(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108363
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】クロロシラン類の回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20230728BHJP
B01D 1/22 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C01B33/107 B
B01D1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009447
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】玉木 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松本 英知
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恭平
【テーマコード(参考)】
4D076
4G072
【Fターム(参考)】
4D076AA16
4D076AA22
4D076BA17
4D076BA43
4D076CB02
4D076CB03
4D076CB04
4D076EA02Z
4D076EA03Z
4D076EA12Z
4D076EA20Z
4D076EA24Z
4D076FA02
4D076HA12
4D076JA02
4G072AA12
4G072AA14
4G072BB20
4G072GG01
4G072GG03
4G072GG05
4G072HH08
4G072HH09
4G072MM03
4G072MM08
4G072MM09
4G072RR11
4G072RR12
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】 塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液蒸留残液を、薄膜蒸発装置に供してクロロシラン類を回収するに際して、上記装置内への塩化アルミニウムスケールの沈着を、より高度に抑制する方法を開発すること。
【解決手段】 塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留して得られる、50℃以上の液温の蒸留残液を、40℃以下の液温に冷却後、得られた蒸留残冷却液を、攪拌式薄膜蒸発装置等の薄膜蒸発装置に供してクロロシラン類を蒸発させて回収する、ことを特徴とするクロロシラン類の回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留して得られる、50℃以上の液温の蒸留残液を40℃以下の液温に冷却した後、得られた蒸留残冷却液を薄膜蒸発装置に供してクロロシラン類を蒸発させて回収する、ことを特徴とするクロロシラン類の回収方法。
【請求項2】
薄膜蒸発装置が、攪拌式薄膜蒸発装置である、請求項1記載のクロロシラン類の回収方法。
【請求項3】
前記蒸留残液の冷却が、蒸留残液を、冷却槽中に貯留し、攪拌下、前記40℃以下の液温に温度低下させることで実施される、請求項1または請求項2記載のクロロシラン類の回収方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法により回収されたクロロシラン類を、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液の蒸留に循環供給する、クロロシラン類の回収方法。
【請求項5】
塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液が、塩素または塩化水素または四塩化珪素と水素を含有するガスを、冶金級シリコンと反応させることにより生成されたものである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のクロロシラン類の回収方法。
【請求項6】
