光を同時に測定することにより、測定対象の濃度を精度良く定量する。この測定法において、各波長の光は反応溶液に対して光軸と光量分布が一致していることが前提となり、それらが一致していない場合には、2波長測定法の本来の精度良い定量効果を得ることができない。例えば、光軸または光量分布が一致していない2つの波長の光を用いて2波長測定法を実施した場合、それらが一致している場合と比べて、気泡などの外乱の影響を受けやすく、精度または確度が著しく低下する。そこで特許文献3においては、光源と反応セルの間にスリットを設けることにより、光量分布に起因する光源像の影響が生じないようにする工夫が提案されている。
【0007】
以上例示したように、自動分析装置の吸光分析の光源としてLEDを用いる場合においては、高い精度の分析性能を得るために、光学系と温調系それぞれにおいて工夫が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6294186号
【特許文献2】特許第3964291号
【特許文献3】特開2018-105739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動分析装置の吸光分析の光源としてLEDを用いるとき、高い精度の分析性能を得るためには、複数のLED光の合波光軸と光量分布を合わせて一定以上の光量を得る必要がある。また、2波長測定法によって高い精度の定量分析を実施するためには、複数のLED発光素子の温度特性を合わせる必要がある。複数のLED光を合波する構成としては、例えばフィルタによる垂直入射が考えられる。しかし垂直入射によって複数のLEDを配置する際に各LED発光素子の温度制御が独立していると、各LEDの温度特性を合わせるのが困難になってしまう。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、複数のLED光を合波することにより広い波長帯域にわたって安定した光量を得るとともに、各LED素子の温度特性を合わせることができる、自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る自動分析装置は、第2LEDからの出射光が反射することにより、第1LEDからの出射光と同じ光軸上で合波するように構成されており、前記第1LEDと前記第2LEDは、同一の温度調整部材と接している。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る自動分析装置によれば、第1LEDと第2LEDを同じ光軸上で合波させることにより、広い波長帯域にわたって安定した光量を得ることができる。また第1LEDと第2LEDを同じ温度調節部材と接触させることにより、簡易な構成で各LEDの温度特性を合わせることができる。上記した以外の、課題、構成、効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る自動分析装置10の全体構成を示す模式図である。
図2】吸光度測定部113の構成例を示す図である。
図3】光源部301の構成例を示す図である。
図4】同一アルミ基板に2種のLEDを実装し温度制御した場合の光量変動の結果例を示す。
図5】ダイクロイックフィルタの光透過率の波長依存性の例を示す図である。
図6A】実施形態2に係る自動分析装置10が備える光源部301の構成例である。
図6B】拡散板508を用いることによる効果を説明する模式図である。
図7】実施形態2における光源部301の別構成例である。
図8A】ダイクロイックフィルタの透過率を制御した場合のスペクトル例を示す図である。
図8B】ハロゲンランプのスペクトルと透過後合波光のスペクトルが近似しているとみなす判断基準を説明する図である。
図9】自動分析装置10の光量を安定させる手順を示すフローチャートである。
図10】自動分析装置10の光量を安定させる別手順を示すフローチャートである。
図11】光源部301の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る自動分析装置10の全体構成を示す模式図である。自動分析装置10は、試料に対して光を照射することにより測定する装置である。自動分析装置10は、サンプルディスク103、試薬ディスク106、反応ディスク109、分注機構、制御回路201、光量測定回路202、データ処理部203、入力部204、出力部205を備える。
【0015】
分注機構は、ディスク間でサンプルや試薬を移動させる。制御回路201は、各ディスクや分注機構を制御する、光量測定回路202は、反応溶液の吸光度を測定する。データ処理部203は、光量測定回路202が測定したデータを処理する。入力部204と出力部205は、データ処理部203とのインタフェースである。分注機構は、サンプル分注機構110と試薬分注機構111を備える。
【0016】
