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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108427
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】スラリーポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/42 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
F04D29/42 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009553
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】重松 豊
(72)【発明者】
【氏名】横山 昇輝
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AA27
3H130AB22
3H130AB47
3H130AC01
3H130BA24A
3H130BA42A
3H130CA05
3H130CB01
3H130DA02Z
3H130EA08A
3H130EC04A
3H130EC16A
3H130ED01A
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性と耐衝撃性の両方に優れたケーシングライナーを備えたスラリーポンプを提供する。
【解決手段】粉砕された金属化合物を含むスラリーを流送するスラリーポンプ100であって、少なくとも、駆動手段の回転駆動力によって回転する回転軸60と、回転軸60の一端62の軸芯に中心が固定され、金属製の母材にゴムライニングが施されたインペラ10と、インペラ10を取り囲んで昇圧室を形成する金属製のケーシング11と、ケーシング11の内側に密接して嵌装されたゴム製のケーシングライナー12と、を備え、ケーシングライナー12のインペラ10の羽根の先端辺と対向する対向範囲には、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング15が施されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕された金属化合物を含むスラリーを流送するスラリーポンプであって、
少なくとも、
駆動手段の回転駆動力によって回転する回転軸と、
前記回転軸の一端の軸芯に中心が固定され、金属製の母材にゴムライニングが施されたインペラと、
前記インペラを取り囲んで昇圧室を形成する金属製のケーシングと、
前記ケーシングの内側に密接して嵌装されたゴム製のケーシングライナーと、
を備え、
前記ケーシングライナーの前記インペラの羽根の先端辺と対向する対向範囲には、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングが施されている
ことを特徴とするスラリーポンプ。
【請求項2】
前記ケーシングライナーの前記対向範囲には、ゴムからなるゴムライニング層の上に前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂からなるセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング層が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスラリーポンプ。
【請求項3】
前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂に配合されるセラミック粒子が、直径が0.5~1.0mmのアルミナ製セラミックビーズである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスラリーポンプ。
【請求項4】
前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングの層の厚みが4~6mmである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のスラリーポンプ。
【請求項5】
ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物の粉体を含むスラリーを送液する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスラリーポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーポンプに関し、より詳しくは、硬度の高い金属硫化物を含んだスラリーを送液するスラリーポンプのケーシングライナーの寿命向上を目的とした構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスとして、MCLE(Matte Chlorine Leach Electrowinning、マット塩素浸出電解採取)プロセスが知られている。このMCLEプロセスでは、ニッケル・コバルト混合硫化物(以下、「MS」ともいう)およびニッケルマット(主成分は二硫化三ニッケルとニッケルメタル)を原料として、湿式製錬により、電気ニッケルと電気コバルトを生産する。
【0003】
MCLEプロセスでは、原料浸出の前処理として、MSと電解廃液とを湿式竪型粉砕機に装入して湿式粉砕を実行する。この湿式粉砕では、粉体原料であるMSの粒径を、70~80μm(D50)程度から15~30μm(D50)程度のサイズにまで粉砕して微細MSにする。その結果、湿式粉砕により、微細MSと電解廃液(水)の混合されたスラリー(以下、「MSスラリー」という)が得られる。なお、D50は、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径を意味する。