塩素または塩化水素または四塩化珪素と水素を含有するガスを、冶金級シリコンと反応させることにより生成された、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留するクロロシラン類の製造方法において、上記蒸留により得られる、50℃以上の液温の蒸留残液に対して、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のクロロシラン類の回収方法を施す、ことを特徴とするクロロシラン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロシラン類の回収方法、詳しくは、塩素または塩化水素または四塩化珪素と水素を含有するガスを、冶金級シリコンと反応させることなどにより生成された、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液から、クロロシラン類を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冶金級シリコンを塩素化または水素化塩素化して得られるクロロシラン類は、冶金級シリコン中に通常的に0.01~10重量%程度含有されているアルミニウムが塩素化或いは水素化塩素化されることにより、塩化アルミニウムを不純物として含有する。而して、塩化アルミニウムは、半導体級高純度シリコンや太陽光発電級シリコンの製造工程において、好ましくない不純物となるためにクロロシラン類から分離除去する必要がある。
【0003】
塩化アルミニウムは、トリクロロシラン(以下、TCSとする)や四塩化珪素(以下、STCとする)等の有用なクロロシラン類よりも沸点が高いため、従来から、蒸留塔を利用して、アルミニウムを含有するクロロシラン類液からクロロシラン類を蒸留回収することにより、蒸留残液として分離するのが一般的である。この蒸留残液は、蒸留塔下部から適宜に抜き出して廃棄処理されている。
【0004】
ところが、かかる廃棄処理される蒸留残液中には、有用なTCSやSTCなどのクロロシラン類が、通常95重量%前後もまだ含有されている。従って、有用なクロロシラン類は再度蒸発させて回収するのが好ましく、その有効な方法として薄膜蒸発を利用することが提案されている(特許文献1参照)。ここで、この薄膜蒸発を利用する方法では、薄膜蒸発装置への前記クロロシラン類液の供給は、前記クロロシラン類の蒸留塔から排出される蒸留残液が高温であり、これがそのまま移送されているため、55℃の高い液温下で実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クロロシラン類液に含まれる塩化アルミニウムは濃度変動により析出し易い性状にある。特に、前記クロロシラン類を蒸留回収する場合において、その塔底液では濃縮により該塩化アルミニウムは高濃度になるため、ここから抜き出された蒸留残液では上記塩化アルミニウムの析出は特に激しくなる。このため前記蒸留残液からの、クロロシラン類を蒸発させての回収では、装置内壁へのスケールの沈着が問題になるが、これを前記特許文献1が提案する薄膜蒸発で実施すれば、その装置内へのスケールの沈着は相当に低減できる。
【0007】
これはクロロシラン類液中において、塩化アルミニウム濃度が析出限界の2重量%を超えたとしても、それから約10分間は塩化アルミニウムが固形物として析出し難い状態が存在する現象を利用したものである。即ち、クロロシラン類を蒸発させるのが薄膜蒸発であれば、装置内でのクロロシラン類液の滞在時間が短縮できるため、前記塩化アルミニウムのスケールとしての沈着を抑制する効果が発揮される(特許文献1〔0015〕〔0037〕)。
【0008】
而して、このように塩化アルミニウムスケールの沈着抑制効果が高い、前記薄膜蒸発を適用する方法であっても、その沈着抑制効果はこれを工業的レベルで実施する観点では依然十分ではなかった。即ち、上記方法によれば、クロロシラン類液にクロロシラン類の蒸発作用が激しく生じる内壁加熱面や、薄膜蒸発装置が攪拌式の場合における、遠心力が付加される回転羽根面等には塩化アルミニウムスケールの沈着は低く抑えられるものの、こうした薄膜蒸発が行われる加熱域の隣接下部面では、依然、上記スケールの沈着は十分に抑制できなかった。特に、薄膜蒸発装置が攪拌式の場合には、回転羽根が接続される中心回転軸の下端を軸支する軸受部分では、半径方向に複数枚の補強リブが設けられていることが多く、このリブ面では遠心力も付加されないため、スケールはより沈着・成長し易く、薄膜蒸発の運転が長時間化すると、係る装置の内空間の閉塞が生じていた。