データ処理部203は、情報記録部2031と解析部2032を備える。情報記録部2031は、制御データ、測定データ、データ解析に用いるデータ、解析結果データなどを格納する。データ処理部203は、コンピュータを用いて実現されてもよい。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、情報記録部2031とを少なくとも備える。解析部2032の処理は、それらのデータ処理に対応するプログラムコードが情報記録部2031に格納され、プロセッサが各プログラムコードを実行することによって実現されてもよい。
【0017】
入力部204と出力部205は、情報記録部2031との間でデータを入出力する。入力部204は、キーボード、タッチパネル、テンキーなどの情報入力装置によって構成できる。出力部205は、自動分析装置10のユーザが解析結果を確認するための装置であり、例えば、ディスプレイなどである。
【0018】
サンプルディスク103の円周上には、サンプル101の収容容器であるサンプルカップ102が複数配置される。サンプル101は、例えば血液である。試薬ディスク106の円周上には、試薬104の収容容器である試薬ボトル105が複数配置される。反応ディスク109の円周上には、サンプル101と試薬104を混合させた反応溶液107の収容容器である反応セル108(反応容器)が複数配置される。
【0019】
サンプル分注機構110は、サンプルカップ102から反応セル108にサンプル101を一定量移動させる際に使用する機構である。サンプル分注機構110は、例えば溶液を吐出または吸引するノズル、ノズルを所定位置に位置決めおよび搬送するロボット、溶液をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプ、およびノズルとポンプを繋ぐ流路で構成される。
【0020】
試薬分注機構111は、試薬ボトル105から反応セル108に試薬104を一定量移動させる際に使用する機構である。試薬分注機構111も、例えば溶液を吐出または吸引するノズル、ノズルを所定位置に位置決めおよび搬送するロボット、溶液をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプ、およびノズルとポンプを繋ぐ流路で構成される。
【0021】
攪拌部112は、反応セル108内で、サンプル101と試薬104を攪拌し混合させる機構部である。洗浄部114は、分析処理が終了した反応セル108から反応溶液107を排出し、その後、反応セル108を洗浄する機構部である。洗浄終了後の反応セル108には、再び、サンプル分注機構110から次のサンプル101が分注され、試薬分注機構111から新しい試薬104が分注されて、別の反応処理に使用される。
【0022】
反応ディスク109において、反応セル108は、温度および流量が制御された恒温槽内の恒温流体115に浸漬されている。これにより、反応セル108およびその中の反応溶液107は、反応ディスク109による移動中も、制御回路201によってその温度は一定温度に保たれる。恒温流体115には、例えば水や空気が使用される。
【0023】
反応ディスク109の円周上の一部に、サンプル101に対する吸光分析を実施する吸光度測定部(吸光光度計)113が配置される。
【0024】
図2は、吸光度測定部113の構成例を示す図である。光源部301から発生した照射光は、光軸401に沿って出射され、集光レンズ403により集光されて反応セル108に照射される。このとき、光の照射面内光量分布を均一にするために光源側スリット402を配置し、光源部301からの出射光の幅を制限することがある。
【0025】
反応セル108の中の反応溶液107を透過した光は、分光器302中の回折格子3021によって分光され、多数の受光器を備える検出器アレイ3022によって受光される。このとき、反応溶液107を透過していない光はノイズになるので、そうした迷光が分光器302に入るのを防ぐために分光器側スリット404を配置することがある。
【0026】
検出器アレイ3022が受光する測定波長は、1例として、340nm、376nm、405nm、415nm、450nm、480nm、505nm、546nm、570nm、600nm、660nm、700nm、750nm、800nmなどがある。これら受光器による受光信号は、光量測定回路202を通じ、データ処理部203の情報記録部2031に送信される。
【0027】
サンプル101に含まれるタンパク質、糖、脂質などの成分量の算出は、次の手順により実施される。まず、制御回路201は、洗浄部114に指示し、反応セル108を洗浄する。次に、制御回路201は、サンプル分注機構110により、サンプルカップ102内のサンプル101を反応セル108に一定量分注する。次に、制御回路201は、試薬分注機構111により、試薬ボトル105内の試薬104を反応セル108に一定量分注する。
