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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108186
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20230728BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009168
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氏原 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002EP026
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】成形時におけるポリアミド樹脂の剥離性を改善できる添加剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を含む、ポリアミド樹脂用添加剤。
(式(1)中、R及びRはそれぞれ、炭素数4~22のアルキル基、又は炭素数4~22のアルケニル基であり、L、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基であり、Xは置換基である。mは1~10の整数、nは0~10の整数であり、1≦m+n≦10を満たす。mが2以上である場合、複数のLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上である場合、複数のX及びLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む、ポリアミド樹脂用添加剤。
【化4】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ、炭素数4~22のアルキル基、又は炭素数4~22のアルケニル基であり、L、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基であり、Xは置換基である。mは1~10の整数、nは0~10の整数であり、1≦m+n≦10を満たす。mが2以上である場合、複数のLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上である場合、複数のX及びLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。)
【請求項2】
及びRはそれぞれ、炭素数6~18のアルキル基、又は炭素数6~18のアルケニル基である、請求項1に記載のポリアミド樹脂用添加剤。
【請求項3】
mは1~5の整数である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂用添加剤。
【請求項4】
剥離剤である、請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂用添加剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂用添加剤と、ポリアミド樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂用添加剤の含有量が、ポリアミド樹脂100質量部に対し0.5~5質量部である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂が非晶性ポリアミド樹脂である請求項5又は6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
請求項8に記載の成形品を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂用添加剤、該添加剤を含む樹脂組成物、光学フィルム及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)は、優れた透明性、フィルム力学特性等の観点から偏光サングラス等の保護フィルムとして使用されている。
ポリアミド樹脂からなるフィルムの成形方法としては、樹脂を熱で溶融して成形する「溶融押出法」と、樹脂を溶剤に溶かして流延し、溶剤を留去することでフィルムを得る「溶剤流延法」がある。
【0003】
溶融押出法では、例えばroll to rollのようなフィルム製膜手法がある。押出機から溶融した樹脂を押出してロールで巻き取りながら搬送し、厚み等を制御する方法である。溶剤流延法では、例えばSUS314のような金属ベルト上に、ドープ液を流延し、溶剤を留去した後にベルトから剥がして熱延伸工程等を経てフィルムを得る。
【0004】
溶剤流延法では、金属ベルトからフィルム状の樹脂を剥離することが、フィルムの生産性において一つの重要なポイントになる。溶剤をある程度留去した後に、樹脂をベルトから早い段階で剥離することが出来れば、生産性が向上するからである。
ポリアミド樹脂は分子骨格中にアミド結合を多数有するため、ガラスや金属基板に密着しやすい傾向にある。その結果として、基板からの剥離性が他の樹脂に比べて悪い傾向にあることが分かった。これは上記したフィルム生産性の観点からは望ましくなく、改善するべき課題である。
【0005】
上記課題に関し特許文献1には、セルロース樹脂について、フィルムの金属ベルトからの剥離性不良の改善策が記載されている。また、特許文献2及び3にはジアミド化合物をポリアミド樹脂に対して少量添加することで成形性を改善すると記載されている。
しかしながら、効果は十分ではなく、さらなる改善が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-247531号公報
【特許文献2】特開2002-173598号公報