【0009】
以上の背景にあって本発明は、前記蒸留残液を、薄膜蒸発装置に供してクロロシラン類を回収するに際して、上記装置内への塩化アルミニウムスケールの沈着を、より高度に抑制する方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者等は鋭意検討を続けてきた。その結果、前記蒸留残液を、薄膜蒸発装置に供するに際して、これを40℃以下の液温に冷却する操作を施すことにより、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留して得られる、50℃以上の液温の蒸留残液を40℃以下の液温に冷却した後、得られた蒸留残冷却液を薄膜蒸発装置に供してクロロシラン類を蒸発させて回収する、ことを特徴とするクロロシラン類の回収方法である。
【0012】
また、本発明は、塩素または塩化水素または四塩化珪素と水素を含有するガスを、冶金級シリコンと反応させることにより生成された、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留するクロロシラン類の製造方法において、上記蒸留により得られる、50℃以上の液温の蒸留残液に対して、上記クロロシラン類の回収方法を施す、ことを特徴とするクロロシラン類の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を蒸留して得られる蒸留残液について、装置内へのスケール沈着を高度に抑制して、薄膜蒸発を継続することが可能になる。この結果、クロロシラン類を、長時間安定的に回収することが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のクロロシラン類の回収方法の代表的態様を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の回収方法に供するクロロシラン類液は、塩化アルミニウムを含有するものであれば何ら制限されないが、一般には、純度90~99%程度の冶金級シリコンと、塩素、または塩化水素、または水素と四塩化珪素、などとを反応させて生成したクロロシラン類混合ガスを凝縮して得られるものが代表的である。
【0016】
上記クロロシラン類合成反応は反応原料や反応条件によって生成するクロロシラン類の種類や生成割合は異なるが、TCS(SiHCl3)、STC(SiCl4)、およびジクロロシラン(SiH2Cl2)などを代表とするクロロモノシラン類である。これらに加え、ペンタクロロジシラン(Si2HCl5)やヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)などの二量体クロロシラン類や、さらに多量体のクロロシラン類も含有されることがある。
【0017】
前記したように冶金級シリコン中には、通常、0.01~10重量%程度にアルミニウムが含有されており、これが塩素化或いは水素化塩素化されることにより、クロロシラン類液には塩化アルミニウムが含有される。尚、当該塩化アルミニウム含有量は、使用した冶金級シリコン中のアルミニウム含有率、およびクロロシラン類生成の反応条件等により変化する。
【0018】
本発明に供する、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液の製造方法を、より具体的に説明すれば下記の方法が挙げられる。例えば、冶金級シリコン粉末と塩素含有ガスを100℃以上、一般には、100~500℃で塩素化反応させる方法、冶金級シリコン粉末と塩化水素含有ガスを250℃以上、一般には、250~450℃で塩素化反応させる方法、或いは、冶金級シリコン粉末と、STCと水素の混合ガスを400℃以上、一般には、400~600℃の温度で水素化塩素化反応させる方法等が一般的に知られている。
【0019】
これらの反応において、冶金級シリコンと反応させるガスについては、相互に混合して反応させることも可能であるし、また、水素や窒素等の反応不活性ガスと混合させて反応することも可能である。