【0028】
各溶液の分注時、制御回路201は、それぞれに対応する駆動部により、サンプルディスク103、試薬ディスク106、反応ディスク109を回転駆動させる。この際、サンプルカップ102、試薬ボトル105、反応セル108は、それぞれに対応する分注機構の駆動タイミングに応じ、所定の分注位置に位置決めされる。
【0029】
続いて、制御回路201は、攪拌部112を制御して、反応セル108内に分注されたサンプル101と試薬104とを攪拌し、反応溶液107を生成する。反応ディスク109の回転により、反応溶液107を収容する反応セル108は、吸光度測定部113が配置された測定位置を通過する。測定位置を通過するたび、反応溶液107からの透過光量が吸光度測定部113を介して測定される。測定データは情報記録部2031に順次出力され、反応過程データとして蓄積される。
【0030】
この反応過程データの蓄積の間、必要であれば、別の試薬104を試薬分注機構111により反応セル108に追加で分注し、攪拌部112により攪拌し、さらに一定時間測定する。これにより、一定の時間間隔で取得された反応過程データが、情報記録部2031に格納される。
【0031】
図3は、光源部301の構成例を示す図である。LED実装基板503上には、第1LED501と第2LED502が実装されている。LED実装基板503は、第1LED501と第2LED502に電力を供給し、LED素子と温度調整部504の温度を平衡化する役割を持つ。熱伝導率の観点から、LED実装基板503は、アルミニウムまたは銅のような金属を基材とするものによって構成されることが好ましい。第1LED501と、第2LED502とが、熱伝導率の高い一枚のLED実装基板503に実装されていることにより、温度調整部504の温度制御によって共通の温度変動特性が得られる。温度調整部504に設定する温度は、例えば37℃とする。温度調整部504の内部やLED実装基板503の近傍に設置した温度センサ505によって取得した温度にしたがって温度調整部504を制御することにより、各LED素子を一定温度に保つ。温度センサ505は、例えばサーミスタ、熱電対、測温抵抗体などによって構成できる。
【0032】
温度調整部504としては、例えば恒温流体を流した金属ブロックや、ペルチェ素子を使用することができる。ペルチェ素子の場合、温度センサ505のフィードバック制御によって、制御回路201を介して温度調整部504のLED側(LED実装基板503の裏面)は例えば37±0.01℃程度に制御することができる。この構成によれば、第1LED501の素子温度と第2LED502の素子温度が一定範囲で同等となり、自動分析装置10が2波長測定法を実施するとき高い精度の定量分析が可能になる。
【0033】
一方、一枚のLED実装基板503に対して、第1LED501と第2LED502を実装する場合、2つのLEDの光軸を一致させるために高度な設計公差が求められる。LEDの発光素子位置、LEDのパッケージの基板への実装位置、だけでなく、2つのLED光を合波する際のフィルタやミラーにも設計公差が求められる。
【0034】
本実施形態1においては、図3に示すように、光量が十分でない波長帯のLED光を第1LED501として用い、分光器302に対して直進入射させて光量を確保するとともに、光量が十分な波長帯のLED光を第2LED502として用い、2段階反射を経て分光器302に入射させる。第1LED501の光路上に、入射角45°で入射するダイクロイックフィルタ506を配置し、さらに、第2LED502の光路上に、入射角45°で入射する、例えばミラーのような反射板507を配置する。
【0035】
第2LED502から出射された光は、反射板507とダイクロイックフィルタ506それぞれにおいて2段階反射した後、第1LED501が出射した光と合波されて、光軸401の経路で分光器302に入射する。このとき、第1LED501のみの光軸を、分光器302に入射する光軸401に合わせる設計とし、第2LED502からの出射光は拡散板によって光束範囲を拡大させて入射する方が望ましい。詳細は実施形態2で説明する。
【0036】
図4は、同一アルミ基板に2種のLEDを実装し温度制御した場合の光量変動の結果例を示す。測定時間は約20分間である。第1LED501として、波長370nm付近から800nmまでの光を出射する白色LED光源(電流600mAで駆動)を用い、第2LED502として、波長340nmの光を出射する紫外光LED光源(電流120mAで駆動)を用いた。温度調整部504は、20mm×20mmの冷却面(ペルチェ素子によって冷却する面)を有し、この冷却面を37±0.01℃に制御した。
【0037】