【0004】
湿式粉砕には、湿式竪型粉砕機(例えば、タワーミル(登録商標))が用いられるが、その際に粗粒のMSは分級され、分級部のアンダーフローとして循環ポンプを経て湿式竪型粉砕機の粉砕部に戻されて再度粉砕される。
【0005】
例えば、特許文献1には、湿式粉砕機から溢流した粉砕後のスラリーを一時的に貯留する貯留槽と、当該貯留槽に貯留したスラリーから粗大粒子を除去するストレーナーと、粗大粒子を捕集する容器を備える粗大粒子除去装置に関して、ストレーナーの下端フランジに接続された抜取配管からスラリーを湿式粉砕機に戻すための循環ポンプが接続されていてもよいことが記載されている。
【0006】
このような循環ポンプが、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプである。スラリーポンプ(例えば、ワーマン(登録商標)ポンプ)は、後述するが、一例として二重ケーシング構造であり、鋳鉄製ケーシングの内側にゴム成型品による交換可能なケーシングライナーが取り付けられている。また、ケーシング内に同じくゴム製のライニングが施されたインペラがシャフト(回転軸)を介して取付けられている。そして、ケーシングライナーには金属製の芯材が埋め込まれている。インペラは、シャフトを介してモーター動力により回転し、スラリーをポンプケーシング前面から吸い込み、インペラの円周方向に液を回転させてデリベリ配管へ送り、ポンプケーシング外へ送液する仕組みである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-16836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スラリーを構成する固体分が湿式竪型粉砕機で粉砕されるMSのみであっても、インペラとケーシングのクリアランスの狭い部分では局所的に流速が上がるため摩耗が進行する。耐摩耗性という観点では、従来のケーシングライナー(天然ゴム、ブチルゴム)でも適しているが、当該部分は回転軸に対して法線方向への衝撃による損耗も並行して進行していると考えられる。
【0009】
さらに、スラリーに比較的大きな異物(粉砕メディア由来のセラミック片、内壁等に固着したMSの剥離片等)が混入することがある。これらは、中途半端に大きいため、ポンプのケーシング内に混入すると、ケーシングライナーの特にクリアランス部分に、衝撃による著しい摩耗を引き起す。
【0010】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、耐摩耗性と耐衝撃性の両方に優れたケーシングライナーを備えたスラリーポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ね、スラリーポンプにおけるケーシングライナーのインペラの羽根の先端辺と対向する範囲にセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングを施すことに想到した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明のスラリーポンプは、粉砕された金属化合物を含むスラリーを流送するスラリーポンプであって、少なくとも、駆動手段の回転駆動力によって回転する回転軸と、前記回転軸の一端の軸芯に中心が固定され、金属製の母材にゴムライニングが施されたインペラと、前記インペラを取り囲んで昇圧室を形成する金属製のケーシングと、前記ケーシングの内側に密接して嵌装されたゴム製のケーシングライナーと、を備え、前記ケーシングライナーの前記インペラの羽根の先端辺と対向する対向範囲には、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングが施されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第2の発明のスラリーポンプは、本発明の第1の発明において、前記ケーシングライナーの前記対向範囲には、ゴムからなるゴムライニング層の上に前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂からなるセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング層が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第3の発明のスラリーポンプは、本発明の第1又は第2の発明において、前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂に配合されるセラミック粒子が、直径が0.5~1.0mmのアルミナ製セラミックビーズであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第4の発明のスラリーポンプは、本発明の第1乃至第3のいずれかの発明において、前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングのライニング層の厚みが4~6mmであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第5の発明のスラリーポンプは、本発明の第1乃至第4のいずれかの発明において、ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物の粉体を含むスラリーを送液することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、硬度の高い金属硫化物スラリーを送液しても、さらには該金属硫化物スラリーに硬度の高い大きな固形物片が混入しても、ケーシングライナーの摩耗が進行しにくく、耐摩耗性と耐衝撃性の両方に優れたケーシングライナーを備えたスラリーポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプの構造を示す縦断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプにおけるインペラの羽根の周辺を拡大した断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプにおけるインペラの羽根の先端辺と対向する範囲のケーシングライナーを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、以下の順序で図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0020】