【0020】
このようにして得られたクロロシラン類ガスを凝縮して得られるクロロシラン類液には、通常0.01~2重量%の塩化アルミニウムが含有される。なお、前記クロロシラン類液を製造する際の原料になる冶金級シリコン中には、アルミニウム以外にも、鉄、チタン等の金属不純物成分が含有されているのが通常であり、クロロシラン類の製造ではこれらも塩素化されるため、該クロロシラン類液中には、これらの塩素化物(塩化鉄、塩化チタン等)を含んでいても良い。また、クロロシラン類液中には、珪素微粉等を含んでいても良い。
【0021】
こうした塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液を被処理液とした、本発明の回収方法の詳細を、その代表的態様である
図1のフローを用いて説明する。
【0022】
図1において、蒸留塔(1)は、公知の蒸留塔を使用することができる。即ち、蒸留塔トレイは、通常使用されているものが制限なく使用できる。例えば、規則充填物、不規則充填物等を充填した充填式、バブルキャップ式、多孔板式、などが挙げられる。
【0023】
また、蒸留塔(1)は、リボイラーを有していても良い。リボイラーは、蒸留塔塔底の周囲をジャケット式にして直接加熱する方式でもよいし、蒸留塔塔底の外部に熱交換器を設置する方式でもよい。また、蒸留塔塔底の内部に熱交換器を設置する方式も採用可能である。
【0024】
熱交換器としては、一般的には伝熱面積を稼ぐためにシェルアンドチューブ方式が好適に採用されるが、蛇管式や電熱ヒーターなども採用可能である。蒸留のエネルギーを印加する熱交換器にはクロロシラン類液が滞留して塩化アルミニウムが高度に濃縮されるとスケーリングの原因となるため、液が滞留し難い構造とすることが好ましい。液が滞留し難い方式としては、加熱による対流を利用する方法でもよいし、ポンプなどを利用して強制的に液を流す方法も好適に採用できる。
【0025】
蒸留塔(1)には、本発明の被処理液である、前記塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液の供給管(2)が接続されている。その蒸留塔(1)への供給箇所はどの部分であっても良いが、トレイの汚れを防止するために蒸留塔塔底に直接供給することがより好ましい。
【0026】
ここで、精製すべきクロロシラン類と、分離除去すべき塩化アルミニウムなどの不純物の沸点差はかなり大きいため、蒸留は特に高度な精留を行わずとも良好に実施でき、蒸留操作を維持できる範囲であればよく、還流比は、0.1~1程度でもよい。精製されたクロロシラン類は、蒸留塔(1)の塔頂に接続される、精製クロロシラン類ガス留出管(3)から排出される。
【0027】
本発明において、前記蒸留は、塔底液の温度が、50℃以上、より好ましくは70~150℃、最も好ましくは80~120℃で実施される。斯様に塔底液の温度を50℃以上にすることで、クロロシラン類の蒸留を高効率とすることができる。上記塔底液の温度が50℃以上であることから、蒸留塔(1)の塔底から、蒸留残液排出管(4)により抜き出される蒸留残液も、排出当初は同液温の高温状態を呈している。
【0028】
なお、蒸留塔(1)の塔底液中に溶解した塩化アルミニウム濃度は、その塔底液の温度における飽和溶解度未満に調整することが、塔底内への塩化アルミニウム析出を防止し、長期間安定的に運転を継続するために好ましい。例えば、塔底液の温度が50℃以上である場合、塔底液中の塩化アルミニウム濃度は0.1~5.0質量%、好ましくは0.5~1.2質量%の範囲に維持することが好ましい。
【0029】
本発明の回収方法の最大の特徴は、蒸留残液排出管(4)に抜き出される、前記50℃以上の蒸留残液を、斯様な高温状態で薄膜蒸発装置に供するのではなく、これを40℃以下の液温に冷却して、塩化アルミニウム析出物の分散濃度を高めた後に供することにある。斯様に蒸留残冷却液として薄膜蒸発に供することにより、薄膜蒸発装置内へのスケール沈着を高度に抑制することが可能になる。その理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らは以下の作用が関与しているものと推察している。