【特許文献3】特開2001-234063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形時におけるポリアミド樹脂の剥離性を改善できる添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、後述する式(1)で表される化合物をポリアミド樹脂に添加することにより、ポリアミド樹脂の剥離性を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記式(1)で表される化合物を含む、ポリアミド樹脂用添加剤に関する。
【化1】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ、炭素数4~22のアルキル基、又は炭素数4~22のアルケニル基であり、L、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基であり、L、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基であり、Xは置換基である。mは1~10の整数であり、nは0~10の整数であり、1≦m+n≦10を満たす。mが2以上である場合、複数のLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上である場合、複数のX及びLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。)
【0010】
また、本発明は上記のポリアミド樹脂用添加剤と、ポリアミド樹脂とを含む、樹脂組成物に関する。
また、本発明は上記の樹脂組成物からなる成形品に関する。
また、本発明は上記の成形品を備える表示装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形時におけるポリアミド樹脂の剥離性を改善できる添加剤を提供できる。また、本発明によれば、該添加剤を含む樹脂組成物、成形品及び表示装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリアミド樹脂用添加剤]
本発明の一実施形態に係るポリアミド樹脂用添加剤は、下記式(1)で表される化合物を含む。
【化2】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ、炭素数4~22のアルキル基、又は炭素数4~22のアルケニル基であり、L、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基であり、Xは置換基である。mは1~10の整数であり、nは0~10の整数であり、1≦m+n≦10を満たす。mが2以上である場合、複数のLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上である場合、複数のX及びLはそれぞれ同じでもよく、異なってもよい。)
【0013】
式(1)で表される化合物は、2級アミノ構造(-NH-)を有し、また、末端には中長鎖炭化水素(R及びR)を有するアミド基がある。本化合物では、主として2級アミノ構造と基材表面(ガラス:水酸基、金属板:金属原子)との相互作用により、基材界面近傍に化合物が偏析し、アミド基のR及びRによって滑り性が向上すると推察する。
【0014】
上記式(1)のR及びRはそれぞれ、炭素数4~22のアルキル基、又は炭素数4~22のアルケニル基である。
アルキル基としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等の直鎖状炭化水素基が挙げられる。
これらの直鎖状炭化水素基は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を有していてもよい。すなわち、分岐状炭化水素基であってもよい。
【0015】
アルケニル基は、C2n-1-(式中、nは4~22の整数)で表され、炭素炭素二重結合を有する基である。アルキル基と同様、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を有していてもよい。具体的には、後述する原料の不飽和脂肪酸由来の基である。
【0016】
一実施形態において、R及びRはそれぞれ、炭素数6~18のアルキル基、又は炭素数6~18のアルケニル基である。
【0017】
、L、及びLはそれぞれ、炭素数2~6のアルキレン基である。例えば、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基が挙げられる。これらのアルキレン基は、本発明の効果を害さない範囲において、アルキル基等の置換基を有していてもよい。
、L、及びLそれぞれ、エチレン基又はn-プロピレン基であることが好ましく、特に、エチレン基であることが好ましい。
【0018】
mは1~10の整数、nは0~10の整数である。mは1~5の整数であることが好ましい。nは0~5の整数であることが好ましい。m及びnは1≦m+n≦10を満たす。
【0019】
Xは置換基(水素原子ではない)であり、本発明の効果を害さない限り限定されない。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、シクロヘキシル基等の環状炭化水素基、種々のカルボン酸とのアミド基などが挙げられる。
【0020】
式(1)で表される化合物の合成方法は、特に限定されない。例えば、2級アミノ構造(-NH-)を1つ以上有するアミン化合物と、総炭素数が5以上のモノカルボン酸を反応させ、脱水することで合成できる。
【0021】
2級アミノ構造(-NH-)を1つ以上有するアミン化合物としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン等が挙げられる。
総炭素数が5以上のモノカルボン酸としては、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸等の飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0022】