図4のグラフに示すように、LEDは、素子および環境温度によって光量が変動してしまう(図4上段のグラフ中央に光量変動が大きくなる部分がある)。LEDを熱伝導率の高いアルミ製のLED実装基板503に実装することにより、波長340nmの光量変動の経時特性と波長480nmの光量変動の経時特性との間に正の相関が見られ、これにより気泡などの外乱による2波長間の光量変動差をキャンセルする(2波長差は吸光度0.001Abs相当以内)効果が確認できた。
【0038】
図5は、ダイクロイックフィルタの光透過率の波長依存性の例を示す図である。第1LED501として、波長370nm付近から800nmまでの光を出射する白色LED光源を用い、第2LED502として、波長340nmの光を出射する紫外光LED光源を用いた場合、ダイクロイックフィルタ506は、図5に示すように、波長340nmの光を反射し、波長370nm付近から800nmまでの長波長側の光を透過するフィルタを用いることが望ましい。これにより所望の合波特性が得られることになる。
【0039】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る自動分析装置10は、光量が十分でない波長帯のLED光(第1LED501)を分析部に対して直進入射させて光量を確保するとともに、光量が十分な波長帯のLED光(第2LED502)は一定の光量減衰を許容できるので、2段階反射によって第1LED501の出射光と合波させる。これにより、広い波長範囲を確保するとともに光量を確保できるので、広範囲の波長範囲にわたって高い分析性能を維持することができる。
【0040】
本実施形態1に係る自動分析装置10は、第1LED501と第2LED502を1枚のLED実装基板503上に実装し、LED実装基板503を温度調整部504によって温度制御する。これにより、第1LED501の温度と第2LED502の温度を略同一に制御し、LED間の光量変動差を抑制することができる。したがって、自動分析装置10の限られた内部空間において、温度調整部504のスペースを抑制しつつ、安定した光量を得ることができる。
【0041】
<実施の形態2>
図6Aは、本発明の実施形態2に係る自動分析装置10が備える光源部301の構成例である。本実施形態2においては、第2LED502の出射光を拡散させることにより、分光器302の受光器の受光面上において、第2LED502の出射光の光量分布を均一化することを図る。その他構成は実施形態1と同様である。
【0042】
LED光源の有効発光領域を1.0mm角としたとき、高い精度の定量分析を可能にする光量を得るためには、第1LED501のみの光軸を、分光器302に入射する光軸401に合わせる設計が必要となる。しかしこの場合、第2LED502の出射光軸を、分光器302に入射する光軸401に合わせるのは困難である。そうすると、反応溶液に対する光軸と光量分布をLED間で一致させることが困難となり、2波長測定法の測定精度が低下する可能性がある。そこで本実施形態2においては、反射板507に入射する前に第2LED502の有効発光領域を広げるための拡散板508を配置した。
【0043】
図6Bは、拡散板508を用いることによる効果を説明する模式図である。分光器302の受光面302A上において、第1LED501からの出射光は範囲501Aに拡散するものとする。拡散板508を用いない場合、第2LED502からの出射光は範囲502Aに拡散するものとする。LED間の光軸がずれていると、受光面302A上において両出射光が重なる部分と重ならない部分が生じ(図6B左図)、受光面302A上において光量の面内分布が不均一となる。
【0044】
拡散板508を用いる場合、第2LED502からの出射光は範囲502Bに拡散し、範囲501Aを包含する。これにより受光面302A上において両出射光が重なり、受光面302A上において光量の面内分布を均一にすることができる。すなわち拡散板508は、受光面302A上において範囲502Bが範囲501Aを包含するように構成することが望ましい。
【0045】
図7は、本実施形態2における光源部301の別構成例である。図7においては拡散板508に代えて、反射板507そのものに光拡散のための表面加工をする、これにより、光量が十分である第2LED502の利点を生かして光束範囲を拡大し、受光面302A上において光量分布を均一にすることができる。さらに、第2LED502の光出射位置を反射板507の位置とみなすことができるので、分光器302から第1LED501の出射位置までの距離と分光器302から第2LED502の出射位置までの距離(すなわち焦点距離)が同一となり、光量分布がより近しくなるので好ましい。
【0046】
図8Aは、ダイクロイックフィルタの透過率を制御した場合のスペクトル例を示す図である。従来、自動分析装置の吸光分析の光源として例えばハロゲンランプが用いられている。ハロゲンランプと同じスペクトルを再現できると、分析性能の結果も近しくなることが予想される。したがって第1LED501と第2LED502の合波光のスペクトルをなるべくハロゲンランプ光のスペクトルに近づけることが望ましい。本発明においては、ダイクロイックフィルタ506の透過特性を調整することにより、任意波長における透過率を調整することができる。透過率調整は、例えばダイクロイックフィルタ506の膜厚を制御することによって実現できる。