【0030】
即ち、Al-Cl結合は、実質 Al+‐Cl-のように分極しており、これにより塩化アルミニウムの固体では、Al-Cl-Al-Clの擬イオン結合体になる。而して、該擬イオン結合体は、安定下に結晶成長したものであれば、クロロシラン類液中において、その液温が上昇すれば一定の再溶解性を呈する。ところが、このクロロシラン類液への再溶解性は、前記擬イオン結合体が、不安定下に結晶成長したもの、即ち、前記薄膜蒸発での、クロロシラン類液の留去が爆発的で、析出物にはFeやTi等の不純物金属元素も取り込まれ易い状況下での生成などでは、上記AlとClとのイオン性に崩れが生じ、大きく損なわれる。斯くしてこのことが、前記蒸留残液の薄膜蒸発において、クロロシラン類液の爆発的な留去に伴って、塩化アルミニウム析出物が一気に多量に生成することを引き起こし、前記スケール沈着の問題につながると考えられる。
【0031】
このため、本発明では、前記薄膜蒸発に先立って、蒸留残液を前記温度下に冷却することで、溶存される塩化アルミニウムの一定量を、上記安定下にしっかりと結晶成長させて再溶解性を有する析出物として含有させる。即ち、これにより得られた蒸留残冷却液を薄膜蒸発させた場合には、装置の加熱面で該処理液の液温が上昇すると、クロロシラン類の蒸発が急速度で進行する一方で、上記塩化アルミニウム析出物において、クロロシラン類液残分への再溶解も生じる。この再溶解による差し引きにより、前記塩化アルミニウム析出物の生成は大幅に抑制され、結果として、装置内へのスケール沈着の問題は顕著に低減されると考えられる。
【0032】
また、本発明によれば、前記予めの冷却で、蒸留残液における、塩化アルミニウム析出物の分散濃度を高めて薄膜蒸発に供すれば、その供給当初から、これが接する装置内壁では、該塩化アルミニウム析出体による砥粒的な作用が働き、該壁面への付着物に対して掻き落とし効果も発せられる。特に、この掻き落とし効果は、薄膜蒸発装置が、攪拌式の場合においては、攪拌により処理液に圧力が負荷されることから、より効果が高くなる。斯くして、本発明では、塩化アルミニウム析出体による、この掻き落とし効果も加わって、上記装置内へのスケール沈着は大きく抑制されるものにできると推察される。
【0033】
本発明において、上記塩化アルミニウムスケールの沈着量を、より高度に抑制する観点からは蒸留残液の冷却は、30℃以下の液温であるのがより好ましい。他方で、冷却は、あまり低温まで実施すると薄膜蒸発装置に供するにあたって昇温する必要があるため非効率になるため、液温は5℃以上であるのが好ましい。
【0034】
前記蒸留残液を冷却することで、これに溶存していた塩化アルミニウムはその粗方が析出する。従って、得られる蒸留残冷却液において、塩化アルミニウム析出物からなる固形分濃度は、前記蒸留塔塔底液中の塩化アルミニウム濃度と同じく、通常、0.1~5.0質量%になり、好ましくは0.5~1.2質量%になる。ここで、蒸留残冷却液における、塩化アルミニウム析出物固形分濃度の測定は、メンブランフィルターを使用した吸引濾過して得たケーキからクロロシランを蒸発させた後の蒸発残渣について、ICP発光分光分析装置を用いて塩化アルミニウムを定量する方法で求めれば良い。蒸留残冷却液において、上記塩化アルミニウム析出物の固形分濃度が高濃度域のものになると、スラリー状を呈してくるが、その流動性は良好に保持されている。
【0035】
前記高温状態の蒸留残液を、40℃以下の液温に冷却する方法は、特に制限されるものではなく、蒸留残液排出管(4)を流れる該蒸留残液を、容器の内部または外部に冷媒を流通させる公知の液冷却装置を通過させる等して実施しても良いが、冷却の確実性や、得られる蒸留残冷却液の均質性からは、蒸留残液を冷却槽(5)中に貯留して実施するのが好ましい。
【0036】
係る冷却槽(5)中での蒸留残液の冷却は、空冷により実施しても良いが、冷却の効率性や冷却温度の制御のし易さを勘案すれば、外部冷却器の利用、具体的には、冷却槽外壁を冷却ジャケットで環囲したり、冷却槽内に冷媒管を設置する等して、強制的に冷やすことで実施するのが好ましい。
【0037】