式(1)において、2級アミノ構造(-NH-)の一部又は全部が、例えばカルボン酸等と塩構造を形成していてもよい。
後述する式(1)で表される化合物の製造方法では、得られる式(1)で表される化合物に2級アミノ構造(-NH-)とカルボン酸とで塩構造を形成しているものも含まれる場合があるが、本発明の効果が損なわれることはない。
【0023】
式(1)で表される化合物(アミドアミン化合物)は、例えば、アミドアミン化合物の各残基を構成するアミン化合物とモノカルボン酸を一括で仕込み、これらを反応させることにより製造できる。本製造方法において、原料の反応は、必要に応じてアミド化触媒の存在下で、例えば、100~200℃で2~15時間反応させてアミド化させるとよい。アミド化触媒としては、例えば、ホウ酸トリメチルが挙げられる。
【0024】
式(1)で表される化合物の酸価は、例えば、20mgKOH/g以下であり、好ましくは15mgKOH/g以下であり、より好ましくは10mgKOH/g以下である。酸価の下限は特に限定されないが、例えば0mgKOH/gである。
上記の酸価は実施例に記載の方法により測定する。
【0025】
本実施形態のポリアミド樹脂用添加剤は、成形時におけるポリアミド樹脂の剥離性を改善できることから、剥離剤として好適に使用できる。
【0026】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、上述した本発明のポリアミド樹脂用添加剤と、ポリアミド樹脂とを含む。
ポリアミド樹脂としては、公知のポリアミド樹脂を使用することができる。例えば、ラクタムの開環重合体、ジアミンと二塩基酸との重縮合体、ω-アミノ酸の重縮合体等が挙げられる。これらポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ポリアミド樹脂は結晶性ポリアミド樹脂でもよく、また、非晶性ポリアミド樹脂でもよい。透明性や表面光沢性を付与しやすいことから、非晶性ポリアミド樹脂が好ましい。
非晶性ポリアミド樹脂は、少なくとも1種のジアミンと少なくとも1種のジカルボン酸とを重縮合させることによって得られる。ジアミンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、パラ-アミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、2,6-ビス(アミノメチル)ノルボルナン等が挙げられる。これらの中でも、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンが好ましい。ジアミンは、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0028】
ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、1,14-テトラデカンジカルボン酸が好ましい。ジカルボン酸は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0029】
非晶性ポリアミド樹脂は、市販されているものを使用してもよい。石油系非晶性ポリアミド樹脂としては、例えば、リルサン(登録商標)クレール(Rilsan Clear)G110、リルサン(登録商標)クレールG170、リルサン(登録商標)クレールG350(以上、アルケマ(Arkema)社製)、グリルアミド(登録商標)TR-55、グリルアミド(登録商標)TR-60、グリルアミド(登録商標)TR-90(以上、エムスケミ―(EMS-Chemie)社製)等が挙げられる。
植物系非晶性ポリアミド樹脂としては、例えば、リルサン(登録商標)クレールG830Rnew(アルケマ(Arkema)社製)等が挙げられる。
【0030】
一実施形態において、ポリアミド樹脂用添加剤の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し0.5~5質量部である。該範囲であれば、ポリアミド樹脂用添加剤の効果が発現しやすい。好ましくは、ポリアミド樹脂用添加剤の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し1~4質量部である。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物は、上述したポリアミド樹脂用添加剤及びポリアミド樹脂を含めばよく、これら成分以外のその他成分(任意の樹脂成分及び任意の添加剤)をさらに含んでもよい。
【0032】
任意の樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これら樹脂成分を1種単独で含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0033】
任意の添加剤としては、例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾエート系光安定剤等の光安定剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0034】
樹脂組成物を、公知の方法により混合、混錬、成形することにより、成形品が得られる。なお、本実施形態の樹脂組成物は、成形前の混合物の状態も含む。
【0035】
[成形品]
本発明の一実施形態に係る成形品は、上述した本発明の樹脂組成物からなる。成形品としては、例えば、光学フィルム(偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、光反射防止部材、タッチパネルセンサーのベースフィルム等)、偏光シート、眼鏡やサングラス等のフレーム、タブレット端末やスマートホン等の透明ケースが挙げられる。また、光通信システム、光交換システム及び光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの基材、被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも使用できる。