【0047】
第1LED501と第2LED502の合波光は、例えば図8A実線に示すようなスペクトルとなる。ダイクロイックフィルタ506の透過特性を調整することにより、合波光のスペクトルを図8A点線のように調整することができる。これにより合波光のスペクトル形状は、ハロゲンランプのスペクトル形状(図8A一点鎖線)に近づく。
【0048】
ハロゲンランプと透過後合波光を比較すると、透過後合波光は光量が不足する波長帯がある。温度調整部504がLED素子の温度を下げることによりLED光量の増加が望めるので、これにより透過後合波光の光量を全スペクトル範囲にわたって増加させ、スペクトルをさらにハロゲンランプへ近づけることができる。例えば一般の紫外光LEDは、全波長において10℃の温度変化で約5%の光量変化がある。
【0049】
図8Bは、ハロゲンランプのスペクトルと透過後合波光のスペクトルが近似しているとみなす判断基準を説明する図である。図8B上段は図8Aのハロゲンランプのスペクトルであり、図8B下段は図8Aの透過後合波光のスペクトルである。スペクトルが近似しているというためには、波長間の光量比がスペクトル間で一致していればよい。図8Bの例を用いて具体的に説明する。なお、図8Bでは全波長域で光量比が一定になるように示しているが、測定に用いる波長のみで、波長間の光量比がスペクトル間で一致していればよい。
【0050】
透過後合波光のスペクトルは、第1波長において第1光量を有し、第2波長において第2光量を有し、第3波長において第3光量を有する。ハロゲンランプ光のスペクトルは、第1波長において第4光量を有し、第2波長において第5光量を有し、第3波長において第6光量を有する。図面上において用いる各波長と光量は、説明のためのみの例示であることを付言しておく。
【0051】
第1光量に対する第2光量の比(第1比率)と、第4光量に対する第5光量の比(第2比率)が、一致しているかまたは、第1比率と第2比率との間の差分が許容範囲内に収まっている場合、第1波長から第2波長に至る波長範囲において両スペクトルは近似しているとみなすことができる。
【0052】
同様に、第2光量に対する第3光量の比(第3比率)と、第5光量に対する第6光量の比(第4比率)が、一致しているかまたは、第3比率と第4比率との間の差分が許容範囲内に収まっている場合、第2波長から第3波長に至る波長範囲において両スペクトルは近似しているとみなすことができる。この許容範囲は第1比率と第2比率との間の差分における許容範囲と同じとすることが望ましい。波長間の光量比は、光量の大小によらずスペクトル間で同じであることが望ましいからである。
【0053】
図8Bにおいては説明の便宜上、3つの波長において光量比をスペクトル間で比較する例を示したが、比較する波長が多いほど、両スペクトルはより近似しているということができる。例えば12個の波長において同様にスペクトル間で光量比を比較し、それぞれ許容範囲内に収まっていれば、両スペクトルは近似しているとみなすことができる。
【0054】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る自動分析装置10は、第2LED502の出射光を拡散させることにより、受光面302A上において範囲502Bが範囲501Aを包含するようにする。これにより受光面302A上において各LEDの光量の面内分布を均一にすることができる。
【0055】
本実施形態2に係る自動分析装置10において、ダイクロイックフィルタ506は、合波光のスペクトル上における波長間の光量比が、ハロゲンランプのスペクトル上における同じ波長間の光量比と一致する(または同じ波長における光量比間の差分が許容範囲内に収まっている)ように構成されている。これにより透過後合波光のスペクトルはハロゲンランプのスペクトルと近似することとなるので、LED光源を用いる場合であっても、ハロゲンランプを用いるときの分析性能と近い特性を得ることができる。
【0056】
<実施の形態3>
自動分析装置10の吸光分析の分析性能を安定的に得るためには、光源部301の光量が常に一定であることが好適である。光量を一定に保つ手段として、LED実装基板503の温度制御と、LEDの駆動電流制御を用いることができる。そこで本発明の実施形態3では、自動分析装置10の光量を安定化させるための制御手順について説明する。自動分析装置10の構成は実施形態1~2と同様である。
【0057】