さらに、冷却槽(5)での冷却は、攪拌下に実施するのが、蒸留残冷却液に分散する、塩化アルミニウム固形分の均質性を高める観点から好ましい。攪拌方法は、マグネテッィクスターラー等により実施しても良いが、攪拌羽根での攪拌が好ましい。撹拌羽根を具体的に例示すると、パドル型、リボン型、イカリ型、プロペラ型、タービン型、後退翼型、ゲート型等を挙げることができる。また攪拌軸に取り付ける攪拌羽根の枚数はその形状、反応器の大きさ等によって一概には決定できないが、一般には回転軸上に1~4枚あれば良い。なお、攪拌羽根の羽根先端の周速は0.1~10m/sが好ましく、回転数は100~300rpmが好ましい。
【0038】
本発明において、前記冷却により形成された蒸留残冷却液は薄膜蒸発に供される。
図1のフローで示せば、冷却槽(5)から排出された蒸留残冷却液は、蒸留残冷却液流通管(6)を介して薄膜蒸発装置(7)に供給される。ここで、薄膜蒸発装置は、加熱面上に被処理液の薄膜を形成して液成分を蒸発せしめることのできる公知の薄膜蒸発法によるものが制限なく適用できる。具体的には、固定された加熱面(蒸発面)に対して内部の羽根が回転して処理液を強制撹拌し、薄膜を形成する攪拌式薄膜蒸発装置や、加熱面が回転する遠心式薄膜蒸発装置が挙げられ、特に、撹拌式薄膜蒸発装置が好ましい。
【0039】
上記攪拌式薄膜蒸発装置は、回転軸方向により縦型と横型に、また、回転軸への羽根の取付形式により固定羽根式と可動羽根式に、さらに、羽根が蒸発面に接触するかしないかにより接触羽根式と非接触羽根式とに分類されるが、これらの方式を適宜組み合わせて使用することができる。この中でより好ましい形式としては、縦型接触可動羽根形式と、縦型非接触羽根形式が例示でき、これらの薄膜蒸発器は、スケールの沈着を抑制する効果が比較的優れている。特に、縦型接触可動羽根形式は、羽根が蒸発面に接触するためにスケールの沈着を抑制する効果が最も高く好ましい。
【0040】
薄膜蒸発装置(7)において、その運転条件により蒸発ガス成分に飛沫が同伴する場合、塩化アルミニウムの除去率を低下させることがある。このような場合、回収されるクロロシラン類への飛沫同伴を防ぐ手段として、薄膜蒸発装置から排出された精製クロロシラン類の回収管(8)の途中に、飛沫補集器(9)を設置することは有効な手段である。上記飛沫補集器(9)としては、飛沫を補集し除去できる装置であれば、如何なる形式でも良い。例えば、邪魔板(衝突板)形式、焼結型形式、遠心分離形式が挙げられる。
【0041】
なお、こうした飛沫補集器(9)は、前記冷却槽(5)と薄膜蒸発装置(7)とを繋ぐ、蒸留残冷却液流通管(6)の途中にも介在させるのが効果的である。前記冷却槽(5)から排出された蒸留残冷却液にも、塩化アルミニウムの飛沫が同伴される可能性があり、これを予め除去してから、これを薄膜蒸発装置(7)に供給するのが、装置内への塩化アルミニウムの沈着抑制に効果的だからである。
【0042】
薄膜蒸発装置(7)が接触可動羽根を有する形式の場合、羽根先端の周速は0.1m/s以上、好ましくは0.5m/s以上、さらに好ましくは1m/s以上が好適である。また、蒸発面のある1点での羽根の回遊頻度は、1秒に1回以上、好ましくは0.5秒に1回以上、さらに好ましくは0.3秒に1回以上であることが、十分なスケール抑制効果を発揮する上で好ましい。
【0043】
一方、縦型非接触羽根形式の場合、羽根が蒸発面に接触しないために、羽根が接触するタイプのものよりも高速回転させる必要があり、羽根先端の周速は1m/s以上、好ましくは3m/s以上、さらに好ましくは5m/s以上である。また、蒸発面のある1点での羽根の回遊頻度は、0.5秒に1回以上、好ましくは0.3秒に1回以上、さらに好ましくは0.1秒に1回以上が好ましく、伝熱面積、羽根形式等に応じて、好適な条件を適宜採用すればよい。
【0044】
斯様に薄膜蒸発装置を使用することにより、蒸留残冷却液の装置内での滞在時間を短縮させることができ、装置内への塩化アルミニウムスケールの沈着抑制効果を高めることができるが、これと共に上記した薄膜蒸発装置の構造或いは運転条件の選定により、この効果を一層に改善できる。
【0045】