まず、本発明に係るスラリーポンプの概要について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプの構造を示す縦断面図である。本発明の一実施形態に係るスラリーポンプ100(一例として、ワーマン(登録商標)ポンプ)は、図1に示すように、ケーシング11内で回転するインペラ10により、中心部の吸入口96で被送流体を吸入し、外周部の吐出口97から吐出するように液送力を発生させる遠心ポンプである。このようなスラリーポンプ100は、揚程も5~60mと幅広く、多くのプラントで採用されている。
【0021】
また、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプ100は、通常のポンプと違って高粘度の流体専用に使用でき、耐腐食性や強度を高めるため、遠心羽根のブレードを始めシール材やケーシングに、堅牢かつ耐腐食性の材質を用いて構成する必要があり、インペラ10のブレードやその周囲のケーシング11に設けられたケーシングライナー12、及び軸封部90については、それらの強度、耐腐食性、耐摩耗性を、被送流体の物性や運転条件に適応させている。
【0022】
本発明の一実施形態に係るスラリーポンプ100は、図1に示すように、ポンプ台91に固定されたポンプ部95及び駆動部99により主要構成され、これらは、外部動力により回転駆動される回転軸60により同軸結合されている。ポンプ部95は、フレームプレート20を始めとするケーシング11に包まれた遠心羽根を備えて構成されている。駆動部99は、ポンプ台91に固定された軸受箱(以下、単に「軸受」ともいう)92と、その軸受92に軸支された回転軸60と、を備えている。
【0023】
回転軸60の一端に配設されて従動するVプーリ94は、不図示の電動機よりVベルトを介して駆動力を得る。この駆動力は、回転軸60に同軸結合され、異なる機能を有する2枚の遠心羽根に回転力を付与する。2枚の遠心羽根は、回転軸60により同軸結合されたインペラ10及びエキスペラ30であり、それらがフレームプレート20及びフレームプレートライナー24により隔てられ、エキスペラシールを構成している。
【0024】
エキスペラシールとは、二重軸封装置(「遠心式軸封装置」、「遠心軸封部」又は「軸封部」ともいう)90であり、遠心ポンプで揚力を発生するインペラ10の裏側に配設され、インペラ10と同軸回転するエキスペラ30の遠心力によってスラリー揚液をケーシング内に押し戻す力が働き、ポンプ運転中にスラリー揚液が軸封部90に浸入することを抑制するシール機構をいう。なお、ポンプ停止中は、エキスペラシールの機能も停止するため、それを補完可能に配設されたグランドパッキンやリップシール(以下、単に「シール80」ともいう)などでスラリー揚液をシールする。
【0025】
ポンプ部95側の軸封部90は、駆動部99側の軸受92に軸支された回転軸60が、その軸外周61から外径R方向に、少なくとも軸スリーブ70、シール80、エキスペラリング40、及びフレームプレート20の順に、遊嵌又は密嵌されて構成されている。なお、「遊嵌」とは、嵌めたものと嵌められたものとが互いに動けるように嵌めることをいう。さらに、ここでいう「遊嵌」された状態では、ガタツキや液漏れは無いものとする。すなわち、回転軸60、軸スリーブ70、及びシール80は遊嵌されており、相互に回転自在かつ液密に支承され、軸封(シール)機能を維持している。
【0026】
一方、シール80、エキスペラリング40、及びフレームプレート20は、相互に密嵌状態で固定されている。このような構成のスラリーポンプ100は、回転軸60と軸結合されたエキスペラ30による遠心軸封部90を備えて、運転中に軸封部90からの漏洩を抑止できるように構成されている。
【0027】
また、図1に示すように、駆動部99の軸受92は、所定間隔をおいて配設された2組のテーパコロ軸受93を備え、これらにより相当の強度で回転軸60を軸支している。したがって、回転軸60は、外径R方向及びスラスト方向Xの何れにも基本的にガタツキや振動はなく、一般的な回転機器の軸受で生じる摩耗等に対応する程度のメンテナンスで足りる。
【0028】
次に、本発明に係るスラリーポンプの特徴点について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプにおけるインペラの羽根の周辺を拡大した断面図である。本発明の一態様は、粉砕された金属化合物を含むスラリーを流送するスラリーポンプ100であって、少なくとも、駆動手段の回転駆動力によって回転する回転軸60と、回転軸60の一端62の軸芯に中心が固定され、金属製の母材にゴムライニングが施されたインペラ10と、インペラ10を取り囲んで昇圧室を形成する金属製のケーシング11と、ケーシング11の内側に密接して嵌装されたゴム製のケーシングライナー12と、を備え、ケーシングライナー12のインペラ10の羽根の先端辺と対向する対向範囲には、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング15が施されていることを特徴とする。