例えば、波長340nm以下の紫外光を発生させるLEDとして、化合物半導体であるAlGaN結晶が用いられる。AlGaN結晶を発光層として用いた場合、紫外LEDの発光効率は、一般的な白色LEDの発光層に用いられているInGaN結晶の発光効率と比較して数分の一から十数分の一と低く、AlGaN結晶の発光層は、投入した電力の大部分が熱になるという特徴を有する。LEDの使用温度が高いほど、そして、使用時間が長いほど、半導体結晶中に欠陥が形成され、光量が経時的に低下する。したがってAlGaN結晶を用いたLEDの寿命は、InGaN結晶を用いたLEDよりも短くなりやすい。市販されているLEDにおいて、光量が70%に低下する時間L70の仕様値は、通常、パッケージ下面温度が25℃で使用した場合で定められている。波長340nm以下の紫外光を発生させるLEDの場合には、L70は10,000時間以上であるが、使用温度が上昇するとL70はアレニウスモデルにしたがって短くなることが知られている。すなわち、温度を下げて使用することにより光量は上昇し、寿命も長くすることができる。また、LEDの光量は、駆動電流を上げることによっても上げられる。
【0058】
図9は、自動分析装置10の光量を安定させる手順を示すフローチャートである。装置を立ち上げて(S601)光源部301を稼動させた後(S602)、任意の反応セルに対して水を分注する(S603)。制御回路201は、温度センサ505から取得した温度データにしたがって、LED駆動電流および基板温度を制御する(S604)。制御回路201は、吸光度測定部113によって吸光度を測定し(S605)、光量測定回路202の光量データを情報記録部2031から取得する(S606)。規定範囲の光量が得られない、すなわち光量の低下が生じていると判定される場合には、S604へ戻ってLED駆動電流とLED実装基板503の温度を制御することにより、規定光量を得る。規定光量が得られていれば、吸光分析を開始する(S607)。
【0059】
図10は、自動分析装置10の光量を安定させる別手順を示すフローチャートである。本フローチャートは、自動分析装置10の立ち上がり時間を短縮するために用いることができる。図9と同じ処理については同じステップ番号を付与した。制御回路201は、温度センサ505が取得する温度データにしたがって、装置立ち上がり初期のLED駆動電流および基板温度を決定する(S701)。解析部2032は、温度センサ505から温度の経時的なデータ変化を取得する(S703)。制御回路201は、吸光度測定部113によって吸光度の経時変化を測定する(S704)。規定光量が得られていなければ、S702へ戻ってLED駆動電流および基板温度を調整する(S606)。
【0060】
S702における調整処理としては例えば、ペルチェ素子によってLED実装基板503の温度をPID制御するとき、そのPIDパラメータを温度データにもとづいて決定する。環境温度が25℃、温度目標値が37℃としたときに、37℃を目標温度としてセットすると温度安定まで時間がかかる。そこで温度の経時的なデータ変化が緩やか(すなわち光量安定までに時間がかかりそう)である場合には、温度目標値を本来の目標値よりも高くセットする(例えば42℃)。これにより目標温度へ速やかに到達することができる。すなわち温度の経時変化にしたがって目標温度を動的に変更することにより、光量安定までの時間を短縮できる。
【0061】
<本発明の変形例について>
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0062】
図11は、光源部301の変形例である。第1LED501は、必ずしも合波光と平行に光を出射する必要はなく、例えば図12に示すように第1LED501の出射光をミラーなどによって反射して光路を変化させてもよい。この場合であっても、第2LED502の出射光を第1LED501の出射光と合波するためには、第2LED502の出射光のほうが第1LED501の出射光よりも反射回数を多くする必要がある。反射するごとに光量が減少することを考慮すると、光量が多い第2LED502の反射回数のほうが多いことが必要だからである。
【符号の説明】
【0063】
101:サンプル
102:サンプルカップ
103:サンプルディスク
104:試薬
105:試薬ボトル
106:試薬ディスク
107:反応溶液
108:反応セル
109:反応ディスク
110:サンプル分注機構
111:試薬分注機構
112:攪拌部
113:吸光度測定部
114:洗浄部
115:恒温流体
201:制御回路
202:光量測定回路
203:データ処理部
2031:情報記録部
2032:解析部
204:入力部
205:出力部
301:光源部
302:分光器
3021:回折格子
3022:検出器アレイ
401:光軸
402:光源側スリット
403:集光レンズ
404:分光器側スリット
501:第1LED
502:第2LED
503:LED実装基板
504:温度調整部
505:温度センサ
506:ダイクロイックフィルタ
507:反射板
508:拡散板
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11