本発明において、薄膜蒸発装置(7)に蒸留残冷却液を供給すると、該処理液は蒸発面に液膜を形成しながら加熱され、クロロシラン類が蒸発と、塩化アルミニウムの濃縮とが進行する。このようにして蒸発装置(7)の上部出口からはクロロシラン類が、精製クロロシラン類回収管(8)にガス状で取り出され、下部出口からは蒸留残冷却液の濃縮物が、濃縮物排出管(10)に取り出される。
【0046】
この場合、該蒸留残冷却液が供給されて、濃縮物として取り出されるまでの薄膜蒸発装置(7)内における滞在時間は、縦型の薄膜蒸発装置で、通常、およそ1分以内、長くとも数分以内であるのが通常である。横型の場合、滞在時間をある程度調整できるが、前記10分以内、好ましくは5分以内に調整することが好ましい。
【0047】
上記薄膜蒸発における操作条件としては、熱媒温度、操作圧力等が挙げられるが、これらは常法の蒸発操作と同様に、処理される蒸留残冷却液の組成、供給量、伝熱面積及び濃縮倍率等に応じて、適宜適切な操作条件を採用することができる。このとき、蒸留残冷却液からの塩化アルミニウムの析出は、約180℃より高いと激しくなり、ここで生成した塩化アルミニウム析出物は前記のとおりクロロシラン液分への再溶解性も低いため、薄膜蒸発装置へのスケール沈着を高度に防止する観点からは、薄膜蒸発装置(7)の下部出口での濃縮物温度が180℃以下、好ましくは150℃以下になるように蒸発条件を設定することが好ましい。
【0048】
本発明において、上記蒸留残冷却液に対する塩化アルミニウムの特殊な挙動を利用することにより、蒸発後に得られる濃縮物は極めて高濃度まで塩化アルミニウムを含むことが許容されるが、濃縮物が乾固してしまうと、一部スケーリングしたもの、或いは始めから含有する固形分を洗い流す機能が無くなり、スケーリングが激しくなり連続処理が困難となる場合がある。
【0049】
従って、本発明において、得られる濃縮物が液状を維持する条件下で薄膜蒸発を実施することが必要である。特に、該濃縮物中の塩化アルミニウム濃度の好適な上限は80重量%、好ましくは50重量%、より好ましくは40重量%である。また、下限は、従来技術によっては濃縮が困難であった3重量%、更に10重量%とすることが、本発明の効果を十分発揮することができるため好ましい。
【0050】
前記回収方法において、精製クロロシラン類回収管(8)から取り出されたクロロシラン類は、半導体級高純度シリコンや太陽光発電級シリコンの製造用原料等として有効使用すればよい。他方、濃縮物排出管(10)に排出された濃縮物は、除害ピット等に供給した後、適切に廃棄処理すればよい。
【実施例0051】
以下、本発明を詳細に説明するために実施例をあげて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において実施されている、測定や評価は、以下の方法により求めた。
【0052】
1)クロロシラン類液における、塩化アルミニウム濃度の測定
測定試料であるクロロシラン類液やスラリーを、容器に正確に量り取り、50℃以下で、該被測定物の上部空間部を十分乾燥した不活性ガスで流通しながら、含有されるクロロシラン類を十分に蒸発除去する。蒸発除去後の蒸発残さに希塩酸を加えて塩化アルミニウムを溶解させた後ろ過し、該ろ液をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置等で塩化アルミニウムを定量し、前記測定試料の質量で除して求めた。
【0053】
2)蒸留残冷却液における、塩化アルミニウム析出物固形分濃度の測定
蒸留残冷却液流通管(6)から蒸留残冷却液の一部を抜き出し、質量を量り取り測定試料とした。この測定試料について、目開き5μmのメンブランフィルターを使用した吸引濾過により濾過し、得られたケーキについて、前記「1)クロロシラン類液における、塩化アルミニウム濃度の測定」と同様にして、クロロシラン類を蒸発除去して得た蒸発残さに含有される塩化アルミニウムを定量し、前記測定試料の質量で除して求めた。
3)薄膜蒸発装置内のスケール付着性の評価方法
薄膜蒸発装置の運転終了後に、装置を停止・開放した。装置内に付着したスケール量を目視で評価した。評価の段階は以下の4段階とした。
「激しい」:装置内においてスケールの沈着が激しく、回転羽根の中心回転軸軸受部分では補強リブでは多量のスケールが付着して装置内を閉塞するに至っている。このため、これらスケールを除去しなければ運転が継続できない状態。