【0036】
なかでも、光学フィルムが好適である。光学フィルムは、例えば、本発明の樹脂組成物を用いて、押出成形、キャスト成形等の方法により未延伸フィルムを製造し、当該未延伸フィルムを延伸することにより得られる。
未延伸フィルムの製造方法としては、キャスト成形である溶液流延法(ソルベントキャスト法)が挙げられる。以下、溶液流延法について詳述する。
溶液流延法で得られる未延伸フィルムは、実質的に光学等方性を示す。光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイ等の光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0037】
溶液流延法は、例えば、本発明の樹脂組成物を溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液(ドープ液)を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた樹脂溶液中に含まれる溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
前記溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、メチレンクロライド(塩化メチレン)、クロロホルム等の溶媒を挙げることができる。
【0038】
樹脂溶液中のポリアミド樹脂の濃度は、10~50質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましい。
【0039】
第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のもの等を例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0040】
金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0041】
第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30~50℃の温度範囲の風を金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50~80質量%を蒸発させ、金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0042】
次いで、第3工程は、第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。加熱乾燥方法としては、例えば100~160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。温度条件にて加熱乾燥することにより、第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0043】
なお、第1工程~第3工程で、溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0044】
得られた未延伸フィルムを延伸することで本実施形態の光学フィルムが得られる。具体的には、機械的流れ方向に縦一軸延伸、又は機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸することで光学フィルムを得ることができる。また、自由端一軸延伸によっても本実施形態の光学フィルムを得ることができる。自由端一軸延伸とは、一対の延伸ローラ間にはフィルムを支持したり接触したりする搬送ローラ、支持用平板、支持用ベルト等の部材がなく、フィルムが幅方向に自由に収縮・拡張できる状態で縦延伸することをいう。
また、得られた未延伸フィルムをロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、又はチューブラー延伸による2軸延伸法等によって二軸延伸することによっても本実施形態の光学フィルムを得ることができる。
【0045】
延伸における延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上1000%以下であることが好ましく、0.2%以上600%以下であることがさらに好ましく、0.3%以上300%以下であることがさらに好ましい。延伸倍率を当該範囲とすることにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸された光学フィルムとすることができる。
【0046】
本実施形態の光学フィルムの膜厚は、20~120μmの範囲が好ましく、25~100μmの範囲がより好ましく、25~80μmの範囲が特に好ましい。
【0047】
本実施形態の成形体は、光学材料として、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等の表示装置に用いられる。例えば、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、光反射防止部材、タッチパネルセンサーのベースフィルム等、表示装置が備える光学フィルムに好適に用いることができる。
【実施例0048】
以下、具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
[添加剤の合成]
実施例1
下記の構造を有する添加剤Aを合成した。
【化3】
【0049】
容量0.3Lの四つ口フラスコに、ジエチレントリアミン(関東化学製)を36g仕込み、100℃まで昇温した。その後、オレイン酸(関東化学製)を207g仕込み、170℃まで昇温し、5時間反応させた。十分に脱水が進行した後に、圧力を45Torrとした減圧反応を1時間実施した。95℃まで降温後、水を20g仕込み1時間撹拌した。その後、95℃の状態で45Torrに減圧し、過剰の水を除去した。減圧除去後、フラスコから取出し、黄色固体である添加剤Aを得た。