【0029】
スラリーポンプのライナーは、一般には、金属製ライナー母材16を芯部として周囲を囲むゴム製(天然ゴム、ブチルゴム等)のケーシングライナー12により構成され、例えば、ケーシング11に備えられたボルト孔に対応するボルト17を備えることでケーシング11に対して交換可能に付設されている。
【0030】
スラリーポンプでは、ケーシングライナーとインペラのクリアランスは2~3mm程度であり、インペラとケーシングライナーの隙間部では、回転するインペラの摩擦力によって局所的にスラリーの流速が上昇し、回転するインペラの遠心力によって回転軸に対して法線方向への衝突が大きくなる。そのため、金属硫化物などを含むスラリーを送液するポンプにおいては、インペラとケーシングライナーの隙間部で流速の上昇したスラリー液がケーシングライナーの摩耗を促進する。このため、ケーシングライナーはスラリーの通過により次第にゴムが薄くなり、ゴムに穴あきが生じて鋳鉄製のケーシングにスラリー液が接触して腐食するため、最終的にはケーシング穴あきトラブルにつながる。一般的に、ケーシングライナーのゴム硬度を下げると、ゴムとスラリーの間の摩擦が抑えられ、ゴムの摩耗進行を抑えることができるが、ポンプ内部に異物が侵入した際はゴムが柔らかいためにライナーが傷つけられ、場合によってはライナー穴あきが発生する。また、反対にゴム硬度を上げると、ポンプ内部に異物が侵入した際は、ライナーが傷つけられて穴あきが発生する可能性は低くなるが、ゴムとスラリーの間の摩擦が大きくなり、摩耗進行が早くなる。
【0031】
そこで、本発明では、上記クリアランス部分のライナー側に、衝撃に強くて硬いセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングを行い、ハイブリッド仕様とした。すなわち、スラリーポンプのインペラとケーシングライナーのクリアランスが狭いために流速が上昇する領域のゴム製ライナーを一部取り除き、取り除いたゴムと同じ体積・形状で、耐衝撃性の高いセラミック粒子とエポキシ樹脂の複合材料であるセラミック粒子充填エポキシ樹脂を塗布することで、ライナーの摩耗を抑制するとともに、スラリーポンプ内部へ異物が侵入した際のライナー損傷も抑制することができる構成とした。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプにおけるインペラの羽根の先端辺と対向する範囲のケーシングライナー25を示した断面図である。従来のケーシングライナーは、ゴム製のケーシングライナー12のみから構成されており、その厚さLは10mm程度であった。一方で、本発明では、一実施形態として、まずケーシングライナーの一部のゴムを深さ5mm程度均一に取り除く。ケーシングライナーは、接液部側から深さ10mm程度の位置に金属製ライナー母材16が入っているため、この母材まで露出させない様、深さ5mm程度のみゴムを取り除く。金属製ライナー母材16が露出すると、最終的に塗布するセラミック粒子充填エポキシ樹脂がケーシングライナー25から剥離した場合に金属製母材を腐食するためである。
【0033】
そして、ゴムを取り除いた部分にセラミック粒子18を含有するセラミックエポキシ材を、取り除いたゴム材と同じ体積と同じ形状で均一に塗布する。そのまま24時間以上置き、硬化・乾燥させることでセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー15を形成し、このようなケーシングライナー25を従来通りの方法でスラリーポンプのケーシング11にライナーを組み込むことができる。このとき、ケーシングライナー25全体の厚さLを10mmとすると、ゴム製のケーシングライナー12の厚さL1が4~6mm、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー15の厚さL2が4~6mmとなるように形成することが好ましい(L=L1+L2)。
【0034】
本発明の一態様では、ゴム製のケーシングライナー12を全て取り除かずに、一部を削るなどして取り除き、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー15に置き換える。すなわち、図3に示すように、ケーシングライナー25は、ゴムからなるゴムライニング層12の上にセラミック粒子充填エポキシ樹脂からなるセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング層15が形成されていることが好ましい。
【0035】
このことにより、本発明の一態様のように、ゴム製のケーシングライナー12の一部を削り取ってセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー15に置き換えるという方法であれば、既存のケーシングライナーを利用することができ、ライナーの交換等のメンテナンスを容易に行うことができる。また、金属製のケーシングは2分割構造であり、ケーシングに直接セラミック粒子充填エポキシ樹脂を塗布する場合、すなわち、ゴム製のケーシングライナー12をすべてセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー15に置き換える場合には、ケーシング合わせ目のシール性が低下する。よって、密着性の良いゴム同士でシールする構造とする必要があるため、ゴムライニング層12の上にセラミック粒子充填エポキシ樹脂からなるセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニング層15が形成されている構成とするのが良い。
【0036】