「多い」:装置内において、スケールの沈着は多いが、前記回転羽根の中心回転軸軸受部分における補強リブにおける付着量は装置内を閉塞するまでには至っていない。運転継続のためにはスケールを除去した方が望ましい状態。
「少ない」:装置内において、前記回転羽根の中心回転軸軸受部分における補強リブ等に少量のスケールが観察されるものの、運転の継続には支障のない状態。
「無い」:装置内において、前記回転羽根の中心回転軸軸受部分における補強リブも含めて、スケールは観察されないか、またはごく少量しか観察されない状態。
【0054】
実施例1
塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類液として、冶金級シリコン粉末と塩素含有ガスを反応させて得た、STC80質量%、TCS20質量%、溶解塩化アルミニウム 0.02質量%を含有するクロロシラン類液を、
図1に示すフローに供して処理した。
【0055】
上記クロロシラン類液は、クロロシラン類液の供給管(2)より60,000kg/Hの供給量で蒸留塔(1)に送液し、該蒸留塔(1)では、塔底温度80℃で蒸留を実施した。これにより蒸留残液排出管(4)には、1,200kg/Hの速度で、70℃の蒸留残液が排出された。この蒸留残液は、STC90質量%、TCS10質量%、塩化アルミニウム(溶解分と過飽和析出分の合計)0.9質量%を含有する組成であった。
【0056】
上記蒸留残液を、冷却槽(5)に送り込み、その貯留中に冷却温度25℃に冷却した。冷却槽(5)は、槽外壁が冷却ジャケットで環囲され、槽内には攪拌羽根が設置された構造であり、該攪拌羽根を、羽根先端の周速が4m/sであり、回転数200rpmの条件で回転させて、上記蒸留残液の冷却を実施した。この冷却により、前記蒸留残液は塩化アルミニウムの粗方が過飽和析出して分散し、これにより蒸留残冷却液流通管(6)には、温度25℃、塩化アルミニウム析出物固形分濃度0.9質量%の塩化アルミニウム析出物の高分散液が流れた。この蒸留残冷却液は、上記70℃の温度がほぼ維持されて、薄膜蒸発装置(7)に供給された。
【0057】
薄膜蒸発装置(7)は、伝熱面積が0.15m2、内径が0.15mの接触可動羽根形式縦型薄膜蒸発装置を使用した。この装置を用いての前記蒸留残冷却液の薄膜蒸発は、下部出口の濃縮物温度が50℃になる温度条件で、回転する羽根先端の周速が4m/sで、蒸発面の1点での羽根の回遊頻度が3.3秒に1回になる回転条件で実施した。
【0058】
上記薄膜蒸発を24時間運転した際において、精製クロロシラン類回収管(8)からのガスを凝縮させて得た回収液について、塩化アルミニウム濃度を測定したところ6.0質量%であった。また、回収液の質量は54kg/Hであり、この値から薄膜蒸発におけるクロロシラン類の回収率を求めたところ85%であった。他方で、濃縮物排出管(910)から排出される濃縮物について、その質量を測定したところ77kg/Hであった。
【0059】
この状態の薄膜蒸発をさらに10日間継続した後、薄膜蒸発装置内のスケール付着性を評価したところ、「無い」状態であった。
【0060】
比較例1
前記実施例1において、冷却槽(5)を設けることなく、蒸留塔(1)から排出された蒸発残液が、蒸留残液排出管(4)を流れてそのまま70℃の温度で、薄膜蒸発装置(7)に供給される以外は、実施例1と同様にして、クロロシラン液の回収を実施した。その結果、薄膜蒸発を24時間運転した際の精製クロロシラン類回収管(8)からの回収液の状態は実施例1とほぼ同じ状況であったが、この薄膜蒸発をさらに10日間継続した後の、薄膜蒸発装置内のスケール付着性を評価したところ、「激しい」状態であった。
【0061】
実施例2
前記実施例1において、冷却槽(5)の冷却温度を変化させ、蒸留残冷却液流通管(6)を流れる蒸留残冷却液が、温度35℃、塩化アルミニウム析出物固形分濃度3.0質量%のものとする以外は、実施例1と同様にして、クロロシラン液の回収を実施した。その結果、薄膜蒸発を24時間運転した際の精製クロロシラン類回収管(8)からの回収液の状態は実施例1とほぼ同じ状況であり、この薄膜蒸発をさらに10日間継続した後の、薄膜蒸発装置内のスケール付着性を評価したところ、「少ない」状態であった。