添加剤Aの酸価は7.3であり、アミン価は83であった。酸価及びアミン価の測定方法を以下に示す。
【0050】
・酸価の測定方法
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0051】
・アミン価の測定方法
(1)試料を1±0.3ミリ当量精秤し、三角フラスコに入れ、メチルエチルケトン(MEK)20mLを加えて溶解する。
(2)酢酸5mLを加えて、クリスタル・ヴァイオレット酢酸溶液を2、3滴加える。
(3)マグネチックスターラーで撹拌しながら0.1mol/Lの過塩素酸-酢酸溶液で滴定する。
(4)青紫色から青色に変化し、1分間持続したところを終点とする。空試験も同時に行う。以下の計算式からアミン価を算出する。
アミン価(mgKOH/g)=56.10×[(Va-Vb)/W]×0.1×[F20/{1+0.0011(t-20)}]
W:試料量(g)
Va:本試験に要する0.1mol/L HClOの滴定量(mL)
Vb:空試験に要する0.1mol/L HClOの滴定量(mL)
F20:0.1mol/L HClOの20℃における力価(試薬ラベルに記載された値を参照する。)
t:滴定時のHClOの液温(℃)
【0052】
実施例2
ジエチレントリアミンの代りに、トリエチレンテトラミン(関東化学製)を29g使用し、オレイン酸(関東化学製)を124g仕込んだ他は、実施例1と同様にすることにより、黄色固体である添加剤Bを得た。添加剤Bの酸価は8.3であり、アミン価は160であった。
【0053】
実施例3
ジエチレントリアミンの代りに、テトラエチレンペンタミン(関東化学製)を38g使用し、オレイン酸(関東化学製)を124g仕込んだ他は、実施例1と同様にすることにより、黄色固体である添加剤Cを得た。添加剤Cの酸価は7.7であり、アミン価は192であった。
【0054】
比較例1
容量0.3Lの四つ口フラスコに、エチレンジアミン(関東化学製)を12g仕込み、100℃まで昇温した。その後、オレイン酸(関東化学製)を116g仕込み、170℃まで昇温し、170℃で5時間反応させた。十分に脱水が進行した後、45Torrに減圧し、さらに1時間反応させた。その後、95℃まで降温し、水を15g仕込み、1時間撹拌した。95℃のまま45Torrに減圧し、過剰の水を除去した。減圧除去後、フラスコから取出し、黄色固体である添加剤Dを得た。添加剤Dの酸価は6.5であり、アミン価は15であった。
【0055】
[フィルムの作製]
実施例4
ナイロン樹脂(エムスケミー・ジャパン株式会社製、グリルアミドTR-90)100質量部に対し、添加剤Aを1質量部、メチレンクロライドを492質量部、メタノールを74質量部加えて、ドープ液(ナイロン樹脂溶液)を得た。
ドープ液をガラス板及びステンレス(SUS314)製の基板上に流延し、オーブンにて30℃で20分間乾燥させ、溶媒を留去することにより、フィルムを作製した。フィルムの厚さは約60μmであった。
【0056】
実施例5~8、比較例2,3
表1に示すように、添加剤及びその添加量を変更した他は、実施例4と同様にしてフィルムを作製した。
【0057】
[評価]
実施例及び比較例で作製したフィルムについて、剥離性及び表面自由エネルギーを測定した。
(1)剥離性
上述したように、オーブンにて30℃で20分間乾燥させ、溶媒を留去することにより、フィルムを作製した。20分間の乾燥後、基板ごとオーブンから取出し、直ちにフィルムを基板から剥離した。下記の剥離性評価指標に基づき、ガラス基板及びSUS314製基板からの剥離性を評価した。
【0058】
・ガラス基板からの剥離性
5:力を入れずとも自然にフィルムが剥がれる
4:少しの力で容易に剥がすことができ、フィルムの変形はない
3:剥離に力を要するが、フィルムの変形はほぼない
2:剥離途中で力を入れないと剥がせない部分があり、フィルムがやや変形する
1:フィルムが変形するほどの力を入れないと剥がせない
【0059】
・ステンレス基板(SUS316)からの剥離性
5:力を入れずとも自然にフィルムが剥がれる
4:少しの力で容易に剥がすことができ、フィルムの変形はない
3:剥離に力を要するが、フィルムの変形はほぼない
2:剥離に強い力を要し、フィルムの破断はないが変形はある
1:剥がせない(フィルムが破断するほどの力が必要)
【0060】
(2)表面自由エネルギー
剥離後のフィルムの基板側の面及びその反対面について、表面自由エネルギーを測定した。
水、ジヨードメタン及びn-ドデカンの接触角を測定し、Zisman法により表面自由エネルギーを算出した。接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学株式会社製「MODEL CA-W150」)を用いた。
【0061】
(3)透明性
40mm角の試験片を作製し、ヘーズメーター(NDH-5000、日本電色工業株式会社製)にて測定した
(4)光学特性
40mm角の試験片を作製し、23℃、湿度55%の簡易恒温恒湿ブースで1時間調湿後、位相差測定装置(KOBRA-WR、王子計測機器株式会社製)にて、面内レタデーション(Re)及び厚み方向のレタデーション(Rth)を測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、実施例の添加剤を配合したフィルムの剥離性は、比較例よりも優れており、また、ヘーズ等の光学特性も、添加剤を配合していない比較例2と比べ遜色ないことが確認できる。また、基板面側のフィルムの表面自由エネルギーについて、添加剤を使用しないブランクフィルムに比べて実施例の添加剤を配合したフィルムの表面自由エネルギーが大きく変化していることから、基板面側に添加剤が偏析していると考えられる。この基板面への添加剤偏析により、基板からの剥離性が改善したと考えられる。