なお、本発明の一態様では、インペラの羽根の先端辺と対向する対向範囲に、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングが施されていればよく、インペラにはセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングを施す必要はない。インペラも摩耗や異物による損傷はあるが、回転部でありバランス調整が必要になるため、同様のセラミックエポキシによるコーティングは好ましくない。インペラ部分はその回転に伴って遠心力が働くので、インペラ側よりもむしろケーシングライナー側の摩耗の方がより進行するため、ケーシングライナー側にセラミック粒子充填エポキシ樹脂ライニングを施せばよい。
【0037】
セラミック粒子は、一定以上の硬度を持ったものであれば特に限定はされないが、例えば、アルミナ製セラミックビーズが用いられる。また、セラミック粒子の粒径もエポキシ樹脂内に均一に分散できる程度の大きさであればよいが、一例として直径が0.5~1.0mmのものが用いられる。
【0038】
本発明の一態様に係るスラリーポンプは、ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)の粉体を含むスラリーを送液する用途として用いることができる。MSは、Ni:50~60重量%、Co:5重量%程度、S:30~40重量%のNiSとCoSの混合物である。また、MSの粒度は70μm程度であるが、これをタワーミルで粉砕して30μm程度にした、微細MSスラリーの送液に適用することができる。微細MSスラリーのスラリー濃度は350g/L程度である。なお、上記粒度は、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径のことを意味する。
【0039】
本発明は、特に、複数種の物性の異なる固体分を流送するために、それに合わせて最適な範囲に最適な材質をライニングしてハイブリッド化したものであり、通常の摩耗対策は、天然ゴムやブチルゴムからなるゴム製のケーシングライナーで行い、衝撃対策は、セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナーで行うことができるため、耐摩耗性と耐衝撃性の両方に優れたスラリーポンプとすることができる。
【実施例0040】
以下、本発明について、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
上記したニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)と電解廃液とを湿式竪型粉砕機であるタワーミル(登録商標)に装入して湿式粉砕を行う湿式粉砕工程で使用する微細MSスラリーの循環ポンプのケーシングライナーに本発明を適用し、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプとした(ポンプ型式:太平洋機工株式会社製 ワーマン(登録商標)ポンプ3-2SC EO R/L、ケーシングライナー材質:NR45(天然ゴム硬度45度))。
【0042】
具体的には、ケーシングライナーのインペラとのクリアランスの狭い部分(インペラの羽根の先端辺と対向する対向範囲)にグラインダーをかけ、深さ5mm程度ゴムを削り取った。ゴムを削り取った部分はウエス等を用いてごみを取り除き、ここにセラミックエポキシ材(セラミックエポキシ材型式:HL-K1、メーカー関西パテ化工、アルミナ製セラミックビーズの粒子径:0.5~1.0mm)を塗布した。セラミックエポキシ材は主剤と硬化剤を1:2で混合し、元のケーシングライナーと同じ体積・形状になるようにゴム手袋等を使用して塗布し成形した。なお、ライナー自体は回転しないため、精度の高いバランス調整は必要なく、インペラとの接触がなければ手で塗布する程度の精度で十分である。塗布したセラミックエポキシ材は、24時間以上置くことでエポキシ材の硬化・乾燥を行った。硬化・乾燥の完了したケーシングライナーは従来品と同様にポンプに組み込んで使用した。
【0043】
従来品のポンプにおけるケーシングライナーはスラリー液による摩耗に加えて、10~40mm程度のセラミック片混入による損傷のため、1か月に1~3回のペースで交換を実施していた。これに対して、本発明の一実施態様におけるセラミックエポキシ材を塗布した上記実施例のケーシングライナーは、約4か月間使用することができた。
【0044】
したがって、本発明の一実施形態に係るスラリーポンプを適用することにより、従来品よりも耐摩耗性と耐衝撃性の両方に優れていることが実証できた。
【0045】
なお、上記のように本発明の一実施形態および実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0046】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、スラリーポンプの構成も本発明の一実施形態および実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 インペラ、11 ケーシング、12 ケーシングライナー(ゴムライニング層)、15 セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナー、16 金属製ライナー母材(金属母材)、17 ボルト、18 セラミック粒子、20 フレームプレート、24 フレームプレートライナー、25 ケーシングライナー、30 エキスペラ、40 エキスペラリング、60 回転軸、61 (回転軸60の)軸外周、62 (回転軸60の)一端、70 軸スリーブ、80 シール、90 遠心軸封部、91 ポンプ台、92 軸受箱(軸受)、93 テーパコロ軸受、94 Vプーリ、 95 ポンプ部、96 吸込み口、97 吐出口、99 駆動部、100 スラリーポンプ、L ケーシングライナーの厚さ、L1 ゴム製のケーシングライナーの厚さ、L2 セラミック粒子充填エポキシ樹脂ライナーの厚さ、R 外径、X 軸中心線(スラスト方向)
図1
図2
図3